人民新報 ・ 第1349号<統合442号(2017年5月15日)
  
                  目次

● 朝鮮半島危機に便乗する安倍を糾弾する  平和的外交的手段こそが唯一の解決だ

                          共謀罪法案粉砕! 改憲阻止! 安倍内閣打倒! 

● 答弁できない金田法相は辞任せよ!  拙速審議・委員会採決 を許すな!  共謀罪廃案へ

● 総がかりをこえる総がかり行動を!

             各地で憲法集会  東京・有明での憲法集会に55000人

● 最低賃金を1500円に! 

● 「労働情報」が創刊40周年  新たな時代へスタート

● 2015年安保総がかり闘争のいぶき  高田健さんと菱山南帆子さんの出版記念講演会

● 第88回日比谷メーデー  「働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう」をメインスローガンに7000人の労働者が結集

● 東部労組メトロコマース支部が大株主の小池都知事へ要請申し入れ行動

● 米国の対中強硬派の軍事理論と提言 ――  封じ込めと和平演変の戦略方針

               ピーター・ナバロとマイケル・ピルズベリーを読む

● せんりゅう  

● 複眼単眼  /  安倍政権が煽り立てる朝鮮戦争の危機






朝鮮半島危機に便乗する安倍を糾弾する 
 平和的外交的手段こそが唯一の解決だ

                     
 共謀罪法案粉砕! 改憲阻止! 安倍内閣打倒! 

 5月9日に投票が行われた韓国の大統領選挙で、文在寅(ムンジェイン)候補が大差で勝利した。朴槿恵を大統領職から引きずり下ろした民衆の力で9年ぶりに政権交代が実現した。 朝鮮半島をめぐる軍事的緊張が高まる中で、韓国民衆は対北強硬派の候補者を否定した。韓国新政権には、朝鮮半島の緊張緩和のための政策で、南北関係の改善、周辺諸国との互恵平等関係の構築していくことが期待されている。いまだに朝鮮半島情勢の危機は消滅したわけでもないし、依然として、軍事的衝突の危険性はなくなっていないが、紛争・対立の外交的話し合いを求める声の高まりの中で、平和的解決の可能性が生まれてきた。
 にもかかわらず安倍政権は、3〜4月にわたる米韓の合同野外機動訓練「フォールイーグル」とトランプ政権による直接軍事攻撃の脅し、北朝鮮のミサイル発射実験などの状況を、危機便乗的に戦争する国づくり政治強行に利用しようとしている。安倍は米軍のシリア空爆にいちはやく支持宣言をおこない、今回の北東アジアの危機にも悪のりして日米軍事同盟強化などの反朝鮮、反中国の策動を展開した。だがこの目論見はうまくいきそうにない。韓国新政権の発足だけでなく、迷走するトランプ政権の「アメリカ第一主義」は、朝鮮半島をめぐる情勢の緊張によって、かえって米中間に共通の利益と協働の将来をもたらす可能性が出てきた。トランプ政権の外交とりわけアジア政策は、米中対決の激化に展望を見ている安倍の期待と思惑に逆行しそうである。
 安倍の進める「我が国の重点外交政策」は「自由と繁栄の弧」といわれるものだ。第一次安倍内閣当時の外相の麻生太郎は、「『自由と繁栄の弧』をつくる―拡がる日本外交の地平」と題する政策スピーチを行った。それについて、麻生は、2007年「外交青書の刊行に当たって」で「日米同盟や国際協調、近隣アジア諸国の重視に加えて、……私は、東南アジアから南アジア、中央アジア、中東、中・東欧、バルト諸国において、普遍的価値を基礎とする豊かで安定した地域、すなわち『自由と繁栄の弧』の形成に取り組んでいく方針を打ち出しました」と述べている。 外交青書は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済といった『普遍的価値』を重視しつつ、『自由と繁栄の弧』を形成することを新たな日本外交の柱として位置付け、外交の新機軸として打ち出した。これは、北欧諸国から始まって、バルト諸国、中・東欧、中央アジア・コーカサス、中東、インド亜大陸、さらに東南アジアを通って北東アジアにつながる地域において、普遍的価値を基礎とする豊かで安定した地域、すなわち『自由と繁栄の弧』を形成していくことをその内容とするものである」と位置づけた。数えあげられた国・地域を見てみれば、それが中国包囲網を形成し、日本の政治大国化をはかり、出来るなら、すべての国を「自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済といった『普遍的価値』」をもつ体制に変えようと意図するものである。
 こうした外交政策がますます世界の流れから離れていこうとしているにもかかわらず、安倍は逆に反動暴走にいっそう拍車をかけてきた。
 改憲阻止、戦争体制づくりに反対する闘いは新たな局面に入った。今年は、憲法施行70年、5月3日には安倍暴走政治に反対して全国各地で憲法のつどいが持たれた。東京・有明防災公園での「いいね!日本国憲法―平和といのちと人権を!憲法集会」には55000人が結集して、改憲反対、憲法を活かそうとアピールした(3面に記事)。
 同日に安倍は、櫻井よしこを代表とする改憲派の「民間憲法臨調」の公開フォーラムに、@憲法改正を2020年から施行したい、A憲法第9条に第3項を追加し、自衛隊を合憲とする、B教育の無償化を憲法に規定する、というビデオメッセージを寄せた。安倍は、このことで憲法論議と改憲発議・国民投票をはやめ、同時に公明党の加憲論や民進党の分断を狙った。9条改憲が安倍の目的だが、最大限の解釈改憲をすすめ、明文改憲として、同時に96条改憲、緊急事態条項など迂回作戦で、とにかく憲法を変えることで突破口を開こうとしてきた。自民党改憲草案は、現行9条2項を削除し「2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」とし、新たに「(国防軍)第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」としてきたのを、今回のメッセージでは、9条改憲を突出させた。
 安倍の9条改憲の策動をより大きな改憲阻止運動の盛り上がりで粉砕しよう!


