人民新報 ・ 第1401統合494(2021年9月15日)
  
                  目次

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立憲野党が政策合意

     市民と野党の強固な共闘で自民政治を終わらせよう

               
             「市民連合と立憲野党の政策合意にあたっての声明」(2021年9月8日)  

             「衆議院総選挙における野党共通政策の提言――命を守るために政治の転換を――」(2021年9月8日)   

● デジタル庁発足に抗議行動

     個人情報集中国家を許すな!

● 原発事故汚染水の海洋放出を止めよう

平和の灯を! ヤスクニの闇へ  キャンドル集会

     ダーバン宣言から20年  ヤスクニと東アジアの植民地

● 裁量労働制の適用拡大反対!
    
     労働弁護団主催シンポジウム

● 中国人受難者追悼の午後

     「震災当時の中国人労働者排斥の動き」

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  安倍・菅政権9年の悪政の転換へ






立憲野党が政策合意

     市民と野党の強固な共闘で自民政治を終わらせよう


 追い詰められた菅義偉首相はついに政権を投げ出した。4月の衆院北海道2区・参院長野補選、広島再選挙での全敗、8月の横浜市長選での敗北など選挙での負けがつづき、内閣支持率が急降下したなかで、自民党総裁選での再選・続投を狙って、さんざんに見苦しく立ち回ったが、それらはことごとく失敗して万策尽き、ついに、9月3日、自民党役員会の場で突然に総裁選不出馬を言わざるをえなくなった。安倍晋三が内外の難局をまえに「病気」を口実にして逃亡した後、前政権の政策そのままの継承をかかげた菅内閣の時代は1年にして早々と終わることになった。菅は、「新型コロナ対策に専念すべきだと思い、総裁選には出馬しないと判断した」と述べたが、それが欺瞞的な発言であり、真相は、人気のない菅では総選挙で自民党大敗の恐れがあり、自民党の党内闘争・宮廷革命で打倒されたのは明らかである。
 菅は、新型コロナウイルス蔓延を過小評価し、大規模なPCR検査などの対策を取らないばかりか、「Go To キャンペーン」(トラベル、イート、イベント、商店街)を強行し、昨年末以来の大規模感染拡大をもたらした。それにもかかわらず東京オリンピック・パラリンピックをも大きな反対世論を押し切って開催し、その結果かつてないほどの感染をもたらしてしまった。長期の感染状況は、貧富の差の拡大・貧困層の増大をもたらし日本社会の矛盾を激化させ、この影響は今後長くつづくことになった。
 コロナ対策と経済重視を両立させるという安倍・菅の政策は、感染拡大を止められず、各地で医療崩壊をもたらし、自宅療養という実質的放置で感染重症者・死者はふえ続けている。いまだに政府・自民党の対応は後手後手に回り悲劇的な事態の好転の兆しは見えない。また、無謀に開催され無駄な費用を垂れ流し続けたオリンピック・パラリンピックの経費は当初の金額をはるかに上回る巨額なものとなり、都と国の負担の押し付け合いが始まり、結局は国民に負担の付けが回されてくる。
 外交面では、アメリカ・バイデン政権に追随して、中国との対決色を一段と強めた。4月に訪米した菅は、日米首脳共同宣言で、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とあえて明記し、中国に共同して対処するという姿勢を鮮明にした。そして政権末期の菅は「退任前に日米関係を強化したい」として、9月下旬、ワシントンで、バイデン招集による「クアッド」(米国、日本、インド、オーストラリア)の初の対面首脳会議に出席する。なお、ニューヨークで開催される「国連総会ハイレベルウィーク」には現地入りをしないという。
 今年、2001年9月11日のアメリカでのイスラム過激派による同時多発攻撃と当時のブッシュ政権によって発動された「対テロ戦争」から20年が経過した。1975年4月の南ベトナム・サイゴンを思い起こさせるこの8月のアフガニスタン・カブール空港の情景は、米軍の敗北を全世界に印象付けるものとなった。唯一の超大国、世界の憲兵・警察官というアメリカの姿は完全に過去のものとなった。そのアメリカになおも追随して軍備増強、改憲策動を続けるというのが、自民党政権なのであり、菅の後継者が誰になっても変わらない。
 9月29日投開票の自民党総裁選は菅の自滅退陣のあとをうけての「新人」同士と闘いとなっている。それぞれ直面する諸難題に対する効果的な政策をアピールしようとしているが、自民党政治の枠を超えることはできない。このままでは日本社会・人々の生活が破壊されてしまう。いまこそ自民党政治を終わらせる時だ。総選挙での勝利、そのためには市民と野党の強化が必要だ。この力は、安保法制反対、改憲阻止などさまざまな運動で成果を上げてきたが、各種選挙とくに国政レベルで好ましい結果をもたらしている。
 9月8日、来るべき総選挙にむけて、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」と立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の立憲野党四党は参議院議員会館で「衆議院総選挙における野党共通政策の提言―命を守るために政治の転換を―」(2面掲載)で「政策合意」した。立憲民主党の枝野幸男代表、福山哲郎幹事長、日本共産党の志位和夫委員長、小池晃書記局長、社会民主党の福島瑞穂党首、服部良一幹事長、れいわ新選組の山本太郎代表などが参加した。不参加となっている国民民主党へは、引き続き政策合意を求めていくという。
 「野党共通政策の提言」は自民党政治に変わる新しい政治の基本軸の提起であり、この政策の一致を基礎に、誠実・真摯に選挙区での候補者調整、選挙運動での協力などすすめ、自民党政治への批判、立憲野党候補者への支持拡大などの運動を展開しよう。反戦平和、改憲阻止、格差・差別反対など様々な運動と結びつけて、大きな反自民・政治の転換の声をあげていこう。

