人民新報 ・ 第1306号<統合399号(2013年10月15日)
  
                  目次

●  もっとも広範な反対勢力を総結集して、集団的自衛権行使容認を阻止しよう

●  けんり総行動実行委の9・25東京総行動
 
●  労働者派遣法の改悪を阻止しよう

●  冤罪事件はつづいている  取調べの可視化が必要だ

●  九条の会事務局主催学習会 ―「戦争する国」への暴走を止める

                     前泊博盛さん・渡辺治さんが講演

●  KODAMA  /  世界の中の日本の位置  平価GDPでは世界四位に

●  複眼単眼  /  鶴見俊輔さんと憲法九条





 もっとも広範な反対勢力を総結集して、集団的自衛権行使容認を阻止しよう

 安倍政権は、米軍との共同で米軍戦略の一翼を担って自衛隊が海外で戦争をおこなう集団的自衛権の行使の容認、日米軍事一体化を飛躍的強化させる特定秘密保護法の制定、外交・安全保障政策の司令塔となる日本版NSCとしての国家安全保障会議の設置など、「戦争する国」づくりの道に日本を強引に引き込もうとしている。同時に、明文改憲準備の改憲手続法の修正も進めようとしている。こうした危険な挑戦を断固として打ち返していかなければならない。
 安倍内閣のやろうとしていることは、憲法九条の否定である。
 集団的自衛権の行使容認は、戦後の歴史を画するきわめて重大な問題であるにもかかわらず、たんなる閣議決定だけで決めてしまうというのである。こうした姑息で拙速な動きには、これまで保守派、改憲派とみられた人びとの中からも危惧の念が表明され始めた。
 
 九条の会は、一〇月七日、記者会見を開き、アピール「日本国憲法は大きな試練の時を迎えている。『戦争する国』づくりに反対する」(別掲)を発表した。そこでは「戦前、日本国民はすべての抵抗手段を奪われ、ズルズルと侵略戦争の泥沼に巻き込まれていった苦い経験をもっています。しかし、いま日本国民は国政の最高決定権をもつ主権者であり、さらに侵略戦争の教訓を活かした世界にも誇るべき九条を含む日本国憲法をもっています。いまこそ日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、歴史の教訓に背を向ける安倍内閣を草の根からの世論で包囲し、この暴走を阻むための行動にたちあがりましょう」と、ともに行動に立ち上がることが訴えられている。
 また、5・3憲法集会実行委員会(事務局団体=憲法改悪阻止各界連絡会議、「憲法」を愛する女性ネット、憲法を生かす会、市民憲法調査会、女性の憲法年連絡会、平和憲法二一世紀の会、平和を実現するキリスト者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会)は、衆参両院の議長にあてた請願署名「集団的自衛権行使は平和憲法の破壊です。憲法を守り、生かしてください」(請願事項 @憲法違反の集団的自衛権行使を可能にするすべての立法や政策に反対します。A憲法改悪に反対し、第9条を守り、生かすことを求めます。第一次集約は二〇一三年末)を呼びかけている。

 一〇月一五日から臨時国会がはじまる。
 同日、5・3憲法集会実行委員会は、国会議員会館内で、許すな!特定秘密保護法案、国家安全保障会議設置法案、欠陥改憲手続き法はなくせ!を掲げて、「集団的自衛権の行使は平和憲法の破壊だ!院内集会」を開く。

 いま、福島原発事故は、汚染水問題など連日、その事態の危機的状況が報道されている。臨時国会は原発国会でもある。東京オリンピック招致での「コントロール下にある」という安倍の国際公約発言は、日々深刻化する事態が明らかになるに連れて、政権を窮地に追い込むだろう。これまでの東電を叱っておくなどと言うその場しのぎのやり方はもう通用にない。
 また「首切り特区」、派遣労働の蔓延などによる労働条件・雇用状態の急激な悪化、増税、大企業優遇の政策、TPP交渉での自民党の「聖域」公約違反などは、多くの人びとの不満を増大させている。広範に広がる闘いのエネルギーを組織化していかねばならない。
 この秋の闘いは、安倍政権の反動的な攻撃を許さず、集団的自衛権をはじめ外交・防衛問題、原発、憲法、増税、経済問題、労働法制、TPP交渉などきわめて激しい攻防の時とならなければならない。
 さまざまな市民運動、労働運動の基盤的な力をうちかため、そして安倍政策との違いをだしはじめた公明党や自民党の中の危機意識をもつ人びとなど与党内部、保守勢力の動きとも連動しながら、危険な「戦争をする国」政策と対決し、打ち破っていこう。

