人民新報 ・ 第1342号<統合435号(2016年10月15日)
  
                  目次

● 政権への怒りを大きく合流させて安倍暴走内閣打倒へ!   野党共闘で衆院補選の勝利めざそう

● 日本政府による沖縄への差別・弾圧を許さない   翁長知事への提訴 辺野古の工事再開 高江の工事強行する安倍政権に断固たる反撃を! 

● 脱原発!  戦争法廃止!  沖縄基地建設阻止!   「さようなら原発 さようなら戦争 大集会」

● 郵政「65歳解雇裁判」・控訴棄却の不当判決

● 「中国残留孤児問題フォーラム」   残留孤児問題を忘れない   中国人養父母に感謝の念を表す

● 雇用共同アクション決起集会   安倍「働き方改革」にだまされるな!  生活時間と賃金を取り戻そう!

● 講演会―「日中友好の展望 平和資源としての三菱マテリアル和解」

● 報道の自由とは何か   超満員だった岸井成格さん講演集会

● KODAMA  /  生まれた時のこと

● 複眼単眼  /  野党共闘は「希望」でなくなったのか





政権への怒りを大きく合流させて安倍暴走内閣打倒へ!

         
野党共闘で衆院補選の勝利めざそう

 九月二六日、臨時国会が開会した。安倍が所信表明演説で「我が国の領土、領海、領空は、断固として守り抜く。強い決意を持って守り抜くことを、お誓い申し上げます。現場では、夜を徹して、そして、今この瞬間も、海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が、任務に当たっています。極度の緊張感に耐えながら、強い責任感と誇りを持って、任務を全うする。その彼らに対し、今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」と述べると、自民党議員が次々に立ち上がり、拍手が続いた。おごりに満ちた政権の姿である。
 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会は、安倍政権の暴走止めよう!臨時国会開会日行動を開き、市民、労働組合と議員が集会を開き、院の内外を結んで秋の闘いのスタートを確認しあった。
 陸上自衛隊第5普通科連隊(青森市)を中心とするPKOの「駆け付け警護」など新任務の実動訓練がはじまった。訓練反対・派兵阻止の闘いをつよめ、各地で闘われている違憲訴訟を広げ、違憲戦争法廃止に向けた世論の大きなうねりを作り出さなければならない。沖縄の高江ヘリパッド、辺野古新基地建設阻止にむけて闘いを全国に結ぼう。普天間即時閉鎖、辺野古新基地建設反対・工事着工阻止、オスプレイ配備・訓練反対、日米地位協定改定を求め、「沖縄県民の民意尊重と、基地の押し付け撤回を求める全国署名」を成功させよう。安倍は、米国の有力次期大統領候補二人も反対しているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を批准しようとしているが、食と暮らし・いのちを危うくするだけでなく、東アジアの緊張を高めるTPP批准を阻止しなければならない。「もんじゅ」はついに「廃炉」となる。原発再稼働阻止、脱原発の運動を進めよう。臨時国会では、年金カット、GPIF改革などの年金関連の法案、労働基準法改悪法案が出されるが、おおくの人々、運動を大合流させて廃案に追い込まなければならない。都の豊洲新中央市場問題や2020東京オリンピック・パラリンピックをめぐる諸問題、天皇の生前退位、また富山市議会などの汚職をはじめとする保守政治構造の腐敗の表面化など安倍のまえにさまざまな問題が表面化してきた。人びとの怒りは拡大している。安倍は、反対運動を想定して、これまで何度も廃案になっているゾンビ法案「共謀罪」をまたひき出し、来年の通常国会に出すという。
 改憲策動を強める安倍との闘いはまさに総がかりでの取り組みだ。野党共闘も、衆院補選で東京10区と福岡6区において野党統一候補が実現した。
 安倍内閣の暴走はとどまることを知らないが、その困難な側面も見え始めた。この情勢をしっかりとつかみ、安倍政権打倒し、日本の新しい進路を切り開くために断固として闘いを展開しよう。


日本政府による沖縄への差別・弾圧を許さない

     翁長知事への提訴 辺野古の工事再開 高江の工事強行する安倍政権に断固たる反撃を! 


 9月28日、日比谷野外音楽堂で「日本政府による沖縄への弾圧を許さない集会〜翁長知事への提訴 辺野古の工事再開 高江の工事強行を許さない!」が開かれた。集会は、「止めよう!辺野古埋立て!」国会包囲実行委員会が主催し、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会が協力してとりくまれたもので、2500人が参加した。
 沖縄平和運動センター・事務局長の大城悟さんが沖縄からの訴え。高江には機動隊が全国から集められ戒厳状態のなか、自衛隊機もつかって資材搬入などを強行しているが、権力には決して屈しない。
 沖縄選出の照屋寛徳衆議院議員(社民党)と糸数慶子参議院議員(沖縄の風)が闘いの拡大を呼びかけた。
ジュゴン保護キャンペーンセシターの三村昭彦さんは、ジュゴン保護決議を何度も行っているIUCN(国際自然保護連合)世界自然保護会議について報告した。
 フォーラム平和・人権・環境の藤本泰成共同代表、東京全労協の大森進議長、安保破棄中央実行委員会の東森英男事務局長が連帯の挨拶を行い、高江、辺野古への代表派遣などの運動について述べた。行政法研究者の白藤博行専修大学教授は、辺野古違法確認訴訟判決について報告した。
 集会アピールで「政府の沖縄差別に屈することなく不屈に闘う沖縄県民の闘いに連帯して、この『本土』でこそ、日本政府に怒りの声を上げていきましょう」と確認した。
 集会後のデモ行進では、辺野古・高江など沖縄基地機能拡大・強化と沖縄への差別・弾圧反対を訴えた。


脱原発!  戦争法廃止!  沖縄基地建設阻止!