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市民連合と立憲野党の政策合意にあたっての声明

9月8日、市民連合が要請した、衆議院選挙を戦う際の基本的な政策について、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の各党首がこれを受け入れ、本格的な野党協力の体制を確立することができた。このことは日本の民主主義を回復するための貴重な一歩であり、関係各位の努力と英断に深い謝意を表したい。また、各地の運動を通して野党に対して、小異を残して大同につくよう倦まずたゆまず働きかけを重ねてきた多くの市民にも心より感謝したい。また、国民民主党には、野党と市民の協力に結集することを引き続き求めたい。

 菅義偉首相は、自民党総裁選挙での再選が難しいと見るや、いち早く退陣を表明し、自民党総裁選挙を華々しく行うことで、菅政権に対する国民の不満、不信をそらそうとしている。新型コロナウイルスの危機をここまで深刻化させ、有効な政策を打てていないことは、菅首相個人の能力の問題だけでなく、安倍晋三前首相以来の政権及び自民党の体質の帰結である。情報を隠蔽し国民に虚偽を流布する、科学的知見を軽視し国民の声明よりも権力者のメンツや利権を優先させる、建設的な対話を拒否し議会政治を無意味化する。これらの安倍、菅政治こそが、今日の政治空白を作り出した。それゆえ、だれが首相になっても、これまでの自民党政治の厳しい総括なしには、有効な政策を実行することはできない。

 政策合意を機に、野党は政治の転換のために緊密に協力し、地域において市民もそれを支えていくことを求めたい。安倍、菅政治が続いたために、死ななくてもよい人が何人亡くなったのか、適切な医療を受けられないまま自宅で亡くなった人がどれだけ無念だったのかをかみしめることから、衆議院選挙の戦いを始めたい。

 この衆議院選挙は、野党側も政党ブロックを作り、小選挙区で政府与党対野党という二者択一の構図を全面展開する初めての選挙となる。この政策合意は、国民本位の政治を実現するための第一歩である。我々が生命と生活を守るために、さらに、個人が尊重され、自由に生きられる伸びやかな社会を作るために、我々は全力を挙げてこの選挙を戦い抜きたい。

2021年9月8日

安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合

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衆議院総選挙における野党共通政策の提言――命を守るために政治の転換を――


 新型コロナウイルスの感染の急拡大の中で、自公政権の統治能力の喪失は明らかとなっている。政策の破綻は、安倍、菅政権の9年間で情報を隠蔽し、理性的な対話を拒絶してきたことの帰結である。この秋に行われる衆議院総選挙で野党協力を広げ、自公政権を倒し、新しい政治を実現することは、日本の世の中に道理と正義を回復するとともに、市民の命を守るために不可欠である。
 市民連合は、野党各党に次の諸政策を共有して戦い、下記の政策を実行する政権の実現をめざすことを求める。

 1 憲法に基づく政治の回復
・安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止し、コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対する。
・平和憲法の精神に基づき、総合的な安全保障の手段を追求し、アジアにおける平和の創出のためにあらゆる外交努力を行う。
・核兵器禁止条約の批准をめざし、まずは締約国会議へのオブザーバー参加に向け努力する。
・地元合意もなく、環境を破壊する沖縄辺野古での新基地建設を中止する。
 2 科学的知見に基づく新型コロナウイルス対策の強化
・従来の医療費削減政策を転換し、医療・公衆衛生の整備を迅速に進める。
・医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーの待遇改善を急ぐ。
・コロナ禍による倒産、失業などの打撃を受けた人や企業を救うため、万全の財政支援を行う。
 3 格差と貧困を是正する
・最低賃金の引き上げや非正規雇用・フリーランスの処遇改善により、ワーキングプアをなくす。
・誰もが人間らしい生活を送れるよう、住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援を拡充し、子育て世代や若者への社会的投資の充実を図る。
・所得、法人、資産の税制、および社会保険料負担を見直し、消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、また低所得層や中間層への再分配を強化する。
 4 地球環境を守るエネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行
・再生可能エネルギーの拡充により、石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を追求する。
・エネルギー転換を軸としたイノベーションと地域における新たな産業を育成する。
・自然災害から命とくらしを守る政治の実現。
・農林水産業への支援を強め、食料安全保障を確保する。
 5 ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現
・ジェンダー、人種、年齢、障がいなどによる差別を許さないために選択的夫婦別姓制度やLGBT平等法などを成立させるとともに、女性に対する性暴力根絶に向けた法整備を進める。
・ジェンダー平等をめざす視点から家族制度、雇用制度などに関する法律を見直すとともに、保育、教育、介護などの対人サービスへの公的支援を拡充する。
・政治をはじめとした意思決定の場における女性の過少代表を解消するため、議員間男女同数化(パリテ)を推進する。
 6 権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する
・森友・加計問題、桜を見る会疑惑など、安倍、菅政権の下で起きた権力私物化の疑惑について、真相究明を行う。
・日本学術会議の会員を同会議の推薦通りに任命する。
・内閣人事局のあり方を見直し、公正な公務員人事を確立する。

2021年9月8日

安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合


デジタル庁発足に抗議行動

     個人情報集中国家を許すな!


デジタル先進国をめざす?

