人民新報 ・ 第1334号<統合427号(2016年2月15日)
  
                  目次

● アベ妄言「自衛隊は違憲だから憲法のほうを変える」  戦争法廃止! 参院選勝利! 安倍内閣打倒! 

● 市民連合シンポジウム  /  イヤな時代を押し返す

● 日中対立をあおる日本政府  クリントンメールでも明らか

● 緊急事態条項は無制限の独裁への道開く  立憲デモクラシーの会・公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」

● 全日本海員組合・民間船員を予備自衛官補にする防衛省の計画に反対

● 緊急シンポジウム「日韓政府間『合意』は解決になるのか!」

                  当事者の声を聞かない「合意」を批判

● 9条の会が安倍首相の改憲発言に抗議する緊急アピール

● 核廃棄物どうする  /  映画「100000年後の安全」を観て

● 後藤健二さんの死を忘れないサイレントアクション

● 書評  /  池上彰『日本は本当に戦争する国になるのか』

● KODAMA  /  安倍が施政方針演説で「同一労働同一賃金」に触れる  賃金論の積極的な論議を

● 複眼単眼  / 災害をダシにした緊急事態条項改憲論の狙い






アベ妄言「自衛隊は違憲だから憲法のほうを変える」

         戦争法廃止! 参院選勝利! 安倍内閣打倒! 


 1月22日、安倍首相は第170通常国会の施政方針演説を行った。内容は「地方創生への挑戦」、「一億総活躍への挑戦」、「よりよい世界への挑戦」などだ。夏の参院選を見越して経済重視を前面化している演説だが、安倍個人の思いの軸心は戦争法制の具体化、憲法改悪である。その「よりよい世界への挑戦」は、地球儀を俯瞰する外交、希望の同盟、積極的平和主義、世界の中心で輝く日本などの項目で構成されている。そこでは「地球儀を大きく俯瞰しながら、積極的な平和外交、経済外交を展開する。そして、アジアから環太平洋地域に及ぶ、この地域の平和と繁栄を、確固たるものとしていく。日本こそがその牽引役であり、私たちはその大きな責任を果たしていかなければなりません」とし、「こうした外交を展開する、その基軸は、日米同盟であります。普遍的な価値で結ばれた日米同盟、世界第一位と第三位の経済大国による日米同盟は、世界の平和と繁栄のため、共に行動する『希望の同盟』であります」という。そして「自衛隊が、積極的平和主義の旗の下、これまで以上に国際平和に力を尽くす。平和安全法制は、世界から、支持され、高く評価されています。『戦争法案』などという批判は、全く根拠のないレッテル貼りであった。その証であります」と日米同盟の強化、自衛隊の増強と海外派兵を背景に影響力の拡大を図っていくと宣言している。最後に「安倍内閣は、諦めません。目標に向かって、諦めずに進んでいきます。一億総活躍の未来を拓く。日本と世界の持続的な成長軌道を描く。平和で安定した、より良い世界を築く。安倍内閣は『挑戦』続けてまいります」と締めくくっている。この安倍内閣の「挑戦」と真っ向から闘うこと、これがわれわれの任務だ。
 施政方針演説で安倍は「民主主義の土俵である選挙制度の改革、国のかたちを決める憲法改正。国民から負託を受けた、私たち国会議員は、正々堂々と議論し、逃げることなく答えを出していく。その責任を果たしていこうではありませんか」と改憲への道を進むことを宣言した。
 2月3日の衆院予算委員会で自民党の稲田朋美政調会長は、「憲法学者の多くが素直に文理解釈すれば、自衛隊が違憲である9条2項は現実にまったく合わなくなっている。このままにしておくことこそ立憲主義を空洞化する」などと述べ、安倍はそれに答えて、戦力不保持を規定した9条2項の改定に言及した。
 現憲法の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」を、自民党は憲法改正草案(2012年)は「(国防軍)我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」に変えるというのだ。
 憲法学者の多くが自衛隊違憲論を主張しているから、憲法違反の自衛隊を変えるのではなく、逆に、憲法を変えるという主張だ。違法行為が増えてきたので、それを罰するのではなく、法律のほうをなくしてしまうというとんでもない論理だ。しかもその手段は、「緊急事態条項」を創設するというものだ。安倍は、かつては憲法96条を変え、改憲発議を現行の国会議員の三分の二から過半数にするというまやかしの手法を使い、また違憲の集団的自衛権の行使の閣議決定を強行するという「ナチスの手法」を駆使しているのである。
 しかし、安倍政権をとりまく状況はいよいよ厳しいものとなってきている。昨年後半の臨時国会を開かず逃げ切った安倍は1月4日に通常国会を開くなどという前例のないことをやった。しかし、その日の東京株式市場大発会の日経平均株価は582円安となった。大幅な金融緩和による株価の上昇で、あたかも経済運営が良好であるかのような幻想をばらまいて、内閣支持率をあげようというのがアベノミクスであるが、この日の株価全面安は安倍政権の今年のスタートにふさわしいものとなった。その後も株価は下がり続けている。株価と内閣支持率が連動する自らの作り出した構図は裏目にでる局面に入った。多くの人が指摘するように、安倍の日銀やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などを使った人為的な株価操作は非常に危険だ。安倍政権で、大企業の利益と内部留保は大幅に増えたが、不安定な雇用、低賃金、低消費の状況は改善される兆しがない。そして、盟友であり経済政策、TPPの軸足だった利明経済再生相の辞任、そして、なんとも無様な閣僚、自民党議員の不祥事が続き、安倍内閣は大きな困難に直面している。 多くの人びとは大きく団結して、戦争法廃止、辺野古新基地建設阻止、原発再稼働反対、秘密法廃止、春闘など闘いを前進させ、七月参院選で勝利しよう。安倍内閣を打倒しよう。