答弁できない金田法相は辞任せよ!

     拙速審議・委員会採決 を許すな!

                  
 共謀罪廃案へ

       
 4月19日から、衆議院法務委員会で、「テロ等準備罪などの組織犯罪処罰法改正案」(193閣法69号)という名前の共謀罪法案の実質的審議が始まった。初めて共謀罪法案が国会に提出されたのは2003年で、これまで3度出され、すべて廃案になっている。それをまたも提出してきた。名前を変えるなどいう姑息な手法を使ってである。しぶといゾンビのような法案であるが、今度こそは確実に葬っていこう。
 日本の法律では、やってしまった犯罪に対して処罰されるのが大前提となっている。まだ何も被害が出ていないうちから犯罪計画について話したり、それに合意したりするだけでは罪に当たらない。ごく例外を除いて、まだ何も被害が出ていないうちから犯罪計画について話したり、それに合意したりするだけでは罪に当たらないのということだ。だが共謀罪は、話し合った段階で罪に問われてしまう。例外的に、重大な犯罪については準備段階から予備罪・準備罪として処罰し、刑法で言えば内乱罪などさらに重大な犯罪についてのみ、陰謀罪・共謀罪として処罰されるだけである。
 安倍政権にとって、政府に反対する運動をその準備も始まっていないという段階から禁圧するのが目的だ。それだけではない法案に「等」があることによって、対象は限りなく広がることになる。法案にこの「等」とつけることが政府の狙いでもある。政府答弁でも「一般人」も、官憲の側の一方的な判断によって犯罪を行おうとしているとして処罰の対象にされることになる。当然にも、各界各層からの反対や批判・不安の声が広がろうとしている。
 だが安倍政権は何としてもこの通常国会で強引に成立させようとしている。そして、5月連休明けが、共謀罪をめぐる最大の攻防のときになった。9日の参院予算委員会で、安倍は「共謀罪」を2020年東京オリンピック・パラリンピックのために法案成立が必要だと述べた。だが、そもそも、安倍は「世界一安全な日本でオリンピックを開く」と言って誘致したのだ。にもかかわらず、共謀罪がなければ危ないというならば、それは、嘘で世界にアピールして東京に誘致したのだから、まず返上すべきなのだ。この発言も、反対の声を抑えるための姑息な口実に過ぎないことは明らかだ。
 政府与党は急いでいる。安倍政権は、なんとしても5月19日までに衆議院法務委員会で強行採決し、衆院本会議での通過が強行しようとしているからだ。共謀罪法案の粉砕にむけて、国会前の連日の座りこみ抗議をはじめ、全国で様々な反対運動の取り組みが予定されている。
 実質審議開始の4月19日、衆議院第二議員会館前で、共謀罪NO!実行委員会と総がかり運動実行委員会の共催で「答弁できない金田法相は辞任せよ!共謀罪法案廃案へ!国会前行動」抗議の集会を開いた。
 4月25日の抗議集会には450名が参加した。
 5月9日の国会前行動は550名となった。
 5月8日からは、共謀罪廃案を求める国会前連続行動がはじまり、議員会館前行動がとりくまれた。12日からは衆議院法務委員会が開かれることになっているが、昼の議員会館前での集会・座り込み、夜の議員会館前集会がはじまる。そして、全国の街頭宣伝で、共謀罪廃案の声を広ろげる。16日には日比谷野外音楽堂集会&銀座デモが予定されている。
 嘘に嘘を重ねて強行的に成立させようとしている共謀罪は現代の治安維持法である。広範な人びとの共同の輪をひろげ、共謀罪成立を阻止しよう。



(資料) ・ 共同アピール:安倍政権は、朝鮮半島の戦争の危機を力ではなく対話によって解決することをめざせ!

