人民新報 ・ 第1346号<統合439号>(2017年2月15日)
目次
● 不人気トランプと違憲安倍の会談 重荷を課される日本
南スーダン自衛隊撤退! 共謀罪阻止!
防衛相・法相は辞任せよ!
安倍内閣を追い詰め、打倒しよう
● 「働き方改革」は企業の儲けのためのもの
安倍政権の欺瞞的手法を暴露し、暮らせるワークルールの実現を!
● 実効的な長時間労働の規制を!
日本労働弁護団・過労死弁護団全国連絡会議・全国過労死を考える家族の会が院内集会
● 「日の丸・君が代」強制反対! 10・23通達撤廃! 戦争に向けた学校づくりは許さない
都教委包囲・首都圏ネットの総決起集会
● 共謀罪を絶対につくらせない
● 最高裁決定以降の沖縄闘争 新垣勉弁護士の提起 埋立承認取消への展望
東京MXTVへ抗議
● KODAMA / マゼランと南シナ海
● 川 柳
● 複眼単眼 / 安倍首相の施政方針演説異聞
不人気トランプと違憲安倍の会談 重荷を課される日本
南スーダン自衛隊撤退! 共謀罪阻止!
防衛相・法相は辞任せよ!
安倍内閣を追い詰め、打倒しよう
トランプ政権は発足して以降、国の内外の矛盾をいっそうかき立てる大統領令乱発の暴走を続け、反対運動は全米各地に広がっている。とりわけ、リビア、ソマリア、スーダン、イエメン、イラク、イラン、シリアの7ヶ国からの米入国の一時禁止とすべての国からの難民の入国禁止の大統領令の暴挙には、G7各国首脳も含めて世界的に批判があがった。唯一、その不人気なトランプにごまをすっているのが日本政府だ。トランプ政権に、茶坊主第一号よろしく、貢物を携えて、訪米した安倍晋三首相は、米国の雇用のために対米投資の原資として年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の積立金までを使うという。安倍の姿勢は突出した「アメリカ第一」主義だ。これは自らの政権基盤がアメリカの世界戦略とその対日政策にあり、とりわけ米軍という暴力装置に期待していることの表れである。
安倍は日米首脳会談の早期実現で日米関係強化を図ろうとし、崇拝する祖父・岸信介の道を繰り返している。岸は1957年に首相に就任した。初外遊として5月に、インド、パキスタン、セイロン、タイ、台湾を訪問し、6月には訪米し、アイゼンハワー大統領と首脳会談を行い、安保の改定について話あうとともに、米議会で反共演説を行った。今回の安倍の動きは、60年前の岸の構想の繰り返しである。安倍は、かつての冷戦時代のように日本を反共の防波堤として位置づけ、中国包囲網構築でトランプの歓心をかおうとしているのだが、時代は違った。
トランプの「一つの中国」の見直し発言は、米中関係の激化到来と右翼勢力を喜ばせたが、なんと安倍訪米の当日に、トランプは、中国の習近平国家主席との電話会談で、「私は米国政府が『一つの中国』政策を尊重することの高度な重要性を十分に理解している。米国政府は『一つの中国』政策を堅持する」として、「中米関係をしっかりと構築する」意向を示した。
現地時間2月10日の首脳会談で、安倍はトランプからなによりもほしかった「日米安全保障条約第5条は尖閣諸島に適用される」をもらったと喜んだ。しかしこれは、トランプの交渉技術で、あたかも大きな成果であるように喧伝されているが米前政権の約束と同じであり、安保問題では大きな変化はない。
最大の懸案である日米経済関係では、米国の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱に「留意」し、「日米で二国間の枠組みに関する議論」などが確認され、そして、トランプが本年中に日本公式訪問するよう招待した。
二人の会談では実質的な内容はほとんど進展せず、つづくゴルフ外交の場に移された。そこで、何が密約されたのだろうか。
実務的なつめは、麻生太郎副総理・財務相とペンス副大統領との交渉などの段階に先送りされたが、そこでいよいよ本格的な対日要求が出てくる。いずれにしろ、トランプが設定した「交渉」の場にあわてて自ら飛び込んだ安倍によって日本は大きな負担を背負うことになる。
そのしわ寄せは、沖縄をはじめ各地での闘いを一段と強めていくことになる。
トランプの大統領就任式と同じ1月20日、第193通常国会が召集された(6月18日までの予定)。
安倍の日本経済成長政策のための二本柱の一つであるTPPはトランプの拒否によって潰えた。「アベノミクス」も失敗は誰の目にも明らかだ。これを東京五輪や原発輸出などでの経済活性化に望みを託しているが、到底不可能だ。
そうした内政面での失政を近隣諸国との緊張激化、軍事化など危険な排外主義的な政策で隠そうとしている。反動安倍のまことに危険な道だ。なにより、安倍の施政方針は、第一に日米同盟強化であった。それは、沖縄の声に逆らう辺野古新基地建設など日本を米軍の世界戦略の中により強く結びつけるものだ。この政権は「日米同盟こそわが国の外交・安全保障政策の基軸」「不変の原則」として、歴代自民党政権のなかでも反動性と軍事色が突出している。
そして戦争する国づくりのために、国内での反対運動、批判する自由な声を封じるために「共謀罪」をむりやり早期に成立させようとしている。そのため政府・与党の対応は支離滅裂なものとなっている。
米軍の先兵となって海外派兵を各地で展開するための突破口である南スーダンにおける「戦闘」問題での稲田朋美防衛相の前代未聞の答弁は、この内閣のデタラメぶりを示すとともに、かれらが追い詰められていることを示すものだ。
安倍内閣はその弱点を露呈し始めた。市民運動、労働運動の総がかり態勢の一段の強化拡大、それを背景にした野党共闘で、暴走内閣を打倒しよう。
「働き方改革」は企業の儲けのためのもの
安倍政権の欺瞞的手法を暴露し、暮らせるワークルールの実現を!
