人民新報 ・ 第1438号<統合531号(2024年10月15日)
目次
● 安倍・菅・岸田・石破の自民党政治の延命を許すな
立憲野党は共闘・候補者一本化を
● さよなら原発
原発強行にNO!
● 安倍の政策を否定し、日朝国交正常化を
● 10・4国会ピースサイクルの報告
● 能動的サイバー防御と健康保険証廃止に反対する
● 袴田巌さんは無実・無罪
警察・検察の「ねつ造」を認めた画期的な判決
● イスラエル軍の蛮行に世界各地から糾弾の声
● むつ市へ、東電の危険な核燃料輸送― 再稼働への危険、ここにも
● 今月のコラム / 漢字と輿論と世論と
● せんりゅう
● 複眼単眼 / 施政方針演説から消えたアジア版NATO
安倍・菅・岸田・石破の自民党政治の延命を許すな
立憲野党は共闘・候補者一本化を
苦境を脱出できない自民党
裏金・脱税疑惑議員問題や統一教会との癒着を抱える自民党への批判は大きく、このままでは国政選挙での敗北は必至だ。岸田を変えてもっと人気のありそうな顔を選挙の看板にしたい。それが自民党指導部の思惑だったが、表紙を変えての延命という自民党のいつもながらのやり方では今回はうまくいきそうもないようだ。
9月27日の総裁選候補乱立・僅差での新総裁の選出をうけて、10月1日に石破茂内閣がスタートした。総裁選ではさすがに高市早苗ではあまりに露骨な右翼過ぎて今後の日本政治が大混乱に見舞われると見た自民党の多数派が、最終的には石破を選んだわけだが、石破もゴリゴリの改憲派であることには変わりない。一方で自民党国会議員から身内に後ろから弾を撃つようないやなやつだという評判もある嫌われ者でもある。
石破新内閣は発足早々、厳しい状況に陥っているが、なにより石破首相自身が、総裁選などでのべた政策をつぎつぎと変更しているからだ。政治改革・裏金問題でも大きく後退したが、世論の批判の広がりを前に旧安倍派議員を中心に公認や重複立候補取りやめで少々の修正を加えた。日米地位協定の見直しやアジア版NATO構想も隠蔽した。選択的夫婦別姓、マイナ保険証への一本化時期の見直し、なども消えた。原発についても「ゼロに近づけていく努力を最大限にする」から「原発ゼロが自己目的なのではない」に変わった。反アベノミクスも脱デフレ脱却を最優先のアベノミクスの継続となった。統一教会問題再調査もやめた。等々。
見え見えの逃げ切りの解散
総理就任前の石破人気を支えてきた政策のことごとくが、取りやめとなっていて、結局、基本的には安倍・菅・岸田政権の路線が継承されることになっている。こうなれば今までの言動とはまったく違っても、岸田に比べてだが支持率の高い時期に、ボロが出る国会論戦もおこなわずに、早期の解散・総選挙をおこなうことで乗り切ることしかできない。国会での予算委員会なども開かず、能登地震・水害をはじめとする補正予算も付けないで、10月9日衆議院解散・27日投開票を強行した。石破は総裁選中には、すぐ解散はしない、臨時国会で予算委員会を開き、政治資金問題を中心に野党との議論を十分に行った後に解散・総選挙と語っていたのではなかったか。石破は、5つの守る(「ルールを守る」、「日本を守る」、「国民を守る」、「地方を守る」、「若者・女性の機会を守る」)を言っていたのだから批判が強まるのは当然だ。
石破首相は党内基盤がきわめて脆弱だ。これまでの高市などとの政策上の違いに加えて、裏金・脱税議員問題をめぐっても党内矛盾を強めることになっている。今後、石破の足を引っ張る動きも顕在化してくるだろう。
自民党政治の行詰まり露呈
自民党政治が重ねてきた膿がたまってどうしようもないところに来ているのが今の状態だ。日本は内外ともに大変な局面を迎えることになっている。連続して起こっている自然災害、社会的格差の拡大と貧困化、少子高齢化と人口減少の進行、科学技術の停滞、教育の荒廃など、そして国際的にはウクライナ戦争やパレスチナでの虐殺、戦火の拡大があり、米ロ、米中、米朝などの対立が激しさを加えている。なにより唯一の覇権国であるアメリカ政治の分裂と世界政策の迷走があり、これらにどう対処していくのかという難題を抱えての新政権であるが、これらに有効に対処することはできない。いまこそ、平和外交と民衆の生活を大事する政治が行わなければならない。
市民と立憲野党の共闘を
解散・総選挙を前にしても一向に人気の出ない石破自公政権に打撃をあたえる好機である。この間、立憲野党の間にはそれぞれの独自性を強調する動きが前面にでてきている。
しかし、なんとしても最後まで市民と野党の共闘、立憲野党間での真摯な協議と候補者一本化の努力が強められなければならない。
