人民新報 ・ 第1394統合487(2021年2月15日)
  
                  目次

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自民党政治のほころびが鮮明に

       4月補選、総選挙勝利に向けて、総がかりの闘い、市民と野党の共闘を強めよう

● 日本政府は核禁条約支持を表明せよ

       核兵器禁止条約の発効をうけて、原水禁・日米韓国際シンポジウム

● デジタル庁設置の狙い

       監視社会進展を加速化

● 日本労働弁護団主催の集会

       労働者・労働組合の立場から「テレワーク」を考える

● 学術会議任命拒否問題と学問・教育の自由

       都教委包囲・首都圏ネット総決起集会

● KODAMA  /  「ほな!」の唱和で見送られた平本歩さん

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  プロンプターの使用に踏み切った菅首相






自民党政治のほころびが鮮明に

     
 4月補選、総選挙勝利に向けて、総がかりの闘い、市民と野党の共闘を強めよう

 新型コロナウイルス蔓延対策の緊急事態宣言はやはり大幅延長となった。
 菅内閣の安易な方針は、予想通り失敗して、菅は、2月2日の記者会見で、「責任はすべて私が背負う」などと何度も頭を下げることとなった。
 たしかに責任は菅にあることは明らかだが、安倍前首相と同様に、「責任がある」という言葉はあるが、決して「責任をとる」わけではない。

 NHKの2月(5〜7日実施)調査によると、菅内閣の支持率は、先月より2ポイント下がって38%、不支持は3ポイント上がって44%となった。2か月続けて、不支持が支持を上回った。新型コロナウイルスをめぐる政府のこれまでの対応では、評価するが4%、ある程度評価するが40%、あまり評価しないが39%、まったく評価しないが14%だった。
 菅の前には、コロナ対策の失政への批判の広がりに加えて、吉川貴盛元農相の議員辞職につづく河井案里の議員辞職、自民公明与党4議員の「夜の銀座」問題、そして、世界中からも批判が集中する東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の森喜朗の女性蔑視・差別発言などがつづく。これまで自民党をまとめてきたといわれる二階俊博幹事長も森と同じ体質を自己暴露して、政府与党の立場をいっそう悪化させ、その内部での軋轢も深刻なものになろうとしている。

 1月18日に通常国会が開会したが、菅の首相就任後の初の施政方針演説では、持論の経済重視を抑え、新型コロナ感染の早期収束を優先課題に掲げた。GoToキャンペーンなどで感染を蔓延させ、その結果としての内閣支持率の急速な下落の前に驚愕する菅内閣の慌てぶりを示すものでもあった。対策が後手後手のというより、逆の政策で事態を悪化させたことへの反省もなく、この事態になっても「対応が遅れたとは思わない」と強弁・自己弁護にやっきだ。菅は「私自身は精いっぱい、これに取り組んでいる」というが、政治は結果によって判断されなければならない。問題は感染蔓延というこの現実だ。そして、今はワクチン頼みである。だが、そのワクチンの輸入でさえも、日本政府の外交交渉力のなさから前途多難の様子である。

 感染症への対策は、まず感染者を早期に発見して、その人を保護・隔離することに他ならない。PCR検査数を抑え、感染者を少なく見せたこと、これまでの新自由主義政策のつけである医療機関の体制の脆弱さ、そのため自宅療養の強要、当然の結果としての家庭内感染による感染者の激増があった。
 断固としてゼロ・コロナを目指すのでなく、安易なウィズ・コロナ論に立脚しての経済とコロナ対策の両立、その実、経済界の要求による各種のキャンペーンは、確実に第三波の悲惨な状況を準備してきたのであった。安倍前政権の初期初動対応の遅れ・失敗、それを引き継ぐ菅内閣の政策こそが、コロナ蔓延を持たしたのであり、まさに政府による政策の結果・人災ということなのである。
 そして、いままた、経済活性化をねらって早期の緊急事態宣言の解除をもくろんでいる。とりわけ、維新の会吉村大阪府政のまえのめりは危険だ。自民、公明とそれに連携する日本維新の会の政治が、この国この社会を破壊しているのであり、こうした政治の流れを転換しなければならない。

 日本の医療体制の後進性が明らかになった。だが、日本政治の非民主性もが全世界に知られたのが、森喜朗の差別発言とそれをめぐる一連の動きだ。2月3日のJOC臨時評議員会で会長の森は次のように発言した。―これはテレビがあるからやりにくいんだが、女性理事を4割というのは文科省がうるさくいうんですね。だけど女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります。これもうちの恥を言いますが、ラグビー協会は今までの倍時間がかる。女性がなんと10人くらいいるのか今、5人か、10人に見えた(笑いが起きる)5人います。女性っていうのは優れているところですが競争意識が強い。誰か1人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発言されるんです。結局女性っていうのはそういう、あまりいうと新聞に悪口かかれる、俺がまた悪口言ったとなるけど、女性を必ずしも増やしていく場合は、発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると言っていて、誰が言ったかは言いませんけど、そんなこともあります―。
 あきらかに大問題の発言だ。そして、この場では誰一人として森に対して意見をいうものもなかった。だが、女性アスリートをはじめこれを批判する声が広がった。JOCもIOCも当初、森の発言撤回会見で事態を収束させようとしたが、国の内外から、それもスポンサーの大企業からも意見がよせられ発言を修正せざるを得なくなった。
 結局、森は悪あがきの末に、オリパラ組織委員会会長をやめざるを得なくなった。つぎには大会そのものについても速やかに中止の声明を公表すべきだろう。

