人民新報 ・ 第1424号統合517号(2023年8月15日)
  
                  目次

● 麻生自民党副総裁の戦争挑発発言を糾弾する

        市民と野党の共闘再構築で支持率低下の岸田政権を打倒しよう
  
● 最賃・全国一律1500円を勝ち取ろう

        7・15最賃上げろデモ

● 核汚染水の海上放出を許すな

        国の内外に反対の声

● 2023 夏のピースサイクル 
猛暑をついて反戦反核反改憲をアピール

           埼玉PCネットによる自治体要請行動

           「平和への想いをつないで」33年目の長野ピースサイクル

           ピースサイクル浜松などが浜岡原発・浜松基地へ申し入れ

           大阪&広島・呉ピースサイクル原爆ドームを目指して

● 日中平和友好条約締結45周年記念集会

        「すべての紛争を平和的手段により解決し  武力又は武力による威嚇に訴えない」

● せんりゅう

● 複眼単眼  /   「国民投票期間」は2か月と決まってはいない






麻生自民党副総裁の戦争挑発発言を糾弾する

        市民と野党の共闘再構築で支持率低下の岸田政権を打倒しよう


 台湾を訪問した自民党の麻生太郎副総裁は8月8日、台北市内で開で講演し、日本や台湾、米国などが中国の軍事的圧力に対抗するために「戦う覚悟」を持つことが地域の抑止力になると強調した。与党副総裁のこの発言はきわめ重大な危険な挑発的意味をもつ。
 台湾与党民進党の頼清徳副総統は「麻生氏の今回の台湾訪問で、インド太平洋地域におけるわれわれの協力の方向性が示された」と歓迎した。中国国民党系新聞「中国時報」は戦争を煽るものだと批判した。
 中国側の反応では、在日本中国大使館報道官が記者の質問につぎのように答えた。「これは身の程知らずの発言だ。また、こうした主張は、中国の内政に干渉し、台湾海峡の安定を損なうものだ。中国側はすでに日本側に厳正な申し入れを行った。台湾地区は中国の台湾地区であり、台湾問題の解決は完全に中国の内政である。日本の一部の者が、中国の内政問題と日本の安全保障を頑なに結びつけるのなら、再び日本を誤った道に引き込むことになるだろう。」
 日本国内では、与党公明党の北側一雄副代表が、「台湾海峡の平和と安定の重要性は言うまでもなく、日米同盟を軸としながら抑止力を強化していくことは大変重要だ」と述べ、麻生発言に理解をしめした。日本維新の会の藤田文武幹事長も、「われわれも危機感を共有すべき」と述べた。一方で、立憲民主党の岡田克也幹事長は「非常に軽率だ」と批判し、共産党の志位和夫委員長は「百害あって一利なし」と批判した。社民党の福島みずほ党首は「集団的自衛権の行使で戦争することを鼓舞することに抗議をする」と述べている。
 またさまざまな市民団体、労働組合も麻生発言を糾弾する声明を公表している。麻生の戦争挑発発言の対する各政治党派の位置・構造で、それらの戦争・平和に対する態度は明らかになっている。

 岸田政権が昨年12月に「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定してから初の2023年版「防衛白書」が公表された。「防衛上の必要な機能・能力」の向上を強調し、「まず、わが国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除するために、『@スタンド・オフ防衛能力』『A統合防空ミサイル防衛能力』を強化する。万が一、抑止が破られた場合、@Aの能力に加え、領域を横断して優越を獲得し、非対称的な優勢を確保するため、『B無人アセット防衛能力』『C領域横断作戦能力』『D指揮統制・情報関連機能』を強化する。さらに、迅速かつ粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させるため、『E機動展開能力・国民保護』『F持続性・強靱性』を強化する」としている。「スタンド・オフ防衛能力」は、他に防御の手段があれば敵基地攻撃は自衛の範囲に入らないとしてきたこれまでの政府見解をまったく踏みにじるもので、防衛的なものではなく、先制攻撃を誘発するものである。今年の防衛白書は、日本を戦争する国へと押し流す重大な一歩を踏み出させることとなった。白書は、日本が「戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面」していることあおりたて、またみずから近隣諸国との緊張を激化させ、それを口実に大軍拡を強行しようとしているのである。国際環境の緊張を緩和するのではなく、その逆をいっているのが岸田政権なのである。

