人民新報 ・ 第1391統合484(2020年11月15日)
  
                  目次

 米大統領選での大混迷 亀裂深まるアメリカ社会

        菅内閣打倒に向けて総がかり・共闘のいっそうの強化を!

● 11・1 大阪市廃止・分割住民投票否決!

         歴史的な大勝利!

● 核兵器禁止条約 来年1月に発効へ

        日本政府も早急に署名・批准せよ

● 11・3 国会正門前
 
        3千人参加で「平和といのちと人権を!憲法が生きるコロナ後の社会」大行動

● 労契法20条裁判・最高裁勝訴判決   郵政産業労働者ユニオン

         パート・有期雇用労働者の格差是正、同一労働・同一賃金を軸とした均等待遇を実現しよう

         日本郵便(株)有期雇用社員格差是正最高裁判決にあたっての声明(郵政産業労働者ユニオン/東・西労契法20条格差是正原告団/東・西労契法20条格差是正訴訟弁護団)

● 外国人技能実習法施行から3年

         外国人技能実習制度の弊害はあまりにも大きい  外国人が安心して働き暮らせる共生社会の実現を

         「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」集会アピール

● 10・26 臨時国会開会日行動

         いのちをまもれ! 敵基地攻撃能力保有反対! 学術会議の任命拒否撤回! 改憲反対! 共謀罪廃止! 総選挙勝利!

● 10・30 東京総行動

● 本の紹介  /  マルクス流のケンカの仕方教えます

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  もはや「やぶれかぶれ解散」か






米大統領選での大混迷 亀裂深まるアメリカ社会

      菅内閣打倒に向けて総がかり・共闘のいっそうの強化を!


 11月3日投票のアメリカ大統領選挙をめぐる状況は、唯一の超大国アメリカの深刻な現実を全世界に自己暴露するものとなっている。そもそも、4年前にアメリカ第一主義をかかげる大統領トランプを登場させた背景には、相対的国力の低下という世界の覇権国としての役割を放棄せざるを得ないという実態があった。そして、この4年間のトランプ政治は、米国内の格差・貧困、人種差別の拡大などによるかつてない社会分裂をもたらし、また国際的機関からの撤退・非協力など自らの孤立を強めることとなった。だが、トランプの政策に利益をえる層はたしかに存在する。こうした層に呼びかけることでトランプは再選を狙ったのであったが、一定層の票の掘り起こしには成功したものの、それを上回る反トランプの様々な声を呼びおこした。人種差別・白人至上主義への激励、新型コロナに対するまったく誤った政策の強行、医療保険制度の改悪などアメリカ社会を破壊するトランプの行動は、前回の大統領選挙でトランプ・共和党を支持した諸州でも民主党回帰の現象が起こり、いわゆる激戦州におけるバイデン票ののびとなった。選挙の結果、民主党バイデンの得票が大きく上回っているのにもかかわらず、トランプもその熱狂的支持者もホワイトハウスを容易には明け渡そうとしていない。バイデンは融和を呼びかけたが、アメリカの分断を克服するのはむつかしい。バイデン、ハリスに対する期待が高まっているが、米国が抱える内外における諸矛盾を、新政権が解決するのは不可能だ。
 いま、アメリカの世界支配体制(パックス・アメリカーナ)が大きく揺らいでいる。アメリカ第一主義は、同盟国を含めて他国から一方的に利益をもぎ取るもとであり、ヨーロッパ諸国は反発をつよめた。
 自らの覇権的地位を脅かすまでに経済力・政治力・軍事力を拡大する中国に対する敵対政策をすすめたが、コロナ対策での米中の際立った差もくわわり、アメリカの地位の相対的地位の低落傾向と世界の多極化の動きを逆転させることはますます難しいものとなった。
 ポスト・トランプのアメリカも、自己の超大国としての地位の防衛のために総力をあげる。民主党バイデン政権は、同盟国重視、国際機関の中での優位性の維持が外交の基本路線になるとみられるが、日本にもトランプと違った形での負担増、軍事同盟の強化が求められることは必至だ。
 安倍晋三の唐突に辞任をうけて発足した菅内閣は安倍路線を継承するとしている。菅に頭を変えたといっても安倍時代の困難な局面が解消されるわけではないし、その前途は多難だ。菅は、アメリカとの軍事同盟を強め、「自由で開かれたインド太平洋の実現を目指す」とし、中国との対決の構図を継続する。だが、経済関係からいっても中国との関係を切るわけにはいかない。この難問に新政権はどうこたえられるのか。支配層内部も外交政策をめぐって分岐も生まれるだろう。
 菅政権は、安倍内閣の反動性に加えて、陰湿さが顕著であり、陰謀めいた雰囲気の官邸独裁の強権政治色が強まった。学術会議の一部会員の任命拒否は、広範な世論のきびしい批判をうけた。また、菅が政権運営での連携先と考える維新の会による11月1日の大阪市廃止住民投票はまたも否定され、維新政治だけでなく、菅自民党と公明党におおきな打撃となった。
 いま冬を迎えて新型コロナ感染者は急速に増加し深刻さを増している。安倍につづいて菅もまったく有効に対処できていない。そして、コロナ不況の中で、解雇者が大幅に増えている。労働者の賃金・労働条件は切り下げられている。中小企業・小商店主の苦境は深まるばかりだ。だが、いまもなお2021年オリンピック・パラリンピックを開催しようなどといっている。自民党政治は、当面する課題を解決出来ない。

