人民新報 ・ 第1405号統合498号(2022年1月15日)
  
                  目次

● コロナ蔓延・格差と貧困・戦争準備の政治を終わらせよう

      今年は日中国交正常化50年 日中共同声明などを基礎に日中関係の改善を

● 改憲策動を市民の運動で押し返そう(アピール)−「憲法改悪を許さない全国署名」を一気に広げましょう

       9条改憲NO!全国市民アクション 戦争させない・9条壊すな総がかり行動実行委員会

● コロナ禍で格差拡大・貧困増大が深刻化

      年越しのコロナ被害の相談の取り組み

● いかにして弾圧を粉砕するか考(3)    (河田良治)

● 「危機的インフレ」に直面する世界経済と日本  (関 孝一)

● 岸田路線「新しい資本主義」に未来なし 〜新自由主義の変異型とその危険性〜   (矢吹 徹)

● せんりゅう

● 複眼単眼  /   「台湾有事」念頭の日米2+2文書






コロナ蔓延・格差と貧困・戦争準備の政治を終わらせよう

      
今年は日中国交正常化50年 日中共同声明などを基礎に日中関係の改善を

米軍基地から感染が拡大


 2022年は、年明け早々からのコロナ禍大蔓延という状況ではじまった。新しいオミクロン変異株は感染力が著しく、社会の動きに大きな阻害力として働いている。今回のオミクロン感染の発端は、在日米軍基地からの流出である。米軍基地が集中する沖縄県、岩国基地の山口県・広島県での感染状況が突出している。米軍は米本土から日本への移動にさいして、出国前PCR検査は行われていないが、在日米軍基地からは米本土への移動だけでなく、韓国その他の日本以外の外国への移動にさいして事前のPCR検査を義務づけている。ここには、日米関係の特殊性―米国の日本に対する優越的な立場とそれに対する日本政府の卑屈的な対応が明らかである。

岸田のコロナ敗戦は必至

 安倍・菅両内閣の支持率は、コロナ感染の拡大に逆比例して低下した。だが、昨年10月の衆議院総選挙では、岸田自民党は、コロナ感染の一時的な減少を背景に勝利した。
 岸田内閣は、すでにはじまった第6波感染拡大に対しオミクロン株の実態がまだほとんどわかっていないにもかかわらず、重症化しない、死者は少ないなどの側面を一面的に強調し、はやばやと経済重視の観点から隔離期間の縮小、水際対策の緩和などの政策を取ろうとしている。ウィズ・コロナなるスローガンで新型コロナウイルスへの真剣な対処を放棄し、コロナとの共存が可能であるかのような幻想を振りまいている。しかしオミクロン株の拡大が急激ならば重症化率・死亡率はデルタ株より少ないとしても、こんご重症者、死者の数は増加していく。そして、変異株はこのオミクロンが最後ではなく、次々と新たなものが出てくる可能性は否定できない。こうした中で、社会の格差拡大・貧困化の深刻さの度合いが強まっていく。
 多くの人びとと力をあわせて、新型コロナ対策を充実させ、国と地方の財政は住民生活の保護のためにつかえ、防衛予算増強はやめ、大企業・金持ち優遇の税制・財政政策を転換し、医療、年金、教育などに財源を有効に使えという要求で、幅広い運動を展開していかなければならない。

東アジアの平和めざせ

 いま台湾海峡をめぐって政治的軍事的緊張が高まっている。台湾問題とは何か。そして日中関係、米中関係とはなにか。その基本的な位置づけの確認が必要である。今年9月は、1972年の田中内閣による日中国交正常化50年という節目にあたる。また2月は、米ニクソン大統領の訪中・上海コミュニケからも50年でもある。
 1972年の日中共同声明は、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とした。ポツダム宣言第8項には「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国竝ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」とある。1943年11月の米英中の3カ国によるカイロ会談での「カイロ宣言」は、「日本国より1914年の第一次世界戦争の開始以後に於て日本国が奪取し又は占領したる太平洋に於ける一切の島嶼を剥奪すること並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することに在り日本国は又暴力及貪欲に依り日本国の略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし」として、台湾は中国に返還された。
 米中上海コミュニケには「双方は、米中両国間に長期にわたつて存在してきた重大な紛争を検討した。…中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、『一つの中国、一つの台湾』、『一つの中国、二つの政府』、『二つの中国』及び『台湾独立』を作り上げることを目的とし、あるいは『台湾の地位は未確定である』と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう。」とある。
 政府間による共同声明・共同コミュニケの意味は重い。条約に準ずる拘束力を持つから、内容変更は容易ではない。日米両国政府が台湾問題に介入するのにはハードルは極めて高いのである。日本にとって中国は隣国であるだけでなく、第一の貿易相手国である。
 危機的状況に向かいつつある日中関係を、両国政府は、日中共同声明、日中平和友好条約(1978年)、日中共同宣言(1998年)、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年)の4文書を基礎にして改善していくべきである。日本は憲法9条の精神で臨むべきである。