 自民党政権のほころびが鮮明になってきている。腐敗した反動政治を変えるときだ。
 4月25日の衆院北海道2区、参院長野選挙区・広島選挙区選挙では、市民と野党の共闘を強めて闘いに勝利しよう。
 今年は衆院総選挙がある。新しい政治の実現に向けての政策を作り出し、候補者の調整を行い、立憲野党間の相互信頼を強め、かならず菅内閣、自民党政治を終わらせよう。


日本政府は核禁条約支持を表明せよ

       核兵器禁止条約の発効をうけて、原水禁・日米韓国際シンポジウム


 核兵器は非人道的兵器であり、それを国際法で違法とする核兵器禁止条約(TPNW)が、1月22日に発効した。条約の発効を契機に核廃絶の声は一段とひろがっている。日本政府は、ただちに、条約支持の表明を行い、条約は発効から1年以内に開催される締約国会議にオブザーバーとして参加すべきである。そして、「米の核の傘」政策から脱却し、条約締結加盟へ進むべきである。そのための積極的な平和外交政策を展開しなければならない。

 1月23日、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は、核兵器禁止条約の発効を受け、日米韓国際シンポジウム「核兵器禁止条約発効後の課題と展望」(オンライン)を開いた。
 はじめに長崎の被爆者でもある川野浩一議長が主催者あいさつ。核兵器禁止条約が発効したからといって核兵器がただちになくなるわけではない。多くの国が条約に参加しなければならない。とりわけ日本は被爆国として取り組まなければならない。日本政府の評判は地に落ちている。少なくとも締約国会議にオブザーバーとして参加すべきである。被爆者の余命はもういくばくもないが、核兵器禁止はこれからが本番だ。
 アメリカからは、同国の最大の平和軍縮組織であるピースアクションのケビン・マーティンさん。アメリカは首都・議事堂で見られたように分裂した状況にあるが、バイデン新政権でどうなるかが注目される。ロシアとの新START戦略兵器削減条約はなんとか延長された。つぎにイエメンにおけるサウジの残虐な行動を止めさせるために仲介する、イラン核合意に復帰する、中東への米国の参与を減少させる、イスラム教徒の入国禁止をやめる、気候変動のパリ協定への復帰、朝鮮半島の平和、国防総省の膨大な予算を削る、パレスチナの平和、警察の軍事化をやめるなどの政策を進めてほしい。核禁条約は米国の政策にただちに影響はしないが、この条約は平和擁護運動を押し上げる歴史的到達点である。米国においてはロシアとの戦略兵器削減からさらに、核兵器の先制不使用宣言が必要だ。核兵器近代化の予算を見直す。核不拡散条約(NPT)再検討会議が8月に予定されているが、そこでバイデン政権がどうした対応をするのか注目される。強硬な中国封じ込めは破綻するだろう。ことしは、朝鮮半島の平和の実現のために、朝鮮戦争終結などを求めるキャンペーンをつよめていく。
 韓国からは、参与連帯のイ・ヨンアさん。ハノイでの第二回米朝会議はなんの成果も生まず、交渉は停滞している。アメリカ主導の対北朝鮮制裁はよりきびしくなった。意見の違いはより極端なものとなった。南北間でもさらに不信感が強まった。バイデンはさらなる対北制裁を示唆している。しかし情勢は悲観的なものではない。北朝鮮は党大会で、強硬姿勢の一方で、南北関係の改善の必要についてうちだした。米朝関係についても同様だ。対話と交渉にむけて、軍拡の悪循環がやむようにしなければならない。これまで努力してできた米朝の協定をすすめて、朝鮮半島の非核化を実現していくように、アメリカは制裁と威嚇はやめるべきである。まず非核化、次いで制裁解除というアメリカの主張は実現不可能だ。朝鮮半島の平和は、世界的な核兵器依存からの脱却とともに進められなければならない。そのために南北朝鮮は核兵器禁止条約に加盟しなくてはならない。昨年朝鮮戦争開始70周年だったが、コリア平和アピールは、市民の手で、朝鮮戦争休戦協定70周年の2023年までに、一億筆の署名を集め、朝鮮戦争の終結と平和の実現を目指している。そのための対話、ロビーいい具などの多様な活動を行っている。アピール行動には、50のパートナー組織が参加している。
 日本からは、元広島市長の秋葉忠利さん(原水禁・顧問)。新型コロナ蔓延で人類の生存能力が試されているが、核禁条約の締結はその能力があることをしめす画期的なものである。条約の発効までには20年余りかかったが、その実現のためにも数十年という年月がかかるだろう。そのあいだにそれぞれの国・地域が中間目標も設けて活動していかなければならない。
 日本政府が核兵器禁止のために世界各国政府に働きかけることは極めて重要なことだ。世界各国市長で構成される平和首長会議の国内加盟都市会議は、昨年11月、菅義偉首相に対して、「核兵器廃絶に向けた取組の推進について」を提出し、「平均年齢が83歳を超えた被爆者は、全ての国による核兵器禁止条約の締結を待ち望んでいます。核兵器の非人道性を身をもって体験している唯一の戦争被爆国である日本政府には、一刻も早く核兵器禁止条約の締約国になっていただくよう強く要請するとともに、来るべき核兵器禁止条約の締約国会議に、まずは是非オブザーバーとして参加いただき、核保有国と非核保有国の橋渡し役として核軍縮にリーダーシップを発揮していただくよう要請」した。
 まず東北アジアに非核兵器地帯を設ける、北半球に非核地帯を創設することなどからはじめてもよいかもしれない。