 コロナ禍は各国社会に大打撃を与え、その国の政治のありかたを問うものとなった。長年の政治のつけがはっきりと表れてきたのである。典型はトランプのアメリカで、差別・貧困化、医療制度の破壊などで、なお感染者・死者を激増させている。
 政治を変えていかなければならない。自民党政治との政策的な分岐をはっきりさせ、野党と市民の連携・共闘をつよめていこう。来るべき総選挙では、一人区での候補者一本化を実現し、ともに選挙活動に真剣に取り組む体制を作り出そう。
 菅内閣を打倒しよう!


11・1 大阪市廃止・分割住民投票否決!

              
歴史的な大勝利!

  告示10・12、投開票11・1の大阪市廃止の是非を問う住民投票は、賛成67万5829票、反対69万2996票となり、1万7167票の差をつけ反対多数で否決された。
 この否決によって、松井一郎大阪市長は大阪維新の会代表を辞め、吉村府知事は「自分としては都構想にもう挑戦はない」と明言した。
 この大阪の出来事は大阪の未来にとどまらず、日本維新の会の全国的な増長に痛打をあびせ、菅政権への大打撃となった。この歴史的な勝利からくみ取る教訓は大きい。

劣勢からのスタート

 2015年5月の住民投票でいったん否決された大阪市の廃止と分割が息を吹き返したのは昨年の府知事・大阪市長のダブル選、また市議会・府議会議員選挙で維新が圧勝した事にはじまる。その後、次の衆議院選で公明党現職候補に維新から対立候補を擁立しないかわりに公明党は「都構想」に賛成する裏取引が行われ(この点は、橋下徹が民放で得意げに語っている)それまで反対であった公明党が賛成に回った経緯はもはや公然の事実となっている。政党の力関係では圧倒的に不利な情勢ができあがる中で府議会、市議会で大阪市廃止・分割の「協定書」が維新・公明の賛成多数で可決されたのである。
 こうして息を吹き返した大阪市の廃止・分割案は、4特別区のうち2特別区の区役所は大阪北区の現在の大阪市役所に間借りし合同庁舎とされるなど前回案よりもなお「欠陥品」であった。
 コロナ感染が広がり中で、「9月には大阪発ワクチン開発可能」「イソジンでうがいすればコロナ感染は防げる」などのでたらめな記者会見を繰り返した吉村大阪府知事が人気者にもなり、事前世論調査では15ポイントもの差で賛成が反対を上回る劣勢でのたたかいのスタートを切ったのである。

維新・行政・メディア・企業ぐるみの賛成宣伝の洪水

 住民投票と行政の関係で見過ごせない点は、行政が公正・中立の立場を放棄し「メリット」のみを「説明」「説得」に走ったことである。大阪市は、市の広報や「説明パンフ」を2回全戸配布した。一方で、住民説明は8回にとどまった(前回は39回)。また、大阪市作成の動画も露骨な賛成誘導動画で、作成課長が松井市長から注意処分を受けるという珍事も起こった。さらに、ひどかったのは大阪市が発注する子育て情報誌「まみたん」の1頁すべてを大阪維新の会の宣伝に使われた。
 大阪維新の会は、豊富な資金力にものを言わせ、物量作戦を展開した。維新パンフ全戸配布、そろいのTシャツ、アルバイト運動員の動員、テレビコマーシャル、アメリカ村で公共施設への維新のぼり掲出、異常な維新大量ビラ(サービスはグーンとアップ、質問は副都心推進局へ)を連投した。
 メディアの動きでは、吉村知事の吉本新喜劇への出演、橋下徹の連日のテレビ出演、吉本芸人の維新応援、極めつけが選挙期間中にFM大阪に吉村知事を登場させるなど異常な肩入れが続いた。

反対運動の反転攻勢


 こうした圧倒的な劣勢を立て直したのは、政党の踏ん張りがあった。大揺れに揺れた自民党大阪府連が反対の立場をとった。これは北野大阪市議など社会的な保守の立場に立つ議員の健闘は大きい。そして、共産党の組織力が発揮され、立憲民主党、社民党、れいわ新選組も反対運動を展開した。また、市民運動は、大阪市民・交流会、どないする大阪未来ネットワークなどの無党派の市民団体も奮闘し反対運動を展開した。そして、無数の一人ひとりの市民が立ち上がった。
 かつてのような大規模集会は少なく、駅頭やスーパー前や路地裏の対話宣伝に集中した。とくに、元大阪市長の平松邦夫氏らが共同代表をつとめる「大阪市民・交流会」が市民運動のプラットホームとなり政党と市民運動の結ぶ役割を担ったことは特筆すべきであり教訓を作り出した。
 また、大阪各地で奮闘する市民連合なども今回の反対運動の中で積極的な役割を果たした。とりわけ堺市や北摂各市の市民が大阪市内に入り駅頭にたち、路地にはいりこみ対話宣伝を繰り広げたことは大阪市民を勇気づけた。