 大軍拡・改憲・戦争する国作りを進める岸田政権だが、その基盤は大きく揺いでいる。マイナンバー問題、防衛費・少子化対策での大増税、首相の息子秘書官や自民党女性局のフランス観光旅行、自民党議員への風力発電会社の贈賄などのスキャンダルの続出で岸田内閣の支持率は急低下している。時事通信が実施した8月の世論調査によると、政権維持の「危険水域」とされる2割台の26・6%に下落した。岸田内閣はこうした危機的な状況をいっそうの反動的強権政治でのりきろうとしている。いまこそ、市民と立憲野党の共闘、立憲野党の選挙協力の再構築・強化が求められているときである。九条の会は改憲阻止の大きな行動を巻き起こそうと呼びかけた。
 また安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)は、8月8日に立憲民主党、9日にれいわ新選組、10日に社会民主党と日本共産党に野党共闘の強化について要請を行った。「立憲野党と市民の共闘で、憲法9条と13条の政治の実現を」はつぎのように述べている。「(前略)私たち市民連合は、自民党や維新と明確に対峙する、立憲野党と市民の共闘のベースには、憲法に基づく立憲民主主義の堅持があると考えており、なかでも共通の政策ビジョンの中心に据えるべきが、9条と13条だと確信しています。
 《第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。》
 今こそ、いのちと暮らしを守り、ジェンダーなどにもとづくあらゆる差別や格差とたたかい、平和のうちに国民の一人ひとりが個人として尊重される政治の実現を柱とした政策合意をもとに、志を同じくする立憲野党の候補者の調整を大きく前進させることを強く要望します。」

 市民と立憲野党の共闘を再構築・強化し、岸田政治を終わらせよう。

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九条の会

  改憲阻止に向けて市民の総決起を呼びかけ

岸田政権の軍拡に反対し憲法改悪を阻止する市民の総決起の秋を創ろう!


2023・08・03 

       .「九条の会」事務局

6月21日に閉会した第211通常国会では、「安保3文書」の実行を狙って大軍拡予算とともに軍需産業育成法・軍拡財源法など多くの悪法が成立しただけでなく、憲法審査会を中心に与党と、維新の会、国民民主党などによる改憲の企てが急速に進行しました。岸田文雄首相は、国会閉会後の記者会見で、自らの自民党総裁としての「任期において憲法を改正する努力をする」と、来年9月までの改憲に強い意欲を示しました。岸田首相は、政権延命のため今秋にも解散を狙っていますが、解散・総選挙の結果次第で維新の会が野党第1党になるようなことがあれば、軍拡や改憲の企てが国会において一気に進行する危険があります。
 いま、私たちは、文字通り軍拡と改憲の戦争する国か、憲法の人権と民主主義が活かされる平和な国かの岐路に立っています。
 こうした岸田の企てを阻止するには、少なくとも来年秋の改憲実現を挫折に追い込むまで、この秋から市民が総決起することが必要です。
 そのため、九条の会は、首都圏の会を中心に実行委員会を組織し、来る10月5日(木)の夜に中野ゼロホールで「九条の会大集会―大軍拡反対!憲法改悪を止めよう!」を開催することにしました。「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」と「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」にも協賛をお願いし引き受けていただきました。
 そして、この集会をステップにして、11月3日の憲法公布記念日を挟む11月を「軍拡反対、岸田改憲阻止の総行動月間」とし、全国各地の九条の会の皆さんや改憲に反対する市民の皆さんが大軍拡と改憲に反対する多様な行動に立ち上がるよう訴えるものです。
今、私たちの周りには困難があります。この間の国政選挙で、改憲勢力は衆参両院とも3分の2を超えています。野党共闘も困難にさしかかっています。しかし、振り返ってみましょう。小泉政権が改憲を提起したとき、衆参両院では改憲に好意的な勢力は3分の2を超えていました。けれども、04年6月に9人の呼びかけにより九条の会の結成が呼びかけられ全国各地に九条の会が続々結成され改憲反対の声が沸き起こる中、世論は大きく変化し、改憲の企図は挫折に追い込まれました。2017年に安倍首相が改憲を提起した時も衆参両院では改憲勢力が3分の2を超えていましたが、「市民と野党の共闘」の頑張りに励まされ、憲法審査会でも立憲野党が頑張って安倍改憲を挫折に追い込んだのです。
 改憲勢力もたくさんの矛盾を抱えています。私たちが立ち上がれば、改憲は必ず阻止することができます。
全国の九条の会の皆さん、そして改憲に反対する市民の皆さんに、改めて訴えます。この秋、大軍拡に反対し憲法改悪を阻止するため、声を上げ、立ち上がりましょう。10月5日、大集会に集いましょう。そして11月には全国各地で創意を凝らして行動を起こしましょう。