デジタル庁設置の狙い

       
監視社会進展を加速化

 菅政権は、デジタル庁設置の構想は、行政手続きが役所に行かなくてもパソコン・スマホで出来るようになる大変便利なものだと宣伝している。
 だが、実際には、国の省庁だけでなく、自治体のシステムも統一化・標準化して、多くの市民の個人情報・データを国が最大限使えるようにするという国にとって大変便利なものなのである。政府の「データ戦略タスクフォース」の「第1次取りまとめ(案)」には、「今日『データ』は、単に存在すればいいということではなく、大量の質の高い信頼できるデータが相互に連携し、『地理空間、ヒトや組織、時間』といった構成要素から成り立つ現実社会をサイバー空間で再現(『デジタルツイン』)し、新たな価値を創出しつつ、サイバー空間上で個人、国家、産業、社会のニーズに応えることが求められている」とある。
通常国会にはデジタル庁関連一括法案(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案〈仮称〉)が提出される。

 1月18日、衆議院第2議員会館多目的会議室で、「デジタル庁なんていらない院内集会」(主催―共課罪NO!実行委員会&「秘密保護法」廃止へ!実行委員会)が開かれた。
 海渡雄一さん(共謀罪対策弁護団・秘密保護法対策弁護団)が、「監視社会の進展を加速化するデジタル庁創設計画への疑問を提起し、プライバシー保護のための独立監視機関の設立を求める」と題して報告。共謀罪対策弁護団と秘密保護法対策弁護団は、昨年12月22日に「監視社会の進展を加速化するデジタル庁創設計画への疑問を提起し、プライバシー保護のための独立監視機関の設立を求める」意見書を公表した。また日弁連は、2017年10月に「個人が尊重される民主主義社会の実現のため、プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議」を採択している。
 共謀罪の推進勢力が外務省・法務省から官邸に途中で変わった。制定20年を経過した盗聴法の適用が飛躍的に拡大する危険性がある。監視カメラと顔認証技術が結び付けば、究極の監視社会が現実のものとなりうる。官邸は官邸ポリスの集めた情報で官僚・政治家を恐怖支配している。警察組織の政治的中立性が破壊されている。いまほど、プライバシー保護のための独立監視機関が求められるときはない。プライバシーの保護が人格の自律を保ち、表現の自由など自由権の核となるが、GAFAと公的機関の両方への規制の強化が急務である。
 つくられようとしているデジタル庁は、監視社会の完成のための国・地方・企業のデジタルインフラの共通化を目的とするものではないかと思われる。菅首相は「省庁間の壁を壊す」と言うが、個人情報保護のための壁を解体するということではないだろうか。多くのカードが統合化され、データの突合が検討されている。新たなシステム導入は急ピッチで進められているが、個人情報保護の仕組みがどのように作られていくのかが不透明である。デジタル庁関連一括法案の内容そのものが明らかにはされていないが、この法改正は我が国における個人情報・プライバシー保護のシステムを根本的に改変するものとなる可能性がある。政府は、法案の骨子・要綱、ディスカッションするべきポイントなどをまとめて、早期に市民と国会議員のために議論の素材を提供するべきだ。
 そして改正個人情報保護委員会の組織、権限を明らかにするべきである。日本には、公権力によるプライバシー侵害については、これを規制する機関が存在しない。EUには、個人データ保護やその取り扱いについて詳細に定められたEU域内の各国に適用される法令である「EUGDPR」がある。日本でも、それにならって、巨大IT企業の情報の収集、保管、利用等についてのみならず、公的機関によるプライバシー侵害も含めて、政府から独立した機関によって厳格な規制を行うことを義務づけることがデジタル庁を設置するよりも先決である。

 つづいて、共通番号いらないネットの原田富弘さんが、「デジタル庁で再構築されるマイナンバー制度」と出して報告。「デジタル・ガバメント閣僚会議マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善WG(ワーキング・グループ)の昨年12月の報告から見えてくるものは、「国民総背番号制」化の構想だ。これまでの地方公共団体が共同で運営してきた「地方公共団体情報システム機構(J―LIS)」を、新たに国と地方の共同団体の管理に変え、デジタル庁と総務省で共管し、デジタル大臣と総務大臣が目標設定・計画認可し、改善措置命令に違反するとJ―LIS理事長を解任するなど、事実上、国家管理化する。そして、児童手当、生活保護などでいま低調な情報提供ネットワークシステムの利用の徹底、社会保障・税・災害という3分野以外への利用拡大、治安、外交等を除く行政事務全般における機関別符号のみを利用した情報を連携させ、情報提供ネットワークシステムと住基ネットを照会への応答からプッシュ型の情報提供へ変え、マイナンバー制度の情報連携のアーキテクチャーの抜本的見直しがもくろまれている。
 こうして、スマホとマイナンバーカードを使った生活・行動監視が行われるようになる。あらゆる行政手続がスマートフォンから簡単にできるデジタル・ファーストで、マイナンバーカードの機能(電子証明書)をスマートフォンに搭載、新たに「移動端末設備用電子証明書(署名用・利用者証明用)」を創設し、マイナポイントを自治体が多様なポイント給付事業を行う基盤として構築するという仕組みだ。マイナンバーカードの普及では、2023年3月までに全住民に所持させ、電子証明書シリアル番号を個人識別IDとして利用する。マイナポータルを個人情報保護の仕組みから官民の個人情報の提供の仕組みへ、さらに所得情報と社会保障の連携強化等、預貯金・不動産付番などとするという。
 政権の目指す方向は極めて危険なものだ。