世論調査での逆転から勝利へ

 政党が踏ん張り、市民運動が共同をつくりだし、市民が立ち上がりその力が合わさって次第に形勢を逆転に導いた。当日のNHKの速報「反対多数確定」は前回同様大逆転であり感動的な瞬間であった。今回の住民投票の勝因はおおきく次の3点に集約できるだろう。 一つは、何よりも大阪市を存続させたいという市民の根強い意思が衰えることなく広がったということ。 二つには、政党の組織力、市民運動の共同、市民の自発的な行動が組み合わさったこと。
 そして、三つめには、そもそも大阪市の廃止と4特別区の設置案がとてつもない「欠陥品」であり、市長も知事も説明責任を果たしえなかったことだろう。
 こうして5年間に2回も住民投票に失敗した維新の会は、政策基軸を失い失速するべきところ、またぞろ大都市制度の「改革」を蠢動している。次の課題は「東京改革」(馬場幹事長)となどと発言、大阪では「広域行政一元化条例制定」の制定の動きを始めている。
 私たちは、彼らとの闘いを決して「ノーサイド」にすることはできない。 (矢吹徹@大阪通信員)


核兵器禁止条約 来年1月に発効へ

          
日本政府も早急に署名・批准せよ

 ついに核兵器禁止条約が発効することになった。
 10月24日、中米ホンジュラスが批准書を寄託し、批准国は発効要件の50カ国にたっした。来年2021年1月22日に核兵器禁止条約は発効する。

 生物兵器と化学兵器はすでに禁じられていて人類に甚大な被害を与える大量破壊兵器のうち唯一残されているのが核兵器である。核戦争に反対し核兵器を禁止することは世界世論の主流である。そのことが、核禁条約批准国の増大に示されている。だが、核兵器禁止条約には、核兵器を持つ国はいずれも署名しておらず、すぐに核兵器がなくなるわけではない。けれども、核保有国に核軍縮を迫る新しい国際規範となる。核兵器禁止の声はますます広がっていくにちがいない。
 にもかかわらず、唯一の被爆国である日本の政府の対応はこうした動きに逆行している。10月25日、核兵器禁止条約の発効が決まったことについて、加藤勝信官房長官は、「わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、抑止力の維持、強化を含め、安全保障上の脅威に適切に対処しながら、地道に現実的に、核軍縮を前進させる道筋を追求していくことが適切だ。条約は、わが国のアプローチとは異なるものであることから、署名は行わないという考え方に変わりはない」と述べた。それはアメリカの核の傘の下での「安全保障」論、自衛のためなら核兵器保有も合憲だとする政府・自民党の基本姿勢を示すものであった。

 10月25日、核兵器廃絶日本NGO連絡会は、「声明―核兵器禁止条約の発効確定にあたって」を発表した。連絡会の共同世話人は、大久保賢一日本反核法律家協会事務局長、川崎哲ピースボート共同代表(核兵器廃絶国際キャンペーンICAN国際運営委員)、田中煕巳日本原水爆被害者団体協議会代表委員、朝長万左男核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員長、森瀧春子核兵器廃絶をめざすヒロシマの会共同代表である。 声明は、「核兵器廃絶日本NGO連絡会は、この歴史的な展開を心から歓迎します」とし、日本政府に対し、「唯一の戦争被爆国としての使命と責任を果たすために、これまでの政策を転換し、核兵器禁止条約に早期に署名・批准すること」「法的には何ら障害のない核兵器禁止条約への署名・批准をめざし、国会での議論を促すこと」「来る核不拡散条約(NPT)再検討会議において、核兵器禁止条約が核軍縮・不拡散に果たす役割を政府として認め、発効要件を満たしたこの機運を同会議の成功に生かすこと」「日本が批准する前に核兵器禁止条約が発効し締約国会議が開かれた場合は、日本はオブザーバーとして参加し、核軍縮の前進のために貢献すること」を求めた。

 日本も核兵器禁止条約の批准しなければならない。 だが菅内閣が続いている限り実現は出来ないだろう。
 核兵器禁止条約への署名・批准は、菅自民党内閣に代わる立憲政権によって可能となるだろう。


