人民新報 ・ 第1309号<統合402号(2014年1月15日)
  
                  目次

● 日本を破滅させる安倍右翼政権  東京から、沖縄から、各地から反撃の闘いを!

● 宇都宮健児さんと希望のまち東京をつくろう  安倍政治への反撃の火を

● 安倍首相の靖国参拝糾弾!  米国政府の「失望」を狭小化して見せたい右翼

● けんり春闘がスタート

● 日弁連が主催して労働法制の規制緩和と貧困問題を考える集会

● 仲井真知事の埋め立て承認を許さず辺野古新基地建設阻止へ!  名護市長選に勝利しよう

● 二〇一四年を労働法制の改悪の年にするな

● 世論の怒りを背景に特定秘密保護法を廃案へ

● 安倍政権の下での民主主義の変容と天皇制  自民党改憲草案の天皇の位置づけで「国民一体」は実現できるか

● 丹後半島経ヶ岬に米軍・Xバンドレーダー設置  関西の地から、戦争NO!の声

● KODAMA  /  都合のいい戦後史

● せんりゅう

● 複眼単眼  / 暴走する安倍政権に一矢を 〜 都知事選は好機





日本を破滅させる安倍右翼政権

      東京から、沖縄から、各地から反撃の闘いを!

 安倍晋三首相は「年頭所感」で「『強い日本』を取り戻す戦いは、始まったばかり。今後も、長く厳しい道のりを、緊張感を持って進んで行く覚悟を、一年の始まりにあたって、新たにしています」と述べた。だが、日本を取り巻く状況は一段と厳しいものとなってきている。好戦的な姿勢を前面化させ近隣アジア諸国との緊張を激化させただけでなく、ロシア、EUそしてアメリカ政府からさえ批判を受けた靖国参拝など外交はもちろん、消費増税・経済など内政面でも内閣にとって容易ならない状況が出てきている。安倍は、一月六日の年頭記者会見で、今年の課題についてなにかというと「わくわく」なる言葉を連発していたが、その実、内心の「びくびく」を押し隠すものであろう。
 安倍はこの間の政策を「戦後以来の大改革」と言う。これは日本国憲法に表現される基本的人権の尊重・国民主権(主権在民)・平和主義(戦争の放棄)を否定し、戦後日本の歴史を変え、「戦争をする国」=「国民が戦争に反対できない国」を作り上げようとすることである。安倍の民意に対する敵対・無視は、特定秘密保護法の強引な制定、国外の人びとに対するそれは靖国神社の「電撃」参拝に現れているが、いずれも、公明正大に、話し合いの中から合意を形成するというのとは正反対のやり方であった。安倍の行動によって、この政権が、戦後民主主義を空洞化させ、葬り去ろうという右翼勢力による政権であることを内外の人びとが気づきはじめている。まさに時代を画する状況が生まれている。
 安倍政権は日本資本主義の困難を倍化させ、自滅に道を開くものとなった。歴史的に見ても、「愛国者」が国を滅ぼした例に事欠かない。大きく団結して、安倍政治に対抗する戦線を打ちたてよう。


宇都宮健児さんと希望のまち東京をつくろう

           安倍政治への反撃の火を

猪瀬辞任による東京都知事選は、極悪・極右の安倍政治と対決する構図をはっきりさせて闘われなければならない。一四年間の石原都政の後継者である猪瀬は、二〇一二年末の都知事選で、「自助・共助・公助で、ひとりひとりが輝く首都を」かかげて、公明党、日本維新の会の支持、自民党の支援で当選したが、一年もたたずに、徳洲会五〇〇〇万円問題で窮地に立たされ、辞任に追い込まれた。しかし徳洲会との関係は猪瀬から始まったわけではない。石原・猪瀬都政の存続をゆるさず、それらの政策と安倍政治に対決する都政・都知事を実現することが求められている。また、企業との癒着のない人物でなければならないのは元論である。
宇都宮健児さんは前の都知事選で、「人にやさしい東京をつくる」政策で都民に支持を訴え、次点となった。今回も原発再稼働反対だけでなく、安部政権の暴走と対決する総合的な政策を掲げて闘う(八面参照)。
 「私は東京を変えます」―この宇都宮さんの言葉に支持が広まっている。
 東京から日本を変えていこう。「宇都宮健児さんと希望のまち東京をつくろう」。

希望のまち東京をつくる会のサイトは、http://utsunomiyakenji.com/


安倍首相の靖国参拝糾弾!

