人民新報 ・ 第1307号<統合400号(2013年11月15日)
  
                  目次

●  粉砕! 特定秘密保護法案   安倍政権の「戦争する国」づくりを阻止しよう

●  明文改憲も立法改憲も認めない !  11・3憲法集会

●  すべての原発を廃炉に   原宿・渋谷デモ

●  立憲主義否定の国づくり反対   10・29日比谷野音集会・国会デモに2800人が参加

●  何が秘密? それは秘密   秘密保護法案の危険な内容とツワネ原則

●  JAL争議 来春にも控訴審判決   不当解雇撤回・安全運航確立を

●  安倍政権の雇用破壊反対   大きく共同して闘おう 雇用共同アクション結成

●  日弁連主催の市民公開講座 ― 労働法制の今とあるべき労働法制

      野田進教授が講演 「正社員雇用改革の諸問題」

●  KODAMA  /  労働法の知識など

●  せ ん り ゅ う

●  複眼単眼  /  山本太郎参議院議員の天皇への「手紙」事件






粉砕! 特定秘密保護法案

     
安倍政権の「戦争する国」づくりを阻止しよう

 昨年末の総選挙で、民主党のあまりの裏切りによる国民世論の反発を背景に圧勝し再登板した安倍政権だが、近隣アジア諸国との対立の激化させている。
 安倍政権の「積極的平和主義」をかかげた集団的自衛権行使の容認は、アメリカとともに「戦争をする国」の実現を狙うものだ。この一八五臨時国会と来年の一八六通常国会は、その戦争法体系化のための国会としてある。「戦争する国」体制づくりのために、司令塔とされる国家安全保障会議(日本版NSC)を作り、国家安全保障戦略(NSS)を策定するという。臨時国会には、国家安全保障会議関連法案とそれと一体のものである特定秘密保護法案が提出され、安倍政権はなんとしても成立させようとしている。

 しかし、流れは変わる兆候を見せている。毎日新聞が実施した特定秘密保護法についての全国世論調査(一一月九、一〇日実施)の結果は、反対が五九%、賛成が二九%となった。ここにきて、秘密保護法の危険性について多くの人が認識するようになってきた。
 国会での論戦でも、森雅子内閣府特命担当相の答弁は動揺し支離滅裂で、ついに一一月一四日の衆院国家安全保障特別委員会では、「他党からのさまざまな意見にも耳を傾け、法案成立後も改善を尽くす努力と説明を果たしたい」と述べ、法案成立後に秘密の指定が妥当かを判断する第三者機関を政府内に置くことの検討を表明するなど担当閣僚が修正の余地があると認める事態になっているのだ。しかし菅義偉官房長官は、重層的な仕組みを設けているとする。
 いずれにせよ、所属長が秘密を決め、それが妥当か否かを内閣が決めるということでは、決めるのも監視するのも同じところがやるというのであり、まったく問題の解決になってはいない。
 こうした詭弁を弄しながら、なんとしてもこの臨時国会で法案を可決・成立させ、そして、国会での答弁もそ知らぬ顔で、その後にさまざまな拡大解釈をおこなっていこうという政権の意図は明白だ。
 
 かつて、一九八五年、中曽根内閣の当時、議員立法のかたちで「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(スパイ防止法案)が提出された。当時の社会党、公明党、民社党、共産党など野党は断固反対の姿勢をつらぬいた。自民党内部でも公然と反対する議員はいた。その一人が現・法相の谷垣禎一だった。野党は徹底して審議拒否を貫き、ついに廃案に追い込んだのだった。

 今回は、国会の議席数で自公両党が強行すれば法案は成立する。しかし、国会の審議が進むにつれて問題点がはっきりしてきた。共産党、社民党は強く反対し反対運動を展開している、民主党も現法案について批判を強め、世論の動向を見て、ようやく一二日に与党との修正協議には入らず反対する方針を固めた。維新の会は特定秘密の範囲を限定し、指定解除期間を定めるなどの立場で与党と修正協議をおこなうとしている。
 マスコミも含めて、疑問・反対の意見が続出している。日本外国特派員協会は、会長声明「『特定秘密保護法案』は報道の自由および民主主義の根本を脅かす悪法であり、撤回、または大幅修正を勧告する」を発表した。それは、「政府・官僚が存分にジャーナリストを起訴できるよう、お墨付きを与えることになる」と批判し、「将来の日本の民主主義と報道活動への脅威をなくす」ように撤回または大幅な改定を求めた。

 安倍政権の「戦争する国」づくりを阻止する力は多くの人びとの世論の力、行動にある。いま、特定秘密保護法に反対する運動は急速に高まりつつある。世論をもりあげ、与党内部にも働きけるなど最も広範な運動を創り出していこう。全力をあげて安倍内閣の危険な企てを断固として阻止しよう。