市民連合シンポジウム

      
  イヤな時代を押し返す

 2016年は、夏の参院選がある年であり、2000万統一署名を軸にした戦争法廃止にむけた総がかり行動のおおきな盛り上がりの持続を背景に、野党共闘を実現させ、安倍政権におおきな打撃をあたえる年だ。
 昨年末に結成された「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)は、2000万人署名を共通の基礎とし、@安全保障関連法の廃止A立憲主義の回復(集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回を含む)B個人の尊厳を擁護する政治の実現に向けた野党共闘を要求し、これらの課題についての公約を基準に、参議院選における候補者の推薦と支援をおこなう活動を展開している。

 1月23日、東京北区の北トピアさくらホールで市民連合主催のシンポジウム「イヤな時代をどう押し返すか」が開かれ、1300人が参加した。
 はじめに、主催者を代表して「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の高田健さんがあいさつ。安倍政権は立憲主義の否定、改憲の暴走を続けている。三月には戦争法の具体化される。野党共闘を粘り強く実現するために努力し、参院選に勝利し、安倍政権をストップさせなければならない。
 国会からは、民主党の小川敏夫参院幹事長、共産党の小池晃副委員長、維新の党の初鹿明博国対委員長代理、社民党の吉田忠智党首があいさつし、それぞれが野党はしっかりと力を合わせて参院選での勝利を実現しようと決意表明した。
 全国の集会で掲げられているおなじみのポスター「アベ政治を許さない!」の作者で俳人の金子兜太さんが登壇――わたしはただ一つのことでここに来た。それは、「許さない」ということだ。いまの野党の状況は歯がゆくてしかたがない。
 つづいて哲学者の柄谷行人さんは「憲法9条の今日的意義」と題して講演。3・11以降、日本は変わった。人がデモをする社会に変わった。デモや集会は寄り合いのことで、それが議会になった。フランスのルソーは『社会契約論』で人民は集会した時だけ主権者になると言った。選挙の投票の時ではなく、人びとはデモや集会のときに主権者となる。そうした時に選挙で決めたことでもデモで修正することができるのだ。憲法9条を変えようという動きには大きな反対が起こる。だから政府は9条を変えずに戦争を行える体制を作くろうとする。大事なのは9条を掲げて内実を実行することだ。
 ネルディスカッション「イヤな時代をどう押し返すか」では、山口二郎さん(法政大学教授)の司会で、森達也さん(オウム事件をあつかった映画などの監督)、青井未帆さん(学習院大法科大学院教授)、三浦まりさん(上智大学教授)、諏訪原健さん(SEALDs)が発言した。
 山口二郎さん――2016年は決戦の年だ。戦争法廃止、参院選の勝利へむけて運動を強めていこう。
 森達也さん――オウムの組織の中で起きていたことが社会全体で起きている。外部に敵を作り内部だけで連帯しようとする風潮だ。ジャーナリズムもその流れに抗して権力を監視しなくなれば、それは自殺行為だ。
 青井未帆さん――「とりあえずまず改憲」などということを許してはならない。憲法学者は「個」を強調してきたが、これは集団に流されがちな日本社会だからだが、同時に人びとの集団の力を評価する視点が必要だ。
 三浦まりさん――わたしの大学でも知りたくないことを避ける安全神話が蔓延している。世界から見ても日本は「民主主義」のランクで「欠陥ある民主主義」にまで評価が落ちた。
 諏訪原健さん――参院選は本気で勝たなければならない。だが、選挙だけに一喜一憂しないで、その先にどういう社会を作るかが大事だ。
 最後に閉会あいさつで、中野晃一さんは、2000万人署名の取り組みを広げ、野党共闘を強め廃止法案の共同提出、参院選では一人区で野党統一候補を擁立し、また投票率を上げていこう、と述べた。