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)は、立憲野党各党に次期総選挙に向けた政策要請書「市民の生活を守り、将来世代に繋げる政治への転換を」を手渡し、総選挙での勝利をめざし、ともに全力をあげること確認する取り組みを行っている(二面に資料)。まさに「今回の選挙は自公政権の暴走を止め、彼らに代わる立憲野党の新たな政権の実現を視野に、立憲野党の連携した奮闘が求められている」のである。
また各地の市民連合なども同様の活動を展開している。それらの努力が成果を生み出している。
多くの人びとと連携して、自民党政治にNO!を突きつけよう。
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2024年10月8日
立憲民主党代表 野田佳彦様
市民の生活を守り、将来世代に繋げる政治への転換を
ウクライナ、パレスチナ・ガザと目を覆うばかりの惨事が続き、平和への道筋がみえず、平和・人道の危機が続いています。また日本においても自公政権は、憲法を空洞化させながら、戦争への道を突き進むと同時に新自由主義政策のもと貧困と格差を拡大させ続けています。また金権腐敗・裏金、「統一教会との癒着」の隠ぺいなど自公政権に対する市民の怒りは拡大しています
そうしたなか、市民連合は立憲主義の回復と安保法制の廃止を求めて、立憲野党と連携しながら、5回の国政選挙を闘ってきました。
市民連合は昨年8月憲法9条と13条を共通の政策ビジョンの中心に据えるべきだとの考えを立憲野党各党に示しました。また12月7日には、「市民の生活を守り、将来世代に繋げる政治への転換を」を提出してきました。
次期衆議院選挙が間近に迫ってきました。今回の選挙は自公政権の暴走を止め、彼らに代わる立憲野党の新たな政権の実現を視野に、立憲野党の連携した奮闘が求められています。
市民連合は、12月7日の要請書を基本に、以下の通り、要請し、ご奮闘されることを要望します。
1、憲法も国民生活も無視する軍拡は許さない 日本国憲法が掲げる平和的生存権の理念に立脚した平和外交と専守防衛の安全保障政策に徹することこそ、危険かつ不毛な防衛費増大・軍拡競争とその行き着く果ての戦争を回避し、真の意味で、国民の生命、自由及び幸福追求権を守ることができる。憲法9条の改悪や専守防衛を逸脱する集団的自衛権の行使・敵基地攻撃能力の保有を容認せず、辺野古新基地建設等基地の強化ではなく、基地負担を軽減する。非核三原則の遵守など、核兵器廃絶めざして、努力する。
2、物価高、燃料高騰、円安、不公平税制を放置せず、市民の生活を守る経済政策を行う
実質賃金が低迷しつづける中、急激な円安やエネルギー費高騰が多くの人の命と暮らしを脅かす事態になっている。実質賃金引き上げや格差是正、インボイス制度の廃止、逆進性の強い税制の是正と社会保険料負担の適正化、保育や教育のための子ども予算の増額など、市民の生活を保障し将来世代へと繋げる政策へと転換する。当面、現行の健康保険証は維持する。農林水産業の育成を支援し、地域経済の振興を図る。食料自給率の向上をめざす。
3、だれもが個人として尊重されるよう、ジェンダー平等・人権保障を実現する
政治の場、働く場、学ぶ場、家庭における男女平等の実現をめざし、選択的夫婦別姓制度や同性婚制度などを整備し、日本の将来世代にふさわしい、伸びやかで活力のある社会や経済へと転換する。日本に住む誰もが個人として尊重されるよう、あらゆる差別を禁止する。
4、将来世代へと繋げるために、気候変動対策を強化し、エネルギー転換を推進する
市民の生活を脅かす異常気象が頻発する現実を直視し、将来世代や未来の人々、生きものに対する責任を果たすために、国際協調に基づく気候危機と環境保全の対策を加速し、温暖化対策の強化へのリーダーシップを発揮する。原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め、脱炭素社会を早期に実現し、経済や安全保障上のリスクを軽減する。
5、権力の私物化を止め、立憲主義に基づく公正で開かれた政治を行う
「自公一強体制」の下での権力の腐敗・私物化に歯止めをかけ、みんなのための政治を取り戻す。金権腐敗・裏金の実態、統一教会との癒着の実態を明らかにし、厳正に対処する。また同一選挙区からの世襲立候補や親族間の政治資金のやり取りを制限する。解散権の乱用は許されない。財政民主主義の原則をないがしろにする予備費の膨張と流用は認められない。
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
さよなら原発
原発強行にNO!
