人民新報 ・ 第1419号統合512号(2023年3月15日)
  
                  目次

● 暴走する岸田政権を打倒しよう

          大軍拡・改憲阻止! 統一自治体選挙勝利!

● 総務省「行政文書」を読む

          政権のマスコミ支配・高市らは議員辞職せよ

● ロシアは即時撤退せよ!全ての戦争と戦争準備に反対!

          さようなら原発実行委、総がかり行動実行委がロシアのウクライナ侵攻から1周年集会

● 朝鮮3・1運動104周年集会

          差別意識を作り出す「植民地戦争」

● 日本学術会議法改悪を許すな

          学者・法曹界からも批判の声

● 政府・経団連・連合芳野の欺瞞的賃上げ論

          けんり春闘が経団連抗議行動

● 伊藤誠さんの思い出

● せんりゅう
  

● 複眼単眼  /  放送に介入した安倍晋三政権





暴走する岸田政権を打倒しよう

       
 大軍拡・改憲阻止! 統一自治体選挙勝利!

 岸田首相は、被爆地・広島で5月下旬に開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)で「核兵器のない世界」を訴え、各国指導者らによる被爆地訪問などで核軍縮の機運を高めたいとアピールしている。その実、日本は米国の「核の傘」の下にあるだけでなく、「憲法は、防衛のための必要最小限の範囲内ならば核兵器の使用も禁じていない」という政府見解を堅持し、また、いつでも核武装できるように核物質を蓄積、ロケット技術の推進など潜在的核保有国路線を推進している。
 岸田政権は軍事大国化の安倍政治を継承するとともに、一段とそのテンポを早めている。こうした歯止めがかからない岸田内閣の暴走には、自民党内からも批判の声が上がっている。
 最近のテレビインタビューで現在の岸田派である「宏池会」の前の派閥会長であり岸田の「政治の師」とも言われる古賀元自民党幹事長は、岸田政治に批判的な見方を表明した。古賀の見解は、「宏池会はね、物事の結論を国民にどう理解できるような説明ができるかという、真摯な説明というものが一番基本になっている」とし、憲法9条の大切さを強調し「それが理想であれば、理想を実現するのが政治でなければならない」とする。
 古賀のHPには、「政治の王道を歩み続ける宏池会」を自認するとともに「時代先取の政策提言を行なう知的集団、政治権力より政治の最適選択を行なう政治集団、まさにその名に恥じない国づくりに貢献し、宏池会の歴史は戦後日本の歴史そのものであります」とある。
 しかし、岸田は、昨年12月に「『軽武装・経済重視』というご指摘ありましたが、宏池会の本質は徹底した現実主義だと思います」と述べた。これは、岸田が従来の「宏池会」の路線から逸脱し、安倍・麻生などの自民党右派の側に移行したことを公言したものだ。 また古賀は、「悪魔とも握手してね、それを達成するというのも『責任倫理』だと言ってるんですね、マックス・ウェーバーは。しかし、その悪魔の言う通りになったら本末転倒で、それは許せませんよねと」とのべたことがあったが、先のインタビューでも、「清和会(安倍派)はですね、結論ありきなんですよ。宏池会はね、物事の結論を国民にどう理解できるような説明ができるかという、真摯な説明というものが一番基本になっていると」の発言している。
 岸田の悪魔との協働の象徴が、時代を画した安保三文書による大軍拡政策だ。防衛省は、「我が国の防衛と予算(案)令和5年度予算の概要〜防衛力抜本的強化『元年』予算〜」で、中国、北朝鮮、ロシアを名指しした上で「『防衛力整備計画』においては、『国家防衛戦略』に従い、宇宙・サイバー・電磁波を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする多次元統合防衛力を抜本的に強化し、相手の能力と新しい戦い方に着目して、5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化することとしている」「このように抜本的に強化された防衛力の構築に向けた初年度において、必要な経費を積み上げたもの」として、「歳出予算は、整備計画対象経費として6兆6001億円を計上、前年度比で1兆4213億円(27・4%)増。米軍再編等を含めると6兆8219億円となり、「防衛費の相当な増額」を確保」「新規後年度負担(新たな事業)は、整備計画対象経費として7兆676億円を計上、前年度比で2・9倍。装備品の調達には複数年度を要するが、1年でも早く、必要な装備品を各部隊に届け、部隊で運用できるよう、初年度に可能な限り契約」と巨額の予算配分を求めた。
 岸田内閣は、昨年12月、2023年度から5年間の総額を43兆円程度とすることを閣議決定した。弾薬の確保、敵の基地を攻撃する反撃能力の装備を整備、南西諸島への部隊展開能力を強化する軍事予算は、過去最大の増額で、現行5年間の計画から1・6倍に積み増すことになる。

 岸田政権は、軍事大国化・戦争実戦準備の政権である。米国の世界覇権の維持・強化の先兵の役割を担う東アジアに於ける戦争策源地となる危険が現実化されようとしている。
 こうした強権的反動的な政権を一日も早く打倒しなければならない。
 4月の統一地方選挙でも自民党とその追随勢力に打撃を与えなければならない。安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合は「統一自治体選挙に向けた市民連合のアピール」(2面掲載)を発表している。市民と野党は一層団結し、候補者の統一を実現していくべき時だ。
 おおきく連帯の輪を広げて反戦平和・改憲阻止の運動を前進させていこう。

              ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


統一自治体選挙に向けた市民連合のアピール

 安保3文書を閣議決定した岸田自公政権は、敵基地攻撃能力の確保や防衛予算の大増額の方針などをもって「安保政策の歴史的大転換」と称しています。政策転換の内容に加えて、「平時」 から憲法も国会も存在しないかのような独裁的な手法を取る政府が、いざ「戦時」の危機が迫った際に憲法や国会を尊重して国民を守るとは 到底考えられません。現に岸田首相は、通常国会で国民の疑問に答える前に渡米し、バイデン大統領のお墨付きを得ることを優先しました。

 しかしこれまでのところ、足並みの乱れた立憲野党の動きは総じて鈍く、本来ならば「歴史的な国会」となるべきところが、論点が拡散し、今ひとつ焦点が定まらないまま、だらだらと「既成事実」に馴らされていく嫌な感じに焦りが募ります。

 そんな中で、私たちの声で政治を動かすチャンスとして4月の統一地方選挙がやってきます。 平和国家として、いのちと暮らしを守る政治への「大転換」を訴えてきた私たちと考えを同じくする候補者を一人でも多く当選させることが重要です。

 市民連合では、憲法に基づき個人の尊厳を求める政治を求めてきましたが、これは憲法の中でも9条に加えて、13条に基づくものです。

 具体的な争点は、各自治体で異なってくる面があるのは当然ですが、誰もが自分らしく暮らせるよう、戦争に巻き込まれる準備ではなく、いのちや暮らしを守る、13条に根ざす政策を掲げる候補者をそれぞれに支援しようではありませんか。

2023年3月8日

          安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合


総務省「行政文書」を読む

          
政権のマスコミ支配・高市らは議員辞職せよ

 政権によるマスコミ支配の実態が暴露され始めた。 小西洋之立憲民主党参院議員によって放送法が規定する「政治的公平」の「解釈変更」を試みた総務省作成の内部文書が示されたことが発端だ。
 これまで総務省は「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」と政治的公平性について解釈してきた。「政治的公平について(平成26年11月28日)総務省情報流通行政局」は次のように記述している。「放送法第4条第1項第2号の規定により、放送事業者は、その番組の編集にあたり、『政治的に公平であること』が求められている。ここでいう『政治的に公平であること』とは、政治的な問題を取り扱う放送番組の編集に当たっては、『不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてバランスのとれたものであること』である。その判断にあたっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断することとなる」。
 現在のマスコミが十分に政治的に公正であるということはできないが、政府のもくろんでいることは放送事業をいっそう政府の意向に沿ったものにしていこうということである。
 小西議員の指摘した総務省文書は、2014年に安倍内閣の礒崎陽輔首相補佐官が総務省に放送法の新解釈などを求めたことから始まる。11月26日(水)の項には、「磯崎総理補佐官付から放送政策課に電話で連絡。内容は以下の通り。・放送法に規定する『政治的公平』について局長からレクしてほしい。・コメンテーター全員が同じ主張の番組(TBSサンデーモーニング)は偏っているのではないかという問題意識を補佐官はお持ちで、『政治的公平』の解釈や運用、違反事例を説明してほしい。」「今すぐ何かアクションを起こせというわけではない。放送の自律、BPO(放送倫理・番組向上機構)が政治的公平についても扱っていること等は理解。これまで国会答弁を含めて長年にわたり積み上げてきた放送法の解釈をおかしいというつもりもない。他方、この解釈が全ての場合を言い尽くしているかというとそうでもないのではないか、というのが自分の問題意識。…聞きたいことは2つある。まず1つ目だが、1つの番組では見ない、全体で見るというが、全体で見るときの基準が不明確ではないかということ。『全体でみる』『総合的に見る』というのが総務省の答弁となっているが、これは逃げるための理屈になっているのではないか。そこは逃げてはいけないのではないか。…(確かに様々な事例、事案があるので、『基準』を作れとは言わないが)総務省としての考え方を整理して教えて欲しい。」とある。
 番組名まで挙げての権力側からの圧力そのものだ。
 2015年3月には安倍が「政治的公平の観点から現在の番組にはおかしいものがあり、現状は正すべきだ」と発言、5月には当時の総務大臣・高市早苗が「一つの番組でも極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」という国会発言がある。

 国会で小西議員に追及された当時総務大臣だったる高市経済安全保障担当大臣は「文書は捏造だ」「本物だったら、大臣も議員も辞める!」と啖呵を切った。
 しかしその後、松本剛明総務相は同資料を「行政文書」であることを認め、総務省はHP上で「政治的公平に関する文書の公開について」とのタイトルで全文を公表した。
 小西議員指摘の78ページにも上る文書は真実のものと総務省は認めた。
 総務省の「政治的公平に関する文書の公開について」は興味深い―「3月2日、小西洋之議員が、放送法第4条第1項に定める『政治的公平』の解釈について、当時の総理補佐官と総務省との間のやりとりに関する一連の文書を公開しました。これを受けて総務省では、公開された文書について、総務省に文書として保存されているものと同一かといった点についてこれまで慎重に精査を行った結果、小西議員が公開した文書については、すべて総務省の『行政文書』であることが確認できましたのでお知らせします。なお、既に同じ内容の文書が、一般に公開されていることに鑑みて、全て公表PDFすることとしました。また、その記載内容の正確性が確認できないもの、作成の経緯が判明しないものがある点にはご留意いただければと思います。」
 安倍の森友学園・加計学園問題の時のようには、官僚は動かなかったのである。
 