改憲・軍事力増強に反対


 安倍晋三など改憲右派は、台湾問題を突出させて東アジア情勢の緊張激させて、9条を軸とする改憲の機運を加速させようとしている。政府自民党内に配置された安倍の手先たちは危険な火遊びを行っている。岸田は、日米同盟の緊密化、沖縄米日軍事基地の強化、自衛隊の南西諸島配備、防衛費の飛躍的な増加、「敵基地攻撃能力」という無謀な道を進もうとしている。
 戦争する国づくりと人びとの命と生活は両立しない。1月17日には通常国会がはじまる。また、同23日は、辺野古基地をめぐる名護市長選の投開票日である。7月には参議院選挙だ。
 2022年、決意も新たに、自民党政治をやめさせ、日本政治の新しい展望を切り開くために闘い抜こう。


改憲策動を市民の運動で押し返そう(アピール)

    
 「憲法改悪を許さない全国署名」を一気に広げましょう

市民が望まない改憲論議よりコロナ対策を、憲法をまもらない勢力に憲法を語る資格はない、「壊憲」政治から憲法まもる政治に、と奮闘いただく全国の市民の皆さん。 
 憲法は今、戦後最大の危機です。たたかいは正念場です。いのち、くらし、平和を守り、前進させる社会を次の世代に引き継ぐために、力を合わせて改憲策動を押し返しましょう。「憲法改悪を許さない全国署名」運動を全国各地で広げ、たたかいのうねりを大きくしましょう。

 市民の皆さん。先の総選挙の結果、改憲を主張する勢力の議席数が3分の2を超える大変残念な結果となり、改憲の動きが一気に強まりました。
 岸田首相は年頭所感で「(改憲は)本年の大きなテーマ」と前のめりの姿勢を露骨に示し、自民党には「憲法改正実現本部」を改組・設置しました。安倍・菅政権以上の改憲暴走の姿勢です。その暴走を、「来夏の参議院選挙と同時の改憲国民投票実施」を主張する日本維新の会などが加速させています。
 年末の臨時国会では、予算委員会審議中に衆議院・憲法審査会を開催するというこれまでにない動きとなりました。改憲勢力は、毎週の憲法審査会開催や、スケジュール、課題を決めた審議なども求めており、通常国会中に改憲論議が一気に進みかねません。

 12月16日に開催された衆議院憲法審査会では、自民党が「改憲4項目」をベースにした審議をもとめ、コロナ対策を口実にした緊急事態条項創設を求める意見もだされました。しかし、改憲の真の狙いが憲法への自衛隊を明記にあることは明らかです。
 岸田政権は、敵基地攻撃能力保有を明記する防衛計画大綱などの見直しや軍事費をGDP22%への大軍拡を進めようとしています。他国攻撃可能な武器の保有は違憲としてきた従来の政府答弁を見直すこととあわせて、「9条改憲」もと狙っているのです。
 中国が覇権主義を強め、アメリカとその同盟国が中国包囲を強固にするもとで、日本も軍事対軍事、武力には武力の道に進むのか、憲法9条をいかした平和外交に立ち戻るのか、今、その岐路に立っています。果てしない軍拡競争のために、市民のいのち、くらし、人権を二の次にする政治を認めるのか、それを拒否するのかの岐路でもあります。

 この夏に予定される参議院選挙で、立憲野党の共闘を前進させて改憲勢力を少数に追いやり、政治転換への市民の信頼を広げるためにも「憲法改悪を許さない全国署名」を大きく広げましょう。改憲NOの市民の意思を形にして、国会内での立憲野党の奮闘を後押ししましょう。
 可能な形態での宣伝・署名行動、学習・講演会活動などを全国で一気に強めましょう。
 憲法施行から75年目となる5月3日を第一の節目に、夏の参議院選挙を第二の節目に、年明けから取り組みを飛躍させましょう。
 市民の皆さんの総決起を心から訴えます。

2022年1月5日

     9条改憲NO!全国市民アクション

     戦争させない・9条壊すな総がかり行動実行委員会


コロナ禍で格差拡大・貧困増大が深刻化

      
年越しのコロナ被害の相談の取り組み

 コロナ禍蔓延の中で、日本社会の格差拡大・貧困増大がいっそう深刻化している。1年以上仕事が見つからない長期失業者の数が増えていて、とりわけ年末年始の時期の生活は厳しい。この状況に全国各地で労働団体、市民団体や弁護士などによる相談・支援活動が行われた。
 東京では、大久保公園(東京都新宿区)で、12月31日、1月1日に「年越し支援・コロナ被害相談村」が、年末年始の住居確保や生活、労働相談などを受け付けるなどの活動を行った。去年に続き2度目の取り組みだ。全労連、連合、全労協加盟の労組や市民・弁護士団体でつくる実行委員会が主催し、第二東京弁護士会が協賛する体制で、生活保護の申請同行、宿泊先支援、自治体の清掃業務紹介などが行われた。今回の相談者は、470人(前回同344人)となった。
 また1月の8〜9日には、同じ新宿大久保公園で、相談に来た女性たちへの伴走支援を目的として、「女性による女性のための相談会」(主催―「女性による女性のための相談会実行委員会」、後援―東京都・日本労働弁護団・日本労働弁護団女性労働PT ・第二東京弁護士会)が行われた。同実行委員会は、昨年2021年には3月、7月、12月にも相談会を実施してきた。今回の相談内容は生活、労働、ドメスティックバイオレンス(DV)被害、性被害などで、対応言語はやさしい日本語、英語、ベトナム語、手話の対応だった。実行委員会は、相談事例から見えてきたこととして次のように述べている―コロナ長期化でこれまでの生活が破綻してきている。何らかの疾患を抱えている相談者が多く、医療相談が多い。以前は医療機関で治療を受けていたが、失職するなどして治療費がなかったり、失職によって保険証の継続ができなかったりして、困っている事例が目立った。中には医療機関にかかれないため、以前に処方してもらっていた薬と同効果の市販薬を買おうと事例もあった。元々抱えていた女性が潜在的に抱えている「生きづらさ」に起因する相談が多い。DVや失業など、一人の女性が複数の問題を抱えている事例が目立つ。コロナによって相談会が開かれ、安心できる場所で女性たちが語り出し、表面化していると見られる。潜在的に、過去から続いてきた女性が抱えている困難が語られる場がなかった、聞いてくれる人もなかった。女性は夫や父親など周囲の男性に囲まれ、自分の抱えている問題を問題として見ずに、他人の問題解決が優先されてきたから。この相談会ではその必要性がないから境遇や思いを自由に話すことができる。受け止める姿勢と環境、雰囲気、人が、困難を抱える女性の自立とその支援には大事なことだ。相談者同士がカフェなどで交流する姿も見られた。女性があるが故に同様の困難を経験共有できるので、共感できて励まし合うことができる。