日中対立をあおる日本政府

        
クリントンメールでも明らか

 アメリカ大統領選挙にむけての候補者選びが本格する中で民主党のヒラリー・クリントン元国務長官が私用メールに極秘情報を発受信していたことが問題化している。米国務省は大量の電文を公開し(1月29日)、その一つが、2012年、尖閣諸島の国有化をめぐる日米政府のやりとりで、当時の日本政府(野田内閣)が尖閣諸島を国有化する直前に東アジア・太平洋担当の米国務次官補キャンベルから日本政府への要請についてだった。

 クリントンメールの作成直前のことだが、当時の外務次官で現駐米大使の佐々江賢一郎は電話で米国に尖閣国有化を事前通知した。これにたいし、8月7日、東京でキャンベルは佐々江と日本政府に対し、国有化計画について「北京と協議し、通知する」ように要請した。だが、佐々江は、中国は最終的に国有化について理解してくれるとした。日本政府の認識不足にキャンベルは「中国側は明らかに激怒している」と伝え日本側の考えに懐疑的な見解を述べた。その後の事態は、日本政府の想定したものとは全く反対となり、日中関係は危険な事態に立ち至ることになったのであり、日本政府の認識の誤りはあきらかだ。そうでなければ、意識的に対中関係の悪化を作り出したものである。
 だが日本政府は、こうしたやり取りを隠蔽して、アメリカは日中対立では日本を支持すると強弁して、東アジア情勢の緊迫化をあおり、軍事大国化の道を進んでいる。


緊急事態条項は無制限の独裁への道開く

      
 立憲デモクラシーの会・公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」

 立憲デモクラシーの会は、2月5日、公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」を開いた。

 山口二郎法政大学教授が開会のあいさつ。安倍首相は改憲に舞い上がっている。それもまことにずさんな改憲論だ。安倍は緊急事態条項を入れることを改憲の突破口としている。今日は、本来は特別講座として開く予定だったが、より多くの人に緊急事態条項の危険性・問題点をしってもらうために公開シンポジウムとして開催した。

 つづいて、長谷部恭男早稲田大学教授(憲法学)が「緊急事態条項の無用性などについて」と題して発言した。昨年11月のパリでのテロ事件でフランス政府は非常事態を宣言した。このことを受けて、日本のいちぶマスコミなどが、フランスには緊急事態に対する根拠が憲法にあるが、日本にはそれがないから問題だなどと言っている。フランス憲法の第16条〔非常事態権限〕は、「共和国の制度、国の独立、領土の保全又は国際的取極めの履行が重大かつ切迫した脅威にさらされ、かつ、憲法上の公権力の正常な運営が妨げられた場合には、共和国大統領は、首相、両議院議長及び憲法院に公式に諮問した後に、状況により必要とされる措置をとる」とあるが、実際にはいろいろと条件があって、使いにくい。
 また、第36条は「戒厳状態は閣議によって宣言される。12日間以上の継続は国会によってのみ承認されることができる」とあるが、これも政令を制定する権限は授与されていない。
 ドイツの基本法でも、防衛上の緊急事態条項はあるが、ドイツは連邦制をとっており権限は州政府にあり、そこでチェックがある。すなわちきわめて限定的なのだ。日本は連邦制国家ではないし、いまの論議ではフランスのようなさまざまな縛りもない。
 それに、日本にはすでに「災害対策基本法」や「有事立法」ができている。さまざまなことに備えるというのなら国会で新たな法律を作ればいい。
 日本では憲法54条で「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ」とある。それで十分だということだ。
 普段から準備せずに泥縄式に対処しようとしても無駄だ。緊急事態を宣言できればなんでもできるというわけではない。
 またいまのグローバル・スタンダードでも、緊急事態でも裁判所のコントロールが必要だとされている。しかし、日本の裁判所は、安保など高度に政治的な判断については、「統治行為論」ということで逃げている。また最高裁判事の人事も内閣が決めている。こうした裁判所の在り方のまま政府が緊急事態を宣言するなら歯止めは全くなくなる。
 いまの政府のやり方は、国民の不安をあおって、政策を実施しようとすることだ。「安全」については一定の客観的な基準があるが、「安心」については切りがない。不安の種は尽きないし、それでは政府権限の無限の拡大となってしまう。安倍内閣の目標は自民党改憲草案の実現だ。それは、憲法で行政権力を縛るという立憲主義とは反対の政府が国民にあれこれと義務を課すものとなっている。

 パネルディスカッションで石川健治東京大学教授(憲法学)――緊急事態は外からの侵略と自然災害、内乱などの内からのものがあり、一定の期間、権限を一定の人に委任する、これが独裁という制度で、かつてのローマのジュリアス・シーザーなどの例がよく言われる。一定の期間とは、法秩序の回復するまでということだが、権力の移譲は歯止めのない独裁のきっかけとなる。
 戦前の日本では、大日本帝国憲法8条に規定された緊急勅令で、戒厳令の施行、国民の権利の制限の規定があった。その核心は軍による戒厳にある。権力を掌握した軍はどうするか、自らその権力を返すだろうか。