 文書のうち高市に関わるものは4ページほどで、高市と安倍の電話のやりとりなどの記述がある。
 2月13日「高市大臣レク結果(政治的公平について)」には、「場所 大臣室」「先方 高市大臣、平川参事官、松井秘書官」「当方 安藤局長、長塩放送政策課長、西がた(記)」の席上で、高市は「そもそもテレビ朝日に公平な番組なんてある?どの番組も『極端』な印象。関西の朝日放送は維新一色。維新一色なのは新聞も一緒だが、大阪都構想のとりあげ方も関東と関西では大きく違う。」「苦しくない答弁の形にするか、それとも民放相手に徹底抗戦するか。TBSとテレビ朝日よね。実際の答弁については、上手に準備するとともに、@(カッコつきでいいので)主語を明確にする、A該当条文とその逐条解説を付ける、の2点をお願いする。」「官邸には『総務大臣は準備をしておきます』と伝えてください。補佐官が総理に説明した際の総理の回答についてはきちんと情報を取ってください。総理も思いがあるでしょうから、ゴーサインが出るのではないかと思う」と述べている。高市らしい安倍の権力は背景にした露骨な物言いだ。
 また「高市大臣と総理の電話会談の結果(平成27年3月9日(月)夕刻)」には、「大臣室・平川参事官から安藤局長に対して以下の連絡。政治的公平に関する件で高市大臣から総理に電話(日時不明)。総理からは、「今までの放送法の解釈がおかしい」旨の発言。実際に問題意識を持っている番組を複数例示?(サンデーモーニング他) 国会答弁の時期については、総理から、『一連のものが終わってから』とのご発言があったとのこと。」とある。
 この文書に不当な圧力をかけようと躍起になっている登場人物は、安倍、磯崎、高市などの面々である。かれらには重大な責任があり、当然の処罰が加えられなければならない。


ロシアは即時撤退せよ!全ての戦争と戦争準備に反対!

         
 さようなら原発実行委、総がかり行動実行委がロシアのウクライナ侵攻から1周年集会

 ウクライナへのロシアの侵攻から1年がたった。欧米のウクライナ経済・軍事支援、対ロ制裁が強められているが、戦況は一進一退で推移している。が、このところロシア側の攻勢が強まっているとも見られ、ザポリージャ原発も危険にさらされている。その間に市民・兵士の犠牲の拡大、難民の増大、世界的エネルギー・食料価格の高騰、世界的な緊張の激化が進行した。
 また、日本政府はウクライナ戦争に便乗して、台湾有事=日本有事を煽り、「防衛3文書」を改定し、日米軍事同盟強化・大軍拡・改憲の策動を強めている。ウクライナ戦争の長期化・激化を望んでいるのはアメリカ・バイデン政権も同様だ。ロシアを弱体化させるため、米国のエネルギーの輸出拡大、そして米軍需産業の大もうけのためだ。同時に欧州・日本がより米戦略に組み込まれることも彼らのメリットだ。
 即時停戦とロシア軍の撤退、そして岸田軍拡に反対する大きな運動を進めていこう。

 2月24日、小雨模様の中、日比谷野外音楽堂で、「ロシアは即時撤退せよ!原発に手を出すな!核使用恫喝許さない!全ての戦争と戦争準備に反対!ロシアのウクライナ侵攻から1年。ウクライナに平和を!日比谷野音集会」(さようなら原発1000万人アクション実行委員会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)が開かれた。
 高田健さんが主催者を代表してあいさつ。ロシアがウクライナに軍事侵攻してから1年になる。ロシアの軍事侵攻を糾弾し、戦争に反対して闘っている世界の人びとと連帯していこう。この事態を口実にして、軍拡・増税・改憲をすすめる岸田政権と闘っていこう。
 フリー・ジャーナリストの志波玲さんが直近に訪問したウクライナの状況について報告し、いまだに天然ガスなどエネルギーをロシアから購入している日本政府の姿勢を批判した。
 つづいてNGO「ピースボート」共同代表の畠山澄子さんと日本国際ボランティアセンター(JVC)代表理事の今井高樹さんが報告を行った。

 集会を終わってデモに出発し、「ウクライナに平和を!」をアピールした。


朝鮮3・1運動104周年集会

        
  差別意識を作り出す「植民地戦争」

 今年は日本植民地からの解放を求めて朝鮮全域で人びとが立ち上がった1919年3・1運動から104周年、関東大震災での朝鮮人・中国人虐殺から100年を迎える。そして、停戦協定から70年を迎え、朝鮮半島・周辺諸国では朝鮮戦争を終結させる平和協定締結が強く求められている。
 いま、岸田政権は多くの人びとの平和への願いに逆行して、日米軍事同盟の強化、反朝鮮・反中国の軍備増強を強引に推し進めている。東アジアでの政治的軍事的緊張が高まるなかで、反戦平和の闘いは、ますます重要になってきている。