日本労働弁護団主催の集会

       労働者・労働組合の立場から「テレワーク」を考える


 新型コロナウイルス蔓延に直面して、政府は、2月7日の緊急事態宣言再発令に伴い、オフィス出勤者数の7割削減を目指し、在宅勤務やテレワークの推進を求めてきた。テレワークを常態化していく企業は増えて、テレワーク、特に在宅勤務の導入・実施が急速に拡大していく。だが、企業側による、使用者にとって利用しやすい形でのテレワークの導入拡大によって、長時間労働、サービス残業の拡大など搾取強化と儲けの増大をねらう動きが顕著だ。

 2月3日、日本労働弁護団主催のオンライン集会「労働者・労働組合の立場から『テレワーク』を考える」がひらかれた。
 はじめに、本部事務局次長の竹村和也弁護士が、日本労働弁護団からの基調報告「テレワークに関する法的論点」について報告した。テレワークとは、労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外での勤務であり、情報通信技術の利用と事業場外での勤務であることを本質的な特徴とするものだ。これまでテレワークは、政府の推進にもかかわらず普及は進んでいなかったが、昨年4月の緊急事態宣言以降に実施企業が急速に拡大した。そして、企業規模が大きいほど実施割合が高く、300人以上の企業の5月の実施割合81・4%となっており、産業別では、情報通信業の実施割合が圧倒的に高い。第一次の緊急事態宣言解除後に減少したが一定の定常状態が認められる。テレワークの課題としては、労働者にテレワークを強制できるか、労働者のテレワークの希望をどのように実現するか、非正規労働者にはテレワークを認めないことは許されるか、テレワークにかかる費用を誰が負担するのか、テレワークの労働時間規制はどうあるべきか、労働者や家族のプライバシーはどのように保護されるべきか、その他として労働安全衛生の問題、人事評価の問題、人材育成の問題などがある。
 まず、使用者は、労働者の個別同意なく、テレワークを命じることはできないということだ。自宅は高度な私的空間であり、使用者が管理する施設での就労とは異質であり配置転換とは異なる。就業規則等にテレワークに関する規程が存在しても個別同意が必要だ。緊急時であっても、一時的であっても結論は変わらない。
 テレワークの希望の実現では、労使の合意による実現を目指すべきだ。労働者にとってテレワークの実施が切実に求められる場面は多いが、政策的には労働者に在宅勤務請求権を検討することもあり得るだろう。
正社員と比較してテレワーク経験割合が低い現状がある非正規労働者に女性が多い現状では、女性労働者がテレワークから排除される結果になっている。非正規労働者に対するテレワーク拒否がおきているが、パート有期労働法8条、派遣法30条の3などにより非正規労働者と正社員との間の不合理な待遇の相違は禁止されている。
 業務遂行に必要な費用としては、情報通信機器媒体、通信費、作業に適した机や椅子などがある。従前の労働契約では、労働者が負担することは予定されていない費用であり、業務遂行を求める使用者において負担すべきであり、使用者の意向に基づきテレワークを実施する場合に特に妥当する。
テレワークでは、私生活との境界が曖昧になり深夜労働含め長時間労働化しやすいので、労働時間規制が極めて重要だ。テレワークに事業時間みなし労働時間制を導入している企業は少ないが、しかし、テレワークに適用しようとする経営者も増えている。ICT技術を用いるテレワークにおいては、ログインが記録されるなど「労働時間を算定し難いとき」にあたることは基本的にあり得ない。使用者には労働者の「労働時間の状況の把握」が義務づけられていて、テレワークも当然対象だ。
 長時間労働を防止するためのその他の措置としては、メール送付の抑制(役職者による時間外、休日、深夜のメール送付)、システムへのアクセス制限、テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止、長時間労働を行う労働者への注意喚起、勤務間インターバル制度の積極的な導入がある。
 テレワークの普及により使用者のモニタリングが問題となっているが、労働者の個別同意のない私的空間を撮影するなどのモニタリングは違法であり、自宅は高度なプライバシー空間であり、それを個別同意のないまま暴露するようなモニタリングは違法と解するべきだろう。また、「つながらない権利」の立法化等も検討すべき課題である。
 