        
 「さようなら原発 さようなら戦争 大集会」

 9月22日、福島原発事故から5年半、そして戦争法強行採決から1年になるこの時に、東京・代々木公園B地区・けやき並木で、激しい雨にもかかわらず、9500人の市民・労働者が参加して、「さようなら原発 さようなら戦争大集会」が開かれた。主催は「さようなら原発」一千万署名市民の会で、「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲行動実行委員会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会が協力して、安倍内閣の暴走に対するおおきな抗議の行動が取り組まれた。
 野外ステージでの第1部では「トーク&ライブ」。福島県飯舘村の酪農家で原発事故被害者団体連絡会(ひだんれん)共同代表、原発被害糾弾・飯舘村民救済申立団団長の長谷川健一さん、郡山市議会議員の蛇石郁子さん、避難の権利を求める全国避難者の会共同代表の中手聖一さんは、福島原発事故被害の現状、被災者・避難者の苦労、支援の打ち切りへの講義など切実なアピールをおこなった。北海道平和運動フォーラムの長田秀樹さんは、泊原発の再稼働を阻止し、幌延の高レベル核廃棄物の地層処分研究施設反対運動について報告した。
 第2部では、作家の澤地久枝さんが主催者を代表してあいさつし、「ひだんれん」共同代表の武藤類子さんは、汚染された大地・福島では暮らしが破壊されている、それなのに政府は非難指定解除で住宅支援の打ち切りをやろうとしている、運動への支援をさらに広げていってほしいと訴えた。
 詩人のアーサー・ビナードさんは、流ちょうな日本語で、東電や日本政府の態度を痛烈に皮肉り、安倍政権に終止符を打つべきだと述べた。 
 落合恵子さんからのメッセージが読み上げられた。
 第19代高校生平和大使の布川仁美さんは、欧州での原発問題の訴え活動を報告し、原発に反対する福井県民会議事務局長の宮下正一さんはもんじゅを本当に廃炉にさせるために運動を強めていこうと述べた。
 協力団体の「止めよう!辺野古埋め立て」国会包囲実行委員会の木村辰彦さん、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会共同代表の福山真劫さんは、ともに安倍政治を終わらせるために力を合わせていこうとあいさつした。
 最後に、呼びかけ人の鎌田慧さんが、脱原発、戦争法廃止、沖縄基地建設阻止を大きく合流させて闘い抜いていこうと閉会あいさつを行った。


郵政「65歳解雇裁判」・控訴棄却の不当判決

    闘いの矛はおさめない。不当解雇の責任を追及し、年齢に関係なく働ける社会をめざして闘い続ける。


 10月5日、東京高等裁判所23民事部(水野邦夫裁判長)は、郵便事業会社(現日本郵便)で期間雇用社員だった9人の原告が65歳定年制の導入で雇い止めされたのは不当だとして雇用継続などを求めた訴訟(地位確認等請求控訴事件)にたいし、控訴棄却の不当判決を言い渡した。郵政グループ各社は、2011年 9月、65歳以上の非正規社員約1万3000人を「雇止め」した。非正規社員は正社員の仕事内容や責任が全く同じであるにもかかわらず、正社員にくらべて、賃金は極めて低く、退職金は無く、年金も低水準で働かなくては生活していけない。そして65歳雇い止めを定めた就業規則が導入されるに際して非正規社員には知らされなかったのだ。また、この長期間働いてきた期間雇用社員=熟練労働者の「雇止め」解雇は、職場の人手不足をもたらし事業の運営に重大な支障をもたらすものとなっている。
 裁判所は高齢化社会の現実と正面から向き合って高齢者差別を是正し働く権利を回復させるべきであるにもかかわらず、東京地裁は昨年7月、会社側の主張である「コスト論」をすべて認める形で「原告の請求をすべて棄却する」という不当判決を下した。原告団は高裁に控訴して闘ってきたが、6日の高裁判決も、まったく地裁判決と同様のものであった。
 しかし裁判官は、「付言」として、期間雇用社員の生活保障や高齢者の労働力確保は社会的に必要であるとして、更新期間65歳上限の政策の再検討のための関係者の努力を求めるとも述べた。
 郵政「65歳解雇裁判」原告団、弁護団、支える会の「声明」は、「控訴棄却という極めて不当な判決をなした。満腔の怒りをもって判決を徹底的に弾劾する」とし、「判決は事実を直視していない。判決は、被控訴人日本郵便の期間雇用社員と正社員とは、その担当する職務の内容及び勤務の形態を異にするのであり、賃金、年金、退職金等の点で格差があるとしても不平等ではないとする。しかし、期間雇用社員と正社員の仕事内容と責任は全く同じであるにもかかわらず、賃金は3分の1で退職金もない。定年だけ同じにするのは不平等の極みである」と糾弾するとともに、また一審同様の会社の「コスト論」に立ったものであることを批判して、「我々は、本判決の不当性を強く主張するとともに、日本郵便が、この付言も踏まえて一刻も早く上限規則を撤廃するよう要求する。我々は、闘いの矛はおさめない。日本郵便による不当解雇の責任を追及し、年齢に関係なく働ける社会をめざして闘い続けることを表明するものである」と強調した。


