人民新報 ・ 第1402号統合495号(2021年10月15日)
  
                  目次

● 衆院選勝利へ・市民と野党の共闘で新しい政治を実現しよう!

● 戦争法強行からまる6年!自公政権退陣!総選挙勝利!行動

● 新自由主義に純化する日本維新の会

          〜「日本大改革プラン」と維新八策2021を検証する〜

● 満州事変から90年

         日中関係改善に必要なのは日中共同声明に立ち返ること

● 日朝ピョンヤン宣言19周年集会

         朝鮮戦争の終結と日朝国交正常化交渉の再開を

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  悪魔の誘いに乗って首相の座を手に入れた岸田文雄





衆院選勝利へ・市民と野党の共闘で新しい政治を実現しよう!


 衆議院選挙の投開票日が10月31日となった。今こそ安倍・菅・岸田とつづく悪政にとどめを刺す時だ。

岸田自民党のスタート

 安倍の辞任に続いた菅政治の一年は、新型コロナ蔓延・医療崩壊をはじめ失政の連続であり、各種選挙での敗北がかさなり、内閣支持率は急降下した。衆議院議員任期切れが迫る中で、菅の看板では選挙は戦えないとの思惑で、菅おろしによる自民党総裁選となった。
 安倍、麻生など自民党右派勢力は安倍路線の破綻を隠しながら、その延長線にある政権を実現させようと画策した。9月29日の総裁選で岸田文雄を選出し、幹事長に甘利明、総務会長に福田達夫、政務調査会長に高市早苗、選挙対策委員長に遠藤利明という体制を敷き、河野太郎を広報本部長という冷遇ポストに押し込んだ。岸田自民党のスタートだが、安倍・麻生につよく操作された政権であるのは明らかである。
 内閣人事では、内閣官房長官に松野博一、財務大臣に鈴木俊一、経済産業大臣に萩生田光一、内閣府特命担当大臣(地方創生 少子化対策 男女共同参画)に野田聖子などおおき、外務大臣の茂木敏充と防衛大臣の岸信夫を再任した。

欺瞞的な所信表明演説

 10月8日、岸田の所信表明演説が行われ、「新型コロナ対応」、「新しい資本主義」、「外交・安全保障」を政策の柱として打ち出した。新型コロナ対応についで、新しい資本主義の実現の項で「新自由主義的な政策については、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘」されているとし、「成長と分配の好循環」「成長と分配の好循環」を実現するとしたが、具体的には「新しい資本主義実現会議」を創設し、ビジョンの具体化を進めるという段階だ。ついで「経済安全保障」をあげ、「戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取組を進め、自律的な経済構造を実現」「強靱なサプライチェーンを構築し、我が国の経済安全保障を推進するための法案を策定」するという。格差問題については「労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援を抜本強化」だけだ。肝心の富裕層への増税、法人税増税もなく、これでは、格差問題の解消課題は絵にかいた餅に過ぎない。大企業と大金持ち優遇の自民党政治はなんらの変化もない。

危険無謀な外交安保政策

 安倍路線の継承は、外交安保政策面で際立っている。
 外相、防衛相の留任をうけて「米国をはじめ、豪州、インド、ASEAN、欧州などの同盟国・同志国と連携し、日米豪印も活用しながら、『自由で開かれたインド太平洋』を力強く推進します。深刻化する国際社会の人権問題にも、省庁横断的に取り組みます」「海上保安能力や更なる効果的措置を含むミサイル防衛能力など防衛力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に、果敢に取り組」むとする。
 最後に「憲法改正の手続を定めた国民投票法が改正されました。今後、憲法審査会において、各政党が考え方を示した上で、与野党の枠を超え、建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待します」と改憲への意欲を示している。

誰の声を聴いているのか


 岸田は「人の話をよく聞くこと」が特技だと語ってきたが、いったい誰の話を聞いているのか。
 外交安保では安倍そしてアメリカ政府、経済政策では大企業・大金持ちからの話であり、一方、差別や貧困に苦しんでいる人びと、アジアの人びとの声は岸田の耳には全く入らない。
 日本社会はいまきわめて危機的な状況にある。こうしたことになったのは、そしてその状態を一層悪化させることになるのが自民党政治である。
 岸田に看板を掛け変えても本質はまったく変わらない。いまこそ自民党政治を終わらせる時だ。

市民と野党の共闘こそが力

 臨時国会が始まった10月4日、総がかり行動実行委員会は、国会議員会館前で、「自公政権交代!政治を変えよう!総選挙勝利!臨時国会開会日行動」を行った。集会では、立憲民主党の近藤昭一衆議院議員、共産党の志位和夫衆議院議員、社会民主党の福島瑞穂参議院議員、沖縄の風の伊波洋一参議院議員があいさつ、市民連合運営委員・法政大学教授の山口二郎さん、反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作さん、改憲問題対策法律家6団体連絡会の大江京子弁護士が発言し、総がかり行動実行委員会共同代表の高田健さんが行動提起を行い、市民と野党の共闘を強め岸田自民党内閣の進める政策と対決し、この衆院選を歴史的な闘いとして政権交代を実現しようと訴えた。
 衆院選勝利・政権交代を目指して闘おう。