いかにして弾圧を粉砕するか考(3)

 昨年末に、連帯ユニオン関西生コン支部弾圧事件の闘いは大きく動いた。12月12日、札幌・東京・横浜・名古屋・大阪・福岡・沖縄など全国で「弾圧はねのけろ」同時アクションが行われた。
 大阪では700名が結集して難波までデモ行進をおこなった。
 翌13日には、大阪高裁において、京都地裁の懲役・執行猶予というでたらめな一審判決を覆して、罰金刑と無罪という勝利判決を勝ち取った。この連帯関西生コン労組加茂生コン事件は正社員化を要求したことが発端になっている。
 12月16日には、大阪地裁でレイシストによる関生支部への名誉毀損事件が損害額に映像、記事の削除ということになり完全勝訴した。そして組合員にかけられていた保釈条件の変更が実現した。これは地裁が検察の「変更不相当」の意見を無批判にうけいれてきたことの是正だ。

 今年に入って早々、2022年元旦行動が大阪府本部警前で400名が結集した。組合員もひさびさに顔を合わせることが出来た。集会では冒頭、湯川裕司新委員長から、勝利判決がでているが、組合員の不当解雇などが続いている、闘いをさらに強力に進めようと力強い挨拶があった。寒風の中で2時間にわたって各労組・市民運動からの連帯アピールがつづいた。最後にこの闘いを勝利するためには、労働組合潰しの大弾圧をゆるさないためにはもっともっと仲間の拡大が必要だと強調された。

 連帯関生支部がおこなっているような点検摘発活動や産別統一闘争を犯罪とみなしての労働組合潰し攻撃が全国化しつつある。
 大阪では大阪市西成区の医療法人山紀会(病院、介護施設、在宅介護)が不誠実な組合対応をくりかえし闘いがつづいてきた。労組は、現在のコロナ危機にさいして、組合側から、利用者のみなさんや患者さんの生命や生活、職員の安全と補償を守るために、長年の労使紛争の一旦休戦を法人に求めたが、山紀会側はその休戦案を拒否し、さらに、パワハラ問題の相談を受けていた組合役員に対して、戒告処分を強行した。組合が府や医師会に働きかけたことをも名誉毀損として訴訟をおこし組合潰しを狙っている。
 いま、必要なのは「怒りを分かち合う」ことではないだろうか。怒りの共有とは、想像力を広げて自分がその立場に立たされたらどう感じ、行動しただろうかと思うことだろう。
 労働ジャーナリストの竹信三恵子さんの『賃金破壊 労働運動を「犯罪」にする国』(旬報社)は、この弾圧の流れを、そこに働き闘う労働者の姿を浮き彫りにしていて、一読をお薦めする。
 労働組合は、働く人間が生きていくために必要な権利をえるための重要不可欠な道具であり、人と人との絆である。資本や政治のつごうでその価値がつぶされるものでは決してないものだ。 (河田良治)


「危機的インフレ」に直面する世界経済と日本

 @ コロナ危機がアメリカを襲った2020年、FRB(米連邦準備制度理事会)は3月から4月の2カ月間で2兆ドル(230兆円)の資産を増やした後、同年6月からは財務省券(米国債)を月800億ドル(9兆2千億円)、住宅ローンを担保と証券(MBS)を月400億ドル(4兆6千億円)、毎月合計1200億ドル(13兆8千億円)規模の買い入れを1年半近くにわたり続けてきた。FRBの保有資産はコロナ直前の2020年初め時点の約4兆1千億ドル(約472兆円)が、コロナ対応のため20年8月末で8兆3千億ドル(約955兆円)と約2倍の未曾有の規模に拡大した。これは個人への現金給付を計3回で一人最大3200ドル(約37万円)やバイデン大統領が提案した1・9兆ドル(約218兆円)の新型コロナウイルス対策法などによるものであり通貨供給量は異常に増大した。今後も1・2兆億ドル(138兆円)規模のインフラ投資法案などの支出増が見込まれている。