11・3 国会正門前
 
     
 3千人参加で「平和といのちと人権を!憲法が生きるコロナ後の社会」大行動

 74回目の憲法公布記念日の11月3日、国会正門前で、「平和といのちと人権を! 11・3大行動 憲法が生きるコロナ後の社会」(主催―戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)が行われ、3000人が参加した。
 主催者を代表して高田健さんがあいさつ。―憲法を敵視し、改正・改悪を最大の政治目標としてきた安倍政権が倒れた。菅新政権は「安倍なき安倍政治」「安倍なき安倍改憲」の道を進もうとしている。日本学術会議人事への不当な介入、「敵基地攻撃能力保有」、日米軍事同盟強化、沖縄の辺野古の軍事基地建設をはじめ、朝鮮敵視、中国敵視を進めようとし、東北アジアの緊張を増大させようとしている。深刻な新型コロナ感染症の蔓延という危機に対して、菅は「自助、共助、公助」を強調し、より一層の新自由主義の推進、弱者切り捨ての政治をすすめようとしている。菅政権の下で、政治の深刻な危険が到来しようとしている。「市民連合」は自公連立政権の打倒を目指して、立憲野党各党・会派に対して「15項目の政策要望」を提出し、来る総選挙で、市民と野党が政策の一致を基礎に、小選挙区の候補者の統一を果たし、共同して闘うことを求めた。一昨日は大阪の市民の皆さんが「維新の会」らが企てた「大阪市の廃止と都構想」を住民投票で阻止した。いま、あらためて市民と野党の共同で政治を変えようという声が沸き起こっている。来る総選挙を通じて自公政権を打倒し、政権交代を実現したい。本日の集会を「安倍政治の継承」に反対し、「新しい政治」を実現する闘いの出発点にしよう。
 国会からは、福島瑞穂参議院議員(社民党)、高良鉄実参議院議員(沖縄の風)、岸まきこ参議院議員(立憲民主党)、山下芳生参議院議員(共産党)が参加しあいさつした。
 つづいて、「コロナから見えてきた社会矛盾から」とのテーマで、格差問題で瀬戸大作さん(反貧困ネットワーク事務局長)、民族差別問題で朝鮮大学校の学生、憲法問題で清水雅彦さん(日本体育大学教授)、医療問題で伊藤真美さん(花の谷クリニック院長)、教育問題で佐野通夫さん(東京純心大学客員教授)、女性問題で北原みのりさん(作家・活動家)が発言し、オール沖縄会議からのメッセージが紹介された。

 この行動の前には同じ国会正門前で、「アベ政治を許さない 3の日行動」が行われ、またこの行動後には安保保障関連法に反対する学者の会主催の日本学術会議会員の任命拒否に抗議する集会が開かれた。


労契法20条裁判・最高裁勝訴判決   郵政産業労働者ユニオン

        
 パート・有期雇用労働者の格差是正、同一労働・同一賃金を軸とした均等待遇を実現しよう

 郵政ユニオンに所属する非正規社員11人が正社員の不合理な格差の是正を求めて、2014年5月に東京地裁、同年6月に大阪地裁に提訴した旧労働契約法20条裁判の最高裁判決が10月15日、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)で言い渡された。判決は最高裁が上告を受理し、審理と対象となった5つの手当と休暇について、不合理で違法と認定し、損害賠償の支払いを命じた。被告・会社側の上告はすべて棄却した。住居手当は最高裁が会社側の上告を受理せず、不合理と認めた高裁判決がすでに確定している。正社員との著しい格差がある賞与については、残念ながら認められなかったが、20条裁判で原告側が請求した11項目のうち、6項目の請求を、しかも上告審判決で勝ちとったことは「完全勝利」(西日本弁護団・森弁護士の記者会見コメント)ともいうべき内容であり、極めて大きな成果である。
 判決は、2018年の長澤運輸事件及びハマキョウレックス事件で最高裁が示された「各賃金項目(労働条件)の趣旨を個別に考慮する」との判断の枠組みを踏襲し、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情について「相応の相違があることを考慮した」としても手当と休暇の性質・目的に照らし、旧労働契約法20条に違反する不合理な格差と判断した。そして、大きな争点になると見られていた大阪高裁判決の「5年基準論」(勤続5年超は不合理とし、5年以下は適法)は全く採用されなかった。
 正社員には年末(12月29日から31日)は1日につき4000円、年始(1月1日〜3日)は5000円が支給されているが、非正規社員には1円も支給されていない年末年始勤務手当は、年賀繁忙という「最繁忙期に勤務したことを支給要件としている」と認定し、不支給は不合理とした。同じ理由により、年始期間の祝日割増(35/100の割増、1月2日・3日)についても不合理と判断した。正社員のそれぞれ3日間の休暇がある夏期冬期休暇は東京と大阪高裁で判断が分かれていた。東京高裁は不合理な格差と認めつつも、損害賠償は認めていなかったが、「勤続期間の長さに関係なく、心身の回復を図ること」が目的であるとし、格差を認め、損害も支給を命じ、賠償額を計算し確定せるために高裁に差戻しとした。
 一審で勝訴し、大阪高裁で逆転敗訴した扶養手当は、非正規社員にも扶養親族がおり、(日本郵便には原告と同じように、契約更新を繰り返す非正規社員も多い実態がある)「相応に継続的な勤務が見込まれる」として、手当の相違は不合理と判断した。大阪地裁判決において、「労働者及びその扶養親族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保証給としての性質を有している」とされた扶養手当が再び、認められたことの意義は大きい。
 正社員には1年目から90日の有給の病気休暇がある。非正規社員は10日の病気休暇があるが、無給である。今日のコロナ禍でコロナウイルスに感染した場合、少なくとも10日から2週間は休まなければならない。正社員は有給で安心して休むことはできるが、非正規社員は「働かなければ」、すなわちノーワーク=ノーペイとなる。この決定的な労働条件の相違についても「相応に継続的な勤務が見込まれ」、「療養に専念させることで継続的な雇用を確保すること」を理由に、不合理な格差と認定された。
 住居手当は転居を伴う異動がない新一般職(正社員)との比較で、不支給は不合理と東西高裁判決で確定している。
 一方で、東西地裁・高裁いずれも敗訴している賞与(夏期・年末一時金)については、最高裁は上告を受理せず、高裁判決が確定していた。正社員との労働条件で最も大きな格差があり、非正規社員がその是正を強く希望していた賞与を弁論さえ行わず、不受理を確定させた最高裁の不当決定は厳しく糾弾されなければならない。
 郵政ユニオンは提訴から6年半、20条裁判を組織の総力を結集してたたかいぬいてきた。他の20条裁判と違い、正社員が証人に立ち、仕事とそれに伴う責任の同一性を証言してきた。日本の多くの労働組合に見られる正規と非正規の分断ではなく、共同した連帯の力によって勝ちとられたのが今回の判決である。郵政ユニオンは最高裁判決を受けて、10月22に日本郵便に対し、非正規社員に手当の支払いと違法とされた手当と休暇の就業規則及び給与規程の改定を求める要求書を提出した。さらに、最高裁判決を梃子に、今年の2月に全国8地裁(当時、現在は7地裁)に原告154人で全国一斉提訴した集団訴訟の早期解決に向けてとりくんでいる。
 企業としての全国性と約19万人の非正規社員という規模を有する日本郵便において、手当と休暇制度の格差是正を勝ちとったことは、日本の非正規4割の雇用社会に与える影響は大きい。ハマキョウレックス事件でも「無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当」が認められた。「手当と休暇制度の不合理な格差は認めない」との判例を労働組合は今こそ、積極的に活用していくことが求められている。コロナ禍での失業・解雇・雇止めの課題とともに、21春闘の大きな課題でもある。
 郵政の2日前、13日に同じ20条裁判の大阪医科薬科大学とメトロコマース両事件の最高裁判決が行われた。大阪医科薬科大学は大阪高裁で6割の支給が認められた賞与が、メトロコマースでは東京高裁で功労報償部分として5分の1の支給を認めた退職金が焦点となっていたが、最高裁は「長期雇用インセンティブ」(有為人材確保論)や「配置の変更の範囲」、「正社員登用制度」などを理由に格差を「不合理ではない」とする厳しい判断を下した。
 最高裁の2つの判決は骨格的な労働条件で支給額の大きい賞与(郵政も同様)と退職金、そして基本給においては不合理な格差を認めないというもので、旧労契法20条の立法の趣旨にも反し、今年4月に施行されたパート・有期雇用労働法での差別的取り扱い禁止も骨抜きにするものである。また、「公序良俗違反」として同一労働では正社員の8割以下の賃金差別を認めなかった丸子警報機事件の長野地裁判決からも大きく後退する。
 この10月の20条裁判における最高裁判決の成果と問題点を踏まえ、パート・有期雇用労働法を活用した格差是正、同一労働同一賃金を軸とした均等待遇実現のとりくみが強く求められている。

