人民新報 ・ 第1358号<統合451号(2018年2月15日)
  
                  目次

● トランプ・核使用の新戦争政策

       自衛隊を米軍の尖兵とする集団的自衛権行使を許すな

● 市民連合の主催シンポジウム

       あたりまえの政治を取りもどす

● 平昌オリンピック・パラリンピックを機に緊張緩和の流れを強め、朝鮮半島情勢の平和解決へ

       安倍首相は、対立を煽り、戦争をもたらす危険な挑発をやめよ!

● 自衛官の戦争法違憲訴訟で東京高裁判決

       存立危機事態での出動命令に従う義務ついて不服従の予防的違憲確認を認める

● 卑劣な組合攻撃を許さない

       経営側の搾取強化と抑圧・弾圧は表裏一体のものだ

● 森友・加計情報隠しを許さない!公文書管理法改正、情報公開法改正を求める院内集会

        「公文書管理法の見直しに向けて」情報法制の「四輪」は、公文書管理・情報公開・個人情報保護・国立公文書館

● 核燃料サイクル・六ヶ所再処理工場反対し放射能汚染を阻止しよう!

        阻止ネットの「もんじゅ」視察ツアー報告会

● 本の紹介

        橋本健二「新・日本の階級社会 (講談社現代新書)」 

● せ ん り ゅ う

● 複眼単眼  /  権力制限規範としての憲法と安倍首相の嘘






トランプ・核使用の新戦争政策

      
 自衛隊を米軍の尖兵とする集団的自衛権行使を許すな

 集団的自衛権とは「ある国家が武力攻撃を受けた場合に直接に攻撃を受けていない第三国が協力して共同で防衛を行う国際法上の権利」だというが、安倍政権の進める日米軍事同盟強化政策の下で、自衛隊がアメリカの戦争に組み込まれる義務ということである。
 アメリカはこれまでも不当不法な様々な戦争を繰り返してきた。世界支配の維持のためと米軍需産業の利益のためである。大量破壊兵器保有を口実にしたイラクへの攻撃は、すでに、その根拠がなかったことが明らかになっている。イラクをはじめ中東の多くの人びとを殺し、難民の大量の発生は欧州各国での混乱を引き起こしている。
 トランプ政権においては、ますます暴走ぶりが激しくなっている。イスラエルへの肩入れ、シリアへの軍事介入、イランとの敵対、中ロへの敵視、とりわけ北朝鮮との緊張の激化は、世界の安定を損ね、戦争の危機を各地で作り出している。
 2月2日、トランプは新しい核戦略「核態勢見直し」(NPR)を発表し、実際の核兵器使用、それも先制攻撃を打ち出したのである。核軍縮、核戦争阻止という多くの人びとの願いと歴史の趨勢に逆行する許しがたい政策である。
 ところが「唯一の被爆国」である日本政府の態度はどうか。2月3日の外務大臣談話は次のように述べたのである。「今回のNPRは,前回のNPRが公表された2010年以降,北朝鮮による核・ミサイル開発の進展等,安全保障環境が急速に悪化していることを受け,米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしています。我が国は,このような厳しい安全保障認識を共有するとともに,米国のこのような方針を示した今回のNPRを高く評価します。我が国としては,今後とも,日米拡大抑止協議等を通じ,核抑止を含む拡大抑止について緊密に協議を行い,日米同盟の抑止力を強化していく考えです。」
 これがトランプと「100%の一致」を繰り返し発言する安倍の方針だ。集団的自衛権行使を実行する自衛隊を憲法に明記して、合憲化するとは、核戦争を含めた米軍の作戦の一翼を担うことに他ならない。日本は米軍の無謀な戦争の尖兵の役割を果たすわけにはいかない。
戦争法廃止、憲法改悪阻止の闘いは日本とアジア・世界の人びとの生命にかかわる闘いであり、安倍政権の早期退陣を実現していかなければならない。