 A この異常な「金融緩和・財政出動」と「経済再開」の動きはコロナ禍で世界的株高・時価総額の膨張を招いた。2021年の世界の株式時価総額の年間増加額は約18兆ドル(約2000兆円)と過去最高となった。21年末、米ダウ工業株30種平均は最高値を更新し同じくS&P500は一昨年比27%も上昇した。世界の国内総生産(GDP)がようやくコロナ前の水準を取り戻した中で、21年末の世界の株式時価総額は一年で18%増とコロナ前に比べ4割増加した。株式の高騰だけでなくバブル期を上回る住宅価格上昇率や家賃上昇・原油価格UPによるガソリン価格や食料品の値上がりなどインフレ状態が続いている。21年6月、米国版100円ショップ」といわれる米1ドルショップ大手ダラー・ツリーが商品価格を25%引き上げ、1・25ドル(約142円)にすると発表したのは原材料高などコスト増に伴う恒久的措置で、本格的な値上げは創業から35年で初。米国での歴史的なインフレを象徴する動きとなった。

 B コロナ禍の中での大規模な「金融緩和・財政出動」で世界の富裕層と貧困層の格差は一段と拡大した。21年12月7日に公表された「世界不平等レポート」の要旨によれば、世界人口のうち保有資産が上位10%に入る富豪が世界の富全体の76%を独占しており、中間層の40%が保有するのは世界の富の22%、下位50%は同2%にとどまる。また世界上位1%の超富裕層の資産が21年世界全体の個人資産の37・8%を占め、特に最上位の2750人だけで3・5%に当たる13兆ドル(約1490兆円)を占め富の集中が鮮明となった。貧富の差が特に大きいのは中南米で、上位10%が富の77%を握り、下位50%が保有するのはわずか1%だった。『トリクルダウン』説は成立せず、富裕層への減税は全体の繁栄に繋がっていない。同レポートは「不平等は今後も広がり続け、巨大な水準に達する」とし「富裕層や巨大企業への課税強化が不可欠だ」と訴えている。

 C 米消費者物価指数(CPI)は21年5月以降5%を超え10月には6.2%に上昇した。FRBパウエル議長はインフレについては「一時的なもの」と見なす見解を繰り返してきた。しかしFRBは11月の連邦公開市場委員会(FOMC)でテーパリング=大規模な資産買入額の減額(米国債は月100億ドル、MBSは同50億ドル、計150億ドル 22年6月に終了)に転じた。しかし米CPIは11月には6・8%に上昇し、一向に収まる気配のない高インフレが続き、米国内の人々の生活を大きく圧迫していることが明らかになった。そこでFRBは昨年12月にはテーパリングに関しては、減額幅を倍増(1ヶ月当たり150億ドル→300億ドルの減額 22年3月に終了)することを決定し「インフレを一時的」とする表現を削除した。わずか1ヶ月での方針転換を行ったFRBは現実の物価上昇に対して完全に“後手に回って”しまっており、こうした高インフレへの対応の遅れはバイデン政権への批判の高まり支持率の低下なっており、国内批判をかわす狙いがある対ロシア・対中国強硬政策の要因の一つとなっている。

D FRBがテーパリングを開始したことはインフレの炎に燃料を投入することを止めたり、事実上ゼロの金利を上げた訳ではない。その燃料投入=金融緩和を減らしただけあり今年の3月までは量的拡大は継続する。米政府がこの間、大量に発行した国債を購入してきたFRBのバランスシート(BS)の負債サイドは、民間銀行が預ける当座預金が巨額に積みあがっている。今後、金利を上げるとしたらこの当座預金に対しての利子である「付利」の水準を上げていくしか方法はない。この巨額の当座預金はいわば市場における「過剰流動性」に相当するものである。民間銀行にとっては「付利」の水準次第ではいつでも引き出せる性質のものである。民間銀行が米国経済やインフレの進行次第で「付利」が低すぎるとみれば、この当座預金を次々と引き出して企業や家計向けの貸し出しに回し、インフレを加速させることになりかねない。実際のところ、米FFレート(市中銀行同士で短期資金をやり取りする市場で成立する金利=日本のコール金利に相当)が0・25%でしかなく、仮に土地の価格が前年比10%で上昇し続くことが確実な情勢にあるもとで、不動産業者が2%の低利で銀行から融資を受けることが可能であれば、今のうちに2%で借り入れて土地を購入し、1年寝かせた後に売れば差し引きで8%の利益が得られる。こうした投機はすでに株式市場の高騰に表れており、食料品などの消費財・耐久消費財についても同様な動きが始まっている。次第にFRBは追い込まれ、市場に激震をもたらす大幅な金利の引上げを行わざるを得なくなる。

 E 足元の物価の高騰傾向は、米国に限らずユーロ圏にも波及しイングランド銀行は21年12月利上げに踏み切った。日本においてもインフレが波及してきている。21月11月の消費者物価上昇率(CPI)は前年同月に0・6%UPとなり携帯値下げの影響を除くと2%を超える勢いとみられる。21年末の産業資材や燃料、農産物の主要商品100品目の取引価格は、前年末に比べ上昇した品目が7割超えと8年ぶりの高水準になった。11月の企業物価指数は前年同月比9・0%上昇した。伸び率は41年ぶりの大きさ。原油など国際商品価格の上昇に加え、円安で原材料にかかる輸入品が値上がりしている。昨年初めの1ドル=103円台が今年1月5日には116円台と約12%下落し物価高に大きく影響を与えている。米欧の金利上昇が続けば、大量の資金が低金利の日本から円を売って海外株・米国債などの購入や値上がりが見込める海外企業の買収と対外直接投資に向かいより一段の円安が進行する可能性が高い。円安は輸出促進効果があるとされるが、この間日本企業は大規模に海外に工場を移転させており、輸出は若干増えたが輸入額の高止まりで貿易収支は4ヶ月連続の赤字となっている。