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声明:総選挙を目前にひかえて

 岸田文雄自公連立政権が10月4日、発足した。

 岸田新首相はただちに10月14日衆院解散、19日総選挙公示、31日投開票という政治日程を発表した。このような短期間の日程設定は極めて異例なことだ。人びとのいのちと暮らし、営業を重大な危機に陥れている新型コロナ感染症の第6波の到来が危惧されているさ中、かつ東アジア情勢の緊張をはじめ内外に難問が山積している。にもかかわらず国会の予算委員会での審議すら拒否して、党利党略で解散・総選挙の日程を決めたことは許しがたい暴挙である。

 新型コロナ対策をはじめ、内外の諸課題で行き詰まり、窮地に陥って政権を投げ出した安倍政権に続いて、菅政権もコロナ禍にまともな対応はできず、2代にわたる無責任な政権投げ出しという異常な事態が生じた。しかし、安倍・麻生らの領袖の後押しによって総裁の座を獲た岸田首相は、安倍・菅政権9年の政治的路線をそのまま踏襲し、内閣と党の表紙を変えただけで世論の支持をかすめ取ろうと、いわゆる「ご祝儀相場」が続くうちの短期決戦で、解散に打って出ようとしている。

 先立って鳴り物入りで繰り広げられた自民党総裁選では、岸田氏をはじめ4人の候補者が自民党改憲案4項目の推進をうたい、なかでも岸田、高市氏らが突出して日米軍事同盟強化、敵基地攻撃能力保有などを主張したことは見逃せない。

 当選した岸田氏は昨今の自公連立政権の悪政に対する世論の厳しい批判を考慮して、「国民の声が政治に届かない」「民主主義が危機にある」などと語った。自らが安倍・菅政治の9年に直接責任のある党と政府の要職にあったことなど知らぬふりの無責任な言辞である。

 安倍・菅継承岸田政権のもとでは日本とアジアの平和、人々のいのちと暮らしが危うくされ、人間の尊厳がいっそう壊されていくことは明らかだ。

 いまこそ政治の転換が求められている。

 9月8日に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と立憲野党4党(立憲民主党、日本共産党、社会民主党、れいわ新選組)の間で6課題20項目の「政策合意」が調印され、全国各地の小選挙区で自公与党に対抗する立憲野党の候補者の1本化への努力が急速にすすみつつある。くわえて、9月30日には立憲民主党と共産党の間で閣外からの協力が合意されるなど、野党間で新政権に向けた協議が進んでいる。

 いよいよ積年の自公政権という悪政に終止符を打ち、政治を転換する好機がきた。

 来る総選挙では、すべての人びとに「安倍・菅9年の悪政を継承する岸田政権を許すのか」、それとも「平和と、いのちとくらし、人間の尊厳を守る政治を実現するか」、この2つの道の選択を問い、闘わなくてはならない。これは歴史的偉業である。

 立憲野党と市民は共同し、小選挙区での候補者の1本化を誠心誠意、全力をあげて、可能な限りすすめ、自公与党の候補者に勝利しよう。

 積年の自公の悪政からの転換を望む市民は、主権者としての責任を果たし、その想いを広げ、選挙に行って投票しよう。

 いまこそ政治を変えよう。力を合わせて政権交代を実現しよう。

2021年10月7日

憲法9条を壊すな!実行委員会


戦争法強行からまる6年!自公政権退陣!総選挙勝利!行動

 2015年9月19日、自民党などは多くの反対の声を圧殺して戦争法制関連2法を強引に成立させ、米軍による戦争に日本を積極的に加担させ、自衛隊を米軍の先兵として戦わせる体制がつくられた。

 9月19日、東京では、国会正門前ステージを中心に、『戦争法強行からまる6年!戦争法廃止!立憲主義の回復!いのちと暮らしを守れ!自公政権退陣!総選挙勝利!行動』(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、安倍9条改憲NO!全国市民アクション)が開かれた。集会では、主催者を代表して、「憲法9条壊すな!実行委員会」の菱山南帆子さんがあいさつし、野党4党と市民連合との画期的な合意を基礎に政権交代を実現しようと述べた。立憲野党からは、立憲民主党、日本共産党、社会民主党から連帯のあいさつがあり、市民団体からは、「立憲デモクラシーの会」の石川健治東京大学教授、「安全保障関連法に反対する学者の会」の高山佳奈子京都大学教授、元シールズの元山仁士郎さん、「安保関連法に反対するママの会」の高岡直子さん、安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合の福山真劫さんからの訴えがあり、最後に、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会小田川義和共同代表が行動提起を行った。


新自由主義に純化する日本維新の会

      
 〜「日本大改革プラン」と維新八策2021を検証する〜

 日本維新の会が総選挙政策のベースになる政策提言「維新八策2021」を8月に公表した。5月にはベーシックインカム(以下、BI)を含む「日本大改革プラン」が出されている。維新によれば2012年版の維新八策の原点に立ち返るものと位置付けられているがその内容は原点回帰にとどまらない。「都構想」がとん挫した今日、さらに新自由主義的「改革」を進めるものになっている。以下、検証する。