市民連合の主催シンポジウム

    
 あたりまえの政治を取りもどす

 1月30日、日暮里サニーホールで、「あたりまえの政治を取りもどす 1・30シンポジウム」が安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合の主催、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会の協賛で開かれ、会場に入りきれない程の参加者が集まり、あふれた人がロビーで音声だけ聞くという盛況だった。
 山口二郎法政大学教授が主催者あいさつ。今年は国政選挙の予定はないが、改憲の発議が国会に出されるかもしれないというまさに正念場となる年だ。今日のシンポで今後の行動についての認識を一致させていきたい。
 三人のシンポジスト発言のはじめに、前川喜平さん(元文部科学省事務次官)。加計学園問題で明らかになったように行政の公正・透明性が失われている。構造改革特区では15回も提案されながら認められなかった新設許可が、直接首相が関与する国家戦略特区に移ってから、誰かが入知恵したのかうまい作文を作ってすんなり決まってしまった。事前に設置場所の今治市の役人が総理秘書官とあっている。それも官邸でだ。総理の名代としてあっているのであり、総理が知らないわけはないのに、安倍さんはそのことを知ったのはずっと後だなどと言っている。まず加計ありきではじまり、総理の意向があったことがうかがわれる。もうひとつ、安倍内閣によって、教育基本法が変えられ、国のために奉仕するという国家主義的な思想を押し付けることが行われているが非常に危ないことだ。戦前への回帰であり、暴走それも逆行する暴走だ。とくに道徳教育の復活、教科書化によって、子どもたちの心の中にそれが入ってこようとしている。それは、とにかく型にはめ込むことで、集団主義と国家主義を強制して「日本人の一員として生きよ」ということであり、個人の尊厳とか地球市民、人類などの観点ではない。
 二人目は、望月衣塑子さん(東京新聞記者)。政府は、ミサイル防衛システム「イージス・アショア」や長距離巡航ミサイルの導入、また本格的な空母の保有も検討するなどの政策を続けている。また森友学園問題では、籠池夫妻の登場でことの真相がわかり始めたが、これは政権に都合の悪いことになるので、夫妻を長期拘留して、かれらの発言を封じている。軍拡や言論封じの風潮が強まる中で、いまのマスメディアのありかたで、政権と癒着するといううごきが目に余る。加計問題で文科次官だった前川さんが記者会見で発言しようという直前に、読売新聞ともあろうものが出会い系サイト云々ということでこの動きを止めようとした。メディアはあってはならない一線を越えたというしかない。私のいる東京・中日新聞もそうした圧力がかけられ、それに屈するかもしれない。しかし、メディアは権力を監視し批判するものであることを忘れてはならない。
 寺脇研さん(元文科官僚で京都造形芸術大学教授)。いまの霞が関は普通じゃあなくなってきている。官僚には「忖度」がまかり通っている。「教育勅語」が持ち出される世の中になっているが、かつては自民党のかなりの右派でさえ、否定していたものだ。また教科書検定も、意見を言うことができるのに、そうしなくなってきている。今のような状況になったのは我われの責任でもある。マスコミも政府の言いなりだが、あたりまえを取り戻すことがなにより必要なことだ。
 三人の発言を終わって、会場との質疑応答。最後に市民連合の佐藤学さん(学習院大学教授)がまとめの言葉。今日の集まりではしばしば笑いがあった。しかしその根っこには大きな怒りが渦巻いている。立憲主義を壊そうとする者たちへの怒りだ。今の社会はタガが外れてしまっている。それを立て直すために力を合わせていこう。


平昌オリンピック・パラリンピックを機に緊張緩和の流れを強め、朝鮮半島情勢の平和解決へ

     安倍首相は、対立を煽り、戦争をもたらす危険な挑発をやめよ!

 2月7日、フォーラム平和・人権・環境、ピースボート、日韓民衆連帯全国ネットワーク、「戦争と女性への暴 力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)、全日本建設運輸連帯労働組合などでつくる「東アジア市民連帯」は、アメリカ大使館に「平昌五輪を機に米朝における軍事演習の停止と対話、平和協定の実現を求める」申し入れを行った。
 それはつぎのように要請している。「私たちは東北アジアの平和を求める立場から、米国政府が主張する制裁の強化と 『すべての選択肢がテーブルの上にある』という強硬な外交・軍事政策に反対し、話し合いで解決に向けた行動を起こすよう主張してきました。65年にも及ぶ停戦状態を脱し、朝鮮が繰り返し求めてきた平和協定の締結へと米朝両国政府が動き出すことを強く求めます。… トランプ米大統領は文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領との間で、南北対話の再開を受けて『会談継続中はいかなる軍事行動も行わない』、『適切な時期と状況で北朝鮮が望めば、対話の窓は開かれている』と述べたとされています。朝鮮も国連などの場において停戦協定を平和協定へとの主張を繰り返し述べて来ました。軍事的挑発を繰り返し、制裁措置を強化する中からは、何も生まれるものはないと断言します。… 私たちは、東北アジア・朝鮮半島情勢の平和的態勢構築の基盤として、平昌オリンピック・パラリンピックを機に延期されている米韓合同軍事演習を止め、その継続下において朝鮮も軍事的対抗措置を止めることにより、直ちに朝鮮半島での軍事的緊張緩和と平和協定締結に向けた米朝交渉が開始されることを強く求めます。私たち日本の市民団体は、米朝両国が対決から対話へと歩み出すことにより、朝鮮半島と東北アジアの恒久平和の礎を築いていくことを強く求めます」。

 米朝の対立は激化しているが、2月9日から3月18日までの、韓国平昌でのオリンピック・パラリンピックをめぐっては、南北朝鮮の当局者によって緊張緩和に向けての努力が進められている。このような動きは、朝鮮半島情勢の平和解決に向けての大きな好機である。米朝をはじめ六者協議諸国は平和的外交的解決に向けてのそれぞれの責任を果たさなければならない。アメリカでも軍事一点張りでない動きもでてきている。
 しかし、安倍政権は、緊張緩和と平和解決へのいかなる動きも、9条改憲と軍部増強の口実に不利になるとして、アメリカ政府内の軍拡強硬派をたよりに、一層の緊張激化の政策をつづけている。この動きを絶対に許してはならない。