1月25日、文京シビックセンターで「エッ! これって差別賃金容認ガイドライン?! 安倍『働き方改革』NO! 労働者のための改革を! 集会」が開かれ、約100人が参加した。
主催は、安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション(日本マスコミ文化情報労組会議、全国港湾労働組合連合会、航空労組連絡会、純中立労働組合懇談会、全国労働組合総連合、全国労働組合連絡協議会、中小労組政策ネットワーク、コミュニティ・ユニオン首都圏ネットワーク、東京争議団共闘会議、けんり総行動実行委員会、反貧困ネットワーク)。
主催者を代表して日本マスコミ文化情報労組会議の是村高市副議長が、大変な時代に入った、学習会の組織など職場から反撃の力をつくりだそうとあいさつ。
連帯あいさつでは、日本労働弁護団の高木太郎弁護士が、安倍政策の欺瞞性を明らかにすると共に、逆手にとって労働時間などの規制を勝ち取っていくべきだと述べ、また全国過労死を考える家族の会(東京)代表の中原のり子さんは、過労死などを社会問題化し世の中の流れを変えていくことが大切な課題だと強調した。
問題提起「安倍「働き方改革」についての批判と要求」では三人が発言。
はじめに、「同一労働同一賃金」について、全労協の柚木康子常任幹事。――働き方改革会議の「同一労働同一賃金ガイドライン案」が出たが、まったく内実のないものだ。「中間報告」には「同一労働同一賃金の原則を」と書きながら「厳密に定義することはなかなか難しい」とはあり、職務評価の手法についての言及もない。基本給については「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」の各観点から、同じなら同一の、違いがあればその相違に応じた支給をしなければならないとあるが、「勤続年数」はともかくとして、その他には客観的に計る物差しはない。結局、使用者による恣意的な考課・査定によって、差別は温存されることになる。やっぱり安倍のガイドラインは予想通りの期待はずれのものだった。
つづいて、労政審つぶしの労働政策決定プロセス見直しについて、航空連の津意正三事務局長。――労働政策に関する厚労相の諮問機関「労働政策審議会」のあり方などについて考える有識者会議の構成は、13人の有識者のうち労働者の代表は1人だけで、あとは学者と経営者たちからなるというものだ。労働組合の代表者や厚労省の事務局から、労使対話の重要性を軸としたILO三者構成主義の重要性について、フィラデルフィア宣言に遡った説明がなされても、座長自ら「ILOがどれほどえらいのか私は知らない」といい、与党寄りの委員からは「労使同数の委員はおかしい」「労働立法の立案や改正が必ず労働政策審議会を経なければならない根拠はどこにあるのか」などの異常な意見が続出した。報告の内容も「必ずしも公労使同数の三者構成にとらわれない体制で議論を行った方がよい」として「三者構成ではなく有識者委員により構成する」「労働政策基本部会」(仮称)を設置するとしている。私たちの意見は以下のようなものだ。@三者構成主義を守るため、「働き方に関する政第決定プロセス有識者会議」の報告書の内容を実践することは止めること。A「働き方改革会議」での議論経過を、労働政策審議会に報告し、課題の選択から具体化については、労働政策審議会で実施するものとすること。B労働政策審議会の労働者委員の構成を見直し、雇用共同アクション構成団体を含む、様々な系統の労働団体が委員として参加するものとすること。
最後に、安倍「働き方改革」の狙いについて、全労連の伊藤圭一常任幹事。――安倍「働き改革」は、わずかな改善で大きな改悪を隠蔽し、労働者要求を取り上げるようなふりをして、労働者の支持を獲得することだ。これは野党との違いをなくす争点つぶしでもある。わずかな改善とは、同一労働同一賃金、残業時間の上限規制などをかかげるが、目的は、かつての「雇用改革」で掲げていた規制破壊であり、使用者本位の「働かせ方改革」「世界で一番企業が活動しやすい国」づくりが本音だということだ。また労政審つぶしで、官邸トップダウンの労働政策決定方式を確立ることをねらっている。「大胆な改革をスピーディに進めるために労使対話は邪魔」ということだ。「『働き方改革』は玉石混交。いいことも言っている。トップダウンにもよい面がある。是々非々で」といった対応では、安倍政権の術中に陥る。私たちの態度は、三者構成主義の放棄など当事者無視の政治姿勢を徹底批判し、官邸の手の内にはまらず、要求し、批判し続けることが大事であり、なにより制度改悪のもくろみの暴露が大切になっている。職場の仲間が、長時間労働の根絶に本気になることそのために要求統一をはかるための職場討議を巻き起こさなければならない。 労働者の意識に敏感なのが、安倍政権の特徴だが、そうであるならば、徹底して、要求し続けることこそが必要であり、「安倍「働き方改革』にだまされるな!」「STOP!『定額働かせ放題の労基法改悪、首切り自由化、労政審解体』」「労働者の要求を掲げて、たたかおう!生活時間と賃金を取り戻そう!」と広く呼びかけを行い、職場から地域から、世論を動かしていこう。
今後の行動について以下のように提起された。今国会の労働関連法案の見通しとしては、雇用保険法等一部「改正」法案(雇用保険法、職業安定法、育児・介護休業法の一括法案)が予算関連法案として上程される予定であり、雇用保険の手当日額引き上げ、職安法の改悪部分の撤回を求めて闘う。継続審議中の労基法改悪法案(裁量労働制拡大十高度プロフェッショナル)に、あらたに労働時間の上限規制をセットにした法案が出される可能性があり、毒を削除し、規制強化を要求していく。そして、政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」に法的根拠を付与するための労働契約法、パート法の「改正」法案も動きだすことも予想されている。当面、格差の合理性の立証責任を使用者におわせる法改正が必要である。