 米国トランプ政権は、北朝鮮の核・ミサイル開発の動きに対して「力による平和」を呼号し、武力攻撃を強行する態勢を整えています。もし万が一、朝鮮半島で再び戦争が起これば、朝鮮半島の人びとの命が大量に奪われるばかりか、在日米軍基地を抱える沖縄をはじめ日本列島にも惨禍が及ぶことは避けられません。

 しかし、安倍政権は、トランプ政権に追随してその危険な政策を積極的に支持しています。米空母カールビンソンとの共同訓練に海上自衛隊の艦船を派遣し、さらに護衛艦「いずも」を出動させて安保関連法による初めての米艦防護にまで踏み込みました。また、北朝鮮による化学兵器使用やミサイル攻撃の危険性を口にし、避難行動の必要性を指示するなど、いたずらに危機を煽り立てています。戦争の危機を回避するために必要な外交をまったく行っていません。

 私たちは、安倍政権に対して、朝鮮半島の戦争の危機を力ではなく対話によって解決するために、以下の行動をとることを強く求めます。

 *米軍と軍事行動を共にする準備をただちにやめること。 
 *朝鮮半島の非核化と緊張緩和のために、六か国協議の再開に向けて外交交渉を始めること。

                呼びかけ団体
                   許すな!憲法改悪・市民連絡会
                   憲法を生かす会
                   平和をつくり出す宗教者ネット


総がかりをこえる総がかり行動を!

    各地で憲法集会 
 東京・有明での憲法集会に55000人

 今年は憲法施行70年にあたる。5月3日は各地で憲法改悪に反対する行動が取り組まれた。東京では江東区の有明防災公園で「施行70年 いいね!日本国憲法―平和といのちと人権を!5・3憲法集会」が開かれ、昨年を上回る5万5000人が参加した。戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合が協賛し、立憲野党からの挨拶が行われた。集会は、「私たちがめざすこと」として、「私たちは、日本国憲法を守り生かし、不戦と民主主義の心豊かな社会をめざします」「私たちは、二度と戦争の惨禍を繰り返さないという誓いを胸に、戦争法の廃止をめざします」「私たちは、沖縄県民と思いを共にし、辺野古新基地建設の撤回を求めます」「私たちは、被災者の思いに寄りそい、原発のない社会をめざします」「私たちは、人間の平等を基本に、貧困のない社会をめざします」「私たちは、人間の尊厳をかかげ、差別のない社会をめざします」「私たちは、くらしの基盤をこわすTPPに反対します」「私たちは、これらを実現するために行動し、安倍政権の暴走にストップをかけます」をあげ、改憲に向かう安倍政権に対抗する勢力が総結集し、内閣退陣にむけてともに闘い抜く声をあげた。
 プログラムは正午からのプレコンサートで始まり、午後1時に開会が宣言された。「トーク1」では、ファッション評論家・シャンソン歌手のピーコさんが、安倍のもくろむ改憲の危険性について批判した。世界平和アピール7人委員会委員・名古屋大学名誉教授の池内了さんは、研究を軍事に向けようとしていることに反対する運動について報告した。日本劇作家協会前会長の演出家・坂手洋二さんは、外国に行った時に、自国の誤りをどうどうと批判できる人こそ愛国心があるといわれると述べた。映画監督・プロデュサーの山田火砂子さんは、戦争に行く子どもを喜ぶような母親はいない、そのことを示すためにも映画「母 小林多喜二の母の物語」をつくった、と発言した。
 つづいて、会場からの「野党は共闘!」のコールの中で野党からの代表あいさつ。
 民進党の蓮舫代表―総理の、総理による、総理のための憲法改悪には、絶対に反対だ。しかも、言うたびに、どこを変えるのかを変えてくる。
 共産党の志位和夫委員長―70年間、変える必要がなかったというのは、日本国憲法がいかに立派な、進んだ憲法であるかを証明するものだ。変えるべきは憲法ではなく、憲法を蔑)ろにした政治だ。
 自由党の森ゆうこ参院議員会長―自民党憲法草案は基本的人権を削除した。国民主権、基本的人権、平和主義、国際協調を踏みにじる改憲には反対だ。
 社民党の吉田忠智党首―必要なのは憲法改悪ではなく憲法を活かすことだ。衆院選では住み分け選挙協力をしっかりして安倍政治を止めよう。
 参院会派「沖縄の風」の伊波洋一幹事長―沖縄では民意が無視されている。沖縄の人々は立ち上がっている。4野党とともに沖縄の風は国民主権をいかすために活動していく。
 「トーク2」に移る。 作家の落合恵子さん―70年の憲法記念日だが、80年、100年と永遠に記念していこう。数の力におごって憲法を破壊しようとする人たちにきっちり落とし前をつけよう。
 弁護士の伊藤真さん―自由で豊かな社会のためにはインフラが大切だが、70年前に憲法の制定と施行という最も大切なインフラができた。
 中央大学教授で憲法学の植野妙実子さん―憲法はこれまで私たちの生活を支えてきた。憲法を変えたいという人たちは憲法を読んでいない。私たちもそれぞれのところで憲法を読み、憲法を発見し、発展させていかなければならない。
 特別ゲストは韓国から朴槿恵退陣緊急国民行動を中心的に担った参与連帯政策局長の李泰鎬(イ・テホ)さん―韓国は一部の人たちを除いて地獄のような国になったが、キャンドルデモなどをつづけていくようになって、ついに韓国の市民たちは朴槿恵を大統領職から引き降ろした。大韓民国は民主国だ。ようやく憲法の役割が果たせるようになった。いまこそ誰が国の主人なのかはっきりさせなければならない。
 特別アピールは、辺野古新基地建設に反対して不当に逮捕・長期勾留された沖縄平和運動センター議長の山城博治さん―戦争の道まっしぐらのやりたいほうだいの安倍をとめよう。裁判闘争でも政府に打ち勝っていく。護岸工事が始まったが、埋め立てはできない、新基地はできない。稲嶺名護市長、翁長県知事も反対している。われわれもともに政府に対決していく。全国の闘いをつぶすために共謀罪がある。絶対にほうむっていこう。このような時にこそ野党共闘、反政府共闘で闘おう。全国の仲間、世界の仲間が、日本がどこへ行くか見守っている。
 共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会の米倉洋子弁護士―日弁連も共謀罪法案に反対している。政府は共謀罪法案をテロ対策だと言っているがこれは事実ではない。犯罪など何もしなくても罪とされる。対象も非常に広範で、キノコ採りまで含まれている。言論、表現、行動を規制し、監視社会となる。廃案にしなければならない。
 最後に、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会の高田健さんが行動提起をおこなった。
 集会を終わって、参加者は豊洲、台場にむけた2コースに分かれてパレードを行った。


