人民新報 ・ 第1423号統合516号(2023年7月15日)
  
                  目次

● 岸田大軍拡路線を阻止しよう

       規制なき武器移転輸出に道を開く「防衛装備移転に係る論点整理」

● 6月の定例19日行動

       安保3文書撤回!軍拡増税反対!南西諸島のミサイル配備反対!改憲発議反対!暮らしをまもれ!

● 全ての争議団・争議組合の勝利へ

       東京総行動(6月30日)

● 今年の最低賃金改定の議論がはじまる

       物価高騰を上回る大幅引き上げを勝ちとろう

● 国際人権法・人権基準を満たさない日本の入管収容及び難民認定制度

● 核汚染水海洋放出を許すな

● マイナンバーカードのトラブルは政府の責任だ

       制度の抜本的な見直しを 健康保険証は廃止するな  河野ら3大臣は直ちに引責辞任せよ

● 危険な状況がでてきた

       武井彩佳著『歴史修正主義―ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(中公新書)

● KODAMA 

        やっぱりコロナは終熄どころではなかった

● せんりゅう


● 複眼単眼  /  岸田は自ら改憲の退路を断った






規制なき武器移転輸出に道を開く「防衛装備移転に係る論点整理」

       岸田大軍拡路線を阻止しよう

 岸田内閣は、昨年末に強行策定した国家安全保障戦略で、防衛装備品(武器)の海外移転について「わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使または武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策手段」と位置付け、「防衛装備移転三原則や運用指針をはじめとする制度の見直しについて検討する」とした。
 与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチーム(座長・小野寺五典)は、4月から12回開催され、「防衛装備移転に係る論点整理」を取りまとめ、7月5日に萩生田光一自民党政調会長・高木陽介公明党政調会長に報告した。自公両党は、政府側に論点整理を踏まえた検討を要請し、松野博一官房長官は、政府として議論を進めていくと強調した。自民、公明両党は秋以降に協議を再開するとしている。

 自民党HP「防衛装備品、海外移転の緩和求める与党WTが論点整理」(7月7日)が、「『救難、輸送、警戒、監視及び掃海に係る協力に関する防衛装備』(いわゆる5類型)については、海外移転を可能としていますが、移転可能な装備品に自衛隊法上の武器(直接人を殺傷すること等を目的とする装置等)も含まれているかについては、これまで明確な整理がされてこなかったことから、改めて整理することを求めました」としているように、今回のワーキングチームの活動目的が、「自衛隊法上の武器(直接人を殺傷すること等を目的とする装置等)」の「海外移転」を可能にすることであることは明白だ。
 殺傷能力のある武器輸出に関する現行ルールでは、安全保障面で関係のある国への輸出の対象を5つの類型に限定しているが、「論点整理」は、この類型に該当すれば、正当防衛などを理由に、「現状でも」殺傷能力のある武器の輸出は可能だとしている。そもそもこの5類型なるものは、2014年に当時の安倍内閣が、「武器輸出三原則」を見直し、平和貢献・国際協力の推進や日本の安全保障に資する場合などには輸出できるとしたものだ。しかし、これまで政府は従来、殺傷能力のある武器は5類型に当てはまらず、共同開発以外は輸出できないと説明していたのであり、「論点整理」は、さらなる重大な政策変更を求めるものとなっている。論議の中では、5類型の撤廃の意見などもあり、殺傷武器を含む輸出が拡大することになる。

 国際共同開発・生産に関しては、日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を念頭に、共同開発・生産の相手国による第三国輸出を認める必要性で一致した。昨年12月9日、日英伊三か国首脳によって次期戦闘機共同開発協力に関し、「グローバル戦闘航空プログラムに関する共同首脳声明」がだされ、「このプログラムは、まさにその本質として、我々の同盟国やパートナー国を念頭において設計されてきたものである。我々がこのプログラムに冠した『グローバル』という名称は、米国、北大西洋条約機構(NATO)、欧州やインド太平洋を含む全世界のパートナーとの将来的な相互運用性を反映したものであり、そのコンセプトは、この共同開発の中心となる。我々は、この戦闘機が、複数の領域を横断して機能する、より幅広い戦闘航空システムの中心的存在になるという希望を共有している」とする。これは日本をNATOなどと強く連携させるものである。 同じ12月9日に発表された「次期戦闘機に係る協力に関する防衛省と米国防省による共同発表」は、「米国は、日米両国にとって緊密なパートナー国である英国及びイタリアと日本の次期戦闘機の開発に関する協力を含め、日本が行う、志を同じくする同盟国やパートナー国との間の安全保障・防衛協力を支持する」とあり、次期戦闘機開発は、日英伊三国ではなく、米日英伊によるものとなっている。
 かつての武器輸出三原則は、基本的に武器の輸出や国際共同開発をほぼ認めず、必要があれば、そのたびに例外規定を設けて運用するものだった。しかし、安倍内閣以来の防衛装備移転三原則は、防衛装備の海外への移転を禁止する場合を、@わが国が締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、A国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合、又はB紛争当事国への移転となる場合としたが、これは武器の輸出入を基本的に認め、その上で禁止する場合の内容や、厳格な審査を規定する内容となっている。
 今回、与党国家安全保障戦略等に関する検討ワーキングチームがやろうとしているのは、さらに一歩進めて規制なき武器移転・輸出に道を開こうとするものであり、断じて許すことのできない暴挙である。
 安倍路線を引き継ぐ岸田の大軍拡路線は、日本とアジアに大きな災難をもたらすものだ。
 「新たな戦前」状況を許さず、大軍拡に反対する広範な運動を展開していこう。

