人民新報 ・ 第1435号<統合528号(2024年7月15日)
目次
● 支持率急降下の内閣・自民党 政権交代求める声広がる
戦争する国づくりの岸田政権を打倒しよう
● 兵庫 (7・8)
川崎重工抗議署名提出アクション
● 追悼 和多田粂夫さん
● 続発する在沖米兵 による性暴力の根絶!! 軍基地撤去へ
在沖米軍による性暴力および情報隠蔽に抗議する緊急声明
● 台湾問題の見方・観点
● 今月のコラム
中国はどこから来て、今どこにいるのか? − 映画「青春」を観る
● せんりゅう
● 複眼単眼 / 緊急の課題は戦争阻止
支持率急降下の内閣・自民党 政権交代求める声広がる
戦争する国づくりの岸田政権を打倒しよう
酷かった213通常国会
自民党派閥の政治資金パーティー券収入による裏金づくりをはじめ国会議員スキャンダルの続発などは自民党自身の深刻なガバナンス危機を示し、なにより物価高など国民生活の逼迫に対する政策などでの失敗・破綻が多くの人びとの不満を高じさせている。
だが岸田政権は支持率を急低下させているにもかかわらず、反動的な政策をいちだんと強行している。
第213回通常国会は6月23日に閉会したが、その内容たるやじつに酷いものであった。
岸田は、ここまできても改憲についてなお断念していないし、武器輸出(防衛装備移転)三原則の運用指針を改定し、イギリス、イタリアとの三国共同開発の次期戦闘機の輸出を可能とすることを決定した。
また「特定秘密保護法」の経済安保版である重要経済安保情報保護法を成立させた。これは、宇宙、サイバー、先端半導体など軍民両用が進む分野でも米国を軸とする国際的な情報共有や共同開発への参加を促進するものだ。
そして地方自治法改正は、重大自然災害発生などを口実に政府が「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」と判断すれば、国に地方自治体への広範な「指示権」を与え、自治体を国に従属させる仕組みをつくるもので、大きな反対があるにもかかわらず沖縄の辺野古新基地建設の強行のように有無を言わさず自治体を国に従わせることになる。
自衛隊法の改正では、陸海空自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設置することとした。
そのほかにも、子どもに不利益が及ぶことが危惧される離婚後の共同親権の民法改正がおこなわれた。
就労を通じた人材育成及び人材確保を目的とする新たな在留資格の創設をうたう出入国管理法改正と外国人技能実習法改正は、実質的に奴隷制度を引き継ぐ「育成就労」制度、そして永住許可取消しに結びつくものだ。
このように今通常国会は、自民党の金権・腐敗体質を開き直るとともに、「戦争する国」づくりを大いに促進するものとなった。
バイデン「失言」ではない
「ワシントン時事」は、「バイデン米大統領は(7月)5日、米ABCテレビのインタビューで『私は日本に予算を増加させた男だ』と述べた」と報じた。そしてこれを「重ねての『失言』」としたが、決して失言ではない。これまでもバイデンは日本の軍事費を増加させたのはこの私だという発言をくり返してきた。もっともそのたびに米政府は火消しに躍起になってきたが、バイデンのほうが正直なのである。
岸田は4月に訪米しバイデン大統領との首脳会談を行い、米上下両院での演説で次のように対米確約したのだった。「皆様、日本は既に、米国と肩を組んで共に立ち上がっています。米国は独りではありません。日本は米国と共にあります。日本は長い年月をかけて変わってきました。第二次世界大戦の荒廃から立ち直った控え目な同盟国から、外の世界に目を向け、強く、コミットした同盟国へと自らを変革してきました。日本は国家安全保障戦略を改定しました。インド太平洋地域の将来の安定に関する不確実性が、私たちの政策、さらには考え方自体を変える契機となったのです。私自身、日米同盟を一層強固なものにするために、先頭に立って取り組んできました。2022年、日本は、2027年度までに防衛予算をGDP(国内総生産)の2パーセントに達するよう相当な増額を行い、反撃能力を保有し、サイバーセキュリティーを向上させることを発表しました。今日、日米同盟の抑止力は、かつてなく強力であり、それは米国の日本への拡大抑止によって強化されています。」
このように岸田による対米誓約がおこなわれたのである。その内実は、日本政府の困惑をも顧みず自らの成果として公言しただけである。
沖縄県と東京都での選挙
岸田内閣と自民党の支持率の低下の情勢下で、4月の衆院補選、静岡県知事選などで自民党は敗北を重ねてきた。
だが、こうした状況で、権力政党である自民党勢力は予想を遙かに上回る強力な巻き返しに出てきた。
