人民新報 ・ 第1327号<統合420号(2015年7月15日)
  
                  目次

● 戦争法案を絶対に粉砕するぞ  衆院強行採決を阻止しよう

● 6・18 東京総行動  厚労省にはC型肝炎訴訟解決を求める

● ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムは植民地支配に根ざす  日韓条約50年・過去清算でつながろう2015集会

● 日本最大のブラック企業=日本郵政  株式上場前に、全争議を解決せよ

● 気に食わない報道を抑圧せよ――これは安倍首相の内心の真実の声の吐露

● 「村山首相談話を継承し発展させる会」シンポジウム 「―敗戦70周年にあたり―『安倍政権と歴史修正主義を考える』」

● 戦争イヤヤネン!の声を上げよう  戦争させない!9条こわすな!吹田市民集会

● 連 句

● 複眼単眼  /  不勉強な若手防衛官僚との話し合い






戦争法案を絶対に粉砕するぞ

    
衆院強行採決を阻止しよう

 安倍内閣が今通常国会で強引に成立させようとしている日米ガイドライン具体化のための集団的自衛権行使容認・戦争法に反対する運動が繰り広げられている。

急速に広がる反対の声

 国会前をはじめ全国の各地で毎日のように、戦争法案に対する反対の声・行動は急速広がり、さらに一段と拡大してきている。毎日新聞が七月四、五日に実施した全国世論調査では、今国会での成立には賛成二八%、反対六一%と圧倒的多数が、成立に反対している。また安倍内閣支持率が四二%、不支持率が四三%となり、第二次安倍内閣発足後、初めて不支持が支持を上回った。この傾向は今後も強まっていくだろう。地方議会の動きも目立ってきた。七月上旬で全国で「反対」や「慎重審議」をもとめて三〇〇をはるかに超える議会が意見書を議決している。県議会段階では、三重、鳥取、長野が「慎重」、岩手が「反対」だ。市町村議会でも「反対」「撤回」「慎重な取り扱い」「徹底審議」「国民的合意」などの意見書が議決されている。
 しかし自公与党側も巻き返しを狙い、安倍の地元・山口県などで「賛成」決議を行おうとしている。
 地方公聴会でも、与党推薦の参考人も「慎重審議」を求めている。那覇市では、五人の参考人のうち野党推薦の稲嶺進名護市長、大田昌秀元沖縄県知事、琉球新報の高嶺朝一前社長は廃案を要求した。一方、与党推薦の中山義隆石垣市長は、離島防衛強化の必要性だとしつつも、法案に対する国民の理解が深まっていないとして「慎重にも慎重を期した議論」が成立の前提だと述べた。同じく与党推薦の古謝景春南城市長は、集団的自衛権の行使は自国防衛目的に限るとしている政府の説明に賛意を表明すると同時に、拡大解釈への懸念も表明し、また「国民の不安」をなくすよう求めた。さいたま市では、野党推薦の三人は、法案は違憲だとして廃案を求め、与党推薦の二名は安保法案の必要性を強調しつつも、政府はいっそう丁寧な説明をすべきだと述べた。衆院憲法審査会での与党推薦の憲法学者の「違憲」発言に続いて、与党推薦人も、安倍の狙う早期成立には賛成していないという構図がある。安倍のカイライの現内閣法制局長官を除いて歴代の長官も、集団的自衛権を「合憲」とするのを批判しているのだ。また最高裁判事経験者も違憲批判の列に加わり始めた。
 
強行採決を狙う与党

 遅くても八月上旬での法案成立という安倍のもくろみは、総がかりでの反対運動作りの成功と、それを契機とする反対の声の一層の広がりによって頓挫し、与党はかつてない長期の延長国会での成立という局面に追い込まれた。そしていま、反対の運動の急速な広がり、学者・文化人からの内閣批判の強まり、安倍応援団の三バカトリオの報道圧力・つぶせ発言などの不祥事の続発などで、内閣支持率は低下が著しい。
 時は安倍政権に不利に働いている。国会審議は与党の説明がつじつまの合わないことを次々と明らかにし、安倍自身が「説明」すれば、とんでもない例を出して、これがまた批判の的になるという状況だ。
 与党は、傲慢にも世論の動向にかかわらず衆院特別委員会で法案を採決し、衆院通過を目指す姿勢だ。七月七日、谷垣禎一幹事長は「審議時間も相当積み重なっている。そろそろ出口を探る時期に来ている」と述べ、近々の強行採決をする意図を明らかにした。

全力で阻止行動を

 闘いは大きな山場を迎えた。戦争法案を阻止するため、全国各地の人びとは力を合わせて、運動をいっそう強めていこう。
 全国の反対運動の中心を担う「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」は、六月一四日に二五〇〇〇人が参加した国会包囲を成功させ、国会前座り込み行動、毎週木曜日国会前集会、そして三〇〇〇〇人参加の六月二四日国会包囲行動を闘いぬいてきた。
 七月一四日には、「戦争法案廃案!強行採決反対!大集会」(日比谷野外音楽堂)を開き、闘いに向けての意思を一致させ、広く闘いにたち上がろうとアピールする。

 戦争法案絶対阻止!
 安倍暴走内閣打倒!