 杉田敦法政大学教授(政治学)――ドイツのワイマール共和国がナチス独裁に代わっていくきっかけとなったのは、ワイマール憲法48条にあった大統領緊急令(「公共の秩序と安全」が危険にさらされ、国家が憲法の義務を履行できなくなった場合は、大統領は軍の支援の下に執行を強行することができる)で、ヒトラーに全権を委任することになった。日本の旧憲法の緊急勅令には治安維持法の最高刑を死刑に改定したもの(1928年)などがあるが、危険きわまりないものだ。

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立憲デモクラシーの会設立趣旨
  ……万能の為政者を気取る安倍首相の最後の標的は、憲法の解体である。……今必要なことは、個別の政策に関する賛否以前に、憲法に基づく政治を取り戻すことである。たまさか国会で多数を占める勢力が、手を付けてはならないルール、侵入してはならない領域を明確にすること、その意味での立憲政治の回復である。そして、議会を単なる多数決の場にするのではなく、そこでの実質的な議論と行政監督の機能を回復することである。
 安倍政権の招いた状況は危機的ではあるが、日本国民の平和と民主主義に対する愛着について決して悲観する必要はない。脱原発を訴えて首相官邸周辺や各地の街頭に出た人々、特定秘密保護法に反対して街頭に出た人々など、日本にはまだ市民として能動的に動く人々がいる。この動きをさらに広げて、憲法に従った政治を回復するために、あらゆる行動をとることを宣言する。


全日本海員組合

      
民間船員を予備自衛官補にする防衛省の計画に反対

 1月29日、全日本海員組合は緊急記者会見を開催し、「民間船員を予備自衛官補とすることに断固反対する声明」を発表した。  「政府広報オンライン」に「予備自衛官とは、ふだんは社会人や学生としてそれぞれの本業を持ちながら、一定の日数の訓練を受けて知識や技能を磨き、有事の際には、防衛招集や災害招集などに応じて自衛官として任務に就きます。訓練や招集に応じて手当が支給され、昇進する道も開かれている、『非常勤の自衛隊員』(非常勤の特別職国家公務員)です」とある。防衛省は来年度予算案にそれに民間船員枠を盛り込んだ。
 防衛省は、安倍政権が集団的自衛権の憲法解釈を変更し、行使を容認する閣議決定を行った2014年夏頃から検討を始め、民間会社から高速フェリーを借り、平時は特別目的会社SPC(民間の船会社や金融機関などの出資で設置)が船を所有し、有事の際には防衛省が使う仕組みをつくろうとしている(今年の10月には民間船の有事航行を可能にするという)。しかし、予備自衛官のほとんどは陸上自衛隊で、海上自衛隊とりわけ操船関係などはごく少数というのが現状である。そのため民間船員を予備自衛官とする動きを強めているのである。来年度政府予算案では、民間船員21人を海上自衛隊の予備自衛官とする費用を盛り込んだ。防衛省「民間船舶の運航・管理事業業務要求水準書」には「(4)防衛出動等における運航――国は、防衛出動等に際しては、事業者から本事業船舶の裸傭船を求めるとともに、自衛隊法第70条第1項の規定に基づき招集される予備自衛官を含む自衛官により、本事業船舶を自ら運航する。また、国は、原則として1号船舶を裸傭船し、運航する予定であるが、必要に応じて、事業者から2号船舶を裸傭船する場合がある。なお、本事業船舶の返却については、所定の船体状況の確認後、裸傭船を終了し、事業者に本事業船舶を返却するものとする」とある。
 太平洋戦争では商船は戦時海運管理令により軍の作戦行動と民間物資の輸送に徴用され、漁船も輸送用に使われ、そして、物資輸送に携わった船舶、船員は大きな被害をうけ、保有船腹の88%が沈没した。戦争で亡くなった軍人軍属は海軍47万3800人(死亡率16%)、陸軍164万7200人(死亡率23%)だったが、海運・水産業の船員は約6万人(死亡率43%)で、死亡率は軍人らをはるかに上回った。
 海員組合の声明は、かつての戦争では船員が大きな犠牲を強いられたという歴史をふりかえり、「このような悲劇を二度と繰り返してはならない」として「全日本海員組合は、民間人である船員を予備自衛官補とすることに断固反対し、今後あらゆる活動を展開していくことを表明する」と決意を述べている。
 戦争法制の具体化を絶対に許してはならない!