 2月25日、文京区民センターで「東アジアの民衆連帯で新たな戦争を起こさせない!植民地支配を精算して大軍拡を止めよう!3・1朝鮮独立運動104周年集会」(主催「3・1朝鮮独立運動」日本ネットワーク(旧100周年キャンペーン)、協賛、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)が開かれた。
 はじめに、渡辺健樹さん(日韓民衆連帯全国ネットワーク共同代表)が主催者を代表して挨拶。渡辺さんは、今集会の意義を強調するとともに、集会に参加して発言する予定だったチェ・ウナさん(韓国進歩連帯自主統一委員長・6・15共同宣言実践南側委員会事務局長)を日本政府が入国拒否する暴挙を糾弾した(抗議声明・別掲)。

 慎蒼宇(シン・チャンウ)法政大学教授が、「関東大震災時、朝鮮人はなぜ殺されたか? 朝鮮植民地戦争と三・一独立運動、朝鮮人虐殺への道」と題して講演した。
 関東大震災時の朝鮮人虐殺は「天災」ではなく「人災」であり、しかも、その「人災」は単なる一過性の出来事ではない。植民地ですでに多くの鮮民衆虐殺を日本軍将兵、憲兵、警察が経験し、日本で虐殺を後方から支える社会も確実に形成されていた。
 今年、関東大震災100年を迎えるが二つの歴史意識の欠如を指摘しなければならない。一つは朝鮮人虐殺に対する歴史認識、人権意識の問題であり、もうひとつは、植民地主義への告発、民衆・民族運動の歴史に対する認識の問題だ。その二つを統一的に捉える歴史認識が必要だ。関東大震災時の朝鮮人虐殺の背景には、日本による朝鮮植民地支配とそれに対する植民地支配からの独立を求めた運動があり、それを「反日」「暴徒」とし、凄惨に弾圧し続けた歴史があった。それが「朝鮮植民地戦争」だ。それらによって作り出された「不逞鮮人」像を増幅させ無実の民衆への暴力に転化させたのである。現在もこの時期に形成された植民地主義は克服されていない。これが二つの歴史意識の欠落ということである。
 関東大震災時の朝鮮人虐殺が決して「偶然」でも「天災」でもないという理由は、官民一体での迫害の経験とその正当化論が蓄積され、それが虐殺に帰結したのである。台湾、朝鮮での日本軍隊・憲兵・警察等による植民地征服と植民地支配下での戦時・準戦時の継続という観点から見れば日清戦争以降は「50年戦争」といえる。
 朝鮮値民地戦争の展開からみれば、甲午農民戦争(1894〜95)、日露戦争下の民衆迫害(1904〜05)、義兵戦争(1906〜15)、三・一独立運動(1919)、シベリア戦争(1918〜25)、間島虐殺(1920)から関東大震災へという経過である。この間、日本の朝鮮植民地支配に対して朝鮮人の頑強な民族独立運動が継続されたが、これに対し、日本は殲滅と「連座制」による虐殺を繰り返した。
 まず、なにより軍司令官・参謀長・連隊長などの台湾・シベリア・朝鮮などでの植民地戦争・ジェノサイド経験をあげなければならない。司令官レベルの「朝鮮植民地戦争」の経験が世代を越えて50年間も継続された。日本陸軍師団と歩兵・騎兵・野砲兵連隊の「戦争」経験では、すべての師団(近衛、第1〜18)に朝鮮派兵経験があり、関東(第1、第14師団)、中部(第3、第9、第13、第15師団)、東北(第2、第8師団)があげられる。とくに関東の師団は関東大震災時の朝鮮人虐殺をおこなったのである。
 甲午農民戦争以来、「暴徒殲滅」「処分」が繰り返されてきた。甲午農民戦争の1894年9月2日には、釜山兵站監大邱兵站監が「責任ある村は焼き払い、其民は撃殺すべし」とし、同年10月27日の大本営秘密命は「ことごとく殺戮すべし」としている。義兵戦争では、軍司令官の一般民衆の告示(1907・9・8)で、義兵の「無根拠地化」、村落連座制がだされた。「捕虜」に対す司令官の通達(1907・8・23)では「成るべく捕虜とする以前に於いて適宜処分すべし」とまでしている。
こうしたなかで、「独立の陰謀を謀る恐るべき朝鮮人」=「暴徒」「不逞鮮人」観が形成され、日本社会に浸透させられてきた。これが、関東大震災時の流言で「架空のテロリスト」を生み出す要因となった。ただし、それは今までの先行研究が強調してきたような「三・一以降」ではなく、「植民地戦争のなかで」作られてきたといわなければならない。例えば、九州日日新聞1908年5月10日の「(社説)韓国暴徒の討伐」はつぎのように書いている。「蓋し未開の民を治むるの道は、恩恵を以て之を悦服せしめんとするより誤れるはなし。彼等は威の畏るべきを識るも、恩の懐くべきを感ぜず。寧ろ軽侮の念を以て之を観る也。韓民由来遅鈍蒙昧にして、併も剽悍殺伐の気其中に存せる者あり。彼等に臨むは惟大威圧、大厳励を以てすべきのみ。