「中国残留孤児問題フォーラム」

     残留孤児問題を忘れない    中国人養父母に感謝の念を表す


 10月2日、江戸東京博物館の大ホールで、「中国残留孤児問題フォーラム」が開かれた。日中協会、NPO中国帰国者・日中友好の会、工学院大学孔子学院、日中学院、日本中国文化交流協会、日本中国友好協会、方正友好交流の会、満蒙開拓平和記念館などが後援して取り組まれた。

 午前の映画「望郷の鐘 満網開拓団の落日」の上映が行われた。

 午後からは、帰国者によって舞踊劇「中国のお母さん」、独唱(曲目「憤怨」)、中国民族楽器合奏(曲目「荒城の月」)の公演が行われた。
 「シンポジウム―敵国のこどもを育てた中国人養父母」では、主催者を代表して、元孤児でNPO中国帰国者・日中友好の会理事長の池田澄江さんがあいさつ。中国人養父母は本当に貧しい生活の中で敵国の子である私たちを育ててくれた。もしそうでなかったら私たちもいない、このことに私たちは感謝している。日中両国の平和と永い友好を願っている。
 薛剣中国大使館公使参事官が来賓あいさつを行った。
 元孤児の中島幼八さんが基調報告。中国残留孤児の要件としては、@戸籍の有無にかかわらず、日本人を両親として出生した者、A中国の東北地区などにおいて、昭和20年8月9日以来の混乱により、保護者と生別または死別した者、B当時の年齢が概ね13才未満の者、C本人が自己の身元を知らない者、D当時から引き続き中国に残留し、成長した者、というのが必須のものだ。中国残留日本人孤児の問題を論じる場合は、被害者側中国の戦争孤児を度外視してはならない。あの戦争のなかで中国人の孤児がどれだけ発生したかわからない。中国人養父母と日本人孤児によって織りなす物語は、地域は旧満州に限られるが、様々なケースがる。収容所で死にそうな日本人の子が中国人の養父母に引き取られたり、河原で生き残った子が養父母に拾われたり、または集団自決した開拓団の死体の山から助け出されたり、山奥で抗日ゲリラに救出されたり等々、千差万別であり、どれも感動的な物語で涙なしには語れない。養父母と残留孤児の人数について、中国側の発表では、中国人養父母1万人、日本人孤児4千人とされている。しかし厚生省調査などを細かく検証していくと次のようになる。@残留孤児2818人、A前期引き揚げ(1946年〜)時の引き揚げ孤児11、351人、B後期引き揚げ(1953〜58年)時の残留孤児、人数不明、C60〜70年代に自力で帰還した残留孤児は人数不明、D未帰還、または大人になってから死亡等の残留孤児、ならびに3人以上の養父母を持つ残留孤児、E残留婦人(4160人)の連れ子も人数不明で、私の意見では合計すれば延べ人数は1〜2万人になると思われる。中国の養父母は非常に困難のなかで、日本人孤児を養育したが、それは苦労したばかりでなく、ときには中国社会から誤解もうけた。敵国の子供を育てる養父母の人間性豊かな精神、憎しみを超えた寛大な心、平凡にして偉大な養父母の群像に、しかるべき位置づけをしなければならないだろう。安倍首相の戦後70年の談話は「中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実……私たちは、思いを致さなければなりません」と述べたが、それを形にしてほしい。例えば、官民一体で首都東京において中国人養父母顕彰碑の建立などをおこなうべきではないだろうか。現在の残留孤児の悩みはまず、ことばの問題だ。そして、身元来判明の孤児が1500人もいる。わかっていても、親族が名乗り出ない孤児も少なくない。自分のルーツが不明のまま、名前も仮のものであり、その心情へ理解をいただきたい。
 つづいてパネルディスカッションがはじまった。
 はじめに司会の大久保明男さん(中国帰国者二世・首都大学東京教授)は、今日の集会には@戦後70年以上たった今日、残留孤児問題を忘れさせないこと、A中国人養父母に感謝の念を表したいということだ。今日を第一回のフォーラムとして今後も継続していく必要があるだろう。
白西紳一郎さん(日中協会理事長)ー私は1940年、広島生まれで、原爆被爆者だ。軍都であった広島は侵略戦争の重要な拠点であり、原爆で壊滅的な打撃をうけた。因果応報ともいえるが、このようなことは断じて繰り返してはならない。満州侵略、南京大虐殺、残留孤児ななどの記憶を引き継いでいくことは生きているものの責任だ。
寺沢秀文さん(満蒙開拓平和記念館専務理事)ー満蒙開拓団27万人のうち長野県、とくに飯田市が多かった。私の父母も開拓団員で、兄は満州で死んだ。他人ごとではない。しかし満蒙開拓団の資料館はなかった。なんとか記録を残したいという思いで満蒙開拓平和記念館をつくった。
 羽田澄子さん(映画監督)ー私は90歳になる。日本の敗戦当時、私は大連にいたが、「戦争をやめることができる」なんて思ってもみなかったし、そばにいた朝鮮の人たちが「万歳」をさけび嬉しがっていたのにショックをうけた。そして、奥地で開拓団の悲劇については知りもしなかったが、長い間気にかかっていたが、ようやく2008年に岩波映画「嗚呼、満蒙開拓団」を作ることができた。
 安原幸彦さん(中国「残留孤児」国家賠償訴訟弁護団幹事長)―中国「残留孤児」国家賠償訴訟は2009年、最高裁で敗訴となったが、しかし、裁判所は原告の声を聞き、「自己の意思で残ったものではない」とし、また早期帰国義務・自立支援義務について国に政治的責務があったとし、立法・行政における解決を要請し、これが2008年からの「中国残留邦人」への新支援につながった。支援策は不十分だが、元孤児たちの生活も安定に向かい、中国へ行くこともでき養父母に謝恩を行うことも可能になってきた。