明文改憲も立法改憲も認めない !  11・3憲法集会

      
安倍政権の集団的自衛権行使容認を阻止しよう

 一一月三日、全水道会館で、「集団的自衛権行使は戦争です―国家安全保障基本法反対!自衛隊の海兵隊機能と敵基地攻撃能力保有反対!特定秘密保護法反対!国家安全保障会議(日本版NSC)設置関連法反対!」をスローガンに、「明文改憲も、立法改憲も認めない!憲法集会」が開かれ、会場にあふれる二一〇名が参加した。
 主催は、一一・三憲法集会実行委員会(構成団体―「憲法」を愛する女性ネット、憲法を生かす会、市民憲法調査会、全国労働組合連絡協議会、日本消費者連盟、VAWW・RAC、ピースボート、ふぇみん婦人民主クラブ、平和憲法二一世紀の会、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくりだす宗教者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会)。

 集会では、主催者を代表して鈴木玲子さん(キリスト者平和ネット)のあいさつにつづいて、「日韓朝」混合編成のロックバンドのサラトレイズの音楽で、「戦争を知らない子どもたち」は会場の参加者とともに歌った。

 つづいて東京新聞・論説兼編集委員の半田滋さんが「集団的自衛権のトリックと安倍改憲」と題して講演をおこなった。第一次安倍内閣でやろうとした事は憲法を変えることだった。そのため、教育基本法の改定、防衛庁の省への昇格、国民投票法などを制定した。安倍政権はさまざまな行き詰まりの中で崩壊し、政権交代したが、今度は民主党政権が嫌われて、自公による安倍政権の再登場となった。改憲を任期中に実現する、それは今度の再登場でも変わっていない。その一里塚が国家安全保障会議設置法案である。
 すでに内閣には、議長を総理大臣とし、副総理や総務、外務、財務、経済産業、国土交通、防衛の各大臣や内閣官房長官と国家公安委員会委員長で構成される内閣安全保障会議がある。しかしこれは構成メンバーが多いため開催が難しかったとして、安倍政権は、首相、外務、防衛、官房長官による少人数の国家安全保障会議を設置し、平素から定期的かつ機動的に会議を開催していくとした。
 しかし、第一次安倍内閣が倒れて次の福田内閣のときに、それは必要ないとされてきたが、また安倍政権が復活させた。
 またそれと密接に関係するのが特定秘密保護法案だ。知る権利は犯さないなどと政府は言っているが、国歌・国旗法でもそれは拡大解釈され、強制と処分の法律となった。同様に秘密法も「小さく産んで大きく育てる」というやり方をとろうとしていることに注意しなければならない。
 安倍政権は、九六条を変える憲法改正を先送りして、解釈改憲によって集団的自衛権の行使容認に踏み切ろうとしている。これなら改憲のための国民投票は必要としない。明文改憲のための国民投票をやってそれが否決されれば、内閣にとって退陣というより、それ以上の危険的な事態となるが、そうした危険を冒すことなく、実質的に改憲を実現できる。
 いまは改憲前夜と言う状況だが、安倍政権の狙っていることはつぎのようなことだ。内閣法制局長官を交代や「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書での集団的自衛権行使容認、「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書で海外における武力行使に参加、そして「国家安全保障基本法」で、明文改憲なしでの集団的自衛権による海外での武力行使ということだ。こうしたことがうまくゆくかどうかは今後の情勢を見なければならないが、安倍政権は解釈改憲で足場を固め、今後三年以内に改憲のための国民投票を準備し、任期内の改憲をめざしている。
 現在の動きは、官邸主導で、自民党の中の論議は不十分の状況だが、集団的自衛権が解禁された後に想定される事態はどのようなものになるか。これまでの洋上補給、軍事費拠出、自衛隊による人道復興支援はもちろん、それに加えて、護衛艦による洋上警戒、F2戦闘機による地上攻撃、陸上自衛隊による巡回などが想定される。
 しかし、安倍政権はいまが最強であり、来年には、消費税、TPPなどを含めて、支持率は急激に低下するだろう。だから、いま矢継ぎ早に危険な法案を出してきている。国際的にも、安倍首相の歴史認識や靖国神社参拝に対する批判が強まっている。村山談話、河野談話の見直しについても姿勢の大幅な後退が見られるなど、事態は進んでいる。

 集会では、さようなら原発一〇〇〇万人アクション実行委員会、STOP!「秘密保護法」一一・二一秘密法反対実行委員会からのアピールがおこなわれた。

 最後に、高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)が行動提起。安倍内閣いまやっていることは、戦争準備の体制づくりだ。しかし、安倍政権は九条、九六条明文改憲は反対の声の高まりで引っ込めざるを得なくなっている。反対運動を拡大して安倍内閣を退陣に追い込もう。


