人民新報 ・ 第1322号<統合415号(2015年2月15日)
  
                  目次

● 改憲攻撃に対し総がかりで闘おう

    さまざまな運動潮流は大合流し、安倍政権の暴走に強烈な打撃を!

● 川内・高浜原発 

    再稼働阻止一千万署名市民の会主催の東京集会


● 女性の平和・国会ヒューマンチェーン 安倍政権にレッドカード

● 1・25 沖縄の声を聞け!国会を取り巻く青い渦

         沖縄―本土を貫いて辺野古建設反対

● 沖縄県議団が上京 辺野古基地建設反対を訴える

● 雇用破壊に反対する共同アクション主催  8時間は1日の最長労働時間! 安倍雇用破壊を許さない決起集会

● 盗聴法の大改悪に反対する

● 書籍紹介  /  「《関東軍防疫給水部》の不都合な真実 ― 岩手県出身元七三一部隊員の証言」 

● KODAMA  /  米の意図―地球の裏側は自衛隊の戦場

● せ ん り ゅ う

● 複眼単眼  /  次世代に渡すバトンの話






改憲攻撃に対し総がかりで闘おう

   さまざまな運動潮流は大合流し、安倍政権の暴走に強烈な打撃を!


 安倍政権は、「戦争する国づくり=憲法改悪」へとますます暴走を加速させている。
 二月四日、安倍晋三首相は、二〇一六年夏の参院選の後に改憲発議をする方向であることを明らかにした。自民党の船田元・憲法改正推進本部長との会談における時のことだが、改憲論議を強める決意の表明である。船田によると、今国会期間中に衆参両院の憲法審査会で環境、財政、非常事態対応などテーマについて議論を始めるとしている。
 憲法9条2項の削除と「国防軍」創設を明記することや各議院の総議員の三分の二以上の賛成での国会発議など改憲手続きをさだめた九六条は、これまでの改憲策動の挫折からハードルが高いとして回避し、反対の少なそうな条項から改憲を行い、「慣れさせ」、9条など改憲派が本命とする条項を書き換えようという、いつもながらの安倍政権らしい姑息な手法である。
 「イスラム国」による日本人人質殺害に際して、安倍は自らの外交大失態を塗り隠すためにも、有志連合への加担、そして「邦人救出」のための自衛隊派遣には9条改憲が必要などとまで言い出した。今回の事態でも、平和的外交的努力による解決ではなく、戦争や人質の殺害を好機として利用し自衛隊派兵を実現しようとする安倍政権の対応は憲法が禁じている武力行使に結びつき、戦争の泥沼に自ら入り込む道だ。
 日本国憲法前文には「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定」したとあるが、自民党憲法(草案)は、これに全く逆行するもので、安倍のこの間の言動は、憲法違反、自民党憲法の先取りである。
 「戦争する国づくり」のために、集団的自衛権行使容認の閣議決定を行い、秘密保護法施行、武器輸出、防衛予算増、沖縄・辺野古新基地建設、また日米防衛ガイドライン改定と戦争関連法の制定など目白押しの攻撃がかけられてきている。「戦争する国づくり」のもう一面は、大企業・富裕者優先政策による大衆貧困化と格差拡大の広がりである。こうした安倍政権にたいする不満と反対の声は大きく広がろうとしている。安倍政治をSTOPさせるためには、なによりも大きく世論が盛り上がることである。そのためには、相違点を乗り越え、大同団結し、広範な共闘の広がりがなければならない。
 安倍の改憲攻撃に対して、もっとも広範な戦線を作り出して闘うべきこの時あたって、心ある人びと、運動体は、そのために多大の努力を行ってきた。
 改憲阻止の運動の中心的な役割を果たしてきた三団体(戦争をさせない1000人委員会、解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会、戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター)は、二〇一四年の集団的自衛権行使に反対する共同行動の積み重ねの上に、昨年暮れに、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」(「総がかり行動実行委員会」)を形成した。最近発表された「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」をみんなの力で成功させましょう―『総がかり行動実行委員会』の結成にあたって―」は、安倍政権の暴走に対する各分野・各地の運動潮流をまさに「総がかり」的に合流させ、強大な運動を作り出そうと呼び掛けている。
 さらに大きく合流し安倍政権の暴走に断固として対決し、これを打ち破っていこう。

資料
  「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」をみんなの力で成功させましょう―「総がかり行動実行委員会」の結成にあたって―

