人民新報 ・ 第1341号<統合434号(2016年9月15日)
  
                  目次

● 安倍政権の暴走政治と対決し、戦争法の具体化、改憲策動を阻止しよう

● 原発再稼働反対

● 安保法制違憲・国家賠償請求訴訟の第1回期日   国を追及する意見陳述がつづく

● 日韓労働者連帯交流集会   闘う韓国労働運動からの報告

● ピースサイクルが浜岡原発、空自浜松基地などへ申し入れ

● 平和の灯を!ヤスクニの闇へキャンドル行動   戦争法の時代と東アジア

● 高江ヘリパッドの工事取材への弾圧   国家権力による報道の自由侵害に断固抗議する

● テロを口実にまたも出てきた共謀罪   大きく世論を拡げて完全に粉砕しよう

● スノーデンの警告   ここまできている日本の監視社会

● 国連表現の自由特別報告者デビット・ケイさんの暫定報告書について学習会

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  世界史の流れの変化の中での2015年安保の位置





安倍政権の暴走政治と対決し、
戦争法の具体化、改憲策動を阻止しよう

 9月19日で、戦争法成立から一年がたつ。7月参院選では争点隠しをしながら、選挙が終わると政権の本質をあらわにして、安倍政権の反動政治の暴走は加速している。
 9月26日から臨時国会が始まるが、この秋の闘いは極めて重要なものだ。
 沖縄では高江ヘリパッドや辺野古新基地建設の強行、戦争法では南スーダンPKOの自衛隊に「駆け付け警護」など新任務の訓練、人びとのさまざまな運動をつぶすための「共謀罪」のテロ等組織犯罪防止罪と衣装替えでのまたまたの登場、そして環太平洋連携協定(TPP)や改悪労働法制の臨時国会での改悪が狙われている。外交的には中国包囲のための活動に躍起となっている。
 そして憲法問題だ。自民党は、選挙時にはほとんど憲法問題を前に出さなかったにもかかわらず、予想通り選挙後は改憲策動を推し進めてきている。参院選で、「改憲派」が三分の二以上の議席を占め、衆参両院で改正の発議に必要な数を確保したという状況で、安倍政権は、秋の臨時国会から国会憲法審査会で審議を本格化させ、自民党改憲案を基礎にしつつも、改憲項目の絞り込みなどを行って改憲案をつくり、同時に、マスコミを使いながら改憲世論を高めようとしている。
そして、自民党総裁の任期延長までも押しだしながら安倍は自分の任期中に改憲発議と国民投票を実現し、憲法を変えることを実現させようというプランを具体化しようとしている。
だが、改憲を必要とする喫緊の課題があるわけでもなく、改憲が世論の大多数を占めているわけでもない。野党第一党の民進党も改憲に反対であり、「改憲派」もどこを改正するかについて一致していない。公明党や維新の会は、九条改正は当面必要ないという。改憲派も一体ではない。
現在、アベノミクス新自由主義政策は貧困化と格差拡大をもたらし、人々の暮らしをはじめ日本の社会の抱える課題は多種多様であり深刻な段階にたっしつつあり、安倍政権の政策の行き詰まりが各所に見られるようになった。
われわれに必要なことは、総がかり行動を背景に、市民連合と野党連合という体制をいっそう強化して闘いを全国各地にさまざまな形で展開することである。
戦争法の具体化阻止、戦争法廃止、南スーダンのPKO派遣部隊の撤収、辺野古新基地建設阻止、米海兵隊の全面撤退、日米地位協定の抜本改定、脱原発、新自由主義政策反対、労働運動の前進のために闘いを強めていこう。


原発再稼働反対

 8月12日、四国電力は地元愛媛県の県民世論調査でも再稼働反対が半数を超えているのにもかかわらず伊方原発3号機(出力89万キロ・ワット)の再稼働を強行した。再稼働は九州電力川内原発、関西電力高浜原発(裁判所の差し止め決定で運転を中止)に続いて3か所目だ。伊方原発3号機は、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料を使うプルサーマル発電だ。毒性の高いプルトニウムを利用するプルサーマル発電は、事故のリスクが高いといわれている。伊方原発も当初は7月末の再稼働予定だったが、1次冷却水循環ポンプの不調が発覚して延期されてきたのだった。伊方原発は、国内最大規模の活断層である「中央構造線断層帯」の上にある。また南海トラフの震源域にも近い。とくに伊方原発は細長い半島にあり、いったん大事故が起き、それが津波と重なれば住民は逃れる場がない。四国電力はすでに1号機を廃炉にしている。2、3号機も直ちに廃炉にすべきだ。
 また原発反対運動の一つの象徴であった経産省前テントの強制撤去を行った。これらのことは断じて許されるものではない。
 危険性が明らかであるにもかかわらず、安倍政権が原発路線を放棄しないのは、単に、原発利権によるものではない。オバマがやろうと言っていた「核先制不使用」宣言の方向に断固反対したのは安倍であった。潜在的核兵器保有、いざとなれば短期に核兵器保有へというのが歴代日本政府の構想であった。右派勢力は、北朝鮮の核実験を口実に、改憲ともに日本の核保有論をまたぞろ持ち出そうとしている。
 憲法九条の精神で東アジアの非核地帯の建設、脱原発の運動を強めていかなければならない。