最低賃金を1500円に! 

      グローバル・アクションに呼応し、日本でも各地で行動


 4月15日は、グローバルアクションに呼応し、日本でも各地で「最低賃金を1500円に!」「だれでもどこでも1500円!」を求める行動が、格差と貧困の是正などを求める若者グループ「エキタス」など市民団体や労働組合などによって取りくまれた。

 東京では、新宿中央公園・水の広場で1500人が集まり集会を開いた。作家の雨宮処凛さんは、最低賃金をあげて、人間らしい働き方を実現しようと述べ、またエキタス、労働組合からの発言があった。集会を終わって、「上げろ賃金」、「富の再分配」、「生活苦しい奴は声を上げろ」、「金持ちは税金を払え」、「働き過ぎごめんだぜ」など思い思いのプラカードや組合旗を掲げて新宿の街でアピールした。


「労働情報」が創刊40周年  新たな時代へスタート

           記念のパネルディスカッションとレセプション


 労働運動の動向、各地、各職場での先進的な闘いを報道し、また各産別の活動家の横の結集を推進してきた「労働情報」は1977年2月に創刊準備号から定期発行をつづけ今年、創刊40年を迎えた。
 4月23日、文京区民会館で、創刊40周年・記念パネルディスカッション・レセプションが開かれた。
 第一部のパネルディスカッション(テーマ「社会を変える、労働運動を変える」)は、労働ジャーナリストの東海林智さんの司会で、鈴木剛さん(東京管理職ユニオン執行委員長)、大椿裕子さん(大阪教育合同労組委員長)、辻谷貴文さん(全日本水道労働組合書記次長)、松元千枝さん(労働情報編集者、ジャーナリスト)をパネリストに熱い発言がつづいた。 
 第二部「レセプション」には、労働情報を支えてきたメンバーや新旧の読者が参加し、大いに盛り上がり、新時代に向けてのスタートが切られた。


2015年安保総がかり闘争のいぶき

       
  高田健さんと菱山南帆子さんの出版記念講演会

 2015年安保闘争と呼ばれる戦争法制に反対する歴史的な闘いは、総がかり行動、市民と立憲野党の共闘という安倍政権の暴走政治に対抗する確固たる陣形を生み出した。
 最近あいついで出版された高田健さんの「2015年安保、総がかり行動―大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た」(梨の木舎)と菱山南帆子さんの「嵐を呼ぶ少女と呼ばれて 市民運動という生きかた」(はるか書房)は、その運動の高揚はいかにつくられ、展開したかを記録している。

 4月26日、文京シビックセンター「スカイホール」で、「つながる、ひろげる市民運動 高田健さんと菱山南帆子さんの出版記念講演会」が開かれた。
 はじめの記念講演は、15年闘争の中心的な役割をになった中野晃一・上智大学教授。菱山さんは、人にはゆずれないものがある、怒ることが大切だと書いているが、今の世の中、人間の尊厳を踏みにじられこんな不公正、不正は絶対に許せないという気持ちを日本人は共有していかなければならない。高田さんの本で感銘を受けたのは、希望を語ることだ。魯迅の言葉を引いて、道ははじめからあるのではなく、人びとが歩くからそれが道となるのだ。安倍政権は人びとがあきらめるのを待っている。多くの人が運動に参加してくること、それが希望だ。運動の分裂をのりこえて、総がかり運動が出来、そして国会の内外が連携が出来た。安倍首相が日本を代表しているわけではない。もう一つの日本があるのだ。

 つづいて、中野晃一さん、高田健さん、菱山南帆子でトークセッション。

 出席者からのスピーチでは、内田雅敏弁護士、岡本厚岩波書店社長、菱山さんの小学校の時の担任の奥山先生、小田川義和全労連議長、小原隆治早稲田大学教授、櫻井大介全労金副委員長、清水雅彦日本体育大学教授、野平晋作ピースボート共同代表、福山真劫平和フォーラム代表、福山洋子弁護士、高田さんの古くからの友人である宮本なおみさん、最後に出版社から羽田ゆみ子梨の木舎社長、小倉修はるか書房社長が、お祝いの言葉を述べた。