安倍「働き方改革」に関する厚生労働省パブリック・コメントにたいしては、意見書や要求書を提出していこう。また内閣府「働き方改革実現推進室」への意見書・要求の提出、各政党、国会議員への意見書・要求の提出に取り組んでいこう。国会の予算委員会でも、「働き方改革」についての質疑が行われるみとおしであり、安倍「働き方改革」の改善点の不十分さ、雇用破壊の危険性、労働者が求める要求内容について、各政党・国会議員に知らせ、政府・与党の譲歩を引き出そう。
そして、春闘の職場討議で、制度要求についても議論し、時間外上限規制等の意思統一をはからなければならない。
雇用共同アクションとして、「わたしの仕事8時間プロジェクト―8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」というキャンペーンを開始する。それは安倍晋三首相、塩崎恭久厚労相、加藤勝信働き方改革担当大臣あてのネット署名で、多くの仲間からの賛同、コメントを集めていこう。
2月中旬には、雇用共同アクションとして、昼の国会前行動を実施する。法案の動きもみながら、議員要請行動、傍聴行動、緊急FAXを提起していく。
何より大事なことは、安倍政権に「働かせ方改革」を任せるのは危険であることを、職場内・外に知らせることだ。
最後に団結ガンバローで、これからの闘いの前進を確認しあった。
高度プロフェッショナル労働・裁量労働制の問題性
実効的な長時間労働の規制を!
日本労働弁護団・過労死弁護団全国連絡会議・全国過労死を考える家族の会が院内集会
2月10日、衆議院第一議員会館大会議室で、「高プロ・裁量労働制の規制緩和に反対し、真に実効性のある長時間労働の規制を求める院内集会」が開かれた。主催は、日本労働弁護団・過労死弁護団全国連絡会議・全国過労死を考える家族の会。
主催者を代表して日本労働弁護団幹事長の棗一郎弁護士が開会あいさつ。安倍政権は労働時の上限規制をするとしているが、例外として上限規制の月最大100時間を認めようとしている。労災の過労死基準を越えるものだ。裁量労働制の拡大も8時間の見なし労働時間で実際は無制限に働かせる長時間労働につながりやすい。上限規制を入れて労働時間短縮をするといっているが実態はまったく矛盾し破綻している。真に長時間労働を規制する労働法制の実現が必要だ。
過労死弁護団全国連絡会議幹事長の川人博弁護士が基調報告を行った。電通の高橋まつりさんの過労自殺事件が大きく取り上げられている。彼女の死の責任は、会社だけでなく、行政の放置、法の不備にもある。過労死を発生させないレベルまで上限規制を作るべきことはあきらかだ。また仕事から仕事の間のインターバル規制は過労死防止の極めて有効な措置であり、EU程度の規制があったなら過労死のほとんどは防ぐことができたはずだ。長時間労働を繰り返していては日本経済が成り立つはずがない。
つづいて、高橋まつりさんお母さんの幸美さんがビデオメッセージで、「今の日本は、経済成長のために国民を死ぬまで働かせる国になっています。娘は戻りません。娘のいのちの叫びを聞いて下さい。娘の死から学んで下さい。死んでからでは取り返しがつかないのです。ぜひ、しっかりと議論をして、働く者のいのちが犠牲になる法律は、絶対につくらないでください」と訴えた。
集会には、民進党から蓮舫、山井和則、長妻昭、大西健介、泉健太、井坂信彦、阿部知子、牧山ひろえ、共産党から田村智子、高橋千鶴子、吉良よし子、社民党から福島瑞穂、そして自民党の長尾敬の国会議員が長時間労働の規制を実現しようと述べた。
息子を過労死で失った遺族の方、三菱電機で長時間労働の末うつ病を発症した被害者の方、全国過労死を考える家族の会・代表の寺西笑子さんが、当事者の方からの発言を行った。
過労死防止基本法制定実行委員会委員長として過労死問題に取り組んできた森岡孝二関西大学名誉教授は、過労死の根絶のためにはワークルールを確立して長時間労働に効果的なブレーキをかけることが前提だと述べた。
労働組合からは、連合の黒田正和労働法制対策局局長、全労協の柚木康子常任幹事、全労連の伊藤圭一雇用・労働法制局長が発言した。最後に「集会アピール」を参加者の拍手で確認した。
「集会アピール」は次のように述べている―日本社会に蔓延している長時間労働が引き起こす最大の問題は、数多くの労働者の命と健康を奪っているということである。2014年6月20日に「過労死等防止対策推進法」が満場一致で可決、成立したが、これは何よりも過労死・過労自死が蔓延する社会を変えたいという、数多くの過労死等の家族と国民の切実な声を受け止めた結果に他ならない。にもかかわらず、「過労死等防止対策推進法」が施行された後も、一向に過労死等の命と健康の被害は無くならない。このことは、本集会に寄せられた当事者の声で改めて確認された。……わが国の雇用社会に蔓延する長時間労働をなくすために真に実効性のある規制は、労働時間の上限規制はもちろん、勤務間インターバル規制を導入し、使用者に罰則付きで全ての労働者の労働時間記録義務を課する労基法の改正である。我々は、日本社会で働く全ての労働者の命と健康を守り、生活時間を取り戻すため、政府が国会に提出し継続審議となっている「労基法改正案」を白紙に戻し、真に実効性ある長時間労働規制を強く求める。
「日の丸・君が代」強制反対! 10・23通達撤廃!