      米国政府の「失望」を狭小化して見せたい右翼


 一二月二六日、安倍晋三首相は靖国神社に参拝した。二〇〇六年の小泉純一郎首相以来七年ぶりの現職首相の参拝だ。安倍は、当日の総理大臣談話で「本日、靖国神社に参拝し、国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈りしました。また、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀されない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝」した、「日本は、二度と戦争を起こしてはならない。私は、過去への痛切な反省の上に立って、そう考えています。戦争犠牲者の方々の御霊を前に、今後とも不戦の誓いを堅持していく決意を、新たにし」、また「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません。靖国神社に参拝した歴代の首相がそうであった様に、人格を尊重し、自由と民主主義を守り、中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています」などと述べた。
 A級戦犯を祀り過去の侵略戦争を美化する靖国神社への参拝が「不戦」を誓うためのものだとするのは、日本の侵略を受けまた植民地化されたアジア諸国に敵対し対立をあおる以外のものではない。こうした行為にあきらかなように安倍政権は戦後長く続いた保守政権とは違い、厳然たる右翼政権である。日本軍国主義は日本人民、アジア人民の共同の敵である。

 この行為に対して、中国、韓国・朝鮮のみならず米国も反応し、在日大使館、そして国務省が「失望」の意を表した。これは、どういう意味を持つのだろうか。右派勢力はひたすらこれを過小評価しようとしている。たとえばヒゲの隊長こと自衛官出身の佐藤正久自民党参議院議員は、自己のツイッターで「靖国神社参拝の米政府声明に関するマスコミ報道への疑問を記載。文脈からすると『望みを失った(失望)』のではなく総理の参拝を『残念』に思ったのであり、また声明の中で『過去の反省と平和への決意』を評価もしている。更に鎮霊社参拝の意味を米国が理解して声明を出したかも疑問」「安倍総理の靖国神社参拝への在京米国大使館声明。高校のクラスメートが指摘『日本語の仮訳がおかしい。映画もそうだが、文意を捉えた奥深い日本語にしないといけないのに。少なくとも日本語で《緊張が悪化する》とは言わない。緊張が《悪るくなったら、緊張緩和と取る人もいる》』と。確かに!」などと書いている。

 しかし安倍の靖国参拝が、東アジアの緊張を高め、とりわけ米日韓の関係に悪影響を与えることはもちろんだが、それだけではない。米国の声明は「米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する」と明確に指摘している。
 昨年の一〇月、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官は千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ、献花した。安倍が五月に訪米した際、靖国神社を米国のアーリントン国立墓地になぞらえたことに対する痛烈な批判だ。これが靖国神社にたいする米国の位置づけであり、「ニューヨク・タイムズ」紙には靖国神社=戦争神社とする記事も掲載されている。
 米国から見れば、安倍の行為は、当面の東アジア情勢に緊張をもたらすだけでなく、「戦後秩序」=日独伊に勝利した第二次世界大戦の結果生まれ、国際連合によって体現されているものの否定を意味する。
 安倍の「戦後レジームからの脱却」は、日本国憲法体制の否定であるばかりでなく、戦後世界体制を揺るがすものなのである。
 米国としては、日本に「集団的自衛権行使の容認」で、自衛隊を世界のどこでも米軍の補完戦力として血を流させると同時に、アメリカ支配の下に「完全にコントロール」しようとしているのである。


けんり春闘がスタート

    すべての労働者に17000円の賃上げ

    安倍政治と真っ向対決を


一二月一四日、在日本韓国YMCAホールで、「けんり春闘発足集会」が行われ、春闘が本格的にスタートした。
 伊藤彰信共同代表(全港湾委員長)のあいさつにつづいて、中岡基明全労協事務局長が議案提起で、すべての労働者に一七、〇〇〇円の賃上げの要求をはじめ、労働法制改悪、消費税増税反対、改憲阻止、沖縄の辺野古新基地建設反対など安倍政権と闘う春闘の実現を呼びかけた。
 『週刊東洋経済』記者の風間直樹さんが、労働組合の役割を発揮するときだと講演。
 つづいて労働法制改悪を闘う雇用共同アクション、全国一般全国協ふくしま連帯労組からの報告。最後の参加労組の決意表明では、外国人労働者総行動実行委員会、国労本部、全港湾、全造船関東地協、全水道東水労、全国一般全国協、全統一井上眼科病院分会、郵政産業ユニオン非正規社員定年無効裁判原告、全石油昭和シェル労組、大阪ユニオンネットワークが発言した。


日弁連が主催して労働法制の規制緩和と貧困問題を考える集会

      広範な人びとと連帯して労働者の雇用・権利を守り抜こう


 一二月一三日、日比谷野外音楽堂で日本弁護士連合会主催の「労働法制の規制緩和と貧困問題を考える市民大集会」が開かれ、寒風のなか二〇〇〇名の参加者があった。
 日弁連は労働弁護士だけでなく、当然にも企業弁護士(経営法曹)を含んでいるが、労働法制の規制緩和の中で進む貧困化の事態を前に、日弁連としてこうした大衆集会をはじめて主催することにした。この意義は大きい。これは格差の拡大・貧困化の事態の深刻さを物語るものでもあった。

