人民新報 ・ 第1427<統合520号(2023年11月15日)
目次
● イスラエルはガザでの軍事攻撃・大虐殺を直ちに止めろ!
支持率急落の岸田政権をさらに追詰めよう
● 院内集会「サイバー戦争と安保三文書」
● イスラエルは大量虐殺を止めろ!
即時停戦が世界の趨勢(国連総会決議)
● 辺野古新基地建設・ 強制「代執行」を阻止しよう
● 憲法公布77年
「つなごう 憲法をいかす未来へ 憲法大行動」
● 日中両国関係の現在
基本に返って緊張の緩和を
● 半導体を巡る米中の争い
湯之上隆『半導体有事(文春新書)』
● せんりゅう
● 複眼単眼 / 2つの戦争の勃発と世界の危機
イスラエルはガザでの軍事攻撃・大虐殺を直ちに止めろ!
支持率急落の岸田政権をさらに追詰めよう
イスラエルの蛮行に抗議
イスラエル・ネタニヤフ政権によるパレスチナ・ガザ地区への攻撃ではこの一ヶ月ですでに万余の死者をだし、なお激増している。虐殺を一刻を早く止めなければならない。「虐殺やめろ」「攻撃の即時中止を」の声は世界に広がっている。世界各国で大きなデモが起こっている。日本でもイスラエル大使館への抗議をはじめ各地で様々な闘いが連続的に取り組まれている。
11月10日には、渋谷の国連大学前に集合し、4000人が参加して「パレスチナに平和を!緊急行動」が行われた。出発前のミニ集会では、パキスタン協会のライース・シディキ会長が、日本には憲法がある、世界の平和のためにみんなで協力しよう、と述べた。日本国際ボランティアセンター(JVC)の伊藤解子事務局長は、イスラエルの激しい攻撃は市民を巻き込んでいる、生き残った市民も生きていくのが大変だ、即時の停戦を求める、と述べた。ガザ出身のハニンさんは、イスラエルの空爆や地上戦でもう一万人以上が殺されるというジェノサイドがおこっている、それを世界中の人が知っている、虐殺をやめさせ、パレスチナに自由を実現させよう、と述べた。
集会の後は、表参道、原宿、渋谷のコースで、「フリー・フリー・パレスタイン(パレスチナに自由を)」「フリー・フリー・ガザ(ガザに自由を)」「ストップ・ジェノサイド(集団虐殺やめろ)」のシュプレヒコールでアピール・デモを行った。
バイデン米大統領がネタニヤフ首相に3日間の戦闘停止を要請したがイスラエルは拒否した。バイデンが本気であればもっと強気の政策をとるだろうが、そうはしていない。東京で開かれたG7外相会議も予想通りのイスラエル・アメリカの意向に配慮したものとなった。
イスラエル・アメリカは世界世論から孤立を深めている。イスラエル国内でもネタニヤフ政権への批判が強まり、政府与党内にも亀裂が見え始めた。
世界の人びとと連帯し、イスラエル・アメリカのパレスチナ虐殺をやめさせよう。
臨時国会開会に際して
10月20日、第212臨時国会が始まった(12月13日までの会期)。
安倍政治を上回る大軍拡の道を強引に進む岸田内閣だが、当然にも内閣支持率をさげることになっている。岸田は支持を回復しようと躍起になっているが、次々に思いつく政策はますます評判を落とすことになった。そのうえ人気挽回策で登用した副大臣や政務官の不祥事が続出している。こうした状況で岸田は年内の解散・総選挙を断念した、岸田おろしも始まったとの報道も出てきた。だが、追い詰められた岸田は一層あくどい政策で生き残りを図る可能性もあるので注意しなければならない。
岸田は所信表明演説で、「変化の流れを絶対に逃さない、掴み取る」としたが、まず支持率低下の「変化」をこそ肝に銘じるべきだろう。「経済、経済、経済」を連呼した。だが、その目玉商品のところで躓いている。減税など「国民への還元」をいうが、選挙目当てで、増税かくしであることはみやぶられている。外交・安全保障では、「岸田外交では法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序をさらにもう一歩進めます。『人間の尊厳』という最も根源的な価値を中心に据え、世界を分断・対立ではなく協調に導くとの日本の立場を強く打ち出していきます」と、世界を敵対的に分断化してみせて、米国の世界覇権維持のための外交を積極的にすすめている。また「こうした外交の地歩を固めるためにも、日本自身の防衛力強化が重要です」と防衛力の抜本的強化を強調する。こうした岸田の減税策などのデマは、大軍拡・大増税をかくす薄っぺらなベールである。
統一して岸田政権と闘おう
国会開会日、議員会館前で、総がかり行動実行委員会、9条改憲NO!全国市民アクション、共謀罪NO!実行委員会の主催で、国会開会日行動が取り組まれた。高橋信一さん(憲法共同センター(憲法改悪阻止各界連絡会議)が主催者発言。立憲民主党の打越さく良参議院議員、日本共産党の小池晃参議院議員、社民党の福島みずほ参議院議員、沖縄の風の伊波洋一参議院議員があいさつし、市民連合のフェミブリッジアクション、共謀罪NO!実行委員会からと発言がつづいた。
岸田政権は自業自得で発足以来最大の危機的状況を迎えている。
岸田政策の欺瞞的政策の本質を暴露し、追い詰め、打倒しよう。
院内集会「サイバー戦争と安保三文書」
10月20日の臨時国会開催日の午後、衆議院会館会議室で、共謀罪NO!実行委員会と密保護法廃止へ!実行委員会の共催で、院内集会「サイバー戦争と安保三文書」が開かれた。
講演は、小倉利丸さん(JCA―NET理事)が「サイバー戦争へ踏み込む日本―安保三文書の意味とは」と題して行った。