第88回日比谷メーデー

        
「働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう」をメインスローガンに7000人の労働者が結集

 5月1日、日比谷野外音楽堂で、戦争法廃止!、許すな共謀罪!憲法改悪を許さない!、労働法制の改悪反対!、一日8時間労働制の破壊を許さない!、福島を忘れない!、原発の再稼働糾弾!、辺野古新基地建設阻止!などをスローガンにして、第88回日比谷メーデーが開催され、7000人の労働者が参加した。
 主催者を代表して、国労東京地本の鎌田博一委員長があいさつ。安倍内閣は、立憲主義をないがしろにして戦争のできる国づくりに暴走し、反対の声を圧殺するために現代の治安維持法である共謀罪法案を早期に成立させようとしている。戦後最悪の攻撃だ。共謀罪廃案、戦争法の廃止、改憲阻止、そして安倍政権を打倒しなければならない。福島原発事故の風化をゆるさず、手厚い補償の実現、原発再稼働・輸出に反対する。世界経済は不安定化し、アベノミクスは一部大企業にもうけをほしょうしながら、格差と貧困をもたらしている。JALをはじめさまざまな争議に勝利し、都議選や総選挙で、国民本位の政治の確立を実現するためにおおきく団結して闘おう。
 連帯あいさつでは、西川晋司都労連委員長、代々木中央メーデー実行委員会から館野豊全農協労連書記長、来賓あいさつは藤田祐司東京都産業労働局長、福島みずほ社民党参議院議員がおこなった。
 韓国民主労総、大阪・中之島メーデー実行委、京都地域メーデー実行委からのメッセージが紹介された。
 解雇撤回で日本遠征闘争を闘う韓国サンケン労組(韓国・全国金属労働組合慶尚道支部韓国サンケン分会)が登壇し、アピールと非正規職撤廃連帯歌などを歌った。
 決意表明では、非正規雇用(―練馬区図書館専門員労組)、外国人労働者(―全統一労組)、反戦平和(―5・3憲法集会実行委員会)、争議組合(―全国一般東京東部労組メトロコマース支部)が訴えをおこなった。
 アピールを採択し、金澤壽全労協議長の音頭で団結がんばろうをおこない、土橋コースト、鍜治橋コースのデモに出発した。


東部労組メトロコマース支部が大株主の小池都知事へ要請申し入れ行動

         非正規差別許さず、労契法20条裁判に勝利しよう!


 5月1日、東京東部労組メトロコマース支部は全日ストライキに突入。
 メトロコマースの非正規雇用労働者と正社員の差別・格差は大きく、メトロコマース支部は是正を求めて裁判を闘ってきたが、3月23日、東京地裁民事36部の吉田徹裁判長は、組合の請求をほとんど退けるまったくの不当判決をだした。
 地下鉄売店のメトロコマースは東京メトロの100%子会社で、東京都はメトロの株の47%を保有している。裁判所は権力資本の側に立っている。ここは大株主の東京都にたいする行動によって解決の道を切り開かなければならない。
 メトロコマース支部の小池ゆり子知事への要請は、非正規労働者への賃金差別をなくすために株主としての徒然の責任を果たせ、というものだ。

 日比谷メーデーでの争議組合を代表しての発言でメトロコマース支部は、メトロコマースの親会社は東京メトロで、その株主は東京都であり、小池都知事にアピールに行きますと発言した。そのアピールに応じた多くの労働者たちが行動に参加した。
 午後1時すぎからは、激しい雨が降る中で、メトロコマース支部によるストライキ都庁アピール行動が行われ、支部組合員と支援の人びと約100人が参加し、東部労組、メトロコマース支部、弁護団、支援の労組からの発言などが続き、闘いの決意をもりあげた。
 都庁前での集会につづいて、要請書を手渡すために全員で都庁1階ロビーに入った。しかし都側は、いろいろな口実を使いながら責任ある担当者が出てこない。だが、組合員と支援の労働者はあきらめない。赤旗が何本も立ち、一歩も引かない姿勢だ。都庁を訪れた人、外人観光客も多い、興味深そうに事態を見つめている。一時間以上たってやっと都市整備局課長が出てきた。マメロコマースの非正規労働者で裁判原告の後呂良子さんが、「東京メトロ株主として東京メトロとメトロコマースの経営者に非正規労働者への賃金差別をやめさせ、すべての労働者に人間らしい生活と尊厳を確保させるよう対処されることを要請します」と要請書を読み上げ、それを都市整備局課長に直接手渡した。
 メトロコマースの闘いは、労働契約法20条裁判闘争では郵政ユニオンの闘とともに重要な位置にある。この闘いには多くの非正規雇用労働者の生活が懸かっている。絶対に勝利しなければならない。