戦争に向けた学校づくりは許さない
都教委包囲・首都圏ネットの総決起集会
2月5日、東京しごとセンター講堂で、「都教委の暴走をとめよう!都教委包囲・首都圏ネット」の主催による「『日の丸・君が代』強制反対! 10・23通達撤廃! 2・5総決起集会」が開かれた。
主催者の見城赳樹さんが開会挨拶。今年の集会は13回目となる。トランプ米政権の登場などこれから激しい対立の時代に入る。こうしたときの闘いでは結集軸が大事だ。電通の過労死自殺など労働問題も厳しくなる。首都圏ネットも都教委の「日の丸・君が代」強制・処分反対、10・23通達撤廃の闘いをいっそう強めるとともに、他の運動の人びととの価値観の共有・共闘を進めていきたい。
現場からの報告では、「日の丸・君が代」被処分者の高校教員、河原井・根津停職処分の最高裁勝利判決について根津公子さんから発言が行われた。
つづいてさまざまな闘いの現場からは、高校生へのオリンピック教育反対のチラシ撒き、学校現場を翻弄する自衛隊入隊者獲得の実態、労働運動・市民運動の解体ねらう共謀罪について、東京オリンピックおことわり宣言について、天皇制反対デモヘの弾圧、相模原やまゆり園事件について報告があった。
講演は、北村小夜さん(元教員)の「改めていま『教室から戦争がはじまる』」。私は軍国少女になった。1943年、当時の情報局が「寫眞週報」というのを出していた。それには「校門は營門に通じてゐる 学生生徒の生活もそのまゝが 戰ふ國家の一分野 逞しい上にも逞しく 若い力と意志とを捧げて 必勝の道を邁進しよう」とあった。教育が戦争につながっていた。戦争には「嘘と監視」がつきもので、真実を教えてくれる人がいなければ子どもは従っていく。小学校就学直前の1932年の第一次上海事件で爆弾三勇士が戦死した。三勇士は私が住んでいた久留米市にある工兵隊から出征したというので、その功を讃える旗行列が行われた。事前に回覧板等で承知していたがわが家では参加するつもりはなかったが、ところが当日になると町内の世話役のおじさんが束にした日の丸の小旗を脇に抱えて回ってきた。勝手口でおじさんの誘いに母が適当なことを言って断わるとおじさんはそばの私を見て「お嬢ちやんだけでもいいですよ」と言って旗を一本持たせてくれた。それで旗を持った私は成り行きでおじさんについて旗行列に参加してしまった。旗の波は美しく、すっかり日の丸に魅せられてしまった。これが軍国少女の始まりだった。
私が小学校で学んだのは1932〜38年の日本が戦争に向かう時で、大正デモクラシーの名残もあり、教えてくれた先生たちもすべてが戦争推進派ではなかったが、子どもたちは日に日に軍国少年少女に育っていった。学校には国策の浸透が期待されていて、戦局に応じた情報や行事がなだれ込んできた。どこの学校にも奉安殿が出来、御真影・教育勅語への敬意の表明を厳しくしつけられた。修身の時間には天皇の赤子として生まれたことのありがたさを教えられた。綴り方の時間には満州の兵隊さんへ慰問文を書き、図工では戦車や飛行機を描いたり模型を作ったりした。遠足はただ歩くだけだが、行く先はたいてい聖地や戦跡だった。学校には四季折々さまざまな行事があり、四大節(一月一日、紀元節、天長節、明治節)には、奉安殿から運ばれた御真影の前で「君が代」を歌って厳かに読まれる教育勅語をきき講話があり式歌を歌った。いま都教委が強制している卒業式は御真影を「日の丸」に代えてこの形を模している。ひたすら皇民教育受けるうちに、戦争は天皇の宣戦布告に始まり講和条約締結で終わること、戦争には正義の日本が勝ち領土が広まることと覚えた。そして「天皇陛下の為に命を投げ出すこと」こそ最高の善だと思うようになった。
1938年には厚生省が発足し、同年にできた国家総動員法はいざと言う時国家は物的人的資源を自由に調達できるというものだった。厚生省はその人的資源を担当し、1939年には「産めよ増やせよ国のため」と言う標語が出て来た。1940年の「国民体力法」は「政府は国民の体力の向上を図るため、国民の体力を管理する」とあるように一人一人の国民の意思に関係なくその体力を検査しその向上にかかる指導や必要な措置をするというものだった。
国策・国威高揚にはいつも子どもが狙われる。学校教育は勿論で、そのほかにもあらゆる手段で行われ、少年むけ雑誌は特集を組み、たくさんの写真を載せ奮い立たせるような文章が添えられていた。
「日の丸・君が代」強制反対大阪ネットワークからは処分撤回闘争について報告があった。
当面の行動としては、卒業式での都立高校へのチラシ撒き、パンフ「日の丸・君が代」の普及、一方的なオリンピック教育反対などについて提起があった。
「集会決議」(別掲)と特別決議を確認し、最後に、「10・23通達撤廃!」「『日の丸・君が代』強制・処分反対!」「教職員・生徒への管理強化と不当弾圧を許すな!」「道徳の教科化反対! 国家は道徳を強制するな!」「国威発揚の『オリンピック教育」反対!』「教育の軍事化を許さない!」「自衛隊と教育委員会・学校との連携をやめよ!」「共謀罪反対!」のシュプレヒコールをあげ、団結ガンバロウで集会を終わった。
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2・5総決起集会決議