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九条の会

     
集団的自衛権行使による「戦争する国」づくりに反対する国民の声を

 日本国憲法はいま、大きな試練の時を迎えています。安倍首相は、「憲法改正は私の歴史的使命」と憲法の明文を変えることに強い執念をもやす一方で、歴代内閣のもとでは「許されない」とされてきた集団的自衛権行使に関する憲法解釈を転換し、「戦争する国」をめざして暴走を開始しているからです。
 日本が武力攻撃を受けていなくともアメリカといっしょに海外で戦争するという集団的自衛権の行使が、「必要最小限度の範囲」という政府の従来の「自衛権」解釈から大きく逸脱することは明白です。それどころか、日本やアメリカの「防衛」ではなく、日米同盟を「世界全体の安定と繁栄のための『公共財』」(防衛省「防衛力の在り方検討に関する中間報告」)とみなし、世界中のあらゆる地域・国への武力介入をめざす体制づくりです。
 この企ては、本来なら衆参両院の三分の二以上と国民投票における過半数の賛成という憲法「改正」の手続きを経なければ許されない内容を、閣議決定だけで実現してしまうものです。そのため、長年にわたり集団的自衛権行使を違憲とする政府の憲法解釈を支えてきた内閣法制局長官の入れ替えまでおこないました。麻生副総理が学ぶべきと称賛したナチスがワイマール憲法を停止した手口そのものです。これは立憲主義を根本からつき崩すものであり、とうてい容認することはできません。
 それだけではありません。安倍内閣は、自衛隊を戦争する軍隊にするために、海外での武力行使に関する制約をすべて取り払い、「防衛計画の大綱」の再改定により、「海兵隊的機能」や「敵基地攻撃能力」など攻撃的性格をいちだんと強めようとしています。
「戦争する国」づくりにも足を踏み入れようとしています。すでに安倍内閣は、防衛、外交に関する情報を国民から覆い隠し首相に強大な権限を集中する「特定秘密保護法案」や日本版NSC(国家安全保障会議)設置関連法案などを臨時国会に提出しようとしています。
 自民党が作成した「国家安全保障基本法案」では、「教育、科学技術、運輸、通信その他内政の各分野」でこれらの「安全保障」政策を優先させ、軍需産業の「保持・育成」をはかるとしているばかりでなく、こうした政策への協力を「国民の責務」と規定しています。これを許せば、憲法の条文には手をふれないまま自民党が昨年四月に発表した「日本国憲法改正草案」における第九条改憲の内容をほとんど実現してしまいます。
 さらには福島原発事故の無責任と棄民、原発技術輸出の問題、その他問題山積の現状があります。
 戦前、日本国民はすべての抵抗手段を奪われ、ズルズルと侵略戦争の泥沼に巻き込まれていった苦い経験をもっています。しかし、いま日本国民は国政の最高決定権をもつ主権者であり、さらに侵略戦争の教訓を活かした世界にも誇るべき九条を含む日本国憲法をもっています。いまこそ日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、歴史の教訓に背を向ける安倍内閣を草の根からの世論で包囲し、この暴走を阻むための行動にたちあがりましょう。

  ニ○一三年一〇月七日        九条の会



すべての争議の勝利解決を

     けんり総行動実行委の9・25東京総行動


 九月二五日、けんり総行動実行委員会による第一五四回東京総行動が闘われた。けんり総行動は、労働者・労働組合の権利の確立に向け、多くの仲間と連帯し、すべての争議・闘いを勝利させる行動だ。「郵政非正規社員の六五歳解雇裁判支える会」による郵政本社前の抗議行動からスタートし、一四ヶ所での行動を展開した。

 昨年九月、フジ製版は労働者に一銭も払わず全員を放り出すための計画的な「自己破産」をした。負債総額約八千万円の大部分は従業員の退職金と解雇予告手当、賃金である。要するに労働者に一銭も払わず、全員を丸裸で放り出すための「偽装倒産」であった。フジビ闘争(全労協全国一般東京労働組合フジビグループ分会)はその経営責任を追及し、解雇された組合員の雇用保障を同族経営の親会社である富士美術印刷(フジビ)に求めている。フジ製版は同族で経営するフジビ

の子会社で、売上げのほとんどをフジビの仕事が占めていた。その経営者・田中一族は地元の大資産家として有名であり、組合を敵視してきた。フジビは、フジ製版とは別法人であることを理由に団交にすら応じなかったが、粘り強い闘いの結果し、六月に団交が実現した。しかし組合の「謝罪・雇用保障・生活保障・労使関係正常化」の要求にたいして、会社は、フジビに責任はなく要求には一切応じないというものだった。
総行動の日、フジビ本社構内の抗議集会が持たれ、会社の責任追及と争議の早期解決にむけての発言がつづいた。
 
 総行動は、JAL本社、トヨタ東京本社前での抗議行動で終了した。


ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える

 安倍政権による日本社会の右傾化は、日本のかつての侵略戦争・植民地支配を誤魔化す歴史修正主義のでたらめなナショナリズムと連動している。その尖兵が、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)である。
 最近、京都地裁が、朝鮮学校周辺でのヘイトスピーチ(憎悪表現)をめぐる訴訟で、在特会に街宣活動の禁止と約一二〇〇万円の損害賠償を命じた。また、東京・新大久保周辺などでの彼らの行動にも、反対行動が展開されている。
 九月二五日には、「ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク」(略称「のりこえねっと」)が、在日3世の辛淑玉さん(人材育成コンサルタント)や宇都宮健児さん(元日弁連会長)、河野義行さん(松本サリン事件被害者)、高里鈴代さん(沖縄平和市民連絡会)、松岡徹さん(部落開放同盟中本部書記長)、佐高信さんらを共同代表にスタートした。設立宣言は「この暴力に対峙し、決然と対決することは、単なるマイノリティ集団の利益のための行動ではない。また、一国の国内問題を解決するためのものでもない。民族や国境の壁を超えて、人権の普遍的価値を擁護し、防衛する行動でもあるのだ。それは、この日本社会にあっては、戦後体制によって市民的権利を剥奪されてきた人々の「市民として生きる権利」を希求する行動以外の何ものでもない」とアピールし、多くの人の参加を呼びかけている。