最賃・全国一律1500円を勝ち取ろう

        
7・15最賃上げろデモ

 「賃金上げろ」「最賃上げろ」の声が、JR新宿駅周辺にラップ調のサウンドともに響き渡る。
 7月15日、労働問題に取り組むグループAEQUITAS(エキタス)、全労協、最賃大幅引き上げキャンペーン委員会、東京春闘共闘会議、全労連など7団体による「7・15最賃上げろデモ実行委員会」の主催でサウンドデモがおこなわれた。過酷ともいえる猛暑の中、新宿駅周辺は若者たちで溢れかえっている。約500人を超える労働者市民が参加したサウンドデモに、手を振ったり、スマホで写真を撮ったり、リズムに合わせて踊りだしたり、沿道からは様々な反応があった。
 デモに先立ち、短時間のリレートークがおこなわれ、進行役の渡邉洋全労協議長は岸田首相の「全国平均1、000円」の発言に対し、1、000円が既成事実化してるが、「物価高騰の中1、000円では暮らしていけない。私たちの求めているのは全国一律1、500円。幅広い共闘で闘いを進めよう」と訴えた。
 エキタスの原田さんは、「学生たちがアルバイト、ダブルワーク、トリプルワークをせざるを得ない、勉強したくてもできない状況にある」と切実な声を紹介し、「貧困を無くしていこう、希望をもって生活できるようにしていこう」と呼びかけた。また、非正規出身の社民党大椿ゆう子参議院議員も駆けつけ、「非正規の声を国会の中で訴えっていく。当事者が声を上げていこう」と力強くアピールをした。

 6月30日に今年の最低賃金改定の議論が厚労省の中央最低賃金審議会で始まっている。また、各地での地方最低賃金審議会も始まっている。光熱費や物価の高騰にも係わらず、給料や時給は上がらず、実質賃金の低下が進み、多くの労働者の生活が苦しくなっている。軍事費に税金をつぎ込むのではなく、誰もが安心して生活できる環境を保証すべきだ。全国一律1、500円はその最低限の条件。困窮に喘ぐ労働者の切実な声を、各地域からあげていこう。


核汚染水の海上放出を許すな

       
 国の内外に反対の声

 「関係者の理解なしには如何なる処分も行わない」ーこれは政府と東京電力の福島県漁連や全漁連に対する2015年の文書約束だ。だが政府は、東京電力福島第一原発の核汚染水の海洋放出について、早ければ8月末にも始めるとしている。福島県沖では9月から底引き網漁が解禁されるので、それ以前に放出を強行しようというのである。事故当事者の東電は放出開始の判断を政府に委ねたまま、漁業関係者に直接会って説明することから逃げ回っている。

 放出反対の声は根強い。諸外国からからも危険な海洋放出に抗議の声が上がっている。なにより地元漁業関係者が頑強に反対を強調している。7月20日、福島県漁業協同組合連合会の幹部たちが、政府側の働きかけに応じて福島第一原発を訪れ、放出に使う設備の状況を初めて視察したが、県漁連は「放出を了解するための手続きではなく、反対する姿勢は変わらない」としている。福島県以外の東北各県の漁連の動きも激しくなってきている。
 8月2日には青森県漁連の幹部たちが経済産業省を訪れ西村康稔経産相に対し反対の姿勢を伝え、風評被害対策の強化を求める要請書を提出している。
 だが、海洋放出でなく、貯蔵タンクの増設、新たな保管場所の確保などは可能なのであり、汚染水処理方式は見直されるべきだろう。

 いまも様々な運動が起こっている。元福島大学長やJA全中副会長らが呼びかけ人となり、「復興と廃炉の両立とALPS処理水問題を考える福島円卓会議」が7月11日に発足し、福島大の中井勝己元学長は、政府や東電と対等な立場で意見を交わす場にしたいと述べた。
 7月17日には、福島県いわき市小名浜のアクアマリンパークで、「これ以上海を汚すな!市民会議」と「さようなら原発1000万人アクション実行委員会」の主催で「海の日アクション2023 汚染水を海に流すな!」集会が開かれた。小名浜機船底曳網漁協の柳内孝之専務理事が「国と東電は『漁業者の理解なしには放出しない』という約束を破ろうとしている国と東電を私たちは信用していない。IAEAの報告書も信用できない。汚染水の処分の仕方は再検討が必要だ」と述べた。この集会は韓国や中国などの海外メディアも報道した。
 韓国からは、労働団体、市民団体、野党などの抗議団が来日し、東電や政府機関への申し入れ行動などを行った。
 7月31日には経済産業省前、首相官邸前では民主労総や環境運動連合、韓国進歩連帯が参加し、日本の市民団体や労働組合とともに行動を展開した。
 核汚染水の海洋放出に反対する大きな声にもかかわらず、岸田政権は、早期の汚染水放出を強行しようとしている。
 日本政府の暴挙は、いっそうの海洋汚染・環境破壊につながる。
 核汚染水の海洋放出に断固として反対していこう。