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民間船員を予備自衛官補とすることに断固反対する声明

 一昨年からのいわゆる「機動展開構想」に関する一連の報道を受け、全日本海員組合は、民間船員を予備自衛官として活用することに対し断固反対する旨の声明を発し、様々な対応を図ってきた。
 しかしながら、防衛省は平成28年度予算案に、海上自衛隊の予備自衛官補として「21名」を採用できるよう盛り込んだ。われわれ船員の声を全く無視した施策が政府の中で具体的に進められてきたことは誠に遺憾である。
 先の太平洋戦争においては、民間船舶や船員の大半が軍事徴用され物資輸送や兵員の輸送などに従事した結果、1万5518隻の民間船舶が撃沈され、6万609人もの船員が犠牲となった。この犠牲者は軍人の死亡比率を大きく上回り、中には14、15歳で徴用された少年船員も含まれている。

 このような悲劇を二度と繰り返してはならないということは、われわれ船員に限らず、国民全員が認識を一にするところである。
 政府が当事者の声を全く聞くことなく、民間人である船員を予備自衛官補として活用できる制度を創設することは、「事実上の徴用」につながるものと言わざるを得ない。このような政府の姿勢は、戦後われわれが「戦争の被害者にも加害者にもならない」を合言葉に海員不戦の誓いを立て、希求してきた恒久的平和を否定するものであり、断じて許されるものではない。

 全日本海員組合は、民間人である船員を予備自衛官補とすることに断固反対し、今後あらゆる活動を展開していくことを表明する。以上

                                        全日本海員組合


緊急シンポジウム「日韓政府間『合意』は解決になるのか!」

                 
 当事者の声を聞かない「合意」を批判

 昨年12月28日、日韓外相は日本軍「慰安婦」問題の「最終的・不可逆的解決」を宣言した。日韓両国内でもさまざまな評価がある。だが、韓国では被害者をはじめ多くの人びとの反対運動がつづいている。

 2月5日、衆議院第1議員会館大会議室で、緊急シンポジウム「日本軍『慰安婦』問題 日韓政府間『合意』は解決になるのか!」(主催・日本軍「慰安婦」問題解決全国行動)が開かれた。
 金昌禄さん(慶北大学法学専門大学院教授・日本軍「慰安婦」研究会会長)は、「日本車『慰安婦』問題に関する『2015年合意』の問題点」と題して講演した。今回の「合意」は、1965年の韓日国交正常化50周年を飾った「1965年体制」の復活・強化のための「談合」だ。この問題は、1980年代後半まで沈黙を強いられてきた。しかし、1990年に韓国挺身隊問題対策協議会が発足し、1991年には金学順さんが証言するにいたった。日本の反応は1993年に「河野談話」がだされたが、1995年「女性のためのアジア平和国民基金」というものでしかなかった。国際社会の呼応としては、1996年クマラスワミ報告書、1998と2000年のマクドゥーガル報告書、2000年日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷などがあった。しかし、日本では1997年に「新しい歴史教科書を作る会」がつくられるなど後退のうごきが強まった。そして、今回の2015年の「安倍談話」と「日韓両政府談合」となった。これは、被害者が求めている「法的責任」すなわち事実認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、慰霊、処罰などとは全くかけ離れるものであった。
 今回の「合意」は、日本側の表明事項として、「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。…安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり愉しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」としたが、この部分は、1996年に国民基金が披書者たちに渡そうとした内関総理大臣名義の「おわびの手紙」の内容とほぼ完全に一致する。違いは唯ひとつ「道義的な責任」が「責任」に変わっとことである。日本政府は「道義的な責任は取るが、法的な責任は取れない」としてきた点を考えると、「道義的」いう言葉がなくなったことには一定の意味を持ちうると考えられるが、安倍首相は、「合意」の直後に、朴大統鎖との電話会談で、「慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で最終的かつ完全に解決済みとの我が国の立場に変わりない」と述べており、岸田外相も「責任の問題を含め、日韓間の財産および請求権に関する日本政府の(解決済みという)法的立場は従来と何ら変わりありません」と言った。ようするに「道義的」という言葉はなくなったが、「責任」は相変わらず「法的な責任」ではないのである。つまり、「2015年合意」は日本軍「慰安婦」問題に対する解決策になりえないということだ。1995年と本質的に同じものを受け入れるよう強いることは、これまで20年間にわたって「正義の解決」を訴えてきた被害者たちに対する「傲慢な暴力」でしかない。「合意」は、加害国の責任は差し置いて、被害国の内部で不必要な葛藤を生じさせているという点て、またそれに固執する場合その葛藤がより深刻になる恐れがあるという点で、妥当でない。いまほど「歴史から学ぶという姿勢がいつにも増して必要なときはない。
 次に阿部浩己さん(神奈川大学法科大学院教授)が「不正義への合意、再び〜国際的基準に照らして『合意』を読み解く」という報告。
 今回の「合意」は、「談合的手打ち」であった。求められている「被害回復」とは、過去の不正義への償いであると同時に、将来への構想提示である。国際法が求める被害回復の要素とは、公式の謝罪、責任の公認であり、実効的な調査の実施、訴追、処罰、そして被害者・家族への金銭賠償、また歴史教育、被害者を貶める行為の厳禁でなければならない。今回の政府間「合意」は、被害を受けた個人が不在である。それは同じ不正義を繰り返さないことの保証の不在ということなのだ。国際法にとっての日本軍「慰安婦」問題とは人間の尊厳の軽視、女性に対する暴力、人種差別が産み出した違法行為なのである。人間の尊厳を大切に、ジェンダーによる差別を撤廃し、人種主義・植民地主義を廃絶する取り組むことが求められており、これは東アジアでの共同の取り組みでなければならない。
 李娜榮さん(韓国・中央大学社会学科教授)は「日本軍『慰安婦』運動の意義と『合意』後の運動状況」について発言。日本軍「慰安婦」問題とは、「日本政府が不特定な強姦を防ぐために体系的な強姦システムを作ったこと」「当時の日水軍の威厳を保つための戦略が、その後長い間、日本政府に不名誉と負担を残したこと」ということだ。そして、今回、安倍政権は、歴史的な不正義を隠すために正確な対象と的確な内容および形式の欠如した謝罪でもう一つの「不可逆的な」歴史的不正義をおかしたことである。それは日本政府の国際的な地位を高めるための戦略(日本の再武装)が、終局的には植民地支配責任と強制連行、集団強姦所運営など全てを否認する不道徳な国家であり、アメリカに従属的な位置を再確認させることになるだろう。 「合意」に、挺対協は即刻抗議声明をだし、被害当事者は今年2016年1月の水曜デモ24周年で「目韓慰安婦合意」の無効を宣言した。「『慰安婦』合意無効と正義の解決のための『全国行動』」が1月14日に正式発足し、現在、全国約400団体・個人が参加し持続的なデモや団体活動を展開している。