経団連がエネルギー政策の中長期的な方向性を示す「エネルギー基本計画」の見直しに向けた政府への提言を公表し、政府自民党が原発再稼働・新設に大きく舵をきろうとしている。また地震・自然災害での原発事故への不安、福島事故原発の廃炉作業の頓挫など原発の危険性がいっそう感じられるようになっている。
9月16日、原発では止められない気候危機! 全ての原発を廃炉に!汚染水を海に流すな! フクシマを忘れない!をかかげて、「命をつなぐ地球環境を さようなら原発全国集会」(代々木公園B地区)が、開始直前の雨にもかかわらず5000人が参加してひらかれた。
たくさんのブースも出店、ミニステージ「気候危機と原発」ではさまざまな活動について報告された。
本集会では、呼びかけ人の佐高信さん、落合恵子さんのあいさつにつづいて、女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション、これ以上海を汚すな!市民会議・福島、3・11甲状腺がん子ども支援ネットワーク、東海第二原発運転差止訴訟原告団、核の中間貯蔵施設はいらない!下北の会、新潟平和運動センターなどからの報告発言があった。
最後にルポライターで呼びかけ人の鎌田慧さんが、絶対に原発をなくさせようと閉会あいさつを行い、参加者は、命をつなぐ地球環境を!、待ったなし!温暖化・脱原発、などさまざまなプラカードを掲げて、原宿・渋谷の二つのコースに別れて分かれてデモに出発し、多くの人びとにむかって「さよなら原発」をアピールした。
安倍の政策を否定し、日朝国交正常化を
今年は、日朝ピョンヤン宣言22年、そしてスウェーデンのストックホルムで日本と北朝鮮の政府間協議で確認された合意で、北朝鮮は、「拉致問題は解決済み」としてきた立場を改めて、「特別調査委員会」を設置し、拉致被害者を含む日本人行方不明者の全面的な調査を行うと約束し、日本政府は、その代わりに独自の制裁措置の一部を解除することで合意してから10年たった。しかし、この間に2016年、北朝鮮による核実験と弾道ミサイルの発射にたいし日本政府は再び独自制裁を実行し、北朝鮮は調査中止と特別調査委員会の解体を発表して、日朝交渉は中断した。
東アジアの平和・緊張緩和の重要な環は、日朝関係の改善・日朝国交正常化の実現にある。しかし、歴代の日本政府は口先ではともかく、実際には対立関係を激化させ、それをテコに日本の軍備増強を進めてきた。
9月15日、「朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を! 市民連帯行動」の主催で「日朝ピョンヤン宣言22周年集会〜ストックホルム合意から10年〜国交正常化交渉はなぜ進まないのか」が開かれた。
「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の染裕之共同代表が主催者あいさつ。
つづいて、日朝交渉検証会議の和田春樹・東大名誉教授が「日朝国交正常化はなぜ必要なのか どうしたら可能になるか」と題して講演。日朝国交正常化を求める運動は長く続いてきた。小泉首相(当時)は2002年9月、北朝鮮を訪れ、金正日総書記(当時)と首脳会談をおこない、翌月に5人の拉致被害者が帰国した。5人は一時帰国の約束だったが、同行した安倍晋三官房副長官(当時)らの強硬意見により日本にとどめることを決めたことで日朝交渉は決裂した。その後、首相となった安倍氏は@拉致問題は我が国の最重要課題、A拉致問題の解決なくして国交正常化交渉はない、B被害者は全員生存しており、即時一括帰国を求めるという三原則でいっそう対決姿勢を強めた。2014年にストックホルム合意がなされたが、第三次調査報告を安倍政権が受取拒否してしまった。菅政権、岸田政権でも安倍路線は継承されている。核兵器を所有していたソ連・中国とも国交正常化できた。核兵器の脅威を言うならいっそう日朝国交正常化は早期に実現されなければならない。いまこそ、安倍の路線から大きく転換して、交渉が始められるべきときである。
10・4国会ピースサイクルの報告
10月4日、今年で20回目の2024年国会ピースサイクルが開かれました。午前8時30分よりJR市ヶ谷駅近くの公園で今回の意義や日程などを確認する集会を行いました。この日は秋雨前線の影響で一日中小雨が降りしきる1日となりました。