自衛官の戦争法違憲訴訟で東京高裁判決

     存立危機事態での出動命令に従う義務ついて不服従の予防的違憲確認を認める

 戦争法制が強引に成立させられてから、違憲訴訟が数多く起こされている。戦争する国造りの進行のなかで、自衛隊員の生命がいっそう危険にさらされるようになってきている。
 1月31日、東京高裁(第12民事部・杉原則彦裁判長)は、集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法は違憲だとして、陸上自衛官が自衛隊法76条1項2号による「存立危機事態」での防衛出動命令に従う義務がないことの確認を求めた訴訟の控訴審判決で、訴えを却下した1審東京地裁判決を取り消し、審理を地裁に差し戻した。高裁は判決理由として、「防衛出動命令に基づく本件職務命令への不服従を理由とする懲戒処分は、免職を含む重大なものとなるばかりか、存立危機事態における防衛出動命令が発令される場合に、これに基づく本件職務命令を受けながらこれに服従しない自衛官は、服務の本旨を蔑ろにしたものとして極めて厳しい社会的非難を受けることになるのであるから、このような控訴人に生ずるおそれのある損害は、事後的に懲戒処分の取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではないことが明らかであり、また、懲戒処分の差止めを命ずる判決を受けることによっても容易に救済を受けることができるものではなく、防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従する義務の不存在を事前に確認する方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものである。したがって、本件訴えは、無名抗告訴訟の要件として求められる『その損害を避けるために他に適当な方法がないこと』に当たるということができ、補充性の要件も満たすものというべきである」としている。
自衛官が、出動拒否したら、懲戒解雇や刑事罰、社会的非難などをうけるのは予想されることだから、当然にも予防的に違憲の確認をしておくという裁判でのこの判決の意味は大きい。
 なお一審での棄却の理由では、原告がこれまでに直接戦闘を行う部隊に所属したことがないことなどから「原告の所属部署に防衛出動命令が発令される具体的・現実的可能性があるとはいえない」として訴えは不適法とした。戦争となればどこに所属する自衛隊員であろうと、また民間人も徴兵されるのであることを忘れてはならない。


卑劣な組合攻撃を許さない

      経営側の搾取強化と抑圧・弾圧は表裏一体のものだ


 2月9日、連合会館で、「卑劣な組合攻撃を許さない緊急報告集会―闘争妨害の週刊文春報道、排外主義活動グループによる組合事務所乱入・暴行事件」(主催・全日本建設運輸連帯労働組合)が開かれ多くの労働者が参加した。
 集会案内は述べている。「昨年12月末、『週刊文春』が『脅迫・傷害で捜査中の武闘派労組』などと題して当組合のエム・ケイ運輸闘争と福島みずほ参議院議員を誹謗中傷する記事を掲載しました。当組合は捜査など受けてもいません。会社関与が強く疑われる組合分会長襲撃事件、違法な長時間労働による過労死事件などと果敢にたたかう無期限スト闘争のイメージダウンを意図した、悪質な闘争妨害にほかなりません。さらに今年になってから、大阪の生コン業者団体と結託したネオナチ思想の排外主義グループが、事実無根の金銭疑惑を叫ぶ連日の街宣行動を開始。1月22日には大阪市内の組合事務所(ユニオン会館)に30人近い活動家が業者団体役員らとともに押しかけて乱入を図り、組合員に暴行を加え負傷させる事件がおきました。なにがおきているのか。一連の組合攻撃はなにを意味するのか。現状を報告し、こうした卑劣な組合攻撃を許さないたたかいをよびかけたい」。
 はじめの主催者挨拶は菊池進全日建中央執行委員長。暴力傷害事件を含め連帯労組への攻撃がつづいている。輸送ゼネストへの威力業務妨害だとの誹謗中傷、また人種差別・排外主義団体を雇い入れての労組組織への攻撃とがあいついで起こされている。こうした動きは単に連帯労組だけへの攻撃ではなく、労働運動全体を押しつぶそうとするものだ。卑劣な組合攻撃に反撃する闘いを広げていこう。
 つづいて、無期限スト(集会当日まですでに436日)を闘い抜いている近畿支部トラック分会エム・ケイ支部の報告。運輸業界の違法状態を野放しにしているのは重層構造だ。元受けの大手トラック業者は下請けにしわ寄せしている。エム・ケイは二次下請けだ。運転手の死亡事故にも「会社は関係ない」という態度や売り上げのごまかしに組合をたちあげた。会社の体質はあらたまらず過労死も発生した。そのうえ会社は悪質労務屋をやとって介入したり、分会長を会社顧問と称する暴力団が脅迫、恐喝をしたりした。そして2015年11月分会長襲撃事件が起こった。翌日から無期限ストに入った。組合の要求は、@未払い賃金を支払え、A違法な長時間労働の是正、B組合に対する不当労働行為の中止、そしてC分会長に対する卑劣な傷害事件の解明と謝罪の要求だ。無期限ストの中で、会社への泊まり込みなど24時間体制で闘っている。完全勝利に向かって邁進したい。
 そして排外主義グループと結託する大阪広域生コンクリート協同組合と闘う関西地区生コン支部の報告。生コン協組は、業界再建のために労組が協力して発足したが、いまや共同経済事業を旨とする事業者団体から一部業者に利益が集中するものに変質した。労組運動弾圧のために警察や排外主義グループと結託して、労働組合の分断と連帯系の輸送会社は使うななどと言って企業の兵糧攻めによる連帯労組つぶしをおこなっている。卑劣な攻撃には決して負けない。
 集会では、全港湾労組、全国ユニオン、全国一般全国協が連帯の挨拶をおこなった。最後に小谷野毅書記長が、断固として組合攻撃を粉砕していこうとのべた。