9条の会が安倍首相の改憲発言に抗議する緊急アピール

 安倍首相は今年に入ってから改憲発言を繰り返している。2月3日の衆院予算委員会では「7割の憲法学者が自衛隊に憲法違反の疑いを持っている状況をなくすべきだとの考え方もある」として、違憲状態をなくすのではなく、逆に、憲法のほうを変えるという姿勢を鮮明にした。
 9条の会は、8日に参院議員会館で緊急記者会見を行い、抗議アピールを発表した。

 九条の会・緊急アピール「安倍首相の九条明文改憲発言に抗議する」

 安倍晋三首相は、2月3日と4日と5日の連日、衆議院予算委員会の審議において、戦力の不保持を定めた憲法9条2項の改定に言及しました。その際に、「7割の憲法学者が自衛隊に憲法違反の疑いをもっている状況をなくすべきだ」という逆立ちした我田引水の理屈や、「占領時代につくられた憲法で、時代にそぐわない」という相も変わらぬ「押しつけ憲法」論などを理由に挙げました。これらは、同首相が、憲法9条の意義を正面から否定する考えの持ち主であることを公言するものに他なりません。
 昨年9月、政府・与党は、多くの国民の反対の声を押し切って、日本国憲法がよって立つ立憲主義をくつがえし、民主主義をかなぐり捨てて、9条の平和主義を破壊する戦争法(安保関連法)案の採決を強行しました。この時は、「集団的自衛権の限定行使は合憲」、「現行憲法の範囲内の法案」などと、従来の政府見解からも逸脱する答弁で逃げ回りました。ところが今度は、そうした解釈変更と法律制定による憲法破壊に加えて、明文改憲の主張を公然とするに至ったのです。それは、有事における首相の権限強化や国民の権利制限のための「緊急事態条項」創設の主張にも如実に現れています。
 私たち九条の会は、自らの憲法尊重擁護義務をまったくわきまえないこうした一連の安倍首相の明文改憲発言に断固抗議します。2007年、9条改憲を公言した第1次安倍政権を退陣に追い込んだ世論の高揚の再現をめざして、戦争法を廃止し、憲法9条を守りぬくこと、そのために、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます。

               2016年2月8日


核廃棄物どうする

      
 映画「100000年後の安全」を観て

 今、岩手県立美術館で上演されたドキュメンタリー『一〇〇、〇〇〇年後の安全』を観て帰ってきたばかりだ。あれほどに恐ろしい映画を観たのはひさしぶりだった。「人類に繁栄をもたらす」などと宣伝されてきた原子力発電が残した高レベル放射性廃棄物がはなつ放射能は見えないしニオイもないが確実に人体に入り込み、気づかないうちに死に追いやる危険なもので、その危険が消えるまでには一〇万年もかかる。未来の安全のためにいま何をなすべきかというのがテーマだ。