 当日は、朝から会場に入りきれないほどの人が集まり、この問題への関心が社会的に広がりつつあることを示した。


雇用共同アクション決起集会

     安倍「働き方改革」にだまされるな!  生活時間と賃金を取り戻そう!


 9月27日、文京区民センターで、安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクションの主催で「安倍『働き方改革』にだまされるな! STOP!『定額働かせ放題の労基法改悪、首切り自由化、労政審解体』 生活時間と賃金を取り戻そう!決起集会」がひらかれ、200人を超す労働者・市民が参加した。

 主催者を代表して、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の是村高市副議長が開会あいさつ。安倍の「働き方改革」は「働かされ方改革」だ。いまブラック企業が「普通の企業」になろうとしているが、それを一段と推し進めるものだ。戦争法や労働法制改悪を止めるには、ストライキで闘うことが必要だ。ナショナルセンターの違いを超えた闘いをすすめよう。

 労働弁護団・棗一郎弁護士が来賓あいさつ。本日、政府の「働き方改革実現会議」の初会合が開かれている。そこでは長時間労働の上限規制を言っている。しかし、労基法36条の改訂がなければ青天井の超過勤務を規制できない。政府が国会に出している労基法「改正」法案はそうなっていない。それに同一労働同一賃金も言っているがきわめて不明確なものだ。しかし、政府がそれらのことを言わざるを得なくなってきていることも事実で、かれらはこれまでどおりにはやっていけなくなってきていることを示している。いまこそ労働側から骨太の方針を提起していくときだ。世界で労働者が一番働きやすい国日本を実現していこう。

 毎日新聞記者の東海林智さん(MIC元議長)が「安倍『働き方改革』のウソとマコト〜安倍政権下で私たちに求められるものは〜」と題して講演。
 わたしは、いつもフィラデルフィア宣言を考える。それは、1944年5月10日の国際労働機関(ILO)の根本原則で、@労働は商品ではない、A表現および結社の自由は不断の進歩のために欠くことができない、B一部の貧困は全体の繁栄にとって危険であるといっている。これは原則中の原則だろう。
 いま安倍政権の下で人間らしく働くことが危機に瀕している。それは労働環境だけではなく安保法制強行に見られる社会全体の行方にわたるものだ。
 労働制度の面では、安倍政権はILOへの攻撃を開始した。しかし安倍政権の労働政策は一見転向ともみられるような変化がある。
安倍政権の労働政策を前期と後期に分けて振り返ってみる。前期には、「世界で最も企業が活動しやすい国を目指す」と言って、失業なき労働移動、雇用の流動化、新自由主義的規制緩和の色彩が強いもので、労働者派遣法の「臨時的、一時的」規定のなし崩しが行われ、派遣労働者の際限のない拡大となった。そして、「限定」正社員という仕掛けで、「無限定」正社員は労働法の規制を受けず、ホワイトカラー・エグゼンプションと裁量労働制の対象拡大となった。そして解雇の金銭解決の検討などとなった。
 しかし後期すなわち現状の労働政策はすこし表現を変えてきている。非正規労働者の待遇改善として、同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引き上げ、女性、高齢者の就労促進、長時間労働の是正などを打ち出してきているが、実質的にはリップサービスの面が強い。同一労働同一賃金の実現では、交通費、社員食堂の利用など最低限の部分を出させ、あとは、「役割の違いがあれば格差はやむなし」という理屈で、同一労働同一賃金とはほど遠い結果となるだろうし、非正規と正規についてのみ検討するということで地域による賃金差、男女による賃金差などは無視されているのである。最低賃金の引き上げは年3%の引き上げということで、2023年になっても加重平均での1000円でしかない。これでは人らしい生活が営めるわけがない。また、女性、高齢者の就労促進は、働かないと食えない高齢者増大をごまかすものだ。長時間労働規制については、いくつかのケースを想定するものであり、大量の適用除外を設定することになる危険性が大きい。
 そして、労働政策の形成で重要な役割を持つ政・労・使という三者構成の労働政策審議会の変質が目指されている。労働政策決定のプロセスはILOの原則にのっとったもので、国際的な常識であり、三者構成が原則のルールだ。だが、厚生労働省の「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」では、「ILOがどれだけ偉いのか」「使用者と労働者の代表が同数である必要はない」「労働者の意見反映はヒヤリングで足りる」などの発言が飛び交っている状況になっている。そこでは、政労使の労を除くという志向が示されているが、これは連合などへの恫喝がある。例えば、非正規労働者の意見を連合は代表していないといわれている。では非正規の声を代弁するのはだれかといえば、非正規を大量使用している人材派遣サービス会社ということになるという話だ。
 安倍政権の労働政策の前期から現状への転換には、自民党政権の長期にわたる政策の結果としての少子・高齢化による労働生産人口の減少の進行がある。そこで女性や高齢者の労働参加を促す必要となってきている。それを非正規の味方である安倍政権としてアピールする、内閣支持率の上昇に寄与させるという目論見がある。
 しかし、少々の看板が塗り変わったとはいっても新自由主義的労働政策が撤回されたわけではない。
 いま労働組合に求められることは、なにより職場での発言権を確保することだ。それは「自分の労働条件に関与すること」「人らしく働きたいという願いを託す、現実のものにする」「人らしく働きたいと願う労働者たちが組織を超えて連帯すること」だ。まともに声を上げる闘いに負けはないのだ。
 いまこそ、労働三権とりわけストライキ権の再評価が必要だ。こんなことを言えば2年前だったら失笑ものだった。しかし、いま全印総連、出版労連、医労連、JMITUなどストライキを戦術として行使する組合がある。東京東部労組メトロコマース支部の闘いをあげてみる。正社員労組に入れてもらえない、だから自ら労組を結成し、ボーナスや退職金、慶弔休暇など労働条件の改善を求めた。組合での団交を通じて丸イスの設置、電球をLEDに交換、扇風機設置、食事補助券、慶弔休暇、定昇などを獲得した。しかし、65歳定年後も働かせてほしいという要望は実現しなかった。だが、退職金もない自分たちに老後の保障はないとストライキで闘い、定年後の仕事の紹介を勝ち取った。
 労働運動は社会運動のアンカーであるべきで、闘いの場に、常に労組の旗がなければならない。
 