 安倍政権は、昨年暮れの衆院総選挙での「勝利」をテコに、戦争する国づくりから憲法改悪へとますます暴走の勢いを強めようとしています。そのために秘密保護法を強引に制定・施行し、武器輸出を促進し、防衛予算を急増させ、沖縄・辺野古への新基地建設を強行し、集団的自衛権の行使など海外で戦争することを「合憲」とする憲法違反の閣議決定を行い、日米防衛ガイドラインを改定し、戦争関連法案を国会に提出しようとしています。さらに安倍首相は、明文改憲をめざすと明言しています。
 この暴走を止めるには、国会で与党が圧倒的多数を占めている現状では、大きな世論の力を強め、それを体現する広範な人びとの声と行動を示す必要があります。そのため私たち三団体は、これまで独自に、また随時共同して行動してきた経過のうえに立ち、一つにまとまって総がかりで共同行動を進めていくことにし、二〇一四年一二月一五日に「総がかり行動実行委員会」を結成しました。この共同行動は、これまで私たちの運動がなかなか超えられなかった相違点を乗り越え、戦争する国づくりをくいとめ憲法理念を実現するために大同団結し、広範な方々との共闘をめざすものです。
 安倍政権は、5月の連休明けには戦争関連法案の国会提出とガイドラインの再改定をセットで行おうとしています。すでに「密接な関係にある国」が先制攻撃した場合でも支援を否定せず、集団的自衛権の行使には「地理的限定はない」とし、また日本人人質の痛ましい殺害事件をも利用して「邦人救出に自衛隊派兵を」と発言するなど、危険きわまりない内容が想定されます。このため、5月、6月、場合によっては7月と、平和といのちと憲法を守り生かすための私たちの行動はヤマ場を迎え、連続行動も必要になるでしょう。
 くわえて安倍政権の暴走は、辺野古新基地建設の強行、原発再稼働と輸出の促進、福祉の切り捨てや労働法制の改悪などによる貧困と格差の拡大、歴史認識の改ざんと教育への国家統制の強化、TPPや企業減税の推進など大企業と富裕層への優遇策など、あらゆる分野で進められています。このため私たちは、これらの分野で行動している人びとともしっかりと手をつなぎ、総がかり行動を名実ともに拡大・発展させていきたいと考えています。当面、具体的には、5・3憲法集会が呼びかけられており、それに全力で結集します。

 この重大なときにあたり、みんなの力で「総がかり行動」を成功させるため、みなさんの積極的なご参加とご協力を心から呼びかけます。

2015年2月

  戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会(略称;「総がかり行動実行委員会」)
  戦争をさせない1000人委員会
  解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会
  戦争する国づくりストップ!憲法を守り・いかす共同センター


川内・高浜原発 

   再稼働阻止一千万署名市民の会主催の東京集会

 安倍政権は川内原発(鹿児島県)と高浜原発(福井県)の再稼働を強行しようとしている。

 一月二五日、「川内・高浜原発を再稼働させない!東京集会&デモ」」(「さようなら原発」一千万署名市民の会の主催)の行動が取り組まれ、五五〇人が参加した。
 鎌田慧さんが集会の呼びかけ人を代表してあいさつ。安倍政権は多くの反対を押し切って武器と原発を輸出するなどで軍事大国化の道を進んでいる。再稼働を許さない運動を強めていこう。
 野呂正和・川内原発増設反対鹿児島県共闘会議事務局長が現地からの報告。再稼働をやろうとしているが、いまだに避難計画が不十分でありまたカルデラと巨大噴火の危険性についても明らかになってきている。鹿児島では再稼働に反対する世論が強まり、周囲の自治体でも反対の決議をし、この二五日に「ストップ川内原発再稼働!全国集会」を開くのをはじめさまざまなかたちで闘いを広げていく。
 つづいて宮下正一・原子力発電に反対する福井県民会議事務局長の報告。関西地区の大部分はこの原発から九〇キロ圏内に入る。今までの様に「地元福井」と叫び続ける運動から巨大な都市をいくつも抱え、人口が密集している関西地方の皆さんが自ら「若狭の原発群の地元、関西」と言えた時に原発は止まる。
 経済産業省前で闘い続ける「テントひろば」は、安倍政権はテントの撤去させないためともに取り組んでいこうと特別アピールを行った。

