人民新報 ・ 第1337号<統合430号(2016年5月15日)
  
                  目次

● 5・3  全国各地で憲法集会  東京集会に5万人

        憲法を守れ、戦争法廃止、安倍内閣退陣のシュプレヒコールがとどろく

● 第87回日比谷メーデー

        労働者は団結して安倍内閣と闘おう!

● 雇用と暮らしの底上げアクション

        連合、全労協、全労連が共に労働法制改悪に反対!

● 特定秘密保護法の運用監視はどう機能しているのか ―
 衆議院情報監視審査会報告書を分析する

● 安倍政権の欺瞞的な改憲手法

        憲法に「緊急事態条項」を書き込むことは危険この上ない

● 戦争法制違憲の訴訟

● KODAMA  /  人間の幸せってなんだろう

● 複眼単眼  /   大震災と、支離滅裂な国家緊急権導入改憲論






5・3  全国各地で憲法集会  東京集会に5万人

      憲法を守れ、戦争法廃止、安倍内閣退陣のシュプレヒコールがとどろく


 5月3日、東京・有明防災公園での「明日を決めるのは私たち 平和といのちと人権を!」憲法集会は、戦争法の成立・施行への怒りに彩られ、昨年(横浜みなとみらい臨港パーク・3万人)を大きく上回る5万人を超える人ひとが結集し、憲法を守れ、戦争法廃止、安倍内閣退陣のシュプレヒコールがとどろいた。主催は、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会などでつくる5・3憲法集会実行委員会。
 この日、大阪(2万人)など全国各地で憲法集会・行動がとりくまれ、「総がかり行動のいっそうの拡大!」「野党共闘強化で参院選勝利!」の声を上げた。

 東京会場では、「家族で楽しめる」イベント広場や青空「憲法カフエ」、プレコンサートなども開かれ、開会前からたくさんの人が参加した
 集会は斎藤優里彩さん(制服向上委員会)の司会ではじまり、はじめに主催者を代表して、高田健さん(解釈で憲法9条壊すな!実行委員会)が「いまこそ、がんばり時です。わたしたちはかならず勝利しましょう」と開会あいさつ(2ページに掲載)を行った。
 ゲスト挨拶は、森谷結真さんなど(第17代高校生平和大使)、山口二郎さん(立憲デモクラシーの会)、菅原文子さん(農業生産法人役員・辺野古基金共同代表)、むのたけじさん(ジャーナリスト)、浅倉むつ子さん(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)。
 4野党の党首が顔をそろえ政党挨拶を行い、野党共闘と参院選での勝利をアピールした。
 民進党の岡田克也代表は、夏の参院選は日本の分岐点だ、自民党が勝利すれば憲法の平和主義はおおきく変質する、安倍政権の暴走を止めるために参院選に勝利しようと、述べた。
 共産党の志位和夫委員長は、新しい市民運動に背中を押されて野党共闘が前進していることは大きな希望だ、憲法違反の安保法制=戦争法はきっぱり廃止する、日本の政治に立憲主義を取り戻す、安倍政権による憲法改定を許さないという三つの旗印を掲げて参院選に勝利したい、と述べた。
 社民党の吉田忠智党首は、衆院も含めて野党共闘を強め安倍政権を追い詰めていこうと述べた。
 生活の党と山本太郎となかまたちの小沢一郎代表は、安保法廃止を実現するには4党が協力し、市民と協力して何としても選挙に勝たなければならない、と述べた。
 各分野からのリレートークでは、市川斉さん(シヤンティ国際ボランティア会)、青木初子さん(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)、片岡遼平さん(原子力資料情報室)、家平悟さん(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会)、朝鮮高校生徒たち、纐纈美千世さん(日本消費者連盟、椛谷陽子さん(子どもと教科書全国ネット21)、嶋崎量さん(日本労働弁護団)、竹内三輪さん(しんぐるまざーず・ふぉーらむ)そして奥田愛基さん(シールズ)の皆さんが憲法改悪反対するそれぞれの分野・運動から発言し、会場からの大きな拍手をうけた。
 最後に、福山真劫さん(戦争をさせない1000人委員会)の行動提起。その中で、「戦争法の廃止を求める2000万人統一署名」が1200万筆を超えたことが報告された。今日の憲法集会は大きな参加を実現して成功した。引き続き署名に取り組んで2000万の目標を達成しよう。恒例の国会周辺行動の19日には、「戦争法発動させない!参議院選挙野党勝利!安倍内閣は退陣を!議員会館前行動」を行う。そして、6月5日(日)の午後二時からは、総がかり行動実行委員会や市民連合の呼びかけでの幅広い結集の大行動実行委員会による「明日を決めるのは私たち ? 政治を変えよう 6・5全国総がかり大行動」を国会議事堂周辺・霞ヶ関周辺をはじめ多くのところで取り組み、これまでにないような大結集で、戦争法廃止、安倍内閣を許さないの声をあげよう。
 