 フィンランドのコッコラ島では22世紀の完成に向けて、これを一〇万年埋める穴を掘る作業の進行と、この工事を行っている会社の幹部や技術者へのインタビューで映画は進行していく。世界中で高レベル廃棄物が25万トンもあるという現実に驚かされ「これは原子力発電に賛成か反対かということとは全く別の問題」という主張にも納得させられる。
 次は人類が発見した第二の『火』である原子力の納棺室を作らなくてはならないことまでは意見は一致するだろうが、これを一〇万年後の人類に『危険だから近づくな!』と伝えるべきか、それともその存在を歴史から消し去るべきかという問いが投げかけられる。もし伝えていけば100年後には、ウランが少しは含まれているということで「お宝」を掘り出そうというばか者もでてくるだろうという危惧も出される。もう一つは、今のヨーロッパからして10万年前はネアンデルタール人が石槍でマンモスを追いかけていた時代で、その時代の文化は今日に伝わっていない。だから10万年後にも今の文化が伝わるわけがない、という主張だ。
 このフィンランドの地中深く一〇万年埋めるというやり方を日本に当てはめると、この上ない戦慄をおぼえる。フィンランドは地上で建物が建ったり戦争で多少表面が変化しても地中は18億年安定している。日本でも地中3000メートル以下に埋めるという方針だが、どの地方もこのために土地を提供するとは言っていないし、もしそれが実現しても日本は世界有数の『地震列島』だ。日本の土地全体が放射能汚染されつつ海の中に沈んでいくだろう。
 原発を推進する説明会の時に「自分の家の庭に穴を掘って埋めていい人手を挙げて!」というと、誰も手を挙げなかったし、私は警備員に抑えられてしまった。  (T・R)


後藤健二さんの死を忘れない

       
 サイレントアクション

 ジャーナリストの後藤健二さんが、ISIS「イスラム国」に殺害されてから一年たった。2月1日、東京都のJR四ツ谷駅赤坂口で追悼の催し「憎しみの連鎖を断ち切ろう!後藤健二さんの死を忘れないサイレントアクション」が行われた。解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会・街頭宣伝チームの呼びかけによるサイレントスタンディングと戦争法廃止2000万統一署名活動には寒風にもかかわらずおおくの人びとが参加した。

 アメリカは、2001年の9・11事件の背後にイラク・フセイン政権があり、大量破壊兵器の使用直前にあるとして当時のブッシュ米大統領は反テロ・イラク戦争を発動し、中東の人びとを大虐殺し、その社会を壊滅的状態に陥れた。その後の情勢は、悲惨さを拡大するばかりである。ブッシュの判断・戦争開始の口実は全くのデマだったこと、その戦争目的が石油をはじめとして中東地域支配にあったことはすでに明らかになっている。現在の状況を生み出した責任はまず第一にブッシュとそれに追随して攻撃に加わった連中にある。しかし、かれらはダンマリを決め込んでいる。日本政権もその例外ではない。
 テロでも反テロ戦争でも問題を解決することはできない。それは混乱と破壊、死をもたらすだけだ。
 しかし、いま、安倍政権は、対立の緩和と問題の解決のために動くのではなく、それとは真逆のアメリカの反テロ戦争にみずから積極的に加担する体制をつくり、戦争への参加、殺し殺される関係に日本を陥れようとしている。戦争法制とその具体化は危険な破滅への道だ。
 「憎しみの連鎖を断ち切ること」、そして「差別、貧困、戦争をなくしていく」ことこそが求められている。


書 評

 
 池上彰『日本は本当に戦争する国になるのか』

 本書は、テレビのニュース解説でおなじみの池上彰氏が、「安保関連法」につて解説した初めての書籍である。池上氏の説明は賛成反対両論を説明するので説得力がありわかりやすい。安保関連法は、集団的自衛権の行使は違憲か否かの「憲法論議と、日本の防衛はどうあるべきかという安全保障論議が同時に展開されたため、一般の人たちに極めて理解しにくいもの」となったと池上氏は振り返る。
 しかし、ほんとうにわかりづらくさせたのは氏も指摘するように10本の法律案と新法を一括審議する無謀な国会運営にあった。その責任は、法案提出者たる内閣と内閣総理大臣にあったことは明らかだ。本書では、第一章「安保法案」は「憲法違反」ってどういうこと?で集団的自衛権行使は憲法違反であることは明確に述べられている。だが、限定的集団的自衛権の行使は憲法違反であるとは語られていない点が弱点となっている。
 第2章の「安保関連法」って、いったいなに?ではかなり詳細に法律の危険性が説明されている。安倍首相が、国民向けに行った日本人母子を乗せた米鑑防護は印象操作のたぐいであると批判も行っている。また、ホルムズ海峡の機雷除去についても衆議院と参議院とで政府説明が違っている点も鋭く批判を行っており、あたらためて今回の戦争法全体をとらえ返す上で参考になる。不充分ながらも今回の戦争法のもつ憲法違反の問題性や対米支援と戦争の実際的な危険性が指摘されている点で評価に値すると思われる。
 しかしながら、その一方でどうしても見過ごすことが出来ないところが本書にはある。氏が指摘するように「政治運動の新潮流が起きた」とシールズなど若者・学生らの運動を好感をもって評価していることやマスコミの偏向的な報道、特に読売新聞についての批判的な記述は大いにうなずける。だが、池上氏の民主主義についての理解、考え方については同意できない。氏は、政府与党が、主権者の声を無視し、参議院で「強行採決」を行ったことについては一切言及せず「安保関連法が民主主義的なルールで決まったこと、これは否定できません」と述べ、さらに「衆議院で3分の2の議席を確保した段階で、国民が任期付きの独裁を認めたということもあるのです。総理大臣がやりたいことをやれるようにする。選挙にはそういう面もあります」「その意味では、期限付きの独裁政権を容認するのが民主主義と言えなくもない」とまで述べており、まったくもって誤った民主主義の理解がここで述べている。 たとえ多数を国会で握ったとしても憲法を逸脱した政治を行ってはならない立憲民主主義についての思想は残念ながら池上氏にはないのである。本書は、そういった点から評価できる点から出来ない点までじつに様々な問題点、論点が含まれている。当面の2000万人署名を進める上で対話に欠かせない一冊である。 (矢吹徹)