安保法制違憲・国家賠償請求訴訟の第1回期日

          
  国を追及する意見陳述がつづく

 9月2日、東京地裁(後藤健裁判長)で、「安保法制違憲訴訟の会」による安保法制違憲・国家賠償請求訴訟(4月26日提訴・原告457人が国に4570万円の損害賠償を請求)の第1回期日がひらかれた。 「安保法制違憲訴訟の会」は法律家や市民でつくられ、1000名近くの弁護士が訴訟の代理人に就任し、訴訟原告は現在までに全国で2700名となっていて、今後もさらに多くの人々が参加すると予想される。 また同会は、安保法制・集団的自衛権の行使差し止めを求めた訴訟も行っている。
 今回が国賠訴訟最初の口頭弁論で、訴状陳述、答弁書陳述、原告代理人意見陳述、原告意見陳述が行われた。

 午後5時からは参議院議員会館会議室で報告集会が開かれた。

 代理人の寺井一弘弁護士があいさつ。
 裁判では、まずこちら側から訴状を説明した。国の答弁書はこちらの訴状に比べて薄っぺらいもので、内容も「権利侵害はない」「理由がない」「原告の訴えは抽象的だ」などと逃げ回り、速やかな請求棄却を求めるものだった。次回の期日12月2日には、この無内容な答弁書を批判することをやっていきたい。ついで5人の弁護士が意見陳述を行った。そのあと原告5名が全原告を代表して意見を述べた。今回の裁判についていえば、まず第一の意義としては、第一日で打ち切りにならなかったこと、門前払いにならなかったということだ。そして10名が心からの陳述をしたことだ。司法記者クラブでの記者会見でもいくつもの質問が出るなど反応は良かった。そこで言ったことだが、忘却との闘いだ、ということだ。ヒトラーは、国民の理解力は小さいけれど、忘却力は大きいと「わが闘争」で書いているそうだ。なかなかよく見抜いている。忘れることは敵だ。安倍政権は忘れることを狙っている。

つづいて黒岩哲彦弁護士が、裁判の様子を報告した。 法廷は地裁で一番大きい103号法廷だった。ここは社会的に注目されている事案が扱われる。そこの傍聴席を埋めつくす取り組みをこれからも続けていくことが大事だ。今日、被告の国側として出席していたのは、法務省大臣官房参事官、法務省訟務局民事訟務係、東京法務局訟務部、内閣官房国家安全局、防衛省大臣官房訟務管理官付きの防衛部員、防衛省防衛政策局防衛政策課、防衛省防衛政策局運用政策課などで、法務省、内閣府、防衛省が裁判での論争相手だ。裁判所の対応は柔軟だった。法廷での傍聴人数も時間についてもこちらの要望がそれなりに通った。そして三回までの期日も入った。
 
 伊藤真弁護士は、「裁判の法的な展開について」発言した。
 違憲訴訟は国会が行ったことを司法に違憲だと認めさせることで、大変なことではある。政治が絡むと遠慮してしまう傾向が裁判所にはある。裁判官は選挙で選ばれたわけではないし、国民の「支持」が大変重要だ。それには裁判の傍聴者がどれくらい来ているのかなどが一つの判断材料になる。今回のような国への損害賠償裁判には法的には具体的な損害というものがなければならないし、それを起こした国の違法行為というものがなければならない。国が法律を作ったことが違法行為ということにならなければならない。

 原告意見陳述をした堀尾輝久さん、菱山南帆子さん、辻仁美さん、河合節子さん、新倉裕史さんら5人の原告からは法廷での意見陳述の感想とこれからの闘いへの決意が述べられた。

 最後に福田護弁護士が、訴訟の今後の展開について次のように述べた。今後は国の答弁書に反論していくことが主な課題だ。
 われわれが訴えたのは、集団的自衛権の行使は違憲である、重要影響事態法による後方支援活動も違憲だ、国際平和支援法にもとづく協力支援活動も違憲だということだ。この違法な法律で私たち原告の権利が三つ侵害されている。それは、@平和的生存権、A人格権、B憲法改正・決定権だ。
これから、平和的生存権などの主張をしていくとともに、違憲の法律によって一人ひとりの日常の生活や権利が侵害されている、だから違憲の法律はあってはならないという具体的な権利の侵害性を裁判所に提示していく、これを柱に国の主張に正面から反論していくことだ。

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安保法制違憲訴訟訴状から

 新安保法制法の制定は、…@憲法前文及び9条の下で、戦争や武力の行使をせず、戦争による被害も加害もない日本に生存することなどを内容とする、原告らの平和のうちに生存する権利(平和的生存権)を侵害します。Aまた、日本が外国の戦争に加担することによって、国土が他国からの反撃やテロリズムの対象となり、あるいは外国での人道的活動・経済的活動等を危険に晒すなど、生命・身体の安全を含む人格権を侵害します。Bそして、憲法改正の手続を経ることなく憲法違反の法律によって憲法の規定を実質的に改変してしまった今回の新安保法制法制定の過程と手続は、憲法改正・決定権を侵害するものでもあります。


日韓労働者連帯交流集会

            闘う韓国労働運動からの報告

 8月26日、文京区民センターで、全国労働組合連絡協議会や韓国労働者と結ぶ会などによる実行委員会主催の「日韓労働者連帯交流集会―最低賃金1万ウォン獲得、首切り自由絶対阻止、朴槿恵政権の労働者抑圧攻撃と闘う韓国労働運動」が開かれた。
 韓国では、今年4月の総選挙で、朴槿恵政権に対する労働者民衆の怒りを背景に野党の躍進と与党セヌリ党の過半数割れという事態が勝ち取られた。民主労総は、今年、政権の新自由主義政策と真っ向から対決し、労働法制改悪阻止、最低賃金1万ウォン(920円)獲得などの要求を掲げ、ゼネスト、民衆総決起を繰り広げて朴槿恵政権に致命的な打撃を与え、そして来年の大統領選での勝利を目指して闘い抜いている。