 集会後、参加者はデモ行進に出発、池袋駅前周辺でシュプレヒコールをあげ人々に原発反対を訴えた。


女性の平和・国会ヒューマンチェーン 安倍政権にレッドカード 

 「赤は怒りの赤! 平和への情熱の赤! 国会議事堂を真っ赤な人間の鎖で囲みましょう」―このよびかけに、一月一七日、七〇〇〇名の赤色を身につけた女性たちが国会を包囲し、集団的自衛権行容認使反対!戦争のできる国にしない!を叫んだ。
 「女の平和・国会包囲ヒューマンチェーン(人間の鎖)」(主催・「女の平和」実行委員会)の行動で、「男性の参加も歓迎です」との呼びかけもあったが、男性の姿は目立たない。女性たちの移動はまるで赤い波が押し寄せるようだ。
 国会正面前のメイン会場では次々に発言が続く。これまでにない幅の広い結集であることを象徴するように安倍政権の悪政・暴走にさまざまの分野からの怒りの声が飛んだ。
 一回目の国会包囲・ヒューマンチェーンは午後一時四三分に成功し、歓声が上がった。
 その後も、シュプレヒコールなどで、安倍政権にレッドカードをつきつけた。


1・25 沖縄の声を聞け!国会を取り巻く青い渦

        
沖縄―本土を貫いて辺野古建設反対

 辺野古新基地反対―これが沖縄の民意だ。
 一昨年の一月、沖縄の全四一市町村長を含む代表団が安倍首相に「建白書」を直接手渡した。「建白書」は、@オスプレイの配備を直ちに撤回すること、A米軍普天間基地を閉鎖・撤去し、辺野古への「移設」を断念すること、の二項目だった。
 だが、その年の暮、当時の仲井眞知事は沖縄の声を裏切って辺野古埋め立てを承認した。また、沖縄選出の自民党国会議員たちも自民党本部の恫喝に屈して県民との公約を踏みにじった。こうした裏切り行為に対する沖縄県民の答えが昨年行われた名護市長選、同市議選、沖縄県知事選、総選挙での「辺野古移設」派の連続敗北ということだった。
 それにたいして安倍政権は一段と沖縄差別・冷遇の姿勢をつよめ、沖縄・辺野古の新基地建設を強行する海上作業などが暴力的に強行されている。
 沖縄では辺野古現地をはじめ粘り強い闘いがすすめられている。海上やキャンプシュワブのゲート前などで弾圧をはねのけながら辺野古新基地建設阻止の大衆行動がはげしく展開されている。

 通常国会開会の前日の一月二五日には、沖縄―「本土」を貫いての普天間基地即時閉鎖・辺野古新基地建設阻止のたたかいが行われた。
 東京では、沖縄の闘いに連帯する「国会包囲ヒューマンチェーン」が行われ、約七千人が参加した。この日のシンボルカラーは「青」。集会開会のかなり前から、旗、スカーフ、帽子、手袋などなど様々なブルーが国会周辺に結集し始めた。
 国会包囲行動には、昨年暮れの総選挙で沖縄の四つの選挙区すべてで自民党候補に勝利したの議員も参加した。また労働組合や市民運動から沖縄とかたく連帯していくこと、辺野古現地への闘いへの参加の決意などが次々と表明された。
国会包囲行動は、午後三時一五分、同二五分におこなわれ、二回とも成功した。