昨年12月に「安保防衛三文書」が閣議決定された。この文書に「能動的サイバー防御」という言葉が登場した。「国家安全保障戦略」などでは、「可能な限り未然に攻撃者のサーバー等への侵入を無害化できるよう、政府に対し必要な権限が付与されるようにする」「サイバー安全保障分野における新たな取り組みの実現のために法制度の整備、運用の強化を図る」としている。そして武力攻撃に至らないものの、国、重要インフラ等に対する安全保障上の懸念を生じさせる重大なサイバー攻撃のおそれがある場合、これを未然に排除し、また、このようなサイバー攻撃が発生した場合の被害の拡大を防止するために能動的サイバー防御を導入する」とする。能動的サイバー防御は武力攻撃の有無とは関係なく、行使されるということだ。ここでは、能動的サイバー防御もまたサイバー領域における武力行使であるだけでなく、先制攻撃を公然と主張したことになっている。能動的サイバー防御の範囲は従来の自衛隊の任務を大きく逸脱することになる。私たちの生活の基盤は、電力、交通、医療、金融まで、情報通信システムなしには機能できない。情報通信システムはコンピューターのネットワークによって機能しており、インターネットはその中核的な仕組みとして世界中をひとつのネットワークとして繋ぐ仕組みとなっている。サイバー安全保障は国家安全保障の一部だが、「安保戦略」は「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上」と述べることで、事実上憲法9条による戦争放棄条項が国家に要請する安全保障上の制約を捨て去ったということだ。2019年に日米安保条約の対象領域に「サイバー」を追加したが、これを4月20日のNHK「サイバー攻撃は武力攻撃 安保条約適用で共同対処へ」で「日米の外務・防衛の閣僚協議が開かれ、軍事力を拡大させている中国などを念頭に、宇宙やサイバー空間でも連携を強化し、日本が深刻なサイバー攻撃を受けた場合に、武力攻撃とみなしてアメリカと共同で対処する方針を初めて確認」したとし、また「岩屋防衛大臣は共同会見で、『日米両国の力を結集すれば、あらゆる脅威を抑止し、あらゆる事態に対処することができる。今回の成果を踏まえ、日米同盟の一層の強化に取り組みたい』と述べ」たと報じた。まさに「あらゆる事態に対処できる」ということである。サイバー領域での日本の役割は、より積極的になり、政府は今年の1月31日に、一元的サイバー安全保障体制整備準備室を内閣官房に設置し、今後必要な法改正を検討するとした。だが、この準備室についての情報がほとんどでてこない。「防衛戦略」には「精密打撃能力が向上した弾道・巡航ミサイルによる大規模なミサイル攻撃、偽旗作戦を始めとする情報戦を含むハイブリッド戦の展開、宇宙・サイバー・電磁波の領域や無人アセットを用いた非対称的な攻撃、核保有国が公然と行う核兵器による威嚇ともとれる言動等を組み合わせた新しい戦い方が顕在化している。こうした新しい戦い方に対応できるかどうかが、今後の防衛力を構築する上で大きな課題となっている」としている。注目すべきなのは、偽旗作戦を始めとする情報戦を含むハイブリッド戦の展開、核兵器による威嚇ともとれる言動等を組み合わせた新しい戦い方、諸外国や関係省庁及び民間事業者との連携により、平素から有事までのあらゆる段階において、情報収集及び共有を図る、政府全体でサイバー安全保障分野政策を一元的に総合調整することをあげたことだ。
サイバー領域の戦争への加担は、自衛隊に限らず、企業、研究機関、団体、一般の市民の動員も想定される。サイバー領域が戦争に巻き込まれるとき、従来の戦争で想定されている武器の他に、私たちのパソコンやスマホもまた「武器化」し、人々が容易にサイバー部隊に動員され、企業もまたサイバー領域での戦争行為に容易に加担することが可能になる。パソコンのような私たちの誰もが所持したり自由に使える道具が、サイバー領域における軍事
行動―諜報活動や情報戦からドローンにミサイル発射を指令するコマンドまで―では主要な武器になる。しかし、政府も法律も、これを武器としての定義には含めていない。反戦平和運動の側でも武器の認識はない。実際はどうかといえば、パソコンはすでに実空間の戦場でも戦闘行為に必須の機器になっているが、サイバー領域では、これが主役の武器と化す。上述したロックド・シールズの軍事演習で用いられたコンピュータは、敵のシステムを攻撃し、敵からの攻撃を防御する武器だ。サイバー領域を戦争に巻き込む体制が世界規模で急速に進行するなかで、私たちは、むしろサイバー領域をこれ以上戦争に加担させないための行動をとる必要がある。
サイバー領域の平和のためになすべきことは次のようなことだろう。サイバー領域を軍事安全保障から明確に切り離すこと、政府の非軍事部門は国家のサイバーセキュリティなどを口実とした軍事安全保障に加担しないこと、民間企業はサイバー領域における軍事安全保障に加担しないこと。そのために、情報通信のネットワークの技術的構造そのものに軍事的な利用や基本的人権を侵害するような利用を排除するような仕組みを組込むこと、IT企業の労働者が平和に反するような企業の活動に協力しないような運動を構築することである。
現在の陸海空の軍事力はコンピュータテクノロジーやサイバー領域と不可分であり、根本的にはこうした従来の武力そのもの放棄することが必須となる。
そのためには「専守防衛」といったあいまいな文言で自衛隊を容認することはできない。
武力であれ自衛力であれ何であれ暴力という手段をとらない政治なくしてサイバー領域の平和もなく、サイバー領域の平和がなければ、国境を越えた人々の連帯と信頼のコミュニケーションもありえない。
イスラエルは大量虐殺を止めろ!