 はじめに全労協の金澤壽議長が、日韓労働者の交流・連帯を強め、民主労総を激励するための今日の集会を契機に両国の労働運動のさらなる前進を実現していこうと歓迎の言葉を述べた。

 つづいて6人の韓国訪問団が紹介された。
 
 訪問団を代表して、民主労組仁川地域本部・本部長のキム・チャンゴンさんが「民主労総の闘いと展望」と題して報告を行った。
 民主労総は2月の定期代議員大会において20166年の事業の基調を次のように決定した。@労働改悪の阻止、民主労組の死守、A労働改悪勢力の審判のための総選挙に対応する総力闘争、B経済政策の失敗と民生破綻への財閥責任の全面化、財閥中心の経済体制の再編要求の大衆化、C戦略組織事業の強化、D最低賃金1万ウォン獲得闘争の全面化、E組織革新の土台の構築、F反民主、反民生、反労働政権に対抗する民衆連帯闘争の強化。
 この間、1〜2月には「労働改悪法案阻止、不法な政府指針粉砕ゼネスト闘争、労働者庶民救済汎国民署名運動」、2〜4月「総選挙対応闘争」、6〜7月「労働法全面改悪法案阻止、不法な政府指針撤廃、最低賃金1万ウォン獲得、財閥責任の全面化、ゼネスト総力闘争」を闘ってきた。
 民主労総の今年上半期の闘いは、昨年に繰り広げられた民主労総ゼネスト総力闘争と民衆総決起闘争の成果と限界とをそっくり引き継いだ連続した闘いとみることができる。労働者民衆の闘いと総選挙のセヌリ党の過半数割れという結果にもかかわらず、朴槿恵政権はなお一方的な政策基調を改めずにいるが、セヌリ党は内部の権力闘争からいまもって抜け出せずにおり、大統領は30%という低い支持率でレイムダック状態が加速している。にもかかわらず、朴槿恵政権は民衆総決起を主催したという理由で民主労総のハン・サンギュン委員長に懲役5年を言い渡し、捜査機関を動員した公安弾圧によって反対勢力を追い落とし、自分に近い「親朴」勢力を前面に立ててセヌリ党を掌握し、党を私物化することによって資本側に有利な政策を引き続き推進する後継者づくりに明け暮れている。
 民主労総は今年創設20周年を迎える。8月の政策代議員大会では、財閥体制の克服、労働法の全面改正、労働時間の短縮を3大戦略闘争とすること、2017年の最低賃金1万ウォンと労組活動の権利の獲得を要求し、戦略ゼネストを準備をする、そして、階級代表性の確保に向けた組織革新と未組織・非正規労働者の組織化のための方策、停滞している産別労組運動の飛躍と地域本部強化のための対案、労働者の新たな政治運動についての模索が主な議題だ。そして9月〜10月の第2次ゼネストと20万人の動員を目標とする11月の民衆総決起を基盤として朴槿恵政権の一方的な政策推進に歯止めをかける。同時に国会に働きかける闘いによって各種法制度の改善を促す。
 2017年には500万人の低賃金労働者の賃金の基準となる最低賃金1万ウォン獲得を前面に打ち出してゼネストを組織する。この闘いは民主労総が正社員、大企業、男性労働者の組織だという批判を払拭し、非正規織、中小零細事業所、女性労働者も包括する名実ともに備わった民主労組であることをあらためて確認するきわめて重要な契機となるはずだ。そして、それらの成果をもとに、下半期には本格的な大統領選闘争に突入する。

連帯挨拶は、国鉄労働組合、日韓民衆連帯全国ネットワークから行われた。


ピースサイクルが浜岡原発、空自浜松基地などへ申し入れ

 7月24日、中部電力浜岡原発へ神奈川ピースの仲間とともに、3号炉・4号炉の再稼働の申請を取り下げることをメインにした申し入れ書を手渡しました。
 申し入れ書では、「中部電力は、南海トラフ巨大地震への対策として、想定される最大の揺れを1000ガルから1200〜2000ガルに引上げている。このことは、少しでも想定外の地震が起きた場合は、日本全国を巻き込んだ重大事故になるため、直ちに再稼働している申請を取り下げること」を要求した。
 7月25日、浜松市役所に、平和行政の推進、戦争法廃止を国に要請するように、そして浜岡原発の廃炉などを申し入れ書で要請してきました。
 ついで航空自衛隊浜松基地に、PAC3・AWACSの撤去、オスプレイの飛行中止を要請しました。
 7月26日、愛知ピースの仲間とともに、陸上自衛隊豊川駐屯地に赴き、要請行動を行ってきました。