@9時15分より市ヶ谷防衛省門前において集会を行い、各地域での反基地活動などの取り組みが報告されました。三多摩の仲間からは横田基地の騒音問題や公害訴訟状況の報告がありました。また横田基地を中心に米中戦争を想定した飛行訓練が全国の米軍基地や自衛隊基地へむけて頻繁に行われている状況が訴えられました。千葉の仲間からは沖縄の映画を多く制作してきた三上智恵監督の「戦雲」上映会を1200人を集めて開催し、沖縄との連帯を地域から取り組んでいることの報告がされました。神奈川の仲間からは横須賀港は米軍の母港化が進んでおり、空母のローテーションを組んで南西諸島への出撃基地の整備が強化されてきていることなどが報告されました。9時30分から防衛省への要請行動として「沖縄・普天間基地の県内移設を撤回し、オスプレイの配備・訓練に反対する」要請書を読み上げる申し入れを行いました。防衛省の担当者が時間になっても現れないので連絡すると、忘れていたというお粗末なこともありました。
A10時45分から都教育委員会への要請行動があり、議会棟談話室で行われました。会議室使用では岩永都議会議員(生活者ネット)に用意して頂きました。当日は議会開催中により都教委からは総務部広報統計課長代理ら2名の出席がありました。要請、質問項目は多岐にわたり、「10・23通達」に基づく教職員の懲戒処分撤回を始め、教職員の働き方改革、教職員の拡充とスクールカウンセラーの専門職を配置と拡充などの要請をしました。毎回のように広報課から書面のみで事前回答を受けているが直接回答を得られずにいる。回答責任者を出席させないのは言質をとられないようしている都の「危機管理」と思われる。B東電本店での要請は14時15分過ぎから始まり1時間を超える質疑応答時間となりました。質問項目は、◎「被害者に対する補償問題と事故に対する責任問題でどれだけ迅速・誠実に対応されたか」◎「子供の健康被害や甲状腺がん裁判、除染作業に従事してきた労働者へ、どれだけ心を配った補償と対応をされたか」◎柏崎刈羽原発の地元への同意もなく核燃料の装荷を行ったことは絶対に許せない。また使用済燃料の青森むつ市への搬入は最終処分地が決まらない段階で持ち込むのは反対である。◎「『汚染水』(猛毒水)問題、『核燃料デブリ』回収は2度も失敗しているが最長40年で終了させるとしているが本当にできるのかなど、5点に絞って質疑が出されました。参加者は原子力事業者として、東電は資格がない。企業体質に問題がある」などと追及しました。
C外務省への要請は「徴用工問題は解決済ではありません。今こそ被害者の人権と尊厳の回復を求めます」を表題に韓国大法院の判決を受け入れ日本政府と企業は強制動員問題解決に誠意をもって取り組むことなど6項目を提出しました。
この後、参議院会館会議室での反省会で、来年は40周年の節目で、国会ピースのあり方や署名など一定の整理を図る必要があるなどの意見も出され当面する全国総括会議を成功させることで終了となりました。
能動的サイバー防御と健康保険証廃止に反対する
共謀罪NO!実行委員会と共通番号いらないネットの共催で、10月1日、衆議院議員会館で、「能動的サイバー防御と健康保険証廃止に反対する市民の集い」が開かれた。
日本はサイバー攻撃加害者
盗聴法に反対する市民連絡会の小倉利丸さんが、「サイバー戦争に踏み込む日本」と題して報告。重要経済安保情報保護活用法は、「経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大している中で、…我が国の安全保障を確保するために特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要である」とする。重要な経済情報を扱う者が対象であり、重要経済インフラの事業者という概念より幅広い。サイバー安保法制化の議論で関心を持たれているのは中小企業における労働者の身元調査だ。どの重要インフラも末端は中小業が担う場合が多い。セキュリティ・クリアランスの基本の枠組は、雇用している企業が身元のチェックを行い政府がこれを認める、ということになっている。その前提に政府が、交友関係などを含めて、資格審査が可能なだけの個人データをあらかじめ保有していなければならない、ということになる。