6・18 東京総行動

      
厚労省にはC型肝炎訴訟解決を求める

 六月一八日、けんり総行動実行委員会による東京総行動が闘われた。午前八時四五分日本郵政本社前から、午後五時の国土交通省前までの一日の行動で、働く権利・働く者の権利・人間としての権利の確立をもとめ、あらゆる争議の勝利に向けて闘いぬいた。
 
 昼行動は厚生労働省前で、カルテがないC型肝炎訴訟原告団・C型肝炎患者をサポートする会による薬害救済を求める集会が取り組まれた。
 ウイルス感染した製剤を投与されたことでC型肝炎に罹患し、長年苦しんできた患者数は厚労省発表で一万人とされているが、正確な患者数は把握しきれていない。薬害C型肝炎救済特措法による救済申し立ての原告患者は七〇〇名を超えている。しかし現在まで救済法により救済された患者は僅か二〇〇〇人程度だ。それは「カルテに替わる」証拠が裁判で要求されているからで、「カルテに替わる」最大の証拠は当該患者を担当した医療関係者の明確な証言だ。それを患者側が立証しなければいけないというのだ。闘いに立ち上がるしかない。二〇一〇年一一月の提訴以降の闘いで、二〇一四 年 五 月の東京地裁における原告一名の和解、一一月に二名の和解が成立した。ウイルスに感染した製剤を販売した製薬会社と、その販売を許可した国の責任は重い。薬害裁判と並行して厚労省に情報公開を求め闘っていく。


ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムは植民地支配に根ざす

    日韓条約50年  過去清算でつながろう2015集会

 六月二〇日、神田・韓国YMCAで日韓つながり直しキャンペーン2015の主催による「日韓条約五〇年 過去清算でつながろう2015」集会が開かれた。
 はじめに前田朗・東京造形大教授が開会のあいさつ。いま、日本では歪んだナショナリズムが社会を覆い、排外主義と外国人嫌悪が煽られ、ヘイト・クライム、ヘイト・スピーチが「流行」するという惨憺たる状況に陥っている。ヘイト・スピーチとは、歴史的に形成された構造的差別を背景に、マジョリティがマイノリティに対して差別、暴力、排除を煽動し、マイノリティの人間の尊厳を侵害する犯罪的行為であり、多くは過去の植民地支配や奴隷制の歴史に根ざしている。歴史的経験に学ぶならば、ヘイト・スピーチは早期に抑止しなければならない。人道に対する罪としての迫害と、ジェノサイドの煽動は、まさにヘイト・スピーチの極限形態だ。侵略、植民地支配、植民地犯罪、人種・民族差別、奴隷制、人道に対する罪、ジェノサイド、ヘイト・スピーチは同じ歴史に由来する悲劇であり、それは回避不能の悲劇ではなかった。人為的に作出され、演出された悲劇であり、いまなお人為的に作出され、演出されている悲劇だ。私たちは国際法における「未発の植民地犯罪論」を鋳造し直して、民衆の視点から東アジアにおける植民地犯罪の歴史を掘り起こし、植民地犯罪の現代的形態であるヘイト・スピーチと闘うために、次の一歩を進めなくてはならない。
 特別報告は、長谷川和男・「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会会長の「歴史認識と朝鮮学校『高校無償化』排除問題」。歴史修正主義的発言で極右政治家として知られる安倍晋三は第一次内閣の時に教育基本法を改悪し、再登場後に最初に行ったのが「高校無償化」から朝鮮学校を排除する決定だった。朝鮮学校排除差別は、植民地支配の総括をしてこなかった歴史から生まれたのであり、朝鮮学校が数多く存在している原因は、一九一〇年の「朝鮮併合」によって主権を奪われ、土地を奪われ、言葉と文化を奪われ、名前まで奪われた朝鮮半島の人々が、日本に渡航し、厳しい差別の中で過酷な労働に従事させられていたことである。ポツダム宣言受諾と同時に、本来なら多大な損害を与えたアジアの民衆、とりわけ植民地支配を行った国々に対して、謝罪と清算を行うべきものだったが、現実は、手厚く保護しなければならない朝鮮学校にたいして、民族教育を否定し、弾圧する真逆の政策をとり続けた。「高校無償化」の問題は、日本の民主主義の問題であり、日本人の人権意識を問う日本人自身の問題であり、日本人が歴史に向き合い、そこから未来を展望しない限りアジアや世界の人々から信頼を勝ち取ることができないからだ。
 「朝鮮人強制連行の記憶は消せない(群馬「記憶・反省・そして友好」の追悼碑を守る会)」の報告に続き、一九六五年の日韓闘争の証言が映像上映された。
 シンポジウム「検証!日韓条約・請求権協定―『一九六五年体制』はもう終わりだ!」は、庵逧由香立命館大学教授の進行で、五人のパネリストが発言した。
 採択された「2015日韓市民共同宣言 植民地主義を清算し、ともに東アジアの平和な未来を開いていこう」は「日韓国交正常化五〇年、日韓間に深い溝ができているが、日朝間はいまだ国交すらない。安倍政権は朝鮮敵視を強め、朝鮮学校を高校無償化から排除するなど在日韓国・朝鮮人に対し深刻な人権侵害・差別を続けている。私たちはこのような現実を認めることはできない。今こそ植民地主義を清算し、『日朝平壌宣言』を履行、日朝国交正常化を実現すべきである。そして、民族差別をなくし、人権を確立し、ともに東アジアの平和な未来を切り開いていこう。『慰安婦』問題については、日本政府に対する具体的『提言』も用意されている。強制動員問題解決に関しても、その法的根拠と方策は提示されている。険悪な日韓関係をこのまま放置しておいてよいと考える市民は少数である。市民の力で政府を動かそう。日韓条約五〇年、過去清算と未来への希望でつながろう!」とアピールした。