森友・加計情報隠しを許さない!公文書管理法改正、情報公開法改正を求める院内集会

    
 右崎正博獨協教授が講演

        「公文書管理法の見直しに向けて」情報法制の「四輪」は、公文書管理・情報公開・個人情報保護・国立公文書館

 2月6日正午から、衆議院議員会館前で「共謀罪法廃止!秘密保護法廃止!6日行動」(「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、共謀罪NO!実行委員会の共催)が行われた。立憲民主、民進、共産、社民の国会議員がともに悪法の廃止のために闘おうとあいさつ。ここで各党議員に第一回目の共謀罪法廃止署名の提出がおこなわれた。

 国会前集会の後、衆議院議員会館の会議室で「森友・加計情報隠しを許さない!公文書管理法改正、情報公開法改正を求める院内集会」が開かれ、はじめに加計学園情報公開請求者の福田圭子さんが、資料公開の闘いを報告した。
 つづいて、右崎正博さん(獨協大名誉教授)が「公文書管理法の見直しに向けて」と題して話した。2009年に制定、11年4月に全面施行された公文書管理法は、公文書等が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であるという位置づけをはじめて明確に定めた。他の法律にはない非常に格調高い法律といえる。しかし、昨年以来、南スーダン陸自PKO日報データ、森友学園への国有地払い下げ、国家戦略特区による加計学園の獣医学部新設認可の問題にからみ、法の趣旨に反ずるような文書作成義務の運用、公文書のずさんな管理、廃棄等の実態が明るみに出て、改めて公文書管理法の見直しが求められるに至っている。すでに昨年末に衆議院に提出された「公文書管理法改正案」が出されている。
 公文書管理法は、「公文書等が、…主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国および独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」を目的とする(1条)。そして、次のように規定している。文書の作成について、行政機関の職員は、「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、…文書を作成しなければならない」(4条)とされている。整理・保存等については、行政機関の職員が行政文書を職務上作成し、又は取得したときは、当該行政機関の長は、それを分類し、名称を付し、保存期間を設定し、相互に密接な関連を有する行政文書を一の集合物(行政文書ファイル)にまとめ(5条)、保存期間満了の日まで、適切な保存及び利用を確保するために必要な場所において、適切な記録媒体により保存しなければならない(6条)。行政文言ファイルの管理を適切に行うために行政文書ファイル管理簿を作成して一般の閲覧に供するとともに、電子情報処理組織を利用するなどの方法で公表しなければならない(7条)。移管・廃棄については、行政機関の長は、行政文書について保存期間の満了前のできる限り早い時期に、歴史公文書として国立公文書館等へ移管するか、廃棄するかを定め(5条)、廃棄する場合には、あらかじめ内閣総理大臣に協議しその同意を得なければならず、同意が得られない場合には、新たに保存期間とその満了の日を設定しなければならない(8条)。そして、国立公文書館等で保存されるに至った特定歴史公文書について利用の請求があった場合には、イ)個人情報、ロ)法人情報、事務事業情報、ハ)国の安全情報、ニ)公共の安全情報を除き、これを利用させなければならない(16条)。利用請求に対する拒否処分や不作為について不服がある者に対しては、行政不服審査法による審査請求を認め、審査請求があったときは内閣府に設置された公文書管理委員会(28条)に諮問し(21条)、その答申を受けて裁決・決定を行う(22条)。そして利用拒否について司法的救済を求めることも排除されていない。
 このように非常に大きな意義を持つ法律だが、残された課題も少なくなかった。衆参両院それぞれの内閣委員会で附帯決議(2009・6・10と6・23)がなされたが、そこで指摘されていた点を改善し、実施に移していれば、昨年来明らかになった公文書の適正な作成や保存を怠り、廃棄したというような問題の多くは発生しなかったのではないかと思われる。
 附帯決議は、第一に、公文書管理の改革は究極の行政改革であるとの認識のもと、公文書管理の適正な運用を着実に実施していくこと、また、国民に対する説明責任を果たすため、行政の文書主義の徹底を図るという法の趣旨にかんがみ、軽微性を理由とした恣意的な運用のなされることのないよう、万全を期すること、さらに、文書の組織共用性の解釈を柔軟なものとし、作成後、時間を経過した文書が不必要に廃棄されないようにすること、とした。第二に、行政文書の管理が適正に行われることを確保するため、一定の期間が経過した行政文書に関しその保存期間満了前に一括して保管等の管理を行う制度(いわゆる中間書庫の制度)を各行政機関に導入することについて検討を行うこと、第三に、国立公文書館等へ移管された特定歴史公文書等の利用制限については、利用制限は原則として30年を超えないものとすべきとする「30年原則」等の国際的動向・慣行を踏まえ、必要最小限のものとすること。また、特定歴史公文書等に利用請求及びその取扱いにおける除外規定である本法第16条に規定する「行政機関の長が認めることにつき相当の理由」の有無の判断に関しては、恣意性を排し、客観性と透明性を担保する方策を検討すること。第四に、公文書管理と情報公開が車の両輪関係にあるものであることを踏まえ、両者の適切な連携が確保されるよう万全を期すること。第五に、公文書の適正な管理が、国民主権の観点からきわめて重要であることにかんがみ、公文書管理に関する職員の意識改革及び能力向上のための研修並びに専門職員の育成を計画的に実施すること。また、必要な人員、施設及び予算を油圧に確保すること。