 日弁連会会長の山岸憲司弁護士が開会のあいさつ。
 つづいて、学者からのあいさつでは、はじめに労働法学者の西谷敏・大阪市立大学名誉教授。労働法の研究を長年やってきたが現在ほど危機的な時はない。労働規制緩和の主な点は、解雇の金銭解決、ホワイトカラーエグゼンプション、労働者派遣法改悪、有期雇用の五年ルールの切り崩し、そして限定正社員の問題だ。政府や経済界は、国際競争力の強化や経済成長などを強調し、そのために労働規制は障害となっており緩和が必要だという。しかもそれを短期間でやってしまおうとしている。事態の本質が理解され反対運動が起こる前にいっきにやってしまうというやりかただ。こうしたやりかたは特定秘密保護法の強引な成立などとともに民主主義を空洞化させるものだ。
 つづいて竹信三恵子・和光大学教授が、労働者派遣について、労働政策審議会労働力需給制度部会は、「臨時的・一時的」と一方で言いながら、実際には、ほとんどの業種で、そしていつまでも派遣を使い続けることを提言しようとしていると批判した。
 当事者の訴えとして、マツダ派遣切り訴訟原告、東京東部労組メトロコマース支部、全国ユニオンパルシステム支部が決意表明。各団体からのあいさつとして、連合、全建総連、全港湾、全労連、全労協、自立生活サポートセンターもやい、NPO法人シングルマザーズフオーラム、大阪ユニオンネットなどから発言があった。
 最後に、日弁連貧困問題対策本部からの今後の取り組みなどについての言葉で集会は終了した。

 集会後は、「安倍政権の雇用破壊に反対する銀座デモ実行委員会」によるデモがおこなわれた

日弁連会長あいさつ

 当連合会は、二〇〇八年の人権擁護大会で「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」を満場一致で採択し、非正規雇用の増大に歯止めをかけ、正規雇用原則の確立、労働者派遣法の抜本改正、均等待遇原則の確立、最低賃金の大幅引き上げ等の政策をかかげ、活動をしてきました。

 しかし、非正規労働と貧困の問題は、今日ますます深刻になっています。非正規労働者の割合は増加し、生活保護を受けなければならない人も増え、子どもの貧困率は先進国の中でも高く、貧困の連鎖がとまりません。若者の就業問題も依然、深刻です。こうした貧困の拡大と格差の広がりに歯止めをかける上で、安定した良好な雇用を増やすことが非常に重要です。

 現在、労働法制は大きな岐路にたっています。労働者派遣法は、派遣労働を臨時的・一時的な業務に限定するという大原則を転換する動きが出ています。限定正社員制度や労働時間法制の規制緩和も議論されており、さらなる規制緩和によって、不安定・低賃金雇用の拡大や長時間労働、過労死、過労自殺の問題がさらに深刻化するおそれがあります。労働規制緩和の逆流現象が起きており、労働法制は、かつてないほどの大きな危機を迎えています。
   
 これは、当連合会が目指す雇用法制とは相容れない動きだと言わざるを得ません。

 労働法制の規制緩和は、現在働いている人だけの問題ではなく、これから労働市場に出ていく若者、失業者、生活困窮者、母子家庭など市民全体に大きな影響を与える、まさに、国民全体の問題であり、貧困問題とも深いつながりがあります。この集会をきっかけに、一人一人があるべき労働法制について考える機会となれば幸いです。

 当連合会も「安定した良好な雇用の確保と貧困問題の抜本的解決」という当連合会の政策を実現すべく、今後も尽力してまいります。
 最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。

            日本弁護士連合会 会長 山岸憲司


仲井真知事の埋め立て承認を許さず辺野古新基地建設阻止へ!

                         
名護市長選に勝利しよう

 一二月二七日、沖縄県知事・仲井真は安倍政権のアメとムチに屈し辺野古の海埋め立てを承認した。辺野古新基地は海兵隊の出撃基地となるものだ。
 沖縄の人びとにとって、日本政府による一八七二年の「琉球処分」以来、弾圧と差別が強まり、沖縄戦、戦後の米軍政下の生活と苦難の連続であった。「復帰」後も、全国の米軍基地の七四%が集中し、また新たな基地が押しつけられようとしているという現実がある。
沖縄の人びとの気持ちは、基地の県外移設、普天間基地の即時撤去、辺野古新基地建設反対、オスプレイ配備の撤回などである。これは、昨年一月、安倍首相にあてた沖縄県内の全自治体首長・自治体議会議長の連名の「建白書」であきらかである。
 しかし、安倍内閣は、自民党沖縄県運と仲井真知事を強引に押さえ込んだ。だが、そもそも仲井真らは「基地県外移設」の公約で県知事や議員となったのであり、その後も「県外」を繰り返し発言していたのであり、今回の埋め立て容認は、決して許せない大きな裏切りである。
 安倍政権は、日米同盟を後ろ盾にアジアでの覇権をもとめて、急速な軍事力の強化に走り、昨年の臨時国会では、国家安全保障会議の設立、特定秘密保護法の制定、そして今年は、集団的自衛権行使の容認・「国家安全保障基本法」の制定と「戦争する国家」体制づくりへと進んでいる。そして靖国神社参拝はアジア諸国に対する戦争宣言に等しいものだ。先島配備など沖縄への自衛隊配備の強化があり、辺野古新基地の建設などの軍備増強はその重要なステップだ。そうして日米政府によって沖縄はまたも軍事的な最前線とされる。
 沖縄の人びとの怒りは、県庁前抗議、県庁包囲、県庁ロビー内での闘いとなってあらわれた。東京では、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック呼びかけによる首相官邸前、議員会館前、防衛省前などで抗議行動が取り組まれた。
 沖縄県議会は仲井真知事に対する辞任要求決議を賛成多数で可決した。
 沖縄の闘いに呼応して各地で行動を強めよう。名護市長選(一月一九日)で稲嶺候補の再選・勝利を勝ち取り、辺野古新基地建設をストップさせよう。