「維新八策2021」の主な内容

 新八策は、全体で8つの柱だて339の項目からなっている。維新・浅田政調会長によれば「危機管理改革」「外交・安全保障」「憲法改正」はほぼ自民党とおなじであり、違うのは「身を切る改革」「減税、規制改革、成長戦略」「労働市場・社会保障制度改革」「教育・社会政策」「地方分権」の5つの柱だてであるという。
 その主な内容をみると、「身を切る改革」では、@議員報酬・議員定数3割カットの断行、A政府と国会の役割を外交安全保障・マクロ経済に明確に絞り込む、B首相が国会に縛られず、100日は海外渡航できるようにする、C公務員を身分から職業として国・地方公務員の人員を2割削減する、D日本郵政など政府関連機関の保有株式を完全売却するなど「小さな政府論」政策のオンパレードとなっている。2つ目の「減税、規制改革、成長戦略」では、@消費税、所得税、法人税を減税し、簡素で公平な税制の実現、A所得税負担率の逆累進性を改善、総合課税とフラットタックスを導入する、マクロ経済では、@過度なインフレを招かない範囲で財政出動・金融緩和を行う、Aプライマリーバランスについて現実的な目標を再設定する、B増税のみに頼らない成長重視の財政再建、産業政策では、統合リゾート(IR)の推進を行うとしている。3つ目の「労働市場・社会保障制度改革」では、@チャレンジのためのセーフティー・ネットを構築するとして「給付付き税額控除またはBIを基軸に年金・生活保護等の社会保障全体の改革を推進する」としている。A国の責務として、労働移動を阻害する年功序列型の職能給から「同一労働同一賃金」を実現するため職務給への転換を促進し、そのために労働基準法を改正し、企業が労働時間ではなく仕事の成果で評価できることを可能にするとしている。「教育・社会政策」では、@地方分権型教育行政への転換、A公設民営学校の設置。「地方分権」においては、都市圏の一体的な成長を加速させるために広域行政を一元化し、基礎自治体は住民サービスに特化するとして大阪府市の広域行政一元化を全国展開するとしている。

維新のベーシックインカムは福祉切り捨ての無責任BI

 新八策でも登場する維新のBIは、「日本大改革プラン」の中で目玉政策として打ち出されていた。しかし、今回の新八策においては選択の一つとしての位置づけになりトーンダウンしている。維新は、BI導入の必要性として、日本のセーフティー・ネットは脆弱かつ不公平であるとし機能不全であること。また、中間層や低所得層の可処分所得をアップし消費拡大を目指す必要があること。さらに、格差是正の再分配政策の強化も必要であることなどを理由にあげている。では、その維新BIの内容とはどのようなものか。まず、@基礎年金を廃止する、A生活保護を(生活扶助部分)を廃止する、B児童手当を廃止する。そして全国民に一律給付6万円から10万円を想定と書かれている。ただ、必要財源は合計100兆円とされていることから給付金額は6万円程度になる見込みである。現在、生活保護を受給する人びとは月6万円、年収72万円のみ、公的補償は無くなるな。一方高額所得層にも月6万円が支給されることから格差は是正されない。財源についても、基礎年金廃止で約25兆円、生活保護の廃止で約1兆円、児童手当廃止で約2兆円、合計約28兆円は確保されるだろうが残り約70兆円は確保されない。「新たな成長」や「行政の効率化」によって足りずの財源の生み出しはたやすい話ではない。結局、国債を増発するか医療など他の社会福祉を削減するしか道はない。

新自由主義を脱し、ともに支えあう社会経済システムを!

 岸田政権が誕生した。総裁選で打ち出した「新しい資本主義」が注目されているが所信表明で全くの幻想にすぎないことがさらけ出された。政策として挙げたのは3本の矢でありアベノミクスそのものだった。新自由主義については「転換」の二文字が消え、他人事のように「弊害が指摘されている」とトーンダウンした。「成長と分配の好循環」というスローガンは歴代自民党政権が言ってきたけれどもできなかったスローガンにすぎない。
 新自由主義からの転換は自民党政権ではできない。小泉純一郎元首相は、郵政民営化を公約に「自民党をぶっ壊す」といって旋風を起こしたのが2001年であった。あれから20年、自民党は壊されることなく、結局日本の中間層とセーフティー・ネットが壊された。
 ところが、過去の新自由主義政策に何ら反省がないどころか、むしろそれを加速させようとする勢力が増殖している。それが、日本(大阪)維新の会である。大阪府吉村知事は、「自民党との対立軸が明確になった」とのべまたぞろ規制緩和を争点にすると述べている。日本維新の会の足立康史衆議院議員は、アベノミクスの弱点は、「正社員の既得権益に切り込めなかった」ことだとツイッターで発信している。
 9月8日調印された市民連合と野党4党の共通政策にある「最低賃金の引上げ、非正規雇用・フリーランスの処遇改善」「医療や介護など公的サービスの拡充」「税制・社会保険料負担の見直し、消費税減税、富裕層の負担強化」などを出発点に支えあう社会・経済システムを構築していこう。(矢吹 徹)


満州事変から90年

     日中関係改善に必要なのは日中共同声明に立ち返ること


 今年は、かつての日本軍国主義による公然たる中国侵略戦争がはじまった満州事変(柳条湖事件・九一八事変)から90周年にあたる。1931年9月18日夜、中国東北部の奉天(現在の瀋陽)近郊の柳条湖付近で、日本の陸軍部隊(関東軍)が南満州鉄道線路を爆破しながら、これを中国軍の犯行だと発表し、満州における軍事侵攻と占領の口実とした。満州事変、対中全面戦争、アジア太平洋戦争の15年戦争では、アジア各国は2000万人、日本も軍人・民間人を合わせた死者約310万人という膨大な犠牲者をだした。
 1972年にようやく日中間の国交は正常化された。そのときの「日中共同声明」は「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。また、日本側は、中華人民共和国政府が提起した『復交三原則』を十分理解する立場に立って国交正常化の実現をはかるという見解を再確認する。中国側は、これを歓迎するものである」とした(「復交三原則」=@中華人民共和国政府が中国を代表する唯一の合法政府である、A台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部である、B日本が台湾(中華民国)と結んだ平和条約(日台条約)は不法で無効であり、廃棄されなければならない)。
 しかし、いま日本政府は、アメリカの世界支配維持のための対中国対決戦略に積極的に加担し、日中関係の緊張は増している。
 