沖縄県議団が上京 辺野古基地建設反対を訴える

 一月一五日、沖縄県議会議員代表団一二名は、県議会で可決された辺野古新基地建設に反対する意見書を持って上京し首相官邸や防衛、外務省に要請の行動をおこなった。
 同日夜には連合会館で、止めよう辺野古新基地建設実行委員会と沖縄県議会議員団による「東京報告集会」がひらかれ、四五〇名が参加した。
 沖縄選出の国会議員の照屋寛徳衆議院議員(社民党)、赤嶺政賢衆議院議員(共産党)、玉城デニー衆議院議員(生活の党と山本太郎となかまたち)、糸数慶子参議院議員(沖縄社会大衆党)の発言につづいて、四人の県議会議員から沖縄報告。 
 仲村みお県議(社民・護憲ネット)―仲井眞前知事の辺野古の埋め立て承認は県民の闘争の歴史を踏みにじる汚点だ。承認判断に対する県民の圧倒的多数の民意は「不当」「不同意」「裏切り」ということだ。「沖縄の誇りをとりもどす」、それが翁長新知事誕生ということだ。
 渡久地修県議(共産党)―復帰以降これまでに時縄に投入された復興予算は一一兆円ほどだが大部分は本土に還流した。復興予算は地元企業や県民の家計に蓄積されなければならない。地元産業・地元企業の育成、そして米軍基地を撤去して経済の発展を図らなければならい。
 比嘉京子県議(沖縄社会大衆党)―沖縄の基地問題の解決のためには県民が分裂してはならない。一九九五年の米軍兵による少女暴行事件いらい、幅広い運動がとりくまれてきた。それが昨年の名護市長選、県知事選、衆議院選挙での「辺野古ノー」の連続勝利につながった。
 吉田勝廣県議(公明党・県民会議)―日米地位協定は米軍基地は日本国内で自由に活動できる事のためにある。辺野古で座り込みなど米軍基地に反対する運動を取り締まるのが、地位協定の実施に伴う刑事特別法だ。地位協定も刑特法をなくすために闘っていこう。
 つづいてフォーラム平和・人権・環境、安保破棄中央実行委員会、ピースボートからの連帯挨拶が行われた。


雇用破壊に反対する共同アクション主催

       
 8時間は1日の最長労働時間! 安倍雇用破壊を許さない決起集会

 一月三〇日、文京区民センターで、安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション主催の「8時間は1日の最長労働時間! 安倍雇用破壊を許さない決起集会」がひらかれた。雇用共同アクションは、組織の違いをこえ、全労連、全労協、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)をはじめ労働組合や争議団などが結集して安倍政権の反労働者・労組の政策に反対する運動だ。

 この通常国会に安倍政権は、経済界の要求を代弁して労働法制の大改悪の法律を成立させようとしている。その中でも、労働時間法制を抜本的に骨抜きにしようとするものは、深刻な長時間労働をいっそう蔓延させる過労死促進・「残業代ゼロ」法案は大問題だ。
 一月一六日には労政審・労働条件分科会に「今後の労働時間法制の在り方について」(骨子案)が提出され、事態は緊張した局面を迎えた。労働界は大きく戦線をひろげて共同で改悪反対の運動を強めていかなければならない。

 集会は、はじめにMICの是村高市副議長(全印総連委員長)が主催者あいさつと全印総連の三つの職場事例の報告を行った。

森ア全労働委員長の講演

 つづいて全労働の森ア巌委員長が、『「今後の労働時間法制の在り方について」(骨子案)をどう見るか』と題して講演。
 
 骨子案までの経過をみると財界主導、経済産業省主導で議論が進められてきている。昨年六月の「日本再興戦略」では、日本の「稼ぐ力」を取り戻すために、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件(例えば少なくとも年収一〇〇〇万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した『新たな労働時間制度』を創設することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に所要の法的措置を講ずる」という方向を打ち出した。
 そしてこの一月に、「今後の労働時間法制の在り方について」(骨子案)がだされた。これは厚生郎大臣あての「建議」すなわち法改正等を促す文書の内容となる。

現行法制でもかなり柔軟だ


 だが、現在の労働時間規制は、法定労働時間(一日8時間、一週40時間)の原則だが、実際には、多種・多様な例外たとえば時間外に関する労働協定制度、各種変形労働時間制、裁量労働制、事業場外みなし労働制、フレックスタイム制、管理監督者等が設けられている。これ以上に、労働時間制を「岩盤規制」などといって、壊す必要がどこにあるのだろうか。

働き過ぎ防止は無効力

 骨子案は、冒頭に「働き過ぎ防止のための法制度の整備等」をあげ、「健康確保のための時間外労働に対する監督指導の強化―時間外労働の抑制のため、行政官庁は、時間外限度基準に関する助言指導を行うに当たっては、労働者の健康が確保されるよう配慮する旨を労働基準法に規定し、当該規定に基づき、長時間労働の実態に即した的確な助言及び指導を行うことが適当」とあるが、罰則規定はない。
 また監督官庁は「的確な助言及び指導を行う」だけであり、強制力はなく効果はほとんどないものだ。

「労働者のニーズ」?