 のりこえねっと公式サイト http://www.norikoenet.org/


安倍政権による「解雇特区」創設など労働規制緩和反対

             
 労働者派遣法の改悪を阻止しよう

 安倍内閣の下で、日本を世界で一番企業が動きやすい国にすること」を掲げて国際競争力の強化の名目で、「雇用(解雇)特区」の創設など労働規制の全面撤廃、労働者派遣制度の改悪など雇用・労働の状況が著しく悪化させられようとしている。
 政府の「日本再興戦略」では、派遣法の改正について、「戦後の高度経済成長の時代に作られた雇用システムや教育システムが『成功体験の罠』にとらわれ、今日まで維持温存されてしまった結果、女性や高齢者の能力が十分活用されないままとなっており、また、子供や若者たちの教育も世界の潮流や時代の変化に取り残されてしまっている」とし、そのために「投資を阻害する諸規制・制度の見直し」「規制省国」を実現する、としている。まさに、「規制省国」で人材ビジネスを活用しつつ、新しい流動性の高い雇用シスステムを構築し、企業活力を取り戻すというのである。

 政府の規制改革会議の労働者派遣制度に関する提言では、民主党政権で一定実現した派遣労働の規制強化を全面的に否定し、派遣労働の規制緩和を支持し、日雇い派遣(契約期間三〇日以内)の原則禁止などを盛り込んだ改正労働者派遣法の見直しを求めるもので、「専門二六業務」に限って派遣労働者が同じ派遣先で無期限で勤務できる現行制度を見直し、派遣会社と無期契約を結んだ派遣労働者はすべて期間制限をなくすという厚労省研究会の報告書を評価し、その方向での推進をもとめている。日雇い派遣の原則禁止の「抜本的な見直し」では、「常用代替防止」を「非正規雇用労働者が全体の四割近くなった現在、妥当ではない」と批判しているが、これまでの規制緩和でつくられた状況を一段と拡大させようとするもので、まさに「正社員ゼロ」化法の制定である。
 
 民主党政権の労働者派遣法改正(昨年一〇月施行)は、二〇〇八年秋のリーマン・ショック後、「派遣切り」が社会問題化したことを受けたもので、「日雇い派遣」の原則禁止、同一グループ企業への派遣制限、派遣料金と派遣労働者の賃金の差額のマージン率の公開義務付け、など派遣労働への規制を強化した。反面、当時野党だった自民、公明両党の反対で製造業への派遣禁止などが見送られ、「骨抜き」のものとなった。その不十分な規制をも全面的に否定しようと言うのが、今回の財界の指示による政府・与党の政策である。

 厚生労働省・労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で、労働者派遣法の「再改正」に関する具体的な項目で本格的な議論に入った。一〇月一〇日には、四回目の審議がおこなわれた。

 一〇月一〇日、労働力需給制度部会にたいして、審議の始まる前の午前九時半から、全労協・全労連・中小ネットなど運動潮流を超えてともに闘う「派遣法改悪反対共同アクション」の行動がおこなわれた。全労協、全労連、全統一労組、医労連、全労協女性委員会、JAL争議原告団、下町ユニオンなどから発言があり、最後に、労働力需給制度部会に試合して、労働現場の声を聞き、労働者保護行政をしっかりと確立するために活動することを要求して、シュプレヒコールをあげた。


冤罪事件はつづいている

    取調べの可視化が必要だ

           日本の刑事司法は中世なみ

冤罪事件の数々が無罪に

 この間、「足利事件」(菅谷利和さん)、「布川事件」(桜井昌司さん、杉山卓男さん)、「東電OL殺人事件」(ゴビンダ・マイナリさん)が再審無罪をかちとった。いずれも、警察・検察がうその自白を強要した冤罪事件だった。また、障害者郵便制度悪用事件では村木厚子厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課長(いずれも当時の役職)などが被告とされたが、逆に、証拠捏造、隠蔽で担当主任検事の前田恒彦、および上司の特捜部長・大坪弘道、特捜部副部長・佐賀元明らが逮捕、懲戒免職されるという事態になった。こうした状況をうけて、ようやく日本でも冤罪を無くすこと、そのためには取り調べの可視化を求める声が大きくなった。司法制度の改革・検察のあり方が検討されてきたのだった。
 ところが、いま、取調べの全過程の録音・録画に向けた動きが危機にある。警察・検察側は、可視化を骨抜きにするとともに、この機会を狙っていっそうのかれらの権限・勢力拡大をめざす動きが活発になってきている。