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2023年通常国会閉会に際して

 6月21日、国会が閉会しました。政府は、日本学術会議への介入を法制化することこそ一旦断念したものの、60年を超える原発の運転や防衛産業の国有化を可能にし、入管法の改悪、防衛財源確保法の成立、そして今後の指針策定次第でLGBT理解を促進どころか阻害しかねない法律まで可決させてしまいました。
 これに対して立憲野党は、自公政権を総じて右へ右へと引っ張る維新や国民民主党にかき回され、最終盤でようやく国会内外での立憲野党議員の連携が部分的に実現した局面もありましたが、中途半端な内閣不信任案の提出に象徴されたように、遅きに失した感が否めませんでした。
 そうした隙につけ込んで、岸田首相はまだ任期1年7ヶ月余りしか経っていない衆議院の解散を煽り、最終的には支持率の急激な再低下で断念となりましたが、最大野党の座を立憲民主党が維新に奪われかねない政党システムの恐ろしさを私たちは肌で感じています。
求心力の低下が著しい岸田内閣での解散総選挙がいつになるのか、見通しはいっそうきかなくなりましたが、秋に向けて私たち市民連合も、憲法13条の掲げる「個人の尊重」と「生命、自由及び幸福追求権を最大限尊重する政治」の実現のために、この夏、より大きな広がりを市民社会につくり、私たちの代表を一人でも立憲野党から多く国会に送り出す基盤を建て直すことが求められていると考えます

  2023年6月21日

        安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合


6月の定例19日行動

       安保3文書撤回!軍拡増税反対!南西諸島のミサイル配備反対!改憲発議反対!暮らしをまもれ!


 第211回通常国会は1月23日に召集され、6月21日までの日程だったが、この国会で、岸田政権は、軍需産業支援法案や軍拡財源法案の軍拡2法案を始め、入管法改悪法案、原発推進法案、LGBT法案、マイナカード強制法案などの数多くの悪法を強行採決した。これらは日本社会を劣化・破綻に追い込むものであり、岸田政治の継続をこれ以上許してはならない。

 6月19日、衆議院第2議員会館前を中心に、「安保3文書撤回!軍拡増税反対!南西諸島のミサイル配備反対!改憲発議反対!暮らしをまもれ!行動」(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、9条改憲NO!全国市民アクション)がおこなわれ、1300人が参加した。
 主催者からのあいさつは、解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会の菱山南帆子さん―この国会では稀代の悪法が次々に成立させられた。多くの人が怒っている。市民と野党の共闘を進めていこう。
 国会からは、はじめに打越さく良・立憲民主党参議院議員―自殺する若者が多い中で、政府は軍事費を大幅に増額しようとしている。それも財原をまったく確保できないまま法案を成立させて、議論を先送りしている。こんな政権は許せない。
 小池晃・共産党参議院議員―岸田政権は「敵基地攻撃保有」を強行したが、憲法9条に違反しているのは明らかだ。福島の人々の願いを踏みにじる原発の延長をさせるのがGX(グリーン・トランスフォーメイション)法だ。岸田政権の支持率は急激に低下しているが、苦しい生活をしているのなんで大軍拡が必要なのか。アメリカから言われてやっているのは明白だ。
 高良鉄美・会派「沖縄の風」参議院議員―新基地建設に反対しての辺野古の座り込みは昨日で7000日、17年という長い年月だ。政府は軍需産業を拡大しようとしているが、もうけを大きくするための戦争だ。沖縄に自衛隊ミサイルが配備されようとしているが、沖縄ではみんなが反対している。ミサイルシェルターなどまったく役に立たない。
 大椿裕子・社民党参議院議員―防衛財源確保法は戦争の危険を拡大するだけだ。防衛費は減らすべきだ。この国会ではいろいろな法案が通ったが、これらは人々を不幸にするもので、怒りがこみあげてくる。野党と市民の共闘が強められていかなくてはならない。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会の田中隆弁護士―国会憲法審査会では、緊急時の議員の任期延長についてどのぐらい延長するか、また裁判所の関与はないなどとされている。自民党などは、緊急時に、選挙をできるだけやらないで任期を延長しょうとしているが、学者の意見では、選挙を重視する意見が多い。
 山岸素子・移住者と連帯する全国ネットワーク事務局長―入管法は命を脅かすものであり、入管という施設では何が行われているかわからないブラックボックスのようなものになっている。この間、各地でも数々の反対運動がひろがった。与党の意見は全く成り立たないものだったのに、数の力で押し切られた。これからの闘いでもさらに連帯を広げていきたい。
 安保法制廃止を目指す中野アピールの川名真理さんからは、地元でのドキュメンタリー映画上映会などの活動についての報告。
 最後に、戦争する国づくりストップ! 憲法を守り・いかす共同センターの高橋信一憲法会議事務局長が行動提起を行った。