平和の灯を!ヤスクニの闇へキャンドル行動

        戦争法の時代と東アジア


 8月13日、東京で「2016 平和の灯を!ヤスクニの闇へ キャンドル行動―戦争法の時代と東アジア」が取り組まれた。
 午後一時半から韓国YMCAで、シンポジウム「戦争法の時代と東アジア―『戦死者」とヤスクニ―」が開かれた。
 はじめにの今村嗣夫さん(キャンドル行動実行委員会共同代表)が主催者あいさつ。戦争法の時代にヤスクニの闇はますます深まっていく。自衛隊法70条によると、内閣総理大臣は、集団的自衛権の行使を含む有事の場合、自衛隊に「防衛出動命令」を発するが、その場合、防衛大臣は、民間の予備自衛官に対し「出頭日時」と「出頭場所」を特定した「防衛招集命令書」による招集命令を発することになるという。その防衛招集命令書の「紙の色は淡紅色とする」、つまり淡い「赤い色」とすると指定されている。今の自衛隊と予備自衛官は「志願制」だが、昔の「徴兵制」の下での「赤紙」が復活してきている。戦争法の時代に、いつでもこの「防衛招集命令書」を発することができる法的整備はできているということだ。なお、近時予備自衛官の拡充が提言されている。自衛隊員が戦死した場合の処遇は、ヤスクニに合祀するのかどうかは、法律で定よっていない。しかし、戦争のできる普通の国を目指す首相や皆で靖国神社に参拝する閣僚や国会議員らの靖国参拝の真の目的は、時間をかけて、国民の間のこれまでの九条の平和主義の精神をよわめ、「戦争のできる国の国民」とすることにあるのだと思う。そのため、テレビに映る「公人」の靖国参拝という「国民の目に見える教育」により、国および国民一心となって戦没者を追悼し、滅私奉公の全体主義の道徳の復活をもくろんでいる。首相、閣僚、議員らの靖国参拝は、日本の政教分離原則が防止しようとしている「民族宗教」による精神的支配の一環であることに気づかなければならない。

 最初の基調報告では高橋哲哉さん(東京大学教授)が、「安保法制から安保体制へ―安倍政権下の日本で問われること」と題して発言。私が沖縄の米軍基地の本土引き取りを提起するのは、沖縄に米軍基地の負担とリスクを押しつけてきた、また押しつけている、このようなメカニズムを指摘し、本土日本人の加害責任を指摘することによって、沖縄への構造的差別をやめ、日米安保体制を全面的に問い直すきっかけにしたいからで、安保解消の運動は、沖縄の闘いにおんぶするのではなく、本土でこそ勝負して、決着をつけなければならないという意味だ。

 つづいて、金敏浮ウん(民族問題研究所責任研究員)が「揺れ動く東北アジア、米日韓軍事同盟体制」と題して報告した。2012年10月、韓中日協力事務局主催の国際フォーラムで初めて言及された「アジア・パラドックス」は、東アジアにおいて経済分野の複合的相互依存が深まる反面、政治・安保分野の葛藤が増大する現象を指摘したものである。さらに2000年代以降、日本社会が急激に右傾化するとともに、継続する歴史論争に領土問題と教科書問題、靖国参拝問題などが加わり、歴史・領土をめぐる韓・中・日3国間の対立が激しくなった。このような現象の背景には、日本の右傾化だけでなく、アメリカの衰退、中国の浮上、韓中日3国問における国力差の縮小など、複雑な要因が存在している。
 東北アジアの国際秩序について話をする際には最も重要なアメリカを取り上げないわけにはいかない。特にアメリカの「アジアヘの回帰」政策が及ぼした影響と展望を考えれば、東北アジアの情勢はさらに複雑で不安定になるだろう。朝鮮半島にはいわゆる海洋勢力と大陸勢力の交差点としての役割をなすという地政学的な宿命があるため、国際的な変化に対する理解は共同体の存立とも直結する問題だった。したがって、一部で指摘されているように、あたかも19世紀末の朝鮮半島を連想させるという現在の混乱した状況が、どのような条件の下で起きているのか、客観的に認識することは大変重要な課題だと考える。変化の第一の原因としては、やはり中国の浮上だ。中国の経済成長は、単なる一つの国の経済成長にとどよらず、国際秩序のヘゲモニーが変化しているということを意味する。このような経済成長を土台に、この開、中国の対外戦略は、韜光養晦(自らの才能を外に示さず、忍耐して待つ)から和平崛起(平和にそびえ立つ、すなわち、軍事的な威嚇をせず、平和的に成長する)へ、さらにそれを超え、今やG2としてアメリカと新型大国関係を構築するという水準にまで発展した。ソ連の崩壊後に成立したアメリカ中心の単極体制が崩れ、中国が速いスピードで影響力を増大させているのである。中国の飛躍的な発展に警戒心を抱くアメリカは、2010年10月、対外戦略の中心軸をアジアに移動するという「アジアヘの回帰」政策を発表し、中国を牽制することとなった。アメリカの伝統的な介入主義が名を変えて再び登場したのである。しかし、アメリカが支配した時代はすでに幕を下ろしている。イラクとアフガニスタンで行った戦争は、軍事的な失敗であっただけでなく、アメリカに莫大な借金を抱えさせた。アメリカが戦争をしている問に、中国は、経済的な力量をさらに大きくした。
 したがって、アメリカは、可能ならば、同盟国の軍事能力を活用して総合することが必要となり、これに対する切迫感も強くなった。力が弱まったとはいえ、影響力は維持し続けていかねばならないアメリカとしては、下位パートナーに力を借りるという方向へ戦略を修正せざるを得ない。アーミテージとナイの報告書は、直接的に「強い日本を必要とする」として、原発問題から軍事分野に至るまで細かい「助言」をした。この報告書は、米日韓の同盟関係を害する要因として韓日間の歴史葛藤と集団的自衛権の禁止を挙げた。強い日本をつくるためには、自衛隊の海外軍事活動を抑制する鎖を解き、日本を「普通の国家」、または「戦争する国」にしなければならない。2015年の「ガイドライン」改正と「戦争法」の制定は、これを実現するための決定で、「アジアヘの回帰」政策が生み出した具体的で実践的な軍事的成果だったと言える。
 1965年、韓日協定締結で、いわゆる「1965年体制」が成立した。1965年体制とは朝鮮戦争を前後して朝鮮半島に構築された米ソ冷戦体制によって脱植民地の課題が抑圧され対症的に解決された体制と規定することができる。その結果、アメリカを媒介とした米日、米韓の擬似三国同盟体制が下位体制として成立した。これが完全な同盟体制となり得ない理由は、韓日間の脱植民地の課題が解決されないままに、そのままつづいて提起されたためである。
 日韓関係について言えば、歴史葛藤の中心的な主題は、日本軍「慰安婦」問題をはじめとし、靖国問題、強制動員・強制労働補償問題などがある。この問題を解決するには、二つの道がある。まず、反歴史的な方式によって解消する方法である。現在においては米日韓軍事同盟体制の完成を妨げる重要な要因であるため、この葛藤を解消した場合、順調な同盟体制が構築されるであろう。韓日両政府の昨年末の12・28合意はそこにより重心がかかっている。 それとは別に、理にかなった方法がある。これは、韓日両国の民主主義が拡大・強化された場合にのみ可能な方法である。両国の歴史から見た時、「過去清算」(「過去克服」)は、民主主義と緊密につながっている。二つの課題が分離した場合、民主主義が、内部の民主主義を拡大することはできるかもしれないが、他者に対する排除と抑圧を防ぐことはできない。日本の「戦後民主主義」が植民地主義の問題を視野に入れることができなかったために限界が露呈したという批判は、そのような点において理論的にも実践的にも意味するところ大きい。社会の格差を抑制して民主主義を守るための努力と平和言説を拡散させ、脱植民地主義などの「過去清算」を履行しようとする実践は、互いに連結する課題である。