日本最大のブラック企業=日本郵政

   株式上場前に、全争議を解決せよ


  共同キャンペーンが本社前要請行動 郵政三社の同時株式上場を前に、六月一七〜一八日にわたって、「郵政全争議の解決を! 共同キャンペーン」(呼びかけ団体―郵政産業労働者ユニオン、郵政倉敷労働祖合、労働運動の発展をめざす全国共同会議)の主催による日本郵政本社前での要請行動が取り組まれた。
 日本郵政は、不当労働行為、労働法無視の悪名高き企業で、現在、多くの争議・裁判が起きている。
 日本一の非正規雇用労働者をかかえ、その格差・差別は異常なものだ。日本郵政では一九万六〇〇〇人も非正規労働者が働いているが、年収は三分の一に諸手当などで正社員と大きな格差がある。それに対し、均等な待遇を求める郵政・労契法20条裁が取り組まれている。株式上場にあたっては法令順守が求められており、正規労働者との差別撤廃なしに株式上場は許されない。
 また非正規社員一三〇〇〇人を「六五歳雇い止め解雇」した日本郵政「定年制」無効裁判が闘われている。労務管理の異常さも際立ち、さいたま新都心局過労自死裁判が闘われている。また、雇止め・解雇撤回、再雇用拒否撤回などが取り組まれている。
 また郵政ユニオンは、「朝鮮人強制動員時の未払い郵便貯金の清算をおこなえ」と要求している。戦争拡大の下で日本へ強制動員された朝鮮人は80万人に及ぶ。朝鮮人は動員先で労働を強制され、さまざまな名目で貯金を強制されたが、その貯金は主に逃走防止のためになされ、戦争遂行に利用された。現在、未払いの郵便貯金通帳は、ゆうちょ銀行福岡貯金事務センターに集約・保管されている。まず、「郵便貯金の氏名、住所、貯金額など未払い郵便貯金に関する情報を明らかにし、韓国政府に提供すべきである」として、「政府と日本郵政は、強制動員に関する歴史的な責任」を果せと求めている。
 キャンペーン行動・要請行動第一日目の六月一七日、郵政本社前の集会では郵政産業労働者ユニオンの日巻直映委員長があいさつ。多くの問題を積み残したままで郵政三社は株式上場をしようとしている。それらの諸課題を解決する時期だ。郵政ユニオンは多くの労組、仲間とともに全争議の解決に全力をあげて闘いぬく。

 この集会では郵政のブラック企業体質をあらわす重大な事件が起きていることが報告された。六月一一日夜、郵政ユニオン本部にひとつの通報が寄せられた。茨城県古河郵便局局長助川裕一は、さいたま新都心郵便局過労自死事件の際の集配課長だったが、かもめーるの売り上げが低い職員に対して、「おれは一人殺したことがある。今日ゼロだったら帰さないからな」などと言われ、自分で買わざるを得なくなったというのだ。助川局長は裁判において、名前などが記されている管理者であり、いままた脅迫的発言を平然と行っている。この許すべからざる行為に対して、さいたま新都心郵便局過労自死裁判原告と郵政リストラに反対し、労働運動の発展をめざす全国共同会議は、犯罪的恫喝行為を働いたものを即刻、解職せよと求めた。

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申入書  


 (…前略)現在、日本郵政、日本郵便においては、@パワハラ・セクハラ事件、A管理職によるパワハラ等による過労自死事件、B六五歳雇い止めをはじめとする非正規雇用労働者の解雇事件、C正社員と非正社員との待遇差別是正裁判、D高齢再雇用をめぐる差別雇用事件、E団体交渉否認の不当労働行為事件、F組合事務所貸与をめぐる組合間差別事件など裁判や労働委員会の場で数多くの争いが続いている。
 その件数は、実に三〇件を超えてお りさらに拡大する可能性すらある。
 また、職場労働条件においても正社員と非正社員とが全く同一の労働に従事しながらその処遇においては大きな格差がつけられている。約五〇%に達する非正規雇用比率はいつこうに改善する気配もない。
 このような経営を続けている以上、上場基準を満たしているとはいえず、上場後の経営の健全性や説明責任も果たし得ないことは明らかである。
 七月からゆうパックの業務繁忙は、上場前にしての最大の業務繁忙である。
 しかし、現在でも36オーバーが後を絶たず、「サービス残業」も全国的に蔓延している中で労働環境の悪化が広がる可能性がある。
日本郵便において「サービス労働」等コンプライアンス違反のこれ以上の放置は許されることではない。