全ての争議団・争議組合の勝利へ

       
東京総行動(6月30日)

東京総行動の歴史

 東京総行動は、自立したした争議団が共闘し連帯して、社会的課題と時代に挑み続けてきた全一日の行動で、これまでの約半世紀の間、多くの争議の勝利・解決と、「背景資本」の概念を判例化させることに寄与するなどの成果を得てきた。
最近の闘いでは、東リ偽装請負闘争が、最高裁で勝利し、組合員5名が正社員として職場復帰を実現した。上智大学に対してハラスメントへの謝罪と解雇撤回を求めたクッキ・チュー先生の闘いなども解決している。
 差別・人権否定の非正規・外国人労働者等、横行するフェイク・格差・貧困等、これらを許さず争議団・争議組合は、「東京総行動」を武器に勝利をめざしている。

第183回東京総行動

 6月30日、第183回東京総行動が行われた。今回のスローガンは、首切りは許さない!権利はゆずらない! 全ての争議団・争議組合を勝利させよう! 貧困、格差、労働法制改悪、裁判所の首切り自由、NO! 教育改悪と統制・海外派兵・改憲・戦争への道、NO! 非正規・外国人・障がい者・女性労働者等の人権確立を! 難民を虐げ、在留資格のない人たちの命を危うくする入管法改悪NO! 民営化・公共性の否定・安全無視、公害薬害被害者切捨てNO! 辺野古新基地建設反対、沖縄の闘いに連帯しよう! 原発反対、脱原発法を! 再稼働NO! 全被災者の権利と生活防衛!金銭解決法案、「日本学術会議」任命方式改悪案反対!NO!
 コースは、日本製鉄(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会)をスタートに、東京高裁(文京7中分会)、ニチアス(全造船ニチアス退職者分会・アスベスト産業分会)、イネオス・ヘルス・クリニカル(首都圏なかまユニオン)、ホテル・シャーウッド(全統一ピードア分会)、リソル(東京労組 日本エタニットパイプ分会)、東京都庁(全国一般千代田学園労組)、トヨタ東京本社(全造船関東地協・フィリピントヨタ労組、フィリピントヨタ労組を支援する会)、JAL本社(JAL不当解雇撤回争議団)で、それぞれのところで抗議・申し入れ行動を行った。
 JAL本社集会は、悪天候のため、スカイウォークで抗議行動が行われた。


JAL争議の早期解決を!

 JALの組合潰しを狙った整理解雇と闘う争議はすでに13年となっている。
超党派の国会議員21名による「要請書 日本航空は早期に争議の解決を」がでた。6月16日に、代表として立憲民主党の福田昭夫衆議院議員と共産党の高橋千鶴子衆議院議員が天王洲アイルのJAL本社を訪れ、赤坂祐二社長あてに要請書を提出した。
 JAL争議の早期解決にむけて闘いを強めよう。

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要請書 日本航空は早期に争議の解決を

2023年6月16日

 日本航空株式会社 社長 赤坂祐二 殿


              衆議院議員 福田昭夫

 貴社は、政府主導の下、2010年(平成22年)1月に経営破綻、更生計画に基づき 再建が進められてきました。同年12月31日、更生計画が終了する2011年3月末日を待つことなく、パイロット81名と客室乗務員84名が整理解雇され、争議が13年も続いています。誠に遺憾に堪えません。

 当時会長であった故稲盛和夫氏が報道陣を前に「経営上解雇の必要はなかった」との報道がありました。この発言は重く、165名の整理解雇に疑問を持たせるものです。二つの裁判で争われ、また4度に亙りILO勧告が出され、現在も東京都労働委員会で争われている事態は、もはや人権にもかかわる問題です。

 そもそも、技術と経験が求められる飛行機の運航で、ベテラン乗務員を優先して解雇するやり方は、安全軽視と言わざるを得ません。また、貴社は再建以降にパイロット477名、客室乗務員6325名を採用していると聞き及んでおります。ところが、被解雇者を一人も乗務職に復帰をさせていません。これは国際労働基準にも 背くもので、グローバル企業として真摯な対応とは言えません。