 菅政権の目玉政策の一つであったデジタル庁が9月1日に発足した。デジタル庁は、「グランドプリンスホテル赤坂」の跡地に建てられた東京ガーデンテラス紀尾井町・紀尾井タワー(東京都千代田区)19階にある。このビルにはヤフー本社も入っている。家賃にあたる契約額は年間8億8700万円という巨額なものだ。
 デジタル庁は、準備段階から法案の数々の誤りをはじめ拙速・不祥事の連続であった。発足間際にもデジタル庁の組織と実務を監督するという最重要な役職であるデジタル監人事が二転三転したが、それも疑惑がらみからであった。また平井大臣の業者への恫喝発言がリークされるなどがつづき、前途を危惧されるスタートとなった。
 デジタル庁発足式で、菅は、「行政サービスの電子化の遅れ、バラバラな国と自治体のシステム、マイナンバーカードの利便性の問題、など、長年、手が付けられず、先送りにされてきた課題が沢山あります。デジタル庁には、政府関係者に加え、民間で様々な経験をされた方々が数多くいらっしゃいます。立場を超えた自由な発想で、スピード感をもちながら、行政のみならず、我が国全体を作り変えるくらいの気持ちで、知恵を絞っていただきたいと思います」とのべ、平井は、「時代の変化のスピードが速い中で、デジタル面で日本は相当遅れてしまいました。世界のデジタルランキングで27位という低迷は何としても脱していかないといけないと思っています。そして、デジタル化によって豊かで選択肢の多い、誰一人取り残さない社会を作っていかなくてはいけない」とあいさつした。

その危険な狙い

 デジタル後進国の脱却を目指すとする菅政権だが、そのデジタル社会とは、非常に危険なものとなる。そこでは、省庁の壁をこわし、首相をトップとする強力な権限を持つ統合情報システムをつくり、これを自治体システム、マイナンバー制度と結び、すべての個人の情報を国が集める。そのため行政機関個人情報保護法、独立行政法人・独立行政法人等個人情報保護法を統合させ、国による個人情報の一元的管理を実現するというのだ。集められたビッグデータは経済活性化のために利用されることになる。

庁発足に抗議の行動


 9月1日、午前9時から、東京ガーデンテラス紀尾井町ビルの前で、「個人情報を一網打尽!デジタル庁はいらない9・1行動」が行われた。集会を共催したのは、共謀罪NO!実行委員会・「秘密保護法」廃止へ!実行 委員会NO!・デジタル庁・共通番号いらないネット 戦争させない!9条壊すな!総がかり行動実行委員会。
 集会では、NO!デジタル庁、総がかり行動実行委員会、改憲問題対策法律家6団体連絡会、共謀罪NO!実行委員会、国民救援会、共通番号いらないネット、平和を実現するキリスト教ネットなどから、政府のデジタル社会化の危険性を訴え、これからもマイナンバー制反対、デジタル庁廃止の粘り強い運動を進めていこうとの発言がつづいた。


原発事故汚染水の海洋放出を止めよう

 政府は、東京電力福島第一原子力発電所から排出されている100万トン以上の汚染水を、2023年春頃をめどに福島県沖の太平洋へ放出すると決定した。事故で溶け落ちた核燃料を冷やしている水だけでなくそれに地下水が加わり、汚染水の増加は止まっていない。ALPS(多核種除去設備)で放射性物質を取り除くというが、完全には除去できない。政府・東電は「処理水」といいはるが、汚染水そのものであるのは明らかだ。そうしてたまった汚染水は敷地内のタンク1000基以上に保管している。だが、あと1〜2年のうちには満杯になるため、海に放出するしかないというのがかれらの言い分だ。原発事故の処理や、原発事故被害者への補償も十分でないまま強行するというのだ。

 国際原子力機関(IAEA)のリディ・エヴラール事務次長をはじめとする関係者が訪日し、東電福島第一原発の現場視察をおこない、原発事故処理水の取扱いその他について政府などと意見交換を行った。経済産業省を訪れたエブラール事務次長に対して、梶山弘志経産相は、「日本の取り組みが適切に評価されるように、全面的に協力してまいりたい」と述べた。原発推進派はこれを機会に汚染水放出反対の声を押しつぶそうとしている。産経新聞(8月20日)は「福島第1原発処理水、IAEAが安全評価 中韓批判封じ込めへ透明性確保」と題する記事で、「原発事故後、計54カ国・地域が農産品や海産物などの輸入制限をかけた。現在も韓国や中国、台湾など6カ国・地域が輸入停止を、欧州連合(EU)や英国、インドネシアなど8カ国・地域が検査証明書の提出などの輸入規制を続けている。IAEAの安全性評価で日本の基準の妥当性が示されれば、生産者が不安視する買い控えや新たな輸入規制など、風評被害を未然に防ぐことにもなりそうだ」。このような策動を決して許してはならない。

 福島県平和フォーラムなどで構成する「原発のない福島を!県民大集会実行委員会」(http://fukushima-kenmin.jp/)は「トリチウム等を含むALPS処理水の海洋放出方針の再検討を求める署名」への賛同を呼び掛けている―要望項目は、@東京電力福島第一原子力発電所のトリチウム等を含むALPS処理水の海洋放出は、国際社会および国民の理解が得られない限り強行しないこと。AALPS処理水の処分方針を再検討し、陸上保管を継続しつつ、トリチウムの除去の技術開発など安全な処理方法の確立に努め、海洋放出を強行しないこと。