安倍政権は憲法改悪を目指して戦争法案を強行成立させてきました。日本社会は明らかに戦争に向けて具体的に動き出しています。また今国会に「共謀罪」を上程し、戦争を遂行するための治安体制を強化しようとしています。
そして安倍政権が教育を戦争遂行体制への柱として位置づけてきていることは間違いありません。教科書問題や道徳の教科化など、将来的な兵士―国民総動員を視野に入れた体制に子どもたちを組み込もうとしてきています。教育現場では「防災訓練」や体験学習等として自衛隊が急接近しています。
私たちは「日の丸・君が代」強制を、国家権力による教育現場支配と子どもたちの戦争動員問題として闘わなければならないと考えます。「教え子を戦場に送るな」の理念が真に問われる時代に突入したことを確認しようではありませんか。
教育現場には例え少数であろうとも断固として闘う教組・教職員がいます。私たちは教育の反勧化一戦争化と闘う現場教職員に連帯していかなければなりません。教育の戦争化に歯止めをかけていこうではありませんか。
また、子どもたちの戦争動員と闘うということは戦争反対を目指す人々全体の課題です。教組―教職員の闘いの弱体化のみをあげつらうのではなく、教職員以外の労働者・保護者・地域市民が教育の戦争化に反対する当事者たる自覚をもって闘っていこうではありませんか。広範な労働者・学生・地域市民との共同した闘いが今こそ必要です。ねばり強<「日の丸・君が代」を批判する教職員と地域市民の運動がこれまで以上に求められていることは間違いありません。
そして、反天皇を掲げたデモにたいして警察権力と一体となった民間右翼が襲撃する事態が発生しています。天皇制を前面に押し立てた排外主義と表裏一体の「愛国心」との攻防は先鋭化していかざるを得ません。
本日、私たちは具体的に進行する改憲と戦争情勢下における「日の丸・君が代」強制反対を確認しました。また同時に、排外主義や天皇制を振りかざした右翼が暴力的に登場する情勢を確認しました。そして同時に闘う教職員と広範な人々の共通した闘いとしての「日の丸・君が代」強制反対を確認しました。
私たちは本集会で確認された内容をもって、2017年「日の丸・君が代」強制反対を闘います。
以上決議する
破綻する政府答弁を追及しよう
共謀罪を絶対につくらせない
安倍内閣は戦争する国づくりの体制づくりに躍起だ。なんども廃案になったゾンビ法案=共謀罪を、オリンピックを口実にした「テロ等組織犯罪準備罪」と名前を変えただけで法制化しようとしている。それは戦争法と一体のものだ。何が処罰されるかあいまい、準備行為もあいまいなままで、恣意的に組織的犯罪団体と認定し、それを盗聴操作拡大することによってやろうというのである。
そもそも「国連越境組織犯罪防止条約」の批准のため新法が必要だというが、条約はマフィアなどの利益目的の国際的な組織の取り締まりが目的だ。すでに、日本は国連のすべてのテロ防止条約を批准し、国内法を整備している。
政府の言い分は矛盾だらけだ。「共謀罪」法案をめぐっての予算委員会審議では、金田勝年法相の答弁は二転三転し、しどろもどろで、しばしば審議は中断されている。例えば、現行刑法の犯罪4類型(既遂罪、未遂罪、予備罪、準備罪)に加えて「共謀罪という新しい犯罪類型をつくるということか」との質問には全く答えられなかった。
窮地に陥った金田大臣は、なんと「(共謀罪の質疑は)国会提出後に法務委員会で議論すべきだ」と文書を作らせた。これは「質問封じ」であり大きな問題となり、撤回・謝罪に追い込まれた。ちなみに金田は、日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会、みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会に参加する右派だ。
野党は世論を背景に金田法相の辞任要求で一致した。金田の言動は、共謀罪の本質をいっそうよく世に知らしめている。
暴走安倍政治を打ち破る重要な環である共謀罪法案の上程を阻止する大きな共同行動を作り出そう。
■パンフレット「一からわかる共謀罪―話し合うことが罪になる」は、共謀罪阻止の運動の拡大のために効果的な武器だ。
主な内容 共謀罪って何?海渡雄一(弁護士)/各界からの声/共謀罪がつくられると、どんなことに適用されるの/共謀罪をつくらなくとも条約は批准できる/戦時法制としての治安維持法と共謀罪/加速する監視社会の動き/スノーデンが日本に知らせたかったこと・小笠原みどり(ジャーナリスト)ほか/国会で明らかになった共謀罪の危険な本質/適用事例四コマ漫画など
●「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、解釈で9条を壊すな!実行委員会、盗聴法廃止ネットワークの編集・発行。(一部200円・47ページ)
連絡先・日本消費者連盟 03(5155)4765
最高裁決定以降の沖縄闘争
新垣勉弁護士の提起
埋立承認取消への展望
2月2日、文京区民センターで「日本政府による翁長県知事の『権限はく奪』を許さない2・2集会〜辺野古の海を埋立るな〜」が開かれた。