二〇一四年を労働法制の改悪の年にするな

     
政府・財界の雇用破壊に反対する共同行動を強めよう

安倍右翼政治は労働法制改悪の面でもきわだっている。「国家戦略特区」での解雇ルールの緩和や労働時間規制の適用除外(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入がもくろまれたが、これは一時見送りになった。だが、昨年末、規制改革会議が労働時間規制の緩和、解雇規制を緩める「限定正社員」制度の創設を提言してきた。
 当面する労働法制の規制緩和の焦点の一つが労働者派遣法制の改悪である。

 一二月二五日に開かれた労働政策審議会・労働力需給制度部会は、労働者派遣制度の見直しについて、報告書の当初予定の年内取りまとめを見送りとした。労働側委員が派遣の受け入れ期間制限を事実上撤廃する骨子案にたいして賛成せず、議論を続けることになった。現行法では、派遣期間は専門二六業務(通訳など)をのぞいて「原則一年最長三年」となっていて、期間を超える場合には、派遣先企業は直接雇用を申し込む義務がある。骨子案は、業務区分を廃止し、「雇用が安定」のためだとして無期限に派遣できるとした。有期雇用についても期間制限を撤廃するとされていて、この場合、派遣先の労働組合などの意見を聞くだけでよく、人を入れ替えて何年でも派遣を使い続けることができる。
 この案に対して、使用者側(経団連)が「大変評価」したが、労働者側委員からは派遣が例外にとどまらなくなり、使い捨てにされてしまうと批判が相次いだ。だが、労働側が一部修正で妥結に応じて、年明けにも報告書がまとまると見られる。
 そうすれば今年の通常国会に労働者派遣法「改正」案が提出され、夏には、限定正社員に関する報告書も提出される。

 こうした動きに反撃するために、昨一〇月に連合は「労働者保護ルール改悪阻止闘争本部」を新設し、また、組織の違いをこえ、労働組合や争議団などが結集すて「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション(雇用共同アクション)」が結成された。
 運動の中心的な課題は、@「常用代替防止」の大原則を堅持し、労働者派遣は「臨時的・一時的な業務」に限定することであり、A日雇派遣禁止など二〇一二年の派遣法改正(民主党政権下)を白紙に戻すことは許されないことであり、B派遣労働者などの参加のもとで、実態と声を踏まえた議論を尽くすことである。
 二〇一四年、労働者、労働組合は大きく団結して、安倍政権による労働法制の規制緩和・雇用破壊に反対する運動を強め広めていこう。


世論の怒りを背景に特定秘密保護法を廃案へ

 安倍内閣は昨年一二月六日、特定秘密保護法を強行成立させた。国家機密の定義が曖昧で、それ自体が秘密とされ、「知る権利」「報道の自由」が奪われる懸念にくわえて拙速な法案採決のやり方に、マスコミも含めて世論の反対はひろがり、大きな反対運動が国会周辺をはじめ全国各地でまきおこった。これを受けて、内閣支持率は急落した。首相補佐官の礒崎陽輔参院議員は、日本外国特派員協会の講演で「正直言ってこんなに大騒ぎになるとは思っていなかった」として、「理解されず、説明不足」、「民主党は賛成すると思っていた」という大きな誤算があったと述べた。安倍も、「内容についてもっと丁寧に説明すべきだった」「「秘密の範囲が広がることはないし、国民生活に直接の影響はない」などと発言をしている。同法の施行は一年後となるが、その間に反対の声が小さくなることを願っているのである。