2023 夏のピースサイクル

        
猛暑をついて反戦反核反改憲をアピール

埼玉PCネットによる自治体要請行動
 7月13日(金)埼玉ピースサイクル(PC)ネットによる自治体訪問(要請行動)が行われました。
 今年の梅雨は九州、東北地方では線状降水帯が発生して大きな水害をもたらしました。関東地方にも大雨が危ぶまれましたが7月半ばになると空梅雨となり一挙に猛暑日が続く様になりました。当日も高温でしたが、熱中症に気を付けて取り組むことにしました。
 今年はスポーツタイプの自転車が揃えられなかったのでママチャリ3台と伴走車1台の6人の参加者で自治体訪問をすることになりました。
 最初の自治体は埼玉県庁東門玄関前で午前9時10分に要請を行い、また、県知事名の埼玉ピースあてのメッセジを読み上げがありました。事前に県庁担当者からの連絡で当日雨であれば会議室を用意してあるとの申し出もありました。要請行動の途中で、次の自治体のさいたま市役所担当者から予定の時間通りに来れるかの確認が入りました。 9時40分よりさいたま市役職員通用玄関前で要請を行いました。4月の統一地方選で選挙の手伝いをしたさいたま市議候補者が当選したので要請行動の参加を呼びかけましたが、当日残念ながら地方に出かけているので参加はありませんでした。
 次の自治体の北本市役所には2時間かかるのでルートの確認や何らかのアクシデントがあった場合には直ぐに連絡するよう確認しあって出発しました。自転車は荒川の土手沿いに進め、上江橋半ばで右折して荒川右岸土手沿いを走り、上尾市の昌平橋で左岸を走ると土手下に榎本牧場があり、車と自転車はここで休憩を取ることにしました。ここは乳牛や養豚もやっており、特にジェラートがおいしいので立ち寄っています。ここからは約1時間で北本市役所に着きます。北本市で昼食を取り、午後1時30分から要請を行いました。 記念撮影などをしてから2時に出発して3時前に上尾市に到着してすぐに要請を行いました。到着した時には浦和スタンディングの仲間とその友人が出迎えていただきました。また、参加者が少ないと思われたので、新人1名も参加していただきました。
 各自治体からのメッセージには戦争は二度と起こしてはならず、唯一の原爆被爆国として「核兵器のない世界」の実現に向けた歩みを進めるため、被爆者体験者証言映像や、原爆朗読劇、非核平和パネル展などの次世代につなぐ催事が紹介されていました。
 安保三文書や211国会で戦争を始める多くの悪法が採決されました。
 自治体も私たちも戦争の道は望んでいません。「反戦・平和」は今後も続けていかなければなりません。