平和の灯を! ヤスクニの闇へ  キャンドル集会

     ダーバン宣言から20年  ヤスクニと東アジアの植民地


 8月7日、在日本韓国YMCA&オンラインで、「2021平和の灯を!ヤスクニの闇へ 第16回キャンドル集会」が開かれた。今年は、ダーバン宣言から20年を記念して、ヤスクニと東アジアの植民地が中心テーマとなった。2001年8月31日〜9月8日にかけて南アフリカのダーバンで「国連反人種差別主義会議」(WCAR)が開かれ、奴隷制や植民地主義を人道に対する罪と認識し、人種差別・外国人排斥の撲滅を中心に移民・先住民・宗教・貧困・人身取引など幅広い問題に言及した「ダーバン宣言および行動計画」が採択されている。

 はじめに実行委共同代表の今村嗣夫さんが主催者あいさつ。
 高橋哲哉さん(東京大学大学院教授)は、「脱植民地主義の動きと後ずさりする日本の植民地主義清算」と題して発言。―日本の植民地主義清算は後ずさりしている。沖縄・琉球に対する日本の植民地主義も、明治政府による「琉球併合」から現在まで、形の変遷はあったとしても、140年余り続いている。「琉球併合」に抵抗した人びとは、日本の侵略を「日毒」と呼んでいた。現在、琉球諸島には、沖縄島に米軍基地が集中し、さらに新基地建設が強行されているだけでなく、自衛隊が続々と進出し、石垣島、宮古島などにはミサイル基地が建設され、日米のための軍事要塞化が一段と進められている。この現代の「日毒」、軍事植民地主義をやめさせることがまずは求められている。 朝鮮植民地支配については、第2次安倍政権以降、日本政府の態度は決定的に変わったことをはっきり認識する必要がある。安倍首相は、公的発言の中で、日本が「植民地支配」をしたということを、私の知る限り一度も語っていない。戦後70年首相談話においても、「慰安婦」問題についての「日韓合意」においても、また国会答弁においても、日本が「植民地支配」をしたという言葉を口にすることを頑なに拒んできた。日本は1993年、細川首相が初めて「植民地支配」という言葉を使い反省の意を表明し、戦後50年村山首相談話において、「植民地支配と侵略によって、世界の国々、とりわけアジア諸国の人びとに多大の損害と苦痛を与えた」ことを「疑うべくもない歴史の事実」と認め、2010年には菅直人首相談話で「韓国」に対する「植民地支配」への「お詫び」を表明した。現在の日本は、このような基本的な認識からさえ、遠ざかってしまっている。日本の植民地主義について、真っ当な歴史認識を確立しなければならない。

 上村英明さん(恵泉女学園大学教授)が「ダーバンで何が議論され、『宣言』されたか―ダーバン会議が開こうとした地平―」をテーマに報告。反差別の国際基本文書には、1963年「人種差別撤廃宣言」と1965年「人種差別撤廃条約」がある。後者は1995年日本も加入し1996年に発効した。それらの背景には、南アフリカの「アパルトヘイト」と欧州の「ネオナチ」問題があった。国連プログラムとしては、1973年「アパルトヘイト犯罪と処罰に関する国際会議」、1973年〜82年「(第1次)人種主義及び人種差別と闘う10年」、1978年「人種主義及び人種差別と闘う世界会議(第1回)」、1983年(第2回)世界会議、1983年〜92年「第2次闘う10年」とつづき、1994年にはアパルトヘイトは崩壊した。そして、1993年〜2002年が「第3次闘う10年」となった。2001年のダーバン会議の主要議題は、まず現代の差別の根本原因は何か、誰の責任かを問い、コロンブス以降の近代植民地主義が奴隷制をもたらしたこと、謝罪、賠償、補償、人道に対する罪がキーワードとなった。ついで、人種差別主義の被害者の再認定では、アフリカ系の人、アジア系の人、先住民族、人身売買の被害者、HIVエイズ感染者、マイノリティ、移住者、職業と身分差別、人種差別とジェンダーの交差性などがあげられた。ダーバン会議での争点は、差別問題の本質である植民地主義と奴隷制だった。「人道に対する罪」は認めるが「謝罪・賠償・補償」は削除することなどでアフリカ・カリブ諸国と旧宗主国政府は対立し、欧州政府は、「謝罪」「補償」を削るためアフリカ諸国を恫喝した。パレスチナ問題では、アラブ諸国と米国・イスラエルは反対し、両国は、会議から撤退した。また、日本問題では、韓国は慰安婦、歴史教科書を、中国は植民地主義、侵略戦争についてを提起した。会議は9月7日から8日までのび、また採択にかけない(ノー・アクション)動議がでるなどで、機械化によるボタン投票で一斉に行うのではなく点呼投票のロール・コールによる投票になるなど不完全な終わり方となった。
 ダーバン会議は、さまざまな「当事者」が多数参加した国際会議だったが、格調の高い外交団会議ではなく、本音がぶつかりあった会議であった。差別主義の「原因」は根深く、近代国家の本質に達するが故にこそ、国家の抵抗やNGO間の齟齬は激しく、「ダーバン宣言」にも「ダーバンNGO宣言」にも十分な文言は盛り込まれなかったが、この未完の「ダーバン宣言」の完成と実行が使命となった。その後、2002年からは、1990年代のフォローアップ会議がおこなわれ、2007年には「国連先住民族の権利宣言」採択されるなど、人道に対する罪、植民地犯罪・植民地責任が問題とされている。そして、アメリカではブラック・ライブズ・マター、南北戦争の再評価、コロンブス像引き倒しなどがおこり、ヨーロッパでもベルギー国王の植民地支配謝罪、ドイツの第2帝国のナミビアなどでのジェノサイドに対する謝罪が行われるようになった。その一方で、日本では市民社会の忘却とヘイトの蔓延、右傾化する政治、排外主義の強化がすすんでいる。