 集会を終わり、豊洲コースと台場コースにわかれ、パレードが始まり、市民にアピールした。

                  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5・3集会での高田健さんの開会挨拶

 ご参集のみなさん こんにちは。
 実行委員会を代表して、開会のご挨拶に先立ちまして、この度の熊本・九州地方大震災で亡くなられたみなさまに心からの哀悼の気持ちを表明し、また被災された多くの皆さまにお見舞い申し上げたいと思います。合わせて、福島第一原発の事故をはじめとする東日本大震災の被災者のみなさん、5年数ヶ月を経た今日なお住まいを失って苦闘している20万人近いみなさんの苦しみにも思いを寄せたいと思います。

 本日の5・3憲法集会は、昨年、横浜で開催した憲法集会につづく2回目の総がかりで開催する統一集会です。昨年の集会はその後の2015年安保闘争と呼ばれる集団的自衛権の憲法解釈の変更と憲法違反の戦争法に反対する全国的な巨大な市民運動の幕開けとなりました。あの5・3憲法集会は、さまざまな立場の違いを超えて、安倍政権の戦争政策に反対する画期的な出発点となりました。
 安倍内閣は大多数の民意のありかを顧みることなく、9月19日、この国が米国と共に海外で戦争することを可能にする戦争法を強行しました。しかし、それ以降も、その暴挙に反対する行動は全国で衰えることなく継続され、その様相は一部の識者からは「2015年夏、日本の政治の文化が変わった」とか「新しい市民革命が始まった」とまで言われる状況をつくり出しています。
 この運動は戦争法反対の2000万人署名運動として全国の津々浦々で展開され、また国会では、安保法制廃止の野党共同の廃止法案提出に結実し、先日は多数の法曹関係者と市民らによる戦争法案の違憲訴訟の運動が始まり、さらに来る参議院議員選挙での野党の勝利をめざす「市民連合」として展開されています。全国各地では自立した市民による草の根のアクションが多彩・多様に展開され、総がかり行動実行委員会などの共同行動が無数に組織されています。
 今日、ほとんどの報道機関の世論調査が戦争法と改憲に反対する声が多数であることを示しております。
先に、こうした運動を背景にしてたたかわれた北海道5区と京都3区の衆院補選、とりわけ北海道5区の池田真紀さんを先頭にした共同のたたかいは安倍政権の心胆を寒からしめました。あのたたかいは戦争法に反対することを柱に据え、安倍政権による個人の尊厳を破壊する悪政に反対する政策を掲げ、野党と市民がしっかり連携して闘えば、自公与党を追いつめ、勝利できる可能性を示しました。私たちは来る参議院議員選挙でもこれらの経験に学び、とりわけ1人区での候補者の1本化を実現し、憲法第9条の改憲と国家緊急権=緊急事態条項の加憲による憲法改悪を企てる安倍政権と闘い、最低限でも自公与党とその補完勢力の2/3議席確保を阻止し、安倍内閣の退陣を実現する必要があります。
 そのためにも、ひきつづき2000万人統一署名を推進し、6月5日、国会包囲大闘争とそれに呼応した全国の市民行動の高揚を勝ちとりましょう。沖縄の辺野古の新基地建設を阻止しましょう。川内原発の即時停止と原発再稼働反対の広範な運動を巻き起こしましょう。貧困と格差の拡大の悪政に反対しましょう。平和をねがう東アジアの民衆と連帯し、ふたたび戦争の道を歩む企てを阻止しましょう。
ご参集のすべてのみなさん。
 本日の2016年5・3憲法集会を契機にして、戦争に反対する2016年安保闘争の巨大な飛躍を勝ちとりましょう。
 戦争法の発動を絶対に止めましょう。この国を「戦争する国」にさせてなるものですか。海外の戦争で「殺し、殺されなかった歴史」を、平和憲法のもとで実現してきた「戦後」の歴史を71年で終わらせてなるものですか。
 自民党改憲草案がめざす全体主義、国家主義の社会の到来を阻みましょう。
憲法改悪反対、安倍政権退陣、参院選で野党の勝利を実現しましょう。
 最後に、昨年の夏、国会前の集会で何度か紹介した短歌をまた紹介させてください。1978年、有事法制の検討が始まった頃、自立的な女性の平和団体の「草の実会」に所属していた石井百代さんの短歌を引いて、その志を共有したいと思います。
   徴兵は命かけても阻むべし 母、祖母、おみな 牢に満つるとも
   徴兵は命かけても阻むべし 母、祖母、おみな 牢に満つるとも
 みなさん
 いまこそ、がんばり時です。わたしたちはかならず勝利しましょう。
 本日の5・3憲法集会の成功を共同してかちとりましょう。
 ありがとうございました。


第87回日比谷メーデー

    
労働者は団結して安倍内閣と闘おう!