 9月17日、衆議院第一議員会館大会議室で、緊急集会「満州事変90周年―戦争の歴史を隠蔽し、性懲りもなく中国敵視に走るのか」が開かれ、250人が参加した。 
 主催者を代表して村山首相談話の会理事長の藤田高景さんのあいさつにつづいて、来賓の森田実さん(政治評論家)が、「アジアの平和と繁栄の肝は、日中の協調と友好にある」と述べた。
 軍事ジャーナリストの前田哲男さんは「南西諸島へのミサイル配備と対中戦争の危険性」について報告。第2次世界大戦は満州事変によって口火が切られた。いま、日本政府による米艦護衛、台湾海峡防衛などの動きで、「愚行の歴史」が繰りかえされようとしている。その重点は、自衛隊の南西諸島配備強化だ。そこは、大隅諸島(種子島・屋久島など)、奄美諸島(奄美大島)、琉球諸島(沖縄諸島と先島諸島=宮古島、石垣島、与那国島)からなる全長1200qの範囲にあり、本州の長さに等しい。そこでミサイル基地化をおこなう。22年度防衛省概算要求5兆4898億円(+2・8%)で、「多様な経空脅威へ対処する総合ミサイル防空能力、スタンド・オフ防衛能力、機動・展開能力に必要な防衛力を大幅に強化、多次元統合防衛力を構築」する。スタンド・オフ防衛能力とは、菅内閣による「敵基地攻撃」のいい換え名称だが、戦闘機(F35A)の取得(8機で779億円)、戦闘機(F15)の能力向上、12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型・空発型)の開発(379億円)、島嶼防衛用高速滑空弾の研究(145億円)、弾道ミサイル防衛関連経費(1396億円)という巨大なものだ。「12式能力向上型(900`プラス)が配備されると、上海、青島が攻撃範囲にはいる。「艦発型」「空発型」だと、前方進出可能なので、さらに内陸諸都市まで攻撃できる。アメリカの新型中距離ミサイルの日本持ち込みも、水面下で内密に協議されている。この予算案を阻止できなければ、「対中戦備」は強化され、南西諸島周辺における一触即発の緊張がつづくことになる。