 F 通常、インフレを抑制するには金融緩和を止めて金利を上げるしかない。しかし米FRB以上に日銀は大きな問題が存在する。日銀がバランスシート(BS)の資産サイドに保有する国債の加重平均利回りは0・214%、他の資産合計では0・198%しかない。(20年9月末)しかない。一方、負債サイドには日銀当座預金残高は21年12月末で約543兆円に膨れ上がっており、現在は0・1%の金利である付利を0・2%に引き上げれば「逆ざや」に陥ることになる。仮に短期金利を1.2%に引き上げるだけで年間約5兆円の支払利息増となり2%なら10兆円増、3%なら15兆円増となる。日銀の自己資本金は約9・7兆円しかなく、赤字がこの限度を超えると「債務超過」(民間における倒産)に陥る。これこそがアベノミクスの「異次元緩和」すなわち「事実上の財政ファイナンス」の深刻な結末である。日銀の赤字が拡大すれば、政府は日銀救済資金調達の為に、大量の国債を発行するしかなく、究極的に日銀の国債引き受けによる貨幣の増発となる。日銀の債務超過の事態は、円の信用を著しく損ない激しい円安を招くのは必至でありインフレは歯止めを失う。インフレ抑制のための金利引き上げが、一層の国債発行とインフレを昂進させることになり、その目的とは顛倒した結果が待ち受けている。

 G インフレは「諸物価の値上がり」として現実化するが、その怒りを個々のスーパーやコンビニ・小売店などに向けるのは難しい。私たちの原則立場は『インフレとは「実質賃金の引き下げ」であり「年金支給額やあらゆる公的支給額の引き下げ」であると認識することである。08年の金融危機でアイルランドでは、通貨・株価・地価が暴落し財政破綻に陥った。当時の政権は財政再建のためにあらゆる税や手数料を5割増し、2倍といった水準に引き上げ労働者・市民に負担を転嫁した。インフレに立ち向かうために必要なのは、矛先を明確に示し、労働者の賃上げ・組織化の闘いとともに公的支給額の増額の闘いと政権による重税と公共料金の負担の転嫁に反対する広範な労働者・市民が連帯する地域的かつ全国的な政治闘争の構築である。

 H インフレが昂進すれば勤労者の購買力の大幅低下と金利上昇により倒産が増加し大不況が進行することになる。この事態をどうみるのか?旧来の恐慌の特徴は過剰生産による大幅な販売価格の暴落を伴った。しかし二十一世紀型恐慌においては、国債市場の暴落による信用制度の崩壊=爆発的インフレーションが発生する一方、銀行の破綻から決済システムが麻痺し大規模な企業倒産と失業者の増大による大不況が同時に進行するというースタグフレーション(stagflation)を引き起こす可能性が高い。スタグフレーションとはstagnation(停滞)、inflation(インフレーション)の合成語で、経済活動の停滞(不況)と物価の持続的な上昇が同時に進行する状態を指し、1974年の第一次オイルショックによる「恐慌」の際、この新しい特徴が表面化した。スタグフレーションは、不況から回復しようとして金利を下げるとインフレが再燃し、インフレを抑制しようとして金利を上げると不況が深刻化するという二律背反的経済状況であるため、経済の停滞が長期化する特質がある。当面するアメリカのインフレ抑制の金利上昇は、世界の低所得国の元利返済の負担を高めその経済困難は深刻化に繋がる。コロナ禍で膨らんだ低所得国の対外債務は20年に前年比12%増えて8600億ドル(約98兆円)と過去最大になっている。日米欧の先進国と途上国の矛盾と途上国内部の階級矛盾は激化する。

 I もちろん、この世界的インフレは、一直線に進行し、慢性化することを意味するわけでない。先進国支配層は金利を上げる一方で、現金給付などで不満を抑制する硬軟の政策を組合せているのであり、インフレの進行にも緩急の変化は生じうる。しかし根源的にこのインフレを抑制するには、膨大な国債発行と累積債務を解消するしかないことは厳然たる事実である。したがって資本主義はその特有の恐慌というメカニズムを克服することが出来ないことと恐慌に伴う途方もない階級格差拡大と帝国主義と途上国の格差拡大を引き起こすことは避けられない。
 
 J 財界の広報紙である日本経済新聞2022年1月1日号は、戦前の大恐慌期・戦後の冷戦期に続き「資本主義が3度目の危機にぶつかっている」それは「過度な市場原理が富の偏在のひずみを生み、格差が広がる。格差は人々の不満を高め、それが民主主義の危機といわれる状況を生み出した。」として危機感をあらわにした。著書『21世紀の資本』でも知られる「格差」を専門とするフランスの経済学者トマ・ピケティは「私たちは今、フランス革命が起こる前と同じような状況にある」「公債の支払いを先送りしていますが、それは特権階級から収税できていないからです。」「今回の危機では“格差の暴力”を目の当たりにしている」と今の世界を厳しく批判している。(クーリエ・ジャポン22年1月1日)資本主義の危機は、世界的に一段と迫っている。(関 孝一)