 松島泰勝さん(龍谷大学教授、琉球民族遺骨返還請求訴訟原告団長)は、「琉球人遺骨『盗骨』にみる日本の植民地主義、帝国主義」と題して発言―琉球国は、明朝や清朝の朝貢册封国であり、かつての朝鮮王朝や現在のベトナムである安南国、現在のタイ国であるシャム国などと同様な政治的地位を有していた。1850年代、琉球国はアメリカ、フランス、オランダとそれぞれ修好条約を締結していた。だが、1879年、日本政府の軍隊、警察は琉球国を侵略し併呑した。しかし琉球併合後も、日清戦争後まで琉球救国運動があり、太平洋戦争後の米軍統治時代から現代まで独立運動・研究が展開されてきた。
東アジアにおける日本帝国主義の形成は、アイヌモシリの植民地化(「北海道」1869年命名)、琉球併合(「沖縄県」1879年命名)、台湾の植民地化、韓国併合、偽満州国という植民地支配に基づいている。その後の「捨て石作戦」の沖縄戦、在日米軍基地のヤマトから琉球への移設・固定化、米軍統治、基地による犠牲等に対して、日本政府は謝罪、賠償を行わず、新基地建設という新たな植民地政策を実施している。琉球に関して日本の帝国主義、植民地主義は未清算のままだ。 
 1879年、琉球併呑後には、日本政府は植民地政府である「沖縄県」を置き、「方言札」による「言語撲滅教育」を行い、沖縄県学務課が皇民化教育の拠点となった。沖縄県庁、沖縄県警、学校等の幹部に日本人が就任し、「寄留商人」と呼ばれる日本人による経済的収奪が横行した。
 1929年には、京都帝国大学医学部助教授の金関丈夫は、沖縄県学務課や県警の日本人幹部や、同化された琉球人の研究者の「許可」や案内を受けて、遺骨を盗掘した。琉球人に対する人種差別を象徴しているのが学術人類館事件で、1903年に大阪の天王寺で開催された第5回内国勧業博覧会に学術人類館が設置された。日本本土に住む琉球人の婚姻、労働過程、飲食や居住等における日常的な人種差別を可視化したのが学術人類館事件だ。
 また京都大学は琉球人以外に、アイヌ、「満州国」、朝鮮半島、ロシア等の人々の遺骨も保有しており、これらの遺骨は日本帝国主義の収奪性を象徴している。 現在、世界的には先住民族の遺骨を墓地に返還させることが大きな潮流となってきているが、日本の大学、政府はそれに逆行している。ウポポイに集約されたアイヌ民族の遺骨もコタンに返還・再埋葬されない。
 現在の自然人類学では日本人起源研究が主流で、「ヤポネシアゲノム研究」では琉球人が「日本人」とどれだけ近いのか、「日本人」そのものなのかの証明を目的としている。琉球人が「日本人」であれば、琉球を「日本固有の領土」とする地政学的欲望も充たされるというわけだ。米軍基地の強制と同様、琉球人に対する人種差別は今でも続いている。琉球人遺骨盗掘・保管問題は、Ryukyuan Lives Matter(RML)と言う人種差別問題である。琉球人は自らが生きている間、植民地支配されるだけでなく、死してニライカナイにいってからも日本による植民地支配を受けている。遺骨への畏敬、先祖供養を日本政府、大学が拒否できる体制である。琉球人の生死に関わらず支配し、自己の利益を得ようとする日本帝国の植民地主義から脱却しない限り、琉球人は永遠に、徹底的に、生死を越えて日本から支配され、搾取されたままである。

 李相姫さん(韓国・民主社会のための弁護士の会)は、「金学順さんの公開証言から30年、日本軍『慰安婦』問題は続いている」と題して発言。
 金学順(キム・ハクスン)さんは、1991年8月14日に自ら元日本軍「従軍慰安婦」として公開証言をおこなった。それは、人間としての尊厳、外交や安保や国家中心の国際法秩序への挑戦であり、国際秩序を国家から人間へという声であった。植民地支配の清算、被害者からの人権の回復のためにはなにが必要か。真相究明、戦争犯罪の認定、公式謝罪、法的賠償、責任者処罰である。そして歴史教科書への記載、追悼碑や資料館の建設が必要だ。2005年国連の被害者権利の基本原則は、「被害者は、同情と彼らの尊厳に対する尊敬の念をもって扱われなければならない。被害者は、受けた被害について、国内法の規定に従って、裁判制度にアクセスし速やかな回復を受ける権利がある」とし、被害者補償や支援を規定している。しかし日韓政府の1965年の日韓請求権協定や2015年「日韓合意」で、それらを実行しようとしていない。被害者の人権は無視されたまま、被害者の声は抑圧されたままだ。この問題は、いわゆる国民感情の問題ではなく、普遍的人権と人類の良心の問題なのである。
 慰安婦被害者たちは韓国の裁判所に日本政府を被告とする訴えを提起したが、日本政府は、国家は主権を有し原則として外国の裁判権に服さないという国際法上の原則「主権免除論」を盾にとって逃げてきた。だが、ソウル中央地方法院は、2021年1月8日、国際共同体の普遍的な価値を破壊し、反人権的行為によって被害者に深刻な被害を加えた場合までも、これに対して最終手段として選択された民事訴訟で裁判権が免除されるとはいえない、として原告1人当たり1億ウォンの慰謝料支払いを日本政府に命じた。このアジア初の判決は、反人道的犯罪に対する法的責任を国際法的に確認したものであり、被害者は完全に市民権を獲得し、日本国に賠償責任を求めるものであった。このことは、日本軍「慰安婦」問題に限定されない普遍的人権の問題であり、人権と平和を求める運動が勝ちとった成果である。2001年のダーバン宣言は、奴隷制、植民地支配犯罪の法的責任を確認したが、このことが2001年アジアの法廷で公言されたのである。反人道的犯罪や重大な人権侵害事件において「国益」を理由に「人権」を犠牲にしてはならないのである。1月8日の判決は、植民地犯罪に対する人類の「マグナカルタ」だ。
 日本軍「慰安婦」問題は過去の問題ではなく、現在、未来に通じる課題だ。金学順さんの公開証言から30年、運動はなお続けていかなければならない。