 労使紛争が長引くことは、現場で働く社員のモチベーションにも悪影響を及ぼすだけでなく、利用者への心理的影響も否定できません。貴社は、我が国航空業界の範たる立場にあります。貴社が正常な航空会社として再スタートするためには、争議を解決させて名実ともに利用者国民からの信頼を取り戻すことが不可欠です。

賛同人
●衆議院議員
 江ア鐵磨・小宮山泰子・山本ともひろ・高橋千鶴子・穀田恵二・松木謙公・宮本徹・早稲田ゆき・落合貴之・下条みつ・塩川鉄也・石破茂
●参議院議員
 川田龍平・福島みずほ・芳賀道也・高良鉄美・永江孝子・田村智子・山添拓・大椿ゆう子


今年の最低賃金改定の議論がはじまる

        物価高騰を上回る大幅引き上げを勝ちとろう


 今年の最低賃金の引き上げ幅の目安を決める議論が6月30日、厚労省の中央最低賃金審議会(第66回)で始まった。
 この日は加藤勝信厚生労働大臣が中央最低審議会に対し、「令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版、及び経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針、いずれの文書も6月16日閣議決定)に配意した、貴会の調査審議を求める」との諮問を行った。中央審議会に引き続いて、第1回の目安小委員会が行われた。例年なら、審議会までの傍聴であったが、4月6日の「目安制度の在り方に関する全員協議会報告」において、「議事の公開」として、「公労使三者が集まって議論を行う部分については公開する」としたことから、今年は小委員会も公開となった。中央最賃審議会に続いて、翌週からは各地方最賃審議会も始まっている。
 昨年の秋以降、消費者物価の高騰が続いている。4月から8月までは2%台が9月からは3%台となり、12月には4・0%となった。4%台は1981年12月以来41年ぶりの高水準であった。今年に入っても物価の高騰は収まる気配はなく、直近6月の東京都区部の消費者物価指数は前年同月より3・2%上がり、上昇は22か月連続となった。生鮮食品を除く食料品はたまご(上昇率33・3%)、食用油(同21・5%)など日常的に食べるものの値上がりが高水準で続いている。6月からは電気料金も値上げされる。
 物価高騰を反映して23春闘は賃上げ率が3・66%(連合集計、6月1日時点)と30年ぶりの高水準となったといわれているが、実賃賃金は5月時点で14か月マイナスとなり、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。歴史的な物価高騰は労働者の生活を直撃している。とりわけ非正規で働く労働者の生活の困窮度はさらに深刻化している。
 今年の最賃引き上げの焦点は言うまでもなく、物価高騰で苦しむ労働者に寄り添った大幅な引き上げの目安額を決めるのかという点にある。前述した諮問の二つの文書は今年の最賃について、@昨年は過去最高の引き上げとなったが、本年は全国加重平均1、000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う、A地域間格差に関しては、最賃の目安額を示すランク数を4つから3つに見直したところであり、今後とも、地域別最賃の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る、B今夏以降、1、000円達成後の最賃引き上げについても、新しい資本主義実現会議で議論を行う、という方針を打ち出している。昨年度の最低賃金は全国加重平均961円、過去最高の3・3%の引き上げとなった。今年全国加重1、000円を達成するには4%、39円の引き上げが必要となる。しかし、このような政府の方針で果たして労働者の生活が改善されるだろうか。
 全労連等が行っている最低生計費試算調査では全国どこでも時給1、500円から1、600円以上が必要との結果が出ている。最低でも1、500円以上で安心して、人間らしい生活ができる。39円引き上げ、全国加重平均1、000円で地域別最賃が1、000円を超えるのは7都府県に過ぎず、40道府県は1、000円に届かない最賃で生活していかなければならない。地域間格差の是正についても、ランクの見直しによって、地域間格差は是正されない。目安全協の報告は「中央最低賃金審議会が決定した目安額において、下位ランクが上位ランクを上回ったことはなかった」というように、これまでの4ランクによって生じた地域間格差はランク制を維持する限り、下位ランクが上位ランクを上回る目安額を示すことでしか解決されない。政府の最賃方針は明らかに「まやかし」の方針と言うしかない。
 昨年秋以降の物価高騰の中で、「物価高騰を上回る最賃再改定を行え」と多くの労働組合、地域組織、団体が最賃再改定を全国的に取り組んできた。この取り組みは国会でも取り取り上げられ、マスコミも報道し、社会的にも注目された。2022年度最賃改訂に関する公益委員見解において「経済状況に大きな変化が生じたときは必要に応じて対応する」としていたにもかかわらず、厚労省、中央最低賃金審議会、地方労働局、地方最低賃金審議会は全く動かなかった。ましてや「労使自治」ではなく、唯一政府が決めることができる「法定最賃」にもかかわらず、岸田首相は全く「聞く力」を持ちなかった。
 海外では物価高騰下で大幅な賃金の引き上げが行われている。フランスは1、810円、イギリス1、904円、ドイツは1、885円、お隣の韓国では今年の1月から1、152円が最賃となっている。日本の最賃も国際水準にも達していないのが現状である。
 中央最低賃金審議会の小委員会は7月12日、14日、20日、そして26日に小委員会と審議会の開催が予定されている。中央と地方から行動を積み上げ、全国一律・1、500円以上の大幅引き上げをめざして最賃闘争を幅広い連帯で力強くたたかっていこう。