 つづいて、建交労・京王新労組、移住者と連帯する全国ネットワーク、いのちと健康を守る全国センターから特別報告が行われた。ネットワークユニオン東京、日本医労連、コミュニティ・ユニオン首都圏ネットワーク、純中立労組懇・全農協労連、航空連・JAL不当解雇撤回裁判原告団からの決意表明があった。

 全労連の伊藤圭一常任幹事が情勢報告と行動提起を行った。臨時国会は9月26日から11月30日までとなっており、主な議案は、2016年度第2次補正予算案、TPP関連法案、消費税増税延期法案、そして外国人技能実習法案などだ。厚生労働委員会にかかっている内閣提出法案は、労働基準法案と、年金法案だ。われわれは、「悪法は廃案!労働時間法制の規制強化を!」とたたかう姿を示し、審議入り阻止、廃案に追い込ななければならない。
 当面の行動としては、「生活時間を取り戻し、人間らしい働き方の実現を!労働時間の規制強化を求める国会請願署名」にとりくむ。請願項目は、1、「労働時間規制の適用除外の拡大」(高度プロフェッショナル制度)や「裁量労働制の対象拡大・手続き緩和」を盛り込んだ内閣提出の労働基準法「改正」法案は廃案にすること。2、労働基準法の改正にあたっては、以下の規制強化をはかること(@時間外労働の上限として当面「限度基準」を法定化し、36協定の特別条項は廃止すること。A勤務の終了と開始の間に11時間以上の間隔をおく「勤務間インターバル制度」を導入すること。B夜勤交替制労働は社会に必要不可欠な事業に限り認め、法定労働時間を日勤労働者より短くすること。)である。緊急ネット要求署名も準備中だ。10月19日には「STOP!『定額働かせ放題の労基法改悪、首切り自由化、労政審解体』国会前座り込み行動を午後三時から取り組む。また、労働法制課題の国会審議状況に応じて傍聴行動、緊急国会前昼休み行動、議員要請行動、緊急FAX要請などを実施する。そして労働法制の街宣行動を各団体にて各地で取り組む。

 最後に、集会アピール(別掲)を確認し、団結がんばろうで集会を終わった。

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生活時間と賃金を取り戻そう! 9・27労働者決起集会 集会アッピール


 安倍政権は昨年、生涯派遣に道を拓く派遣法の大改悪を強行し、8時間労働制を破壊する労働基準法改悪案をこの臨時国会に上程している。一方、安倍首相は年初に突然「同一労働同一賃金」で非正規雇用の処遇改善を言いだし検討会の審議が始まった。
 8月3日の内閣改造時には「働き方改革実現会議」の下に年度内に具体的な実行計画を出すとし、「長時間労働を是正する。同一労働同一賃金を実現し非正規という言葉をこの国から一掃する」と公言、9月2日には内閣官房に「働き方改革実現推進室」を設置、「『モーレツ社員』の考え方が否定される日本にしていきたい」と表明した。
 果たして、安倍政権の政策で労働者の状況が改善されるのか? 否である。
 「長時間労働を是正する」方針に高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大の労基法改悪案は、真っ向対立する。労働時間規制の適用除外を拡大する法案では長時間労働は無くならない。不本意な『モーレツ社員』と過労死を増やすだけだ。これでは女性は活躍などあり得ない。すべての労働者の労働時間の上限規制と、使用者に対する労働時間管理義務づけこそ必要だ。
 労働基準法32条は『8時間を越える労働を禁止』している。それは、収入のための仕事は1日8時間に制限し、休息と生活の自由を確保するという労働者の人権を保障する柱であることを確認し、1日の労働時間上限規制、インターバル規制、1日・1週・1カ月・1年の時間外規制、を求めよう!
 同一労働同一賃金は実現するのだろうか? そもそも有期労働契約の濫用を野放しにし、世界に冠たる非正規格差を生み拡大してきたのは自民党政権だ。秋にも出るといわれていた「不当な賃金差の基準を示すガイドライン」は年内策定と報道されている。法的根拠のないガイドラインで賃金是正が進むなら今のような雇用形態による格差などあり得ない。同一賃金の中味は、手当部分は同一に、基本給は雇用管理により差を認めるとの報道もされ、経営団体は「日本型同一労働同一賃金」をと表明している。
 同一労働同一賃金に日本型や欧米型があるとでも言うのか!