 日中友好8・15の会(日中元軍人の会)代表幹事の沖松信夫さんは、日本軍国主義の中国侵略についての経験を述べ、二度と戦争を起こしてはならないと述べた。

 特別講演は、浅井基文さん(元広島平和研究所所長、元外務省中国課長)が、「日中関係のあるべき姿を考える―日中共同声明に立ち返らなければならない」と題して行った。自民党総裁選にでている岸田文雄氏は、日中国交正常化をはたすうえで大きな役割を果たした当時の大平正芳外相の宏池会の流れを汲んでいるが、その彼がアメリカの通信社のインタビューで、「権威主義的な国々がますます力をひけらかすので、日本は台湾および自由、デモクラシー、法の支配という価値を共有している国々と協力していくべきだ」「次の大きな外交目標は台湾海峡になるだろう」など言っている。台湾がらみの日本有事に対して日本はどうするかの問いには「法律に従って行動する」と答えている。中国に対する敵対的な姿勢だ。彼は日中国交正常化を行った自民党の人だから、自民党の外交の経過をよく知っているはずなのだが、それを全く忘れたかのような言い方をしている。日中共同声明すら忘れたとしかいいようがない。また、高市早苗氏は、靖国は国内問題であり、他国からあれこれ言われる筋合いはない、台湾の祭英文総統にお会いしたいといって、完全に中国に対して挑戦状をたたきつけている。こうしたことを日本のメディアは何の問題もないかのように淡々と報道するだけだ。もっと深刻なのは野党を含めて国民の間からなんの反応も起きていないことだ。
 9月16日付の環球時報は、中国現代関係研究院の胡継平副院長の署名文章「日本、今日なお9・18を深刻に反省すべし」を掲載し、中国侵略を進めた歴史について、当時の日本国民も日本支配層の対中強硬論に先導されていつの間にか戦争を熱狂的に支持したことが日本の対外拡張をさらにすすめることになり、また30年代日本政府の国際協調策には「けしからん」という態度までとった、と書いている。私はいま、そのような状況になってきているのではないかと感じている。さらに胡継平氏は、「本年3月、国交正常化以来では初めて、台湾海峡安定問題が日米共同声明に書きこまれた。麻生副首相は7月、台湾海峡問題は武力攻撃事態に当たる可能性があるとし、さらに『台湾の次は沖縄だ』として、日本はアメリカとともに『台湾を防衛する』べきだと述べた」「現在、日本の政治家が台湾問題が日本の生存を脅かすと主張し、台湾を『防衛』すべきだとしているのは、彼らが今なお戦前の軍国主義時代に生きているかのごとき錯覚を覚えさせる。彼らが今なお戦前の軍国主義時代に生きているかのごとき錯覚を覚えさせる。周知のとおり、日本は戦後もなお侵略植民の歴史について真剣な反省を行っていない。軍国主義思想の残滓が跡形もなく清算されていないとすれば、新たな形で復活することはないのだろうか。この問題は今日なお注目する価値のある問題である」と結んでいる。
 米中国交正常化でアメリカは台湾と断交し、その後はアメリカとの実務関係の窓口は「台北駐米経済文化代表処」となっているが、それを蔡英文政権は、各国への出先機関の名称を「中華民国」または「台湾」と変更しようとしている。そうした動きを、バイデン政権における対中国の戦略・政策を担う中心人物の一人であるホワイトハウスのアジア問題担当顧問のカート・キャンベルが支持している。こうしたことについて9月11日の英フィナンシャル・タイムズは、「ワシントン、北京の怒りを買うリスク…台湾在米事務所名称変更提案」と題する記事を掲載した。
 9月13日付の環球時報社説「米台が必要ならば、根源的教訓を与えよう」は、米台が思いとどまらない場合は、台湾に対する経済封鎖、台湾空域を解放軍巡航範囲に収める、壊滅的打撃、いかなる代償を払ってでもボトム・ライン擁護等、断固とした対応を取ると警告する文章を掲載した。
 次の14日には、「大陸軍機、最終的には台湾巡航の要あり」と題して再び台湾に対する実力行使の警告をした。「台湾本島上空はもともと中国の領空であり、いわゆる『台湾海峡中間線』なるものは大陸が未だかつて承認したことはなく、したがって、解放軍機が台湾島を飛ぶことは法理的に十分な根拠がある。これまで解放軍機が台湾上空を巡航しなかったのは島内の心理に対する配慮であり、海峡地域の安定を守るという善意に出たものである。しかし現在、民進党当局は完全に大陸と敵対し、アメリカの中国封じ込め戦略のコマとなることに甘んじており、我々としてはこれまでの配慮を撤回する時になっており、軍機による台湾巡航という主権行使を準備するべきである」としている。この社説は、中国指導部の承認のもと、高度に公的な立場の表明である、と思われる。そして「民進党当局が米日の反大陸支持にしがみついており、島内世論をますます深刻に縛り付け、アメリカも台湾問題に対する戦略的手練手管をますます頻繁かつ密度を高めて進めているので、大陸としては、抜本的な措置を講じて断固とした闘争を行うことによってのみ、今の事態を阻止し、民進党当局及びその支持者を徹底的に押し鎮め、台湾海峡情勢の戦略的主動権をがっちり握ることができる」という。台湾はもともと中国なのだから台湾上空を飛んでも何の問題もない、これまでは台湾に配慮していたからに過ぎないという主張だ。ここまで蔡英文があつかましく出てきた以上、もはや配慮は必要ないといことであろう。そして「大陸軍機が台湾島を飛行するに当たっては大規模かつ圧倒的な軍事的準備が後ろ盾とならなければならず、軍機の飛行は台湾海峡のパラダイムをリセットするという強大な決心のほんの一部分である。これは台湾当局に対する果たし状である。民進党当局は二つの選択を与えられる。一つは、大陸軍機の台湾巡航を受け入れ、米日とつるんだ極端な反大陸路線を引っ込めることである。もう一つは、大陸軍機に発砲して戦争を引き起こし、解放軍によって一気に壊滅消滅されることだ」として、台湾当局に選択を迫っている。
 日本政府が行おうとしている自衛隊の南西諸島配備ということ、これはまさに日本も中国に喧嘩を売ろうということにほかならない。もちろん戦争になったら日本がどう動くかが問題だが、アメリカが動かなかったら日本も引っ込むだろう。しかし怖いのは、偶発的に衝突が起こることだ。お互いにボタンの掛け違いでそういうことになってしまうことだ。
 いまの台湾海峡で米中が対決したら中国が勝つだろう。それだけ中国軍の増強にはすさまじいものがある。だからアメリカは中国周辺にミサイルを張り巡らして中国に対応しようとし、それに日本が乗っかっているという構図だ。
 でもそれには時間がかかる。だが、台湾有事というのは今のことだ。中国はその気になれば蔡英文がなにをしようと中国は台湾にたいして武力進攻はできるという状況にある。その時にアフガニスタンから撤退した米軍が中国との戦争に入るということはまず考えられない。だけど中国はそれをやらないだろう。なぜなら中国は戦争を望んでいないからだ。だが、アメリカがこれでのようなことを繰り返すなら、中国にも考えがあるというのが、今回の中国政府の意向を踏まえた環球時報の社説の意味であろう。
 つぎに現在の日中関係の現状についてだが、いま非常に深刻な段階にある。これまでに対中感情における急激な落ち込みが4回あった。1989年の天安門事件、2002年の小泉首相の靖国神社参拝による歴史認識問題、2009年の尖閣問題に対する民主党政権の対応と日中関係の悪化と領土問題の激化であった。
 韓国との関係は、2012年の「従軍慰安婦」問題をめぐる日韓応酬を背景にした李明博大統領の竹島(独島)上陸と日韓関係の冷え込みがあった。
 日本の対米感情は、トランプ政権登場で若干影響を受けたが、すぐに元に戻った。対ロ感情は、ソ連崩壊などによる混乱などがあったが、これもすぐに元に戻った。しかし中国・韓国に対する悪化した感情はなかなか元に戻らない。
 歴史認識問題を契機とした日中関係の悪化の非は日本政府にある。日中関係の改善のために重要なのは、原点である日中共同声明に立つことである。「間違っている世論」に迎合するのではなく、正すことこそが日中友好に資すること、自民党政治の親米反中路線の危険な本質を明らかにすることが必要だ。
 緊要の課題としては、立憲民主党に正しい対中政策を構築させること、国民民主党・共産党の対中姿勢が立憲民主党に感染することを許さないこと、社民党と立憲民主党との「共闘・選挙協力」において正しい対中政策を柱に据えることなど野党勢力に対する強力な働きかけであろう。