要するに、軍隊的政治は実に今日に処するの最善の治道たるなり。(中略)韓人に対して濫りに独立的観念を増長せしむるが抑々の間違いなり。固より韓国は名義に於いて独立国に相違なきも、併も日本の保護によりて其独立の名を保てり。即ち日本ありて初めて独立ある也。然るに韓人をして濫りに独立心を増長せしめて、其自国真正の立場を顧みず、以て日本の統治に不平不服を唱はしむるに至りては、頗る馬鹿々々しき也。日本は韓国に対し、先ず事実上の示現によりて、韓国をして此構想を悟らしめざる可らず、其道外なし。反抗行動を為し、不平不服の云為を済する者に対しては、ドシドシ抑圧すべきのみ。抑圧して痛みを感せしめ、以て自国真正の立場を悟るを余儀なくせしむべきのみ。是れ実に今日韓国統治の根本義ならざる可らず」。
 こうした背景で軍法違反の蛮行の恒常化とその隠蔽・正当化が行われ、軍法違反の蛮行「やむなし」が恒常化した。
 1919年3月1日、水原郡竜頭閣市場で群衆は万歳示威行動をおこなった。4月15日に日本人警官1人が殺されたことを理由に、日本軍は住民30余名を教会堂に集め、石油をかけて放火し、逃げまとう人に発砲した。提岩里、松山里、沙江里などの民家に放火し15村落317戸の延焼で、死者39名の大虐殺となった。これに長谷川好道朝鮮総督は、総理大臣宛電報で「水原事件ニ関シ宣教師代表者来訪ノ際彼等ニ対シ遣感ノ意ヲ表シタルハ事実ナルモ虐殺ヲ認メタルニアラス、右事件ハ兵士ガ人民ノ反抗ニ対シ止ムヲ得ズ取リタル措置ナル」とし、虐殺ではなく兵士が「やむを得ず」取った措置だと正当化した。虐殺被告の歩兵第79連隊付陸軍歩兵中尉有田俊夫は「無罪」とされた。
植民地戦争は虐殺=無罪の構造によってすすめられたことを証明するような事後処理であった。
 このような構造の帰結が、関東大震災時の大虐殺であり、「官民一体」のジェノサイドとなった。軍隊・警察とともに民衆も虐殺に加わったのである。野戦砲兵第一連隊(東京駐屯)や習志野騎兵第15連隊などが虐殺に関与した。習志野騎兵連隊兵卒は回想している。「『敵は帝都にあり』というわけで、実弾と銃剣をふるって侵入したのであるから、中々すさまじかったわけである。…将校は抜剣して列車の内外を調べ回った。どの列車も超満員で、機関車につまれてある石炭の上まで蠅のようにむらがりたかっていた。その中に混じっている朝鮮人はみなひきずり下ろされた。そして直ちに白刃と銃剣下に次々と倒れていった。日本人避難民の中からは嵐のように沸き起こる万歳、歓呼の声―『国賊!朝鮮人はみな殺しにしろ!』」と述べている。
また「不逞鮮人が殺人・放火している」「不逞鮮人が井戸に毒を入れた」「襲撃してくる」というデマが飛んだが、これには多くの証言に地域派出所の巡査がメガホンを持って触れ回っていた事実があるように、警察の主導的な動きがあった。
 また殺害者数の問題軍隊・警察による殺戮の隠蔽があり、司法省「震災後に於ける刑犯及び之に関連する事項調査書」では死者約230人としている。遺体の焼却・殺害の証拠隠滅・正確な人数把握が困難などがあるが、司法省調査は警察や軍隊による大量の虐殺が含まれていない。自警団に責任を転嫁している。
 日清・日露戦争時から民族運動指導者は日本の植民地化の罪・責任の所在・諸条約の不法性を告発していた。
 しかし、日本は「当時としては合法だった」といまだに主張し続けているように、日本は戦争責任に比べ植民地支配と諸犯罪の罪・責任を的に問い直すことが不十分だ。
 日韓基本条約・日韓請求権協定 (65年体制)で 「解決済み」 ではない。問われているのは「15年戦争」の諸犯罪だけではない。「人道に対する罪」を援用した「植民地支配の罪」の定義が必要だ。植民地支配の犯罪とその罪、責任を不問に付してきた帝国主列強の問題はおおきい。植民地問題を不問に付した東京裁判・BC級戦犯裁判、サンフランシスコ条約などもそうだ。「植民地責任」は最終的な世界的な「人道に対する罪」の課題として処理されなければならない。

 韓国ゲストからは、入国拒否されたチェ・ウナさんにかわって、韓国進歩連帯自主統一局長のキム・チヘさんが、「朝鮮戦争の停戦70年、新しい平和の道を切り拓こう!〜停戦70年に向けた平和行動の提案〜」と題して報告した。新冷戦ともいえる緊張状態が到来した。アメリカはNATOや韓日を使って反中国・ロシアの協力体制作りに躍起となっている。しかしこうした政策は世界各地で反発を受けている。東アジアでは米韓合同軍事演習で緊張が高まっている。朝鮮戦争70年に当たり手平和協定を求める100万人署名などの行動を行っていく。朝鮮と東アジアの平和協力体制を築くために連帯して運動を進めていこう。
 