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日本郵便(株)有期雇用社員格差是正最高裁判決にあたっての声明

                            2020年10月15日

       郵政産業労働者ユニオン/東・西労契法20条格差是正原告団/東・西労契法20条格差是正訴訟弁護団

 本日、最高裁判所第1小法廷(山口厚裁判長)は、有期雇用社員と正社員との労働条件格差の不合理性に関して、福岡高裁判決(一審原告1名)、大阪高裁判決(西日本訴訟一審原告8名)及び東京高裁判決(東日本訴訟一審原告3名)について、扶養手当手当、年末年始勤務手当、年始期間における祝日給、有給の病気休暇制度及び夏期冬期休暇制度の正社員との格差が不合理で違法であるとして、日本郵便株式会社(会社)に対して、旧労働契約法20条に反する不法行為として損害を認める判決を言い渡した。本件は、会社における有期雇用社員と正社員との間の労働条件の相違が旧労働契約法20条が定める不合理な労働条件の相違にあたるか否かを判断したものであり、上記手当及び休暇制度の格差を違法と最高裁が判断したことは、非正規労働者の均等・均衡待遇実現への道を一歩進めたものと評価することができる。
 最高裁は、扶養手当について、「扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的」によるものと考えられるとし、「本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な職務が見込まれるものであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当する」として、扶養手当の支払いを命じた。
 また、年末年始勤務手当については、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、「12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務した時に支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有する」とした。そして、年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、時給制契約社員にも妥当するものとし、不合理とした。
 次に、夏期冬期休暇について、時給制契約社員に与えないことは不合理であるとする原審を是認した上で、一審原告らに損害があるとして、損害がないとした原審を破棄して、損害額を確定させるために原審に差し戻した。
 そして、有給の病気休暇について、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられるとし、この目的に照らせば、時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、その趣旨は妥当するとして、病気休暇について有休と無給の相違を設けることは不合理とした。
また、最高裁は、会社が引っ越しを伴わない配置転換を命じる新一般職の正社員に支給する住居手当を有期雇用社員に支給しないことは、不合理な労働条件であるとした東京高裁、大阪高裁の判決について会社側上告を受理せず、この住居手当の格差の違法性も確定させた。
一審原告らが求めた夏期・年末手当(夏期・年末賞与)の支給格差を不合理な格差ではないとした東京高裁及び大阪高裁の判決を是正しなかった。
 先の10月13日、最高裁は、大阪医科大学事件及びメトロコマース事件において、賞与及び退職金の格差を不合理と認めなかった極めて不当な判決を言い渡した。この最高裁二判決は、格差是正の立法の趣旨を軽視し、非正規労働者の待遇を改善し格差を是正していこうというこれまでの流れに逆行するものである。ただし、本日の本最高裁判決では、賞与等の是正を図られなかったものの、住居手当、扶養手当、年末年始勤務手当、年始期間中の祝日給、一定の休暇制度の格差を不合理なものとして違法とした点では、非正規の格差是正に向けた道を開いたものといえる。日本郵便で働く正社員は約19万人、有期雇用社員は約18万人にのぼる。また、日本全体で見れば、非正規労働者は2120万人を超え、非正規雇用率は約38%に達しており、これからも均等・均衡待遇の実現と格差是正は喫緊の課題である。
 現在、本件一審原告らと同じく格差是正を求めて、会社に対して有期雇用社員154人が提訴し、全国の地裁で集団訴訟がたたかわれている。会社はこの最高裁判決に従い、直ちに上記手当及び休暇制度に係る損害を支払うべきであり、また、提訴していない有期雇用社員全員についても就業規則の改正等の格差是正措置をとるべきである。
 また、一審原告及び郵政産業労働者ユニオン、同弁護団は、今後も法廷の内外でのたたかいを進め、多くの労働者及び労働組合と連帯して、新たなパート有期雇用労働法の均等均衡待遇の完全実現を求めるたたかいを強める決意である。