 「非正規という言葉を一掃する」とは何を意味するのだろうか? 「透明かつ公正な労働紛争解決システム等のあり方に関する検討会」が解雇の金銭解決制度にむけ動き出した。雇用を流動化させ、個人請負化を促進し、正規雇用者を一掃する道ではないのか。
 解雇の金銭解決制度は労働者の権利を守る労働組合を破壊し、企業のやりたい放題に道を拓くものだ。阻止しよう。
 安倍政権の狙いを見極めよう。
 「労働は商品ではない」と改めて確認しよう。雇用形態、性別・性的指向にかかわらず、一人一人が持てる力を発揮できる社会の実現を求めていこう。
 世界で一番労働者が働きやすい国をめざして闘おう!


講演会―「日中友好の展望 平和資源としての三菱マテリアル和解」

     安全保障の要諦は抑止力にあるのでなく、安心供与、すなわち、隣国から見て信頼に値する国か否かである。


 9月30日、連合会館で、日中労働情報フォーラム(JCLIF)主催で、内田正敏弁護士の講演会「日中友好の展望 平和資源としての三菱マテリアル和解」が開かれた。

 はじめにJCLIFフォーラム代表の伊藤彰信さん(前全港湾委員長)があいさつ。日中労働フォーラムは、総評議長だった市川誠さんが初代会長の日中労働者交流協会の継承組織だ。日中労働者交流協会は、日中国交正常化を受けて、1974年、中華全国総工会と総評の交流窓口として結成され、市川会長が起草した「日中不再戦、反覇権の誓いの碑」を南京大虐殺記念館に建て、12月13日の南京大虐殺犠牲者追悼式典に参加するようにしていて、今年も訪中団を派遣する。中国から強制連行された者は、38、935人で、6、830人が日本でなくなった。港湾現場には10、129人が25事業所に配置され、1、173人がなくなっていて、全港湾は、中国人俘虜殉難者慰霊運動に参加し、中国人強制連行者の遺骨返還に取り組んできたが、これが全港湾の平和運動の出発となった。本日は内田雅敏弁護士に、6月1日に和解が成立した三菱マテリアル事件の経過の報告と日中友好の展望について講演していただく。わたしたちは加害者としての反省を背負いながら、二度と戦争を起こさないために、どう日中友好の絆を強めていくのか、考えてみたいと思う。
 