日朝ピョンヤン宣言19周年集会

      朝鮮戦争の終結と日朝国交正常化交渉の再開を


 9月18日、文京区民センターで「日朝ピョンヤン宣言19周年集会―朝鮮戦争の終結と日朝国交正常化交渉の再開を」(主催・「朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を」市民連帯行動)が開かれた。日朝ピョンヤン宣言は、2002年9月17日、当時の小泉純一郎首相が訪朝し朝鮮の金正日国防委員長と合意したもので、@双方は国交正常化を早期に実現させるため努力を傾注、A日本側は過去の植民地支配について痛切な反省と心からのお詫びを表明、B双方は国際法を遵守し、互いの安全を脅かす行動をとらない。朝鮮側は日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が再び起こらないよう適切な処置をとる、C双方は北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため互いに協力する、という内容だ。
 2018年には、歴史的な南北首脳による板門店宣言、米朝シンガポール首脳会談が行われ、朝鮮戦争の終結と朝鮮半島の平和体制と完全な非核化へ向かう転機となったが、その後のアメリカ・トランプ政権の対北朝鮮締め付け政策により解決の方向は見いだせていない。いま、バイデン米政権は、「対朝鮮政策の見直し」を行い、米朝シンガポール共同声明を継承し「実用的かつ調整されたアプローチで北朝鮮との外交を模索する」としている。しかし、まったく現実的具体的な進展はない。いまの状況は、バイデン政権に具体的な一歩を踏み出すことが迫られているところにある。

バイデン政権の東アジア政策と北朝鮮

 集会では主催者を代表して、渡辺健樹さん(「3・1朝鮮独立運動」日本ネットワーク)があいさつ。
 新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士の猿田佐世さんは「バイデン政権の東アジア政策と北朝鮮」と題して報告。バイデン政権の外交政策の基調は、米中対立激化の中での「民主主義国家対専制主義国家」という構図だ。同盟国重視の外交政策では、日本は米国陣営の柱となっている。今年4月の日米首脳共同声明では、「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」といっている。バイデン政権の北朝鮮政策は、「朝鮮半島の完全な非核化」を目指すことで、今年3月の「国家安全保障戦略暫定指針」では「韓国、日本と足並みをそろえて核・ミサイル計画の脅威を減らすため、外交力を結集する」としている。これはトランプ政権の「完全かつ検証可能で不可逆な非核化」とオバマ政権の「戦略的忍耐」の中間にある対応だ。日米韓の結束を強固にし、米朝間の実務者協議を進め段階的非核化を目指し、シンガポール合意など過去の政権が結んできた合意を基礎に据えていくようであり、北朝鮮側の非核化の度合いに応じてアメリカ側も相応の見返りを与えていくいわゆる「段階的アプローチ」をとるとみられる。
 アジアの各国は、米中対立の中でどちらにつくのかという選択の強制をいやがっている。アメリカの中にも議会を含めていろいろな動きがある。必要なのは、圧力ではなく、外交・対話だ。