国際人権法・人権基準を満たさない日本の入管収容及び難民認定制度

 出入国管理及び難民認定法の改正法が、6月9日に与党と維新の会など一部野党によって強引に成立させられた。収容期間の上限の設定や司法審査の見送り、監理措置制度の創設、送還停止効の一部解除、退去命令違反罪の新設など指摘されてきた問題点がこれから続出することになるだろう。

 日本弁護士連合会の小林元治会長の「当連合会は、人権の守り手として、改正法によってその生命や身体が危険にさらされ、自由や権利を侵害されるおそれのある人々を守り抜くため、今後も最大限の努力を行うことを誓う」との声明を始め、同法への危惧とこの問題に今後とも取り組んでいくという声明が多数の団体から発表されている。

 6月13日に、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)など幅広い団体でつくる「STOP!長期収容」市民ネットワークは声明(要旨)を発表した。「日本の入管収容及び難民認定制度は、国際人権法・人権基準を満たさず、すべての人の命や尊厳を守ろうとしない制度であるのに、これを一層人権尊重から遠ざける法案を提出した政府と、可決させた各議員に、改めて抗議します。法律の施行日は、1年以内の時期を政令で定めるとされており、難民・移民の送還の危機、長期収容の再発と監理措置下の生存権侵害の危機が、一歩迫りました。…入管庁の虚偽と隠蔽は暴かれ、入管庁が立法事実としたものは崩れました。国際人権機関からの勧告も、22万筆を超える署名も、廃案を目指す運動を後押ししました。これに対し、可決成立させる側が行いえたことは、立法事実の崩壊について議論を避け、参議院法務委員会で強行採決をするという、旧態依然としたやり方だけでした。そして何よりも、全国で、多様な立場の市民が、自発的にスタンディングなどの行動をし、署名し、集会に参加し、SNSで参加・情報拡散した運動の姿は、支援する者と支援される者という関係を超えて、だれ一人取り残さないとする共生社会そのものを垣間見せました。何があっても、つないだ手を放しません。だから、決してあきらめません。人間を人間扱いしない改悪法の撤回と、本当の法改正を目指して、私たちはさらに前に進みましょう。」


核汚染水海洋放出を許すな

      
 さらに広がる反対の声

 政府は、東京電力福島第1原発の核汚染水の海洋放出を国際原子力機関(IAEA)包括報告書を理由に強行しようとしている。だが、IAEA報告書は、「ALPS(多核種除去設備)処理水の放出の正当化の問題は、本質的に福島第一原子力発電所で行われている廃止措置活動の全体的な正当化の問題と関連しており、したがって、より広範で複雑な検討事項の影響を受けることは明らかである。正当化に関する決定は、利益と不利益に関連しうるすべての考慮事項が考慮されうるよう、十分に高い政府レベルで行われるべきである。」としており、放出を認めたわけではない。
 福島第一原発の汚染水は、メルトダウンした核燃料のさまざまな放射性物質を含む核汚染水である。ALPSで処理したとはいっても、放射性物質が残留している水であり、そうした汚染水は今も増え続けている。その悪影響がどの程度になるのかはわからないままだ。
 原水爆禁止日本国民会議は、声明「放射能汚染水の拙速な海洋放出に反対する」(7月6日)で、「原水禁は、@トリチウムは除去できる、A反対が多い海洋放出以外の手段を検討すべき、B廃炉作業の目処が立たない中では当面タンク増設用地が確保できる、C地下水の減量化に努力すべき、D汚染水を希釈しても放射性物質の総量は変わらない、E廃炉の目処が立たない中で、汚染水放出の総量や期間が確定できていない、F広大な太平洋における環境汚染へのモニタリングが不十分、G国内外の反対が強い、H安全操業への途を模索してきた漁業者のこれまでの努力に応えていない、Iトリチウムの人体への安全性は確立していない、など様々な理由から現時点での海洋放出に強く反対する」としている。
 そもそも政府・東電は、福島県漁連と「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と約束をしているのを人びとは忘れてはいない。
 6月30日、福島県漁連総会は、ALPS処理水の海洋放出に対し、「反対であることはいささかも変わらない」とする特別決議を全会一致で決議した。すでに6月22日には、全国漁業協同組合連合会通常総会も放出に反対する特別決議をあげている。日本全国のおおくの市民団体、労働組合などが抗議・放出反対の声明、集会などで行動を起こしている。日本国内だけではない。韓国をはじめ周辺諸国からも抗議、海産物輸入中止などの声が上がってきているのであり、この動きはいちだんと広がっていくだろう。
 岸田は、「引き続き安全性の確保について、科学的根拠に基づき、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明していかなければならない」としているが、人びとを説得するのは不可能だ。
 7月10日、昼には、さようなら原発1000万人アクション実行委員会などのよびかけで、放射能汚染水を流すな!緊急官邸前抗議行動が行われる。夕刻からは連合会館で、韓国から共に民主党・訪日団をむかえて「放射能汚染水を流すな!日韓市民集会」を開く。
 これ以上海を汚すな!
 核汚染水の海洋放出に反対する闘いをさらに展開していこう。