即時停戦が世界の趨勢(国連総会決議)
イスラエル政府による非人道的な完全封鎖の下にあるパレスチナ自治区ガザ地区に対する空爆と地上からの攻撃が激化し、連日きわめて多数のパレスチナ人が殺傷され、社会インフラの破壊がつづいている。アメリカの中東支配の要であるイスラエルの現政権は歴代最も右傾化しパレスチナ人抑圧の政策を強行している。ネタニヤフ政権のエリヤフ・エルサレム問題・遺産相は、ガザへの「原子爆弾の投下が一つの選択肢」と発言し、またガザからのパレスチナ人の排除などの話もでてきた。内輪の話がうっかり外に出てきたと言うことができるだろう。包囲されたガザで大量虐殺の危機が迫っている。即時停戦の声をあげていこう。
イスラエル軍はガザ地区に対する「地上作戦の拡大」を押し進めているが、イスラエル軍によるガザ攻撃の即時中止を求める運動は、急速に世界各地に広がっている。ガザ地区だけでなくヨルダン川西岸地区での闘い、レバノンなどのアラブ諸国やイスラム圏での闘い、アジア・アフリカ・ラテンアメリカや米欧日での様々な抗議行動がおこり拡大している。
世界のそれぞれの国家レベルでもパレスチナ・イスラエル問題にたいする対応がはっきりしてきた。10月27日、国連緊急特別総会で「敵対行為の停止につながる人道的休戦」決議(民間人の保護と法的・人道的義務の遵守)が、圧倒的多数で可決された。共同提案国(40カ国)―バーレーン、バングラデシュ、ベリーズ、ボリビア、ボツワナ、ブルネイ・ダルサラーム国、コモロ、キューバ、朝鮮民主主義人民共和国、ジブチ、エジプト、エルサルバドル、インドネシア、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、マレーシア、モルディブ、モーリタニア、モロッコ、ナミビア、ニカラグア、オマーン、パキスタン、カタール、ロシア連邦、セントビンセント・グレナディーン諸島、サウジアラビア、セネガル、ソマリア、南アフリカ、スーダン、トルコ、アラブ首長国連邦、ベネズエラ、イエメン、ジンバブエ、パレスチナ。
決議案は、「総会は、国際連合憲章の目的と原則に導かれ、パレスチナ問題に関する関連決議を想起し、1949年8月12日のジュネーブ条約第1条に基づき、あらゆる状況において国際人道法を
尊重し、その尊重を確保する義務を再確認し…」として、@敵対行為の即時停止につながる永続的かつ持続的な人道的停戦を求める、Aすべての当事者に対し、国際人道法および国際人権法を含む国際法の下での義務、特に民間人および民間対象物の保護、人道要員、非戦闘員、人道施設および資産の保護、なら
びにガザ地区で必要なすべての民間人に必要な物資およびサービスが届くよう、人道的アクセスを可能にし、促進する義務を、即時かつ完全に遵守することを要求する、Bガザ地区全域の市民に対し、水、食料、医療品、燃料、電気を含むまたこれらに限定されない必要不可欠な物資とサービスを即時、継続的、十分かつ妨げずに提供することを要求し、国際人道法上、市民が生存に不可欠なものを奪われないようにすることが不可欠であることを強調する、C国連パレスチナ難民救済事業機関、その他の国連人道援助機関およびその実施パートナー、赤十字国際委員会、その他人道主義を堅持し、ガザ地区の市民に緊急援助を提供するすべての人道援助団体に対し、即時、完全、持続的、安全かつ妨げのない人道的アクセスを求め、人道回廊の設置および市民への人道援助提供を促進するその他のイニシアティブを奨励し、この点に関する取り組みを歓迎する、D占領国イスラエルが、パレスチナ市民と国連職員、人道医療従事者に対し、ワジ・ガザ以北のガザ地区全域から避難し、ガザ南部に移転するよう命じたことを撤回するよう求める。また、民間人は国際人道法の下で保護されており、どこにいても人道支援を受けるべきであることを想起し、繰り返し表明するとともに、民間人、特に子どもの安全
と幸福を確保し、その保護と安全な移動を可能にするための適切な措置を講じる必要性を改めて表明する、Eパレスチナ民間人の強制移動のいかなる試みも断固として拒否する、F違法に拘束されているすべての民間人の即時かつ無条件の解放を要求し、彼らの安全、幸福、そして国際法に則った人道的待遇を求める、(以下略)事などを求めている。
投票の結果は最終集計で、賛成した国121カ国、反対14、棄権44カ国となった。
その反対、棄権、無投票の国名は次の通りだ(賛成国はこれら以外の国)。
反対(14力国)―オーストリア、クロアチア、チェコ、フィジー、グアテマラ、ハンガリー、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パプアニューギニア、バラグアイ、トンガ、米国。
棄権(44力国)―アルバニア、オーストラリア、ブルガリア、カボベルデ、カメルーン、カナダ、キプロス、デンマーク、エストニア、エチオピア、フィンランド、ジョージア、ドイツ、ギリシャ、ハイチ、アイスランド、インド、イタリア、日本、キリバス、ラトビア、リトアニア、モナコ、オランダ、北マケドニア、パラオ、パナマ、フィリピン、ポーランド、韓国、モルドバ、ルーマニア、サンマリノ、セルビア、スロバキア、南スーダン、スウェーデン、チュニジア、ツバル、ウクライナ、英国、ウルグアイ、バヌアツ、ザンビア。
無投票(13力国)―ペナン、ブルキナファソ、ブルンジ、カンボジア、エスワティニ、ジャマイカ、リベリア、ルワンダ、サモア、サントメ・プリンシペ、セーシェル、トーゴ、トルクメニスタン、ベネズエラ(共同提案国だが、国連分担金が未納で、投票権がない)