国家安全保障戦略における「サイバー」の位置づけでは、 通信事業者が役務提供する通信に係る情報を活用し、攻撃者による悪用が疑われるサーバ等を検知し、可能な限り未然に攻撃者のサーバ等への侵入・無害化ができるよう、政府に対し必要な権限が付与され、安全保障を確保するため、事業者への重要経済安保情報の提供や重要経済安保情報の取扱者は制限される。
日本政府は、日本はサイバー攻撃の被害者であり、通信の秘密よりも公共の福祉が優先されるとするが、この前提を受け入れるべきではない。日本はサイバー攻撃の加害者であり、通信の秘密に公共の福祉の制約を課すべきではないのである。敵基地攻撃能力の問題も含めて、現代の戦争は、サイバー領域との有機的な結びつきなしにはありえないことを反戦・平和運動が自覚することが重要になっている。平時こそが有事である。情報戦(情報収集と監視、世論操作)への対処は今すぐ必要になる。インターネットへの接続そのものが「戦場」の一部を構成している。官民の膨大な個人データの収集と解析の入口になるのが私たちのネットでの通信行為そのものである。また、ネットでの言論が戦争や憎悪を扇動する空間になる。これまでの各国のサイバー攻撃の状況を考えると、日本が能動的サイバー防御を発動したことそれ自体を公表しない可能性が高い。また、どこか他の国を経由した攻撃や金銭目的を偽装する手法もサイバー領域では常套手段である。実空間での先制攻撃とは全く異なる状況になることに十分な関心をもつ必要がある。立法事実として現実にあるサイバー攻撃の被害と世論の不安感情から政府は国家のサイバー安全保障の必要性を強調する。しかし、国家の安全保障と私たちのサイバーセキュリティとは相容れない観点であることをしっかり確認することが大切であろう。
健康保険証廃止に反対
つづいて、共通番号いらないネットの宮崎俊郎さんが「健康保険証廃止を許さないために」をテーマに報告。マイナポイント終了後も、マイナカードの所持率は低迷を続けている。マイナ保険証を持っていながら利用しないひとが多い。マイナ保険証が使われない理由は、@自分の医療情報が知らないうちに他の目的で使われる不安、A情報漏洩・システムへの攻撃に対する不安、Bオンライン資格確認に対する不信感、Cメリットがない、などだ。
一方、運転免許証とマイナカードの一体化を2025年3月から運用開始するとし、また入管法上の在留資格をもって日本に中長期間在留する外国人(中長期在留者)の在留カードとマイナンバーカードの一体化について入管法等がこの通常国会で改正された。政府は、運転免許証・在留カードなどへの拡大で国内版パスポート制度をつくろうとしているが、これは監視社会の基本的ツールとなる。このような危険極まりない策動は絶対に打ち破られなければならない。
袴田巌さんは無実・無罪
警察・検察の「ねつ造」を認めた画期的な判決
1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんのやり直し裁判(再審)で、9月26日に静岡地裁(国井恒志裁判長)は「無罪判決」を言い渡した。これまでも多くの冤罪事件での証拠が裁判所に認められなかったことあったが、この判決で、はっきりと警察・検察のあまりにも横暴な証拠捏造・でっち上げ冤罪を断罪したことは画期的なことであった。日本の警察・検察の強権的な手法、でっち上げまでする体質の一端が暴露されたものだった。
この裁判・判決で露呈されたものをしっかりと確認することが重要であり、判決そして検察の対応を少し詳しくみておこう。