すべての原発を廃炉に

   
反原子力の日 原宿・渋谷デモ

 一〇月二七日、千駄ヶ谷区民館で、原発とめよう!東京ネットワークの主催による「すべての原発を廃炉に! 再稼働なんかトンデモナイ!」が開かれた。

 原子力資料情報室共同代表の伴英幸さんが主催者あいさつ。

 つづいて福島県教職員組合書記長の角田政志さんが「福島の子どもと先生たち〜原発災害による学校の状況と放射能の影響下における生活」と題して講演。
 東京電力福島第一原発の爆発事故による災害発生から二年七ヶ月がたち、また「安全」を説く動きが広まっている。だが、福島原発は、トラブルや事故が続発している。約三万人の子どもたちをふくめ多くの人びとが避難を強いられたままだ。そして継続した低線量被曝の中で生活をしいられており、原発災害はずっと続いている。学校の校庭、教室内、プレハブ校舎、体育館など放射線量の測定がおこなわれているが、表土除去の作業のあとでも線量は平均値よりはるかに高いままだ。そのうえ測定のモニタリングポストは数多く設けられているものの、その多くは学校、公園、公共施設などで、そこはほとんど除染がされていて、一般の人が住む住宅地より線量は低くなっている。これで、「安全」を言いたいのだろうが、放射性物質は雨や風によって移動して、線量が高いところ「ホットスポット」がいろいろなところにできている。除染を行った場所にもできる。ホットスポットは目にも見えず、臭いもない。測定しないと誰にもわからない。子どもたちは日常生活の中で危険な状態にさらされている。除染は、公共施設が中心で個々の生活圏までは進んでいない。福島県では、人手が足りない、資材が足りない、仮置き場や中間貯蔵施設がないなどを理由として、その復興予算の六割以上が使われないままになっている。
原発事故は、全く収束していないにもかかわらず、原発再稼働の動きと原発輸出の動きが公然と進められている。福島第一原発は、大量の放射性物質が放出し続けていて、全国の人たちが、これからも長期間にわたり放射能に悩ませられ続ける。原発事故を風化させてはならない。原発再稼働反対、脱原発の運動を進めていこう。

 つづいて、大阪府立大学名誉教授で若狭ネット資料室長の長沢啓行さんが「地震と原発再稼働問題」と題して講演。
 地震や津波は地球が生きている証拠だ。とくに日本は世界のプレートがぶつかり合うところにあり、地震国だ。こうした危険な場所に原発が多く立てられている。そのことを福島原発事故はしめした。
 原発が無ければ、原発重大事故も原子力災害もない。しかし、政府や経済界は原発を続けようとしている。二〇〇六年に原発の耐震設計審査指針として「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」および「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」が示された。しかし、当時の斑目原子力安全委員長は浜岡原発訴訟で「何でもかんでも、これも可能性がちょっとある、これもちょっと可能性がある、そういうものを全部組み合わせていったら、ものなんて絶対造れません。だからどっかでは割り切るんです」という驚くべき証言をおこなっている。そして、福島事故が起こった。
 事故後の二〇一一年一〇月に中央防災会議は、「今後、地震・津波の想定を行うにあたっては、あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震・津波を検討していくべきである。また、具体的な防災対策を検討する際に、想定地震・津波に基づき必要となる施設整備が現実的に困難となることが見込まれる場合であっても、ためらうことなく想定地震・津波を設定する必要がある」とした。
 注意しなければならないのは、地震による破壊は「建物の固有周期」と「地震動の卓越周期」によるのであり、関東大震災でも、山手と下町で倒壊した建物が異なっていた。短周期地震波では原子力発電所が危ない、中間期地震波では一般家屋が危ない、長間期地震波ではノッポビルが危ないということだ。原子力発電所・核燃料施設における建屋・機器の固有周期を見てみる。原子炉建屋の固有周期は、〇・二〜〇・五秒、原子炉格納容器では、PWR(加圧水型原子炉)で〇・二秒、BWR(沸騰水型原子炉)で〇・五秒、主要機器では、〇・〇三〜〇・一秒、再処理施設の固有周期は、主要建屋で〇・一〜〇・四秒、主要機器で〇・〇一〜〇・〇七秒だ。このように原発や再処理施設は、〇・〇三〜〇・五秒の短周期地震動に弱いのだ。
 これからの目標とすべきは、@柏崎刈羽原発を閉鎖し、人・モノ・金を福島第一原発へ集中する、A東京電力を破産処理し、金融機関等に債権放棄させ、その上で東電の全原発を国有化し、国の責任で、福島第一原発の廃炉・汚染水対策を徹底する、B東電解体を契機に、発送電を分離し、電力市場を完全自由化し、再生可能エネルギーを促進する、C福島第一原発事故が「完全に収束」するまで、原発再稼働審査を全面凍結し、原子力規制委員会の全精力を事故収束・廃炉・汚染水対策へ集中する、ということだ。
  