マイナンバーカードのトラブルは政府の責任だ

      
制度の抜本的な見直しを 健康保険証は廃止するな

           
 河野ら3大臣は直ちに引責辞任せよ

強引な普及策で大混乱

 マイナンバーカード関連のトラブルが止まらない。証明書コンビニ交付での誤発行が続発し、この事態への高まる批判を前に河野太郎デジタル大臣は、「総点検」することを求めた。いま、このマイナンバー・トラブルの続出が岸田政権をおおきく揺さぶっている。内閣支持率は急降下している。とても衆議院総選挙などできる状況ではなくなった。いま総選挙に踏み切れば自民党議席の大幅な減少、内閣倒壊の恐れさえ言われている。
 相次ぐトラブルは、政府の強引なマイナンバーカードの普及策が背景にある。マイナポイントなどカネをばらまいて強行してきたが、いまその諸問題が噴出してきたのだ。
 しかし、この状況でも、政府は来年秋に今の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化させるという方針を変えようとしてはない。人びとの不安と怒りが広がっており、マイナンバーカードの自主返納の動きさえもがさまざまなところで起こっている。 
 7月5日には、衆議院で閉会中審査が行われ、マイナンバーカードの名称を変更発言など迷走する河野太郎デジタル大臣は窮地に立たされた。河野は「まずは7月中に各制度の現場でマイナンバーのひも付け作業の実態を把握するための調査を行い、8月上旬に中間報告ができるよう進めていく。マイナンバーに対する国民の信頼をしっかりと確保するため、スピード感を持って政府をあげて総点検を進めていきたい」といったが、マイナンバーのひも付け作業の総点検ではより大量のトラブル実態が明らかになるだけだ。
 そして総点検には膨大な手間と経費がかかる。総点検に伴う人件費などについて自治体への支援について質問された松本剛明総務大臣は「必要に応じて国としての支援策も検討することになる」と言わざるを得なかった。 
 加藤勝信厚生労働大臣は、紙の保険証の廃止後も必要な保険診療を受けられるよう発行される「資格確認書」を本人からの申請をまたず交付も検討などと答弁した。
この河野デジタル・松本総務・加藤厚労の三大臣の醜態は、批判の集中砲火を浴びるいまの岸田内閣の苦しい立場を示すものだ。

利権がらみの構造的な問題

 マイナンバーカードのトラブルは、強引なマイナンバーカードの普及策が背景にあるのはもちろんだが、そもそもこの制度には構造的な問題が以前から指摘されていた。
 マイナカードの発行業務などを担うのは、総務省とデジタル庁共管の地方公共団体情報システム機構(J―LIS)で、、2014年4月1日に地方共同法人として設立され、その後、デジタル庁の発足とともに、国と地方公共団体が共同で管理する法人であり、「マイナンバーカード関連システム、住民基本台帳ネットワークシステム、自治体中間サーバー・プラットフォーム、公的個人認証サービス、コンビニ交付サービス等、地方公共団体の行政サービスを支える大切な基盤となる各種システムの運営」をになっている。
 この団体について、「日刊ゲンダイDIGITAL」(7月6日)「“カネ食い”マイナカードの普及で天下り団体はウハウハ! ETCカード事業とソックリになってきた」が詳しい。そこではつぎのように報じられている。―「6月8日の衆院総務委員会の質疑によると、これまでマイナカードにかかった経費はポイントの付与だけで約2兆円。ほかに関連費用で約2兆円の計4兆円もかかっているという。
 立憲民主党の議員は同委員会でこう指摘していた。『このJ―LISの公表資料から予算規模を確認してみますと、マイナカード発行等の業務については、令和元年度の決算で130億円程度だったんですけれども、令和5年度の予算では780億円と、約6倍に膨らんでおりまして、住基ネットや公的個人認証サービスなどを含めた全体の予算規模では、令和元年度の決算で472億円程度だったものが、令和5年度予算で1880億円と、約4倍に膨れ上がっております。
 何のことはない。マイナカードの取り扱いや関連業務が増えれば増えるほど、関連業務を担当している天下り団体の『懐』が潤うわけで、どうりで国は何が何でもマイナカードを普及させたいわけだ。」―
 J―LISが民間企業などに発注したマイナンバー関連事業の大部分が競争を経ずに受注先を選ぶ随意契約だといわれている。
 天下り構造のもとにマイナンバー制度が建てられているのであり、トラブル続出も当然起こることになる。
 この構造の中で、「世界で最も複雑なシステム」とも言われる複雑膨大な仕組みとなり、それを無理に急がせるのだから、「ヒューマンエラー」は必然的に生じることになるのである。
 末端の作業者に責任を押しつけてはならない。そもそもの最初からの設計に無理があるのは明らかだ。