 また、法の附則13条1項には、法律の施行後5年を目途として施行状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるとの定めが置かれており、2015年からその作業を担った公文書管理委員会から「公文書管理法施行5年後見直しに関する検討報告書」が公表されているが、衆参の附帯決議に盛り込まれた論点について、積極的に法改正を促すような分析も提言も見られない。日弁連の「施行後5年を目途とする公文書管理法の見直しに向けた意見書」(2015・12・18)では、@独立した第三者機関としての公文書管理庁の新設、A電子記録管理の法制度への変更、B目的規定への「国民の知る権利の保障」の明記、C法3条の「他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか」の削除、D「30年原則」の明記と法16条1項及び2項の利用拒否事由の限定、E地方公共団体の支援がうたわれていて参考になる。
 つぎに公文書管理法の見直しに向けて、若干の論点について問題提起をしてみたい。
 第一に、目的規定に「国民の知る権利の保障」を明記すること。法1条の目的規定には、公文書が「国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであること」とともに、政府の「説明責任」は明記されたが、公文書に対する国民の「権利」性という点で、不十分なものにとどまっている。法制定の過程で、日弁連などから目的規定に「国民の知る権利の保障の観点を明記すべき」と指摘されたが、「知る権利」の保障は明記されなかった。公文書管理法が「行政の適正かつ効率的運営」以上の意味をもつことを排除し、国民の「権利」という視点からの位置づけを欠いたものになっている。それが、法16条の規定や特定歴史公文書等の利用請求に対する広い利用拒否事由や公文書の廃棄に際して国民が意見を述べる機会を保障していない手続などにも見られる。いずれも、公文書に対する国民の権利性の保障に徹底を欠いている。
 第二には、特定歴史公文書等の利用請求に対する拒否事由の見直しと「30年原則」の明記である。法16条には、特定歴史公文書等の利用請求に対する広い利用拒否事由では、情報公開法の不開示情報規定をほぼそのまま横滑りさせたものが掲げられ、行政運営への支障を生ずるたんなる「おそれ」を理由とする利用拒否に根拠を与え、国の安全、公共の安全などにかかわる情報については、支障を生ずる「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由かおる情報」を除外する扱いを認めている。これは、公文書を利用する国民の権利を不当に制限する根拠ともなり得るので、限定が必要だ。
 第三に、行政文書の定義規定からの「組織共用」の削除である。法2条4項は、「行政文書」を「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」をいうとしている。昨年来の問題から、職務上作成し、かつ、共用フォルダーに保存されていたにもかかわらず、「組織共用文書」ではなく、個人的な備忘録であると強弁するような事例があり、「当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして」との文言が、公文書の適正な管理をかいくぐる口実とされる事案があり、その文言の削除が求められる。
 第四に、他の法令との関係の整序の必要性である。法3条は、「公文書の管理については、他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる」と定めているが、「他の法律又はこれに基づく命令に特別の定めがある場合を除くほか」の文言は、「特定秘密」指定文書などを法の適用範囲から除外してしまう可能性を与えている。
 第五に、文書作成義務の徹底と明確化である。この間に明らかになった事情を踏まえて、法4条の文書作成義務を徹底し、閣議や行政機関の長の会議、省議等、また、審議会等について、出席者氏名の記載を含む議事録作成義務を具体的かつ明確に規定すること。
 第六に、1年未満保存文書の設定の原則廃止だ。同じく、この間に明らかになった事情を踏まえて、法5条に基づく保存期間設定に当たっては、原則として、1年未満とすることを廃止すること。例外的に1年未満の保存期間が設定できる文書を例示するなどして徹底する。改正案に言うように、電磁的記録である行政文書、当該行政機関以外の者との接触に係る情報が記録されている行政文書は、1年未満の保存期間を設定することができないとするのもよいのではないか。
 第七に、関連する他の法制度との連携ということだ。衆参の附帯決議でもいわれているように、公文書管理と情報公開は「車の両輪」であるが、個人情報保護と国立公文書館を加えて、情報法制の「四輪」と考えたい。したがって、公文書管理法について見直しを求められるところは、その他の法律にも連動している。例えば、「知る権利の保障」の明記の問題、利用請求に係る「利用拒否事由」の限定の問題、司法的救済が求められる場合の「裁判管轄」の問題や裁判所による「インカメラ審査」の必要性の問題などだ。
 第八に、公文書管理体制の整備が必要だ。公文書管理体制の整備もほとんど進んでいない。両院の付帯決議では「必要な人員、施設及び予算を適正に確保すること」がうたわれたが、施行後7年になろうとしている現在、それを担う中心的施設である「国立公文書館」の体制にほとんど進展は見られない。例えば、アメリカの国立公文書記録管理局(NARA)の職員数は約2500名、年間予算は約3億7千万ドル(約400億円余)であるが、日本の国立公文書館は職員数約50名、国からの運営交付金は年間約20億円弱である。職員は実にNARAの50分の1、予算は20分の1にとどまる。国立公文書館法(2000年10月施行)の改正もなさなければならない。