岸田路線「新しい資本主義」に未来なし 〜新自由主義の変異型とその危険性〜

  「新しい資本主義」を掲げた岸田政権が昨年10月に発足した。就任直後の所信表明演説では、新自由主義は、「富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ」として「新しい資本主義」の必要性を訴えた。この「新しい資本主義」のフレーズは、総選挙において自民党への支持をつなぎとめるために一定の役割を果たした。では、いったいこの「新しい資本主義」とは何か。22春闘をたたかうにあたり、内容と本質を把握し、その危険性をつかんでおかなければならない。

自民党総選挙公約はアベノミクスの焼き直し
 自民党総裁選において岸田文雄候補は、「1億円の壁を突破するために、金融所得課税を見直す」と主張し注目を集めた。金融所得課税とは、株式など金融商品で得た所得に対して税金を課すことをいうが、現在、税率は一律20・315%となっている。数百万円の利益であろうが数億円の利益であろうが税率はかわらない。そのために、1億円までは累進課税によって税額が増え続けるが1億円を超えると合計所得に対する金融所得の比率が高くなるために合計所得に対する税額が下がっていく。「富めるもの」を優遇する代表的な税制の一つである。ところが、衆議院選挙において自民党の経済政策の公約ではこの金融所得課税の見直しは盛り込まれなかった。本体なら、この時点で「新しい資本主義」は幻想であったことが見抜かれねばならなかったが有権者は騙され続けた。自民党は「新しい時代を皆さんとともに」と銘打った政権公約で「『新しい資本主義』で分厚い中間層を再構築」と打ち出したものの具体的には、労働分配率の向上へ向け賃上げに積極的な企業に税制で支援することにとどまった。また「金融緩和」「機動的な財政出動」「成長戦略」で経済を「成長」軌道に乗せると強調し、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などの規制改革も進めるとした。そのほか、財政の単年度主義の弊害是正や、技術の海外流出阻止へ向けた経済安全保障の強化なども盛り込んだ。ようは、アベノミクスの焼き直し公約であった。さすがにここまでくれば「新しい資本主義」のメッキも剥げ落ちてはいるが岸田路線「新しい資本主義」への漠然とした期待感は続いた。そのことが総選挙において立憲民主党や共産党が政権批判の受け皿とはならず自民党が勝利を収めた一因となった。

新しい資本主義実現会議の発足

 昨年、10月15日閣議において内閣官房が所管する「新しい資本主義実現本部」の設置が決定する。この本部は岸田首相を本部長としてまさに岸田政権の経済政策決定の中枢を担う本部である。その構成は、経済界はもちろん労働界から芳野友子・日本労働組合総連合会会長が並んでいる。11月8日に開催された第2回会議で「緊急提言(案)」が出されている。この「緊急提言」をもとに「コロナ克服と新時代のための経済政策」が11月19日閣議決定され、同時に同閣議で55・7兆円の大型経済対策が決定されることになる。12月6日、総選挙後の臨時国会冒頭で岸田首相は所信表明を行ったが経済政策部分はすべてこの「緊急提言」がベースになっている。

「緊急提言」の内容と問題点
 では、この緊急提言の内容とはどのようなものか。
提言では、新自由主義への反省の一定のポーズを示し「持続可能な資本主義を構築していく」としている。そのために必要なのは「成長と分配」と位置づけたものアベノミクスの批判的な検証はない。各施策を羅列しているが、経済循環構造の基盤再建、すなわち雇用と所得の安定策、国民負担の軽減、将来不安の緩和策、税制や雇用構造の見直しなどの検討は一切なされていない。成長戦略では、「科学技術立国の推進」をうちだし、社会のデジタル化、グリーン、バイオなど「先端技術開発」を進めるとしている。これは、経団連の昨年11月「新成長戦略」とぴったり重なっており民間の技術開発を「官が支援」する民間主導が基本とされている。「クリーンエネルギー開発」では、再生可能エネルギーの導入については、一応明記されているものの再エネ電気を送電線に優先的に接続する原則の導入は盛り込まれなかった。一方で「再生エネルギーのみならず、原子力や水素などあらゆる選択肢を追求」するとして原発利用を明記した。
危険な動きとしては、デジタル化である。デジタル化で蓄積されていく市民・国民の個人情報を大企業に差し出し利活用されようとしている。その範囲は、医療・介護・健康、教育、学習履歴にまでおよぶ。すでに経団連は学習履歴を企業の「採用、処遇、評価」に使うと明言している。政府は、膨大な個人情報をマイナンバーカードに紐づけし一元管理することを狙ってお入り、国が市民のあらゆる行動を把握する監視社会につながる危険がある。
 経済安全保障も大問題だ。米国と中国との先端技術開発での覇権争いが先鋭化する中で「経済安保」が盛んに議論されている。緊急提言では、台湾の半導体企業の日本進出を後押しする文言が盛り込まれた。台湾の一企業に複数年度にわたって巨額の税金をつぎ込まれることになる。
 「賃上げ」では、企業の賃上げを税制面で後押しする「賃上げ減税」が盛り込まれている。税制優遇では、法人税減税だが、これはアベ・スガの「賃上げ減税」の焼きうつしで実効性はない。
 提言では、本来なら「分配」政策の柱となるべき最低賃金の抜本的な引き上げが盛り込まれていない。「提言」ではわずか時給1000円引き上げが目標とされた。一方で、「短時間正社員の導入」や「勤務の分割・シフト制の普及」を提言し不安定雇用の拡大が狙われている。非正規労働者の待遇改善では、安倍路線の踏襲である。「正規雇用と非正規雇用の同一労働同一賃金を徹底する」といいつつ、基本給や賞与の格差是正などの具体策は全くない。むしろ、産業構造の変化を口実に労働移動の円滑化を促し、副業・兼業の拡大といった雇用の規制緩和が狙われている。このように、岸田首相は、「新自由主義の弊害」に言及し、「新しい資本主義」をめざすと表明してきたが、金融所得課税の見直しは先送りするとともに、経済対策では「デジタル化」や「経済安保」などの名目で大企業へ大盤振る舞いし、労働法制の規制緩和や非正規差別を温存するなど新自由主義を改めるどころか継続し強化せんとしているのだ。