 「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)の創設」では、ここでも「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズ」があると断定して、「時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した新たな労働時間制度の選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル労働制)を設けることが適当」だという。そして、その対象業務は「業務に従事した時間と成果との関連性が強くない」といった対象業務とするに適切な性質をみたすものとし、具体的には省令で規定することが適当」だとして、法律ではなく「省令」で自由に変えられることなっている。
 また対象労働者については「使用者との間の書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その職務の範囲内で労働する労働者であることが適当」とし、「対象労働者の年収について、「一年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、平均給与額の○倍を相当程度上回る」といったこととした上で、具体的な年収額については、労働基準法第一四 条に基づく告示の内容(一〇七五万円)を参考に、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当」とした。
 だが、これも省令で決めるとしているので、省令で年収基準が下げられていくことも予想される。

「労働者の同意」とは

 「個々の労働者の同意」ということが示されているが、これが過重労働が生じる事態への歯止めになるとは言えない。
 労働者と使用者は、その社会的・経済的な力に大きな差があり、自由な取引に任せておけば、労働者は使用者の意向に従わざるを得ないことが多くなる。また、労働基準監督官の「増員」も言われているが、実際には減員がつづいている。「健康管理時間」とは

 そして、「使用者は、健康管理時間(省令で定めるところにより『事業場内に所在していた時間』と『事業場外で業務に従事した場合における労働時間』との合計)を把握した上で、これに基づく長時間労働防止措置や健康・福祉確保措置を講じることとすることが適当」として、新たに「健康管理時間」なる新しい概念を導入し、これで長時間労働を防止するとしている。だが、実際には、@労働者に二四時間について継続した一定の時間以上の休息時間を与えるものとすること。なお、この「一定の時間」については、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当だとする。A 健康管理時間が一か月について一定の時間を超えないこととすること。なお、この「一定の時間」については、法案成立後、改めて審議会で検討の上、省令で規定することが適当だとする。B 四週間を通じ四日以上かつ一年間を通じ一〇四日以上の休日を与えることとすること、とした。そのどれかひとつでもクリアすればよいとする。
 これではなんの歯止めにもならないものとなる。

罰則強化で上限規制が必要


 「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズ」があるするが、どのような立場の労働者がどの程度の割合で当該労働時間制度の導入を希望しているのか明らかではない。要するに、あくまでも「多様で柔軟性ある働かせ方」なのである。
 こうした状況を解決するためには、なにより罰則の強化で時間外労働時間の上限を直接規制することが必要なのである。

各職場からの事例報告


 つづく現場からの報告は、郵政産業労働者ユニオン、日本医療労働組合連合会、日本航空キャビンクルーユニオン、全国一般東京東部労組、下町ユニオン、ネットワークユニオン東京が行った。

今後の取り組み

 全労連の伊藤圭一常任幹事が、雇用アクションの今後の取り組みについて提案をおこなった。労政審にむけた行動では、労政審包囲アクションや傍聴、意見書提出で「骨子案」に抗議し規制強化する運動を展開する。また職場・地域での学習を強化し、労働時間法制を中心とした署名を推進する。署名では、@労働時間A派遣法B解雇規制の三点を柱とする。職場実態・問題事例を収集し、告発レポートをつくり、それらを国会活動で活用する。職場での労働時間・休日休暇課題を前進させる。そして審議山場での国会行動などの取り組み、職場からの要請ファックスを集中させる。 最後に、純中立労働組合懇談会の黒部清明財政部長(全農協労連)が閉会あいさつをおこなった。

 労働弁護団の労働時間法制にたいする見解


 日本労働弁護団は一月二三日、厚生労働省労働政策審議会の「今後の労働時間法制等の在り方について(報告書骨子案)」の公表をうけて「長時間労働野放し法に断固反対する声明」を発表した。 
 声明は、「報告書骨子案は、単なる労働時間規制の適用除外制度、すなわちホワイトカラー・エグゼンプションにすぎないにもかかわらず、『時間ではなく成果で評価される働き方』のためとの目的を示し、『特定高度専門業務・成果型労働制』とあたかも成果型賃金制度が義務化されたかのような名称を使用することによって、国民を欺くものであり、極めて欺瞞的である」とし、長時間労働・深夜労働の野放しと対象業務・労働者拡大の危険性を指摘し、健康破壊をもたらすと批判した。
 そして、「日本労働弁護団は、労働基準法の中核である労働時間規制を壊すことになる報告書骨子案に断固反対し、長時間労働を真に抑制する法政策を行うよう求め」、「長時間労働を抑制するためには、日本労働弁護団が二〇一四年一一月二八日付で発表した『あるべき労働時間法制の骨格(第一次試案)』のとおり、労働時間の量的上限規制とインターバル規制を、全労働者を対象として導入することが必要不可欠である」とする。