沖縄と東京で重要な選挙が行われた。6月16日投票の沖縄県議選では48の定員に対し玉城知事を支持する共産党・立憲民主党・社民党・地域政党の沖縄社会大衆党など県政与党の勢力は選挙前の24議席から4議席減らして20議席となり玉城県政与党の勢力は過半数を確保できなかった。7月7日投票の東京知事選では、小池百合子2、918、015票(42・8%)で当選、石丸伸二1、658、363票(24・3%)、蓮舫1、283、262票(18・8%)などという結果となった。なお同時におこなわれた8つの都議補選では、自民党は2勝6敗となり、当初目指していた勝敗ライン4大きく下回り、萩生田光一前政調会長の地元・八王子も落選した。
この結果をしっかりと受け止め、ただすべきところは正して、いっそう前進していかなければならない。
直近の世論調査を見る
7月6日、7日に行われた直近のJNN世論調査によると、岸田内閣の支持率26・9%(先月調査比1・8ポイント上昇)、不支持率は71・5%(同0・1ポイント下落)にとどまっている。自民党の支持が前月の調査から0・3ポイント上昇し、24・1%となっている。また次の衆議院選挙後の政権のあり方については、「自民党を中心とした政権の継続を望む」が38%、「自民党以外の政権に交代することを望む」が47%でした。岸田総理にいつまで総理を続けて欲しいか聞いたところ、最も多かったのは「9月の総裁任期まで」で61%、「すぐに交代して欲しい」と答えた人は27%、「できるだけ長く続けて欲しい」は7%でした。
この自民党ばなれの趨勢は、そう簡単には変わらない。だが、一方では、政党支持率は立憲野党にとって厳しいものがある。自民24・1%、立憲7・4%、維新4・3%、公明2・6%、共産2・1%、国民1・6%、教育0・4%、れいわ3・4%、社民0・6%、参政0・6%、その他0・6%支持なし47・8%、という数字になっている。
もう一つ、時事通信が7月の世論調査(7月5〜8日実施)によると、岸田内閣の支持率は15・5%(前月比0・9ポイント減)となり、自民党が政権復帰(2012年12月)以来の最低を記録した。不支持率は58・4%(同1・4ポイント増)、「分からない」は26・0%だった。次期衆院選後に期待する政権の在り方につての問いには、「政権交代」が39・3%、「自民党中心の政権継続」36・3%となった。政党支持率は、自民16・0%、立民6・3%、維新2・7%、公明2・5%、共産2・3%、れいわ新選組0・9%、国民民主党0・8%、社民党0・4%、参政党0・3%などなった。支持政党なしは64・1%。
二つの世論調査にはもちろん違いはあるが、趨勢としては、岸田・自民党政治を追撃し、日本政治の展開を図る条件ができた。だが、これらの動きは、自民党勢力がおとなしく政権から引き下がるわけでもなく、立憲野党の政権交代の基盤が形成されたことを意味するものではない。市民と野党との共闘強化、総がかり行動の展開、政党の中央はもとより基礎組織、労働組合などの大衆団体組織、市民団体の運動などが地道につくられ、政権交代に向けての政策形成が求められている。
これからも着実な闘いを
岸田の自民党総裁任期は9月30日でそれ以前に自民党総裁選を行わなければならない。自民党内でも岸田人気は低く、だれが総裁になるかわからない。9月24日にはニューヨークで国連総会の一般討論演説が始まり、岸田の訪米が予定されている。
立憲民主党も党首選が予定されている。
また年内の衆議院解散・総選挙もあるかもしれない。 これからの時期の闘いはきわめて重要だ。
この間の闘いの成果と欠陥の経験を正しく総括し、さまざまな妨害策動を許さず、いっそうおおきく市民と立憲野党の共闘をひろげていこう!
政権交代を実現し、自民党政治を終わらせよう!
兵庫 (7・8)
川崎重工抗議署名提出アクション
7月8日、川崎重工抗議署名提出アクションが取り組まれ、川崎重工神戸本社前に42名が集まった。 呼びかけは、「パレスチナとともにありたい市民有志」、先の株主総会でも抗議アクションを取り組んでいる。この日までに「川崎重工はイスラエルの軍事企業との輸入代理店契約をただちに破棄してください!」署名は、ネットや紙など22、733筆が集まり、代表者が川重担当者に直接手渡した。
川重は、前代未聞の「裏金事件」が発覚。架空取引で裏金を作り海上自衛隊の潜水艦乗組員の要望を受け飲食代や商品券、ニンテンドウスイッチなどの購入にあてられていた。裏金は、過去6年間で10数億円にものぼる。
6月の株主総会で社長は、攻撃型ドローン購入については、「災害時に無人機を活用できる仕組みを検討すること」などと言っていたが防衛省は災害時の活用は想定していないと述べている。
本来は、今年1月の国際司法裁判所の「イスラエルに対してジェノサイド行為を防止するあらゆる手段を講じること等を求める暫定措置命令」が発出された際に伊藤忠アビエーションと同様に協力覚書を破棄すべきであったが今日なお契約を続けている。
東京では、7月3日、4日に防衛省と川重に対してドローン購入中止を求め30、054筆の署名が提出されており全国的に抗議活動は広がっている。署名活動と抗議活動を大きく広げよう。