外国人技能実習法施行から3年

     
外国人技能実習制度の弊害はあまりにも大きい  外国人が安心して働き暮らせる共生社会の実現を

 日本の労働力不足は、少子高齢社会の進展の中で一段と深刻さをましている。日本の政府と経済界は、労働力政策として外国人技能実習生の制度で対応している。だが、この制度の弊害はあまりにも大きい。技能実習制度は、発展途上国等の人材育成に協力するという「国際貢献」を名目に掲げているが、実態は、人手不足の中小零細企業に安価な労働力として送り込まれ、そこでは様々な人権侵害事態が多発している。
 広がる批判に対して、2016年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が成立した(2017年11月1日施行)。また同時に、介護分野にも技能実習が導入される。
 だが技能実習法の成立は、技能実習制度の改善に結びつくものではない。技能実習制度の根本的な見直し・廃止こそが必要である。

 10月30日、参議院議員会館講堂で、院内集会「守ろう!外国人労働者のいのちと権利〜外国人技能実習法3年を検証する!」が開かれた。主催は、日本労働組合総連合会(連合)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、在日ビルマ市民労働組合(FWUBC)、ものづくり産業労働組合JAM、外国人技能実習生問題弁護士連絡会、日本労働弁護団、外国人技能実習生権利ネットワークなどで構成される実行委員会。
 司会あいさつで、指宿昭一弁護士(外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表)は、外国人技能実習法施行からの3年の間、技能実習生の労働環境は改善されず、コロナ禍の状況でいっそうひどいことになっている、技能実習の実態と問題点を明らかにし、この制度は根本から見直されなければならないと述べた。
 技能実習生の訴えと支援団体からの報告では、ベトナム人技能実習生(岐阜一般労働組合 シェルターから リモート参加)、ベトナム人技能実習生解雇事件の報告(札幌地域労組から リモート参加)、そして会場からミャンマー人技能実習生と在日ビルマ市民労働組合が行った。

 パネル討論では、連合の仁平章総局長が、法に基づいての監督ができるようになったが、依然として改善が見られず、これからも是正のための活動は必要だと述べた。移住連の鳥井一平代表理事は、実習実施計画の認定制、監理団体の許可制、罰則の整備、外国人技能実習機構の設立、政府(当局)間取決めなど一定の変化は認められるが、従来の技能実習制度の基本構造を維持したままで、なお大幅な制度拡大を実現しようとしているのであり、やはりこの制度は廃止すべきだ、と述べた。日本労働弁護団の水野英樹幹事長は、劣悪な労働環境や人権侵害、転職の自由がない、ブローカーや管理団体による搾取などは解決されたとはいえず、外国人技能実習制度の思惑と建前の違いは解決されたとは言えない、と述べた。
 最後に、集会アピール(別掲)が確認された。

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「守ろう!外国人労働者のいのちと権利」集会アピール


 外国人技能実習法の施行から3年が経過しました。この間、日本に在留する外国人労働者数は、2019年10月時点で約165万人と過去最高になり、多くの働く現場において、私たちの働く仲間として活躍されています。法の施行により、「外国人技能実習機構」が制度を一元的に監督する機関として創設され、技能実習生を一定程度保護する仕組みは作られました。

 しかし、労働基準監督機関による監督指導においては、依然として7割の実習実施者に労働関係法令違反が認められており、加えて、この度の新型コロナウイルス感染拡大による突然の解雇や、休業による帰国の要請など、技能実習生を始めとする外国人労働者には、日本人労働者以上に大きな影響が及んでいます。また今でも、多額の借金を抱えて日本に来る実習生は後を絶ちません。技能実習生を含む、外国人労働者の権利保護に向け、取り組むべき課題はまだ山積しており、必ずしも、外国人技能実習機構も十分な対応が出来ていない而も見られます。