集会では、新垣勉弁護士が、「知事権限と政府の対抗策」と題して、最高裁決定以降の埋立承認取消の闘いについて報告。昨年12月20日、辺野古の新基地建設を巡る違法確認訴訟で沖縄県敗訴の最高裁判決が出た。これを受けて同月26日、翁長雄志県知事は埋立承認取消処分を取り消した。残念ではあるが、しかし事態を冷静に受け止め、判決を踏まえて県民がさらに前進しなければならない。しかし最高裁決定は危惧していたほどのマイナスが生じたわけではなく、そんなにダメージを与えていないのではないか。そうはいうものの最高裁判決の意味するところを正確に今後の対抗策を議論していかなければならない。最高裁判決の最大の弱点は、埋立承認に「違法・不当が存在するか否か」だけを判断し、取消処分が民意に基く選択として「適切であったか否か」を判断していないことだ。しかし最高裁判決は福岡高裁那覇支部判決の判断枠組みを踏襲したが、高裁判決の誤りを是正した点がある。それは、高裁判決が取消処分は原処分に「違法」がある場合に限られると判断したのに対し、原処分が「違法」な場合だけでなく「不当」の場合にも取り消すことができると明示したことである。これは従来の最高裁判決の流れに沿うものであり正当である。最高裁は、いったん行われた行政処分を取り消す場合の法的要件を「原処分に違法・不当が認められるとき」と明確にし、前知事の「埋立承認」判断に「違法・不当」があるか否かに的を絞って判断した。裁判は、公有水面埋立法4条1項1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」という要件(第1号要件)と同法公有水面埋立法4条1項2号の「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という要件(第2号要件)について争われている。国側は、第1号要件について最高裁の1968年の農地買収・売渡計画取消処分事件判決を引用して、原処分が「違法」であることに加えて、「処分を取り消すことによって生ずる不利益と取消ししないことによる不利益とを比較考慮し、当該処分を放置することが埋立承認取消への展望
2月2日、文京区民センターで「日本政府による翁長県知事の『権限はく奪』を許さない2・2集会〜辺野古の海を埋立るな〜」が開かれた。
集会では、新垣勉弁護士が、「知事権限と政府の対抗策」と題して、最高裁決定以降の埋立承認取消の闘いについて報告。昨年12月20日、辺野古の新基地建設を巡る違法確認訴訟で沖縄県敗訴の最高裁判決が出た。これを受けて同月26日、翁長雄志県知事は埋立承認取消処分を取り消した。残念ではあるが、しかし事態を冷静に受け止め、判決を踏まえて県民がさらに前進しなければならない。しかし最高裁決定は危惧していたほどのマイナスが生じたわけではなく、そんなにダメージを与えていないのではないか。そうはいうものの最高裁判決の意味するところを正確に今後の対抗策を議論していかなければならない。最高裁判決の最大の弱点は、埋立承認に「違法・不当が存在するか否か」だけを判断し、取消処分が民意に基く選択として「適切であったか否か」を判断していないことだ。しかし最高裁判決は福岡高裁那覇支部判決の判断枠組みを踏襲したが、高裁判決の誤りを是正した点がある。それは、高裁判決が取消処分は原処分に「違法」がある場合に限られると判断したのに対し、原処分が「違法」な場合だけでなく「不当」の場合にも取り消すことができると明示したことである。これは従来の最高裁判決の流れに沿うものであり正当である。最高裁は、いったん行われた行政処分を取り消す場合の法的要件を「原処分に違法・不当が認められるとき」と明確にし、前知事の「埋立承認」判断に「違法・不当」があるか否かに的を絞って判断した。裁判は、公有水面埋立法4条1項1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」という要件(第1号要件)と同法公有水面埋立法4条1項2号の「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」という要件(第2号要件)について争われている。国側は、第1号要件について最高裁の1968年の農地買収・売渡計画取消処分事件判決を引用して、原処分が「違法」であることに加えて、「処分を取り消すことによって生ずる不利益と取消ししないことによる不利益とを比較考慮し、当該処分を放置することが公共の福祉に照らし著しく不当である」ときに、初めて取り消しが認められると主張していた。これは、これは第2要件の主張であるが、今回の最高裁判決はこの点に全く触れなかった。これは同判決が68年判決を変更するものではなく、高裁判決が第1要件を「違法」と狭く解した誤りを是正し、第1要件の内容を明確にしたものと解される。高裁判決は第2要件については、「取り消すことによる不利益として、日米関係の信頼破壊、国際社会からの信頼喪失、本件埋立に費やした経費、第三者(民間工事関係契約者への影響を挙げて、「本件においては、そもそも取り消すべき公益上の必要が取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められない」としながら、最高裁は第2要件については全く判断を行わなかった。第2要件は「取消」の場合だけでなく、「撤回」を行う場合の要件を構成すると解されるからだ。