イスラエル、米国などが反対したが、フランス、スペイン、ノルウェー、ベルギーなどのNATO諸国も賛成した。日本や英国などは棄権に回った。
10月30日の衆議院予算委員会で岸田首相は「ハマス等によるテロ攻撃への強い非難や、全ての国連加盟国が国際法に従って自国及び自国民を守る権利の重要性に関する言及がないなど、全体として内容面でバランスを欠いているとしたために、我が国として総合的に判断し、棄権をした」と述べた。だが、米国に一方的に追随し、結局はイスラエルの非人道的攻撃を容認する日本外交こそバランスが欠けているのであり、今後の日本のアラブ諸国との関係が悪化していくのはあきらかだ。
11月3日には、上川陽子外相は、訪問先のイスラエルでコーヘン外相と会談し、ハマスの攻撃はテロであり、断固非難する考えを示し、コーヘン外相は「日本のイスラエルに対する支援と連帯に感謝する」と応じ、会談後、上川は同じ部屋でハマスの攻撃での犠牲者た人質となっている人の家族と面会し、「イスラエル国民と連帯しており人質の解放やテロのない世界に向けてできる限りの努力をしたい」と述べた。
岸田政権の米国に追随し、その戦略の尖兵となる軍事・外交政策は日本をいっそう危険な道に進ませようとするものだ。
辺野古新基地建設・ 強制「代執行」を阻止しよう
南西諸島の軍事要塞化を許さない! 沖縄も日本も戦場にさせるな!
対中国戦争の最前線に沖縄は位置づけられ、辺野古新基地は南西諸島の軍事力強化の要である。辺野古新基地建設は、戦争の危機をいっそう引き寄せるものである。それだけではなく、沖縄の豊かな自然を破壊するものである。
沖縄の人びとは政府の辺野古新基地建設に反対して闘い抜いてきた。「新基地NO」の県民の意思は基地問題を焦点とした国政選挙でも、また県知事選でも鮮明に示されてきた。にもかかわらず岸田政権は、強引に建設を強行してきている。 今年3月末時点での埋め立ての進捗率は14%、そして総工費は防衛省が当初見積もった3500億円を大幅にこえたに4000億円以上が投入された。
辺野古埋め立て区域北側の大浦湾に広大な軟弱地盤がある。当初そうした指摘を無視して工事を続けてきた防衛省沖縄防衛局は、工事を断念するのではなく、逆に軟弱地盤の存在を認めたうえ、2020年4月、県に設計変更を申請した。21年11月に玉城知事は公有水面埋立法の要件を満たしていないとして不承認にしたが、国側はこれを不服として、県の不承認を取り消す裁決と是正の指示を出したが、県は県民世論のを背景に訴訟を提訴した。だが、9月4日、最高裁は県の上告を棄却した。そして国は代執行に向けた訴訟を提起したのだ。
10月30日、福岡高等裁判所那覇支部民事部で辺野古沖の地盤の改良工事をめぐり、国が県に代わって工事を承認する「代執行」に向けて起こした裁判(原告・斉藤鉄夫国土交通大臣、被告・玉城康裕沖縄県知事)の初の口頭弁論が行われ、即日結審した(判決期日は示されなかった)。そもそも国が沖縄県の権限を奪い、自ら辺野古の設計変更を承認する代執行は、本来あってはならないやりかただ。
玉城沖縄県知事は意見陳述で述べた―沖縄県の自主性及び自立性を侵害することとなる国の代執行は、到底容認できるものではありません。そのため、私からは、沖縄県の主張のうち、特に、次の3点について申し上げたいと思います」として、@問題解決に向けた国と沖縄県との対話の必要性、A国が主張する「公益」の前提である「辺野古が唯一」との考えは、必要性・合理性を欠くこと、B沖縄県民の民意こそが「公益」として認められなければならないこと、をあげた。
また「沖縄が51年前に日本に復帰したとき、それまで極めて多くの犠牲と屈従を強いられてきた沖縄県民は、いわゆる『屋良建議書』において、人権、平和、民主主義、地方自治を高く掲げる日本国憲法のもとで生きていくことに大きく期待し、沖縄が『基地のない平和の島』となることを心から願いました。そして昨年、復帰50年を迎えるに当たり発表した新たな建議書においても、改めてこの点を確認し、政府に対し申し上げたところです」と訴えた。
また、被告訴訟代理人の加藤裕弁護士は、「これまで沖縄県は、辺野古新基地建設の過程において、憲法で保障されているはずの地方自治を踏みにじられてきた。それに加えてさらに代執行権限を国に与えることは、地方自治を紙切れ同然にしてしまうであろう。裁判所は、憲法の番人として、地方自治の蹂躙に対して果敢に立ち向かう審理と判決をしていただきたい」と述べた。
11月5日には、辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議
による「国による代執行を許さない!デニー知事と共に地方自治を守る県民大集会」が開かれ、玉城知事は「私がみなさんの矢面に立ちます」と闘いへの決意を述べた。
沖縄では、11月23日に大規模な「県民大集会」が開催される。
沖縄ひとびとの闘いは全国の課題である。
11月23日には、沖縄の呼びかけに呼応して首都圏でも声をあげようと、国会正門前で、「辺野古埋め立て」代執行を許さない!南西諸島の軍事要塞化を許さない!沖縄も日本も戦場にさせるな!国会正門前アクション(主催・「止めよう!辺野古埋立て」国会包囲実行委員会、協賛・戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)が行われる。この行動は沖縄と同時開催となる。集会には、宮古島・石垣島・与那国島・種子島からも参加する。辺野古新基地を許さない闘いと、南西諸島の戦場化を許さない闘いを一体のものだ。
「辺野古埋め立て」代執行を許すな!