「平和への想いをつないで」33年目の長野ピースサイクル
 今年の長野ピースサイクルは33回目、6月末に昨年に続いて長野県松代(大本営予定地下壕跡)から新潟県柏崎市(東電柏崎刈羽原発)まで実走すべく、実行委員4名で試走を行った。自転車走行ための環境は昨年と大きな変化はなかったが、道路工事等によるルート変更や休憩場所、宿泊施設の見直しなどを含めて検討計画した。
 7月22日(土)午前9時過ぎ、「まもろう9条」「なくそう原発」の旗を付けた自転車実走4名、伴走車1名が松代を出発した。 「安保3文書の改訂」を通した実質的な憲法9条改憲策動、明文改憲策動が行われる現実に対する怒りを胸に秘めた長野ピースサイクルの実走の始まりだ。これから、長野県と新潟県を走り、東電柏崎刈羽原発まで約150kmを2日間のピースサイクルとなる。
 私たちは33年前の第1回目の長野ピースサイクルから、松代を日本が行った78年前までの「戦争加害を象徴する場所」の一つとして意識し、ヒロシマ、ナガサキ、オキナワなどの戦争被害の地へ思いをつなげようと出発点に選んできた。戦争を被害の立場からだけみているのではなく、昨今、益々認識の重要性が増している加害者としての日本の立場を重視しているからだ。
 そのうえで憲法の前文と9条の意義を認識し、平和・戦争を考えようとするものだ。
 私たちはこれまでのピースサイクル実走にあたって、ヒロシマ、ナガサキ、オキナワへの市民や長野県内の市町村長・議長からのピースメッセージを募り、それを携えて自転車を走らせながら、最終的には8月6日広島市長、8月9日には長崎市長、そして沖縄県知事へとそれが届けられるようにする全国の仲間と連帯した取り組みを続けてきた。 今年も周囲からの賛同とピースメッセージが寄せられた。数は首長10、議長11、市民8(それぞれ広島、長崎、沖縄あて計87通)となった。
 その他に私たちはずっと「脱原発」を掲げてきた。今回も長野県からの走行の終点を東電柏崎刈羽原発と決め東京電力への要請行動を組み入れた。
 途中から1名が新たに参加して、いよいよ長野ピースサイクルならではの走行体験ができる急な上り坂が始まった。
 今年は、格段の猛暑が続く中で、これまで何回も体験し苦しんだ雨に逆に期待する話が出るくらいの暑さだ。
 走っていても路面から熱気が輻射してくるのをこれまで以上に感じる暑さだ。向かい風は嫌いつつも、わずかでも風が欲しいと思う。
 昼食は昨年と同じ、坂の途中のレストランですませたが、実走者全員が生ビールの魅力に負けた。午後はさらにきつい上り坂へと進む。
 今年も昨年に続いて電動アシストのロードバイクは威力を発揮した。80才越えのメンバーがやはりトップで上りきった。高齢になってもピースサイクル運動を続けられる証明かも。
 その後は、一気に坂を下って、妙高市新井のホテルまで走る。まったく雨の気配がなく1日目の走行は終了した。
 今年はコロナ禍に少しだけ配慮しつつ、夕食を兼ねて、ホテルの近くの個室のある居酒屋で久々の大(?)宴会。元気よく鋭気を養って、1日目は無事終了した。部屋はコロナに配慮して個室確保したが、参加者全員が集まって33年間の長野ピースサイクルの思い出話にもしばし花が咲いた。
 7月23日(日)も朝から晴天。午前8時過ぎに少し予定より遅れたが順調に走り始める。最初からじりじりと暑さが増す中、いつ熱中症になってもおかしくない状況ながら、水分補給と定番の冷えたトマトときうりをかじりながら、柏崎刈羽原発めざして田園地帯をひたすら走る。
 そして、昼前には海の近い国道8号線へと進み海沿いを走る。海は穏やかだが暑さのために水蒸気が上がっているせいか、今年も期待に反して佐渡ヶ島は見えない。途中、狭いトンネルと橋の危険個所を避けて、全員が車で移動し、昼食は鮮魚センターの食堂で。
 益々熱くなる中、再び8号線をひた走る。今年は開通したばかりの8号線バイパスをルートに選んだが、伴走車が道に迷って休憩場所で合流できないという失態が起きてしまった。それでも、午後2時過ぎには原発直前の急な坂をそれぞれのペースで上りきってテプコ館前に到着した。ここでも、電動アシストのロードバイクは強い。先に上って、後から来るメンバーの急坂にあえぐ姿を写真に撮る余裕を見せていた。
 ここでピースサイクル新潟のメンバーと再会。そのまま、柏崎刈羽原発での「東電への申し入れ行動」を行った。今年も、対応は広報担当一人、部屋にも入れてもらえず、事務所前での申し入れになった。水のペットボトルも用意され、担当者は比較的低姿勢だったが、あくまで「上部へ確実に伝えます」に終始した。申し入れ書では「トラブルを繰り返している柏崎刈羽原発には原発を運転する資格がない」「トリチウム汚染水の放出をやめよ。」「活断層の上に立っている原発の危険性」「福島第一原発事故の被災者救済の強化」などをあらためて要求をした。参加者それぞれも発言し、繰り返される東電の不祥事を批判しつつ、東電の社員自身が変化するように求めた。
 この後、ピースサイクル新潟のメンバーと別れを告げ、長野ピースサイクルの夏の実走を終了した。長野ピースサイクルの実走参加者は昨年よりさらに少なかったが、今年も楽しく充実したピースサイクルとなった。これから秋には33冊目の活動報告集作成やコロナ禍で企画できなかった、秋のホリディピースサイクルを企画していく予定だ。

ピースサイクル浜松などが浜岡原発・浜松基地へ申し入れ
 2023年7月20日、ピースサイクルのメンバー12人は、御前崎市の浜岡原子力発電所の広報官会議室で、原発の社員と約1時間15分にわたって意見交換をした。
 意見交換の議題は、@、岸田政権が原発の稼働期間を60年以上も可能にするなど、従来の原発政策を大転換したGX脱炭素電源法(原発回帰束ね法)が5月31日の通常国会で成立した問題。A、原発1号機・2号機の原子炉解体の問題の2点について、ピースサイクルが1週間前に質問事項と申入れの書面を浜岡原発にFAXしたものを、原発の社員が口頭で回答した。
 口頭回答のメモでは、@の質問1の「長期管理計画(劣化評価、基準の適合など)については」の回答は、「治験の収集、点検により行っていく」。質問3の「中部電力は3号機・4号機の経年劣化をどのように考えているのか」の回答は、「点検により機器の状態を確認する」などで、原子炉本体の経年劣化による危険性に本当に危機感を持っているのか疑問の回答であった。

ピースサイクル(PC) 参加者からの質問や意見
 PC・GX脱炭素電源法の説明を御前崎市としたのか、7月12日の御前崎市との意見交換で御前崎市は中電からの説明はないと言っているが」
 原発社員・「担当部署が違うので分からない」
 PC・「本日の議題にあるのだから、事前に担当部署に確認すべきであり、あ
なたは本日の説明員として失格だ」
 PC・「中電は12年間原発なしでやって来たのだから、何十年後のことを考
えて原発なしの電力会社にすべきだ」
 PC・「社内で、従来の原発政策を大転換した、GX脱炭素電源法に戸惑っている意見は出ていませんか」
 原発社員・ 「出ていません」