米国の対中強硬派の軍事理論と提言 ――  封じ込めと和平演変の戦略方針

       
  ピーター・ナバロとマイケル・ピルズベリーを読む

トランプ政権内対中強硬派
 
 トランプ政権の登場は、アメリカの相対的地位の低下がものたらしものだが、新政権の「アメリカ第一」政策は、シリア・アフガニスタン空爆、対北朝鮮への軍事脅迫などの外交政策となって世界の不安定さを増幅させている。
 安倍政権は、トランプ新政権のなかで対中国強硬派が影響力を持つことに期待していた。その第一には右派のインターネット・メディア経営者で首席戦略官・大統領上級顧問のスティーブン・バノンだが影響力は激減している。次には貿易政策を統括する「国家通商会議」委員長のピーター・ナバロが期待されている。だが、この間のトランプは、台湾問題や為替問題でも対中強硬策を転換しつつある。
 しかし、アメリカ支配層の中には、強固な対中対決派が存在していることはうたがいない。この頃、米中関係のなかにおける中国軍についての本があいついで出版されている。ここではアメリカ鷹派の代表な考えを見ておきたい。

オフショア政策の勧め

 昨年暮れには、ピーター・ナバロ著の「米中もし戦わば―戦争の地政学」(文藝春秋)が出版された。本の帯には「トランプ政策顧問が執筆! 防衛省現役組が今読んでいる本」とある。解説は、飯田将史(防衛省防衛研究所地域研究部中国研究室主任研究官)で「中国が何を狙い、何が同盟国の側に足らないのか、わかりやすく書いている。…アジア地域へのアメリカ軍のプレゼンスを軽視する候補が大統領になった今こそ、日本人に読まれるべき書というべきだろう」と推奨する。飯田氏も趨勢としてはアメリカのアジア離れをみている。
 この本で強調されているのは「アメリカの三本柱」(@圧倒的な戦力によって制空権、制海権を確保している空母戦闘群、A第一・第二列島線上に数か所配置されている、攻撃の起点および後方支援の拠点となる大規模な基地、B最先端の「C4ISR」(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察)によって戦場の状況認識を可能にする人工衛星システム)に依拠して、中国の三本柱(@アメリカの非常に高額な空母戦闘群および基地(固定された「ソフトターゲット」)を破壊ないし無力化する能力を持った、比較的安価な非対称兵器を大量生産する、A将来的にアメリカ軍を量的にしのぐことを目的として、空母戦闘群を大量生産する、Bアメリカの人工衛星システムの破壊および中国自身の人工衛星ネットワーク構築によって制宙権を握り、アメリカのC4ISR優位を打破する)ことだ。そのうえで結論として、対中軍事政策の二大選択肢である「エア・シー・バトル」(中国本土へ反撃を開始し、戦闘ネットワークを麻痺させ、長距離攻撃システムを無力化し、情報・監視・偵察能力を破壊する)と「オフショア・コントロール」(中国の軍用船及び商船の通行を封鎖し、エネルギー輸入と製品輸出路を断ち切ることによって中国経済の息の根を止める)をあげ、後者を勧めている。「残る選択肢は『力による平和』以外にない」ということだ。
 米中直接軍事対決=戦争ではなく、長期にわたる一種の封じ込め政策をおこない、その間に中国の自由主義勢力など反体制勢力の拡大を支援し、資本主義への平和転換(和平演変)の実現に期待するということを狙っているのだろう。ソ連体制の崩壊を長期的に計画したアメリカの外交官・政策立案者ジョージ・ケナン以来の封じ込め政策の対中国版だといえるだろう。