 現在、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」で、「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」(二〇一三年一月)に基づいて具体的な制度案の検討が行われている。ところが、そこで、録音・録画の範囲を取調官の裁量に委ねたり、録音・録画をしない例外を多々設けたりする案が出されているという実態がある。
 また今年五月の国連拷問禁止委員会では日本の刑事司法に対する厳しい勧告が出されている。日本の警察・検察はその根本が問われているのだ。

日本の刑事司法を問う

 一〇月八日、衆議院議員会館で、多くの市民団体、冤罪支援運動団体で構成する「取調べの可視化を求める市民団体連絡会」の主催、日本弁護士連合会の共催で「取調べの可視化を求める院内勉強会 ― これが『新時代』の取調べの可視化?〜ガラパゴス化する日本の刑事司法〜」が開かれた。民主党、共産党、社民党議員からも挨拶があった。

 集会の基調報告は、日弁連えん罪原因究明第三者機関WG副座長の小池振一郎弁護士が、「国際社会から見た日本の刑事司法の問題」と題しておこなった。
 一九八〇年代には死刑確定者再審無罪判決が続出した。そこでは、夜眠らせないで取り調べて自白を強要(免田事件)、食事の量を三分の一にして自白を強要(財田川事件)、代用監獄にスパイを入れて自白をそそのかした(松山事件)などがおこなわれ、うその自白で冤罪がつくられていった。そして今も冤罪は続いている。徹夜の取調べ、代用監獄にスパイを送り込んで「自白」をそそのかしたりすることが依然としておこなわれている。その理由は、そうしたことで現実に自白を得ていること、捜査側は真実解明のために必要と確信しているからだ。愛媛県警幹部が警察学校での講義に使用しているマニュアル「被疑者取調べ要領」では、「調べ官の『絶対に落とす』という、自信と執念に満ちた気迫が必要である」、「調べ室に入ったら自供させるまで出るな」、「否認被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ。(被疑者を弱らせる意味もある)」などの言葉が並んでいる。これが現在の警察捜査の現実だ。しかし、攻め上げれば上げるほど、ウソの自白が塗り固められることになる。これが取調べの負の側面だ。たとえば、布川事件の桜井さんは「一所懸命矛盾のないように供述内容を考えた」といっている。こうしたことで、現在も、膨大なえん罪を産んでいる。最近起こったパソコン遠隔操作事件では半分がウソの自白だった。   厚労省事件では参考人(役人)が全員自白した。 しかし、死刑になるおそれがある場合にも、なぜ自白するのか。そこには「裁判所は分かってくれる」、「自分はやってないのだから『死刑』という実感がわかない」、「その場の苦しさを逃れることが最大の関心事」などの理由があるが、とにかく、早く釈放されたいという一心で、取調べ官に迎合する、そしてうその自白でもしてしまうのだ。
 だが、「取調べは規制すべき」というのが近代刑事司法制度の基本原則だ。自白に頼り過ぎていた旧来の取調べ方法からの脱却しなければならないといことだ。
 そのためには取調べの在り方にメスを入れなければならない。具体的には、次の五点があげられる。
 @長時間の取調べをやめる(午前中と午後に取調べを限定、夜の取調べは原則禁止)、A取調べの全面可視化、B取調べへの弁護人の立会い、C身体不拘束の原則、D代用監獄の廃止。
 国際社会から見て日本の刑事司法制度はどのように見られているだろうか。五月、私も参加した国連の拷問禁止委員会で日本政府報告書審査がおこなわれた。 取調べの規制を求めることにたして、日本政府は弁護人の立会いは、「取調べの妨げになる」との弁明を繰り返しばかりで、全くかみ合わない。アフリカ・モーリシャスの元最高裁判事のドマ委員は「弁護人の立会人が取調べに干渉するというのは説得力がない。自白に頼り過ぎている。これは中世のものだ。日本の刑事手続きを国際水準に合わせる必要がある」と述べた。これに対して、日本政府の代表である上田秀明・人権人道大使は、「日本は、もっとも先進的な国の一つだ」と発言した。この発言に会場からおもわず失笑が漏れたのは当然だ。ところが、上田大使は、「なぜ笑う。笑うな。シャラップ!」と叫んだ。これは国際的な議論の場に最もそぐわない態度だ。日本の刑事司法制度は「中世」=前近代という意味で、日本の制度がいかに世界から嘲笑されているか、わかっていないのだ。
 拷問禁止委員会の最終見解(勧告)では、先にあげた近代刑事司法の原則の@〜Dのすべてを勧告した。
 「取調べと自白」の項目では、「実務上自白に強く依存しており、自白はしばしば弁護士がいない状態で代用監獄において獲得される。委員会は、叩く、脅す、眠らせない、休憩なしの長時間の取調べといった虐待について報告を受けている」「すべての取調べの間、弁護人を立ち会わせていない」「特に、取調べが続くことに対して厳しい時間制限がない」などと具体的に指摘し、深刻な懸念を依然としてもっていると表明している。
 また拷問禁止委員会の勧告には、従軍「慰安婦」問題も含まれている。
 しかし、安倍内閣は共産党議員の「慰安婦」問題について質問主意書に対して、拷問禁止委員会の「勧告は、法的拘束力をもつものではない。勧告に従うことを義務付けているわけではない」との答弁書を閣議決定している。法的義務はなくても、国連、条約、勧告を尊重する責務はあるのだ。勧告を受けたら真摯に検討し、改善していく努力をするのが締約国のとるべき姿であり、国際的に恥ずかしいことであり、世界から孤立する日本の姿が浮かび上がってくる。
 二〇一一年三月の「検察の再生に向けて―検察の在り方検討会議提言」は、「極端な取調べ・供述調書の偏重に本質的・根源的な問題がある」、「『密室』における追及的な取調べと供述調書に過度に依存した捜査・公判を続けることは、もはや、時代の流れと乖離したもの」、「取調べ及び供述調書に過度に依存した現在の捜査・公判実務を根本から改める必要がある」とした。そして「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会」が設置されたが、その最大のテーマは「いかに取調べを規制(適正化)するか」ということだ。だが、法制審特別部会の基本構想、作業部会検討案などでは、「捜査に著しい支障が生じるおそれがある」ときなどの例外規定を設け、捜査側の裁量によって可視化するかしないかが決められる。規制を受けるべき者が規制の仕方を決めるのである。特別部会の委員である映画監督の周防正行さんは「警察、検察の方の話を問いていると、いまだに旧来の取調べの機能にすがりついている。例外をいっぱいつくりたいと言っているように思う」と述べた。周防監督の作品には、痴漢冤罪をテーマにした映画「それでもボクはやってない」がある。
 日弁連パンフ「国連拷問禁止委員会は日本政府に何を求めたか」は「近代刑事司法が、このような自白に頼る古い手法を乗り越えて発展してきたものであるという歴史認識を共有し、日本の刑事司法はいまや国際社会から恥ずかしいと見られていることを自覚すべき」としているが、法制審特別部会には国連の勧告に従っての再出発が求められているのである。