 今回の意見交換で強く感じたことは、従来の原発政策を大転換した、GX脱炭素電源法に対して何らの意見具申もせず、ひたすら政府の方針に従う中部電力という一企業に生命を脅かされ続けられて良いのだろうか。12年前の福島原発事故で、政府も東京電力も責任を取っていないことから、浜岡原発の永久停止・廃炉の道筋を早急に決めない限り未来はない。

 翌21日は、浜松市への要請行動と午後4時から航空自衛隊浜松基地への申し入れ行動を行った。
 午後2時からの浜松市の要請行動では市民生活課長が対応したが、あらかじめピースサイクルが要請書を提出し、項目ごとの書面回答を求めていたにも拘わらず口頭回答に終始した。
 そのため、ピースサイクルのメンバーは抗議したうえで、口頭回答ではなく書面で出すよう検討させることにした。
 また、要請項目の「浜松市長は、PFAS(有機フッ素化合物)の調査結果及び明らかにすること」の項では、浜松市が今年の4月に調査をしたPFASの測定結果を示すように追求した。 
続いて午後4時からの航空自衛隊浜松基地への申し入れは、基地前で要請書を読み上げて自衛隊員に手交した。

中部電力株式会社・林欣吾社長への浜岡原発の永久停止・廃炉などを求める申入書(ピースサイクル浜松、浜岡原発を考える静岡ネットワーク、ピースサイクル神奈川ネットワーク)

 標記の件について、以下の申し入れを行うので真摯に対応されたい。



 1、中部電力は、浜岡原発の再稼働を断念し、3号機から5号機すべてを永久停止・廃炉にすること。
 2、浜岡原発敷地内に保管中の使用済み核燃料などを、安全に管理できる場所を確保すること。
 3、中部電力は、原発の再稼働につながるテレビCMは取りやめて、CMの使用料を電気料金の値下げに回すこと。
 4、中部電力は、独占的利益を得ることを目的にしたカルテル事件を反省し、市民の意見を真摯に聞いて社会貢献する企業に生まれ変わること。
 5、中部電力は、原発の危険性を自覚して、市民の生命を預かっている企業の立場から、市民との対話ができる場を設けること。(以上)

大阪&広島・呉ピースサイクル原爆ドームを目指して
 世界の注目を集める被爆78年目の広島平和公園・原爆ドームへむけて走る全国各地のピースサイクルは反戦・反核、平和の思いを繋ぎ今年で38回目を数えた。
 8月1日に大阪市役所をスタートした大阪ピースサイクルは道中各県のピースサイクルの仲間と行動を共にしながら4日には無事に呉市に到着した。
 呉ピースサイクルはコロナ禍でできなかった歓迎交流会を久し振りに企画し親交を深めた。これには支援する郵政ユニオンからも参加があった。
 交流会では2日に突如報道で明らかになった上関町への使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設問題が話題となった。
 報道によるとこれは中国電力と関西電力が共同でおこなうもので完成後には両方が使用する。この事業は関西電力、中国電力、上関町の三者の利害が以下の点で一致する。
 関西電力は高浜原発の使用済み核燃料保管プールの使用量が82%と逼迫している上に福井県とは中間貯蔵施設の県外候補地を23年末までに示す約束をしていた。正に渡りに船である。
 一方の中国電力は関西電力が仕組んだ闇カルテル問題で大幅な赤字決算を余儀なくされていた。とても単独で建設する資金力はない。加えて島根原発2号機の再稼働が来年に控えている。保管プールに余裕があるとはいえ造るに越したことはない。
 そして上関町は1982年に誘致した上関原発が2011年の福島第一原発事故を受けて中断したままにある。当てにしていた地域振興策も年々目減りして厳しい財政運営が続いている。上関町にとっても喉から手が出るほどの提案であった。
 これに対して3日、市民団体「上関原発止めよう!広島ネットワーク」は即日対応して広島市中区の中国電力本社前で建設計画撤回を求める抗議活動をおこなった。
 核燃料サイクル計画が破綻した今では中間貯蔵施設とは名ばかりで決して一時的な保管場所などではない。ひとたび猛毒の核のゴミの集積場となればそのままその後の行き場を失い最終処分場にされるのは火を見るよりも明らかである。
 このような危険な施設を一電力事業者と自治体の談合で建設させてはならないと交流会参加者は決意をあらたにした。
 明けて5日は7台の自転車と伴走車2台(4人)で猛暑の中を原爆ドームに向けて出発した。13時には無事に原爆ドーム前に到着する。30名の仲間が集う到着集会では伊達全国共同代表と吉井広島県代表から労いの言葉と再会を歓迎する挨拶を受けた。
 翌6日は7時45分から原爆ドーム前でのグランドゼロのつどい。8時15分には追悼のダイイン。8時30分スタートの中国電力本社までのデモ行進にも参加をした。早速「上関を、核のゴミ捨て場にするな!」のプラカードを掲げてアピールをおこなった。
 今年の原爆ドーム前は以前にも増して市民の平和的な集会を取り囲む機動隊の姿が多かった。コロナ禍開けもあるが5月のG7広島サミットの影響も大きいのだろう。式典参加の各国要人や外国人観光客共に過去最多だという。
 集会ではG7広島ビジョンの核抑止論批判や広島市内の小中学校と高校がおこなっている平和教育の教材「ひろしま平和ノート」から反戦反核漫画「はだしのゲン」が削除された問題など各地の市民団体からの様々な報告が続いた。
 中国電力本社前集会では急遽「上関町の中間貯蔵施設建設問題」の報告もあり困っている関西電力にまたしても騙された中国電力の愚かさが暴露された。
 集会の締めは「原発やめよう!」などそれぞれの思いを書いた黄色のカードを掲げてのアピールコールで3日間に亘る猛暑の中での広島県内ピースサイクルを無事に終えた。