100年マラソン

 つぎのマイケル・ピルズベリー「CHINA 2049 秘密裏に遂行される『世界覇権100年戦略』」は、ジェームズ・ウールジー(元CIA長官、民主主義防衛財団会長)によって「本書はCIAのエクセプショナル・パフォーマンス賞を受賞したマイケル・ピルズベリーの経験に基づいて書かれたものだ。『パンダハガー(親中派)』のひとりだった著者が、中国の軍事戦略研究の第一人者となり、親中派と袂を分かち、世界の覇権を目指す中国の長期的戦略に警鐘を鳴らすようになるまでの驚くべき記録である。本書が明かす中国の真の姿は、孫子の教えを守って如才なく野心を隠し、アメリカのアキレス腱を射抜く最善の方法を探しつづける極めて聡明な仮想敵国だ。我々は早急に強い行動をとらなければならない」と推奨されたものだ。著者のピルズベリーは、ハドソン研究所中国戦略センター所長、国防総省顧問。ニクソンからオバマにいたる政権で対中国の防衛政策を担当、ランド研究所分析官、外交問題評議会と国際戦略研究所のメンバーという要職に在り、米国支配層への影響力は大きい。ながく中国軍の分析をおこなってきて著作・論文も多いが、決して「『パンダハガー(親中派)』のひとり」だったというわけでない。それにしても、この本は、善良なアメリカ人が陰険な中国人に騙され続けたという繰り言が多い。なお、元のタイトルは、「The Hundred-Year Marathon China's Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower」で「100年マラソン」とは、1949年の中華人民共和国建国から100年後の2049年までに中国がアメリカにとって代わって世界の覇権を握ることをたくらむ秘密計画を暴露するとするものである。
 ピルズベリーは、これまでのアメリカの対中戦略における間違っていた前提として、@つながりを持てば、完全な協力がもたらされる、A中国は民主化への道を歩んでいる、Bはかない花、中国、C中国はアメリカのようになることを望み、実際、その道を歩んでいる、D中国のタカ派は弱い、ということだった。だが、これは誤っていて、タカ派こそが主流だという。
 そして、100年マラソンの土台となっている中国戦略の九つの要素として、@敵の自己満足を引き出して、警戒態勢をとらせない、A敵の助言者をうまく利用する、B勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する、C戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む、D長期的な競争に勝つうえで、軍事力は決定的要因ではない、E覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえとりかねない、F勢を見失わない、G自国とライバルの相対的な力を測る尺度を確立し、利用する、H常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする、ことだとし、「中国の戦略の核心にあるのは『勢』だが、その概念を西洋の人間に説明するのは難しい。英語に相当する単語はないが、中国の学者は『勢』を『勢力』、あるいは『物事が進む成り行き』と説明する。熟練の戦略家だけが、勢を活用して、強力な大国に打ち勝つことができる。同様に、経験を積んだ国だけが、勢を活用する国に対して自分がいかに弱いかを知っている。そして、アメリカの対中戦略を運命づけているのは、勢の活用についての認識の不足だ」と結論する。
 なぜこうなるかというと、中国の歴史は欧米と違うこと、とりわけ中国古代の春秋戦国時代などの諸国諸勢力の興亡の中から政治軍事戦略として生まれた「孫子」「戦国策」「兵法三十六計」などの著作に、アメリカは注目してこなかった、これからはしっかりと読み込んでいかなければならない、と主張する。
 またピルズベリーは、中国の軍事戦略の重要な内容を表現するものとして、「超限戦」という本の衝撃について書いている。「1960年代以降、アメリカの政策立案者は、中国は後進国で、軍事活動に熱心でなく、アメリカにとって軍事的脅威にはなり得ない、と考えるように導かれてきた。…これがすべて正しいわけではないとアメリカ人が気付き始めたのは、北京語で書かれ中国で広く読まれた『超限戦』という本が、西洋でも知られるようになってからのことだ。その本はアメリカの脆弱性を率直に論じ、中国の軍人社会で大きな反響を呼んだ。『超限戦』は直接の軍事行動をとらなくても、法の戦争(国際法、国際機関、国際法廷を利用してアメリカの活動や政治選択の自由を制限すること)、経済戦争、生物・化学戦争、サイバー攻撃、テロリズムによって、アメリカのような強国を倒すことができると説いた。人々をさらに驚かせたのは、それを書いたのが、人民解放軍に所属するふたりの大佐、喬良と王湘穂であったことだ。このことが西洋に広まると、中国政府は直ちに書店から全冊を回収した」。この最後の部分にある書店から全冊回収されたというのはあやまりだ。「超限戦」の原書は1999年2月に出版(解放軍文芸出版社)され、2版(崇文書局)、増補3版(中国社会出版社)もでている。中国が秘密計画を慌てて隠したというのはフェイク・ニュースでしかない。現在、喬良は空軍少将、王湘穂は空軍上級大佐(退役)に進級しているし、いまも二人は、頻繁に著作・論文を発表している。「超限戦」理論は秘密でも何でもない。超限戦は、弱が強を制する理論で、戦争の新概念として非対称、非制限の戦争あげた。日本語版は2001年12月に出版(共同通信社)されたが、それは、オサマ・ビン・ラディンらのテロの危険性を指摘し、「9・11の予言」として評判を呼んでたちまちに売れ切れになったものだ。
 では、アメリカはどうするのか。ピルズべリーの提言は、「アメリカも中国の戦国時代の考え方を学び、中国の得意分野で中国を打ちまかすことは可能なのだ」というものだ。それは、「戦国としてのアメリカ」の確立のよびかけ、である。それは次のような12項目に分かれている。@問題を認識する、A己の才能を知る、B競争力を測定する、C競争戦略を考え出す、D国内で共通性を見いだす(米国内の意見の一致)、E国家の縦の協力体制を作り上げる(米国と日本などとの同盟の強化)、F(中国の)政治的反体制派を守る、G対米競争的行為に立ち向かう、H汚染者を突きとめ、恥じ入らせる(環境汚染問題をアピールする)、I(中国の)汚職と検閲を暴露する、J(中国指導部内の)民主化寄りの改革をサポートする、K中国のタカ派と改革派(修正主義者)の議論を監視し支配する。
 以上みてくると、ピルズベリーが狙っている方策も、結局のところこれまでのアメリカ歴代政権がとってきた政策とあまり変わるものではない。旧ソ連に対して成功した和平演変政策の提言でしかない。
 なおこの本の解説者の森本敏元防衛相だが、中国の動向を制御するためには、「対応できる力と協力が必要である。力とは抑止力であり、リバランスを進める米国と、日、豪、印、韓など同盟諸国やパートナー国が緊密な協力を進め、相互に機能しあう体制を築かなければならい。そのためには価値観を共有しうる国家群からなる多国間安全保障・経済協力を進める必要がある」とするが、その前提となる国際環境が激変しつつあることを見ておかなければならない。