 つづいてパネル・ディスカッション 「日本の刑事司法はなぜガラパゴス化するのか?」がおこなわれた。

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法務大臣、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会委員各位

                                  二〇一三年一〇月八日

 要請書―取調べの全過程録音・録画は、刑事司法改革の必須事項である 

 現在、二〇一三年一月に「新時代の刑事司法制度特別部会」がとりまとめた基本構想に基づき、具体的な制度案が検討されています。そこでは、録音・録画の対象範囲を取調官の裁量に委ねたり、録音・録画しない例外を多々設ける案が出されています。しかし、こうした内容では、被疑者が虚偽自白を強要されるに至る不適切な取調べを監視することも、冤罪を防止することもできません。

 それゆえ、私たちは以下を求めます。

 (1)録音・録画の対象範囲を取調官の裁量に委ねる「一部録画」では、被疑者が虚偽自白を強要されるに至った過程や、取調官による被疑者への威嚇、脅迫や暴力的な行為、取調官による誘導を監視することができず、冤罪の再発防止に向けた制度改革とは言えません。私たちはこの制度案に強く反対します。
 (2)「一定の例外事由を認めつつ、原則として、被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける」案については、例外事由を認める範囲が拡大し、結果として全過程の録音・録画の対象事件が限定的になる危険があります。例外なき全過程の録音・録画を基本とするよう、求めます。
 (3)上記(2)の案について、録音・録画の対象を裁判長制度対象事件に限定することは、現在、検察・警察がおこなっている試行の範囲より狭く、後退と言わざるを得ません。すべての事件の被疑者および参考人の取調べにおける全過程の録音・録画の義務付けを求めます。
 (4)通信傍受の拡大や会話傍受の導入など、プライバシーの権利などを保障する国際人権基準に違反する疑いのある、捜査当局の権限拡大を目指す制度案との抱き合わせを止めるよう求めます。
 (5)全過程の録音・録画導入と合わせ、代用監獄制度の廃止や証拠の全面開示についても改革検討し、早急に着手するよう求めます。

 二〇一三年五月に行われた国連拷問禁止委員会による日本報告書審査では、日本の刑事司法に対する包括的かつ厳しい指摘がされています。取調べについては、自白偏重のあり方が問題とされ、捜査手法の改善、セーフガードとしての全過程の電子的記録(録音・録画)制度の導入、取調べ時間の制限と違反した者への罰則などが勧告されままだ。

 日本は拷問等禁止条約および自由権規約の批准国でありながら、国内の刑事司法を国際人権基準に合致させる義務を怠ってきました。私たちは、日本政府が人権条約諸機関からの勧告を真摯に受け止め、勧告に沿った刑事司法の改革を進めるよう、要請いたします。