 私たち「郵政全争議の解決を!共同アクション」に参加する一六団体はその総意 として以下の点について申し入れを行う。

 一、日本郵政及び 日本郵便は、すべての争議の解決に応じること。
 一、日本郵政各社は、違法な「サービス労働」や「自爆営業買い取り」を直ちに止めさせること。
 一、日本郵政各社は、パワハラ・セクハラをやめさせること。
 一、正社員と非正社員 との待遇差別を是正し、均等待遇を行こと

            郵政リストラを許さず、労働運動の発展をめざす全国共同会議


気に食わない報道を抑圧せよ――これは安倍首相の内心の真実の声の吐露

      
自民党議員など報道つぶし暴言を許さず、断固追及し、総裁の安倍にも責任をとらせよう

文化芸術懇話会?!

六月二五日に、自民党本部で「文化芸術懇話会」(代表の木原稔・党青年局長)という党若手議員の勉強会がひらかれ、安倍応援団の作家・百田尚樹を講師に、萩生田・党総裁特別補佐など安倍側近など右派の中堅・若手議員三七人が出席した。
 報道によると席上、次のような暴言が飛び交ったという。
 大西英男衆院議員(東京16区)「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないと思うが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」。
 井上貴博衆院議員(福岡1区)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、広告の提供(スポンサー)にならないということが一番(マスコミは)こたえる」。
 長尾敬衆院議員(比例近畿ブロック)「沖縄の特殊なメディア構造を作ったのは戦後保守の堕落だ。沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくためには、どのようなアクションを起こされるか。左翼勢力に完全に乗っ取られているなか、大事な論点だ」…。
 また、安倍応援団の作家でたびたび問題を起こしている百田尚樹は「沖縄の新聞二紙はつぶさなあかん」と述べた。

居直る議員と首相

 沖縄の辺野古新基地反対はオール沖縄の巨大な流れとなって日米軍事同盟強化・戦争する国づくりに立ちはだかり、戦争法案が憲法違反であり、今国会での成立には反対という声が圧倒的な声が広がっている。今回の言論抑圧発言は安倍政権の苛立ちを表すものだ。
 それは自分たちの政策が支持されないのはマスコミが悪いという難癖であり、自分たちの都合のいい報道以外はつぶせというファッショ的な対応であるが、安倍首相らとの内輪の会合での騒いでいる時のような気分でああした言葉が口に出たのであろう。これらの連中は安倍の内心を代弁しただけであり、当然のことを言ったまでのことであり、安倍は自分たちをかばってくれるものだと確信しているはずだ。かれらの期待に応えて、このような重大な事態に安倍自身は居直りを決め込もうおとした。国会の委員会質疑で「党の中で、私的な勉強会の中にあっていろいろな自由闊達な議論がある。党としては党としての考えがあるわけであり、まさに言論の自由は民主主義の根幹をなすもので尊重しなければならない。実際われわれは尊重している」「処分も必要ない」などと公言した。 しかし、その後の反響の大きさ、批判の大きさに、今後の国会審議に影響が出ることを恐れる党執行部の意向を受け、いやいやながら若干の軌道修正を試みてはいる。
 だが、大西議員などは依然として同様の発言を繰り返しているのだ。
 この問題は、簡単に片づけてはならない問題である。以前にも、自民党は、昨年の総選挙でテレビ局に「公正の確保」を求めるとして放送内容に介入し、また、今年四月にはNHKの堂元光副会長(「クローズアップ現代」問題)とテレビ朝日の福田俊男専務(コメンテーターの古賀茂明の自爆発言問題)を呼びつけて、個別の番組について事情聴取を行うとして威嚇を行った。
 そもそもNHKが二〇〇一年一月三〇日に放送したETV特集・日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷に関する番組の放送前日、NHKの放送総局長などに圧力をかけたのは、安倍晋三自身だったのである。
 今回の報道批判、弾圧発言は、安倍政権の本音が露呈したものであり、戦争法案や秘密保護法と根は一つであり、戦争体制づくりの重要な構成部分であり、徹底的に暴露・糾弾し、自民党右派勢力に責任をとらせていかなければならない。