 五月一日、第87回日比谷メーデーが開かれた。
 主催者を代表して鎌田博一・国労東京地本委員長があいさつ。戦前回帰・戦争志向の安倍政権は立憲主義、平和憲法否定の危険な政権だ。これに対して総がかかり行動で広範な労働者人民の連帯で闘い退陣に追い込んでいかなければならない。戦争阻止の闘いをはじめ脱原発の大きな運動を起こしていかなければならない。社会経済的に面ではアベノミクスの破たんは明瞭だ。景気は回復せず貧困と格差は拡大している。非正規労働者が冷え、労働の規制緩和の中で8時間労働制さえあやうくなり、解雇の金銭解決など労働基本権の根本が破壊されようとしている。国民生活破壊の政策に断固として反対していこう。未組織労働者、外国人労働者の生活と権利はすべての労働者の問題として闘われなければならない。官民の労働者はおおきく団結して闘う陣形をつくっていこう。最後に7月参院選で勝利し安倍内閣打倒のために奮闘しよう。

 連帯挨拶は武藤弘道都労連委員長。日比谷メーデーのすべてのスローガンを支持する。敗戦直後のメーデーは、反動内閣打倒、民主政府の実現をかかげた。70年後の今日もまた同じ課題でメーデーが開かれている。
 つづいて同日に代々木公園で開かれている中央メーデー実行委員会から井上久全労連事務局長があいさつ。憲法違反の安倍内閣を倒す運動の中で労働組合ここにありという闘いを展開していこう。全国一律最低賃金制の実現を勝ち取ろう。野党共闘を広げにひろげていこう。日比谷メーデー万歳!

 来賓挨拶は、福島みずほ参議院議員(社民党)と山本隆東京都産業労働局長がおこなった。
 韓国の民主労総からは熱烈な連帯のメッセージがよせられた。

 ブラジルの格闘技やサンバ隊のアトラクションが行われ、決意表明・訴えに移った。非正規雇用問題について荒川区図書館非常勤職員労働組合、外国人労働者について全統一労組外国人労働者分会、争議団は全国一般東京労組コンチネンタル分会、そして反戦平和の訴えを5・3憲法集会実行委員会の菱山南帆子さんがおこなった。
 アピールを採択して、最後に団結がんばろうで集会を終了し、土橋コースと鍛冶橋コースに分かれてデモ行進に出発した。


雇用と暮らしの底上げアクション

      
連合、全労協、全労連が共に労働法制改悪に反対!

 5月11日、日本労働弁護団などによる「日比谷野音5・11アクション実行委員会」主催の「アベ政権はもう嫌だ!次に来る矢は『解雇自由』と『定額働かせ放題』」雇用と暮らしの底上げアクションが開かれた。
 徳住堅治・日本労働弁護団会長の開会あいさつにつづいて、棗一郎・日本労働弁護団幹事長が情勢報告。今国会は、リストラ指南の人材派遣会社に助成金を出すことなどに対する野党の追及、審議日程のこともあり労働法大改悪を政府は断念しているようだ。そして参院選を意識して、同一労働同一賃金や非正規の正社員化、長時間労働の是正など耳触りのいいことを連発している。しかし、言葉とは裏腹に安倍政権のやっていることは非正規労働者の増大、見做し労働、裁量労働、無制限の時間外労働などさらなる長時間労働、エクゼンプション、解雇自由の導入による労働者の雇用と生活の破壊だ。このような政権にはNO!の声を突きつけよう。参院選と安倍政権の退陣に向けてともに闘おう。
 つづいて、民主党、共産党、社民党の国会議員からのあいさつがあり、かえせ☆生活時間プロジェクト、ブラック企業対策プロジェクト、福祉保育労、全国港湾、過労死家族会・弁護団、そして連合から安永貴夫副事務局長、全労協の金澤壽議長、全労連の井上久事務局長がともに労働法制の改悪に反対する連帯のあいさつをおこなった。
 集会アピールを確認。「私たちは安倍政権の本質を見抜き『労働法制の改悪』を参議院選挙の争点として有権者に問い、反対の意思表示をしなければならない。私たちは次の三つのスローガンを掲げて、日本で働く全ての労働者とその家族が心から安心して暮らせる雇用社会を実現するため、全国の労働者・労働組合の皆さんと団結して闘いぬくことをここに宣言する」とした。三つのスローガンは、@なくせ!ブラック企業・ブラックバイト!なくせ!賃金差別!バイトもパートも今すぐ自給1500円!B守れ!一日8時間労働!、で、集会後のデモで、シュプレヒコールがあげられた。