KODAMA

     
  安倍が施政方針演説で「同一労働同一賃金」に触れる  賃金論の積極的な論議を

 安倍首相の施政方針演説に「非正規雇用の皆さんの均衡待遇の確保に取り組みます。短時間労働者への被用者保険の適用を拡大します。正社員化や処遇改善を進める事業者へのキャリアアップ助成金を拡充します。契約社員でも、原則一年以上働いていれば、育児休業や介護休業を取得できるようにします。更に、本年取りまとめる『ニッポン一億総活躍プラン』では、同一労働同一賃金の実現に踏み込む考えであります」とあった。だが、その具体的内容はまったく明らかではない。安倍首相自身は「均等待遇」と「均衡待遇」もわかっていないような発言をしているのだが、この問題で破綻していているアベノミクスの立て直しと内閣支持率上昇を狙っているのは確かだ。だが、ここに労働側は大いに介入していくべきだ。しかし、依然として年功賃金維持派と同一労働同一賃金派の意見の対立は大きい。そのうえ経団連などのあやまった同一労働同一賃金論も横行し続けている。賃下げの口実としての同一労働同一賃金論だ。 昨年には骨抜きとなったが「同一労働同一賃金推進法」が成立している。いずれにせよ、これから「同一労働同一賃金」「同一価値労働同一賃金」など賃金論を巡る論議は活発化していくだろう。これを労働運動の活性化ために活用しない手はない。 (H)


複眼単眼

     
  災害をダシにした緊急事態条項改憲論の狙い

このところ、安倍首相の明文改憲発言が頻度を増している。国会で参議院選挙で改憲を問うことを公言し、三分の二の議席を得ようとしている。最近では、国会で自民党の改憲草案を自らの見解として確認した。同草案では第九条を変えて、国防軍を創設するという考えが明白であり、このところしきりに唱えられる「緊急事態条項」「国家緊急権」規定の挿入もはっきりとうたわれている。この危険な企てを阻止し、二〇〇七年、第一次安倍政権を倒したような世論と運動を早急に作り上げなくてはならない。
 この問題は多様な角度からの検討が必要だが、今号では、緊急事態条項に関連して、大災害が起こった場合に緊急事態条項が憲法に規定されていないと、対応できないという議論を批判しておきたい。
 安倍首相は一月一九日の参院予算委員会で「大規模な災害が発生したような緊急時において国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかは極めて重く、大切な課題と考えている」と述べた。
 二〇一二年に作成した自民党改憲草案は緊急事態条項改憲について、次のように述べている。
 「第九章 緊急事態」
 九八条 緊急事態の宣言
 第一項 内閣総理大臣は、……閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる
 九九条 緊急事態宣言の効果
 第一項 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる……。
 第三項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」。
 これについて、自民党の改憲草案「Q&A」は、「現行の国民保護法において、こうした憲法上の根拠がないために、国民への要請は全て協力を求めるという形でしか規定できなかったことを踏まえ、法律の定める場合には、国民に対して指示できることとするとともに、それに対する国民の遵守義務を定めたもの」と解説する。
 要するに緊急事態宣言で内閣は法律と同じ効力を持つ政令を出せ、私権制限も一方的にできるという戒厳令そのものだ。
 自民党の佐藤正久議員は東日本大震災の例を出してこう語る(産経新聞一五年一月二三日)。
 「被災地ではガソリン不足が深刻だったが、福島県の郡山市まで行ったタンクローリーの運転手が、原発事故の影響がある沿岸部の南相馬市へ行こうとしなかった。そこで南相馬から資格を持った運転手を呼ばざるをえなかったが、憲法に緊急事態条項があれば元の運転手に『行け』と命令できた」と。佐藤の議論は憲法一八条(何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない)の精神に真っ向から反している。この佐藤の改憲論は、一五年戦争末期の特攻隊を彷彿とさせるものだ。大災害に名を借りて、為政者に戒厳令的な権力をあたえ、基本的人権を奪いさる狙いがはっきりしている。
 いうまでもないが、憲法に緊急事態条項など加えなくても、現行災害対策基本法の適用と、応用で十分に事態に対処できることは、さまざまな人びとによって指摘され尽くしている。安倍首相や佐藤議員らのこのような危険な企ては許すことができない。  (T)