盛会だった緊急集会


 六月三〇日、参議院議員会館講堂で「言論の弾圧を許すな!怒りの緊急集会」が開かれ、短期間の呼びかけにもかかわらず、会場にはいきれないほどの盛況となった。
 呼びかけは超党派の議員によるもので、各党からのあいさつがあった。
 民主党の枝野幸男幹事長、共産党の山下芳生書記局長、維新の党の初鹿明博衆議院議員、日本を元気にする会の山田太郎参議院議員、社民党の吉田忠智党首、無所属(沖縄社会大衆党)の糸数慶子参議院議員などがあいさつし、言論・出版界からの発言が続いた。
 新崎盛吾新聞労連委員長―今回のことには良いこともある。一つは安倍首相を取り巻く議員の程度の低さが知れ渡ったこと。もう一つは、ようやくマスコミも声を上げ始めたことだ。
 樋口聡出版労連中央執行委員―今回のことは明確に憲法21条(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。)に違反する行為だ。戦争と表現の自由はあいいれないものだ。
 岩崎貞明民放労連書記次長―今回の発言が文化芸術懇話会で行われた。それは戦争法案を平和・安全だというのと同じだ。そもそも、こうしたことをやるのが「自由」「民主」党というのは悪い冗談だというしかない。
 つづいて、元NHKプロデュサーの永田浩三武蔵大学教授が、政府権力による報道規制・歪曲の歴史を振り返り、いまも自民党は放送アーカイブなどを使って「偏向」を「見つけ出し」、圧力をかける動きを示している。決して気を緩め、手をゆるめてはならない。

沖縄二紙からの報告

 琉球新報東京支社報道部長島洋子さん―現在の沖縄は〇・六%の国土に七五%の在日米軍基地が集中している。米軍人の犯罪が多発している。こうした状況の矛盾の中で私たちは仕事をしている。沖縄と日本政府の利害は反し対立しているが、中立では沖縄の新聞は生き残れない。沖縄の人たちはアンポンタンじゃない。沖縄マスコミに踊らされているわけではなく、自分で判断しているのだ。自民党議員の人たちはそこをわかっていない。これからも沖縄に偏向した新聞づくりをやっていきたい。

 宮城栄作沖縄タイムス東京支社報道部長―今回の安倍首相側近たちの発言には首相の本音が出ている。だがそれらの発言は全く事実に基づかないものだ。たとえば木原議員は、慰霊の日式典で、翁長県知事に拍手が、安倍首相には怒号が飛んだが、これは「県が動員してやらせた」と言っているが、どういう根拠か。しかもそういった議員本人は取材にも応じずだんまりをきめこんだままだ。また長尾議員は、沖縄の反対運動には中共の手先が画策しているとか言っている。これも同様だ。そもそも彼らは、沖縄二紙を読んでいないという。大西議員に至ってはいまも同じ発言を続けている。これは、安倍首相は自民党総裁として謝罪をすべきではないだろうか。

言論・出版界の批判続出

 今回の言論批判・弾圧には多くの批判の声が上がっている。新聞労連の声明(別掲)や出版労連声明「自民党議員による言論弾圧の幕引きを許さず、戦争法案の撤回を求める」、民放労連委員長談話「政権党議員の暴言に強く抗議する」、そして民放連会長コメント「与党議員からのことばに誠に遺憾」、新聞協会編集委員会も抗議声明だすなど、政府、自民党による言論弾圧に抗議する輪は広がっている。
 また、六月三〇日には、市民による自民党本部前抗議行動が行われ、「言論弾圧許すな!」のプラカードを手に、安倍晋三は総裁として謝罪し、辞任し、責任をとるべきだなどのシュプレヒコールをあげた。

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百田尚樹氏と自民党国会議員の発言に抗議


 憲法改正を推進する自民党若手議員が集まった25日の勉強会で、作家の百田尚樹氏が沖縄の地元紙を「つぶさないといけない」と発言したことに、新聞労連は「新聞メディアへの弾圧であり、報道の自由への侵害だ」として強く抗議する。

 報道によると、沖縄県の地元紙が政府に批判的だとの意見に対し、百田氏は「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と主張した。個人の発言は自由であり、新聞への批判や異なる主張について我々は真摯に受け止める。しかし百田氏は今年2月までNHKの経営委員を務めるなど、メディアに関わってきた人物であり、約40人の国会議員が集まる場で講師として発言している以上、看過するわけにはいかない。「島が中国に取られれば目を覚ます」という発言も、米軍基地集中の負担に苦しむ沖縄県民の思いを逆なでする危険な発想だ。

 安全保障関連法案(戦争法案)を批判する報道に関し、出席した議員から「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」との発言もあったとされる。報道の自由を侵害しているという自覚がないとすれば、憲法軽視も甚だしく、立憲主義国家の国会議員としての識見が問われかねない。

 沖縄タイムスと琉球新報は、太平洋戦争で住民の4人に1人が命を落とした激しい地上戦を経験し、今も米軍基地が集中する沖縄の地元紙として、文字通り市民に寄り添った報道を続けている。昨年の知事選や衆院選で明確に示された「辺野古への新基地建設反対」「集団的自衛権の容認反対」という民意を反映し、市民目線の論調を守り続けている。新聞労連は、沖縄の加盟単組の仲間が地元に密着して取材、報道を続ける姿勢に敬意を表し、ともに連帯して不当な批判と闘っていくことを約束する。