追悼 和多田粂夫さん
新時代社発行の週刊「かけはし」6月5日号で、5月28日に、あの和多田粂夫さんが83歳で他界されたとの報に接した。びっくりしながら和多田さんに初めてお会いしたあの1978年3月25日の打ち合わせ会議を昨日のことのように思い出していた。その日、朝倉の団結小屋に3党派、2大衆団体の指揮者が次の日の戦い方を協議するために集まっていた。その会議を主導したのが第四インターであった。当時、30代の和多田さんは髪ふさふさとした知的な風貌の活動家であった。にも拘わらず過去のいろいろな戦いについて身振り手振りで熱心に話していたのが印象的で、初めて見るタイプの活動家であった。公団発行の情報誌から得たという空港の構造に基づき地下水道を通って管制塔に至るという案についても全体の空港ゲートからの攻撃と合わせて追求するということについて熱心に皆に説いていた。
今回、「かけはし」に掲載された前田道彦さんと大門健一さんの追悼文を読んでみて一見さりげなく提案された案について事前の調査と実験が行われており、それに基づいたものであったことがよくわかった。この会議では、@26日1時をきして各分担のゲートからの戦いを開始する。A戦いについては秘匿し他に話さない。B最低10年間は会議内容について秘匿することが決定された。三里塚闘争に連帯する会には世話人にも秘匿することと連帯する会の4部隊に編成した中から精鋭の1部隊を9ゲートに回してほしいとの提案であった。私は連帯する会の分担である労農合宿所前の横堀周辺での戦いを確実にするためにこの提案を断った。和多田さんは快く同意するとともに戦いに必要なものは支給すると言ってくれた。この伏線としては労農合宿所に寝起きする活動家の中で陽動のための陽動は嫌であり、自分たちも及ばずながら戦いたいとの意見や雰囲気が濃厚であったことがあった。この会議に先だって私と世話人のSさんとで多古の農民活動家加瀬勉さんを訪問し意見交換をしていた。加瀬さんの意見は警察機動隊は空港敷地の守備に重点を置き、周辺部には出てこないだろうというものであった。
3月26日、菱田小学校跡地での集会を終え、連帯する会の部隊は横堀へと行進を開始した。警察機動隊の配置状況の情報が次々に入ってきた。最も多い連帯する会の部隊に対して横堀方面へと機動隊が移動を開始されたとの情報がもたらされた。横堀の労農合宿所前で警察機動隊と対峙することになった。予想外であったのは警察機動隊が左手の小山のような所に潜んで遊撃に及んだことであった。この攻撃により連帯する会の部隊は混乱しながら一時を喫しての戦いを開始し多くの逮捕者を出した。ようやく隊列を建て直したときに、管制塔からのビラが舞い散っているのが見られ一同からワッと歓声が上がった。
連帯する会の取り組みは三里塚農民の空港建設反対の戦いを全国化するために戸村一作さんの参院選に取り組むところから出発し、全国各地に連帯する会が組織されていった。これに並行して宣伝の一環として映画「襤褸の旗」の制作、上映運動が展開されていった。
また、労農合宿所が設立され、それまで分散して現地闘争や支援活動が取り組まれていたのが全国の支援勢力の拠り所となっていった。
全国世話人の下で3・26に向けて関西、愛知、静岡、東京、千葉の指揮者が名古屋で世話人のSさんを入れて戦いの意思統一を行った。3・26から5・20へと開港阻止闘争が連続して戦われた。
開港は阻止されたが管制塔占拠逮捕者をはじめ多くの労働者、市民が逮捕されていき、その後の司法権力、企業との解雇撤回闘争へと向かっていった。管制塔占拠活動家への弾圧は過酷なものであったが和多田さんの逮捕、長期刑はその中心的な弾圧であった。
和多田さんに次に出合ったのは10年の刑期を終えて現地集会に参加されていた時であった。
静岡のIさんが「和多田さんが出所し集会に来ている」と言われその引き合わせで再会した。和多田さんは元気そうにニコニコされていた。
その次に出合ったのは空港公団の不当な損害賠償請求に民衆側の、とりわけ三里塚勢力の回答を政府、公団に突き付けるために広範な資金集めの2005年東京集会であった。
最後に出合ったのは管制塔占拠45周年の東京集会であった。和多田さんは管制塔被告団の中に気持ちよく溶け込まれていた。
和多田粂夫さんは党派、政治グループを超えた大きなスケールの存在であった。表面的には管制塔占拠闘争への立案、指揮者としてのイメージが強いがむしろ与えられた状況の中で常に自然体で資金集めの手法や事業立ち上げと新しい運動と団結を作り出していった。その意味では党派、政治グループを超えた破格のスケールの人ではなかったろうかと思いをはせている。
東大闘争から三里塚闘争へと本当にご苦労様でした。農民、労働者、学生、民衆への献身ありがとうございました。 (蒲生楠樹)
続発する在沖米兵 による性暴力の根絶!!