 その「あるべき労働時間法制の骨格(第一次試案)」は、「あるべき労働時間規制(骨子)」として、「労働時間の量的上限規制」@量的上限の具体的数値で「1日の上限・10時間(労働協約により1日12時間まで延長可能)、1週の上限・48時間(労働協約により1週55時間まで延長可能)、各週の実労働時間のうち法定労働時間(週40時間)を超過する部分の時間の合計の上限・年間220時間」、A上限時間数に関する先行例では、「フランスの現行法制に準拠して提起する。(但し、フランスの法定労働時間は週35時間であり、これを超過する労働時間の合計の上限が年間220時間とされている。この点ではフランスより劣る。)(フランスで少子高齢化に歯止めがかかり、出産率が上がった理由の一つは労働時間の量的上限規制をしたことにある。)」。そして「適用対象」は「みなし労働時間制や管理監督者の場合も適用対象とする。(これらの制度は、賃金計算上の制度として残すが、健康破壊防止のために実労働時間の量的上限規制の対象とし、使用者は実労働時間を把握する義務を負う。)」などと提起した。

 労働時間法制改悪を阻止し、時短をかち取る運動を強めていこう。


盗聴法の大改悪に反対する

    
 @通信傍受の敷居が低くなる
     A日常的な通信傍受がなされるようになる
     B監視が当たり前の世の中になる


 相次ぐ冤罪事件は密室での自白の強要、検察官の無実証拠隠しなどによるもので、刑事司法の抜本改革が求められ、法制審・新時代の刑事司法制度特別部会などで議論が進んできた。だが、取調べの可視化や証拠の開示については極めて限定的なものでしかない。
 その一方で、捜査機関とりわけ警察の権限を拡大する方向性が打ち出されてきている。そのための盗聴法の著しい改悪が進められようとしている。
 一九九九年、強い反対の声を押し切って盗聴法(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)がつくられた。
 盗聴法は、監視社会への道を開くものだ。その第一条(目的)は「この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害していることにかんがみ、数人の共謀によって実行される組織的な殺人、薬物及び銃器の不正取引に係る犯罪等の重大犯罪において、犯人間の相互連絡等に用いられる電話その他の電気通信の傍受を行わなければ事案の真相を解明することが著しく困難な場合が増加する状況にあることを踏まえ、これに適切に対処するため必要な刑事訴訟法に規定する電気通信の傍受を行う強制の処分に関し、通信の秘密を不当に侵害することなく事案の真相の的確な解明に資するよう、その要件、手続その他必要な事項を定めることを目的とする」としている。しかし、これが来年一月から開始される国民背番号制(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)とセットになれば、番号によるさまざまな個人情報が国の管理下に置かれることになる。
 今回の盗聴法改悪の主な狙いは、警察施設での大規模な盗聴を行えるようにすることで、@現行盗聴法の盗聴は通信事業者の施設で立ち会いのもとに行うことが義務づけられているが、それを警察施設で盗聴を可能にし、A対象犯罪を現行法の四つの犯罪類型(薬物関係、銃器関係、組織的殺人、集団密航関係)の限定を解除し拡大し、B電話、メール、FAXの盗聴を認めているが、室内や車内での会話の盗聴は認めていない現行法を、盗聴器を仕掛けてそこにいる全ての人の会話の盗聴も可能とすることだ。

 一月二七日、「盗聴法大改悪に反対する市民の集い」が開かれた。
 山下幸夫弁護士(日本弁護士連合会 共謀罪等立法対策ワーキンググループ副座長)が、「盗聴法大改悪と監視社会」と題して講演した。現在の審議がどのようなものかについて触れたい。
 法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会(第1回)は一昨年の三月に開かれたが次のようなやり取りがあった。これが実際のところだ。分科会長の井上正仁東大名誉教授は、「基本構想において、『通信傍受をより効果的・効率的に活用できるようにするため、傍受の実施の適正を担保しつつ、通信傍受法を改正することについて具体的な検討を行う』とされておりまして,その検討項目の一つとして、『暗号等の技術的措置を活用することにより、立会いや封印等の手続を合理化する』ことが掲げられているところであります。暗号等の技術的措置の活用については、従前の部会において、警察庁から御提案があったところですけれども、今後の検討に際しては,御提案いただいた仕組みについて、技術的な観点を中心に、より具体的に御説明いただく必要があるだろうと思います。そこでまず,警察庁においてこうした仕組みを技術的に検討しておられる技官の方のヒアリングを実施することに致した次第であります。本日は,警察庁刑事局刑事企画課の加藤正康課長補佐にお越しいただいておりますので,加藤補佐からお話を伺うということにしたいと思います。それでは,こちらの方にお願いします」と発言し、警察庁の参考人が説明するなど、警察主導の論議になっている。
 盗聴法の大改悪は、通信傍受の「合理化・効率化」ということだ。しかし、事後的チェックが不十分であり、傍受記録は自白獲得の武器として利用されている。
 今回の改悪で、@通信傍受の敷居が低くなること、A日常的な通信傍受がなされるようになること、B監視が当たり前の世の中になることが懸念される。