2015年6月26日

          日本新聞労働組合連合(新聞労連)中央執行委員長 新崎盛吾


「村山首相談話を継承し発展させる会」シンポジウム
       「―敗戦70周年にあたり―『安倍政権と歴史修正主義を考える』」

              
 歴史の歪曲は新しい戦争の準備

 七月七日―一九三七年のその日は、大日本帝国が宣戦布告なき中国全面侵略戦争に踏み切った盧溝橋事件を起こした日だ。いま、安倍政権は侵略と植民地支配の過去を認めようとはせず、戦争法案の強行採決を狙い、いままた戦争をする国づくりにまっしぐらだ。

戦争の原因を明らかに

 七月七日、午後二時から衆議院第一議員会館大会議室で、「村山首相談話を継承し発展させる会」の主催による公開シンポジウム「―敗戦70周年にあたり―『安倍政権と歴史修正主義を考える』」がひらかれ多くの人が参加した。
 はじめに、総合司会の田中宏・一橋大学名誉教授(村山首相談話の会・共同代表)。安倍首相は「侵略」定義は定まっていないと言っているが百数十万の軍隊を送っておいて何が定義が定まっていないだ。また盧溝橋事件が起こった時の近衛内閣書記官長だった風見章は、事件当時、なぜ宣戦布告しなかったかについて証言を残している。それは宣戦布告すれば、米国など第三国から石油や鉄その他の軍需物資が入ってこなくなることを恐れたからだという。
 開会挨拶は鎌倉孝夫埼玉大学名誉教授(共同代表)。
帝国主義戦争を二度とふたたび起こしてはならない。そのためにも歴史認識が決定的に重要だ。戦争の原因を明らかにするとともに、民衆がなぜ戦争勃発を阻止できなかったについて反省しなくてはならない。一九九五年の村山首相談話「戦後50周年の終戦記念日にあたって」の最後の部分に「『杖るは信に如くは莫し』(よるはしんにしくはなし)と申します。この記念すべき時に当たり、信義を施政の根幹とすることを内外に表明し、私の誓いの言葉といたします」とある。「頼りにするものは信義しかない」ということで、これ以外に平和を確立する方法はない。
 連帯の挨拶は、平和フォーラム代表・戦争をさせない1000人委員会呼びかけ人の福山真劫さんと日本弁護士連合会・憲法問題対策本部・本部長代行の山岸良大弁護士が行った。

歴史歪曲・改竄の流れ


 基調講演は高鳴伸欣琉球大学名誉教授が「安倍政権と歴史修正主義」と題して行った。
 安倍首相の歴史認識はまことにオソマツというしかない。それをよくあらわしたのが「主権回復の日」をめぐる騒動だ。取り巻きの右派などからの要求で、「日本の完全な主権回復と国際社会復帰60年の節目を記念」するための政府主催の記念式典を開くことが、二〇一三年三月に閣議決定され、四月二八日に行われた。ところがこの日は、沖縄を米軍支配下において切り離した「屈辱の日」であり、沖縄で大規模な抗議集会が開かれるなど猛反発が起こり、それ以降は開催していない。安倍の歴史認識はその程度のものだ。
 歴史修正主義の本来の意味は、新資料や新情報の発見などによる従来の学説見直しを図る歴史学の試みを表すことばだ。最近の通俗的な用法としては、一九八〇年代に西欧のホロコースト否定論者たちが自分たちを「歴史修正主義者」と規定したことからはじまった。 一九九〇年代以後に日本国内でも台頭してきた南京事件否定論や東南アジア解放戦争論など日本の加害、侵略責任を否定し、日本の歴史を称賛すべきものと殊更に強調して戦時中の強いられた自死も殉国美談化しようとする主張に対しても用いられるようになった。
 しかし歴史修正主義の流れは古くからある。神話、紀元節、御真影教育勅語体制下での天皇神格化による歴史歪曲があり、戦時中には多くの「軍神」神話や殉国美談が作り出された。東南アジでの日本人の「活躍」を描いた創作「山田長政」劇が多額の費用をつぎ込んで流布されたが、山田長政なるものの歴史的実在さえもはっきりしないのが現実だ。戦時後半には大本営発表による虚偽情報が流布された。そして、人間宣言、昭和天皇独白録など天皇免責工作、悪いのは陸軍だけ東條だけだという海軍の免責工作も行われた。
 一九六三年九月から六五年六月にわたって「中央公論」誌上に林房雄「大東亜戦争肯定論」が掲載され、単行本化された。
 一方で、一九七一年に本多勝一の「中国の旅」が朝日新聞に連載され、これも単行本化された。侵略戦争とそこでの残虐性が問われたが、侵略・虐殺を認めないという右からの攻撃がはじまった。一九七三年に鈴木明著『南京大虐殺のまぼろし』が出版され、以後、論争が激化していく。「南京事件」が記述された教科書が検定合格したのは一九七四年のことだったが、いま「自由社」教科書は、南京事件を全く書かなかった。この動きが他社にも広がる恐れがある。
 このような事態は、とくに一九八〇年からの国会での自民党による「偏向教科書」攻撃からであり、「教科書問題を考える議員連盟」発足したことである。   一九八六年には中曽根政権が皇国史観の教科書「新編日本史」を手抜き検定で合格させたりした。「村山首相談話」以後は、安倍などが「談話」の否定画策に着手し、二〇〇一年「新しい歴史教科書をつくる会」の中学教科書が検定に合格、二〇〇七年の第一次安倍政権下の教科書検定で沖縄戦「集団自決(強制集団死)」に日本軍の関与記述に改変指示が出されたことが発覚し、「オール沖縄」の抗議集会が開催された。
 第二次安倍政権下の二〇一五年、日本教育再生機構(八本秀次理準長)版中学教科書(育鵬社)が検定に合格した。これはフランス式庭園と日本式庭園を比較し、前者が「自然を支配し人工的な美しさを追求」するのに対し「自然と対立するのではなく、人間は自然の一部であるという日本人の自然観」の違いをいう。これは検定合格本で「江戸しぐさ」のでたらめさが指摘され「訂正申請」で差し替えとなった部分だが、これには「皇国地政学」復活の気配がうかがえる。
 安倍は、「戦後70年談話」を発表するとしているがどういうものになるのか。われわれは戦後七〇年にあたり、昭和天皇の開戦時の国際法違反の指摘を準備している。