(資料)
 長時間労働是正に関する安倍総理の発言に対する幹事長声明


   2016年4月27日

       日本労働弁護団幹事長 棗一郎

 2016年3月25日に開催された第6回一億総活躍国民会議において、安倍総理は、長時間労働は仕事と子育ての両立を困難にし、少子化や女性の活躍を阻む原因となっていると指摘した上で、長時間労働を是正するため、労基法36条に基づく労使協定(36協定)のあり方を見直し、労働時間の上限値を設けることなどを検討する旨表明した。
 ところが、これまで実際に安倍政権が労働時間法制に関して推進してきた政策は、労働時間規制の大幅な緩和であり、長時間労働を是正するどころか、逆に長時間労働を助長するものとなっており、上記発言をにわかに信用することはできない。
 すなわち、既に安倍政権が昨年の第190回国会に提出し継続審議となっている「労働基準法等の一部を改正する法律案」は、裁量労働制を大幅に拡大するとともに高度プロフェッショナル制度(いわゆるホワイトカラー・エグゼンプション)を導入し、労働基準法に定める労働時間規制の適用を排除することで、労働時間規制を大幅に緩和しようとしている。これらの規制緩和により日本の職場ではますます長時間の過重な労働が増え、労働者の健康被害が増大することが懸念される。
 2014年度の過労死等による脳・心臓疾患事案の労災補償状況は、ここ5年間横ばいの状態で一向に件数が減る気配はなく、精神障害事案の労災申請件数、支給決定件数は、ともに過去最多を記録している。このように、過労死・過労自殺の悲劇が止まない現状において、労基法改正による労働時間規制の緩和を行えば、さらに過労死・過労自殺が増えることは誰の目にも明らかであり、今求められている政策は労働時間規制の緩和などではなく、労働時間規制の強化であることは明らかである。
 したがって、真に安倍総理が長時間労働を是正しようと考えるのであれば、継続審議となっている「労働基準法改正案」を直ちに撤回すべきであり、同時に以下のような日本労働弁護団が提言する立法政策をとるべきである。
 すなわち、当弁護団は、2014年11月28日に「あるべき労働時間法制の骨格(第一次試案)」を発表し、長時間労働を抑制するための合理的な規制方法として、@労働時間の量的上限規制(1週の上限労働時間55時間まで、年間の上限残業220時間まで)と合わせてA勤務間インターバルの導入(勤務開始時時点から24時間以内に連続11時間以上の休息時間の付与)を立法化すべきであることを提言した。長時間労働を是正するというのであれば、これらの立法政策を直ちに実現すべきである。


特定秘密保護法の運用監視はどう機能しているのか―

             
 衆議院情報監視審査会報告書を分析する

 特定秘密保護法は、2014年12月10日に施行され、一年半近くが経過した。防衛、外交、特定有害活動、テロリズムなどを「特定秘密として指定できる情報」とし、「特定秘密の有効期間(上限5年で更新可能)」とするものだが、権力者に都合の悪いものは無期限に「秘密」にできるという悪法だ。秘密法は大きな反対の声があげられる中で成立したが、た批判をかわすものとして加えられたのが、運用の「監視」を行うものとして、政府内に内閣保全監視委員会、内閣府独立公文書管理監を設け運用状況の報告を行うなどとなった。衆参両院に情報保全監視審査会が設けられ、3月30日には両院の情報監視審査会が報告書を公表した。それは、どのような報告だったのか、国会の監視活動は果たされているのか、明らかにされていかなければならない。

 4月19日、 衆議院第二議員会館会議室で「特定秘密保護法の運用監視はどう機能しているのか―衆議院情報監視審査会の活動と報告」(主催・特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス)が開かれた。

監視機関の役割の活用

 はじめに、情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子さんが、「特定秘密保護法と『監視機関』」と題して報告した。
 特定秘密保護法の「監視機関」としては、@内閣保全監視委員会―情報保全諮問会議A内開府独立公文書管理監B衆議院情報監視審査会C参議院情報監視審査会がある。
 特定秘密保護法の規定として、内閣総理大臣は毎年、特定秘密の指定・解除・適性評価の実施状況を有識者に報告し、意見を聴く(法18条3項)、必要があると認めるときは、特定秘密の指定・解除・適性評価の実施状況について改善すべき点を内閣総理大臣が行政機関の長に指示(18条4項)、特定秘密の指定・解除・適性評価の実施状況について国会に報告するとともに公表(19条)、公正な立場で検証、観察できる新たな機関の設置等を検討して所要の措置を講ずる(附則9条)とある。
 その「監視機関」の位置づけでは、内閣保全監視委員会は「内閣総理大臣による指揮監督に当たり、委員会が行政機関の長に対して資料の提出・説明を求め、是正を求める」「特定秘密の指定件数等の報告を各行政機関から受け、情報保全諮問会議、独立公文書管理監の意見などをまとめて内閣総理大臣に報告」するこれは、内閣官房長官を委員長に、内閣官房副長官(政務)、内閣官房副長官(事務)、国家安全保障担当内閣総理大臣補佐官が副委員長に、また国家安全保障局長、警察庁長官、公安調査庁長官、海上保安庁長官、防衛事務次官、外務事務次官などが委員となる。
情報保全諮問会議は「統一基準等の策定に際して意見を述べる」「内閣総理大臣が取りまとめる報告について意見を述べる」となっている。構成員は渡辺恒夫(読売グループ会長)、住田裕子弁護士など7人だ。直近の会議は4月5日に開催された。
 内開府独立公文書管理監(情報保全観察室)は「特定秘密の指定、解除、特定行政文書ファイル等の管理の検証、監察」「必要があると認めるときは、行政機関の長に資料の提出、説明を求め、実地調査ができる」「適切に行われていないと認めるときは、是正を求めることができ、是正を求めた場合は、内閣保全監視委員会に報告する」「各行政機関から特定秘密指定管理簿の写しの提出、特定行政文書ファイル等の管理に資する事項の報告を受ける」「特定秘密の指定等に問題がある場合の通報の受付」「内閣総理大臣の報告に意見を述べる」「報告書の公表を年1回行う」などとなっている。
 衆議院情報監視審査会・参議院情報監視審査会は、衆参両院とも8名の委員で構成(会派の議席数に応じて会派ごとに配分)、非公開の会議となり、「特定秘密の指定、解除、適性評価の実施状況の調査」「委員会・調査会による特定秘密の提出に対する行政機関の長の判断の適否等を審査」「調査に当たり特定秘密について資料の提出、説明を求め、実地調査ができる」「必要があると認めるときは勧告を出すことができる」「年1回報告書を公表する」となっている。
 2014年12月末現在の指定項目は、国家安全保障会議―1、内閣官房―49、警察庁―1、総務省―2、法務省―1、公安調査庁―10、外務省―35、産業経財省―4、海上保安庁―15、防衛省―247で合計382となっていた。