南西諸島の軍事要塞化を許すな!
沖縄も日本も戦場にさせるな!
沖縄と共に全国から闘いを巻き起こそう。
憲法公布77年
「つなごう 憲法をいかす未来へ 憲法大行動」
憲法が公布されて77年の11月3日、国会正門前で、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、9条改NO!全国市民アクションの主催で「つなごう
憲法をいかす未来へ 憲法大行動」が行われ、4000人を超える人が集まった。
はじめに、主催者を代表して、総がかり行動実行委員会の藤本泰成共同代表があいさつ―イスラエルのガザ攻撃をやめさせ、パレスチナ問題の解決を求める、憲法の内実、平和の基盤をつくるために行動しよう。
国会からは、社民党の福島みずほ参議院議員、沖縄の風の高良鉄美参議院議員、れいわ新選組の櫛淵万理衆議院議員、立憲民主党の石川大我参議院議員、日本共産党の小池晃参議院議員があいさつした。集会には立憲野党の国会議員が多数参加した。
メインスピーチは、はじめに恵泉女学園大学の齊藤小百合教授―永田町は男だけの家父長的価値観が支配している。新組閣の時には、政務官と副大臣に女性はいなかった。多様な考え方のある政治を取りもどすことが重要だ。
つづいて日本体育大学の清水雅彦教授―自衛隊は敵基地攻撃能力を保有し、相手国を全面攻撃することになる。外交で戦争にならないようにしなければならない。続けなければならない。そのために憲法9条は決して無力ではならない。
リレートークの発言は、沖縄・辺野古新基地建設をめぐる訴訟代理人の加藤裕弁護士、「避難の権利」を求める全国避難者の会の大賀あや子さん、全国保険団体連合会会長の住江憲勇さんがおこなった。
最後に行動提起を総がかり行動実行委員会共同代表の高田健さんがおこなった―今日の集会参加者の声を岸田首相は真剣に耳を傾けるべきだ。イスラエルによるパレスチナにおける大虐殺が行われる中、岸田政権は安保三文書の具体化、台湾危機を喧伝しながら、大軍拡を行っている。イスラエルの虐殺をやめさせ、また沖縄の新基地建設に反対する諸行動を行っていこう。また11月4日から10日には「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の助成たちを中心に「フェミブリッジ・アクション」が行われる。岸田政権の攻撃と闘おう。
日中両国関係の現在
基本に返って緊張の緩和を
米中関係は緊張しながらもそれでも閣僚級が頻繁に会談を持ち、バイデン・習近平による直接会談もサンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で行われようとしている。11月6日には、政権交代したオーストラリア首相が約7年ぶりで、北京で中国の習近平国家主席と会談し、両国の外交関係が急速に好転しつつあるようだ。
だが、日中両国の関係はかつて無く緊張し悪化している。首脳会談はおろか閣僚級レベルでの正式交渉もできないでいる。バイデンの動きで岸田も日中首脳会談を模索しているのが現状だ。
10月23日、北京で中日平和友好条約締結45周年記念レセプションがひらかれた。王毅中共中央政治局委員(中央外事活動委員会弁公室主任)は「混迷する国際情勢を前に、中日関係は再び重要な岐路に立っている。習近平国家主席は、中日関係の重要性は変わっておらず、変わることもないと指摘した。安定した互恵的な中日関係は両国にとって極めて重要であり、アジアにとって不可欠であり、世界に対して重要な影響力を持つ。我々は条約締結45周年を契機に、条約の初心を胸に刻み、条約のコンセンサスを遵守し、条約の原則を実行し、中日関係が健全な発展の軌道に戻る後押しをする必要がある」と指摘した。日本から参加した福田康夫元首相は、「日本は中国と共に、条約の趣旨を発揚し、直面する困難を克服して、さらに日中間の善隣友好を促進し、平和・友好・協力を深めるために、たゆまず努力していくことを望んでいる」と述べた。 同月23日には岸田文雄首相と李強中国総理は、中日平和友好条約締結45周年を受けて祝電を交換した。岸田首相は「今や日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄に貢献していく大きな責任を有しています。同時に、現在、日中両国は様々な協力の可能性とともに多くの課題や懸案にも直面していますが、先人達の尽力に思いを致しながら、大局的観点から『建設的かつ安定的な日中関係』の構築に向けて共に取り組んでいくことが重要です。この機会に、条約の精神を改めて想い起こしつつ、貴総理とともに日中関係の更なる発展に尽力していきたいと思います」と述べた。李強総理のものには「45年前、両国の先人の指導者と政治家が中日平和友好条約を締結する戦略的決断を下しました。条約は法律の形で隣国である中日の平和共存、世代友好という大きな方向性を確立し、覇権主義への反対を強調し、両国関係発展における重要な一里塚となりました。45年以来、中日関係が得がたい発展の成果を遂げ、両国人民の福祉の増進、地域乃至世界の平和、安定と繁栄に積極的な貢献を果たしました。中国側としては、日本側と共に、締約の精神に立ち返り、両国関係発展の正確な方向をしっかりと把握し、新しい時代の要請に相応しい中日関係の構築に取り組んでいきたいと思います」とあった。