 一方、政府は、労働力不足対応の観点から新たな在留資格「特定技能」を創設しました。政府には、外国人労働者政策を全体として議論する場がなく、その時々の時代の要請により、様々な在留資格が創設された結果、外国人労働者に係る問題の全体像が非常に分かりづらくなっています。安易且つなし崩し的な受入れ拡大ではなく、雇用・労働政策の視点を重視し、労働市場政策としてトータルに考えていかなければなりません。

 また、外国人労働者は、地域における「生活者」でもあります。社会保障や行政サービス、子どもの教育、住宅保障といった共生のためのインフラ整備は、待ったなしの喫緊の課題です。外国人が安心して日本で働き、暮らせるよう、今こそ政府は、共生社会の実現に向けた覚悟を示し、国民的な議論を行うべきです。

 日本社会は、すでに外国人、外国人労働者と共に歩む時代に突入しました。私たちは、外国人技能実習生をはじめ、外国人労働者のいのちと権利を守る運動を強力に推し進めていくことを、ここに改めて宣言します。

2020年10月30日


10・26 臨時国会開会日行動

      いのちをまもれ! 敵基地攻撃能力保有反対! 学術会議の任命拒否撤回! 改憲反対! 共謀罪廃止! 総選挙勝利!

 10月26日、臨時国会が開会し(会期は12月5日までの41日間)、菅首相の所信表明演説と各党の代表質問で、内閣の発足後の初めての本格的な論戦となる。発足早々、学術会議の6人の委員任命拒否で追い詰められてしどろもどろの首相答弁が予想され、政府追及の場としていかなければならない。

 26日の昼、衆議院第2議員会館前で、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、共謀罪NO!実行委員会、安倍9条改憲NO!全国市民アクションの共催による「いのちをまもれ!敵基地攻撃能力保有反対!学術会議の任命拒否撤回!改憲反対!共謀罪廃止!総選挙勝利!10・26臨時国会開会日行動」が行われ、400人が参加した。
 憲法共同センター共同代表の岸本啓介さんが主催者あいさつ。コロナでの倒産や失業で大変な状況だ。野党は臨時国会の開会を要求してきたが、自民党は開こうとしなかった。菅首相の言う自助では問題は解決しない。政策の転換が必要だ。野党と市民の共闘で菅政権を終わらせていこう。
 国会からは、伊波洋一参議院議員(沖縄の風)、福島みずほ参議院議員(社会民主党)、田村智子参議院議員(日本共産党)、近藤昭一衆議院議員(立憲民主党)があいさつした。
 共謀罪NO!実行委員会からは海渡雄一弁護士が発言。学術会議人事への介入は、政府に物申す学者や市民を黙らせたいという政権の本音がのぞいている。共謀罪の危険性に輪をかけたものが菅内閣が考えているデジタル庁法案だ。政府による情報を一括管理で監視社会を実現しようとするものだ。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会の大江京子弁護士は、菅内閣のやってきた学術会議会員の任命拒否は学術会議法だけでなく、なにより憲法23条違反だ。こうしたことが許される政治を変えることが重要だ。
 藤沢九条の会の島田啓子さんは、戦争法強行にひきつづいて学術会議問題をスタンディングで市民に訴えている活動を報告した。
 武器取引反対ネットワーク(NAJAT)の杉原浩司さんは、敵基地攻撃能力反対のために与党の公明党への要請行動への参加を訴えた。
 最後に、総がかり行動実行委員会共同代表の高田健さんが、11月3日国会正門前集会や新宿駅西口での署名宣伝などの行動提起を行った。


10・30 東京総行動

 10月30日、175回目の全一日の東京総行動(けんり総行動実行委員会)が展開された。
 8時45分の総務省前ではスタート集会、文京七中分会解雇解決要請、国際自動車最高裁勝利報告、郵政20条最高裁勝利判決報告が行われ、その後、首切りは許さない! 権利はゆずらない!全ての争議団・争議組合を勝利させよう!貧困、格差、労働法制改悪、裁判所の首切り自由NO!教育改悪と統制・海外派兵・改憲・戦争への道NO!などを訴えながら、JAL本社(JAL不当解雇撤回争議団)まで都内10か所にわたって要請・抗議集会に取り組んだ。