 つづいて、盗聴法に反対する市民連絡会の角田富夫さんが「日本版プリズムの実現を狙う盗聴法大改悪」と題して報告した。
 二〇〇一年、警察庁によるメール盗聴装置が開発され、翌年から主要警察本部に配備されると報じられた。これはプロバイダーのサーバーにメール盗聴装置を接続し、サーバーを通過するすべてのメールにこの装置を通過させ、その中から容疑者のメールを拾い出すシステムだ。これは現行盗聴法にも違反している。一つは立会人を不要にすること、もう一つはプロバイダーのサーバーに直接接続することだ。スノーデン氏の告発したアメリカの盗聴・監視システムは対岸の火という話ではない。日本版プリズム実現を狙う盗聴法の大改悪を阻止しよう。

 つづいて盗聴法改悪に反対して、新聞労連、「密告・盗聴反対!なくせえん罪3・20集会」実行委員会、反住基ネット連絡会、許すな!憲法改悪・市民連絡会からアピールが行われた。


書籍紹介

    「《関東軍防疫給水部》の不都合な真実  ―岩手県出身元七三一部隊員の証言」 


 「《関東軍防疫給水部》の不都合な真実―岩手県出身元七三一部隊員の証言」(みちのく文庫・六四八円)は、「捕虜を『マルタ』と呼んで行った生体解剖室の悲劇。常人を非情の人に変える戦争とは何か」を問うものだ。
 第二次世界大戦中に中国で細菌兵器を開発使用した旧関東軍防疫給水部(731部隊)は人体実験で数千名の犠牲者を出した。その731部隊に所属していた岩手県出身者らの記録集で、著編者の高橋龍児さんは、「七三一部隊展いわて」実行委員会事務局長で、岩手県出身の元隊員を探し記録する活動を続けている。
 
 内容は「第1章」が、「岩手出身元部隊員が初めて語った七三一部隊の真実」で、『マルタは麻酔をしないまま解剖された』、『ロ号棟からマルタの血液標本を受けとり、研究した』、『現地戦術と呼ばれていた細菌戦』、『死体を運んで、焼却した』、『監房の中に血のついた枕が落ちていた』などの証言だ。
 著者は本書の「七三一部隊を支えた陸軍軍医学校(東京・新宿)跡地を歩く」のところで、帰国した七三一部隊長石井四郎とGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)とくにGU(参謀第2部)との関係に触れ、七三一部隊の「研究成果」が「日米医療協力」で受け継がれたとして指摘している。
 第2章は「県外の証言者」、第3章は各地の七三一部隊展や資料となっている。
 地元からの地道な取り組みの結晶である。