マイナンバー強行の狙い

 トラブル続出と批判の拡大にもかかわらず、政府は強引にマイナンバー制度を強行しようとしている。そのため健康保険証などをマイナンバーカードに一体化することで、ほとんどの住民にマイナンバーカードを所持させようとし、そして運転免許証と一体化する、国家資格や金融口座をマイナンバーとひも付けることが予定されている。
 政府のマイナンバ強制のねらいは、紐付きを増やし、国が税や社会保障などの個人情報を掌握・管理することであり、個人の情報をみだりに第三者に開示・公表されない自由を侵害するものだ。
 マイナンバー制度の利用拡大を中止させよう。
 マイナンバー制度は廃止せよ。


危険な状況がでてきた

        武井彩佳著『歴史修正主義―ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(中公新書)


 書店には、真実の歴史はこうだった、とかいうフレーズで歴史の見直し本が並んでいる。
 近頃はやりの陰謀論ではないが荒唐無稽なものがおおい。だが、笑って済ませるものではない。
 安倍政治の蔓延・継続・拡張に連動した排外主義や自国礼賛を軸にした歴史の偽造が進行しているのである。こうした動きを「歴史修正主義」というが、それは、歴史的事実の意図的な矮小化あるいは全面的な否定、一側面の誇張などによって歴史を書き替えようとするものだ。ユダヤ人ホロコーストは無かったなどの歴史的事実の否定によるドイツ無罪論、ヒトラー免罪論が有名だ。ただ、歴史は新たな発見や新視点の提起などで見直される修正されることがある。それで、ヨーロッパでは、あからさまに史実を否定する主張は歴史修正主義論ではなく「否定論」というようになっているという。そして欧米では、法的規制、裁判闘争が進行している。
 武井彩佳さん(学習院女子大学教授)著『歴史修正主義―ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(中公新書)は、主にドイツでの事態について研究論述している。内容は、序章・歴史学と歴史修正主義、第1章・近代以降の系譜 ドレフュス事件から第一次世界大戦まで、第2章・第二次大戦への評価 1950〜60年代、第3章・ホロコースト否定論の勃興 1970〜90年代、第4章・ドイツ「歴史家論争」 1986年の問題提起、第5・アーヴィング裁判 「歴史が被告席に」、第6章・ヨーロッパで進む法規制 何を守ろうとするのか、第7章・国家が歴史を決めるのか 司法の判断と国民統合、となっている。
 武井さんは、「日本では『歴史修正主義』という概念の幅はかなり広い。学術的な再検証から、根拠を欠く『トンデモ論』の類いまで含まれる。たとえば、『南京虐殺は中国共産党よる捏造である』『慰安婦はみな娼婦であった』などの言説は、欧米社会がホロコースト否定論に当てはめる基準からすると、明らかに否定論の分類に入る。しかし、歴史修正主義と否定論の明白な区別がないため、意図的に歪曲された歴史像が一つの歴史言説として社会の一部で流通している」と書いている。
 日本のかつての侵略の歴史的事実を否定することは、いまの「新たな戦前」状況の中で反動派のイデオロギー攻勢の一環としてある。歴史をどう見るかも、闘いの重要な一方面である。欧米での状況を学びながら、日本での歴史修正主義・否定論との対決を進めていく上でおおいに参考になる著作だと思う。