社会保障を削減する22年度予算案

 昨年末、22年度予算案が閣議決定された。コロナ対策として計上された予算額は、わずか5兆円。しかもコロナ禍の下で病床削減を進め診療報酬はカットし、75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を2割アップして社会保障費の伸びを抑える内容だ。さらに、年金も削減し、教職員定数を3000人以上削減し、文教費を3年連続で減らそうとまでしている。このように岸田政権は、新自由主義的な社会保障の削減を進めるとともに、同時に「4万件の法律、政省令、通知などの一括見直し、来春には制度の一括改正を行う」と表明しており、デジタル化をテコとして社会福祉の分野にまで新たな規制緩和と人減らしを企てている。

岸田路線は新自由主義の変異型
 岸田政権の「新たな資本主義」やその具体的な政策は、労働法制の規制緩和、社会保障の切り捨て、消費税増税と富裕層や大企業減税といった新自由主義そのものであることは明らかだ。しかしながら、その性格は、むき出しの新自由主義ではなく表面的には新自由主義の修正やまたは離脱をもうたいつつ、実際は新自由主義を継続・深化させるタイプである。その意味では、新自由主義の変異型でもある。では、この岸田変異型新自由主義に展望はあるのだろうか。鳴り物入りの「分配」強化について見てみよう。12月10日、自公で来年度税制改正大綱決定さている。その中軸である「賃上げ減税」について企業が賃金総額を増やした場合に法人税から差し引く控除率を引き上げるというものだ。じつは、賃上げ減税は13年度から実施されているが全く効果が上がっていない制度である。企業の減税額は推計2兆円以上に上っているが、労働者の実質賃金は年収で22・4万円も減っている。控除率の引き上げで多少手直ししたとはいえ実効性は疑問視されている。実効性がないのは、企業の6割以上がそもそも赤字企業である上に基本給のベースアップでなくても賞与も減税の対象となっているからである。「賃上げ減税」が長年低く抑えられてきた賃金水準の底上げにはつながらないことは明らかだ。新自由主義の「生産と消費の不均衡」は変異型の新自由主義でも顕在化せざるを得ない。

新しい社会・経済を展望して新自由主義を乗り越えるたたかいを!!
 新型コロナが出現しいのちが奪われ生活が破壊されている。世界は未曽有の危機に直面している。ウイルスによる経済的な打撃は、感染拡大直後では世界各国同時にGDPは大幅なマイナスになった。しかし、その後は財政出動などによって欧米諸国は徐々に回復に向かっていったが、日本経済だけは停滞し続けた。20年度には08年度の8・6%減を超えて戦後最大の落ち込みを記録した。とりわけ深刻なのは個人消費であり昨年の7〜9月期には実質GDP(前期比)は、0・9%減と再び落ち込んでいる。OECD(経済協力開発機構)は、昨年12月1日、実質GDP成長率予測を発表している。それによると世界全体では5・6%の増に対して日本はわずか1・8%増となっている。日本経済の立ち遅れ、低迷は顕著である。
そこに追い打ちをかけてるのが今日のエネルギー危機と物価高だ。エネルギー危機は、コロナからの回復による需要の急増にくわえ各国ですすむ脱炭素化政策の影響、という2つの要因が重なり、LNGの生産が、急激に増えたが需要に追いつかず、価格が跳ね上がったため起ったものだ。天候不順による渇水や風力不足で、思ったほどの発電量を確保できなかったことによって再び各国が原油や石炭を確保し使おうとしたものの産油国が先行きを心配して増産に応じず、エネルギー価格が軒並み跳ね上がった。今日のエネルギー危機は、日本を直撃し電気・ガスだけでなく、ガソリン代が前年比16パーセント、灯油代も前年比20パーセント上がった。その結果、一世帯あたりの年間負担額は、去年にくらべて4万6千円も増えるという試算(第一生命経済研究所による)もあり、個人消費が一段と冷え込むことが懸念されている。今日、世界経済は、景気が停滞し、物価全体が急上昇するといった、「スタグフレーション」の状態に陥りつつある。とくに日本では、アベノミクスによる円安がすすんでおり、エネルギーの国際価格の上昇は、怒涛の物価高となって襲いかかってくるだろう。22春闘は、これまでにない社会経済環境の下でのたたかいになるだろう。
 岸田政権は、昨年11月26日の「新しい資本主義実現会議」で「来春の春闘において業績がコロナ前の水準に回復した企業については3%を超える賃上げを期待します」と表明した。「連合」も、春闘賃上げ要求を定期昇給相当分含め「4%程度」と決めている。アベ・スガ政権の下で繰り返し行われてきた「官製談合」の繰り返しだ。このような「官製春闘」では結果は目に見えている。我々は、春闘を賃金闘争とともにアベノミクスから今日までの自公政権の新自由主義にまみれた経済対策の失敗を断固糾弾するたたかいにせねばならない。と同時にその補完物たる「連合」の責任を断固追及していかねばならない。