 国会からは、参議院議員の高良鉄美さん(参院会派・沖縄の風)が南西諸島軍事化について特別報告を行った。

 3月1日には新宿でアピール行動がおこなわれた。

             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


チェ・ウナ氏の入国拒否に抗議する

 昨日(2月24日)成田空港入管事務所は、東京で開催される「3・1朝鮮独立運動104周年集会」への招請を受けて来日したチェ・ウナ氏を入国拒否するという暴挙をおこなった。チェ氏は不当にも数時間にわたり拘束され、その間入管職員に日本側の集会主催者から送られた招請状を提示し、日本側主催者確認して欲しいという要求も無視した。招請元の日本側主催者からの成田入管への問い合わせにも、「どういう状況かも教えられない」という一点張り・であった。
 今回入国拒否されたチェ・ウナ氏は韓国の市民・社会運動団体の幹部として朝鮮半島の平和と統のため尽力している人物である。
 これは東アジアの平和を求める市民・民衆の交流と連帯を妨害しようとするものであり、とくに日韓間で懸案となっている徴用工問題などで被害者を無視した「解決案」が出され、米日韓軍事協力を押し進めようとする中での動きであると言わざるをえない。しかもこの間、平和・人権運動の人士の空港での数時間にわたる拘東や嫌がらせが繰り返し行われている。
 私たちは今回のチェ・ウナ氏入国拒否をおこなった入管当局に強く抗議する とともに、二度とこのようなことが繰り返されないよう強く要求するものである。

2023年2月25日

          「3・1朝鮮独立運動」日本ネットワーク


日本学術会議法改悪を許すな

          学者・法曹界からも批判の声


 菅政権は日本学術会議の6人の会員候補を任命しなかった。そして岸田内閣は、昨年12月6日に「日本学術会議の在り方についての方針」を発表し、また同月21日には、「日本学術会議の在り方について(具体化検討案)」としての追加説明文書を示すなど、本通常国会での日本学術会議法改正案の提出・成立で、会員を選ぶ際に第三者が関与する仕組みを導入することなどによって日本学術会議にたいする政府の変質・御用機関化を進めようとしている。
 法改正の狙いは、まさに日本学術会議の独立性および自主性を奪い、政府のいうままに軍事を始め国策に沿った研究を行う機関にすることである。

 しかし学術会議の会長経験者5人の共同声明「岸田文雄首相に対し日本学術会議の自主性および独立性の尊重と擁護を求める声明」(2月14日)やノーベル賞受賞者など8人による日本学術会議法改正の再考求める声明「日本学術会議法改正につき熟考を求めます」(2月19日)などをはじめ、政府の暴挙に批判の声がひろがっている。

 こうした状況で法案の国会提出は遅れてきている。3月8日、磯崎仁彦官房副長官は国会提出時期が遅れるといった。だが、松野博一官房長官は記者会見で、今国会提出方針は維持していると断言した。日本学術会議法改正は、戦争する国づくり政策の一環であり、断固として阻止しなければならない。

日弁連小林元治会長の声明

 2月28日、日本弁護士連合会の小林元治会長は「政府の『日本学術会議の在り方についての方針』に反対する会長声明」を公表した。―当連合会は、2020年10月1日になされた内閣総理大臣による6名の日本学術会議会員候補者の任命拒否を受けて、同月22日に「arrow日本学術会議会員候補者6名の速やかな任命を求める会長声明」を、2021年11月16日に「arrow日本学術会議会員任命拒否の違法状態の是正を求める意見書」をそれぞれ発表し、この任命拒否は従来の政府の解釈に反し、日本学術会議法の関係規定にも違反する違法なものであるとともに、政府の政策に批判的な活動を理由とする懸念があり、学問の自由の脅威となりかねないとして、6名の速やかな任命とともに、任命拒否の経緯と判断過程等について説明責任を果たし、今後、日本学術会議の独立性と自律性を尊重して会員の選任過程に介入しないこと等を求めてきた。…日本学術会議は、2022年12月21日に発表した「声明」において、既に学術会議が独自に改革を進めているもとで、法改正を必要とすることの理由(立法事実)が示されていないこと、会員選考のルールや過程への第三者委員会の関与が提起されており、それは学術会議の自律的かつ独立した会員選考への介入のおそれがあり、また、先の任命拒否の正統化につながりかねないこと、政府等との協力の必要性は重要な事項であるが、同時に、学術には政治や経済とは異なる固有の論理があり、「政府等と問題意識や時間軸等を共有」できない場合があることが考慮されていないこと等を指摘し、本件方針が日本学術会議の独立性に照らしても疑義があり、その存在意義の根幹に関わるものであるとして、拙速な法制化に対して強く再考を求めている。…日本学術会議が指摘する内容は、当連合会がこれまで発出した声明や意見とも基本的に方向性を同じくするものである。政府が日本学術会議に「新たな組織に生まれかわる覚悟」を迫り、その独立性・自律性と存在意義の根幹にも関わる制度の改変を行おうとするのであれば、まず日本学術会議との十分な協議や国民的議論を尽くすべきであり、それを欠いたまま性急に法改正を行うべきものではない。よって、当連合会は、政府に対し、かかる本件方針に反対しその撤回を求めるとともに、改めて2020年10月の会員任命拒否を是正してその正常化を図り、日本学術会議の独立性と自律性を尊重し、相互の信頼関係を構築することを求めるものである。―