 内閣保全監視委員会の最初の報告書は2015年6月に公表され、今年度は4月の情報保全諮問会議で報告書公表の準備中と言っている。しかし、昨年6月の報告書は事実の羅列のみだった。情報保全諮問会議で付された主な意見には次のようなものがある。「経年変化がわかりやすいようにグラフを付ける」「特定秘密管理者の数、特定秘密を取り扱う業務を行う部署名、有効期間別の指定状況、解除すべき条件の設定状況、特定秘密を取り扱う職員・適合事業者の従業員数の事項を報告内容に加える」「指定に係る状況の記述の具体化を図る」「警察庁と都道府県警察の保有する特定秘密文書の件数の区分を記載」「次回報告に独立公文書管理監の報告を添付すべき」だった。

 独立公文書管理監は、2015年12月17日に第1回の報告書を公表した。その監察結果としては「特定秘密の指定について、10の機関の本省分を検証。地方分部局等は次回以降。特定秘密指定管理簿、特定秘密指定書の提出を受け、説明を聴取。是正を求める事案はなし。修正が望ましいものが外務省2件、海上保安庁1件」「特定秘密を含む文書について、特定秘密文書管理簿により特定して提供を受け、特定秘密の表示の適否を判断。是正を求める事案なし」「文書の確認件数は全体で165件。説明聴取、実施調査等の回数は119回」というものだった。

 そして今回、衆参両院の情報監視審査会の報告書が出され、一応、すべての監視機関から報告書が提出されたことになる。

 監視機関の役割は、特定秘密保護法の運用状況について、特定秘密にもアクセスして十分な調査を行い、監察を行うこと、監察した結果を公表すること、結果の公表に当たり、行政機関が非公開としたい情報であっても、アカンウンタビリティを果たし公益性のあるものは公開するための努力をすることであり、監視機関を通じて公開される情報が、特定秘密の実態を知る数少ない手段である。十分にアクセスして十分に監視すること、そして公表していくことが重要で、いい事例を積み重ねていくことが公開制度を改善していくことになる。監視機関にいろいろな要求していくことは意外と効果のある方法だ。

衆院審査会報告書について

 つづいて、民主党の後藤祐一衆議院議員(衆院情報監視審査会委員)が「衆議院情報監視審査会の活動と報告書」について発言した
 衆院情報監視審査会報告の「政府に対する意見」では「特定秘密としてあつかわれる文書等の範囲が限定され、かつ、具体的な内容が含まれているかがある程度想起されるような記述となるように総点検を行い、早急に改めること」というのがある。現在のものではアバウトすぎて、いったいなにが特定秘密とされているのか皆目わからないものが多いからだ。「内閣府独立公文書管理監は、特定秘密文書等管理簿を提出させ、それを基に文書等の内容を示す名称となっているか否かを審査し、不適切と思料するものについては改めること及びこれらの経過につき当審査会に報告することを検討すること」としたのはしごく当然だ。また知らないうちに廃棄される危険についても指摘された。そして、特に秘密を要するものについては特定秘密管理者の官職を不開示にするとしていることも問題だ。
 秘密の開示も、開示期限があるにもかかわらず、長期にわたって秘匿されるものがでてくることだ。また、これから見ていかかなければならないのは、秘密が広がることだ。省秘や個人メモなどが秘密にされていくことだ。


安倍政権の欺瞞的な改憲手法

      憲法に「緊急事態条項」を書き込むことは危険この上ない

 4月19日、立憲フォーラムと戦争をさせない1000人委員会の共催で「憲法に緊急事態条項なんて必要ない さぁ、安倍政治を終らせよう 院内集会」が、参議院議員会館で開かれた。