 つづいて韓国、沖縄、台湾、日本の遺族からの訴え、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動、オリンピック災害おことわり連絡会からのアピールがあり、最後に反ヤスクニ共同行動・韓国委員会による閉会挨拶が行われた。


裁量労働制の適用拡大反対!
    
     労働弁護団主催シンポジウム


 厚生労働省は、6月25日に「裁量労働制実態調査」の結果を取りまとめ公表した。それは適用労働者が非適用労働者に対してより長時間労働をしていることを示すものだった。適用労働者における1週間の平均労働時間数は45時間18分、1日の平均労働時間数は9時間0分、1週間の平均労働日数は5・03日であり、非適用労働者における1週間の平均労働時間数は43時間2分、1日の平均労働時間数は8時間39分、1週間の平均労働日数は4・97日だった。仕事による健康等への影響状況別労働者割合では、適用労働者における仕事による健康等への影響状況別労働者割合について、「よくある」の割合が最も高い項目は、「時間に追われている感覚がある」(28・8%)であり、次いで、「この働き方をこれから先も続けていけるか不安に思うことがある」(13・9%)となっている。また、希望する健康・福祉確保措置別労働者割合は、「休暇取得促進措置(年次有給休暇の連続措置など)を講じる」(43・5%)が最も高く、次いで、「労働者の勤務状況及び健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与する」(41・6%)、「労働者の勤務状況及び健康状態に応じて、健康診断を実施する」(33・9%)である。そして、事業場に設けられている適用労働者に対する健康・福祉確保措置の認識状況別労働者割合は、「休暇取得促進措置(年次有給休暇の連続措置など)を講じる」(73・4%)が最も高く、次いで、「心と体の健康相談窓口を設置する」(73・2%)、「労働者の勤務状況及び健康状態に応じて、健康診断を実施する」(70・6%)である。なお、「健康・福祉確保措置が設けられていることを知らない」は 6・4%である。
 厚労省は、今回の調査結果を踏まえ、今後、裁量労働制のあり方について検討していくとしているが、裁量労働制で働く人の労働時間が一般の労働者よりも長くなっていること、そして健康不安などその他裁量労働制度にはさまざまな問題点があることが明らかだ。 そのうえ、今後裁量労働制の適用範囲拡大にむけての議論が再開される可能性は大きい。2018年、当時の安倍首相は、働き方改革関連法案での裁量労働制の対象拡大をもくろんだが、反対の声のひろがりに直面して、裁量労働制の対象拡大を国会での提出を断念したが、政府・経済界はいっかんして裁量労働制の拡大を狙ってきた経過がある。裁量労働制の導入拡大を阻止する運動を進めていかなければならない。

 8月27日に、労働弁護団主催の「裁量労働制の適用拡大反対!その問題点をあぶり出す!」シンポジウムが、開催された。
 上西充子法政大学教授が、基調報告「裁量労働制実態調査に至る経緯と調査結果の概要」をおこなった。2018年の働き方改革関連法案は、罰則つきの時間外労働の上限規制など規制強化と企画業務型裁量労働制の拡大プラス高度プロフェッショナル制度の創設の規制緩和という規制の強化と緩和の抱き合わせ一括法案であった。当時の安倍首相の一般労働者より裁量労働者の労働時間が短いなどの発言は、野党などの追及の結果、異常値が多数みつかり、当時の加藤勝信厚労相が、国会で「平均的な者の労働時間について、一般労働者と裁量労働制で異なる仕方で選んだ数値を比較していたことは不適切でありました。深くおわびを申し上げます」などの謝罪発言を強いられ、裁量労働制の拡大についての国会上程は見合わせることになった。
 だが、その後も、裁量労働制拡大のうごきはつづいている。
 2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」では、「『新たな日常』構築の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備(デジタルニュー ディール)」での「働き方改革」では「(前略)こうした中で、労働者が職務の範囲内で裁量的・自律的に業務を遂行でき、企業側においても、こうした働き方に即した、成果型の弾力的な労働時間管理や処遇ができるよう、裁量労働制について、実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う」とし、今年の6月18日の閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針」では、「(「多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践、リカレント教育の充実」で「労働時間削減等を行ってきた働き方改革のフェーズTに続き、メンバーシップ型からジョブ型の雇用形態への転換を図り、従業員のやりがいを高めていくことを目指すフェーズUの働き方改革を推進する。ジョブ型正社員の更なる普及・促進に向け、雇用ルールの明確化や支援に取り組む。裁量労働制について、 実態を調査した上で、制度の在り方について検討を行う」とするなどしている。
 そして、6月25日までに7回開かれた裁量労働制実態調査に関する専門家検討会をうけて、7月19日には、労働政策審議会労働条件分科会が開かれ、裁量労働制実態調査結果報告をうけ、これからの労働時間制度に関する検討会を設置した。7月26日には、第1回これからの労働時間制度に関する検討会がひらかれたが、その目的は、裁量労働制その他の労働時間制度について検討を行うことだ。翌日の朝日新聞は、次のように報じている―「検討会は、新たな調査結果をもとに、裁量労働制の労働時間や健康管理などの論点を議論。労使関係者へのヒアリングも予定し、対象業種や運用のあり方について議論していくという。この日の議論では、座長の荒木尚志・東京大大学院教授が、裁量労働制の方が、そうでない人より1日あたりの平均労働時間が長い調査結果に触れつつ『労働時間の長短にとどまらない幅広い議論が必要』と指摘。法政大大学院教授の藤村博之委員は『使用者側が残業代を減らしたいがために制度を使っている実態もある』と、注意を促した。」
 厚労省の実態調査報告では、裁量労働制の拡大を望む労働者の声は明確には読み取ることができないし、裁量労働制の対象労働者の範囲を見直すべきかという質問について、労働者の回答の多くは、裁量労働制の適用対象範囲が広い、不明確といっている。