                  取調べの可視化を求める市民団体連絡会


九条の会事務局主催学習会 ―「戦争する国」への暴走を止める

                      前泊博盛さん・渡辺治さんが講演


 一〇月六日、二人の講師を招いて「九条の会事務局主催学習会〜『戦争する国』への暴走を止める」(於・東京しごとセンター講堂)開かれた。
 はじめに、高田健鍵さんが開会の言葉で、今年の秋以降、憲法九条をめぐる情勢は重大なものとなる、しっかり学習して運動を進めようと述べた。

沖縄から見た安保・憲法

 はじめに、沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛さん(元・琉球新報論説委員長)が、「沖縄の視点から見た安保・憲法の現状」と題して話した。
 いま、政府が特定秘密保護法とか秘密保全法とか言うものを制定しようとしている。外務省の機密文書「地位協定の考え方」というものがある。沖縄が本土復帰した翌年に作成されて以来、基地行政に携わるものの「虎の巻」で、いまも活用されている。そこには大変なことが書いてある。それが「秘 無期限」と指定されている。いろいろな情報・文書を政府は秘密扱いにしている。秘密とは国の都合の悪いものを隠すものだ。
 今年の四月二八日、政府は「主権回復の日」の式典をおこなった。サンフランシスコ講和条約が発効した一九五二年のその日は、沖縄、奄美、小笠原の施政権が日本から切り離された日だ。日本国憲法からの切り離しも継続された。それを主権回復の日と言う。沖縄、奄美、小笠原などは日本ではないということなのだろうか。そして「天皇陛下万歳」が三唱された。昭和天皇は、いわゆる天皇メッセージで沖縄を米軍統治下においた。沖縄にとって、その日は「屈辱の日」以外のものではない。当然、沖縄では政府式典に対する大きな反対の行動がおこった。
 オスプレイの配備には、知事、市町村長、議会など全沖縄が反対の声を上げた。しかし日本政府はそれにまったく答えようとしない。日本がアメリカの属国としてあるのならアメリカに直接申し入れをおこなったほうがいいと言う声があがるほどだ。
 そもそもサンフランシスコ講和条約の締結と同時の旧日米安保条約の調印者は、当時の吉田茂首相ただひとりだ。その吉田は、「政治家でこれ(安保条約)に署名するのはためにならない。私一人が署名する」と連署を拒否した。日本全土基地方式、基地の自由使用というあまりにもひどいものだったからだ。宮沢喜一も講和締結時「これでは独立する意味はないにひとしい」とのコメントしたほどだった。
六〇年の新安保、その後の自動延長でも基本は変わっていない。
 かつてラムズフェルド国防長官でさえ「世界で一番危険な基地」であると認めた普天間基地も、撤去からいつの間にか移設条件付きになった。辺野古への新基地建設である。こうして沖縄は軍事力が強化されている。中国との緊張が高まっている。そうしたなか海兵隊の移転問題で、グアムに移るのは第一線部隊ではなく、司令部機能だという。中国からの攻撃に対応するためだ。こうして沖縄は「標的の島」にされている。
在日米軍は日本の超法規的な存在だ。日米地位協定などもそのためにある。なにより大事なのは米軍を日本の国内法の下におくことだ。

安倍改憲の新戦略

 つづいて、一橋大学名誉教授の渡辺治さん(九条の会事務局員)が、「解釈改憲から憲法全体の改変へ―安倍政権の改憲の新たな戦略に立ち向かう」と題して講演した。
 昨年末発足した安倍政権は、七月参院選の勝利で改憲に本格的に取り組みだした。しかし、発足当初の国会の改憲発議要件を三分の二から過半数にするという九六条改憲が改憲派の一部も含めてあまりにも批判が多くなってきたので、解釈改憲を先行させ憲法の破壊へという方向に変えた。
 改憲の波はこれまでおおきく二つあった。憲法制定直後から一九七二年ころまでの改憲論は天皇中心の国家、自衛軍の保有が中心課題だった。しかしこの流れは結局中断した。
 戦後第二の波は、九〇年代からはじまり今日に至っている。安倍政権はその中でも際立った特徴をもっている。
 冷戦の終結という状況の変化の中でアメリカからの対日要求が強くなってきている。アメリカの要求は、アメリカの戦争に対して、金、後方支援だけでなく実際に「ともに血を流せ」ということだ。そして、海外権益を守り軍事産業を発展させようとする日本の財界からの要請も大きくなっている。しかし、こうした自衛隊の海外派兵にとっての障害物として憲法九条がある。安保体制と九条の矛盾だ。この問題を政府は、まず最大限の解釈改憲で解決しようとした。しかし、それは、簡単なものではない。政府に反対する運動があり、政府もそれに一定の対応を迫れてきた歴史がある。そうして形成された政府の解釈・防衛政策の基本は、次のようなものだった。固有の自衛権は否定しない、その行使を裏付けるための「自衛のための必要最小限保有しうる自衛力―いわゆる攻撃的兵器は、「最小限度の実力」超えることができる。「海外派兵」=武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することはできるが、武力行使を伴わない活動であっても「各国による武力行使と一体となった活動」は認められない。集団的自衛権は「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力で阻止する権利」だが、自衛権行使は、我が国防衛のための「必要最小限度」、集団的自衛権行使はこれを超えるので認められない。また、非核三原則、武器輸出三原則、防衛費のGNP一%枠などがあった。
  このようにして、アメリカの要請に応じようとし、解釈改憲によって自衛隊の海外派兵の実現にむけて周辺辺事態法、テロ対策特措法、イラク特措法などがつくられた。とくに全土が洗浄化したイラク派兵では、詭弁が用いられた。「イラクヘの派遣は派兵でなく派遣だ」とか、米軍後方支援も多国籍軍協力も「武力行使をしなければ」「武力行使と一体にならなければ」いいとか、小泉政権は強引な答弁を繰り返した。ところが、自衛隊イラク訴訟判決では、航空自衛隊の米兵の輸送活動は憲法九条が禁止する「武力行使」だとして、「一体化」論で違憲判決が出た。そうすると解釈改憲の無理・限界が露呈してきた。これを突破しようとしたのが第一次安倍政権であり、自民党新憲法草案や安保法制懇などの明文改憲の動きだった。しかし、この改憲攻撃は九条の会など改憲阻止運動の広がり、それが世論を変え、民主党を変え、改憲を阻んだのだった。