 つづいて、新垣毅さん(琉球新報編集委員)が、「戦争法下の沖縄―踏みにじられる琉球の自己決定権」について報告し、自己決定権の拡大の第一の課題は辺野古新基地建設阻止だと強調した。

 山本博樹さん(日本)、朴南順さん(韓国)と李熙子さん(韓国)が被害者証言、また日本軍「慰安婦」問題解決全国行動、戦争をさせない1000人委員会、日本国際ボランティアセンター、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックが連帯あいさつを行った。

 集会を終わって、キャンドル行動に出発、右翼勢力の暴力的デモ妨害をはねのけて、闘い抜かれた。


高江ヘリパッドの工事取材への弾圧

       
  国家権力による報道の自由侵害に断固抗議する

 8月20日、沖縄県の東村高江に建設中のヘリパッド工事現場で、建設に抗議する市民を機動隊が強制排除する様子を取材中の沖縄地元紙「沖縄タイムス」と「琉球新報」の記者2人が機動隊によって、警察車両の間に閉じ込められるなど自由な取材活動の機会を奪われ、そして強制排除され、拘束されるということがおこった。腕章や社員証の提示などで記者であることは明白であったにもかかわらず、国家権力による報道の自由への重大な侵害が行われたのである。反対運動とそれへの弾圧を知らせまいとする安倍政権下での警察権力のやりかただ。

 こうした暴挙に対して、23日には沖縄マスコミ労組(沖縄県マスコミ労働組合協議会・古川貴裕議長、日本新聞労働組合連合沖縄地連・宮城征彦委員長、日本民間放送労働組合連合会沖縄地連・野島基委員長)は、「東村高江のヘリパッド強行建設と報道の自由侵害に抗議」する声明を発表し、「現場で起きていることを正当に記録し、伝えていくという使命を全うする我々を力で抑え込み、国家権力が都合の悪いことを隠し、報道の自由の根幹を侵害する許し難い行為である。報道の自由を脅かす行為は、工事再開の日も行われている。県が管理する県道を、警察が一方的に封鎖し、反対する住民に限らず、一般に往来する人に加え、我々マスコミも対象となった。報道の自由は憲法の下に保障されているものであり、時の権力がそれを脅かすとなれば、我々は、断固それを拒否し、ペンとカメラで政権の横暴に対峙していく。警察法第2条には『日本国憲法の保障する個人の権利および自由の干渉にわたる等その権限を乱用することがあってはならない』と明記されており、明らかに法の精神からも大きく逸脱する異常事態である。我々は、高江ヘリパッドの工事再開に反対するとともに、国家権力による報道の自由侵害に断固抗議する」と政権の暴圧に屈しない態度を明らかにした。

 新聞労連も「警察による新聞記者の拘束、排除に強く抗議する」声明(8月24日)で、「防衛省によるヘリパッド建設は、地元住民らが根強い反対運動を続ける中、7月の参院選直後に全国から集められた数百人の機動隊員による強制力を用いて再開された。多くのけが人や逮捕者まで出る緊迫した状況が続いており、現場で何が起きているのかを目撃し伝えることは、地元紙はもとより沖縄で取材活動を続けている全ての報道機関にとって大切な使命だと考える。実力行使で報道を妨害する行為は、絶対に認めるわけにはいかない。言うまでもないことだが、言論、表現の自由は憲法の下で保障されている国民の権利である。新聞労連は沖縄県のマスコミの仲間とともに、報道の自由を侵害する行為とは断固として闘うことを宣言する」としている。