軍基地撤去へ
在沖縄米兵による性的暴行事件が続発している。1995年の在沖縄米兵の少女暴行事件で県民の怒りが爆発し、日米両政府は97年に事件・事故の速やかな通報で合意していたはずだ。昨年12月の事件では、沖縄県警は外務省には伝えたが、県には通報せず、沖縄防衛局にも知らせなかった。外務省は防衛省に伝えず、沖縄防衛局から県に伝わることもなかった。県警は、防犯カメラの映像から容疑者を特定して今年3月に書類送検し、那覇地検は起訴した。やっと事件が明るみに出たのは6月25日。この間、辺野古新基地建設にむけての国は月末に知事に代わって工事を承認する「代執行」を行い、年明けに着工。4月には岸田首相は国賓待遇でアメリカを訪問し首脳会談や議会での演説があり、6月16日に沖縄県議選だった。
7月12日に、米駐日大使と在沖米軍トップ在沖米四軍調整官は共同で見解を発表したが、謝罪の言葉はなかった。罪に問われている沖縄の米空軍兵ブレノン・ワシントンは裁判で無罪を主張しているしまつだ。
もうこれ以上の米兵による性的暴行事件、基地被害を起こさせてはならない。根源である米軍基地を撤去させなければならない。日米軍事同盟を進める自民党政治を終わらせよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
在沖米軍による性暴力および情報隠蔽に抗議する緊急声明
2023年12月、在沖米空軍兵長による少女への性暴力事件が 発生し、2024年3月には那覇地検が不同意性交等の容疑で起訴していたことが、報道で明らかになりました。また今回、外務省は那覇地検が起訴した3月27日までに事件を把握していたにもかかわらず、6月25日まで沖縄県に情報を共有していませんでした。これは6月17日投開票の沖縄県議会議員選挙での争点化を避けるため、かつ、6月23日の首相や米軍関係者が参列する沖縄戦慰霊式典への影響を避けるための情報隠蔽としか考えられません。今回の事件以外にも米兵による性暴力事件は多発してきたにもかかわらず、近年、警察が情報を公表しない傾向が強くなっていることも指摘されています。
私たちは、米兵による性暴力が何度も繰り返される状況を許してきた米軍及び日本政府に強く抗議します。また、日本政府による情報隠蔽、特にその口実として「被害者のプライバシー」が利用されることに強く抗議します。被害者のプライバシーに配慮しつつ情報を自治体・市民と共有することは可能であるばかりでなく、あらゆる性暴力、ジェンダーに基づく暴力を根絶するためにも不可欠です。
米軍基地がもたらすさまざまな人権侵害の中でも、性暴力は、被害者に対するスティグマや、性暴力を軽視する司法制度のために、不可視化される傾向が続いてきました。埋もれた被害を掘り起こしてきた沖縄のフェミニスト団体の努力、また、あらゆる性暴力被害者の権利が守られる司法制度をめざしてきた多くの人びとの努力にもかかわらず、政府が「被害者のプライバシー」を盾に、必要な情報を隠蔽することは許されません。なぜ沖縄県への情報伝達が遅れたのか、警察が事件を公表しなくなっている傾向の背景に何があるのか、沖縄県にとどまらず基地があるすべての地域を対象に調査し明らかにするよう求めます。
日本政府は現在、国連安保理決議第1325号にもとづき、「女性・平和・安全保障」の積極的推進を掲げています。この決議の核心は、平和・安全保障に関わる意思決定への女性の平等な参加であり、そのためには透明で民主的な意思決定プロセスが不可欠です。わたしたちは、これまでの軍事的国家安全保障が、ジェンダーにもとづく差別・暴力と植民地主義の上になりたってきたことを認識し、市民、とりわけ直接影響を受ける人々の声が平和・安全保障の意思決定に反映されるよう求めます。
わたしたちは、国家安全保障を優先して、軍人による性暴力・ジェンダー暴力を不可視化し、過小評価し、許容してきた日米両政府に強く抗議します。あらゆる性暴力を許さず、基地押し付けと闘う沖縄の人たちと連帯します。
2024年7月2日
在沖米軍による性暴力事件の隠蔽を許さない!抗議スタンディング 参加者一同
台湾問題の見方・観点
橋本勝史
台湾問題と日米同盟の役割
「令和5年版防衛白書」は、「台湾をめぐる中国の軍事動向」について「台湾周辺での中国側の軍事活動の活発化と台湾側の対応により、中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない状況となっている。バイデン政権が軍事面において台湾を支援する姿勢を鮮明にしていく中、台湾問題を『核心的利益の中の核心』と位置づける中国が、米国の姿勢に妥協する可能性は低いと考えられ、台湾をめぐる米中間の対立は一層顕在化していく可能性がある。台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要であり、わが国としても一層緊張感を持って注視していく必要がある。」とした。
日中防衛当局は、6月1日に、木原防衛大臣が、訪問先のシンガポールでアジア安全保障会議の際に中国の董軍国防相と初めて会談し、両者は防衛当局間のホットラインを引き続き適切に運用し、対話や交流を推進していくことで一致した。