だが現実は厳しい。日中関係の改善のためには、日中平和友好条約などの両国関係を規定する重要四文書―@日中共同声明(1972)、A日中平和友好条約(1978)、B平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998)、C「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008)―によって律されなければならない。
日中永久不再戦のために
日本でも日中平和友好条約締結45周年記念を記念する集いがいくつか行われたが、日中友好七団体(公益社団法人日本中国友好協会、日本国際貿易促進協会、一般財団法人日本中国文化交流協会、日中友好議員連盟、一般財団法人日中経済協会、一般社団法人日中協会、公益財団法人日中友好会館)に関連した動きでは、10月21日に、日中平和友好条約締結45周年記念シンポジウム「日中永久不再戦のために 戦後補償をめぐる経験と成果を振り返る」が開かれた。七団体にくわえて外務省が後援の集会だ。主催者あいさつでは、主催の日中友好協会の丹羽宇一郎会長、岡ア温理事長はともに先約があるとのことで、永田哲二常務理事がおこなった。第一部・報告「戦後補償をめぐる経験と成果を振り返る」では「強制連行をめぐる裁判と和解事業」(森田太三弁護士)、「慰安婦」の方達を支援する日本の若者の活動(金子美晴弁護士)、平頂山事件の被害者と支援する日本市民の交流(大江京子弁護士)、遺棄化学兵器被害をめぐる裁判と被害者支援基金活動(富永由紀子弁護士)、日中の架け橋となった残留孤児の方達の裁判と取組(米倉洋子弁護士)の報告があり、日本の侵略の傷跡がほとんど癒やされていない現状、日本政府への要求・訴訟の状況が語られた。侵略の被害者には日本人も含まれる。会場には39人の中国残留孤児参加し、代表して池田澄江さん(NPO法人・中国帰国者・日中友好の会理事長)があいさつした。
第二部の講演は、自民、公明の与党中国残留邦人支援に関するプロジェクトチーム座長を務めた野田毅さん(日中協会会長)が「私の体験した日中市民の交流と不再戦の思い」と題して行った。
「中国念頭」の岸田外交
外遊の多い岸田は、最近はフィリピンとマレーシアを訪問した。12月に東京で開催する予定の日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議に向けた準備工作の一環である。岸田は11月4日、フィリピン下院で演説して次のように述べた。「今後も、フィリピンとの戦略的な協力を一層深めていく考えですとして、沿岸警備隊に12隻の船舶を供与、フィリピン軍に対し警戒管制レーダーが納入、新たに創設した政府安全保障能力強化支援(OSA)による世界で最初の協力案件としてフィリピン軍への沿岸監視レーダー供与に合意、日比部隊間協力円滑化協定の正式交渉の開始などについて述べた。これを読売新聞は社説「日比首脳会談 中国抑止の利害が一致した」(11・5)と評価した。 翌5日には、マレーシアのアンワル首相との会談では、政府安全保障能力強化支援(OSA)の実施に向けた調整を加速していくことを確認し、自衛隊とマレーシア国軍間の共同訓練や交流、海上保安機関間の共同訓練の実施を含め、海洋分野の協力を更に強化していくことで一致した。マスコミ各社は岸田の二カ国訪問を「中国を念頭にしたもの」と報じている。
岸田政権は、2023年版「防衛白書」で中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけ、「防衛力の抜本的強化」を図るとして、今後5年間で防衛費を43・5兆円に大幅に増加させるとしている。
岸田は、支持率の急激な低下に直面して、一層の右傾化、戦争の危機あおりによって政権維持を狙っているのである。
半導体を巡る米中の争い
湯之上隆『半導体有事(文春新書)』
米の対中半導体規制は失敗
日本の半導体産業と電機産業のコンサルタントおよびジャーナリストである湯之上隆(微細加工研究所所長)は、今年春に『半導体有事(文春新書)』を出版した。(目次―第1章米国による対中規制と「台湾有事」、第2章半導体とは何か、第3章半導体の微細化を独走するTSMC、第4章クルマ用の半導体不足はいつまで続くのか、第5章世界半導体製造能力構築競争、第6章日本の半導体産業はまた失敗を繰り返すのか、第7章日本の強み・装置は材料は大丈夫か、第8章半導体と人類の文明)。そこで「現代の半導体を巡る争いは、半導体そのものよりも『先端半導体製造能力』を巡る争いになっている。…その争いは、中国が先端半導体製造能力を獲得し、かつ拡大しようとする一方、米国がそれを阻止しようとする構図となっている。さらに、米国と中国の争いの中心には、ファウンドリー(半導体集積回路の生産を専門に行う企業・工場)の分野で世界シェア約60%を独占し、世界最先端の半導体を生産し続けている台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の存在がある」とする。米国の対中輸出規制で、中国で半導体がつくれなくなれば、「台湾有事」を誘発する危険性を秘めているとも指摘していた。