ドイツからの特別ゲスト=フランクフルト市・エネルギー課長のヴェルナー・ノイマンさんがドイツでの脱原発の動きなどを報告した。

集会後、原宿、渋谷をデモし、脱原発を訴えた。


立憲主義否定の国づくり反対

   
 10・29日比谷野音集会・国会デモに2800人が参加

 安倍内閣は「特定秘密保護法案」を閣議決定し、臨時国会に提出し(一〇月二五日)、一二月六日の会期末までに成立を狙っている。軍事情報を中心にさまざまな「国家秘密」をつくり、これをまったく隠蔽する体制を確立する「戦争をする国」づくりの一環である。
 こうした動きにさまざまなところから反対の声が高まってきている。

 一〇月二九日、日比谷野外音楽堂で「秘密保護法案と立憲主義否定の国づくりに反対する集会」(主催 フォーラム平和・人権・環境)が開かれ、二八〇〇人が参加した。
 主催者を代表し福山真劫・平和フォーラム代表が、秘密保護法の制定は憲法の改悪につながる、多くの力を結集して必ず廃案にしよう、とあいさつした。
 立憲フォーラム代表の近藤昭一・民主党衆議院議員、社民党の党首の吉田忠智参議院議員、立憲フォーラム幹事長の辻元清美・民主党衆議院議員が、それぞれ秘密保護法の危険な内容、院外の大衆運動と結び付けて国会内での闘いをおこなうとあいさつした。
 連帯あいさつは、日本弁護士連合会の江藤洋一・秘密保全法制対策本部本部長代行、新聞労連の大江史浩書記長がおこない、「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法案)に反対するネットワーク秘密保護法反対ネットワーク」から弁護士の海渡雄一さんが発言した。 最後に集会アピール(別掲)を確認した。

 集会後参加者は国会に向けてのデモに出発し、議員面会所では議員とともに闘うシュプレヒコールをあげた。

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集会アピール

 市民の「知る権利」を制限することから、集団的自衛権の体制づくりが始まろうとしています。国政に参加する市民の権利に暗幕をおろし、国が歩もうとする方向の、最も大切な情報を隠して、これから政府は何を始めようと言うのでしょうか。

 一〇月二五日、政府は特定秘密保護法案を閣議決定し、今臨時国会に提出しました。
 そもそも、法案の中心である秘密の内容が、これほどあいまいな法案は前例がありません。
 「なにが秘密か、秘密」。これがこの法律の特徴であり、本性です。
 「知る権利」や「報道の自由」といった言葉が、法案に挿入されたとしても、努力義務どまりであり、市民は、どのような知る権利が奪われたのか知る術もありません。

 いずれの国の戦争も、その国に住む人への情報操作によって進められてきました。日本が行った先の戦争も、国民に対し、巨大な情報操作と、情報操作を土台とする幾重もの謀略で進められてきました。「軍機」、「極秘」と印が捺(お)されれば、大多数の人が知ることのない事態がひとり歩きし、国の中の「国」が、大多数の人を引きずって、立ち戻ることのできない所まで国を運んでしまったのではないでしょうか。

 特定秘密保護法案は、国会の国政調査権に制限が加えられる可能性をもち、国会が最高機関であることを薄め、シビリアンコントロール(文民統制)を損なうものです。
 また、特定秘密の指定は、第三者のチェックを受けることなく、時々の行政の長による恣意的な運用を許してしまいます。有識者会議を設置しても個々の秘密指定の妥当性をチェックする権限は与えられていません。
さらにこの法案は、厳罰化によって公務員を萎縮させ、想定以上の「知る権利」の侵害が進行します。秘密を取得した者、漏えいを教唆した者も処罰され、報道機関の取材活動だけでなく、行政を監視する市民運動も罪に問われかねません。
 またこの法案は、「防衛」、「外交」、「特定有害活動(スパイ)防止」、「テロ対策」の四分野を対象としていますが、特定有害活動防止など基準と概念があいまいで、国民監視につながるおそれをもっています。さらに、特定秘密を取り扱う人への調査は、際限のないプライバシー侵害です。

 これまで、戦後憲法のなかにあっても、多くの秘密を国は生み出してきました。しかし、今回この法案がめざそうとしているのは集団的自衛権の体制づくりと密接に結びつき、秘密の「塊」を生み出し、立憲主義と憲法の平和原則を崩そうとしている点に最大の問題があります。
 私たちは、市民の「知る権利」の侵害が、民主主義の侵害、憲法の侵害、平和への侵害の道の扉になろうとしていることに最大の注意をはらいます。
 特定秘密保護法案を許してはなりません。「同盟国」首相への盗聴を許して、市民に情報統制を強いる社会を許してはなりません。


何が秘密? それは秘密

    秘密保護法案の危険な内容とツワネ原則


 特定秘密保護法案は、行政機関の長が外交、防衛、スパイ活動、スパイ、テロの分野に関する情報を「特定秘密」に指定できるとしているが、何を「秘密」とするかは行政機関の恣意的判断できめられる。「特定秘密」を漏らした公務員だけでなく、記者や市民も最高懲役一〇年の厳罰が科せられる可能性がある。これは、とんでもない法律だ。誰が見ても戦争準備・遂行のためのものであり、できる限り広範な戦線を作り出して絶対に阻止・粉砕しなければならない。