一方で、7月8日には、日本、フィリピン両政府は、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで相互に訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名したが、その狙いは東シナ海、南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、日本は米国とともにフィリピンとの安全保障面での連携を強化しており、同国との関係を「準同盟」級へと格上げを図るものだ。
この動きの背景に、今年の4月10日の「日米首脳共同声明〜未来のためのグローバル・パートナー」に、「日米両国は二国間関係を強化するのと同時に、志を同じくする地域のパートナーとの関係を引き続き構築していく。我々は本日、増大する経空脅威に対抗するため、日米豪の間で、ネットワーク化された防空面におけるアーキテクチャーに関して協力するビジョンを発表する。日本の強み及びAUKUS諸国との間の緊密な二国間防衛パートナーシップを認識し、AUKUS諸国 ― 豪州、英国及び米国 ― はAUKUS第2の柱における先進能力プロジェクトに関する日本との協力を検討している。」とある。このようにインド・太平洋地域の国々を米国指導の下に中国と敵対する連携をつよめるために日本がより積極的な役割を果たすとしている。
米国のインド太平洋戦略
バイデン米政権は、2022年2月11日に「インド太平洋戦略」を公表した。それは「自由で開かれたインド太平洋の推進」のため、米国は同地域における情報公開および表現の自由を強化し、他国による干渉とも戦うとした。また、米国は南シナ海や東シナ海などの海洋状況に対する法に基づくアプローチを支援し、新興技術、インターネット、サイバー空間についてパートナー国とともに共通の取り組みを進展させるとし、「特に同盟を結ぶ5カ国(オーストラリア、日本、韓国、フィリピン、タイ)および地域を主導するパートナー国(インド、インドネシア、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、シンガポール、台湾、ベトナム、太平洋島しょ国)との関係を深化させる」としている。米国はこの地域において日本を軸にしてパックアメリカーナ防衛の軍事同盟をつよめようとしていることは明らかである。
同時にNATOとアジア地域とむすびつけようという画策が続いている。岸田は、アメリカ・ワシントンで開かれているNATOの首脳会議にインド太平洋地域のパートナー国である日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドともにの出席した(オーストラリアは首相欠席、国防相参加)。
岸田は次のように述べたと報じられている―ウクライナ支援と対ロ制裁を推進する方針は不変だとしNATOと連携して対応していく、また欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分だとして、ロシアと北朝鮮による軍事協力が日本周辺に与えている影響に深刻な憂慮を示し、中国を念頭に東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更の試みを認めない立場を強調した。
米国を頭として、いわゆるインド太平洋地域における第一の役割を日本が果たそうというのが米国の戦略である。そして軍事大国化・戦争する国づりの最大の口実が「台湾有事は日本有事」論なのである。
中国から見た台湾問題
台湾問題についての中国政府の見解には、2022年8月10日に中国の国務院台湾事務弁公室が発表した白書『台湾問題と新時代の中国統一事業』がある。今年3月の中全国人民代表大会(全人代)第2回会議終了に際して、3月7日に王毅中共中央政治局委員(外交部長)が「中国外交政策と対外関係」について記者会見を行い、国内外の記者からの質問に答えた。「台湾地区の選挙は中国の地方選挙の1つに過ぎず、その結果が台湾地区は中国の一部であるという基本的事実を変えることは全くないし、台湾地区は必ず祖国に復帰するという歴史の大きな流れを変えることもできない。選挙が終わった後、180を超える国と国際組織が『一つの中国』原則を堅持し、中国が国家主権と領土的一体性を守ることを支持すると改めて表明したことで、『一つの中国』原則がすでに国際社会に普遍的な共通認識であることが十分に示された。今なお『台湾独立』を黙認・支持する人がいるなら、それは中国の主権への挑戦にほかならない。特定の国が台湾地区との公的な関係をかたくなに保ち続けるなら、それは中国の内政への干渉にほかならない」「『台湾独立』の分裂行為は台湾海峡の平和安定を破壊する最大の要因だ。台湾海峡の平和を本当に維持したいなら、旗幟を鮮明にして『台湾独立』に反対しなければならない。『一つの中国』原則が力強く堅持されるほど、台湾海峡の平和が保障されることになる。中国の政策は明確であり、それは引き続き最大の誠意をもって平和統一の未来を勝ち取るというものだ。中国のボトムラインもはっきりしており、それは台湾地区が祖国から分裂するのを絶対に許さないというものだ。台湾島の中で『台湾独立』を企てる者は、歴史によって必ず淘汰されるだろう。国際社会で『台湾独立』を黙認し支持する者は、必ず自ら災いを招いて身を滅ぼし、自ら報いを受けることになるだろう」と述べた。。