軍事技術のさまざまな種類のシステム計算能力の応用であり、半導体である。米中対立が激しくなる中で、米政権は中国が軍事的に優位に立ち得る最先端半導体技術の開発を阻止しなければならない。そうしなければ米国の一国覇権主義体制が崩壊することにつながるからだ。バイデン政権は昨年10月、先端半導体および半導体製造装置の中国への輸出を制限する規制措置を導入した。それでは、半導体や製造装置を中国に輸出する企業は、その最終使用目的が中国のスーパーコンピューターの開発や、半導体製造施設での集積回路の開発・生産であることを認識した場合、米国商務省産業安全保障局(BIS)に対して輸出許可を申請しなければならないが、それを「原則不許可」の方針に則って審査することにしているので、事実上対中輸出は不可能になる。こうして米国は中国の半導体産業を弱体化させることによって、米国の優位を継続させようとした。なおBISとは、国家安全保障と高度産業技術に関する問題を扱うアメリカ合衆国商務省の一機関であり、米国の国家安全保障、外交政策、経済的利益に寄与することとされている。
だが、この10月にいたって、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が対中制裁は「失敗は明らかだ」とする分析結果を公表した。それは次のような事態が起こったからだった。
華為・SMICショック
9月5日、中華人民共和国広東省に本社を置く通信機器大手メーカーファーウェイ(華為)が中国国内で発売したスマートフォン「Mate
60 Pro」に搭載されているプロセッサ「Kirin
9000s」をカナダの半導体調査会社が分析したところ、中国のファウンドリであるSMIC(中芯国際集成電路製造)の7nm(ナノメートル=10億分の1メートル)プロセスによって製造されていることが分かったことである。 アメリカが受けた衝撃は大きい。10月17日、BISは、AI(人工知能)半導体を想定した規制基準の見直しを含め1年前に施行を開始した中国向け半導体関連の輸出管理規則を一部改定する暫定最終規則(IFR)を発表することになった。
SMICの7nmがいかに衝撃的なものであったかについて、湯之上隆は、「中国SMIC開発の7nmプロセッサ搭載、ファーウェイのスマホは再浮上するか?
新型スマホ「Mate 60 Pro」(JBpress)で分析している。「ファーウェイは、2012年以降、スマホ出荷台数を右肩上がりに増大させ、2020年第2四半期(Q2)には一瞬サムスンを抜いて世界1位に躍り出た。ところが、米国による制裁により、2020年9月14日以降に、TSMCから先端半導体を導入できなくなったため、スマホ市場から消えていった。ところが今回、ファーウェイは、TSMCではなく、SMICに7nmのプロセッサを生産委託し、これを搭載したスマホ「Mate
60 Pro」を中国で発売した。このSMICに対しては、米国は厳しい輸出規制を課しており、最先端露光装置EUVの輸入が禁じられている上に、その1つ前の世代のArF液浸露光装置すらも、オランダと日本の協力により輸入が停止されている。… 米国はSMICに対して厳しい輸出規制を課してきた。しかし、それでもなお、SMICが微細化を進めることを止めることができなかった。そのことから、米国の輸出規制は失敗に終わったと言えるかもしれない。… 日本が他国の力を借りなければ40nmより先に微細化を先に進めることができないという情けない状態であるのに対して、米国から制裁を受けながらも自力で7nmを開発したSMICには、筆者は敬意を表したいと思う」とする。だが、今後の展望としては、「問題は、SMICの7nmのキャパシティと歩留りであると思う。筆者はこれまで『SMICが7nmを開発した』と書いてきたが、『SMICが7nmを量産した』とは一度も書いていない。要するに、SMICの7nmの製造キャパシティがどのくらいで、その歩留りがどの程度かが分からなければ、『SMICが7nmを量産した』ことが判定できないからだ」とも書いている。
これから中国の半導体開発がどうなるのかはわからないが、米国の制裁・封鎖を打ち破ったこと、そして米国がさらなる制裁・封鎖をかけざるを得ないところに追い込まれたことは現実となった。これは、「台湾有事」を誘発する危険性を低めたことになるのであろうか。
「半導体有事」下の日本
こうした激動する界の中で日本の半導体はどうなるのか。湯之上の判断は厳しい。「かつて、日本の半導体工場で作られていた超高品質DRAMは世界シェアの80%を独占した。しかし、1990年代には韓国や海外勢にとって代わられ凋落の一途をたどった。…昨年11月に、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が出資する半導体の新会社「ラピダス」が設立され、5年後の2027年までに2nmの先端ロジック半導体を量産すると報じられた。だが、「日本は2010年頃に40ナノ台で微細化が止まった。そのため、TSMCを熊本に誘致して12〜28ナノのロジック半導体を製造してもらおうとしている。また、米IBMと技術提携したラピダスが2ナノを開発しようとしている動きもあるが、量産は無理だろう」と悲観的だ。