埋立承認をめぐる取消処分問題の最大の核心は、仲井眞前知事が行った埋立承認が県民にとって今後も維持すべき「適切な判断」といえるか否かにある。
県民が埋立承認を「不適切な判断」と評価し、それが取り消されるべきものだと考えていることは明らかである。
ではこの民意をどう表現していくのか。方法は二つある。一つは、法的措置で埋立工事を阻止することである。そしてもう一つは、政治的力で埋立工事を中止させることだ。これで一年以上も国の埋立工事を中断させてきた。国は最高裁判決を受けて工事を強行してくるが、工事を進めるためには県知事との協議や許可などのいくつかのハードルを越えなければならない。知事の権限を最大限に生かしていくことだ。強力な知事の権限として埋立承認の「撤回」がある。この「撤回」処分は、埋立承認に「不法・不当」があることを理由とするものではなく、埋立承認後に新知事が誕生し、その民意を受けての政策変更を理由にした「埋立承認を将来に向かって取り消す行政政行為」であり、これまでの判決の影響を受けない新しい処分ということだ。
東京MXTVへ抗議
1月2日、東京MXテレビ(東京都を放送対象地域とするテレビジョン放送で、エフエム東京、中日新聞社、東京都などが株主)の情報番組『ニュース女子』は、沖縄の基地反対運動について誹謗中傷するデマの連続だった。DHCシアターが制作したが、化粧品・健康食品販売のDHCは、渡辺喜美に8億円氏に「貸した」ことで有名になったが、そのDHCの商品を買うと「正しい歴史を教える」というパンフレットが届くという。吉田嘉明会長は有名な排外主義右翼だ。
この東京MXに対して、沖縄をはじめ各地で抗議の声があがっている。何度も東京MX本社前での抗議の行動が行われ、2月2日には180名が社屋前で抗議の行動を行った。同日夜に開かれた「日本政府による翁長県知事の『権限はく奪』を許さない2・2集会〜辺野古の海を埋立るな〜」では、「東京メトロポリタンテレピジョン『ニュース女子』の基地建設に反対する市民への誹膀中傷に抗議する」(別掲)が決議された。 またDHCへの不買運動も広がっている。
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東京メトロポリタンテレビジョン「ニュース女子」の基地建設に反対する市民への誹膀中傷に抗議する
さる1月2日に東京メトロポリタンテレビジョンが「沖縄・高江のヘリパッド問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」と題し、「マスコミが報道しない真実」とうたい、沖縄の米軍北部訓練場のヘリパッド建設に反対する市民を「テロリスト」よばわりする事実無根の誹膀中傷で卑劣極まりない内容の番組を報道した。しかも、明らかに現場には実際に行って取材した形跡もない。
番組を制作したのは化粧品大手のディーエイチシーの子会社の「DHCシアター」である。多くの非難や抗議に対し、DHCシアターは「犯罪や不法行為を行っている集団を内包し、容認している基地反対派の言い分を聞く必要はない。また、『デマ』『ヘイト』と断言されることはメディアに対する言論弾圧」などと主張しているそうだ。言語道断! 全く許しがたいことである。 東京MXは「チェックが甘かった」と認めているそうだが、製作プロダクションやスポンサーが作った番組をそのまま無批判にテレビ局が放送するのは、その存在の根幹が問われており、不当である。もしスポンサーが国家だったらどうだろうか。戦前と同じ過ちを繰り返すことになる。
放送番組の質の向上を目指している放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会も問題にしており、権力の介入を防ぎ、放送・表現の自由を守るためにも、多くの人の納得いく対応が求められている。
かつて日本防衛のために住民の4人に一人を殺した沖縄戦、日本の独立のために米軍に差し出した米軍統治下の27年間、1972年の復帰以来、今日まで日本政府は圧倒的米軍基地を沖縄に押し付けてきた。その上、今また、高江の村を取り囲むようにオスプレイのためのヘリパッド建設が強行された。「基地返還」に名を借りた、さらなる基地強化に反対し、「子や孫のために、これ以上の基地はいらない」という沖縄の叫びをあざ笑い、貶め、誹膀中傷した悪質な番組を私たちは絶対に許さない。
そもそも、テレビ局は、その放送が公共性に資するという前提があり、「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」となっている。「日当をもらっている」とか「大多数の人は米軍基地に反対とはきかない」などの放送は全くの事実無根。私たちも何度も座り込みに参加したが、一度も日当をもらったことはない。すべて、手弁当である。また、ヘリパッド建設はじめ、「辺野古新基地建設反対」は、これまで何度も選挙で示されてきた沖縄の圧倒的民意である。
事実無根の意図的政治的な東京メトロポリタンテレビジョンの報道を私たちは断じて許さない! 満腔の怒りで抗議する!