 連合の仁平章総合政策推進局長は、「連合調査から見えるテレワークの実態と労働者保護の視点から留意すべきこと」について報告。昨年6月に行ったインターネット調査(有効回答数1000サンプル)では、4月以降のテレワーク時の労働時間は、最多は「6〜7時間程度」の34・3%、次いで「8〜9時間程度」の33・8%であり、「10時間以上」との回答は4・1%。
「8時間以上」と回答した割合は全体で37・9%だが、30代、40代では4割を超えていた。テレワーク時の労働時間管理については、「ネットワーク上の出退勤管理システムでの打刻」が最も多く、全体の27・6%、次いで「メール等による管理者への報告」(18・7%)、「パソコン等の使用時間の記録」(16・7%)。 従業員数99人以下では、「時間管理をしていない」が23・5%あり、テレワーク時に限らず、出勤した際においても管理をしていない傾向が見られた。テレワークのデメリットとしては、「勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらい」と回答した割合が最も高く全体で44・9%、次いで「運動不足になる」38・8%、「上司、同僚とのコミュニケーションが不足する」37・6%となっている。
 労働者保護の視点から留意すべきこととしては―労働時間の適正な把握が徹底されて、休憩時間の確保、長時間労働の抑制、賃金の支払いが確実に行われるようにすべきである。労働時間管理、長時間労働による健康障害の発生防止に加え、生活時間帯の「つながらない権利」を確立すべきだ。労働者が時間外、休日、深夜のメール等に対応しなかったことを理由とする人事評価等における不利益な取り扱いは禁止すべきである。対象者の範囲について、差別的な取扱いがなされないようにするとともに、実施日数について、対象者の意見や希望が尊重されるようにすべきである。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に準じた作業環境が確保されるようにすべきである。テレワークに係る経費については、あくまで「就業場所の変更」に関するものであり、会社が負担すべきだが、手当で支払われる場合、課税対象となり、結果として労働者がその一部を負担することになるため、税制上の取り扱いについて措置を講じるべきである。自宅等でのテレワークにおける業務に起因する災害は、労災保険給付の対象となることを周知し、適切な運用がなされるようにすべきである。客先常駐者については、取引先・顧客先に対して、安全衛生対策やBCP(事業継続計画)対策の観点に基づいたルール化を行うようにすべきである。

 情報労連の水野和人組織対策局長は、「情報労連加盟組合におけるテレワークの現状と課題」について報告。テレワークのメリットとしては、通勤・移動時間の削減による時間の有効活用、通勤ストレス・身体負担の軽減、家族との時間等、ワーク・ライフ・バランスの充実、業務に集中できた・効率化が図られた、業務の見直し(既存業務の精査)が進んだ、不要な打合せ・会議の減少、交代での在宅勤務による職場三密の回避などがある。デメリットとして、業務上、出勤せざるを得ない人との不公平感、テレワークの環境整備・通信・光熱費の負担、社内システム・ネットワークの負荷増による業務遅延、コミュニケーションの減少による生産性低下・ストレス、営業等、人と人との関係性を作る仕事への影響、テレワークに対する上司の無理解、仕事のオン・オフの切り替えの難しさ・長時間労働、家庭環境により業務に集中できない、私生活を見られる可能性があることへのストレス、休園・休校によるテレワークと育児の両立は困難などがあげられる。
 テレワークと労働組合活動の面では、コロナ禍で、各単組が手探りながら組織活動を展開しており、新たな活動参加を得る一方、情報共有が難しいこともある。
また、団体交渉・労使協議では、感染症対策、雇用確保、事業継続、労働条件、働き方の見直しなどで設定されるが、オンライン団交にあっては、緊張感や空気感が十分に伝わらない可能性があり、会社は追及を抑えられ自らのペースで交渉できるなど、情報共有や通知事項、事務折衝であれば問題ないが、議論を深く突っ込んで妥協点を探る、追及する局面などでは不向きだ。

 ジャーナリストで和光大学名誉教授の竹信三恵子さんは、「ジェンダーから考えるテレワーク問題」について報告。ジェンダーをめぐっては、テレワークをさせてもらえないことによる問題とテレワークをさせられることによる問題ということがある。非正規はテレワークから除外される例が多いが、働く女性の55%が非正規労働者だ。そして、女性は性別役割分業によって家庭責任がつきまとう。テレワークが必要なことが多いにもかかわらずだ。正規でも非正規でも女性が男性に比べ在宅勤務機会が少ないのは、女性の労働が縁辺労働市場に偏ることが大きな原因の一つだ。縁辺労働力とは、経済情勢の変動に影響されて労働市場への参入と退出を繰り返し、労働力になったり非労働力になったりする就業形態が不安定な層のことだ。
 また、テレワークをしろといわれても家庭内にもう一つの仕事があり、みな家にいる状態になれば家族の世話はむしろ倍加する。労働に追われまくる家庭という工場での女工哀史のようになる。
 女性は、短期契約の使い捨て的な労務管理なので、企業はテレワークが可能となる人的投資をしたがらない。だが対面販売のオンライン化、パソコン貸与など、技術的には必ずしも不可能ではないはずだ。
 いま、テレワークを理由に労働時間規制を撤廃させようという動きがある。
 昨年6月18日付「日本経済新聞」の「出社は仕事にあらず もう時間に縛られない」という記事は、労働基準法の労働時間規制によって「疲れ果てた」といい、深夜割増など在宅の仕事での労働時間管理を緩めるよう示唆するものだった。仕事量を管理する権利を社員に与えるなど、働き手の裁量権を強化する法律をつくることや在宅でも保育園を整備、など支援措置こそが大切なのだが、この事態に便乗して長時間労働の容認や残業代の節約を画策することが見て取れるのではないだろうか。
 これまでの「思い込み」から自由になることが必要だ。
 育児や仕事の両立が多くテレワークをより必要としている女性がテレワークしにくいって、おかしくないですか。会社が環境を整備できない責任を働き手がかぶるっておかしくないですか。感染防止のための在宅ワークは命と健康にかかわる自己判断が必要なことに会社が踏み込むのはおかしくないですか。
 一人では言い出せないことが、集まれば言える。闘うことは玉砕することではない。怖かったら、勝てないと思ったら、すぐに闘わず、ノウハウのある労組や専門家と相談し、勝てる余地をさがしてみよう。そのうえで、怖くない方法や勝てる構図をつくってみよう。法律に書いてあることを守らせるだけでなく、働き手の実態に合ったルールを現場から作らせ、立法化していく必要性がある。