その理由に、「半導体技術者をどうやって確保するかは世界的な問題となっている。例えば、日本政府が誘致して建設が着工されたTSMC熊本工場では、1700人の社員が必要とされており、その募集が始まっているが、思ったように技術者が集まっていない」。そして「日本の半導体産業は挽回不能である。特に、TSMCが世界を席巻しているロジック半導体については、日本のメーカーは2010年頃の40nmあたりで止まり、脱落してしまった。いったん、微細化競争から脱落すると、インテルの例でわかるように、先頭に追い付くのはほとんど不可能である。したがって、日本がいまさら、最先端の7〜5nmを製造することなど(まして2nmなど)、逆立ちしたって無理である。ここに税金を注ぎ込むのは無駄である。歴史的に見ても、経産省、産業革新機構、政策銀行が乗り出してきた時点でアウトなのだ」と手厳しい。そこで今後の日本の展望として、「半導体デバイスそのものには期待できないが、各種の半導体材料、前工程の5〜7種類の製造装置、そして、装置が欧米製であっても各装置を構成する数千点の部品の内の6〜8割が日本製であり、ここに日本は高い競争力を持っている」として、ここに注力するべきで、日本政府・産業界の大風呂敷の展望は不可能だとする。
米中の争いがどうなるのか。日本の半導体の先行きはどうか。湯之上の論が正しいのか。いずれにせよ、半導体問題は世界の行方を作用する焦眉の大問題であり、行方が注視される。
せんりゅう
民意を聴こえぬふりの耳がある
ポイントで瞞すていどの人間観
民主主義へ足ゲリ入れて代執行
頂き統一これ自民の氷原
矛=トマホークをもって盾といいはる
税「還元」人気還元とはならず
資本、そこに「自己」のアバター住む
名ばかり公務員ドン底非正規
ゝ 史
2023年11月
複眼単眼
2つの戦争の勃発と世界の危機
昨年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵略戦争は間もなく2年になろうとしている現在、まだ終戦の出口が見えない。
そうこうするうちに今年10月初め、パレスチナでのハマスによる奇襲攻撃から始まって、イスラエルによるガザでのジェノサイドの危機が勃発した。
そして日本の岸田文雄首相は 昨年来、「ウクライナは、明日の東アジアかもしれない」などと語って軍拡にまい進しているし、自民党の麻生太郎副総裁は台湾での講演で「台湾有事(台湾海峡・米中戦争)」を念頭に、「日本、台湾、米国をはじめとした有志国には戦う覚悟が求められている」「いざとなったら台湾防衛のために防衛力を使う」などと戦争の危機を煽り立てた。
筆者はこうも安易に「戦争」が語られることに恐怖するが、こうした風潮にあおられてか、日本の護憲派、リベラルとよばれる知識人の一部がこの情勢の下で、あたふたと取り乱しているさまを見ると、そのほうがより恐ろしい気がする。かつてこれらの人々の多くは、15年戦争の敗戦後の日本にあって、反戦平和の世論を作る上で、重要な功績があった人が少なくない。岸田首相の言う明治維新後の第2の「77年」(平和の時代)の世論はこれらの人々の努力によるところが少なくない。
ところが今年4月、約40名の人々(和田春樹・東大名誉教授や伊勢崎賢治・東京外国語大教授などが名を連ねている)によって発表された「Ceasefire
Now!今こそ停戦を」「No War in Our Region! 私たちの地域の平和を」―― 23年5月広島に集まるG7指導者におくる日本市民の宣言――
という共同声明は驚くべき文書だ。
この声明の最大の問題点はウクライナ戦争の「代理戦争論」であり、両国に多数の被害が及んでいるからロシアを一方的に非難することなく、「即時停戦」するべきだという議論だ。この議論はロシアのウクライナ戦争の背景には、米国・NATOのポスト冷戦戦略があり、ロシア包囲のためのNATOによる東方拡張戦略があって、それがウクライナで代理戦争を勃発させたのだという議論の立て方がある。
国連加盟国のウクライナに対してロシアが一方的に国境を突破し、攻め込んでウクライナの東部地域を占領した。これをそのままにした停戦はありえない。ロシアは即時停戦し、占領地から撤退すべきだ。このことを「ロシアにはロシアの理由がある」などと東西ヨーロッパの歴史と戦争の犠牲を饒舌に語ることで不問に付すわけにはいかない。
1931年からの満州事変で日本が中国に攻め入った時、偽満州国をそのままにして、停戦を要求したら、当時の中国民衆は承知しただろうか。当時、日本が欧米諸国にAABCD包囲陣で締めあげられたから、中国、アジアに向かったのは責められないのだなどという論理はすでに歴史学では破綻しているのに、同様の議論がいま今出てきていることは歴史の退廃だと思わざるをえない。
一方、筆者は今回のガザ戦争で、ハマスのおこなった奇襲攻撃と人質作戦には賛成できない。しかし、問題を真に解決するにはイスラエルによる長期にわたるガザ封じ込めとパレスチナ問題の解決のための国連決議違反、國際法違反を解決する以外にない。
同じ論理を東アジアにおいて、「中国の拡張政策によって、日本の軍拡が不可避となっている」という議論に利用させてはならない。(T)
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