政府や「連合」の官製春闘を乗り越えよう。 大幅賃上げ・全国最賃1500円を掲げてストをはじめとして大衆行動を背景に22春闘をたたかいぬこう。
 コロナ禍は、新自由主義のもとで社会に蓄積された矛盾を白日の下に晒した。まさに新自由主義の破綻を物語っている。しかし、新自由主義は破綻したと言ってもそれだけで新自由主義は終焉するわけではない。コロナ危機の下でも岸田政権はデジタル化の推進や規制緩和をすすめようとし惨事便乗型の新自由主義的「改革」を進めようとしている。我々は、新自由主義にかわるオルタナティブな社会構想をもった政治勢力を形成しなければならない。新しい社会の構想をより具体化するとともに地域や職場でリアリティをもって示していくことが求められている。(矢吹 徹)


せんりゅう

   戦死者の骨の土まで辺野古海
 
        アフガンの大地に命の水の音

   憎悪より平和の連鎖天高し

                            る り 


   お笑ひわらひまくれよ笑ふ門

        そうではない真実をぼくら見詰めてる

   戦争をしないアメリカ見たことない

        はじめての株は株でもオミクロン
            
                            ゝ 史

2022年1月


複眼単眼

       「台湾有事」念頭の日米2+2文書


 安倍晋三首相(当時)は辞職直前の2020年の9月11日の記者会見で、「ミサイル防衛に関する新たな安全保障政策の談話」を発表した。
 自民党内にも「やめていく首相が方針を決めるのはおかしいという議論があった。退陣する首相が次期政権の安保政策を縛りかねない懸念があるのだ。
 談話は、敵国のミサイル攻撃を防ぐため「迎撃能力」を上回る対策を検討し、与党と協議して年内に結論をまとめると主張した。これは従来の「専守防衛」の安保・防衛政策を転換し、ミサイルが発射される前に相手国の基地をたたく「敵基地攻撃能力」の保有検討を促す内容だ。
 この「談話」は閣議決定を経ておらず、政府の公式見解ではない首相個人の認識を示す形式を採った。安倍氏によると、この日を含めて国家安全保障会議(NSC)で5回議論したという。
 安倍政権を受け継いだ菅義偉政権は、コロナ対策などの政策的優先順位もあり、この安倍前政権の「遺言」の実現にただちに取り組むことをしなかったが、2021年の4月の2+2で「中国に対する揺ぎない同盟」を表明し、つづく菅・バイデンによる日米首脳会談では52年ぶりに異例の台湾問題に言及した。
 岸田氏は昨年10月の自民党裁選にからんで、敵基地攻撃能力の保有の検討を改めて表明した。これは安保・防衛政策については、安倍元首相の路線を継承することの表明であった。
 そして1月7日にひらかれた今年最初の日米安全保障協議会(2+2)では日本政府は「敵基地攻撃能力保有」を前提に「ミサイルの脅威に対抗するための能力」について、あらゆる「選択肢を検討する方針を米側に伝えた。
 そして「日本は国家の防衛を強固なものとし、地域の平和と安定に貢献する防衛力を抜本的に強化する決意を表明」、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促した」と。
 共同文書では南西諸島にある米軍や自衛隊の施設の共同使用促進も盛り込んだ。 
 しかし、敵基地攻撃能力の保有は従来の日米安保体制で米軍が「矛」の役割を分担し、自衛隊が「盾」の役割を受け持つとされてきた日米役割分担の見直しに繋がるもので、大きな問題となる。岸田政権は今年中の国家安全保障戦略など防衛3文書の改訂の中でこれを解決しようとしている。
 このところ、安倍・菅政権を受け継いだ岸田政権の特徴がすけて見えてきた。岸田は政権を手にいれるために「悪魔に魂を売った」といわれてきたが、もしかしたら、安保防衛政策で安倍晋三の清話会にすり寄りながら、国内政策・経済政策で宏池会的な独自性を発揮しようとしているのではないか。「新しい資本主義」、民主主義の危機、アベノミクスからの脱出、賃上げと連合との接近などなど、その姿は何やら宏池会の創設者池田勇人に似通った雰囲気だ。
 そういえば、池田勇人にしてからが、戦後最大の民衆の政治闘争であった「60年安保」闘争に対し、自衛隊の出動を主張したことで有名でもあるのだから、この「元祖リベラル」もとんでもないことではある。(T)