 そしていま、第二次安倍政権の誕生とあらたな改憲攻撃の時期を迎えている。今回の改憲攻撃の諸要件としては、まずアメリカの世界戦略の転換があげられる。冷戦後二〇年たったが、ブッシュの対テロ戦争の失敗に見られるようにアメリカの世界秩序維持戦略は破綻し、その建て直し・戦略転換が求められている。オバマ政権の新戦略としては、紛争への直接介入主義からの転換と、アジア・太平洋地域重視(対中国では二面的政策をとる)の二つがあり、それに応じてオバマ政権の対日政策も転換する。
 こうした状況下での安倍政権の改憲の新たな戦略の特徴は、対米従属と軍事大国化ということだ。そして、@当面する集団的自衛権容認を核とする「戦争する軍隊」づくりは解釈改憲で、A 明文改憲は9条隠しでおこなうという二本立て戦略が再提起された。九六条改憲の道は困難となったので、安倍は解釈改憲へいっそう比重をおいた政策を進めている。
 安倍の狙いは、「戦争する軍隊」づくりから「戦争する国」づくりまで踏み込むことだ。
 まず「戦争する軍隊」にする法制上の根拠が必要で、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)再活性化、これまでの政府解釈を変更させるために内閣法制局の再編、国家安全保障基本法の制定、自衛隊法改正、国際平和協力法の制定などを強行しようとしている。次に「戦争する軍隊」の実質づくりとして、防衛計画の大綱再改訂、日米防衛協力のガイドラインの改定がある。
 すでに、今年六月に出た「自民党新『防衛計画の大綱』策定にかかる提言」では、「島嶼防衛に不可欠な海空優勢を確保するため、対空・対艦・対潜能力を強化する。さらに、島嶼防衛を念頭に、緊急事態における初動対処、事態の推移に応じた迅速な増援、海洋からの強襲着上陸による島嶼奪回等を可能とするため、自衛隊に『海兵隊的機能』を付与する。具体的には、高い防護性能を有する水陸両用車や、長距離を迅速に移動する機動性能を有するティルトローター機(オスプレイ等)を装備する水陸両用部隊を新編するとともに、洋上の拠点・司令部となり得る艦艇とともに運用が可能となる体制を整える」として、第一番の攻撃部隊となる海兵隊をつくるとしている。
 つぎに「戦争する国」づくりとしては、特定秘密保護法案、国家安全保障会議の創設、「国家安全保障戦略」策定、そして「国防の基本方針」の改訂ということだ。

 こうしたことのためには、どうしても解釈改憲ではだめで憲法全体の改変が不可欠である。それは日本国憲法全体の転換、廃棄ということだ。「日本国は、長い歴史と固有の文化をもち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」ではじまる「自民党憲法改正草案」は、「攻防軍の保持」と軍法会議(国防軍審判所)などを規定する。

 このような情勢に直年しているわれわれは、改憲阻止の国民的共同を大きく広げていかなければならない。当面の重点としての解釈改憲阻止に取り組むとともに、安倍内閣の「戦争する軍隊づくり」「戦争する国づぐり」のためには、本命としての九条改憲というねらいがあることをはっきりと訴えることが必要だ。
 そして、運動を進めていく上で、立憲主義擁護派の大結集が必要であり、良心的保守派の動向が大事だ。古賀誠、山崎拓ら自民党領袖の相次ぐ発言、また内閣法制局長官経験者の発言に注意していかなければならない。解釈改憲に反対し、それを阻む運動は明文改憲を阻む力となるのだ。
 いまが、九条の会の頑張りどころだろう。