 沖縄をはじめマスコミ労働者の弾圧に抗して言論、表現の自由を守る闘いは、安倍政権の不当不法な行動を広く知らせ、闘争の孤立・分断化を許さない重要な戦線であり、その活動に大きな支援の輪を広げていかなければならない。


テロを口実にまたも出てきた共謀罪

     
 大きく世論を拡げて完全に粉砕しよう

 安倍政権の「戦争する国づくり」に向けた暴走の一つのあらわれとして、これまで大きな反対で〇三〜〇五年に三回も廃案になってきた悪名高い「共謀罪」を、「テロ等組織犯罪準備罪」などと名称を変更するなどした改正案をこの臨時国会にも提出しようとし、法務省が国会提出の準備を進めていることがある。
 犯罪行為として罪に問われるのは、具体的な被害が生じたり、犯罪行為に着手して危険が生じたりする場合に限られる。しかし、共謀罪とは複数の人が犯罪を行うことを話し合って合意(共謀)しただけで罪に問えるようにするもので、さまざまの市民運動などを押さえつけ、弾圧するために使われるのは目に見えている。共謀罪は警察・暗黒社会の基盤となるものだ。今度の法案では、対象集団を絞り込み、要件に準備行為を加えたというが、安倍政権の下で拡大解釈されることは必至である。

 臨時国会を前に、菅官房長官は「国際社会と協調して組織犯罪と戦うことは極めて重要」と言い、これに連立与党の公明党の山口代表が、「東京オリンピックなどを控え、日本も国内法をきちんと整備して、テロが起きない法的環境を整える必要がある」などと「理解」を示した。
 今回は、テロ組織やマフィアなどの犯罪集団による国際的な組織犯罪に対応するためとして、対象となる犯罪は「4年以上の懲役・禁錮に当たる犯罪」(罪種は600程度)で過去の法案と同じだが、「共謀罪」の適用対象を「組織的犯罪集団」とし、「テロ等組織犯罪準備罪」を新設して突破口を切り開こうというのだ。この「組織的犯罪集団」は@組織的犯罪集団としての活動A2人以上の具体的な計画B犯罪実行の準備行為などが犯罪の構成要件として検討されている。
 右派マスコミの読売新聞は「『共謀罪』法案 テロの未然防止に不可欠だ」(8月31日社説)で「2020年に東京五輪の開催を控える。テロ組織の犯罪を未然に防ぐために、必要な法整備を進めることは重要である」「法整備によって、国際連携の枠組みに参加し、要注意人物などに関する情報の交換を緊密にできるようになる意義は大きい」とし、また「テロの封じ込めには、端緒の迅速な察知も求められる。…目的に、裁判所の令状に基づいて実施する『司法傍受』のみが認められている。欧州ではテロに関する情報収集としての『行政傍受』も行われている。この導入も検討課題だ」と主張している。
 オリンピック、テロなどで不安感をあおり、この悪法を成立させ、それに盗聴法の拡大なども併せて治安体制を気づき上げようとする右派勢力の世論づくりは始まっている。大きく運動をもりあげて共謀罪法案を絶対に阻止していかなければならない。