日中平和友好条約締結45周年記念集会

        「すべての紛争を平和的手段により解決し  武力又は武力による威嚇に訴えない」

 今年は、1978年の日中平和友好条約締結から45年を迎える。その第一条は「1・両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。2・両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」とある。
しかし今日、米中間の緊張が高まり、それに連動して日中間の関係も1972年の日中国交正常化以来最悪の状態にある。自民党の麻生太郎などの親米好戦派は、台湾有事は日本有事だとして、中国を仮想敵に設定して、おおいに軍拡と対中戦争準備をあおっている。岸田政権の大軍拡政策によって非常に危険な状況が生まれている。

 8月10日、衆議院第一議員会館で、「日中平和友好条約締結45周年記念大集会」が開催された。来賓として、鳩山友紀夫元首相(東アジア共同体研究所理事長)と呉江浩中華人民共和国駐日本国特命全権大使が、「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないこと」が真剣に求められていることについて述べた。

 記念講演は、浅井基文元広島平和研究所長が、「バイデン・岸田対中対決政治は清算しなければならない」と題しておこなった。―台湾有事が言われているが、その前提には米中間の緊張があり、バイデン政権の対外戦略がある。米国の主観的願望には世界一極支配をなんとしても守ろうとすることがある。中国に対しては、経済ではデカップリング、軍事では台湾海峡や南シナ海、外交では「ルールに基づく国際秩序」これは権力政治の代名詞だ。これらによって中国の孤立化→弱体化→無害化をはかろうとしている。ロシアには、ウクライナ戦争の勝利→天文学的賠償→分解ということだ。欧州はウクライナ戦争を通じての対米自主権の剥奪・対米依存、アジアの同盟諸国は、NATOへの取り込み、QUAD、AUKUS、米日韓など、反中国包囲網などによる対米従属固定化、グローバル・サウスには中ロとの離間策だ。だが、こうした政策はうまくいっていない。中国封じ込めのデカップリングは経済的は無理筋であり、台湾・南シナ海でも、出口戦略はゼロと言っていい。そしてドル本位制の弱体化、ウクライナ戦争の状況、そして来年の大統領選の厳しい予想などがある。まさに進退両難の局面に入りつつある。
 台湾問題では、それを国内問題とする中国と外交問題としたい米国の対立がある。そして、上海コミュニケなど三つの米中共同声明における台湾問題の両方の言い分を取り入れた玉虫色の解決がある。
 また国際法優先の中国と世界的にはまずらしい国内法を国際法より優先する米国がある。米国の国内法である台湾関係法(1979年)の第二条B(6)には「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持する」とある。
 日本の場合は、米国とは違い、国際法が優先する。対日講和条約(昭和二十七年四月二十八日)の第2条(b)は「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」とあり、日中共同声明(千九百七十二年九月二十九日)第3項は「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」としている。だが、第3項は玉虫色の解決でもあった。
 台湾危機発火の防止には、中国は台湾に九二共識(コンセンサス)の遵守を求めている。これは台湾海峡の両岸(中国大陸側と台湾側)が一つの中国の原則を守るというもので、中国は「台湾が九二共識を遵守するかぎり、百年河清を俟つ」用意があるといっている。だが、台湾の分離独立の動きには武力解放を放棄しないともしている。米日は、中国の武力不行使確約を要求している。
 台湾海峡危機が発火するのは、台湾が独立に動き中国が武力解放に動くときだ。そうすれば、米国は台湾関係法を発動することになる。その政治的選択は、不介入、ウクライナ方式、全面介入・米中全面戦争の三つだ。その時に日本の選択肢も三つある。不関与(日中共同声明・日中平和条約遵守)、次に米軍基地提供(日米安保6条発動)、これは中国の報復攻撃を受ける、そして全面関与(安保三文書)による中国との全面戦争だ。後の二つは日本は解決的な打撃を受けることになる。
 南シナ海問題では、歴史的にみれば国際法的に中国が主張する「九段線」内側の諸島嶼は中国領土といえる。国連海洋法条約では隣接海域に於ける主権的権利を認めているからだ。係争地域については、関係国との間で主権問題棚上げによる共同開発が行われ、そして根本的にはASEANしょくとの南海行為準則締結で紛争解決メカニズム制定が必要であるだろう。
 アメリカは国連海洋法を未批准で、中国の「九段線」の主張は不法・無効だとしている。そして米海軍による「航行の自由」作戦を続けている。
 だが、日本は、日華平和条約(日本国と中華民国との間の平和条約)(1952年)で、「日本国は、千九百五十一年九月八日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第二条に基き、台湾及び澎湖諸島並びに新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄したことが承認される」としている。日本には中国の覇権主義的行動を云々する立場にないといえる。
 日中間には、不戦条約のようなもう一段上の国家関係が求められているといえるのではないだろうか。