「国防線」拡大の危機

 第2部のシンポジウムは、評論家の森田実をコーディネーターでパネリストが発言した。
 半藤一利さん(作家)―幕末から明治にかけて勝海舟などは、日本は海岸線が長いから守れない、といった。その後、外で守る、だから海軍だ。朝鮮半島だとして国防線を次々に拡大していった。その結末は悲惨なものだった。しかし必要なのは、あくまでも外交、話し合いで解決する以外にないことがこれまでの歴史の教訓だ。
 新しい日米ガイドラインで「日本の平和及び安全を確保するため、また、アジア太平洋地域及びこれを越えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなるよう日米両国間の安全保障及び防衛協力」を強化するという。このアジア太平洋地域を越えた地域ということに注目しなければならない。
 田岡俊次さん(軍事評論家)―戦争は誤報、虚報から起こる。ベトナム戦争、イラク戦争みんなそうだ。日本の戦争でもそうだった。盧溝橋事件の時でも、日本兵一人がいなくなり、殺されたり拉致されたりしたとされた、事実はちがってすぐに出てきたが、戦火は拡大してしまっていた。
 またアメリカの対中政策には「ヘッジ」(強硬)と「エンゲージ」(融和)の二面性がある。米第七艦隊司令官やケネディー駐日大使などの発言の違いがそれらを表している。安倍政権はそれに対応してしばしばちがった政策表明をせざるを得なくなっている状況を見ておく必要がある。
 青木理さん(ジャーナリスト)―「従軍慰安婦」報道で朝日バッシングが行われたり、自民党議員による報道規制発言でマスコミが委縮している面がある。誤報・虚報は歴史修正主義がメディアをのっとればますますひどくなる。

 会場からの発言では、歴史修正主義という言葉は、歴史歪曲・改ざん主義というほうがよいのではないかなどとの指摘がなされた。


戦争イヤヤネン!の声を上げよう

        
戦争させない!9条こわすな!吹田市民集会

 六月二二日、千里市民センター大ホールで、緊急の「戦争させない!9条こわすな!吹田市民集会」が会場満杯の参加者で行われた。
 これは、「憲法を守り、いかす吹田の会」と「すいた九条の会」や労組、市民団体、弁護士、大学教授、宗教者そして共産党、社民党などの呼びかけによるものだ。
 集会では、徳井義幸弁護士(すいた九条の会)が情勢報告、つづいてジャーナリストの西谷文和さん(イラクの子どもを救う会)が「集団的自衛権 戦争のリアル 安保法制の虚構」と題して映像とを交えての戦争の実相、とくに劣化ウラン弾の被害は子どもたちを今も苦しめていることなどを報告した。
 安倍政権がおしすすめる戦争への暴走に笑いでブチ当たろうと替え歌「オラは戦争に言っただァー」とともにアニメが上映され会場には爆笑の渦がおこり、みんな元気になった。
 オキナワ辺野古の座り込みに参加した牧師の弓矢健児さんは、「沖縄の問題は本土の問題だ」と強調した。
 各界からのリレートークは地域、青年、宗教者、市議会議員など六人が発言した。ジュネーブへ行って学んだことを述べた青年、住職の祖父がかつての大戦で全国の寺の先頭で戦争をあおったことの反省として戦争反対を主張していくと発言した仏教者、また京丹後市出身者は、米軍Xバンドレーダー反対運動への逮捕・弾圧をおこなった大阪府警を追及・糾弾した。
 最後に、今後の行動として、@吹田で一〇〇〇名集会とパレードをやろう、A延長された国会にバス五台で押しかけよう、B期間中に九回の吹田行動をやろう、などが提起され、六〇年安保と同様の闘いと取り組みの必要性が訴えられた。