 日本金属製造情報通信労働組合(JMITU)日本アイビーエム支部の杉野憲作書記長は、「日本IBMにみるテレワークの悪用事例」について報告。日本IBMでは従前から テレワーク・在宅勤務が実施されてきた。その環境を背景にして、コロナ禍をきっかけに在宅勤務が全社員の9割にまで拡大し、ITエンジニアを中心に「24時間×365日」の働き方が広がっている。「自己責任」「成果主義」「セルフサーブモデル」で苦しめられている日本IBMの実態は、ボロボロになるまで働く従業員と、いつの間にか会社から消えている労働者がいるということだ。コロナ禍であってもこれらの人事施策を職場に入れさせないたたかいが重要となっている。


資料

   戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会と改憲問題対策法律家6団体連絡会の声明(2021年1月18日)


 私たちは、自民党4項目改憲を目的にした憲法審査会の開催と公選法並びの改憲手続法改正案の採決に反対します

 憲法9条などの改憲を目指し、戦争法など数々の違憲立法を強行採決により成立させてきた安倍前首相は、辞任表明後もなお「改憲手続法を今国会で成立させる」と表明し、後継の菅政権も、「安倍政治の継承」を謳い、憲法改正に取り組むことを表明しました。これを受けて、衛藤征士郎自民党憲法改正推進本部長は、9条への自衛隊明記や緊急事態条項創設など自民党4項目改憲案をもとに改憲原案に仕上げるとして、憲法改正原案起草委員会を立ち上げて活動を開始しました。そのような中で、昨年11月26日に開催された衆議院憲法審査会では、与党ら提出のいわゆる公選法並びの7項目の改憲手続法改正案(以下「7項目改正法案」あるいは単に「改正法案」といいます。)の審議が開始され、採否は持ち越されました。

 しかし、新型コロナ感染症の急激な感染拡大の中で、今、国会が全力を集中すべきは、医療崩壊を食い止め、市民の命を守り、生活の糧を得ることが困難となった多くの市民に対する補償や救済策を講じ、PCR検査の拡大など新型コロナ感染症の感染拡大を止める有効な対策を実行することであり、世論の大多数が望んでいない改憲の手続きについての議論ではありません。

 総がかり行動実行委員会と改憲問題対策法律家6団体連絡会は、以上の理由から、通常国会において、自民党4項目改憲を目的にした憲法審査会を開催すること自体に反対であり、仮に、開催するとしても7項目改正案の抜本的な見直しと改憲手続法の本質的な欠陥の是正を抜きに採決することには、以下に述べる理由により、強く反対します。

 第1 憲法改正の投票を通常の選挙と同列に論じること自体誤りであること
 1 7項目改正法案は、2016年に改正された公職選挙法(名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰り延べ投票、投票所への同伴)の7項目にそろえて(並べて)改正する法案です。与党議員らは、「投票環境を向上させる」ものであり野党にも異論はないはず、提出からすでに7国会を経ている以上、直ちに成立させるべきとしています。

 2 しかし、7項目改正法案の審議は、昨年11月26日の憲法審査会で始まったばかりであり、中身の検討は全くなされていません。法案提出者は、投票環境を改善するもので異論はないはずだとしていますが、たとえば期日前投票時間の2時間の短縮が可能となっていたり、繰り延べ投票期日の告示期限が5日前から2日前までに短縮されているなど、投票環境を後退させるものも含まれています。通常の選挙では仮に許されるとしても、憲法96条の憲法改正国民投票において、国民の投票環境を後退させることは許されません。国の基本である憲法を改正するか否かの国民投票の在り方がどうあるべきかは、それ自体、憲法審査会で慎重かつ十分な議論が必要です。

 第2 7項目改正法案は、改憲手続法の根本的な問題が未解決の欠陥法案であること
 改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされており、日本弁護士連合会その他学者などからも欠陥の見直しを強く求められています。にも関わらず、これらの本質的な問題の解決が、13年以上も放置され続けています。とりわけ、(@)ラジオ・テレビ、インターネットの有料広告規制の問題や、ビッグデータの利用の規制の問題は、改憲手続法改正の議論において、避けては通れない重大な問題です。また、(A)運動の主体の問題もきわめて重要です。現在は、公務員・教育者に対する規制を除き(それ自体見直しの議論が必要です。)運動主体に制限はありません。しかし、企業(外国企業を含む)や外国政府などが、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動ができるとする法制は、抜本的な見直しが不可欠です。

 7項目改正法案は、以上述べたような「憲法改正をカネで買う」危険についてなどの問題が、全く考慮されていない欠陥改正法案です。これらの本質的な議論と制度の見直しを抜きに、欠陥改正法案を急ぎ成立させる必要は全くありません。