 シンポジウムでは、つづいて労働弁護団や現場からの報告が行われた。


中国人受難者追悼の午後

     「震災当時の中国人労働者排斥の動き」


 1923年9月1日の関東大震災では、日本の軍や警察の悪質な扇動や直接行為によって多くの朝鮮人が虐殺された。中国人も東京・江東の大島町や神奈川県などで700人以上が虐殺された。また日本人無政府主義者、社会主義者、労働組合の活動家も虐殺された。

 9月5日、「関東大震災98周年 中国人受難者追悼の午後」(主催・関東大震災中国人虐殺を考える集い実行委員会)が江東区東大島文化センター・オンライン併用で開かれた。
 第一部の「中国人受難者追悼式」では、犠牲者の名前が一人ひとり読み上げられ、虐殺された中国人リーダーの王希天さんの孫の王旗さんのメッセージが紹介された。王希天は、中国吉林省長春出身で、1915年日本留学、旧制一高、八高などで学んだ。マルクスやクロポトキンなど社会主義・無政府主義に強く惹かれていた。1921年に上京、中国人労働者が多く住んでいた東京都江東区大島(旧・東京府南葛飾郡大島町)で留日中華労動同胞共済会を結成して在日中国人を助ける運動をし、1923年9月12日未明、野戦重砲兵第一連隊第六中隊(千葉県国府台)の垣内八州夫中尉によって虐殺され、遺体は中川に投げ捨てられた。死亡時年齢は28歳だった。殺害を指示したのは同連隊第6中隊長の佐々木兵吉大尉で金子直旅団長の黙認のもとに行われた。
 集会では、中国から1923年関東大震災下で虐殺された中国人受難者遺族聯合会(準)、1923年関東大震災受難華工福建遺族聯誼会(準)からのメッセージ、江東区会議員の中村まさ子さんのあいさつ、立憲民主党の近藤昭一衆議院議員、社民党の福島みずほ参議院議員からのメッセージ紹介があった。

 第二部は「関東大震災における中国人虐殺を考える集い」は在日華僑の林伯耀さんが「震災当時の中国人労働者排斥の動き」と題して講演した―大島町事件とは何だったか。それは@9月3日から4日にかけて、大島町及びその近辺で、400人以上の中国人が虐殺された、A虐殺された中国人の多くは浙江省温州の貧しい地域から来た労働者であった、B加害者に軍・警察・在郷軍人会・自警団(青年団)、人夫頭、労働者が参加していた、C凶器は銃、刀、鉄棒、棍棒、とび口等が使われた、D虐殺はケースによっては、極めて計画的、組織的に行われた、E虐殺後、被害者の所持金や金目の物が奪われた、F遺体は9月5日以降に焼却され、その焼却遺体は警察によって持ち去られた、G警察は付近の住民に対して箝口令を布いた、H労働者の救済に出かけた共済会会長の王希天が亀戸警察に拘留され9月12日軍によって密殺された(王希天事件)、9月3日社会主義者や労働組合活動家10人が亀戸警察に捕らえられ軍によって密殺された(亀戸事件)。9月16日にはアナーキストの大杉栄と伊藤野枝、橘宗一が甘粕憲兵大尉により密殺されている、I当時の山本権兵衛総理を含む内務、外務、司法、陸軍の五大臣は「王希天機転問題と大島町事件は隠蔽すること」を決定した(10月29日)。
 大島町事件と類似のケースが神奈川県でもおきている。@横浜の高島町で、9月2日に12人が犠牲になっており、その内11名が警察と労働者によって殺された。また1名が傷害を受けている。いずれも温州出身の労働者である。A横浜の子安町では、9月2日と3日に20人が犠牲になっていて、4人が傷害を受けている。加害者については1人が陸軍・労働者によって、2人が軍警によって、6人が労働者によって、2人が日本人によって殺害された。傷害を受けた2人は青年団によると注釈されている。B横浜の神明町では9月2日から3日にかけて11人が犠牲になっており、2名が傷害を受けている。この労働者によって6人が殺害され、1人が傷害を受けた。C神奈川県足柄下郡土肥村では、9月4日、仕事をしていた17人の浙江青田から来た中国人労働者に対して、100人余りの日本人(青年団)が手に手に刀や棍棒を持って襲いかかり3人を殺害し、2人に重傷を与えた。奇怪なことに、その17人の人夫頭(包工頭、プローカー)の中森丈次郎も加害の側に加わっていた。
 これらの事件には歴史的背景がある。日本は第一次大戦後、日本で深刻な経済危機が起きたが、関東大震災が発生する直前には多くの中国人が日本で働いており、中国人労働者は低廉な賃金で日本人労働者の仕事の機会を奪っていると見なされていた。日本政府は、社会矛盾の緩和と国内労働者の見方を転換させるために、中国本国送還など、中国人労働者・行商人を排斥する一連の政策と措置をとった。そうした土壌の上に中国人虐殺事件がおこったのである。
 この事件については中国人側の総括もある。王希天を継いで共済会の中心的指導者となった王兆澄は、「日人慘殺王希天和僑胞三百四十一人之原因」(南京第二歴史档案館所蔵)で、その遠因を、@王希天が中国排日派の巨魁とされていたこと、A日本社会主義者と親密であったこと、B正直で率直な性格であったことをあげ、近因として@共済会の運営、A日本人(小人)の恨み、B震災の利用、C彼が慘殺事件を目撃したことをあげた。また、根本には日本の「殺人教育」と排外思想があるとした。
 そして「中国人方面の考察」では@中国人自身の団結力のなさ、A中国人賃金の安さをあげている。後者については「中国人の生活水準は日本より数倍低い、日本では労働者が足りなかったから、中国からの労働者輸入を許した。安すぎる賃金に、日本側の雇い主は大歓迎した。しかし一方、日本の労働者は非常に憤慨し、「大震災による混乱に乗じて、彼らは必然と虐殺に全力投入し、それまでの鬱憤を晴らし」た。「そのほか、例え誤認などの原因も推測できるが、重要な原因とは思えない」と指摘している。
 木野村間一郎さん(ノーモア南京の会)がコメントした。