本の紹介

    マルクス流のケンカの仕方教えます


 最近、読んだ本には面白いものがあった。
 ひとつは浜矩子著『強欲「奴隷国家」からの脱却―非正規労働時代をマルクスが読み解いたら』(講談社+α新書)で、れいわ新選組やMMT理論を分析しながらキャッシュレス推進の目的から「ソサエティ5・0」までのばして、われわれの『資本論』を書くときにきていると言っている。
 また白井聡著『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社) は、入門講義をベースに書かれており、積読(つんどく)状態の『資本論』を手に取り、仲間と輪読会をやってみるかと思わせる内容になっている。
 これらを読んで、記憶が甦った事件がある。
1982月から翌年2月にかけての、横浜市内で中学生のグループにホームレスが次々襲われ殺傷された事件だ。
 辛淑玉さんは、『怒りの方法』(岩波新書)で、「弱者に向かう怒り」で「学習した無力感」を紹介している。ラットを使った研究で、動いたり抵抗したりするとギュッと締め付け、おとなしくすると放す。それを学習したラットと普通のラットをそれぞれに水を張った水槽の中に入れる。普通のラットは、水際で60時間もあがいて死んだ。学習したラットは、そのままピクリともしないで、水に沈んで死んでいった。無力感を自分のものにしてしまうと、あがくことを忘れてしまう。「怒りは自己の無力感への抵抗となるのだ」としている。
 佐江衆一さんは、岩波ジュニア新書『けんかの仕方教えます』で書いている。「日雇労働者たちを殺してしまった少年たちは、自分たちをゴミのように思いこまされていた。『浮浪者』が実はまちがいなくナマ身の人間だった。おじさんは、自分自身に腹を立てた。おじさんは中学生を非難することはできなかった。中学生はオトナのホンネを代弁して、『浮浪者』を襲ったのだから」。しかし、そうしたことを生み出してしまう世の中を変えなければならないのだ。

 今、コロナパニックに世界中が陥っている。自分のことしか考えないムードが漂う中で、今日、権力のものだけが、弱者を犠牲にしてのし上がり、支配を強めている。
 わたしたちは、非正規・老人というカラを破って権利を主張するケンカの作法を身につけなくてはと思う。さぁ行動しながら勉強だ。(河田良治)


せんりゅう

  大東亜共栄外交の顔みせ

      アベ軍国予算のまんまで菅

  科学批判ナチス以来の菅政治

      本心は粛清したい試し斬り

  アベ腐れますます腐るスガ腐り

      スギタるはスガの顔なり

  おっとっとアベよりひどいスガだった
               
                     ゝ 史

2020年11月


複眼単眼

   
 もはや「やぶれかぶれ解散」か

 菅義偉新政権が発足して以来40日を経て、ようやく第203臨時国会が開かれた。10月26日、首相の「所信表明演説」が行われ、与野党の論戦が始まった。
 しかし、論戦にもならぬ「論戦」を聞いていると、安倍晋三の退陣に慌てふためいた自民党執行部が、消去法でやむなく「安倍政治の継承」のために担ぎ出した首班であるとはいえ、菅義偉のあまりのレベルの低劣さが目立つ。自民党にはこんな政治家しかいなくなってしまったのかと、感慨ひとしおだ。
 所信表明演説と、その後の代表質問への答弁では、菅は自分の言葉で政治を語れない政治家であることが明らかになった。官僚が作文した原稿を読み上げるだけだ。自分の言葉でないから読み間違いが目立つ。
 「共同通信」の調べでは、菅は所信表明演説の20分程度の文章で6か所以上読み違えた。
 国会開会に先立って外遊したとき、ベトナムでの演説で「ASEAN(アセアン)」を「アルゼンチン」、とあり得ない誤読をやった話は有名だが、所信表明演説では、「重症者に重点化します」と言うべきところを、「重症者にゲンテン化します」と意味不明な言葉を発し、「薬価改定」を「薬価改正」と間違え、「打ち勝った」の「打ち」をスッ飛ばした。「重症化リスク」の「化」を言い忘れ。さらに、「貧困対策」を「貧困世帯」、「被災者」を「被害者」と、全く意味の違う単語に“誤変換”してしまった。
 読み違えはだれでもある。ただそれをもって、菅をからかうのは本意ではない。菅の間違いは官僚に書いてもらった文章そのままの朗読だからだ。自分の言葉になっていない。このあたり、米国のトランプに似ているかもしれない。
 明らかなことは菅という人物には哲学も戦略もない。「苦労人」の「たたき上げ政治家」、「パンケーキが好き」な「令和おじさん」の「物語」もすぐに色あせた。そして菅の取り巻きが杉田官房副長官など、なにやら警察国家的な、陰湿な、薄気味悪い連中だという事が漏れ伝わってくる。
 だから菅義偉の傀儡師どもは、実務家菅義偉、改革保守の菅義偉、新自由主義に忠実な菅義偉を売りにし、特徴をだそうとしている。
デジタル庁新設、はんこ行政廃止、携帯電話料金値下げ、2050年脱炭素社会実現、新型コロナウィルス感染症対策で「1日20万件検査」などなどならべたてたが、その実現の道筋すら、己も理解していない。
官房長官時代に手掛けたデタラメ極まる「Go Toキャンペーン」や「ふるさと納税」制度を自慢し、コロナ対策なども口にするが、その口で「自分でできることは、まず自分でやってみること」を強調し、新自由主義で使い古された「自助・共助・公助」を「(自らが)目指す社会像」と述べてしまうわけで、これでコロナ対策もないものだ。
 こういうところに「日本学術会議人事」への介入問題が発覚した。菅は総裁選の前、「政策に反対するものは異動」する(9月13日のフジテレビ番組)と言い放っていたが、学術会議問題で実践したわけだ。
 菅は安易に考えていた節があるが、そうは問屋が卸さない。この問題は菅新政権の正体を露呈する重大問題になった。
 菅は東京五輪は本当にやるつもり、できるつもりなのか。
 このままでは解散すらできなくなる。菅首相に残されているのはもはや、時期もタイミングも見計らうことができない「やぶれかぶれ解散」しかないのではないか。 (T)