 一一月五日、文京区民センターで、「何が秘密?それは秘密」法(秘密保護法)に反対する緊急集会開催された。
 日弁連秘密保全法制対策本部副本部長の海渡雄一弁護士が「秘密保護法案の危険な内容と『国家安全保障と情報の権利に関する国際原則(ツワネ原則)』と比較した問題点」と題して講演した。
 「国家秘密」に関する法制化が論議されだしたのは一九八〇年代の「スパイ防止法」制定の動きなどからであった。最高刑は死刑と言うことだった。前の安倍政権の二〇〇七年に軍事秘密の漏洩防止のための協定「軍事情報一般保全協定(GSOMIA)」を日米両国は結んだ。米国は日本の「秘密保護」の体制の強化を要求し、安倍内閣は有識者会議をつくったが、内閣がつぶれてしまった。
 今回の秘密保護法制定に安倍首相は必死である。
 この法案には問題点が数々あるが、そもそも何を「秘密」とするかが行政機関の長の判断に委ねられている。その判断が恣意的になされても、正しくなされているかどうかをチェックする第三者機関はない。外交、防衛、スパイ、テロ活動の防止などは市民の生活に広範にかかわることがらであり、どのような情報が「特定秘密」とされてしまうか、主権者である市民には皆目見当がつかないのだ。そして、処罰として、故意の漏洩行為に一〇年、過失による漏洩に二年の懲役などが科せられる。そして、公務員だけでなく、ジャーナリストや市民活動家も特定取得行為の対象になる。また共謀や煽動で重罰にできるようになっている。
 一九九五年に「安全保障と国民の知る権利との対抗関係を規律する国際原則」(ヨハネスブルグ原則)が策定された。それを法制度を策定する担当者に対する指針・ガイドラインにして起草されたのが、ツワネ原則である。ツワネは南アフリカの首都(旧・プレトリア)だ。
 ツワネ原則の正式名称は、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」で、国家安全保障分野において立法を行い、制度を構築する際に国家安全保障への脅威から人々を保護するための合理的な措置を危険にさらすことなく、政府の情報への公的アクセスをどう保障するかという問題についての指針を提供するために作成されたものだ。
 このツワネ原則と特定秘密保護法案とを比較してみる。以下のように秘密保護法案は情報保全法制に求められる国際水準を満たしていないことがわかる。@何を秘密としてはならないかを明確にしなければならない。A公衆に対する監視システムと監視のための手続を秘密にしてはならない。B秘密指定は無期限であってはならない。C公開の裁判手続において、秘密の内容を議論することの保障規定が必要だ。D安全保障部門にはすべての情報にアクセスできる監視機関が設置されるべきである。Eバランスのとれた内部告発者の告発は法的に保護され、報復されてはならない。F情報漏えい者に対する訴追は、情報を明らかにしたことの公益と比べ、重大な損害を引きおこす場合に限って許される。情報を漏えいした公務員の処罰についても、原則は厳しく情報の公開によって得られる利益と公開による損害とのバランスを要求している。Gツワネ原則はジャーナリストと市民活動家を処罰してはならないことを定めている。すなわち、公務員でない者は、秘密情報の受取、保持若しくは公衆への公開により、又は秘密情報の探索、アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではないということだ。
 起草後、すでに欧州評議会の議員会議の国家安全保障と情報アクセスに関するレポートにおいて引用されていることも、最新の立法ガイドラインであることを示すものだ。日本は欧州評議会のオブザーバーでもあるので、すくなくとも、日本政府が秘密保全法制を策定するに当たって、その適合性を十分検討し、この原則の考え方を尊重しなければならない。法案にはツワネ原則から見ると、重大な欠落点、違反点が多数認められる。法案は、いったん白紙に戻し、現存する自衛隊法などの中に含まれる秘密保全法制を含めて原則の考え方を織り込んで改正するなど、根本から練り直す作業に着手するべきであろう。

 つづいて、東京新聞編集委員の半田滋さんが、「安倍政権がめざす軍事国家への道」と題して講演し、最後に、すべての基地にNO!をファイト神奈川、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックからのアピールがおこなわれた。


JAL争議 来春にも控訴審判決

       不当解雇撤回・安全運航確立を


 日本航空は、二〇一〇年一二月三一日、パイロット九四名と客室乗務員一〇八名を不当解雇した。その撤回を求める闘いは大きく支援の輪を広げながら粘り強く展開されている。いま闘われている東京高裁での裁判は一二月に結審し、来春にも判決となる見通しである。