 特定秘密保護法をめぐる闘いは、新たな段階に入った。法案の廃止に向けた闘いである。「秘密保護法」廃止へ!実行委員会は、一二月一二日に実行委員会声明「私たちは秘密保護法の廃止を強く求めます!」を発表した。「私たちはこの秘密保護法の内容も手続も絶対に認めることはできない。私たちは、この法律が廃止されるまで、決してあきらめない」「秘密保護法の廃止を強く求めるための活動を始める」ことを決定し、名称を「『秘密保護法案』廃案へ!実行委員会」から「『秘密保護法』廃止へ!実行委員会」に変更し、秘密保護法の廃止を求める全国署名に取り組むなどの活動方針を決めた。
 衆議院議長(伊吹文明)、参議院議長(山崎正昭)あての、「『秘密保護法』の廃止を求める請願署名」(呼びかけ団体―新聞労連、平和フォーラム、5・3憲法集会実行委員会、秘密法反対ネット)は、「(請願の趣旨)―秘密保護法は市民の知る権利、取材・報道の自由、表現の自由等を侵害し、民主主義を破壊するものであり、憲法と国際人権規約に違反する法律です。秘密保護法についての国会の審議、強行採決は、世論を無視し、民主的手続きを真っ向から踏みにじるものです。行政の情報は主権者である市民のものであり、いま必要なのは、市民の知る権利を保障するための情報公開制度の充実です」として、請願事項「@秘密保護法の廃止を求めます。A憲法と国際人権規約に基づき、知る権利を保障する情報公開制度の改正を求め」るものである(第一次集約―年三月末日)。
 「請願の理由」は三点。
 @秘密保護法は市民の知る権利、取材・報道の自由、表現の自由等を侵害し、憲法と国際人権規約に違反する法律です。秘密保護法は、政府・官僚が自分たちに都合の悪い情報を勝手に「秘密」と指定することができ、それをチェックする第三者機関も存在しない、国家による情報独占・隠蔽法ともいうべき悪法です。何が「秘密」かもわかりません。原発事故の情報も、テロに関連づけて「秘密」とされてしまうなど、市民にとって大切な情報が隠されてしまいます。大切な情報がかくされて、戦争がすすめられた戦前の苦い経験もあります。「秘密」を知ろうとすれば、実際に「秘密」を入手しなくとも、そのことを話し合った、そそのかした、あおったとして、メディア関係者も市民も重罰を科されます。国会議員も裁判所・弁護人も「秘密」を知ることができず、その役割を果たせなくなります。
 A秘密保護法は、世論を無視し、民主的手続きを踏みにじって「成立」させられました。秘密保護法に反対する声は国会での審議とともに広がり、多くの市民に加え、マスコミ、弁護士、学者、作家、映画人、宗教家などさまざまな分野から反対の声があがり、慎重審議を求める世論は八割にも達しました。福島での公聴会では、意見陳述者7名全員が反対ないし懸念する意見だったにもかかわらず、翌日には衆議院特別委員会と本会議で相次いで強行採決を行いました。続く参議院でも同様に強行採決を行い「成立」させました。この採決は、世論を無視し、民主的手続きを踏みにじり行われたものです。だからこそ、「成立」後に廃止を求める声がますます大きくなっているのです。
 Bいま必要なのは、市民の知る権利を保障するための情報公開制度の充実です。政府によれば、秘密保護法による「秘密」は四〇万件にのぼります。市民の目から隠される「秘密」がいかに膨大かは明らかです。多くの市民はこれまでも生命と安全にかかわる情報が政府・官僚によって隠され続けてきたと考えています。いま必要なことは、市民から情報を隠すさまざまな法律や制度を、国際人権規約を具体化した「ツワネ原則」などにもとづいて一つひとつチェックして、知る権利を保障するために情報公開制度を充実していくことです。
 
 通常国会開会日の一月二四日には、「秘密保護法」廃止へ!実行委員会の主催による国会大包囲(ヒューマンチェーン)・院内集会が予定されている。この日は、全国で廃案に向けた一斉行動が展開される。

 特定秘密保護法に対する大きな批判の声を背景に、この通常国会に野党は、秘密保護法廃止の法案を提出することにしている。民主党は、先の臨時国会では、秘密の範囲を外交と国際テロに限定する、独立性を担保した第三者機関の設置などの対案を提出したが、まったく無視された。民主党は廃止法案を、通常国会に提出する方針だ。一月一七日には、海江田万里党代表を本部長とする党の同法対策本部をたちあげ、特定秘密法に反対する人びととも連携していく方針である。共産党は特定秘密保護法の廃止法案を通常国会に提出する。社民党は「特定秘密保護法廃止対策本部」設置し、広範な運動を呼びかける。

 全国各地、各界各層の力を合わせて、大きな運動の高揚を実現し、天下の悪法=特定秘密保護法の廃案を勝ちとろう。

秘密法廃案へ!実行委員会のHPは、http://www.himituho.com/


安倍政権の下での民主主義の変容と天皇制

     
自民党改憲草案の天皇の位置づけで「国民一体」は実現できるか

 一二月二三日、日本キリスト教会館で討論集会「安倍政権と象徴天皇制の変容」が開かれた。安倍政権発足から一年、改憲策動、集団的自衛権、秘密保護法、原発、戦争・戦後責任を否定する歴史認識問題とそこから滲み出る差別・排外主義、倒錯したナショナリズムの蔓延などが進んでいる。このような状況にあって、象徴天皇制はどのように変容していくのか。今年はこの安倍政権と天皇制の変容という課題を、具体的に捉えていけるような議論を展開するのが集会の目的だ。