ナチスの手法を許すな

 集会ははじめに立憲フォーラム代表の近藤昭一衆議院議員(民進党)が挨拶。安倍政権の麻生副総理はナチスの手法に学ぶべきだと発言したが、この内閣はそうした専制的な色彩を強く持った政権だ。ナチスが、当時もっとも民主的なものといわれたワイマール憲法をその緊急事態条項を使い、ヒトラーに全権を委任させて独裁と戦争の国家を作り上げた。これがナチスのやり方だ。安倍政権は震災や原発事故などの過酷事故なども口実にしながら緊急事態条項を設けるということで改憲に手を付けようとしている。変えられるところから手を付けていくという手法だ。
 立憲フォーラム幹事長の辻元清美衆議院議員(民進党)が、熾烈に闘われている衆議院北海道5区補欠選挙の状況を報告し、いっそうの支援を訴えた。

小口幸人弁護士の講演

 つづいて小口幸人弁護士が「憲法に緊急事態条なんていらない」と題して講演(小口弁護士は東日本大震災の時に岩手県宮古市の弁護士事務所にいて、全国初の弁護士による避難所相談を実施。被災者支援・立法提言活動に奔走し、「災害が起こったときに必要なのは、積み上げられてきた経験と叡智、それに基づく準備であって、総理大臣が『緊急権を発動する』といって拳を振り上げても、何の役にも立たないし混乱を起こすだけだ」と自身の体験から緊急事態条項は必要ない、と訴えている)。

自民党緊急事態条項案

 改憲テーマとして、緊急事態条項・環境権・財政規律の3つがあがり、昨年5月に災害対策としての緊急事態条項から議論することになった。
 自民党の憲法改正草案の98条に「緊急事態の宣言」がある。緊急事態条項とは、自然災害やテロ対策などを理由に、憲法秩序を一時停止して非常措置を行う権限、「国家緊急権」を政府に与えるというもので、安倍首相は2015年11月の衆院予算委員会で緊急事態条項を設けるために憲法を改正することを明言し、この7月の参議院選挙で3分の2の議席を獲得して、憲法発議に乗り出そうとしている。今回の熊本地震でもさっそくオスプレイを要請するなど危機に便乗するやり方には目に余るものがある。
 自民党の憲法改正草案は、内閣総理大臣が閣議を経て緊急事態を宣言し、宣言後、内閣は法律と同一の効力の政令を制定できるとする。国会審議は不要だ。そして、宣言後は、何人も、国の指示に従わなければならないし、宣言後、衆議院は解散されないし、任期も伸ばせるということだ。
 緊急事態宣言・政令は事後に国会承認が必要とされ、緊急事態が100日を越えるときは事前承認となる。国会承認は衆議院優先とされ、衆議院の過半数の議席を持っていれば、ずっと緊急事態は続けることができる。これは国民主権ではなく与党議員主権になる。

日本国憲法にない条項

 いまの憲法には緊急事態条項はない。それには理由がある。憲法制定の論議で、憲法改正担当の金森国務大臣は要旨次のように答弁している(1946年7月2日帝国議会衆議院憲法改正委員会)。「緊急事態条項は行政当局者にとりましては誠に調法なもの。調法というのは、国民の意思をある期間無視できる制度ということ。なくてよいならない方がよい。昭和21年から過去何十年の日本の歴史に照らして、間髪を待てないという程の急務はない。そういう場合は臨機応変に対応できる。新たに緊急の措置を必要とするのはよほど余裕のある事柄。そういうときは、臨時に国会を召集して解決できる。ただ、衆議院がいないときには召集できない。そこで参議院の緊急集会で臨時の対応をとる」。
 緊急事態条項は行政当局者にとって調法なもので、国民の意思をある期間無視できる制度であり、「なくてよいならない方がよい」と明確に述べている。あの戦争の経験からしてそうしたものを憲法に置くべきではないというのである。

その必要はあるのか

 しかし、安倍内閣は、絶対に必要だという。たしかに日本は災害大国だが、災害対策基本法、災害救助法、大規模災害からの復興に関する法律など災害関係の法律は充実しているのである。現在、全国22の弁護士会と日本弁護士連合会が、緊急事態条項に反対を表明しているが、その理由の一つが、災害法制が充実しているからということである。東日本大震災の教訓を踏まえて対策の措置は全て終わったといってよい。三度にわたって災害対策基本法が改正され、大規模災害からの復興に関する法律が制定された。その上、安倍政権下である昨年3月に出された「政府の危機管理組織の在り方について(最終報告)」でも緊急事態条項の言及はない。東日本大震災の1か月以内につくられた法律はたった2つで「平成23年4月に予定されていた統一地方選を延期するための法律」「復旧復興資金のため、国会議員の歳費を減額する法律」であり、臨時の措置は国会で決められた。