 一〇月二五日、東京・文京シビックホールで、「JAL解雇撤回 高裁勝利!早期解決をめざす大集会」が開かれ、一八〇〇人が参加した。
 上条貞夫弁護団長が控訴審での闘いを報告。解雇時点においてすでに会社は更生計画の人員体制を達成していて解雇は必要がなかった。会社は整理解雇回避努力を一切行わなかったが、これは労働組合の弱体化を狙った解雇の強行だ。解雇の不当性は明らかであり、これらを裁判で立証した。
 集会には各地から結集し、代表して大阪、京都、愛知の支援共闘があいさつした。日弁連の前会長の宇都宮健児弁護士、日航も参加するアライアンス・ワンワールドで働くパイロットや航空機関士の労働組合OCCC議長のトニー・チャップマンさん(アメリカン航空)、日本航空による不当解雇者を励ます会の醍醐聰東大名誉教授、そして、ともに闘う争議団からはJMIU日本IBM支部、郵政非正規社員の「定年制」無効裁判原告、また国会議員からの激励挨拶をうけた。
 JALで働く当該労組の日本航空乗員組合の田二川真一委員長、日本航空キャビンクルーユニオンの古川麻子委員長が、不当解雇撤回と安全で明るい職場の実現に向けて闘うと決意表明した。
 原告団を代表して、乗員原告団の山口宏弥団長と客乗原告団の内田妙子団長が、全国の仲間とともに不当解雇を撤回させ、安心して暮らせる社会を実現しようと決意を語った。
 集会は「日本航空の不当解雇撤回と早期全面解決を求める決議」を確認した。
 「安倍内閣は、解雇の自由化に道を開く労働法制の改悪を推し進めようとしている。こうした情勢下で、首切り自由を許さず労働者の生活と権利を守る上で、日本航空の不当解雇撤回闘争の持つ意義は、一層重みを増している。『JAL不当解雇撤回 高裁勝利!早期解決をめざす大集会』に結集した私たちは、全国津々浦々での宣伝や署名活動、集会等を積極的に開催し、不当解雇は許さないという大きな国民世論を築き、裁判所、政府、日本航空を包囲し、勝利判決の獲得、不当解雇された一六五名の職場復帰・早期全面解決をめざし、全力を上げて闘うことを確認し、以下の通り決議する。
 一、日本航空に対し、不当解雇を撤回し、直ちに被解雇者全員を職場に戻すこと、露骨な利益第一主義の経営を改め、安全最優先の経営を行うこと、そして、労働祖合敵視の不当な労務政策を改めることを求める。
 一、東京高裁に対し、証拠を吟味し、整理解雇法理に基づいて、正義にかなう公正な判断を示すよう強く要請する。
 一、政府に対して、ILOの勧告を踏まえ、日本航空に対して、安全最優先の経営と不当解雇撤回・早期全面解決に向けた有効な手立てを講じることを要求する。」

 JAL不当解雇撤回闘争は大きな山場を迎えている。さらに運動を強め拡大して、この争議に勝利しよう。


安倍政権の雇用破壊反対

      大きく共同して闘おう

 安倍政権は、日本再興戦略や規制改革会議答申などを閣議決定した。いわゆるアベノミクスの大胆な金融緩和、機動的な財政出動につづく第三の矢としての「民間投資を刺激する成長戦略」である。それは「女性の活躍」「世界で勝つ」「民間活力の爆発」という内容だという。そのための、雇用・労働法制大改悪の具体化を急ピッチですすめているのだ。解雇規制や労働時間規制の骨抜き・撤廃問題が焦点となっているが、労働者の低賃金・劣悪な労働条件・使い捨てということだ。さすがに「解雇特区」「残業代ゼロ特区」などの「雇用特区」は当面棚上げされたが、姿を変えて依然として、雇用・労働法制になし崩しの 「規制緩和」をすすめようという狙いが断念されたわけではない。
 このような動きに対して反対する声が高まってきている。この間、全労連や全労協、中小労組政策ネットなどの呼びかけで、労政審労働力需給制度部会に対する厚労省前宣伝行動が何度もおこなわれてきた。ようやく連合も反対姿勢を強めてきた(一〇月二四日、連合「労働者保護ルール改悪阻止」闘争本部を設置)。

 一〇月二三日には、「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション(雇用共同アクション)」が結成された(参院議員会館で結成集会)。
 はじめに全労協の金澤壽議長が開会挨拶。
 小田川義和全労連事務局長が、経過と結成について報告。安倍政権の雇用破壊に反対する運動を広め強め、さらに共同を強めていくため、いくつかの労働団体が集まり、安倍政権の雇用破壊に反対するため、これまでのワクを超えた新たな共闘組織を結成することを確認し、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、全港湾、航空連、純中立労組懇、全労連、全労協、中小労組政策ネット、下町ユニオン、東京争議団共闘、けんり総行動が現在参加しており、さらに多くの組合が参加する予定である。この「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション」(雇用共同アクション)は、「安倍政権の雇用破壊にストップをかけるため、一致点に基づいて共同したとりくみを発展させること」を目的とし、当面の行動として、労政審論議に対応して、厚労省前アクションにとりくむ。「国家戦略特区法案」の動向をみつつ、国会行動について検討する、当面する最大の結節点として、一二月一三日の日本弁護士連合会主催の安倍内閣による雇用破壊に反対する大集会(日比谷野外音楽堂)に大結集し、世論喚起をはかる。同集会終了後は、労組の共同行動として国会請願デモを予定する。そして、各県・地域で、宣伝や自治体請願など、共同したとりくみをひろげるよう呼びかけていく。
 