政府・経団連・連合芳野の欺瞞的賃上げ論

          けんり春闘が経団連抗議行動


 日本の低賃金水準は世界的にも顕著なものとなっている。物価の急上昇の中で、多くの人びと労働者とりわけ非正規、中小零細企業の労働者の生活はいっそうの打撃を受けている。一方で、大企業の内部留保はかつてないほど蓄積されている。賃上げの原資はあるのだ。
 政府・財界は、この間の日本経済の停滞に恐怖ともいえるほどの危機意識を持っている。1月10日、定例記者会見で十倉雅和会長は、「日本全体で賃金引上げの機運を醸成すべく、働き手の約7割を雇用する中小企業に賃金引上げのモメンタムを広げていく必要がある。公正・適正な取引の徹底や、デジタルトランスフォーメーション(DX)支援等を通じた中小企業の生産性向上と付加価値増大が不可欠である。適正な価格転嫁を促すべく、経団連・日商・同友会の三団体長連名で、それぞれの会員企業に対しパートナーシップ構築宣言への参画と着実な実行を近く要請する」と述べた。政府・経団連の賃上げ期待論はそれを示している。経団連の傘下の大企業の賃上げが物価上昇以下にとどまる。それも定期昇給分も含んでのことだ。連合・芳野執行部は、政府・財界と連動して、話し合いでの賃上げ論を宣伝している。
 しかし、個別資本にとっては賃上げは利潤を圧迫するものとして、十分な賃上げ要求には応じない。そもそも経団連の幹部役員を出している大企業が「異次元」の大幅賃上げをやろうとしていないではないか。
 ストライキを含む労働者の実力行使による労資の対決でいやいやながら賃上げに応じてくるのが資本主義社会の常道だ。

 2月17日、23けんり総?動実?委員会による全一日の東京総行動が展開され、昼には経団連への抗議・要請行動が行われた。
 集会では、けんり春闘実行委員会共同代表の渡邊洋全労協議長が主催者あいさつ。連合の5%要求でさえ闘いなくして実現できない。しかし、連合執行部はその要求の本当に実現する姿勢はない。岸田政権と経団連は格差を放置したたままだ。岸田政権の軍拡・増税は労働者の生活を一段と圧迫するものだ。ストライキを含む行動こそ要求貫徹の前提であり、団結して闘わなくてはならない。
 つづいて、全水道東京水道労働組合、全労協全国一般東京労働組合、JAL被解雇者労働組合(JHU)、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)からのアピールが行われた。


伊藤誠さんの思い出

 2月10日、朝日新聞の死亡告知欄を何気なく見ていたら伊藤誠さんの他界を知った。
 思いがけない他界(2月7日心筋梗塞)であった。
 1982年、私たちは地域の学習グループで伊藤誠さんに小人数の集まりにも関わらず来阪してもらい講演をして頂いた。マルクス没後100年の年であったことから寺尾五郎さん、佐藤進さん、菅孝行さんら何人かの方に連続で講演して頂いた。
 伊藤さんは私の中では原理論、段階論、現状分析の方法論で知られていた宇野学派の研究者であった。ソ連の登場によって資本主義の世界性が失われ、段階論は適用されなくなったといった問題が議論されていた。 今日、殆どの国々が資本主義世界市場に再編入されていることは宇野弘藏氏も予測できなかったのではと思われる。
 講演の後、伊藤さんにイギリスで出版した『Value and Crisis』と言う本があることを知った。当時の私には英語の著作があること自体、想像を超えていた。最近になってこそ例えば柄谷行人氏に英語版の著作があり、海外の方で読まれていることを知ったりするが。その時、とにかくどうしても読みたくなって厚かましくも研究室に電話し伊藤さんにその本をおねだりした。今であれば海外取り寄せとかできるが当時はそうした知識も無かった。名も無き労働者の私に『Value and Crisis』を送って下さった。本の内容は日本の戦前の経済学の論争から1960年代のインフレと恐慌まで広い範囲に渡っていた。ちなみに東大出身でもう一人私に英字本を下さったのは解雇された企業の技術職のクリスチャンの方であった。『Dietrich Bonhoeffer』というヒットラーの暗殺を図ったクリスチャンの獄中からの手紙であった(解放をまえにして処刑)。

 私にとっての伊藤さんと斉藤幸平氏の共通性

 斉藤幸平さんが日本社会に登場した時も同じような想いを持った。『マルクス エコソシアリズム』英語版が出版され、しかもマルクスを巡るドイツ語の資料が調査されていた。
 トロツキー三部作の著者であるアイザック・ドイッチャーは私の愛読書でもあったのでドイッチャー賞をとった『マルクス エコソシャリズム』に強い興味を持った。
 伊藤さんの時代と比較すると留学とかいう範疇では語れない「地球人」とでも呼ばざるを得ない世代が広く世界的に存在するのかなという感じがした。経済のグローバルな展開に合わせてそうした人材が世代的に存在しているのを感じざるを得ない。斉藤幸平氏の場合、ドイツ語による資料調査を踏まえ、マルクスの「物質代謝」と「コモン」という概念をキイワードとして『資本論』後のマルクスの問題意識の展開を掘り下げている。