 はじめに、伊藤晃さんが、「戦後天皇制は今後どうなっていくのか」の報告。いま、天皇の元首のような振る舞いが目立っている。最近では、天皇夫婦のインド訪問、南アフリカのマンデラ元大統領の葬儀への皇太子の参加、またオリンピック招致での皇族の公然たる動きがある。こうした天皇の元首的行動の進展は、現在の安倍政権下の戦後民主主義と戦後ナショナリズムのまがりかどという局面と無関係ではない。戦後民主主義の枠組みとなっていた妥協的政治構造が解体しつつある。支配階級もエゴイスティックな自己の利益追求に走りそれも露骨なまでの姿がみんなに見えてきた。戦後支配集団の劣化である。こうして国民社会に深い亀裂が走っている。冷戦の解体後、内と外を使い分ける二枚舌的欺瞞が困難となった。そして政府が先頭に立って排外主義をあおるようなタガが外れた状況が現出している。この事態には支配層内部にも不安がうまれている。戦後のあり方の変化するなかでどのようにして国民をまとめることができるのか、これが非常に困難な課題となって出てきている。
 こうした状況で、戦後天皇制はどうなるかが差し迫った問題として出てきている。現天皇夫婦が自らに課してきた課題は、「心の共同体」としての「国民一体」の形成であり、そのための「情の回路」の開発だった。それを戦後民主主義に内在して、しかもこれを国民の心を「くに」に回収する方向でリードすることだ。このような現天皇夫妻の言動には戦後民主主義派の相当部分が賛意を表するということがある。
 しかし、今この「国民一体」の根拠が危機にさらされている。ひとつは天皇が支配集団の政治利用に安易に従うなら「国民一体」に取り込むべき民衆を取り落とすことになるという危険だ。このことへの現天皇夫妻の不安は大きい。現天皇制の危機は天皇制という歴史的制度自体の危機だ。天皇の公性の建前、私的勢力を公化するうえでの天皇の機能、これを「しらす」という。すなわちまとめるということだ。天皇制にだき込むことだ。近代において天皇は、民衆を国民として公化する役割を担ってきた。現天皇の国民的一体形成の思想は天皇の「しらす」働きの現代化といえるものだが、今この「しらす」の虚構が表に出てきてしまっている。もうひとつの虚構である「万世一系」―血統の危機もある。こうして歴史的に天皇制を作ってきた虚構が今天皇制の危機の要因に転嫁しているのである。
近代の諸天皇が国を「しらす」あり方に一貫性はないのであって、追求すべき国家モデルの変化に応じて天皇モデルの作り直しがおこなわれてきた。各天皇のモデルは一回限りの使い捨てなのだ。今、戦後国民国家モデルが動揺している。こうした時、次代天皇はアキヒト天皇モデルを使うことができない。新しい天皇モデルについて混迷から抜け出すことの困難さははかりしれないほど大きい。展望が描けない、はっきりしていないのだ。
 自民党の改憲草案からは、一つの天皇モデルが浮かびあがる。これでは、「元首としての天皇」が打ち出され、これと「国家に対する国民の義務」との関連が問題となる。「国家をつくることは国民の権利」や「国家的公性の根拠としての国民」という現憲法の建前は、自民党改憲草案では、「国民の国家をつくる義務」、「国民に国家に対する服従の義務」へ変えられる。「国民の総意が国家意思の根拠となる」という建前から、「国家意思が国民意識を規定する」とされる。こうして、国家意思を内面化することで国民は公性を得るといことにされるのだ。このとき国家意識の公性を体現して、国民との媒介者になるものとして「元首天皇」が持ち出されている。国家とその歴史を体現して国民に対してある高さを持つ権威、元首天皇のモデルとしての「国民を教え導く父」という姿だ。ただしこのモデルの実現にはいろいろな困難がある。
 混迷から脱出する見通しはあるのだろうか。すでに長きにわたる大衆天皇制という現実があり、ここではおごそかさが出てこないだろう。
 戦後政治の変容とそれに連動する天皇制について、われわれの取るべき方向は従来と変わらない。天皇がつくり代表しようとする「国民一体」という国家的構成に対してわれわれの自主性・自立性による運動を対置し、このなかで社会的結合はどのようにして広い社会的共同としての連合を生み出しうるかを追求して行くことだ。現在、多くの民衆の内面で自主的民主主義への傾向と天皇制支持との葛藤がある。山本太郎参議院議員の原発問題での天皇への直訴問題などもそうだ。この葛藤の中にわれわれの先に述べた課題を立てていかなければならない。