 激励のあいさつは、日本労働弁護団の棗一郎常任幹事と日弁連の河田英正副会長。
 現場からは、郵政産業労働者ユニオン、JMIU(全日本金属情報機器労働組合)日産支部、東京争議団・矢田部過労死裁判原告、日本航空不当解雇撤回原告団、JMIU・IBM支部、純中立労組懇などから闘いの報告・アピールがおこなわれた。
 社民党、共産党、民主党の国会議員からのあいさつもあった。


日弁連主催の市民公開講座  労働法制の今とあるべき労働法制

                   
野田進教授 正社員雇用改革の諸問題

 日本弁護士連合会は、労働法制の規制緩和に深刻な問題だととらえている。
 日弁連は、今年の七月に、「『日本再興戦略』に基づく労働法制の規制緩和に反対する意見書」を出し、国に対し、@全ての労働者について、同一価値労働同一賃金原則を実現し、解雇に関する現行のルールを堅持すべきこと。A労働時間法制に関しては、労働者の生活と健康を維持するため、安易な規制緩和を行わないこと。B有料職業紹介所の民間委託制度を設ける場合には、求職者からの職業紹介手数料の徴収、及び、民間職業紹介事業の許可制の廃止をすべきではなく、労働者供給事業類似の制度に陥らないよう、中間搾取の弊害について、十分に検討、配慮すること。C労働者派遣法の改正においては、常用代替防止という労働者派遣法の趣旨を堅持し、派遣労働者の労働条件の切下げや地位のさらなる不安定化につながらないよう十分に配慮すること、などを求めた。

 一一月六日には、弁護士会館で「労働法制の規制緩和に反対する市民公開学習会―労働法制の今とあるべき労働法制―」を開いた。
 
 はじめに星野圭弁護士(日弁連貧困問題対策本部第二部会部会長)が基調報告。
 弁護士会による全国一斉労働相談では、四〇〜五〇代の現役世代、賃金・残業代未払い、いじめ・パワハラなどの深刻な相談が寄せられた。正規も非正規も同じような比率だが、組合未加入が圧倒的に多い。日弁連としての活動として各種問題に対する意見書や会長声明などで労働問題、生活保護基準の引き下げ、自殺対策などに取り組んでいる。

 当事者報告は、マツダ訴訟原告、ハウス食品雇い止め事件当事者が企業の理不尽なやり方で労働者が酷い状況に追い込まれていること、それと闘って勝利するとの発言があった。

 基調講演は、野田進九州大学法学部教授の「正社員雇用改革とその法的諸問題―労働法制の規制緩和の動きに対する考察」。
 正社員雇用改革には二つの背景がある。一つは二〇一二年の非正規雇用改革で、@派遣元事業主の事業規制で、日雇い派遣が原則禁止され、また派遣労働者の雇用上の地位や待遇改善を図ることが義務化された。その結果、派遣労働者、契約社員・嘱託が減少傾向にある。第二の背景はアベノミクスの第三の矢「成長戦略」だ。それらから限定正社員の構想が出てきている。六月に出た「規制改革に関する答申〜経済再生への突破口」では「人びとが動きやすい労働市場と雇用システムをつくる規制改革」が言われている。「働きやすく」ではない。「動きやすく」なのだ。「人が動くための具体的な雇用改革の三本柱」が、@正社員改革、A民間人材ビジネスの規制改革、Bセイフティネット・職業教育訓練の整備・強化だ。「正社員改革の第一歩として、職務、勤務地、労働時間等が特定されている「職務等限定正社員」、いわゆるジョブ型正社員を増やすとともに、その雇用ルールの整備を早急に進めるべきである。さらに、労働時間規制の見直しも重要な課題である」とする。そして「企業の現場においては、労働契約や就業規則における内容の明確化、無限定正社員との間の均衡処遇その他人事処遇に関するルールを確認し、整えていく必要がある」。「その他人事処遇」とは解雇のことだ。正社員、限定正社員、非正規社員の関係では、非正規が限定正社員になることはすくなく、正社員が限定正社員とされことのほうが多い。経団連は「仕事がなくなれば終えられる雇用契約」の導入で、従来の正社員より雇用が守られないことを法律に明記するよう求めている。これでは、解雇しやすい働き方がひろがるだけだ。