せんりゅう

     番犬を猟犬にとバイデンにいわれ

            いまさらの富国強兵キシダ策
   
     防衛とは資本を守る殺人装置

           資本家と戦争あぁ仲のよい

     「ウクライナ」きいて涎す財界人  
   
           貧困があるから太れる社長さん
     
     ゲルニカの画に九条の深さしる

           憲法の意義の重さよ十五日   
     
                                  ゝ史

  2023年8月


複眼単眼

         「国民投票期間」は2か月と決まってはいない


 岸田文雄首相が「自らの任期中に改憲を実現する」などというものだから、マスコミではしばしば国民投票を想定した日程などが検討される。その場合、憲法改正手続法(国民投票法)が国民投票期間(国会が改憲を発議してから国民投票が実施されるまでの国民投票運動期間)を「60日以後180日以内」(第2条1項)と定めていることから、大方の報道が60日間で計算する。しかし、これは読者にとんでもない勘違いをさせかねない。
 「期限」の問題についての議論は、下限が60日と設定された理由は、国民投票実施に向けた事務的な準備作業に最低限2か月程度は要するということにもとづくもの。上限の180日は憲法改正の内容によっては半年程度をかけて十分に、慎重に国民に判断する機会を確保したほうがよいという政策判断に基づいている。
筆者はもともとこの国民投票期間に関する2条1項の規定は短すぎて、有権者に投票に必要な憲法改正の意味を周知徹底できない。投票には「改憲が発議されてから2年ほどは必要だ」と考える長谷部恭男教授の説(「憲法とは何か」岩波新書)が参考になると考えてきた。長谷部さんは同書で以下のように提案している。「国会による改正の発議から国民投票まで、少なくとも2年以上の期間を置くこと」。
 長谷部氏は「(改憲)提案から最終的な改正に至るまで長い時間を要する例は珍しくない」として、フランス革命後の1791年憲法やスペイン憲法などの例をあげ、スウェーデン憲法では、「改正の発議は総選挙をはさんで、2度国会によってなされねばならず、しかも最初の発議がなされて、総選挙が行われるまで少なくとも9か月が経過することが要求されている」と指摘している。それを必要とする意味について長谷部氏は第1に「落ち着いてじっくり改正提案の当否について考える冷却期間を置く」「薄っぺらな情報に乗せられて、安易な投票をする危険を避ける」という意味、第2に発議する側に熟慮を求めること」、一時的な多数派による固有の利害による改憲を避ける、と説明している。
 この現行改憲手続き法が決まる前には、右派の憲法改正議員連盟は60日から90日を主張し、自公両党案は30日から90日だった。しかし、2006年の第164国会では同法の成立を急ぐ自公両党が、民主党案の「60日から180日」を丸呑みして、決まった。有権者、国会多数派に熟議を訴えた長谷部氏の警告は生かされていない。
 今問題になっている改憲は緊急事態条項導入とか、自衛隊規定を導入するという日本国憲法の根幹にかかわる問題での改憲だ。まして、日本の有権者は従来、1度も改憲国民投票を経験したことがない。熟議を経て、「十分に、慎重に」判断できるような期間が必要なことはいうまでもない。
であるならば、現行法を前提にしても国民投票運動期間についてメディアが60日を所与のものとして論じることは許されない。法が許すぎりぎりの期間、180日が当てられるべきことは当然だ。ということは、2024年3月には両院で改憲が発議されていなければならない。これは不可能だ。 (T)