スノーデンの警告

     
 ここまできている日本の監視社会

 8月27日、渋谷区立勤労福祉会館で「『スノーデンの警告』―ここまできている日本の監視社会」が開かれた。これは、「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、盗聴法廃止ネット、共通番号いらないネットの共催によるものだ。
 はじめに日本のジャーナリストで初めてスノーデン氏に単独インタビューしたジャーナリストの小笠原みどりさんが講演。アメリカ国家安全局(NSA)の契約職員だったエドワード・スノーデンは、アメリカ政府の監視システムを告発した。メール、チャット、ビデオ通話、ネット検索履歴、携帯電話での通話など、世界中のあらゆる通信経路を通過する情報のすべてをNSAが掌握しようとしているという事実が明らかにされた。NSAは米国防長官が直轄する信号諜報と防諜の機関だ。NSAはテロ対策を名目にブッシュ政権から秘密裏に権限を与えられ、大量監視システムを発達させていった
 スノーデンはNSAが自由と民主主義を蝕んでいることを指摘し、監視システムが人目の届かない場所でいかに乱用されているかを知らせた。亡命先のロシアからスノーデンは、5月に、私のインタビューに応じた。スノーデンは2009年にNSAの仕事を請け負うコンピュータ会社デルの社員として来日し、東京都福生市で2年間暮らしていた。勤務先は、近くの米空軍横田基地内にある日本のNSA本部だった。NSAは世界中の情報通信産業と密接な協力関係を築き、デルもその一つであり、米国のスパイ活動はこうした下請け企業を隠れみのにしている。2013年12月、秘密保護法が強行成立させられたが、スノーデンはアメリカからの圧力があったという。しかもNSAは表面上は日米の「友好関係」を強調しながら日本政府の各機関や企業からも情報を収集し、英語圏の国々(イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ)にも一部共有されていた。日本は協力国ではあるが、監視対象ともなる位置にある。
 日本の情報収集は「ターゲット・トーキョー」と呼ばれる。その盗聴経路はわかっていないが、NSAは国際海底ケーブルへの侵入、衛星通信の傍受、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどインターネット各社への要請などをやっている。そのようにしてNSAは、世界中のコミュニケーションの「コレクト・イット・オール」(すべて収集する)を目指している。このうち国際ケーブルなどの通信インフラに侵入して情報を盗み出す「特殊情報源工作(SSO)」を、スノーデンは「今日のスパイ活動の大半であり、問題の核心」と呼んでいる。SSOは主に、国際海底ケーブルの米国上陸地点で、ケーブルを通過する大量の情報をNSAのデータベースへと転送する工作を施す。世界の通信の多くが米国内のインターネット、通信会社のサーバーを通過するから、日本国内で送受信されたメールであっても、米国内のケーブル上陸地点を通過すれば情報を盗むことができるのであり、「コレクト・イット・オール」は政府機関だけではなく、すべての人々の通信を対象にしているといえる。
 米国内では大手通信会社のベライゾンやAT&Tがデータ転送システムの構築に協力し、利用者データをNSAに渡してきている。この両社も参加した日米間海底ケーブルのひとつに「トランス・パシフィック・オーシャン」があるが、米側の上陸地点オレゴン州北部のネドンナ・ビーチの内陸、ヒルズボロに陸揚げ局がある。NSA文書に記載された国際海底ケーブル「トランス・パシフィック・エクスプレス」の日本の接続地点は千葉県の「新丸山」にある。日本からのデータがこの地点で吸い上げられている可能性は高い。
 インタビューの中でスノーデンは「僕が日本で得た印象は、米政府は日本政府にこうしたトレードに参加するよう圧力をかけていたし、日本の諜報機関も参加したがっていた。が、慎重だった。それは法律の縛りがあったからではないでしょうか。その後、日本の監視法制が拡大していることを、僕は本気で心配しています」と言っている。
 こうしたことのツケを払わされるのは個人、私たち一人ひとりだ。大量監視システムは「監視されても構わない」と思う人たちでさえ、執拗に追い回し、いつでも「危険人物」に変えうるのだ。
 つづく第二部のシンポジウムでは、海渡雄一さん(「秘密保護法」廃止へ!実行委員会)、宮崎俊郎さん(共通番号いらないネット)、小倉利丸さん(盗聴法廃止ネット)からの発言があった。


国連表現の自由特別報告者デビット・ケイさんの暫定報告書について学習会

 安倍政権は秘密保護法を軸にメディア規制を進めている。日本のメディア規制、表現の自由の侵害には、日本国内のみならず国際社会も危惧を深めている。
 国連の表現の自由特別報告者デイビッド・ケイさんは今年の4月中旬、日本を公式に訪問し、暫定報告書を発表した。その報告書は、高市早苗総務相が放送局の電波停止に繰り返し言及した問題について「大いに懸念を抱いている」とし、また秘密保護法は秘密の定義が曖昧で適用が拡大される可能性があり「法を根本的に変えるべき」とし、また歴史教育と教科書、差別とヘイトスピーチ、選挙運動の規制、インターネット表現、デモにおける警察による規制などについても危惧するものとなっている。
 なお正式の報告書は来年2017年に国連人権理事会に提出することになっている。

 8月30日、文京シビックセンター・ホールで開かれた学習会「表現の自由と国際人権―国連表現の自由特別報告者ケイ氏の暫定報告書を受けて」で、海渡雄一さん(秘密保護法対策弁護団)の講演が行われた。
 国連人権理事会が任命した「意見及び表現の自由」の調査を担当する国連特別報告者のディビッド・ケイ氏が、4月12日から4月18日まで日本の表現の自由と市民の知る権利に関する公式の調査を行い、4月19日、日本政府などに対する暫定的勧告を公表した。
 暫定報告書は、A4版で8ページに及び、かなり詳細な事実認識と改善すべきポイントが指摘されている。外務省、法務省、総務省、参院法務委員会、内閣情報調査室、最高裁判所、警察庁、海上保安庁、内閣サイバーセキュリティセンター、文部科学省、NHK、民間放送協会、新聞協会、雑誌協会、日本インターネットプロバイダー協会、さまざまなNGO、ジャーナリスト、弁護士などが訪問と対話の対象で、これは国連自身が決めたものだ。
 ケイ氏は、離日時のプレスリリースで「報道の独立性は重大な脅威に直面しています」「脆弱な法的保護、新たに採択された『特定秘密保護法』、そして政府による『中立性』と『公平性』への絶え間ない圧力が、高いレベルの自己検閲を生み出しているように見えます」「こうした圧力は意図した効果をもたらします。それはメディア自体が、記者クラプ制度の排他性に依存し、独立の基本原則を擁護するはずの幅広い職業的な組織を欠いているからです」「多くのジャーナリストが、自身の生活を守るために匿名を条件に私との面会に応じてくれましたが、国民的関心事の扱いの微妙な部分を避けなければならない圧力の存在を浮かび上がらせました。彼らの多くが、有力政治家からの間接的な圧力によって、仕事から外され、沈黙を強いられたと訴えています。これほどの強固な民主主義の基盤のある国では、そのような介入には抵抗して介入を防ぐべきです」といっている。
 ここで、ケイ氏の指摘は、政府の介入によって、メディア内部の自主規制、自主検閲が強まっていること、メディアが政府に対する監視役として、積極的に問題を提起していく役割を負っていることが認識されず、また連帯の精神にもとづく政府への抵抗が弱いことを厳しく指摘している。
 そして、メディア自らに連帯して抵抗する責任があるとして、次のように指摘している。「メディアは、その脆弱性に対して、かなりの部分の責任があります。もちろん、もし日本のジャーナリストが、職業的でメディア横断的な、そして独立し、互いに連帯できる機関を持っていたなら、政府の影響に対して、容易に抵抗することができたでしょう。しかし、そのようなものはありません。いわゆる『記者クラプ』システム、プレスクラブは(所属する者の情報への)アクセスに役立ち、フリーランスとオンラインジャーナリズムに不利益をもたらし、(彼らを)除外することに役立つだけです。」