佐藤栄作首相(当時)答弁
1971年10月25日に第26回国際連合総会で採択された2758号決議(「国際連合における中華人民共和国の合法的権利の回復」)が中国と日本や米国との国交関係正常化の国際的な条約の国際的な基礎にある。
国連総会直後の第67回国会の衆議院本会議(1971年10月26日)で、社会党の川崎寛治議員の質問に佐藤栄作首相は次のように答弁している。「すでにアルバニア案は、川崎君が説明されたごとく、また、すでにテレビ、ラジオ等でも伝えているごとく、国連で決定を見ました今日、われわれは国際社会においても多数の意見を尊重すること、これが私どもの当然の責務だ、かように思っておりますから、国連のこの決議はそのまま私どもも尊重していくつもりであります。したがいまして、中華人民共和国が国連に議席を持ち、同時に安保理の常任理事国になるということについて、これまた私は大いに歓迎するものであります。そこで、台湾の領土の帰属は一体どうなっているか、こういうお尋ねでありますが、この問題は、すでに説明いたしましたとおり、私どもは、さきの日華平和条約締結の際、台湾、澎湖島に対する権利、権原、請求権、一切を放棄したのであります。そうして、その地域を占拠しているのが国民政府であります。そうして国民政府は、これまた、北京における中華人民共和国と同様に、中国は一つだ、かように主張しておりますから、いまさら領土の帰属について疑問の余地があろうとは私は思いません。これを疑問として提供される方の考え方を私は逆にお伺いしたいような気がするのであります。(拍手)」。
佐藤は「いまさら領土の帰属について疑問の余地があろうとは私は思いません」と国会の場で言っているのである。
絶対に戦争を阻止しよう
今日、米国と中国の対立は一段と激しいものになってきている。とりわけ中国・フィリピン関係にはきわめて厳しいものがある。互いに領土・領海を巡っての意見の相違があるからだ。米国・日本に肩入れされてフィリピン・マルコス政権は強気に出てきている。また7月4日には日本の海上自衛隊の護衛艦「すずつき」が浙江省沖約22キロメートルの中国領海に接近し約20分間航海したと報じられた。
日本政府は日中間の4つの基本文書(@日中共同声明(1972)A日中平和友好条約(1978)B平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998)C「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008)の原則と精神を遵守し、実際の行動でしめさなければならない。
憲法9条を守り生かし、多くの人びとと連帯して、自民党政権の戦争する国づくり政策に反対して闘い抜こう! 戦争を起こさせてはならない!
今月のコラム
中国はどこから来て、今どこにいるのか? − 映画「青春」を観る
王兵(ワン・ビン)監督の映画「青春」(2023年)を観た。中国の子供服の80〜90%を生産するという浙江省湖州市には1万8千の小規模な民間縫製工場があり、30万人の「農民工」(農村部からの出稼ぎ労働者)が雇用されている。映画は幾つかの工場にカメラを据え彼らの日常を撮り続ける。脚本も音楽もナレーションも一切ない、想田和弘監督の「観察映画」を思わせる手法だ。
ガンガン歌謡曲を流しながら猛烈なスピードで工業ミシンをかけ続ける子、黙々と働く子、並んで仕事をしながらおしゃべりで恋の駆け引きをするペア、面倒な細工ものへの愚痴、時に諍いを起こし鋏を振り回したり、仲間が作ってしまった不良品を協力して補修する子たち。魔法瓶抱えて湯沸かし室と部屋の間を行ったり来たり、誕生祝でクリームのなすりつけ合いといった寮での生活ぶり。賃金に不満でぞろぞろと社長に掛け合いに行って追い返され、再度交渉団を編成して交渉する姿。10代から20代が大半の彼らの坦々とした生活ぶりなのだが、3時間35分が長いとは感じなかった。「全ての登場人物たちが日常生活という海の中で一緒に泳いでいるのを眺めるのが好き」という監督の言葉にあるように、若者たちへの温かい眼差しがある一方、彼らの将来への懸念も伝わってくる。
ところで彼らの労働条件は、6ケ月後払い・出来高払いの賃金(34万円〜85万円)、但し1着当たりの工賃は支払の時まで分からない。労働時間は8時〜23時、途中1時間の休憩2回、休日は週1日。実に過酷なものだ。
映画の冒頭に妊娠した娘のことで両親が経営者と話すシーンがある。娘も妊娠の相手も一人っ子、どちらの戸籍に入れるかが老後の生活保障につながるため親同士衝突せざるを得ない。
中国の結婚事情
北京在住26年の斎藤淳子著「シン・中国人」(ちくま新書)はショッキングな本だった。例えば、「上海の若い女性の母親っていうのは普通の人じゃない。婿を評価するための詳細にわたる一覧表があるんだ。男性と女性の戸籍所在地、オックスフォード大学にハーバード大学から国内の三流校までの学歴、年齢、新居マンションの上海市内の位置と価値、名義を嫁と共同名義にするか否か、さらに両者の容姿に至るまで、総合的に点数評価して釣り合う経済的条件を男性側に求めるのさ。上海市の第3環状道路内に位置する1000万元(2億円)のマンション持参が条件、なんて要求だってざらさ」米国スタンフォード大学院を卒業してIT金融企業経営者となった30代男性が著者に語った言葉だ。「一部で結婚は合弁会社設立のファミリープロジェクトに変質しつつある」