 第三部では、殉難の地である逆井橋で「王希天さん追悼会」が開かれた。


せんりゅう

     路地うらの願い果てなく石ぼとけ

          ベトナムそしてアフガンでも敗北せし

     ころしあいいつまでも続く資本主義

          選挙見すえてスガの足ケラレ

     最悪の総裁えらび泥の海

          共闘を如意棒にして勝ちに行く

     アスファルト破ってみどり知らぬ草

               
                    ゝ 史
2021年9月


複眼単眼

   
  安倍・菅政権9年の悪政の転換へ

 9月8日午前、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組の各党党首が、政権交代を目指して総選挙での共闘を実現するために、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(略称・市民連合)」が提起した「衆議院総選挙における野党共通政策の提言〜命を守るために政治の転換を」に調印し、総選挙での共同をすすめることを表明した。
 合意した「文書」は6本の柱に20項目におよぶ具体的な政策が列挙されている。
 1 憲法に基づく政治の回復
 2 科学的知識に基づく新型コロナウイルス対策の強化
 3 格差と貧困を是正する
 4 地球環境を守る エネルギー転換と地域分散型経済システムへの移行
 5 ジェンダー視点に基づいた自由で公平な社会の実現
 6 権力の私物化を許さず、公平で透明な行政を実現する
 この政策合意は安倍・菅政権9年の悪政を転換させるためのものであり、立憲野党が市民連合とともに、政権選択選挙と言われる衆議院総選挙で、本格的に政権交代を目指すためのものだ。
 昨年の夏、安倍晋三前首相の突然の政権投げ出しで、急遽、政権を受け継いだ菅義偉首相も9月3日、わずか1年余りの在任で行き詰まり、政権党の自民党総裁選挙への出馬断念を表明し、前任者同様、突然、政権を投げ出した。菅氏が安倍政権の官房長官を務めてきた時期を含め、まる9年にわたる安倍・菅政権が終焉した。
 安倍晋三前首相の最大の政治目標は「憲法9条を変えて、米国とともに海外で『戦争できる国』をめざす」ことにあった。
 安倍氏は明文改憲の目標が達成できず壁にぶち当たっている中、おりからの新型コロナパンデミックの危機に対処するすべを見いだせずに政権を投げ出した。 
 引き継いだ菅政権もコロナ禍のなかで政策的に破綻し、前途を見失い、政権を投げ出した。
 目下、政局は自民党総裁選に移行しているが、この選挙は、国会第1党の党首選挙であり、次期首相候補を選ぶ選挙になる。
 2度あることは3度ある。自民党の総裁選で選ばれる次の首相で自公の首相は終わりにしたい。
 注目すべきことは、安倍前首相が同じく右派で「皇室の尊厳と皇統の護持」「靖国神社参拝」「憲法改正」「敵基地攻撃能力保有のための法改正」等を主張する「保守団結の会」の顧問を務める高市早苗前国務相を推し、その当選を期して動いていることだ。櫻井よしこ氏や「日本会議」などと連携する自民党の岩盤支持勢力といわれるこうした人々が自民党の中で依然として強固な影響力を持っている。
 岸田文雄前政調会長も「緊急事態条項新設や自衛隊明記を含めた改憲4項目について在任中に実現する」という立場だ。
 河野太郎行政改革鵜担当相も立候補の政策に「立党の精神に立ち、新しい時代にふさわしい憲法改正を進める」と明記。
 いずれにしても、これら総裁選の候補者は安倍・菅政権時代に閣僚や党の役員を務めることで、政権を支えてきた人物であり、その基本的なところでの政策の差異はない。
 だからこそ、安倍菅9年の悪政の清算なしに、この自民党総裁選挙で誰が当選し、誰が首相になっても、まともな政治の実現は期待できない。
この総選挙は新型コロナ感染症が依然、猛威を振るう中で、安倍・菅政権の9年が解決できないまま窮地に陥れた人々のいのちを守るため政治への転換を図るための新しい政権を誕生させる歴史的な責務を負った選挙だ。 (T)