米朝交渉と日本の課題

 ピースデポ特別顧問・長崎大学客員教授の梅林宏道さんは、「米朝交渉と日本の課題」と題して報告。2021年4月30日に、バイデン政権のDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)政策見直しが完了した。そこでは、「大きな取り引き」でもなく「戦略的忍耐」でもない、「調節された実際的アプローチ」をとるとしている。5月21日のバイデン・文在寅首脳会談では「板門店宣言やシンガポール共同声明など、南北朝鮮間や米朝間での約束に基づく外交と対話が、朝鮮半島の完全な非核化の達成と朝鮮半島の恒久的な平和構築に不可欠であることを再確認した」とされ、ソン・キムを北朝鮮担当特使に任命した。6月21日には、ソン・キムが「金正恩委員長と条件を付けずに、いつでも、どこでも会う用意がある」と述べ、8月31日には 米ホワイトハウス・サキ報道官が「条件を付けずに、いつでも、どこでも会う用意がある」と述べた。
 核兵器については「廃絶されるべき兵器である」という国際的合意があり、国連総会決議をはじめ、NPT、包括的核実験禁止条約、核兵器禁止条約などなどがある。しかし現実は、米ロをはじめ多くの核兵器が存在している。核兵器を持つ国だけでなく核の傘に依存する日本、韓国も、等しく核兵器へ依存しているという現実がある。
 ミサイルについては「禁止されるべき兵器」という国際的合意はない。だが、大量破壊兵器の運搬手段としてのミサイルに対してのみ、規制の努力義務はある。
 これまで北朝鮮は核兵器保有の理由をつぎのように述べてきた。2006年10月3日の第1回地下核実験予告時の声明では、「米国からの核戦争の極度の脅威、制裁と圧力の結果、それに対抗する防衛手段として核抑止力を強化するための核実験に踏み切らざるを得ない」。また、2013年4月1日の核兵器国地位確立法・第1条では「DPRKの核兵器は、増大し続ける米国の敵視政策と核の脅威に対抗するために手にせざるを得なかった正当な防衛手段である」。2017年9月23日の国連総会での李容浩外相演説では「我が国核戦力の唯一の目的は米国の核の脅威を終わらせ軍事的侵略を阻止するという戦争抑止力である。従って、我々の究極的な目的は、米国と力のバランスを確立することである」。2018年1月1日の金正恩委員長の年頭の辞では「我が国の核戦力は、いかなる米国の核の脅しも打ち砕き、反撃することができる。それは、米国が冒険主義の戦争を始めることを阻止する強力な抑止力である」。
 だが、一方で、明らかに核兵器計画放棄の意図も見えた。それは次のような経過である。1991〜2002年にプルトニウム抽出を検証を伴って停止した。1994年〜2002年には、枠組み合意とKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)で唯一の稼働中の黒鉛炉のみならず、建設中の2基の大型炉の放棄に同意し、検証を伴う廃棄を始めた。2008年には、6か国協議の合意にしたがった黒鉛炉の無能力化が、ほとんど完了していた。2018年、技術的には未完であるにもかかわらず、核実験場を解体しICBM発射テストの中止を決定した。
 2018年の板門店宣言では、@共同繁栄と自主統一の未来を早める―民族自主の原則の確認、南北共同連絡事務所の開設(開城)、民間交流の促進、東海線・京義線(鉄道と道路)の連結、A軍事的緊張緩和と戦争の回避―すべての敵対行為の中止、西海北方限界線に平和水域設定、将官級・軍事当局者会談の頻繁な開催、B朝鮮半島の平和体制の構築へ協力―朝鮮武力不使用の不可侵合意の順守、緊張緩和と段階的軍縮、などを確認し、完全な非核化によって核のない半島を実現するとし、文在寅大統領が秋に平壌訪問するとした。
朝鮮半島の非核化の実現のための大きな一歩となったが、トランプ、バイデン両政権のもとで、米朝交渉はいま行き詰っている。
 日本のなすべきことは、朝鮮半島の戦争状態の終結、非核化、平和の達成のために、核兵器問題に正面から取り組むものでなければならない。
 日本がなすべき課題の第一は、核兵器禁止条約である。そこでは、7つの禁止事項がある(@開発、実験、生産、製作、他の方法での取得、保有、あるいは貯蔵、A移転、あるいは直接・間接の管理の移転、B移転、あるいは直接・間接の管理の移転を受けること、C使用、あるいは使用するという脅し、D禁止事項を行うことの援助、奨励、あるいは誘導、E禁止事項を行うために援助を求め、あるいは受けること、F領域、管轄あるいは管理下にある場所に配置、設置あるいは配備すること)。
 そして北東アジア非核兵器地帯の実現だ。それを日本が提案すべき理由は、日本は、中・ロ・朝の脅威を理由とする「核の傘」という核兵器依存政策から脱却できるからだ。日本は核兵器禁止条約に参加することができ、被爆国として核兵器廃絶への指導力を有効に発揮できる。朝鮮半島の平和プロセスヘの関与を通して、日朝関係の正常化の意志を伝え協議の契機を作ることができる。地域安全保障機構を準備し、東アジア安保環境改善の基礎となる。
 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の提言「北東アジア非核化への包括的枠組み協定」(2015年3月)は次のような項目を含む協定の提起を行っている。@朝鮮戦争の戦争状態の終結を宣言し、締約国の相互不可侵・友好・主権平等などを規定する宣言的条項、A核を含むすべての形態のエネルギーにアクセスする平等の権利と平和利用の担保を謳い、北東アジアの安定と朝鮮半島の平和的統一に資することを目的とする「北東アジアにおけるエネルギー協力委員会」を設置する宣言的条項、B北東アジア非核兵器地帯を設置するために必要なすべての条項を備えた完全な実務的条約、C協定の確実な履行を保証し、地域の他の安全保障諸課題の協議にも開かれた常設の「北東アジア安全保障協議会」を設置する実務的条項。

国際人権基準からみたコロナ禍の朝鮮学校差別

 韓国の市民団体からのピデオメッセージが放映された。
 朴金優綺(パクキム・ウギ)さん(在日本朝鮮人人権協会事務局)は「特別報告・国際人権基準からみたコロナ禍の朝鮮学校差別」と題して報告した。朝鮮学校は、日本の朝鮮植民地支配期に禁止された朝鮮人の民族教育のために、奪われた言葉、文化、歴史、アイデンティティを取り戻すため在日朝鮮人が「国語(朝鮮語)講習所」を作ったのが始まりだ。日本には本来、朝鮮植民地支配の責任として朝鮮学校での民族教育を保障する義務がある。
 しかしこのコロナ禍で朝鮮学校差別が深刻化している。2020年3月には、さいたま市がマスク配布対象から朝鮮学校幼稚園を除外した。5月には、文部科学省が「学生支援緊急給付金」制度の対象から朝鮮大学校の学生を除外した。6月には、文部科学省、学校再開に伴う学校支援策から朝鮮学校を含む各種学校を一律除外したなどである。
 「学生支援緊急給付金」制度とは、コロナ禍の中、世帯収入・アルバイト収入の大幅な減少により、大学等での修学の継続が困難になっている学生が修学をあきらめることがないように現金を支給するもので、支給額は10万円、住民税非課税世帯の学生等は20万円となっている。文科省は日本語教育機関や外国大学日本校を対象にする一方で朝鮮大学校を除外したのだ。コロナ禍の学生支援から朝鮮大を除外したことについては、国連特別報告者が是正要求を出している。その「通報」の内容は、学生支援緊急給付金制度が社会権規約・人種差別撤廃条約を含む国際人権法上の日本の義務を遵守していないことを懸念」「同制度が特に朝鮮大学校のマイノリティの学生を差別していることを懸念」しこのような排除は学校の制度的自律性を損なう恐れがある。マイノリティの学生にとって、同差別は、自らの国民的、民族的、文化的、言語的アイデンティティの促進を手助けする教育へのアクセスをさらに危うくする、というものだ。それに対する、日本政府の回答(2021年4月)は、同制度は、日本人、外国人を問わず、対象機関(大学・高等専門学校・専修学校・日本語教育機関)に通えば受給資格があり、各種学校だけでなく専修学校の上記課程以外の課程に在学する学生は対象とならない、「したがって差別には当たらない」とした。この日本政府回答の問題点は、外国の教育機関である外国大学の日本校や、外国ルーツの学生が主に通う日本語教育機関を同制度の対象とする一方で、在日朝鮮人の学生が通う朝鮮大学校だけが対象外とされていることこそが問題なのである。この背景には、「朝鮮」につながる者を排除しようとする日本の対応の継続がある。根底にある日本の植民地支配責任・戦争責任の回避と朝鮮半島の分断体制・朝米の戦争構造への加担がある。朝鮮学校差別の問題と向き合うことは、こうした構造に向き合い,克服することに繋がるのであり、歴史の不正義を見過ごさず共に声を上げてほしい。