核燃料サイクル・六ヶ所再処理工場反対し放射能汚染を阻止しよう!

          阻止ネットの「もんじゅ」視察ツアー報告会


 高速増殖炉「もんじゅ」はついに廃炉が決まった。しかし、政府の核燃料サイクル政策は止まっていない。

 2月1日、日比谷図書文化館の日比谷コンベンションホールで、「六ヶ所再処理工場」に反対し放射能汚染を阻止する全国ネットワークの「もんじゅ視察ツアー」報告会が開かれた。 阻止ネットは、生活協同組合あいコープみやぎ、グリーンコープ共同体、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、大地を守る会、特定非営利活動法人日本消費者連盟、パルシステム生活協同組合連合会などが呼びかけ団体となり、「放射能汚染を防ぐためには、六ヶ所再処理工場が運転されたなら原発とは桁違いの放射能を環境に放出することを知り、目前に迫る六ヶ所再処理工場の本格稼動を止めさせることを最優先課題」として、脱原発1000万人署名、脱原発法制定などさまざまな活動に取り組んでいる。
 報告会では、はじめに伴英幸さん(原子力資料情報室)が「『もんじゅ』目的と破綻」について報告を行った。「もんじゅ」は、高増殖原型炉で 50年前から増殖炉開発を目標とする核燃料サイクルのカナメと位置付けられていた。それは、普通の原発でプルトニウムが作られるなら、プルトニウムを燃料としてプルトニウムをつくれないか。そうなれば、燃料を消費した分以上に生産できるという思惑だった。当時は、核兵器開発競争とウラン枯渇が予想されていたからだ。技術開発は容易と思われたが、実際には時間がたてばたつほど実用化は遠のくばかりだった。明らかになってきたのは、技術的に困難であり、経済性がないということ、そして社会的合意が困難だということだ。「開発先進国」はすでに撤退し、やっと日本もそのことに気づかされずにはおかない状況に直面させられるようになった。 事故続きの「もんじゅ」廃炉で核燃料サイクル破綻があきらかになった。
 原型炉「もんじゅ」は、1983年5月に原子炉設置許可、1985年10月に着工、1994年4月に初臨界達成、1995年8月に初発電達成となるが、1995年12月に ナトリウム漏洩火災事故が発生した。ナトリウム漏洩火災事故は、温度計さやの破損だったが、これは設計ミスによるものだった。そして、原因究明の追加実験では鉄製床に穴があいた。また現場撮影のビデオの隠蔽も発覚して、動燃の体質が社会的に強く批判されるようになり、動燃改革が言われるようになった。2003年1月、名古屋高裁は、炉心崩壊に関する審査が欠落しているとして設置許可違法判決を下した。2005年9月には改造工事が始まり、2007年5月に工事完了し、2010年5月に試運転再開したが、早くも8月には燃料中継装置が脱落する事故をおこし、2015年11月には原子力規制委員会の勧告がでて、2016年12月に廃炉決定となった。運転実績は、250日定格出力換算で40日間だけだった。
 もともと、「もんじゅ」には、4つの危険性があった。@暴走事故をおこしやすい(高中性子を利用する)、A危険なナトリウムを使う(空気中の酸素や水と反応して激しく燃える)B地震の揺れに弱い(曲がりくねった配管がすぐ破壊される)C核兵器級のプルトニウムを作り出す、などだ。そのうえ、長期停止による影響として、経験者のリタイアによる継承性の欠如、点検漏れ多発・点検計画の違法変更などでいよいよ「もんじゅ」は追い詰められるようになったのだった。
 「もんじゅ」の予算の推移は、建設・運営に10、225億円、 ナトリウム機器開発に6、500億円、MOX燃料開発に1、700億円、東海再処理施設に7、600億円など2兆6、025億円もの費用が使われた。
 高速増殖炉は、実験炉、原型炉、実証炉、そして実用炉となるが、実用炉はない。実証炉段階まで進んだフランスのSPXは1998年に閉鎖された。原型炉段階のものはロシアと中国では稼働中だが、イギリス、ドイツ、カザフスタン、フランス、そして日本の「もんじゅ」も閉鎖された。実験炉でも、インドと日本は稼働中だが、アメリカ、フランス、イギリス、ロシア、ドイツのものは閉鎖された。それは、技術的に難しい、経済性がない、社会的合意・国際的合意が困難だということが確認されたからだ。高速増殖炉開発について先進国はいずれも撤退の方向だ。だが、日本はまだ核燃料サイクルをあきらめていない。政府は、増殖炉は廃止するが高速炉は継続するつもりなのかもしれない。核燃料サイクルの継続が政策方針であり、放射性廃棄物や有害度低減させ、寿命の長いものを短くする、とするが、廃棄物が増えるうえに、その処分が避けられず、実用化の見通しはない。にもかかわらず、政府は、フランスに技術開発委託している。いま基本設計段階で、建設許可はこれからだが、その可能性は低い。
 つづいて、三人から、昨年11月の福井県ツアーでの、もんじゅ廃炉集会シンポジウム、美浜町の森と暮らすどんぐり倶楽部、そして美浜原発、もんじゅ、敦賀原発などについての実施報告が行われた。 
 最後にアピールで「『もんじゅ』廃炉によって、使用済核燃料を再使用しプルトニウムを生産するいかなる理由も大義名分もなくなったことを、政府が率直に認め、六ケ所再処理工場の廃止、核燃料サイクルの断念へと政策転換すること」を求め、「私たち阻止ネットは、この政策転換が実現されるまで、多くの市民と協同して、粘り強く運動を継続する」ことを確認した。