 集会アピールは次のように言っている。
 ―軍事力によって日本と国際社会の平和を実現することなどありえません。戦争が、憎しみや貧困、紛争やテロをうみ、悪しき連鎖に道を開くことは、この間の国際情勢が物語っています。中国、韓国を中心とした東アジア諸国との緊張を高め、東アジアの平和と安定に亀裂を生じざせざるをえません。今国会で戦争法案を廃案にし、平和憲法を堅持していくことこそが、日本と国際社会の平和の実現にとって選択すべきただ一つの道です。私たち「戦争をさせない!9条こわすな!吹田市民大集会」は、日本を「戦争する国」に変えようとする憲法違反の戦争法案の即時廃案を求めます。平和を願う市民のみなさん。「非核・平和都市宣」の街・吹田から、戦争法制の即時廃案にむけ力を合わせましょう。―

 全国の九条を守る闘いとともに、吹田でも、戦争イヤヤネン!の声を上げていきたい。

 歴史を直視せず、人の口(クチ)にも銃口を向ける自民党、宗教者とは名ばかりの権力亡者公明党に日本の平和と安全は絶対に任せられません。(大阪 河田)


連 句

     沖縄紙つぶせと学び議員たち

     自由意志なりいひはる首相

     憲法をむしせし自由これありや

     強行さいけつなすは気まぐれ

     兵站といはぬ欺瞞の出兵へ

     媚びおもひやり恋のゆくすえ

二〇一五年七月

 ◎兵站 へいたん ……戦場の後方にあって軍事作戦遂行のための連絡・交通を確保し、軍需品の補給・管理・修理等を行うこと。これを、安倍首相は「後方支援」と言い替えて軍事参戦ではないかのように国民の目をだましている。
    
                                            ゝ 史


複眼単眼

     
不勉強な若手防衛官僚との話し合い

 最近、防衛省の政策局の役人たちと議論する機会があった。四〇歳前後の比較的若めの官僚だった。
 こちらがあらかじめ渡しておいた「戦争法案を撤回せよ」という主旨の要請文に対する回答は、政府の公式答弁と同様の空疎なもので、話し合いの冒頭に、彼らは極めて形式的なものを読み上げた。
 内容は、集団的自衛権に対する政府解釈の変更と「平和安全法制」が必要なのは、「我が国をとりまく安全保障環境の変化」による、などという説明だった。この間、安倍をはじめとする政府側がくり返し語る理由であり、その中身は、北朝鮮のミサイル、尖閣諸島への中国公船の進入、領空侵犯に対する空自のスクランブルの急増などだ。
 なかでも「国籍不明機へのスクランブルがこの一〇年で七倍になっている」という説明を得々とやるのに、少し腹が立って、意地悪い質問をした。
 「その理由は、すでに、一部メディアからも指摘されているように、破綻しているではないか。七倍になった等と言うが、冷戦期のスクランブルと比べても少ないか、同程度にすぎない。冷戦期にも日米安保はあり、憲法はあった。所与の条件は現在と変わっていない。それでは説明にはならない」といった。
 というのは東京新聞の半田滋記者が六月二一日付の同紙で以下のように指摘していることを私は念頭に置いていたのだ。
 「二〇〇七年の第一次政権当時も『安全保障環境の悪化』を主張していました。それほどの危機ならなぜ、その後の首相たちは無視したのか。安倍氏が首相のときだけ、毎回、日本は危機に陥るのです」「(安倍首相は領空侵犯に対する空自機のスクランブルが一〇年前の七倍に増えたと言うが、九四三回だ)、冷戦期の八四年には九四四回あり、当時八〇〇回、九〇〇回を超えるのは珍しくありませんでした」。「(防衛白書を比べてみても)冷戦期のほうが緊迫していたという見方」だ、と。
 防衛省の役人はこの半田さんの記事を読んでいなかったらしく、驚いて沈黙し、困惑した表情で手持ちの資料を懸命にめくって回答を探し始めた。たまりかねた同僚が、「冷戦期のデータが無いのでわからない」と助け船を出した。
 私も防衛白書にあるといえばよかったが、とっさには思い出せなかったので、あなたがたの発表した資料に冷戦期のスクランブルは出ている。そんな不勉強なことではこまる、とピシャリとやったら、相手は困っていた。
 ついでに安倍首相は、国会でこの法制の自衛隊員のリスクを問われて、「まるで、いままで自衛隊員の殉職者がいないようにいうが、自衛隊員の殉職者は自衛隊創立以来一八〇〇人いる」などと答えたことをどう考えるか、と聞いた。戦争で死ぬことと、事故で死ぬことを一緒にして、戦死の問題をこのように一般的事故死と区別しない最高司令官をどう思うのか、旅客機だって、鉄道だって、事故死はある。戦争で死ぬこととは根本的に違うじゃないか、と訊ねたが、彼らに答えられるワケがない。少し意地悪な質問ではあった。
 私は、この若手の防衛官僚と話していて、この程度の連中がこうした憲法違反の法制に関わっているのかと暗澹たる思いになった。 (T)