KODAMA

        
やっぱりコロナは終熄どころではなかった

 政権の見込み違いは明らかだ。
 5月8日から新型コロナウイルス感染症の位置づけを「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」された。4月27日付けの加藤勝信厚生労働大臣による移行についての文書は、「患者の発生動向等の把握については、位置づけ変更後は、感染症法に基づく定点医療機関による新規感染者数の報告が基本となりますが、これに加えて、血清疫学調査(抗体保有率調査)や下水サーベイランス研究等を含め、重層的な確認を行っていきます」としたが、毎日の感染者数発表の代わりに週に1回、毎週金曜日に「定点把握」による発表となり、「指定された全国5000の医療機関が、1週間分の感染者数を翌週にまとめて報告するもので、1つの医療機関当たりの患者数の増減を見ながら感染状況を把握する方法」だという。
 感染者数の全数把握は廃止された。こうすることで、コロナ終熄ムードを作ろうとしたのだろうが、結果はすぐに出てきた。
 定点医療機関1カ所当たりの新規感染者数は緩やかに増加している。沖縄県は7月6日、新型コロナウイルス感染者数の定点把握状況を発表したがそれによると「6月26日〜7月2日の1週間に県内54定点医療機関から報告された患者数は2613人で、1定点当たり48・39人と前週に比べて1・23倍に増えた。県全体の感染者数の推計値は1万2260人」だという。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長を務めた尾身茂さんでさえも、「第9波が始まった可能性がある」と語り、日本医師会の釜萢敏常任理事も「現状は第9波になっている」と述べている。
 ところが、後藤茂之経済再生担当相(新型コロナウイルス対策担当)は「さほど大きな伸びとなっているという認識は持っていない」「政府として、今の段階で新しい流行の波が発生しているというふうに認識しているわけではない」と強弁している。
 5類以降は、医療支援の大幅削減、患者の負担増といった大きな問題を伴った。医療費自己負担による受診抑制、国の医療機関への支援を縮小による医療提供体制が逼迫の恐れがある。自民党政権はコロナ感染の経験から何も学ばなかった。自民党の医療政策が医療崩壊、度々の感染症蔓延状況をもたらす。ここでも自民党政治にNOを突きつけなければならない。 (H)


せんりゅう

   寄生虫発見オキナワベイグン虫

          天皇もギインも世襲なり

   二人して遠見の花火あぁ難民

   * * * *

   国境をこえて燈みえるけどきつい労働人権は消え

             ゝ 史

   森友の後を引き継ぐ吹田皇民教育

   パワハラにセクハラ銃乱射米軍そっくり自衛隊

              猪子瓜坊

  2023年7月


複眼単眼

     岸田は自ら改憲の退路を断った


 前号に続いて、岸田改憲と憲法審査会の議論について書いておきたい。
 総裁選での公約以降、岸田文雄首相が何度も「自らの総裁任期中の改憲」に言及していることは前号で触れた。21年の衆院選と、22年の参院選の結果、国会で改憲派が圧倒的多数を占めて以降、衆院憲法審査会は毎週のように開かれている。
 そのなかで「緊急事態における議員任期の延長」の議論がある程度詰められてきた。
 しかしながら議論されてきたのはここまでに過ぎない。自民党が提起している4つの改憲項目のうちの他の3つについては、@自衛隊明記・9条改憲は自民党が触れるものの、まだ本格的な議論にはならず、A参院の合区解消やB教育の充実などは、それが改憲マターであるかどうかも含めてまともな議論がない。
 国民投票に不可欠の改憲手続法の改正、附則4条問題も残っている。
 緊急事態条項の中身も、その場合、発令される緊急政令や緊急財政処分などについては全く議論になっていないばかりか、憲法が規定する「参議院の緊急集会」の意義と役割も詰められていない。これについては衆参の議論が食い違っているだけでなく、改憲派の公明党内の衆参でも対立がある。
こんな事態にいらついた日本維新の会は6月115日、衆院憲法審で三木圭恵委員が「(首相は来年9月までというが)具体的な改憲のスケジュールを立てて示すべきだ」と追及した。
 三木によれば、広報期間に最低2か月、各院の審議に2か月づつかかるので、3月には改正原案ができていなくてはならない。だから来年1月には改憲原案の作成にとりかからなくてはならない。であるなら秋の臨時国会には改憲原案の骨子ができていなければならないことになる。こうでなければ任期中の改憲は不可能だと自民党に迫った。
 これにたいして自民党の上川陽子幹事・元法相(岸田派)が「任期とは具体的に来年の9月を想定したものではない。今後の党運営の中で決まる」と答えた。上川は岸田がどんどん時間に迫られてきた状況をみて、助け舟を出したわけだ。
 しかし、上川が首相の窮状を忖度した発言は、この211通常国会最終日の岸田記者会見で無駄になった。
岸田は意地を張って、こう述べた。
 憲法改正のスケジュールは自民党総裁選挙において、総裁任期中に憲法改正を実現したいとのべたとおり、憲法を改正する、目の前の任期(来年9月)において憲法を改正するべく努力する、と考えている、と。
 まさに岸田自らが退路を断った。
 維新が心配するまでもなく、このスケジュールの達成は至難の業だ。改憲の作業の前途には世論や野党との激闘が待ち受けている。岸田はこれを突破して来年9月の国民投票にたどり着けると考えているのだろうか。
 これは、かつて、安倍晋三・元首相がたどった道だ。
安倍は当初2020年までに改憲を実現するといい、のちに21年に延ばしたが、2020年夏になってもその見通しがつかず、体調不良を口実に辞職せざるをえなくなった。
それまで岸田政権が持ちこたえているかどうかは別としても、改憲に失敗すれば岸田政権の寿命は長くて来年9月までだ。
 いまこそ、総力をあげて闘おう。岸田改憲と「新たな戦前」は表裏一体だ。軍拡と改憲を潰せば、政治の変革への展望が開けてくる。 (T)