本の紹介

       階級社会として見た現代日本


           橋本健二「新・日本の階級社会 (講談社現代新書)」 


 格差・貧困問題が深刻化する中で、ふたたび階級論が社会的に取り上げられるようになってきた。一時は階級論さえすてる左翼も出たが、単純な市民社会論では現状を把握できないことは明らかだ。橋本健二は、格差・階級問題の重要性をこれまでも説き続けてきたが、最近出版された「新・日本の階級社会 (講談社現代新書)」は、彼にとっても一つの転換点となった。橋本は、現代日本に存在する階級として資本家階級、新中間階級、正規労働者、アンダークラス、旧中間階級をあげる。そのうち前三者を資本主義経済のメインストリームとする。そして現代の特徴は、非正規労働者層の激増であるとする。橋本はそれを929万人(パート主婦を除く非正規労働者)で、就業人口の14・9%をしめ、「五つのなかで唯一、激増を続けている階級」で「いまや資本主義社会の主要な要素のひとつ」となったとする。「女性比率は四三・三%で、女性比率が最も高い階級」でもある。橋本はその特徴を「平均個人年収は、一八六万円と極端に低い」「何よりもきわだった特徴は、男性で有配偶者が少なく、女性で離死別者が多い」「仕事や生活への満足度は、おしなべて低い」「自民党支持率は一五・%と最低」であるとして、「現代社会の最下層階級」だと規定する。
 橋本は、それぞれの階級の態度について「格差社会の現実の認識」と「自己責任論」の二つをキイワードに分析していく。格差社会への拒否度や所得再分配への指向は、前者がプラスに、後者がマイナスに作用する。
これまで橋本は、「格差社会を克服する主体」を労働者階級ではなく、新中間階級だとしてきた。その理由として、「現実の日本の労働者階級は、社会に対する不満が強く、格差の現状にも批判的であるものの、政治への関心は低く、投票率も高くない」。「これに対して新中間階級は、…政治意識が高く、投票率も高く、しかも自ら恵まれた立場にあるにもかかわらず、格差の現状に批判的で、所得分配などの格差是正策を支持する傾向が、ある程度までは高かった。…しかも日本の新中間階級にはしばしば政治的に進歩的な役割を果たしてきた実績がある」としてきた。しかし「2016年のSSM調査(社会階層と社会移動に関する全国調査)データ」と「2016年の首都圏調査データ」の分析の結果、「これまでの見解を若干修正する必要を感じるようになった」として、「いまや全体としてみるかぎり新中間階級が格差拡大に否定的だとはいいがたい」と見解を変えた。
 そして「分析結果からみると、格差社会克服の担い手となりうるのは、資本主義のメインストリームから外れた人々であるようだ。つまりアンダークラス、パート主婦、専業主婦、そして旧中間階級である。彼ら・彼女らは、メインストリーマーたちと比べれば、所得再分配を支持する傾向が強く、しかも自己責任論に縛られず、格差拡大という事実を知ることが所得再分配支持に直結する傾向が強い」とする。なお「所得再分配を支持する傾向が、アンダークラスでは排外主義と結びつきやすいというのは気になるところ」としつつも、これらを「格差社会克服の支持基盤の中心は、ここにあるとみていいだろう」と結論付けている。もちろん橋本は、新中間階級の内部も多様で、所得再分配を支持するかなり存在することを付け加えている。
 また橋本は、自民党の強固な支持基盤が「排外主義と軍備重視にこりかたまった人々」だけであり、これが自民党の弱点であり、「弱者」と「リベラル派」が結集した政治勢力が形成できるなら、格差社会の克服、日本社会の未来には展望があると本書を結んでいる。
 変革の主体としての階級については、橋本も新中間階級からアンダークラスに位置づけをかえたが、それ以前には正規労働者だとされたように、基軸である搾取・被搾の関係は変わらないとしても時代とイデオロギー状況によって、その枠内で一定の変化はあるのは当然だ。
 なお橋本分析は、「就業者」統計にもとづくものである。今後の課題としては、それらの統計に載らない人びと、そして変革を担う勢力を政治的に代表する政党・政治勢力などについて研究が広げられていく必要があるだろう。 (H)