他方、中国では結婚の際に嫁の家に結納金を送る習慣が2000年来あるが、2010年代以降高騰している。形式・金額は地方によって様々で「3斤3両」(1、65キロの100元札=約10万元≒200万円)、「一動一不動」(〈動く〉車と〈動かない〉家)等々。それが「男尊女卑の封建的風習が色濃く残り、辺鄙で貧困な地方ほど」高騰している。つまり「経済発展の程度、すなわち収入レベルと結納金額は一貫して反比例している」「値上がりが止まらない結納金は貧困農家に嫁いでもらう補償金の色彩を帯びて」いる。高騰の要因は「一人っ子政策」だ。これに「エコーによる産み分け技術の浸透が重なり、農村部では男子の出産偏重が起きた」1990年代中盤以降に男女バランスが加速的に崩れた。加えて金銭至上主義の浸透があり、村で結婚話があると開口一番聞くのは「いくらで買ったんだ?」という質問だとテレビのドキュメンタリー番組が伝える。さらに、農村人材、特に土地や家への縛りが男性ほどにはない女性の都市への流失が増え農村部の女性人口の減少に拍車をかける。
結婚のケースを取り上げて驚くべき中国の現在の一端を見たが、著者は全体をこう要約している、「中国の若者の悩みはこの国の圧縮された急速な発展、熾烈な競争、文革の傷、情感や恋愛のタブー視、戸籍による縛り、高騰する住宅、脆弱な社会保障、教育の選抜システム化、人口政策、格差社会など独特の文化や制度、社会事情に端を発している」「非民主的な体制による弊害が大きいのは言うまでもない。多様性を欠く画一化された価値観とそれに基づく過酷な競争は焦慮や閉塞感を生み、この国の健全な発展を阻害しているように思う。感覚を麻痺させ、忖度し平気で嘘を語る『優等生』しか許されない窮屈な社会に創造的な未来はない」(「おわりに」)と。
中国は何処へ?
齋藤が見聞した中国の姿を今度は学者の眼で見てみよう。エマニュエル・トッドはフランスの歴史人口学者・家族人類学者、1976年に「乳幼児死亡率」の高さでソ連崩壊を、2016年に「中年白人人口の死亡率上昇」からトランプ当選を予言したことで知られる。彼の集大成と言える「我々はどこから来て、今どこにいるのか?」(2017年)―2022年文藝春秋刊―の「第18章 共同体家族型社会―ロシアと中国」から紹介してみる。欧米で露わな「嫌露」感情が吹きすさぶのに中国が好意的に遇されてきたのは何故か。それは「1980年から2015年までの間に、人口13億6000万人(2013年時点)の中国は、世界の工場になっただけでなく、何よりも、西洋の富裕層にとって超過利潤獲得の天国になったからである。低賃金の中国人労働者によって生産された商品を先進国市場で売ることで、20年、30年にわたって、夢のようなマージンが得られた」からだ。確かにこの間中国で生活水準が改善されたのは事実だ。しかし「2016年のGDPの43%にも達する設備投資が占める割合の高さ、国内消費に持続的に課せられている制限、経済の軍事依存傾向、腐敗撲滅闘争の絶え間ないキャンペーンなどは、安定した確かな制度に保障された自由市場が中国に存在していないことを意味」する。
中国での高等教育普及のテンポは速いが2000年時点で4%、日本の36%、米国の35%、スウェーデンの27%、イギリスの26%、ドイツやフランスの20%に比べると遅れが目立つ。「1980年〜2000年に見られた中国経済のダイナミズム」は「出生率の低下が高齢者の少なさと相俟って、非労働人口扶養の負担が最小限で済む状況を生み出していた」ことに依っていた。しかしこれからは人口の高齢化が進み、社会保障や年金制度が整備されていない中で「人口の大半が熟年に突入するとき、中国では米国やヨーロッパでよりもはるかに劇的な結果が生じるだろう」世界銀行の統計によれば2012年には中国の移入・移出人口の差、人口の社会増減はマイナス150万人だった。「移民の多くは学生である。何しろ中国は、西洋に留学する学生の22%を供給している。2015年には、中国の教育省が52万3000人の学生の外国留学を登録し、その際、留学後に國に帰還する率が近年上がって70%〜80%に達したことを喜んでいた」しかし、国に帰ってこないのは最良の科学的頭脳であり、自由を熱望するタイプの人々だ。結果中国のイノベーションは滞り、権威主義的システムが強化される。
潜在する危機
中国は父系共同体家族である。中国の共産主義はロシア・モデルを範とし、社会における女性のステータスを上昇させるために父系制を抑制したが、共産主義が事実上崩壊したために父系制の原則が再び浮上した。それは親が女児よりも男児を選好することに示される。出生時の性比(男女比)のリスト(出生した100人の女児との比で何人の男児が出生したかのリスト)が研究者によって作られている。自然な性比は105〜106。2010年頃の数字で中国は118、ロシア・西欧・北欧・日本・イスラム諸国は106〜104。指標が108以上の場合はほぼ確実に選択的堕胎が行われている。中国がトップだが、細かく地域でみると北インドの幾つかの州では120に達している。