 つづいて、青山薫さんが、「女性の活用と皇后のスピーチ」について報告。アベノミクス経済成長戦略は、その中核としての女性の活用を言っている。これは、新保守主義と新自由主義同居の典型だといえよう。
 日本の労働力人口は、一五歳から六四歳までのいわゆる生産年齢人口は一九九〇年代をピークに減少してきていて、これが女性の活用論の背景となっている。
二〇二〇年までに企業の女性幹部割合を三割に、母親たちよ職場にもどれ、企業よ女性を管理職に、などが叫ばれている。しかし現実は、非正規賃金は男女合わせた平均で正規の約七割であり、女性の非正規比率は、二〇〇九年で五五%(男性は二一%)であり、そして男女とも前年よりも増加している。また女女格差も開いている。
 現在、生涯未婚率、離婚率が増え、核家族すら分解して、核分裂家族すなわち単身者世帯が多くなっている。
 一九七一年以降、政府はカップル主義で経済成長という「ジャパニーズドリーム」をひろめようとしてきた。そこでは、戦後民主主義の象徴としての天皇家族を見させるということがおこなわれてきた。それがいま大きく揺らいでいる。
 しかし、右傾化を強める安倍政権下でリベラルに見える天皇一家という逆説が出てきている。水俣での天皇の行為、そして五日市憲法草案に対する皇后の言葉がそうだ。
 一〇月に、「豊かな海づくり大会」式典出席後に市立水俣病資料館で、認定患者の話を聞いて天皇は、「どうもありがとうございます。本当にお気持ち、察するに余りあると思っています。やはり真実に生きるということができる社会をみんなで作っていきたいものだと改めて思いました。本当にさまざまな思いを込めてこの年まで過ごしていらしたということに深く思いを致しています。今後の日本が、自分が正しくあることができる社会になっていく、そうなればと思っています。皆がその方向に向かって進んでいけることを願っています」と異例の長い感想を述べた。
 また皇后は自らの誕生日(一〇月)会見で、「『五日市憲法草案』のことをしきりに思い出しておりましだ。明治憲法の公布(明治二二年)に先立ち、地域の小学校の教員、地生や農民が、寄り合い、討議を重ねて書き上げた民間の憲法草案で、基本的人権の尊重や教育の自由の保障及び教育を受ける義務、法の下の平等、更に言論の自由、信教の自由など 二〇四条が書かれており、地方自治権等についても記されています。… 近代日本の黎明期に生きた人々の、政治参加への強い意欲や、自国の未来にかけた熱い願いに触れ、深い感銘を覚えたことでした。長い鎖国を経た一九世紀末の日本で、市井の人びとの間に育っていた民権意識を記録するものとして、世界でも珍しい文化遺産ではないかと思います」と述べた。
それは今年だけのことではない。一九九八年のIBBY(国際児童図書評議会)ニューデリー(インド)大会基調講演で皇后は「悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには,悲しみに耐える心が養われると共に喜びを敏感に感じとる心,又,喜びに向かって伸びようとする心が養われることが大切だと思います。…読書は人生の全てが,決して単純でないことを教えてくれました。私たちは,複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても」などとも発言していたのである。
 いま、こうしたことから、左とされる人びとも含めて天皇(制)を評価する発言も出てきている。こうして、すべてをありがたがる、存在させているのは「国民」であり、ここに天皇制の国民統合を見る思いだ。

 最後に、天野恵一さんがまとめの発言。天皇夫婦がともに護憲発言をしたり、水俣などでの言動もある。しかし、民主主義が大事だと天皇が言う。実はこれが問題なのだ。天皇の存在自体が民主主義と反しているのである。かつて竹内好は、天皇制は暴力プラス仁慈だといったが、いまこの仁慈の虚偽性が問われなければならない。


丹後半島経ヶ岬に米軍・Xバンドレーダー設置

         
 関西の地から、戦争NO!の声

 一二月一五日に京都府の北方にある丹波半島の経ヶ岬(京丹後市)に米軍のXバンドレーダー設置に反対する市民集会が一二〇〇名を結集しておこなわれた。
 大阪からは関西生コン労組のバス二台に分乗するなど五〇名が参加した。
 集会の前にXバンドレーダー設置の現場を見ようと行ったが、京都府警の機動隊が不法にも占拠していて見ることはできなかった。
 現場の山の上には自衛隊のレーダーサイトがあり、海岸に基地がある。Xバンドレーダーは朝鮮民主主義人民共和国や中国のミサイルを探知するためだとされている。いま、防衛省は自衛隊基地移転先(すぐ隣)の田の地権者に通常一年間の借地料(一反)七〇〇〇円を三〇万円として、原発立地同様に札びらで白紙委任の土地借り上げを強行している。
 冬には日本海の荒波と風雪がすさまじいが、夏は絶好の観光地である。このようなところに米軍兵士・軍属一六〇名が常駐すれば、人びとの安心・安全も自然も台無しになってしまうのは目に見えている。
 私はピースサイクルの原点である沖縄の人から言われたことを思い出す―「オキナワには来なくていい。自分の足元の安保と闘ってください」。同じ京都の舞鶴湾は、ソ連抑留から引揚船で帰ってくる息子の帰りを待ちつづけた「岸壁の母」、敗戦直後の八月二四日にアメリカ軍敷設の水雷によって六〇〇名近くの死者を出した「浮島丸」事件で有名だが、そこに海上自衛隊は、近々、軽空母(ヘリコプター五機が同時発着)が配備され着々と戦争準備をすすめている。
 「国民を戦争に駆り立てるには『敵が来た』と言えばいい。それでも足りない奴には『愛国心が無い』と言う」。安倍・自公政権は戦争向けて走り出している。
私たちは、「戦争に反対しましたが、それでも起こってしまいました」―なんて言い訳をしないですむ取り組みを、『今』始めなくてはならない。それがオキナワと連帯することだ。
 大雨の中での、京丹後市内のデモ中、自宅に「Xバンドレーダー反対」の看板を出している家や声をかけてくる市民がいた。(大阪一読者)