KODAMA

       
 米の意図―地球の裏側は自衛隊の戦場

 集団的自衛権行使の容認の閣議決定とそれ以降の安倍政権の防衛政策の暴走は、多くの人びとに深刻な危惧の念を抱かせている。二月八日、谷垣禎一自民党幹事長は「集団的自衛権の行使容認を踏まえた安全保障法制整備について『地球の裏側』まで自衛隊を派遣することにつながるとの見方は誤解だ」といった。それは「国民の中に『地球の裏側』まで自衛隊を送るという誤解があると(法整備は)うまくいかない」からだとも述べた。一方で、最近の報道によると、自衛隊は昨年、米陸軍と共同でアメリカの砂漠地帯で中東での対テロ戦争や多国籍軍の一員としての武力行使を想定した戦闘訓練を行っていた。しかも米陸軍公式サイトには「イラクとアフガニスタンに多くの派遣経験がある米軍部隊」が「砂漠での戦闘隊形や戦車演習について自衛隊を指導した」などという表現があるというのだ。
 こうしてみると、谷垣の発言こそがデマなのである。
 日米軍事同盟はなによりもアメリカの国益のためにあるのであるから。米軍事戦略の中における日本・自衛隊の位置づけはどうなっているのかを見ずに、安倍政権の国内向け説明を簡単に信じるわけにはいかない。
かつてのカーター米大統領補佐官で、いまもなお米民主党政権の外交戦略に多大な影響力を持つブレジンスキーは「世界はこう動く―二一世紀の地政戦略ゲーム―」のなか、東アジアの位置づけを「中国―世界ではなくアジアの大国に」「日本―地域大国ではなく国際大国に」とした。日本が地域大国になれないのは歴史問題や領土問題で隣国との関係を決着させることができず、東アジアでの政治的影響は限定的だからという理由だ。「国際大国」とはアメリカの世界戦略のなかで積極的な政治的・軍事的な貢献をさせるということだ。
 日米同盟の強化・集団的自衛権の行使とは、アメリカのためにどこへでも自衛隊を派遣することにほかならない。東アジアでの冷戦、中東での熱戦の米戦略では、
「地球の裏側」は、けっして誤解ではない。人びとはしっかりとその本質を感じているわけだ。(H)


せ ん り ゅ う

       怒りいかりヒューマンチェーンでいかり怒り

                                      ヽ  史


複眼単眼

    
 次世代に渡すバトンの話
 

 過日の講演で頂いたテーマが「戦後七〇年 子どもたちに渡すバトン」というものだった。この「バトン」というような比喩は、私は普段、あまり考えたことがない。これを機会に少し考えてみた。
 「バトンをつなぐ」は毎年楽しみにしている箱根駅伝の「タスキをつなぐ」と同じだ。ランナーにはそれぞれ自分の受け持ち区間がある、最終走者以外はみな自分の持ち分を精一杯走って、次につなぐ(余談だけれど、今年は脱水症状で走れなくなったランナーが、最後に中継所でポンとタスキを投げて次走者に渡した結果、失格になったチームがあって、かわいそうだった)。
 平和運動というものは、この駅伝のリレーのようなものだとつくづく思う。バトンかタスキはさしずめ「憲法第9条」かもしれない。
 私の人生において、自分の持ち分を「憲法9条」をもって精一杯走る。次の世代にそれを渡す。平和運動はそのあともつづく。自分の担当する区間でバトンを壊してしまったら、リレーにならない。それをしっかり握りしめて、走る。そんな絵柄を考えながらお話をした。
 しかし、私が走る区間は環境が厳しくなってきた。安倍政権という暴風雨が吹きすさんできた。それでも次のランナーにバトンを渡したい。
 もしかしたら、このバトンは先日亡くなった奥平康弘さんから渡されたものかも知れない。あるいはかつて山川暁夫さんから渡されたものかも知れない。
 バトンからの連想がどんどんひろがっていく。そうだ、きっとそうにちがいない。
 九条の会の呼びかけ人だった井上ひさしさんの遺作は、「組曲虐殺」。特高警察に拷問で虐殺された小林多喜二を描いた作品だ。
 井上さんは「この芝居は、多喜二さんの仕事をきちっと後の時代に渡すような仕事という、私の告白的戯曲でもありました」と語ったことがあるという。
 私は井上さんの偲ぶ会で、大竹しのぶさんなど井上さんを慕う演劇人たちが、戯曲の最後の曲「信じて走れ」歌ったのを聞いて感動したことがある。

  愛の綱を肩に、希望めざして走る人よ
  いつもかけ足で 森をかけぬけて
  山をかけのぼり 崖をかけおりて
  海をかきわけて 雲にしがみつけ
  あとにつづくものを 信じて走れ

 この「あとにつづくものを信じて走れ」が駅伝のバトンに重なるのだ。

 そういえば、韓国には有名な「イム(あなた)のための行進曲」という歌がある。この曲ではバトンではなく、「旗」だが、以下紹介して今回の複眼を閉じる。

  愛も名誉も名も残さず、 生涯を捧げる
  この熱い誓いに 同志もなく旗だけがはためこうと
  新しき日が来るまで揺らぐことはない
  月日は流れても山河は知っている
  醒めて叫ぶ熱い喊声を
  先んじて発つから後につづけ
  先んじて発つから後につづけ
                      (T)