 第3 7項目改正法案は、自民党の掲げる4項目改憲への道を開く道具であること
 もっとも、与党や維新らの改憲派が7項目改正法案の成立を急ぐ理由はあります。それは、自民党が現在準備中の4項目改憲案を憲法審査会に提示するために、7項目改正法案を成立させる必要があるからです。7項目の改正案が成立すれば、次は憲法改正原案の提示に進む目論見であることは明らかです。

 そもそも、7項目改正法案は、安倍前首相の掲げた改憲を強行するための「道具」として生み出されたものです。2017年5月に、安倍首相(当時)が「2020年までに改憲を成し遂げる」と宣言し、2018年3月に自民党4項目改憲案の素案を取りまとめ、同年6月に、急遽間に合わせるように提出されたのが、この改憲手続法の7項目改正案です。自民党の4項目改憲案の狙いは憲法9条の改憲にあります。戦力の不保持、交戦権の否認を定めた9条2項を空文化し、「必要な自衛の措置」の名目で、無制限の集団的自衛権の行使を憲法上可能にし、自衛隊を通常の「軍隊」・「国防軍」にしようとするものに他ならず、「戦争をしない国」という我が国のあり方を根底から変える危険な改憲案であって、絶対に許してはなりません。欠陥改正法案法を成立させることは、この自民党改憲案が憲法審査会に提示され改憲発議への道を開くことに直結します。

 第4 市民は、憲法改正議論など望んでいないこと
 市民が、憲法改正を必要とは考えていないことは、一昨年からのいずれの各種世論調査からも明らかです。新型コロナ感染症の拡大で苦しむ多くの人々の命も健康も生活も蔑ろにして、国会も開かずに自助を迫るだけの無能無策の限りを尽くす政府に対して、市民は心底怒りを覚えています。

 憲法改正の議論は、市民のなかから憲法を改正すべしという世論が大きく高まり、コンセンサスが形成される中で初めて可能となるのであり、市民の意思を無視して憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う国会議員や首相が主導することは許されません。そして、今、憲法改正論議を進めることなど市民が全く望んでいないことは明らかです。政府と国会が、何をおいても全力で取り組むべきことは、新型コロナ対策であり、市民の命と生活を守る施策であり、安倍前首相の桜を見る会関連の犯罪嫌疑などで地に堕ちた政治への信頼を取り戻し、立憲主義と民主主義の本道に立ち返るための努力です。   以上


学術会議任命拒否問題と学問・教育の自由

       都教委包囲・首都圏ネット総決起集会


 2月7日、文京区民センターで、都教委の暴走をとめよう!都教委包囲・首都圏ネットワーク主催の「日の丸・君が代」強制反対!「10・23通達」撤廃!総決起集会が開かれた。 
 講演は、菅政権による学術会議任命拒否当事者の岡田正則・早稲田大学教授が「学術会議任命拒否問題と学問・教育の自由」と題して行った。
 政府の暴走による戦争の過ちを繰り返さないために、日本学術会議が設置され、戦争にむすびつく危険が起こりそうなときには、そうしたことに反対する声明などを出してきた。
 歴代自民党政権は、学術会議をかえようしてきたが、菅内閣は今回露骨に一部委員の任命拒否をおこなった。任命拒否は、学問の自由の破壊する憲法違反の行為だ。それも首相は名簿も見ずにおこなった。その目的は、学術会議を変質させるとともに、学術に対する政治的支配である。
 学問の自由とは、核兵器開発など戦争研究などもやっていいということではなく、学問統制・弾圧などからの自由ということだ。
 戦前回帰の政治状況があるが、これに抗する市民の力も大きくなってきていることが希望だ。

 つづいて、特別支援校と都立高校の学校現場、東京にオリンピックはいらないネット、緊急事態宣言再発令に反対する共同行動からの報告があり、最後に、集会決議、東京五輪反対の特別決議が採択された。