緊急事態条項ある国

 改憲派の中心である西修教授などは、「1990年以降に『制定』された憲法の全てに入っている」と言っているが、それらの国を挙げれば、ナミビア、アフガニンスタン、サントメ・プリンシピペ、モザンビーク、ネパール、クロアチア、ギニア、ガボン、ルワンダ、ブルキナファソ、コロンビア、モーリタニア、ブルガリア、ラオス、ザンビア、シエラレネオ、赤道ギニア、マケドニア、ルーマニア、スロベニア、マリ、モンゴル、コンゴ、ベトナム、ユーゴスラビア、ガーナ、トルクメニスタン、パラグアイ、エストニア、スロバキア、ジプチ、カーポベルデ、トーゴ、チェコ、リトアニア、ウズベキスタン、アンドラ、レソト、マラウィ、エルサルバトル、エチオピア、アルゼンチン、イエメン、タジキスタン、中央アフリカ、アルメニア、グルジアなどだ。だが、日本国憲法はこの時期につくられたものでもないし、その必要もないことはあきらかだ。

自民党の本音

 自民党の本当にやりたいのは、9条改憲だが、反対の声が多くリスクが大きい。だから国民の支持を得やすいのは緊急事態条項だとして、本音を隠してスタートしたいということだ。
 最後に、大規模災害がおきた場合についてみておきたい。必要なのは現場への権限委譲である。現場の判断を尊重し、国は後方支援に徹するべきだ。熊本地震でも明らかになった。最初の震度7の地震の直後に国は屋内退避を言っていたが、多くの人はそれに従わずに屋外にた。もし国のいうことを聞いていたら、二回目の大地震で多くの人びとの命が失われていただろう。国が主導権をとるとしばしば間違いが起こるのだ。

つづいて、IWJ(Independent Web Journal)の岩上安身さんが、メディアの現状と問題点などについて講演した。


戦争法制違憲の訴訟

 四月二六日、戦争法(安全保障関連法)は憲法違反だとして、五〇〇人の原告は同法による自衛隊の出動の差し止めなどを国に求める訴訟を東京地裁に起こした。これを皮切りに各地で同様の訴訟を提起していく。
 訴えた「安保法制違憲訴訟の会」は、伊藤真弁護士、内田雅敏弁護士、杉浦ひとみ弁護士などの呼びかけで、戦争被害者、基地周辺住民、自衛隊員の家族、憲法学者、弁護士などで構成されている。

 四月二〇日には、提訴に向けて、参議院議員会館内で決起集会「みんなの思いを受け止めて違憲訴訟を起こします」が開かれた。
 はじめに共同代表の寺井一弘弁護士があいさつ。
 安倍政権は昨年9月国会で安保法制を強行成立させ、憲法改正に着手すると公言し、7月参院選での3分の2の議席獲得を目指している。わが国の平和憲法と民主主義にとってきわめて深刻な事態である。昨年9月に「安保法制違憲訴訟の会」を結成し、違憲訴訟の闘いを呼びかけてきた。630名を超える弁護士が訴訟代理人になることに賛同し、原告にも2000名を超え、さらに広がって行く勢いだ。
 つづいて共同代表の伊藤真弁護士が報告。
 安倍政権のやっていることは、最高裁が違憲状態だという選挙によって成立し、それが日本を戦争する国に変えようとしている。これは、国民の憲法制定権すなわち主権の侵害であるり、一種のクーデタだ。これに対して総がかり行動、野党共闘などが進んでいる。司法を通じて、憲法破壊のクーデタを阻止し、日本の憲法価値を守り、立憲主義と民主主義を取り戻すために、法律家としても、前例のない規模と質の訴訟を提起しなければならない。第一に、すでに平和的生存権などの基本的人権を侵害されて、現実に苦しんでいる方が多数いるし、南スーダンPKO派遣、自衛隊の中東派遣、集団的自衛権行使などによって、具体的な被害が生じる。それを救済することが、司法の重要な役割である。第二に、訴訟を通じて、司法の役割を問うことが必要だ。
 裁判の目的は、単に違憲判決を得ることではなく、違憲の安保法制を許さないという世論を、大きくし、選挙などを通じて、違憲の安保法制を廃止させることだ。

 訴訟では、集団的自衛権の行使、後方支援活動、国際平和共同対処事態における協力支援活動の差し止めを求めている。


KODAMA

     人間の幸せってなんだろう


 日本は地震国だとつくづく思う。近代にはいってみても関東大震災(1923)、阪神淡路大震災(1995)、東日本大震災(2011)などの発生があった。それ以前の江戸・明治の東北での地震をはじめとする災害を挙げればきりがない。今度は熊本地震だ。

 自然災害・人災によって都市や農村が無残な姿になったのを見るたびに、さまざまな苦難を経験した人の中には「再び戦争に負けたような気持になる」ということを言う人も多い。
 なにかと不安の加わる世の中だ。

 2011年の厚生労働省の調査によれば、うつ病、アルコールや薬物への依存症、コミュニケーションが取れず苦しむ人などが320万人を超え、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病といった四大疾病患者を上回っているという。
 後期資本主義に入った日本にあらわれた現象であり、幸せでない日本人がどんどん増えているということだ。 それなのに、いまの政権は悲惨な事態を極力利用して、憲法をかえ、戦争する国の体制を作ろうとようというのだから本当に始末に悪い。