KODAMA

    
世界の中の日本の位置   平価GDPでは世界四位に

 GDP=国内総生産(国内の生産活動による商品・サービスの産出額から原材料などの中間投入額を控除した付加価値の総額)値で、日本が世界第二位の座を中国に明け渡したのは二〇一一年のことだった。名目GDP(USドル)によると、一位はアメリカ―一五、五三三・八三(単位、一〇億USドル 以下同じ)、二位が中国―七、三二一・九九、三位が日本―五、八九六・二、四位がドイツで三、六三一・四四だった。
 昨年一二年も順位はかわらず、アメリカ―一六、二四四・五八、中国―八、二二一・〇二、日本―五、九六〇・二七、ドイツ―三、四二九・五と言う数字だ。
 
 しかし、GDP統計には、USドル換算ではなく、PPP=購買力平価によるものがある。これは、相対的購買力平価説をもとにするもので、各国の物価の違いを修正し、より実質的な比較ができるとされている。これによって見てみよう。そうするともっとリアルな姿が見えてくる。
 この世界の購買力平価換算によるGDP(USドル)ランキングでは、中国が日本に代わって第二位に躍進したのは二〇〇二年のことだった(一位アメリカ、四位ドイツ)。そして、二〇一一年には、ドイツと日本を追い越してインドが第三位にランクする。日本はまた一つ下がって四位となったのである。インドと日本の経済成長率の差から見ると、両国の差は開いていくものと思われる。
 昨年二〇一二年度の数字は次のようになっている。@アメリカ―一六、二四四・五八、A中国―一二、二六一・二七Bインド―四、七一五・六〇、C日本―四、五七五・五三、Dドイツ―三、一六七・四二となり、以下ロシア、ブラジル、イギリス、フランス、イタリア、メキシコ、韓国とつづく。日本を基準にするとアメリカは約三・五倍、中国は二・七倍で、インドとはほぼ同じ規模だ。ちなみに韓国は〇・三五倍となる。

 また日本の購買力平価換算のGDP(世界シェア)の推移をみると、一九九一年に一〇・一二五%(過去最高)だったものが、以降一貫して低落傾向にあり、二〇〇九年に六%を割り、二〇一二年に五・五%となっている。アメリカは一九・五二六%、中国は一四・七三八%。日本の地位の低下は顕著だ。もちろん、この傾向は、世界的また各国の大変動で変化があるかもしれないが、各国GDP比から見て取れる各国の経済的な力関係である。 (H)


複眼単眼

         
鶴見俊輔さんと憲法九条

 著名な哲学者で、「九条の会」の呼びかけ人の一人である鶴見俊輔さんの論文選「鶴見俊輔コレクション」C「ことばと創造」が河出文庫から出版された。本書は十代の頃から鶴見さんらと共に雑誌「思想の科学」の編集に携わってきた作家の黒川創氏が編集したもので、このCがこの企画の最終巻。鶴見さんのごく最近までの六七年間にわたる論攷が収録されている。
 鶴見さんは一九二二年生まれで、今年九一歳になる。とりわけ一九四六年に創刊された「思想の科学」誌に拠って膨大な哲学的論攷を発表し、日本の思想界に大きな影響を与えた人で、二〇〇四年六月には加藤周一さん、大江健三郎さん、小田実さんらと共に「九条の会」を立ち上げ、改憲反対の市民運動の先頭に立って全国的に活躍しながら、今日に至っている。
 鶴見さんの若い時期の旺盛な執筆活動の根底にはその戦争体験、「国家という圧倒的な力で自分たちが戦場に送られ、殺し、殺されることを強いられてきたことへの、憤り、捕虜虐待、軍による性暴力や阿片密売の気配と絶えず接してきたのに、指一本も、それへの造反に動かせなかった、情けなさ」(黒川)があるという。私もそこが鶴見さんの論攷の魅力なのではないかと思う。
 私がとりわけ注目したのは本選集の最後にある「90歳を迎えて」と題された短い論集だ。そこには九条の会の事務局から求められて二〇一三年年頭に書いた「九条の会の働きどき」(一月二八日)という短文と、五月一八日の全国の九条の会へのメッセージ「意思表示」という短文が収録されている。これらを収録した黒川氏の目配りに驚くばかりだ。
 前者は安倍自民党が圧勝した昨年末の総選挙を経て書かれたもの。

 今度の総選挙の結果を見ると、九条の会の働きは、これまで以上に大切になると思います。現在、私にできることは少ないかも知れません。しかし、まだ私たちの内に(そして私たちの未来に)希望が残っているとするならば、私はそれに一つの石を置こうとおもいます。

 後者は以下である。

 今の私にどれだけの力があるかどうか、分かりません。しかしはっきりと、憲法九条を守る意思表示をしたいと思います。

 この鶴見さんの短いメッセージに、七五〇〇あるといわれる各地の九条の会のどれだけ多くの会員が激励されたことか、想像に難くない。この鶴見さんのメッセージは両院で安定多数をとって改憲に暴走する安倍政権とたたかう決意をしている市民たちに大きなエネルギーを与えていると思う。哲学とは、思想家とは実にかくありたいものだ。それは世界を解釈してみせるだけでなく、世界を変える物質的な力になっているのだと思う。
 この秋から、憲法をめぐる事態は重大になっている。私は本選集にみる九一歳の鶴見俊輔さんのメッセージをしっかりと受け止めながら進んで行きたいと決意している。  (T)