 内田さんは「日中友好の展望 平和資源としての三菱マテリアル和解―三菱マテリアル中国人強制連行・強制労働事件の和解を経て―」と題して講演した。
 「過ちて改めざる、是を過ち」というが、これは今年の6月1日、北京で締結された三菱マテリアル社中国人強制連行・強制労働事件和解において、同社の木村光・常務取締役が、会社を代表して、中国人受難者・遺族らを代表した閻玉成さんたち受難生存労工に対し述べた「謝罪文」の一節である。受難生存労工らは同社の「謝罪を誠意あるものとして受け入れ」(和解書第1条)、「私たちは、中国人労働者の強制連行を主導した日本政府、ならびにその他の多くの加害企業が依然として歴史事実を無視し、謝罪を拒む状況下で、三菱マテリアル社が歴史事実を認め、公開謝罪する姿勢を積極的に評価する」と述べた。双方は調印式を終えるに際し、日本に強制連行され、日本で亡くなった労工たち、故国に帰ることはできたが、この和解を迎えることなく亡くなった元労工たちに思いを馳せて黙とうした。
 1942年11月27日、アジア・太平洋戦争が長期化する中で、東條内閣は中国大陸から中国人を日本国内に強制連行し、鉱山、ダム建設現場などで強制労働に就かせることを閣議決定し、三次に亘り38、935人の中国人を日本強制連行し、国内の鉱山、ダム建設現場など135事業場で強制労働させた。強制連行され、苛酷な労働を強いられた中国人らは、1945年8月15日の日本の敗戦に至るまでの約1年の間に、6、830人が亡くなった。三菱マテリアル社の前身である三菱鉱業株式会社は、北海道、九州などの9事業所や下請け会社などで計3、765人を強制労働させ、日本の敗戦までに722人が亡くなった。
 三菱マテリアル社の謝罪文は、「『過ちて改めざる、是を過ちという』弊社は、このように中国人労働者の皆様の人権が侵害された歴史的事実を率直かつ誠実に認め、痛切なる反省の意を表する。また、中国人労働者の皆様が祖国や家族と遠く離れた異国の地において重大なる苦痛及び損害を被ったことにつき、弊社は当時の使用者として歴史的責任を認め、中国人労働者及びその遺族の皆様に対し深甚なる謝罪の意を表する。併せて、お亡くなりになった中国人労働者の皆様に対し、深甚なる哀悼の意を表する。 『過去のことを忘れずに、将来の戒めとする。』弊社は、上記の歴史的事実及び歴史的責任を認め、且つ今後の日中両国の友好的発展への貢献の観点から、本件の終局的・包括的解決のため設立される中国人労働者及びその遺族のための基金に金員を拠出する」として、謝罪の証として、中国人受難者・遺族に対し、@一人当り金10万元(約170万円)の和解金を支給し、A「二度と過去の過ちを繰り返さないために,記念碑の建立に協力し,この事実を次の世代に伝えていくことを約束する」とし、作業場等での「受難の碑」建立、中国からの受難者・遺族を日本に招いての追悼事業、受難者・遺族及び基金の調査費などを別途支給することとした。 
 裁判を振り返ってみると、当初は中国人受難者・遺族らと三菱マテリアル社との交渉は拒否され、長い裁判闘争となった。裁判所は、国家無答責、時効、除斥期間などの法理、日中共同声明による請求権の放棄等があるとして、請求を退けてきた。しかし、2007年4月27日、最高裁「広島県の西松建設強制連行訴訟」判決は請求を棄却したが、個別具体的な請求権について賠償義務者が任意の自発的な対応をすることは妨げられない、被害者らの蒙った精神的、肉体的苦痛が極めて大きかったこと、西松建設の利益を受けているなどの諸搬の事情があり「関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである」という「付言」を導き出した。この「付言」に基づき、西松との和解が成立した。本件三菱マテリアル和解もこの「付言」の精神に基づいてなされた。これまでの鹿島建設の花岡和解(2000年)、西松建設広島安野和解(2009年)に比べて、@三菱鉱業本体の事業場だけでなく、下請先も含む3765人を対象とした(花岡987人、西松広島安野360人、同信濃川180人)。A謝罪内容において「過ちて改めざる,是を過ちという」と踏み込みこんだが、これは三菱が自発的にこの語句を使用したものだ。しかも会社の責任ある立場の者が中国に赴き、直接、受難者である生存労工に対し謝罪し、和解金を支給した。B和解金の額がこれまでの和解金額を大幅に超えた。C和解金の内訳(使途)が明確に示されている、等々に於いて大きく前進したものとなった。
 本件和解は強制連行・強制労働の受難者・遺族に対する謝罪と慰藉を目的とするものである。同時に、その和解事業の遂行を通じて民間の日中友好交流運動の一端を担うことになろう。三菱マテリアル和解は、日本にもこのような歴史に向き合う企業がある、このような和解を担う市民たちがいるという安心感、信頼感を中国側に与え、日中の安全保障を巡る環境整備に大きな役割を果たすものとなるであろう。和解への道は、「付言」に見る裁判官たちの苦悩また心ある外務官僚たちの思いなどの動きも評価しなければならない。
 しかし、日本政府の見解は依然と変わらない。尖閣諸島国有化、靖国神社参拝、安保法制、日米軍事同盟の強化などで東アジアに緊張関係を作り出し、この「挑発」に「待ってました」と中国の軍拡派が呼応する形で、いよいよ緊張を激化させている。日中間には、日中共同声明など4つの歴史文書がある。また日本には1995年8月15日の村山首相談話がある。これらをしっかりと生かしていかなければならない。
 国が変わらない以上まず民間から少しずつでも変えて行くしかない。
 憲法破壊の安倍政権との闘いは三つの共闘だ。第一には死者との共闘ということで、非業、無念の死を強いられた死者たちとの共闘、そして戦後の平和運動を担った、今は亡き先人たちとの共闘でもある。第二に未来との共闘は、日本は戦争をしないできた、この「平和資源」を子供、孫ら未来に引き継がなければならない。そして第三にはアジアの民衆との共闘だ。私たちは、中国の政権は信頼しないが、中国の民衆を信頼する。安倍政権の軍事的膨張政策にアジアの民衆は反発しながらも、私たちがこの安倍政権に抗議の声を挙げていることによって、私達に対する信頼が生まれる。私たちの活動が中国などアジアの民衆に勇気を与える。私たちは、かつて韓国の民主化運動から大きな勇気をもらったことを思い起こすべきである。
 安全保障の要諦は抑止力にあるのでなく、安心供与、すなわち、隣国から見て信頼に値する国か否かである。 われわれの「ストップザ安倍」の闘いは「日本の平和資源」であり、アジアの民衆との共闘でもある。


報道の自由とは何か 〜民主主義の危機に対して 今、私たち市民は何ができるのか〜

                    
 超満員だった岸井成格さん講演集会

 9月13日、大阪大学会館講堂でジャーナリストの岸井成格さんの講演集会が開催された。
 当日は、平日、それも日中の開催ということで参加者が心配されたが、460名収容の会場は聴衆であふれかえった。
 岸井さんは、今年の3月末までTBSの「ニュース23」のキャスターとして活躍し、現在は、毎日新聞の特別編集委員、サンデーモーニングでスペシャルコメンテイターとしてレギュラー出演されている。歯切れよい解説には定評がある。 岸井さんの講演会は、今回で2度目となる。一回目は、弁護士団体が主催し議員会館で開催されているが、今回は市民団体が中心となり実行委員会を発足させ実現にこじつけた。時折、小雨が降る中、開場前から長蛇の列ができるほどの大盛況となった。