KODAMA

    都合のいい戦後史


 安倍首相のブレーンである宮家邦彦の産経新聞の「ワールド・ウォッチ」(昨年七月二五日)に「参院選後の安倍外交」がある。安倍派がどういう頭をしているのか見るのに都合が好いので見ておきたい。
 ●一九四五年、日本は「生まれ変わった民主国家」として再出発した。
 ●一九九五年には村山談話で戦争と植民地支配に対し「心からのおわび」を表明した。
 ●日本国民から集めた償い金を女性たちに届けるべくアジア女性基金まで立ち上げた。
 そして「一九四五年以来七〇年近く、日本が行った努力はかくも丁寧、かつ真摯(しんし)なものだった」という。
 ちょっと待て!。笑わせるな!
 その「生まれ変わった民主国家」を変えようとしているのは誰だ。村山談話を否定しようとしているのは誰だ。日本の「戦後レジームからの脱却」こそ、「丁寧、かつ真摯なもの」を否定し、ふたたび戦争をもたらすものであることは、多くの人が知っている。  (H)


せんりゅう

  貧民ふえて王様万歳!    鶴 彬

 ◎ 鶴彬(つるあきら)一八歳昭和二年(一九二七)の句。プロレタリア川柳作家鶴彬は、獄死(一九三三)した小林多喜二のように、真実の川柳創作で検挙され一九三八年獄中死する。恐慌で一握りの豊者は益々太る。今の世相に重なる。今年は資本主義社会の構造を語る年にしたい。

                                           ヽ 史  


複眼単眼

    暴走する安倍政権に一矢を 〜 都知事選は好機


 一月六日、前日本弁護士連合会会長の宇都宮健児さんが、東京都知事選挙に出馬を表明する記者会見を行った。都知事選は、猪瀬前都知事が徳州会・徳田虎雄氏からの五〇〇〇万円「借用」に絡む疑惑で辞職したことをうけ、一月二三日告示、二月九日投票で行われる
 この日、都庁の記者会見場はTVのカメラや各紙の記者などで超満員だった。選対本部長による宇都宮さんの紹介の後、基本政策などの説明をした宇都宮さんの口調は確信に満ちていて、たいへん力強いものだった。

   ※  ※  ※

 思えば石原慎太郎が投げ出した都知事の椅子をめぐって行われた一昨年末の都知事選は、衆議院選挙と同時選挙となり、短期間に新人の宇都宮さんの政策・主張を浸透させるうえで極めて厳しい条件であった。この選挙では宇都宮さんは副知事として著名だった猪瀬氏に敗れた。そして、この総選挙で自民党が圧勝し、政権に復帰して安倍内閣が誕生したのだった。その後の夏の参院選を含めて、この一年の安倍内閣の暴走はすさまじいものがあった。国会で圧倒的多数を占めた安倍政権は以次の国政選挙までの三年間を「黄金の三年」などと称して、独善的な政権運営で、改憲と「戦争する国」への道を暴走しはじめた。とりわけ、多数の力にまかせた昨年秋の臨時国会における国家安全保障会議設置法と特定秘密保護法の強行、その後の国家安全保障戦略と防衛白書、中期防などの閣議決定、靖国参拝と名護新基地建設に向けた沖縄への圧力の行使は、傍若無人そのものの暴走だった。これらにつづいて安倍政権はいま、集団的自衛権の行使の解禁に向けて、着々と手を打っている。
 これにたいして、多くの人びとは集会やデモなどで行動に立ち上がりながら、選挙という場での安倍政権への意思表示ができないことに地団駄踏む思いでいた。

   ※  ※  ※

 年末の猪瀬都知事の辞職は、こうした思いで闘っていた人びとにとって、沖縄で闘われている名護の市長選挙と並んで、安倍政権への反撃の意味で千載一遇の好機到来というべきものであった。暴走する安倍政権に一矢をという思いである。
この間、宇都宮さんは出馬への動機を「安倍政権の暴走と対決し、東京から国政を変える」と繰り返し語ってきた。さまざまな課題を市民と共にたたかうなかでの宇都宮さんのホンネである。

   ※  ※  ※

 記者会見で宇都宮さんは次の五つの基本政策を説明した。
 ●世界一働きやすく、くらしやすい希望のまち東京をつくります。
 ●環境重視、防災・減災重視のまち東京をつくります。
 ●原発再稼働・原発輸出を認めず、原発のない社会と経済を東京からめざします。
 ●教育現場への押し付けをなくし、いじめのない、子どもたちが生き生きと学べる学校をつくります。
 ●安倍政権の暴走をストップし、憲法を守り、東京からアジアに平和を発信します。

 そして、環境に配慮したシンプルな、被災者に受け入れられるような、アジアの平和につながるオリンピック・パラリンピックをという主張と、猪瀬問題の徹底解明を特別政策としてあげた。
 まさに、いま私たちはこうした政策を掲げて闘う候補者が必要だった。稲嶺さんを擁して闘われている名護の市長選とこの東京都知事選、この好機を逃してなるものか。  (T)