 こんな日本の現状の中で「本当の幸せとはなにか」という問いかけをしながら来日したのが「世界一貧しい大統領」といわれるウルグァイ40代大統領のホセ・ムヒカ氏(80)であった。
 かれは2012年の国連総会で、「人は人類の進歩のために生まれたのではなく、幸せになるために生まれた」「貧困とは少ししかものを持たない人びとのことを言うのではない。多くのものや金を持っていても、もっともっとと望み、心を失ってしまった人びとこそ貧困だ」という演説で人びとに感動を与え、世界中にその名を知られた人物である。ムヒカ氏自身極貧家庭に生まれ金持ちばかりに肩入れする独裁政権とのゲリラ闘争に身を投じ、13年間投獄されて身も心も殺されかけた体験をしている。命がけで得られた教訓からの言葉はわかりやすく説得力に満ちている。
 
 ムヒカ氏はウルグァイの大統領であったが、現役時代は給料は万ドル単位で支給されていたが、そのほとんどを経済的貧困者のために寄付し、自分たち夫婦は月百ドルで生活してきたという。資産は日本円で18万円の中古車一台のみだ。

 「生きているそのことこそ幸せなんです。朝を迎えることができることなのです」「生きているということは死へ向かっているということ。限られた時間を他の人の幸せのために使えたら、自分も自分の家族も幸せになれるのです」「政治家の仕事は国民を幸せにするための政治を行うことです。お金儲けのために政治家になる人は最悪で、若者はこれと闘うべきです」。

 私はそれを聞いて思うのだ。インターネットなどをつかった民主主義を現実のものにするために闘っていくべきだと思うし、新しい動きがあちこちで実際に始まっている。「SEALS」や「保育園落ちたの私だ!」ネットなどの人びとがさまざまな素晴らしい行動を起こしている。頭でっかちのかつての学生運動のようにではなく、生活者として未来のありようを示すモーションであり続けてほしいものである。(R・T)


複眼単眼

       大震災と、支離滅裂な国家緊急権導入改憲論


 このところ安倍内閣は念願の憲法改悪に向けて画策を強めている。今回の熊本・九州地方大震災も、ショック・ドクトリン(惨事便乗型ドクトリン)よろしく、憲法に国家緊急権(緊急事態条項)を導入するために利用しようとしているが、心がけがよくない故か、菅義偉官房長官らの対応のチグハグぶりが目立つ。
 もともと2012年末に作成した自民党改憲草案の「第9章 緊急事態」の98条「緊急事態の宣言」第1項には「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」と書いてある。
 要するにこの条項を憲法に設ける目的は@外部からの武力攻撃、A内乱、B大規模自然災害の3つへの対応のためというのだ。安倍首相らはときによって、この3つを強弱使い分けるのだが、最近はBを強調する場合が多くなっていた。
 そこへ今回の熊本・九州地方大震災が発生した。菅義偉官房長官は3月15日、記者会見でここぞとばかりに、こう語った。翌日、さらに大規模な「本震」が発生したのだが、その前日の発言だ。
 「今回のような大規模災害が発生したような緊急時に、国民の安全を守るために国家や国民がどのような役割を果たすべきかを、憲法にどう位置づけるかは極めて重く大切な課題だ」と。
こともあろうに菅官房長官は震災の規模と被害の行方も見極めないうちに、これに便乗して緊急事態条項改憲論をぶったわけだ。たちの悪いショック・ドクトリンだ。
 その後の安倍政権による震災対応は多くの人びとが首をかしげた。
 首相の現地訪問の動きの鈍さ、遅れに遅れた激甚災害指定、政府災害対策本部の設置の遅さと首相が対策本部長に就任しないこと、政府現地対策本部長を務めていた松本文明内閣府副大臣の「食料差し入れ要求」と現地本部長更迭などなど、疑惑の連続だった。
 首相が政府対策本部長に就任しない理由は月末から予定されていた外遊日程を優先したからだとはもっぱらの噂だった。
 これらの疑惑を打ち消したいと、政府は首相外遊にあたっては「熊本地震の被災者の生活支援や、北朝鮮が核実験やミサイル発射を強行する可能性が指摘されていることを踏まえ、安倍総理大臣がヨーロッパとロシアを訪問している大型連休の期間中も、万全の態勢で危機管理対応に当たる」との説明にキュウキュウしている。
 菅官房長官は5月3日の記者会見で、「いかなる事態にも対応できるよう、緊張感を持って、万全の体制で臨んでいきたい。危機管理に関しては、まさに365日、国民の生命、平和な暮らしを守るのが政府の責任だ」と述べた。
 これはおかしい。現行法のもとで、大震災や北朝鮮の挑発に「いかなる自体にも対応できる」「万全の体制」で臨んでいけるのなら、憲法に緊急事態条項などむりやり導入する必要がないということを菅長官自らが証明しているのだ。
 菅長官は自ら墓穴を掘ったわけだ。(T)