 集会では、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、日本国際ボランティアセンター、日韓和解と平和プラットフォームからのアピールがおこなわれた。


せんりゅう

   病棟に見舞い断たれたみえない死

       いんちきの版画より酷いアベ版岸田

   特権の競い腐りの今日もまた

       金持ちの宇宙旅貧者の塗炭

   資本家は次の戦場ゆめみてる

       戦敵を中国へ替えゴッツ無理筋

   ひとの世のしらべゆたかな古書のみせ

       超短命岸田内閣へと衆院選
               
                       ゝ 史
2021年10月


複眼単眼

     
 悪魔の誘いに乗って首相の座を手に入れた岸田文雄

 岸田を超短命政権にできるか、総選挙が目前に迫っている。
 この際、岸田新首相について書いておきたい。
 岸田は日本会議国会議員懇談会、神道政治連盟国会議員懇談会、日本の前途と歴史教育を考える議員の会などの国会議員で構成される超右派組織に属している。これらの組織は改憲や靖国参拝、歴史教科書における「軍隊慰安婦」問題での介入などの活動をしている。この間、岸田はこれらに所属しながら、彼らしいところだが、特に役職にはついていない。
 前回の総裁選に敗れて「岸田は終わった」と言われたことから、再起するには新機軸が必要だった。そこで岸田は今回の総裁選に際して「憲法改正は絶対に必要だと思います。国家危急の事態に対応できる憲法にしなければ、民主主義そのものを守れなくなってしまう(9月10日:文春オンライン)とか、「自衛隊の(9条への)明記は違憲論争に終止符を打つために重要だ」「憲法改正は絶対に必要だと思います。国家危急の事態に対応できる憲法にしなければ、民主主義そのものを守れなくなってしまう(9月10日:文春オンライン)と9条改憲を推進する立場を鮮明にした。
 それだけでなく、岸田は「(日本を標的とした弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保持についても)「抑止力として用意しておくことは考えられるのではないか」と明言した。彼は4人の候補者中、唯一期限を切って「(憲法改正を)任期中に実現を目指したい。少なくともめどをつけたい」と言明した。
 岸田は自民党で伝統的に「ハト派」と呼ばれてきた宏池会の現会長だが、今回、総裁・首相の座を手に入れるために、櫻井よしこや安倍晋三らの「悪魔の誘い」に乗って、踏み絵を踏んだ。岸田は総裁選に先立って宏池会の伝統を継承してきた古賀誠元幹事長と会い、公開で絶縁した。古賀氏は「憲法九条は世界遺産」(集英社新書)という著書まである政治家で、安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁とは全く憲法観で相いれない。
 自民党内の伝統ある宏池会はこれをもって死んだ。
 国家基本問題研究所という右派組織によって活動する櫻井は総裁選に先立って一部のメディアに「自民党総裁選候補4氏に問う 国を守る覚悟示せ」と題する意見広告をだした。そこでは「問われるのは、日本を取り巻く安全保障環境の急速な悪化に対処する覚悟だ」として、「中国こそ脅威と位置づけ、抑止力を強化できるか」と迫った。そして、「防衛」支出の増大、敵基地攻撃能力保持、原発再稼働、靖国参拝、河野談話修正などを要求した。
 岸田が路線転換を表明しても、櫻井はいまいち信用できない。そこで新首相選出の10月4日にも、産経新聞のコラムで「岸田氏の公約、憲法改正には一刻の猶予もない」「日本国の切羽詰まった現状への責任は……吉田茂元首相を源流とする宏池会の伝統および宏池会所属の政治家群の責任は極めて大きい」と宏池会の伝統からの断絶を要求した。
 転んだ岸田首相には桜井らからのさらなる要求は続く。「岸田氏に求められることは軍事(力強化)を忌避する宏池会的思考からの大転換」(前出コラム)だとたたみみかけている。
 岸田新首相は日米軍事同盟強化、憲法改悪への道を加速させざるを得ないだろう。
 私たちはこれを絶対に許さない。
 今回の総選挙はこの岸田新政権による安倍・菅9年の悪政の継承か、平和といのちとくらし、人間の尊厳を守るため市民連合と政策協定を結んでたたかう立憲野党を支持し、政治の抜本的転換をはかるかの政権選択選挙になった。  (T)