KODAMA

   
 「ほな!」の唱和で見送られた平本歩さん

 2021年1月19日、新聞各紙(朝日、毎日、産経、読売)は社会活動家平本歩さんの死去を写真入りで報道した。35才であった。また、日経新聞は翌日の死亡欄で紹介していた。
 告別式の会場は入り口にこそ「告別式」の表示があったが中は献花で覆われ、中央に「在宅30周年記念パーティ」と大書されていた。そして何よりも歩さんと同じ寝台型の車いすにのった6〜7人の障害者の参加者が囲んでいた。
 会場では歩さんの生きた足取りが映像として映し出され、保育所から小、中、高へと歩んだ道が示された。
映画で「偉大な生涯の物語」というのがあったが、平本歩さんの生涯は文字通り「偉大な生涯の物語」であった。東淀川病院で誕生した平本歩さんは難病「ミトコンドリア筋症」であった。それまで呼吸器をつけた子ども達は病院で生きるのが通例であった。5年経た段階で歩さんの両親は在宅での歩さんの生活を選択された。お母さんの美代子さんは教師であったのでお父さんの弘富美さんが建材会社での設計の仕事を辞め、歩さんのサポートの道に従事することになった。それまで弘富美さんは地域の労働運動、政治運動、三里塚闘争と精力的に活動されていたのが活動を、縮小、整理しての大きな決意を伴う岐路であった。
 呼吸器をつけての在宅介護は大変な未知の挑戦であっただろう。手足の筋力が少ししか無いために指先のかすかな動きを文字盤に表示することから始まった。家族一同で支えながら保育所、小中高と健常な子ども達と同じように生活することを追求された。全てが前例のない試みであった。それだけにとどまらず飛行機にのったり、泳ぎにいったり、スキーにいったりと全てが日本社会の中での新たな挑戦であった。平本さんは外国の例も研究されていた。
 医療に携われた医師から高村光太郎の詩から引用された「私の前に道はない、私の後に道がある」と歩さん達の歩まれた道はそのようなものであったと述べられた。
 保育所で携われた園長からは歩さんをどのように受け入れ、子ども達が対応したかが話された。
 父親の弘富美さんが他界された後(歩さん、20歳)はその遺言であった《自立するように》を完全介護体制を築く中で実現されていったのであった。多くの方の介護面でのサポートと歩みさんの常に前を向いた生き方があった。25歳(2011年)で完全介護での一人暮らしをはじめ「バクバクの会」の編集(人工呼吸器をつけた子供と家族の会)をしたり、講演、ブログのほか半生の自著も出されてきた。
わずかに動く指先が頼りであったが最後はそれも衰え、舌に頼って意思表示をしなければならなかったようである。何と言う強靭な意志力であったことかと思わざるをえない。
 出棺前の最後の花を歩さんのまわりに置くのであるが目を開けた状態の献花であるので通常と異なる雰囲気であった。まるで歩さんの方が参加者に「しっかりしてよ」と呼びかけているようであった。
 「ほな!」と全員で唱和した。まるで通常の旅立ちへの見送りのようであった。「ほな!」とは歩さんが別れの時に使っていた言葉であった。家族の意志でこの言葉で送って欲しいと述べられたのであった。お母さんの美代子さんの歩みさんへの感謝の言葉と参加者への「障碍者の生きやすい社会にしてください」という言葉が強く深く胸に残った。 (尼崎市 K・K)


せんりゅう

   沈黙は同意と同じデモに立つ

        あったことなかったことへとごり押棒

   逃げる豚訳を聞くなよ捜すなよ

        ガス抜きのお役果たすか補完党

   ハゲタカが日本めがけて低飛行

        防衛費天上突き抜きアメリカへ

   ツイッターもいいが文字もいい老いて今   

                           る り

   赤紙のような改正コロナ法

        スガ大臣雛壇のてっぺんにちょん                
                    
                           ゝ 史

2021年2月


複眼単眼

     
プロンプターの使用に踏み切った菅首相

 菅義偉首相の国会でのスピーチや記者会見での発言が極めて不評だ。
 菅首相は、安倍晋三政権の官房長官として、7年8カ月にわたり政府のスポークスマンを務めてきた。
 「それはあたらない」などと批判をバッサリ切り捨てる言い回しが、大方から「鉄壁のガースー」と呼ばれ、危機管理能力が優れていると思われてきた。
 とはいうものの、当時から「実は何も答えていないだけでは」といった批判もあった。
 しかし、首相になるや間もなく、この「鉄壁の答弁」が「空っぽの中身」に由来することが、証明された。
 菅首相は記者会見をきらい、記者の質問を徹底的に自らに都合よく管理した。
 国会の答弁でも、記者会見でも、発言はほとんど官邸官僚が書いた原稿を棒読みし、感情がこもっていないとの批判を浴びた。間もなく、下を向いて、ボソボソと読み上げる首相のスピーチは「鉄壁の危機管理」などが幻想に過ぎなかったことを露呈した。
 そのうえ、読み間違いも数えきれない。アセアンをアルゼンチンと読んだり、福岡を静岡と読んだり、記者会見の最後を「私からの挨拶といたします」などという頓珍漢な締めにしたり、だ。そして都合の悪い質問をした者は、あの陰険なまなざしでにらみつける。あるいは後刻、秘書官に抗議させる。
 前任者の安倍晋三のスピーチは、中身は空虚でもプロンプター(原稿映写機)を前と左右に配置し、身振り手振りを交え、派手に演出された。
 これと比べても菅のスピーチは就任以来、3カ月、極度に不評だった。
 ところが2月2日夜の官邸から行われた菅首相の会見は様子が違った。顔をあげて発言する時間が急に長くなった。
 「おや」と思ってすると、左右にあの安倍時代に見慣れたプロンプターが配置されているではないか。 このことを記者から質問されると、「国民にきちんと説明責任を果たす観点から、今回初めてつかわせていただいた」と答えた。正面には配置せず、やはり時折原稿に目を落とす場面が少なくなかったが、従来より、いくらか元気そうに見える演出になったのは間違いない。
 早速、菅の仲間の甘利明元経産相が自分のフェイスブックでよいしょした。会見を見ていた人がメールで「本日の総理会見は今までで最も共感が持てた。自身の言葉で真摯に語ろうとする姿は聞き手に十分伝わるものがあった」と伝えてきたので、「まるでわがことのように嬉しくなりました」と書いた。
 ばかばかしい話ではある。
 肝心の会見の中身は、1か月前の緊急事態宣言の発令に際して「1か月後には必ず事態を改善させる」と見栄を切ったにもかかわらず、コロナ禍の収束に失敗し、再度緊急事態宣言を1か月延長することになり、首相は「責任は全て私が負う」と陳謝したもの。
 いったい、どう「責任」をとるというのか。
 「責任」という言葉が、あまりにも軽すぎはしないか。首相の周辺は「菅政権の命運はこの1か月にかかっている」と漏らすなど、菅政権はプロンプターの使用などでは如何ともしがたいほどの「背水の陣」に追い込まれた。(T)