KODAMA

   
労働法の知識など

 日本テレビの連続テレビドラマ「ダンダリン」は、竹内結子主演の労働基準監督官が主人公で、ブッラク企業主や会社の側に立つ社会保険労務士との闘いを描いている。ダンダリンとは主人公の名前・段田凛。漫画雑誌『モーニング』で連載されたものが原作だ。
 深刻な労働問題が蔓延しているのに、多くの労働者とくに若者の労働法の知識は薄く、企業にいいように搾取されている状況が、漫画やテレビドラマにこうした題材を取り上げるようにさせたのだろう。
 この一一月には、「ワークルール検定」がおこなわれた。職場の権利教育ネットワークの主催で、労働法や労働問題にかかわる一般問題が検定内容だった。知識だけでは労働者の権利を守ることはできないともいえるが、労働法などの知識を持っているかどうかで、人生は大いに違って見えてくるのではないだろうか。  (H)


せ ん り ゅ う

     秘密国戦時下国へ安倍腐り

                     ヽ 史


複眼単眼

     
山本太郎参議院議員の天皇への「手紙」事件

 山本太郎参議院議員が一〇月三一日、「赤坂御苑」で行われた「園遊会」で、天皇に直接、手紙を渡したことが話題になっている。安倍政権の閣僚や自民党幹部などからは「天皇の政治利用だ」「議員辞職ものだ」「不敬罪相当だ」などという非難が相次ぎ、国会でも処分が検討された。
 一方、山本議員が先の参院選挙の東京選挙区で、主として脱原発をねがう市民らの支持で当選を果たしたことから、市民運動の中でも議論になり、彼の行動の評価には賛否両論が出ている。その中には、「現代の田中正造だ」「脱原発運動への弾圧だ、断固、擁護すべし」という感情的な議論も少なくない。
 しかし、私はこの事件は少し冷静に議論すべき問題があるように思う。
 山本議員によると、天皇への手紙は福島第一原発事故の現状を伝えようとするものであり、「子どもたちの被ばくや、原発の収束作業員が最悪の労働環境で作業している実情などを知っていただきたかった」「この現状、もちろん、聡明で博識な方だということはもういろんな方からお伺いしているのでわかっていることなんですけど、自分自身が知っていることを陛下に知っていただきたい、という思いでした」という。
 この動機となった脱原発は、山本議員のこの間の主張であり、極めて重要な問題であり、この点での山本議員の努力は評価されるべきだ。
 しかし、それを「園遊会」に出て、天皇に訴えるという行動は、国会議員として重大な誤りだと言わなくてはならない。
 五日、山本議員は記者会見で「僕が陛下に手紙をお渡しすることによって、このような大きな騒ぎになってしまった。その中で僕が一番猛省しなければならないことは、陛下の御宸襟を悩ませることになってしまった」ことだと詫び、別の所では「(皇居の)二重橋の方へ行って、陛下に対しておわびを申し上げた」とのべた。
 これらの言葉に山本議員の天皇観が端的に表れている。山本議員は天皇をくり返し「陛下」と呼び、今回の行動の最大の問題が「陛下の御宸襟を悩ませ」たことだ、と考えるのである。
日本国憲法の第一章第一条は、国民主権と象徴天皇制をうたっている。もともと、この章は憲法三原則からして、大きな問題を有する条項だ。しかしながら、自民党新憲法草案に見られるように、今日のように改憲派が「天皇元首制」と「戦争をする国」を夢見て、改憲運動を強めている中では、この第一章を厳格に守らせる中で、天皇制の強化に反対することが求められる。第四条には「(天皇は)国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」とあり、第七条では国事行為を具体的に一〇項目列挙している。憲法によれば象徴天皇はここに規定されていること以外はできない。だからこそ、国会開会式の「お言葉」や、「皇室外交」などの天皇の活動は憲法違反の疑いのある行為という指摘が繰り返しされてきた。今回の「園遊会」も天皇を美化し、天皇制を強化しようとする企ての儀式であり、本来、国会議員が出席するようなものではない。
 しかし、山本議員はこれに積極的に出席し、その場を利用して、「聡明な天皇陛下」に福島の現状を理解して頂くよう、直訴し、体を九〇度に折り曲げて最敬礼までして哀願したのである。言うまでもなく田中正造の時代の天皇は最高権力者である。
 現代の天皇はそうではない。田中正造の「直訴」は天皇制支配階級への抗議であったが、山本氏の「直訴」は、権力ももたない、持ってはならない天皇への「哀願」であり、改憲論者がことあるごとに天皇を利用し、天皇制を強化し、元首化しようとしていることを側面から助けることになる。このような直訴は福島県民や原発労働者にとって、何の有益な結果ももたらさない。
 しかし、自民党などが山本議員を批判するのは噴飯ものだ。彼らは憲法に違反して天皇の政治利用をくり返している。例えば今年四月二八日、サンフランシスコ講和条約発効の日に天皇を招いて「祝賀記念式典」を行い、「天皇陛下万歳」の雄叫びを上げたことなどがその一例である。
 こうした連中に山本議員を批判する資格はない。沖縄の気持ちを踏みにじって式典を強行した安倍らと、福島の人びとに心を寄せた山本議員とでは天と地ほどの開きがある。山本議員が「処分」されるいわれは全くない。 (T)