 国際社会の生み出した多くの人財の世界的な広がり

 経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』が出版された時、まだ翻訳が出ていない段階でもう学者を中心に評価を巡って議論が誌上討論されていたことがうかがわれた。今更ながらにグローバル社会と学者の集中力の高さに目を見張る想いであった。これらの人々は恐らく早い時期からこの論文の存在を知り、原文で研究していたものだろうと想像した。

 最後に伊藤さんにお目にかかったのは2018年10月14日、大阪国労会館での講演会であった。たまたま講演会に行く途中の伊藤さんにJR天満駅で出会った。会場まで話しながら行く際に私が「伊藤さんはいつまでもお若いですね?」と言った。伊藤さんは「今は100歳の時代ですからね」と笑って言われた。
 会場での講演も何ら頭脳の衰えを感じさせないいつものシャープなものであった。講演の途中でサイン会があり、昔頂いた本にサインをしてもらった。「初版本ですね、英語にしますか?」と言われたので「日本語でお願いします」と答えた。その伊藤誠さんが86歳で逝かれた。
 研究の傍ら労働者にもっとも多く語りかけられた学者の一人ではなかっただろうか。特に社会民主主義を踏まえた社会主義の追求に関心が強かった印象がある。多くの著作を残されたのでこれから少しずつ読み継ぎたいと思う。 伊藤誠さん、ご苦労様でした。知的刺激を与え続けてもらい有り難うございました。 (蒲生楠樹)


せんりゅう

     弁証法刻み込んで梅の咲く

          虫が居てダニも居て政権の顔

     家族崩壊なのに家にこだわる自民党

          貧乏人どっさり作ったやつがいる

     埋めるな!基地作るな!九条がある

          処理水の行方裏切りの行方

     軍国へ軍国へと耳ざわり寝つけず

          談合の五輪の花が咲いていた
  
               ゝ 史
  2023年3月


複眼単眼

         
 放送に介入した安倍晋三政権

 宏池会という自民党の保守本流リベラルの派閥を継承したはずの岸田首相が、その政治的節操まで投げ捨てて、安倍晋三の「戦後レジームからの脱却」という最悪の路線を引き継いで、「異次元の軍拡・改憲」が進められつつある。
 この「戦後レジームからの脱却」という主張は2006年の第1次安倍政権が成立する前に出版した『美しい国へ』という単行本の中で語られたものであり、第2次政権時に出された『新しい国へ』(『文芸春秋』)でも引き継がれた考え方だ。
 ふりかえると、安倍政治の悪政は2013年から17年に至る期間に集中的に展開されたことがわかる。今回、急浮上した「放送法の解釈変更」も、憲法第9条の集団的自衛権の解釈変更の閣議決定が強行されたのもこの時期だ。
 2013年12月には「特定秘密保護法」が成立し、2017年6月には「共謀罪」の構成要件を改める「改正組織犯罪処罰法」も成立した。
 問題の総務省文書は立憲民主党の小西洋之参院議員が暴露・公表したもので、A4版約80枚の内部文書だ。安倍政権下で当時の磯崎陽輔総理補佐官が放送法の事実上の解釈変更を求めた経緯が記されたとされる資料で、松本剛総務相は総務省の「行政文書」であることを認めた。
 この「行政文書」からは放送の個別の番組に不満をもった塩崎補佐官が総務省に従来の放送法の解釈の変更を迫り、番組の手直しを謀った経過が読み取れるものだ。
 放送法は戦前の軍部が介入した放送を反省し、各放送局が政治的公平(放送法4条)を実現するうえで、「自主自立」の放送をできるようにするもので、その「政治的公平」は個別の番組でのバランスではなく、各放送局が放送全体の中でバランスをとるよう求めるものだった。
 だから放送法の目的として第3条に放送番組編集の自由が規定され、『放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない』と書いている。しかし、安倍政権の幹部だった磯崎氏らは従来からのこの放送法の解釈を変更し、政治的公平を口実に、安倍元首相の意向に従って、『政府の言い分を伝えよ』と圧力をかけた。当時の総務大臣であった高市早苗・現経済安保相は磯崎氏らの圧力に従って放送に介入した。文書はそのことをしめすものだ。
 高市氏は野党の質問に答え、文書が「捏造された怪文書」であるとし、捏造でなかった場合、議員辞職も辞さないと答弁した。その後、総務相が行政文書であることを認めるや、高市氏は自分に関係する部分は不正確で、捏造されたものと居直り、問題が紛糾している。。
 この文書が示しているような事態は2014年当時、さまざまなかたちで安倍政権がメディアを恫喝していたということだ。その氷山の一角の証拠としてこの「磯崎総務省文書」がある。
 当時、放送の世界で異常な事態が相次いで発生していた。2014年、朝日新聞の慰安婦問題に端を発する異様な「朝日バッシング」が起きた。2016年の春には「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスター、「ニュース23」の岸井成格アンカー、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターなど、安倍政権に多少とも煙たい存在だった人々が揃って降板している。
 「戦争する国」への歩みが現実のものとなりつつある今日、放送と言論の自由の問題も徹底して追及していかなくてはならない。(T)