「したがって我々は、強い父系制原則に、権威主義に、そして平等主義に結びついた共同体家族的価値観の残留を公準として立てることができる。共産党の指導的役割と警察の絶対的権力が権威主義を表している。しかし、人類学的システムの平等主義、かつて中国をしてラディカルな共産主義革命に取り組ませたあの平等主義もまた現存している。直系家族系であるドイツや日本の階層的システムは、社会秩序を安定化させる不平等原則を内包している。中国の価値観に潜在する平等主義は、経済的不平等が著しく拡大する時期には、社会的・政治的システムの均衡にとってひとつの脅威となる。指導者たちは、それを知っている」
「外国人恐怖症(フオビア)的なナショナリズムが中国共産党によって培養されている」「しかしながら、中国の膨張主義を誇張するなら、われわれは誤りを犯すことになるだろう」「南シナ海への膨張は、リアルな帝国主義的主張を表出しているというよりも、困難な国内状況への戦術的調整を意味している。中国は人口があまりにも大きいので、その内部の重みに阻まれて、正真正銘の膨張主義は実践できない。人口の塊があの国を、物質を膨張させるよりも、むしろ内に引き込んで濃縮するブラックホールのような状態にしている」「世界全体の需要の鈍化にぶつかり、それに起因する成長率急落の影響をまともに蒙り、人口のいちじるしい不均衡に苦しみ、平等主義文化の状況下で不平等の擡頭に直面している以上、13億の人口を抱える中国は、3000年紀の始まったこの時代に、世界の不安定化の大きな極の一つとなるだろう」
本書は中国のみならずアメリカ、ロシア、欧州、日本、世界の動向を予見する上で貴重な視点を与えてくれる。 (新)
せんりゅう
統一も裏金もうやむやで閉会
借金大国千ニ百兆円安万歳だ
円安とキシダこれどうすんね
新紙幣安さを歎く栄一くん
性暴力無罪の基地沖縄よ
優生保護違憲 軍拡も違憲
行動原理資本は人を料理
平和へと虹のかけ橋第九条
ゝ 史
2024年7月
複眼単眼
緊急の課題は戦争阻止
東京都知事選、蓮舫候補が敗北した。考えることはたくさんある。私たちが、闘いを諦めることはない。これについては稿をあらためる。
6月23日、第213通常国会が閉会になった。
岸田文雄総理・総裁誕生以来、約3年に渡って「岸田任期中の改憲」を言い続けてきたが、とうとうそれを断念した。改憲実現の前提だった213国会の終わるまでに憲法審査会で改憲原案を作ることができず、どう考えても現行憲法と改憲手続法のもとでの「改憲発議」が日程的に絶望的になり、公約してきた総裁任期の9月末までの改憲国民投票実施が全く不可能になってしまったからだ。ことここにいたっても岸田首相は「諦めていない」などといいはるが、誰か側近に「殿ご乱心!」と諫める者もいないのだろうか。
これをもって、とりあえず市民と野党の共同の「反改憲」の運動が安倍晋三前首相の改憲を食い止め、つづいて岸田改憲を潰すことができた。
岸田首相は総裁選での支持の欲しさに、安倍前首相の唱えた自民党4項目改憲案を受け継いだが、肝心の第1項目の「自衛隊の明記」では自民党の右翼岩盤支持勢力や、野党国民民主党の玉木雄一郎代表などが9条2項の改憲を主張し、公明党は9条への自衛隊の明記に消極論を唱えるなど、改憲派のまとまりがつかず、苦し紛れに改憲の第2課題である緊急事態条項のうちの議員任期の延長規定の挿入という、櫻井よしこにいわせれば「ちっぽけな、死ぬほど恥ずかしい」項目の改憲で一致するほかなかった。にもかかわらず、それすら失敗した。
岸田退陣の声は党内から吹き上がっている。こののち自民党総裁選を視野に、「政局」がはじまる。
誰が新しい自民党の総裁になるかは現在のところ、分からない。
213国会の経済安保法、統合司令部の防衛省設置法改正、殺傷武器輸出法などに見られる213国会の立憲民主党の対応は悲惨なもので、市民運動内から厳しい批判がでている。しかし、立憲民主党はもともと保守中道政党であり、そのなかにリベラルグループが存在するという政党であることも見ておかなくてはならない。これら保守リベラルとの連携は共同もあるし、批判もあるという緊張関係にある。過剰な期待による「幻想」と一部左派にある「失望」は同根だ。われわれ左派が市民運動の陣地からこれと連携して行動するのは、よりまし政権樹立のためであり、それを通じてわれわれ左派の活動舞台を広げるためだ。
年内の衆議院解散・総選挙もありうるし、来年の衆参ダブル選挙の声もある。与野党の政権交代もあり得ないことではない。リベラル中心の立憲民主党を軸とした野党共同で「よりまし政権」を作り、1歩1歩前進する以外にない。
何よりも緊急の課題は、東アジアでの戦争を阻止することだ。日本が周辺諸国に憲法9条を軸に「安心供与」して東アジアの平和共存を実現することだ。このためには改憲阻止闘争の前進は不可欠だ。
岸田改憲が失敗した結果、改憲派は再編成が不可避だ。あらためて9条改憲を柱に自民党改憲4項目でまとめるのか、どうか、改憲派も戦略の練り直しに追い込まれている。 (T)
新報 2024 7月号 .pdf へのリンク |