 これらを読んでみて、いまこそ軍事ではなく外交による平和的な紛争解決という世界の潮流に逆行する右派勢力の時代錯誤をただし、安倍政権の戦争する国づくりを阻止すること、憲法9条を活かし、東アジアにける平和と協力の体制をつくりだしていくときである、という感をいっそう強くした。  (K)


せんりゅう

     寒戻りぬくめた床にもぐり込む

     しょった葱カモを見据えたハグと笑み

     情報開示まっ黒けっけのり弁紙

     手も足も出せぬ不条理網拡大

     回帰主義「日本会議」という鵺が

     潔く束ねた髪を捨つる日ぞ

                 瑠  璃


複眼単眼

      
 安倍政権が煽り立てる朝鮮戦争の危機

 四月六日、米国のシリア爆撃が強行され、続いてアフガンで通常兵器最大の爆弾MOABUが投下され、さらに九日、原子力空母カールビンソンが朝鮮半島海域に向かったという報道のなかで、北東アジア情勢は一気に緊迫した。
 四月六日の日米両首脳電話会談で、安倍首相は「トランプ大統領からは、全ての選択肢がテーブルの上にあるとの力強い発言があった」とのべ、米国の対応を支持した。朝鮮半島における「全ての選択肢」には米国による核先制攻撃も含まれることになる。
 すでに「カールビンソン」と海上自衛隊の艦艇による共同訓練が東シナ海周辺で実施され、太平洋では自衛艦「いずも」「さざなみ」による米海軍補給艦の防護活動も実施された。これは一昨年に強行した戦争法の発動であり、日米が軍事的にも協力して朝鮮情勢に対応することの表明であり、北朝鮮に対する自衛隊の公然たる敵対表明となった。
 日本政府は四月二一日、政府が公開している「国民保護ポータルサイト」で「弾道ミサイル落下時の行動」と題した資料を公開した。これによると、屋外にいる場合はできるだけ頑丈な建物や地下街などに避難する、適当な建物がない場合は物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る、屋内にいる場合は、窓から離れるか、窓のない部屋に移動する、などとされている。また、屋外に居る場合は「口と鼻をハンカチで覆い、密閉性の高い屋内に避難する」「室内を目張りする」などの行動が呼びかけられている。笑い事ではない。
 一方、東京メトロは四月二九日早朝、北朝鮮のミサイル実験をうけて、全線で地下鉄を停止させた。あたかも、北朝鮮からミサイルがすぐにでも飛来しそうな空気がつくり出されている。
 そしてメディアのほとんどが、北朝鮮のミサイル実験と核実験こそが、この北東アジアの危機の原因であり、これに圧力と制裁を加えるのは当然だという論調を展開している。安倍首相は「対話のための対話では意味がない。北朝鮮が真剣に対話に応じるよう圧力をかけていくことが必要」などと強調する。
 これだけ危機アジリをしながら、自身は訪露など外遊に行ったり、別荘でゴルフに興じた。内閣の閣僚の過半数がゴールデンウィークに外遊している。地下鉄は止めても、ミサイルが飛んできたらもっとも危険だと思われる日本海側の原発の再稼働はやめない。
 このようなちぐはぐな対応が続けば、誰しもが朝鮮戦争の危機とは何なのか、安倍政権の意図を疑わざるを得ないだろう。
 鶏と卵のたとえではないが、今日の緊張の原因を一方的に北朝鮮に押しつけるのは正当ではない。朝鮮半島がまだ平和条約すら締結されておらず、軍事的停戦状態にあるのみであり、これがかろうじて大規模な軍事的衝突を回避しているという歴史的実情を考えるまでもなく、昨今の緊張にしても、どちらが軍事的に挑発したのか、一方的なものではない。
 状況は、三〜四月におこなわれた三〇万人規模の米韓合同大軍事演習や、高高度ミサイル防衛システム「THAAD(サード)」の配備、空母カールビンソンの配備などに対抗するかのようにおこなわれる北朝鮮の核実験とミサイル実験というチキンレースそのものだ。
 このチキンレースの打開はペンスがいうような「力による平和」ではなく、平和的な外交交渉以外にない。
 四月一四日、中国の王毅外相が「朝鮮半島の問題は、誰の言葉がより凶悪で、誰の拳がより大きいかで(解決)できるものではなく、ひとたび本当に戦争が起きれば、誰も勝者にはなれないだろう」。「言動も行動も互いをこれ以上刺激せず、事態を挽回不能、収拾不能の状況まで追い立てるな」「「《双中断》(北朝鮮の核・ミサイル試験中断、韓米の大規模軍事訓練中断)と《双軌並行》(非核化・平和体制転換)など対話と交渉を通じた解決策を提案」したのは、このところの中国の南シナ海などでの覇権主義的行動はさておいて、妥当だろう。
憲法九条を持つ日本は、朝鮮半島の緊張に対して、関係各国の対話の実現に全力を尽くすべきであり、米国のみに加担して軍事的緊張煽りの片棒を担ぐことではない。  (T)