 報告の後、日本のメディアの現状、ジャーナリストの横のつながりをどう作っていくなどについて話し合われた。


せんりゅう

      ひと声のありて世間はうごめきし

      フクシマの百年さきも原発碑

      怖いねえタバコゲンパツアベ首相

  2016年9月

                       ゝ 史


複眼単眼

      
 世界史の流れの変化の中での2015年安保の位置

 2011年のニューヨークでの「9・11事件」とその後のブッシュ米国大統領による「反テロ報復戦争」「イラクの大量破壊兵器保有に対する先制攻撃」を口実にしたイラク戦争の強行は、中東地域だけでなく全世界を「冷戦の時代」終了後のあらたな激動の時代に陥れた。以来、今日なお中東地域では15年以上にわたって戦争がつづいており、テロと報復戦争が入り乱れ、おびただしい数の死傷者が発生し、膨大な数の難民が全世界に広がり、各国を不安定化の渦に巻き込んでいる。この渦に巻き込まれた西欧資本主義は新自由主義の台頭のなかで、重大な困難に直面し、欧米諸国もまた危機の例外地域ではあり得なくなった。そのような中で発生した「アラブの春」は全世界に伝播し、韓国、台湾、ビルマなど、東アジアや中南米でも民衆の運動が躍動した。イギリス、ドイツ、スペイン、アメリカなど欧米各国にも民衆運動のあたらしい流れが登場し、その最たるものが米国の民主党大統領選挙におけるサンダースらの民主主義的社会主義運動や英国労働党内の左派コービン党首らの台頭、スペインにおけるポデモスなどであろう。そして、これに相対するかのように欧米諸国でのトランプをはじめとする排外主義・ナショナリズムの極右勢力の台頭も、現代社会の対立と分裂の時代の深刻さを象徴している。世界は現状の打破と改革をもとめて、左右の新たな対立と激突の時代を迎えつつある。
 日本社会における2011年3・11以降の新たな市民運動の台頭が安倍政権の下で起こっていることもこの世界史的な流れの一環に他ならない。
第2次安倍政権の誕生を前後して、この日本社会の政治風景が大きく転換しつつあることを痛感している。先の「15年戦争」の敗戦に際して、ポツダム宣言を受け入れ、日本国憲法を制定して以来、まがりなりにも「平和国家」として70年近くを歩んできたこの社会の価値基準、安倍晋三首相がいみじくも「戦後レジーム」と呼んだ一つの時代の主流であった価値基準が大きくねじ曲げられ、崩れ去ろうとしている。
2015年安保はこの歴史的反動への抵抗であり、異議申し立てであった。
 2015年安保闘争の商業メディアによる報道や記録は、ともすると、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)やママの会(安保法制に反対するママの会)などの新しい運動体の行動の紹介に偏ったきらいがある。とりわけ、SEALDsが解散するということになった2016年8月15日を前後する報道は、あたかも2015年安保闘争を主導したのはSEALDsであり、それが「解散」するのだという「安保闘争」へのレクイエムのような論調であった。
 一面、これはやむを得ないことだと思う。メディアや一部研究者にとっては新生の事物が関心事であり、かの世界では「犬が人間を噛んでもニュースにはならないが、人間が犬を噛むとニュースになる」のが常である。しかし、これらの新しい社会運動体に加えて、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」のような、商業メディア受けはしないが、歴史を背負った、左派的な社会運動の存在なくして、「2015年安保」はあり得なかった。そして、その中にも若者や女性たちの運動はすくなからず存在し、SEALDsの解散後もそれらの人びとは反戦平和の旗を高く掲げ、運動を続けている。筆者は、ここにたしかな「希望」を見いだしている。
 政治学者の中野晃一氏(上智大学教授)は早くから、この「総がかり行動実行委員会」などと、SEAIDsやママの会、学者の会など新しい市民運動の共同の関係を「敷き布団と掛け布団の関係」としてとらえ、各所で発言した。
 「夏は、あんまり掛け布団がいらず、敷布団だけあれば寝られるんですが、冬になると、あったかい掛け布団がでてくるとうれしい。寒さって下からくるので、敷布団がしっかりあって断熱してくれるから、上の羽毛布団があれば、あったかく感じる。そう考えてみると、『総がかり行動実行委員会』の方たちなど、平和運動をずっとやってこられたような方たちは本当に『敷布団』のようなもの。その後、『立憲デモクラシーの会』とか『学者の会』とか日弁連とか、ママの会、シールズという、どんどん『掛け布団』が重なってくるところがあった。どうも『敷布団』に対する感謝が少ないなと思って(爆笑)。おわびのような思いも込めて言ったんですね。少し失礼かなと思ったら、意外と喜んでくださって」(2015年10月21日、「しんぶん赤旗」共産党小池副委員長との対談)。
 運動への希望をもちながら「敷き布団」の努力はつづく。   (T)