2017年2月2日
「日本政府による翁長知事の『権限はく奪』を許さない2・2集会」参加者一同
KODAMA
マゼランと南シナ海
ポルトガル人のマゼランはスペイン国王による香料貿易の権益確保のため、1519年8月に5隻(237人)の船団を与えられ、西回りで初の世界一周航海に挑んだことで有名である。(「マゼラン 最初の世界一周航海」 岩波文庫) マゼラン一行は太平洋を横断し1521年3月フィリッピン諸島にたどりついたが、武力を背景に現地の領主や住民に対しスペイン国王への臣従やキリスト教への改宗を推し進めた。その中で現地住民の争いに巻き込まれてマゼランは戦死したとされているが、実のところはフィリピンの人々にしかけた戦争で、反撃を甘く見たために殺されたのである。その後フィリッピンを逃げ出した3隻はモルッカ諸島で香料を満載するなどしたが、内1隻のビクトリア号だけが1522年9月8日、スペインのセビリアに入港し、世界周航を完成させた。この時生存者は18人だけだった。その中の3名にスペイン国王の秘書官トランシルヴァーノが聞き取り調査を行い、それをまとめたものが「モルッカ諸島遠征調書」(同書)である。その中のフィリッピンをあとにした一行による南シナ海に面するボルネオ島のブルネイでの見聞は非常に興味深い。ブルネイの住民はとりわけ平和と安穏をつよく愛し、不和と戦争はげしく嫌悪しておりその為の特殊な自治原則を持っていた。自分たちの王が平和を維持している限り崇め尊ぶが好戦的な王とわかった場合、家来たちは王が自分たちの先頭に立って死ぬのを見とどけるまでは、進んで戦ったりすることをのぞまない。王が死ぬと同時に、かれらは自分たちの自由のため、そして平和を愛する王をいだくために、猛烈な勢いで、すこぶる残忍な戦いを開始するのである。そのためこの島の住民たちはきわめて稀にしか戦争をしない。それは歴代の王たちが、自ら戦争を仕掛ければ生きて帰れないことを知っていたからでもある。このような平和の原理あったためブルネイでは恒久的な平和と静穏と安寧が継続していたという。この平和を維持する自治システムを、古く残忍な行為に基づくものと単純に見做してよいのだろうか。 「戦争法」を「平和安保法」と強弁し、海外での戦争に乗り出そうという「首相」を持つ今日の日本は、果たして500年前のブルネイの人びとに比べ「進歩」したのであろうか。当時草ぶきの小屋に住んでいたと思われる彼らの平和の原理には、現代の私たちにも必要な人間の知力と胆力があるように思えてならない。 (DAM)
川 柳
ベトナムへみやげ軍艦とはいかに
ゲンパツと同じセンスで豊洲かな
マ スコミはトランプトランプでひとかせぎ
見抜いてる愚衆世界のトランプ氏
過労死のありて日本御繁栄
憲法を沈黙させるアベ踏絵
2017年2月
ゝ 史
複眼単眼
安倍首相の施政方針演説異聞
第193通常国会の安倍首相施政方針演説の最後は、事実誤認と揶揄された土佐のハマグリの寓話に続いて、以下のような改憲の提起の言葉で締めくくられた。
未来は変えられる。全ては、私たちの行動にかかっています。
(広く知られているプラカードの批判部分は省略)
自らの未来を、自らの手で切り拓く。その気概が、今こそ、求められています。
憲法施行70年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。
未来を拓く。これは、国民の負託を受け、この議場にいる、全ての国会議員の責任であります。
世界の真ん中で輝く日本を、1億総活躍の日本を、そして子どもたちの誰もが夢に向かって頑張ることができる、そういう日本の未来を、共に、ここから、切り拓いていこうではありませんか。
これはどういう意味だろうか。安倍首相は憲法施行70年に際して、持論の「戦後レジームからの脱却」を結びにしたのだ。「次なる70年」に向かって、憲法=日本をどのような国にするか、「憲法審査会で具体的な議論をはじめよう」と述べたのだ。行政府の長が国憲の最高機関である立法府にたいして、改憲の議論を始めようと3権分立を無視して言ったことの問題は多くのところで指摘されているので省くが、ここで安倍首相は「海外で戦争をすることがなかった70年」に代わる「次なる新たな70年」を提唱した。
その意味するところは自民党の改憲草案に見られるような「国防軍の保持と戦争のできる国」としての70年以外に考えられない。これが安倍首相が構想する「世界の真ん中で輝く日本」「1億総活躍の日本」なのだ。なんともおぞましいことではないか。
このところ、私は憲法70周年に絡んで、1945年以前の明治近代からの日本もほぼ同じくらいの幅だということを語っている。明治以降の日本近現代史の折り返し点がだいたい1945年ということだ。それ以前はアイヌモシリと琉球王国の併呑(固有の領土?)に始まった日本近代史の「戦争と侵略」の70数年(正確には77年か?)であり、それ以降は「戦争をしなかった」70年だ。安倍首相が語る「次なる70年」はふたたび「戦争の70年」に重なることを否定できるだろうか。
私たちは、いま、この首相施政方針演説が示した道を拒否してたたかうことこそ問われている。
そして「世界の真ん中」などでなくていい。「子どもたちの誰もが夢に向かって」生きていける時代をつくることだ。 (T)