せ ん り ゅ う

     どう始末ねんりょうデブリあべデブリ

     答弁は絶対いわぬ腹をみせ

     答弁もヤジそのままの自公です

     活用し女性労働しぼりだす

     国難は労働力だ人でなし

     梅の咲く庭にわが世のかをり立つ

2018年2月  
                      ゝ 史


複眼単眼

     
 権力制限規範としての憲法と安倍首相の嘘

 首相は1月22日の施政方針演説で「国のかたち、理想の姿を語るのは憲法だ」と述べた。
 これに対し、立憲民主党の枝野幸男代表は「憲法は国民が公権力を縛るためのルールだ」とのべ、「したがって、安倍総理は憲法をいろいろと論じておられるようだが、まずは理想の姿を語るものだという、間違えを改めていただかないとまっとうな議論はできない。民主主義の社会、一党独裁でない社会においては、理想の姿を語るのは各党の綱領や選挙公約だ」と反論した。
 これに対して、枝野代表に突き放された安倍首相は2月6日の予算委員会で無所属の会の原口一博氏の質問に答えて「(憲法について)いわば権力の手を縛るものだ。同時に国のかたち、理想をかたるもおのでもある」と言い直した。
 あれこれといいのがれをするが、安倍晋三首相の論理は、2013年の福島瑞穂氏との国会論戦で答えていたことと変わらない。彼は当時、こういった。
 「立憲主義についてはですね、ま、憲法というのは権力を縛るものだ、たしかにそういう側面があります。ま、しかし、言わば全て権力を縛るものであるという考え方としてはですね、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であってですね、今は民主主義の国家であります。その民主主義の国家である以上ですね、権力を縛るものであると同時に、国の姿についてそれは書き込んでいくものなんだろうと、わたしたちは考えております」
 安倍首相によれば、憲法が権力制限規範だという考え方は、王権の時代、専制主義の時代の考え方だというのだ。これでは「まっとうな議論ができない」のは当然だろう。
 このような安倍首相の考え方だから、9条に自衛隊を書き込む必要性についても、トンでもな議論が出てくる。昨年5月3日の日本会議系の集会に安倍首相が寄せたメッセージでは、「憲法は、国の未来、理想の姿を語るものです。私たち国会議員は、この国の未来像について、憲法改正の発議案を国民に提示するための「具体的な議論」を始めなければならない、その時期に来ていると思います」と語った後、
「例えば憲法9条です。今日、災害救助を含め命懸けで、24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。
 私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」と述べた。権力制限規範である憲法に縛られるべき安倍首相が、そのくびきを振り切って、9条改憲を叫ぶ、これは完全な倒錯だ。
 こういう憲法に関する倒錯を前提に、「『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です」などと扇動する。こういうことをだれが言っているというのか。同じように昨年、安倍首相はこう言った。「殆どの教科書に、『自衛隊は違憲の疑いがある』という記述がある。ある自衛官は、子供から『お父さんは違憲なの?』と言われ、胸を切り裂かれる思いだったと聞いた」。これも嘘だ。残念ながらというのか、教科書で「自衛隊は違憲」と断じているものは一つもない。安倍首相は嘘で改憲を扇動する。 (T)