 岸井さんは、現在のメディア状況について「息苦しくこのままで行くと窒息死する。決してオーバーではない」とのべ、「今日は、皆さんと危機感を共有するためにやってきた」と切り出した。
 2月の高市総務大臣による停波発言は見過ごしてはならない。一つの番組でもおかしいと判断すれば、その放送局全体をとめるといっている。憲法21条を理解できず、放送法をねじ曲げている。放送法の主旨は、権力から介入される口実をつくらないために放送事業者自身がさだめる自律的な倫理規定である。本来、総務省は、自民党による不当な政治介入こそ行政指導すべきである。……
 実に厳しい批判だ。
 そして、先の参議院選にもふれ「選挙報道が激減した。街角のインタビューも消え、争点を扱わなくなった」とメディアの争点かくしにも言及し、一時間の講演は危機感にあふれるものとなった。
 学生らを交えた市民とのトークセッションでは、読売新聞や産経新聞の一面を使っての「偏向報道をただす視聴者の会」によるの岸井攻撃にふれ、「即座に28000筆に及ぶ激励の署名をいただき、大きく励まされた」と語り、「いい放送には、こちらも黙っていてはだめ、声をあげての連帯が今こそ必要」と強調した。
 東京、大阪に続いて、今後は、沖縄でも市民集会の開催が予定されている。岸井講演集会をかわきりに市民がメディアの問題にさらに関心を高めていくことがのぞまれる。
 権力による不当なメディア支配と干渉を許さない取り組みを進めていこう。 (大阪・矢吹徹)


KODAMA

  生まれた時のこと

    はじめてこの世界に生まれてきて
    世界の何もかも 受けとった

    光も水も音もやさしさも

    おなかのなかにいる時よりも
    ずっとかすかに聞こえる
    おかあさんの心臓の音

    そんな音を聞いて
    すやすやとねむった
  
    何もかも受けとったので
    小さな赤ちゃんはこんなに
    大きくなった
    何かあっても
    あらそったり戦ってはいけない

    無防備だった赤ちゃんが
    生きて 生命の芽を育ててきたように
    何もかも受けとめてほしい
    もしあらそったり戦ったりすれば
    何も育たない

    どうか いつも赤ちゃんのように
    刃(やいば)をもたないで

    ことばのつるぎや腕力で
    戦わないで

                  (H・H)


複眼単眼

       
 野党共闘は「希望」でなくなったのか

 このところ、SNSなどの一部で、選挙での野党共闘に対する消極的な意見が散見される。なかにはもともと野党共闘に批判的だった人々がこの際とばかりに騒いでいる人もいれば、善意で現状に失望をいだいているひともいる。理由は東京都知事選での野党共闘の敗北や、民進党の新執行部の顔ぶれなどへの失望によるものだ。たしかに、これらには一定の根拠がある。
 しかし、ちょっと待ってくれませんか。「だから野党共闘なんてダメだ」といって、「絶望した」などいうべきではない。どうするというのか。国政の外からブツブツいうだけで事態はどう切り開けるのか。2015年安保が切り開いた到達点を放棄してしまうのか。
 目下、新潟県知事選と衆院東京10区、福岡6区の補選がたたかわれている。新潟は「連合」の自民相乗りのために野党4党共闘はくずれた。しかし、自主投票になった民進党は立憲フォーラムを中心に国会議員を相次いで現地に投入し、選挙戦では先の参院選につづいて事実上の4党共同をつくり、自民系候補に肉薄している。
 東京10区は民進党中央の動揺によって4野党の文書による政策協定はつくられず、政策は口頭合意になり、候補は1本化したものの共産は民主の候補の推薦は見送った。しかし、地元で頑張ってきた市民団体「TeN16」などはねばり強い努力を積み重ね、民進党の候補者と10項目にわたる政策協定を勝ちとった。
 また「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)は、これらのたたかいへの支持を表明した。
 こうして、各地で先の参院選が実現した「野党共闘+市民」のねばり強い努力がつづいている。
 自民党は、党所属の当選1回と2回の若手議員を対象に、今月中旬から選挙対策の強化に向けた勉強会を開くことにした。次の衆議院選挙で、先の参議院選挙と同様に、民進党や共産党などの野党が連携すれば、若手議員が苦戦を強いられ、選挙戦全体の勝敗を左右しかねないとの危機感からだ。
自民党は野党と市民の共同を恐れ、党内で危機感を煽り立てながら、さまざまな手段を駆使してこの共闘を壊そうとしている。
 事実、自民党がおお勝ちした前回衆院選の得票で試算しても、野党共闘が実現すれば47選挙区で与野党の当選が逆転する(時事通信)する。47選挙区で逆転すると、与党は全体で279議席まで後退し、3分の2(317議席)を割る。改憲に前向きな今の日本維新の会(15議席)を合わせても3分の2に達しない。さらに9選挙区で票差は3000票以内になるという。別の試算では60議席の逆転になるというのもある。
安倍政権の自公与党が党利党略から解散風を吹かせはじめたが、実際には先の総選挙で手に入れた改憲発議可能な議席数である3分の2議席を改憲派が確保するのは容易ではない。自民党1強体制といわれるもとで暴走する安倍政権のこけおどしのキャンペーンに載せられて、あわてふためく必要はない。
 肝心なことは「野党4党+市民」の共闘を強化し、固めてたたかうことだ。民進党執行部のあれこれの動揺に一喜一憂しないで、強固な市民運動を形成することと国会闘争の車の両輪のような2本建ての運動を堅持することだ。
 故人いわく「絶望とは愚か者の結論である」。
 私たちには「絶望している」ヒマはない。  (T)