静岡地裁は、袴田巌さんにかけられた住居侵入、強盗殺人、放火事件で、「被告人は無罪」の判決を出したが、裁判所判決理由として要旨つぎのように述べた。「当裁判所は、被告人が本件犯行の犯人であることを推認させる証拠価値のある証拠には、三つのねつ造があると認められ、これらを排除した他の証拠によって認められる本件の事実関係によっては、被告人を本件犯行の犯人であるとは認められないと判断した。すなわち、@被告人が本件犯行を自白した本件検察官調書は、黙秘権を実質的に侵害し、虚偽自白を誘発するおそれの極めて高い状況下で、捜査機関の連携により、肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得され、犯行着衣等に関する虚偽の内容も含むものであるから、実質的にねつ造されたものと認められ、刑訴法319条1項の「任意にされたものでない疑のある自白」に当たり、A被告人の犯人性を推認させる最も中心的な証拠とされてきた5点の衣類は、1号タンクに1年以上みそ漬けされた場合にその血痕に赤みが残るとは認められず、本件事件から相当期間経過後の発見に近い時期に、本件犯行とは無関係に、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、1号タンク内に隠匿されたもので、証拠の関連性を欠き、B5点の衣類のうちの鉄紺色ズボンの共布とされる端切れも、捜査機関によってねつ造されたもので、証拠の関連性を欠くから、いずれも証拠とすることができず、職権で、これらを排除した結果、他の証拠によって認められる本件の事実関係には、被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない、あるいは、少なくとも説明が極めて困難である事実関係が含まれているとはいえず、被告人が本件犯行の犯人であるとは認められないと判断した。」
すなわち検察側のあげた証拠に重大な「ねつ造」があったとはっきり認めたのである。
そして、10月8日、畝本直美検事総長は控訴しないことを明らかにし、袴田さんの無罪が確定することになった。驚くべきは、その時の検事総長談話だ。「改めて関係証拠を精査した結果、被告人が犯人であることの立証は可能であり、にもかかわらず4名もの尊い命が犠牲となった重大事犯につき、立証活動を行わないことは、検察の責務を放棄することになりかねないとの判断の下、静岡地裁における再審公判では、有罪立証を行うこととしました。」「理由中で判示された事実には、客観的に明らかな時系列や証拠関係とは明白に矛盾する内容も含まれている上、推論の過程には、論理則・経験則に反する部分が多々あり、本判決が『5点の衣類』を捜査機関のねつ造と断じたことには強い不満を抱かざるを得ません」とねつ造はなかった、袴田さんは犯人に違いないというのである。「このように、本判決は、その理由中に多くの問題を含む到底承服できないものであり、控訴して上級審の判断を仰ぐべき内容であると思われます。」というのである。しかし、「再審請求審における司法判断が区々になったことなどにより、袴田さんが、結果として相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれてきたことにも思いを致し、熟慮を重ねた結果、本判決につき検察が控訴し、その状況が継続することは相当ではないとの判断に至りました。」として、控訴断念したというのである。
警察・検察は、まったくねつ造をみとめていないのである。ぜったに許されないことだ。
10月9日、日本弁護士連合会の渕上玲子会長は談話を発表した―「当連合会は、『袴田事件』のような悲劇を二度と繰り返さないよう、今後も刑事司法制度の改革に尽力するとともに、他にも多数存在するえん罪事件の被害者が一日も早く救済されるよう支援を続けていく。また、死刑制度の廃止並びに再審請求手続における証拠開示の法制化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止及び再審請求審における手続規定の整備を含む再審法改正の実現のため、今後とも力を尽くす所存である。」
現在のような警察・検察のあり方・意識では、不当な捜査・起訴による冤罪事件がなくなることはない。あらためて再審法の整備が必要であり、なにより警察・検察の横暴・非民主制を批判し改善を求めていくことが急務である。
イスラエル軍の蛮行に世界各地から糾弾の声
イスラエルを支える米国
イスラエル軍によるパレスチナ人虐殺は凄まじく、ナチスばりのパレスチナ民族絶滅の悲惨な様相を示している。イスラエル軍は、ガザのみならず西岸地区、そして隣国レバノンにまで攻撃を拡大している。パレスチナ側の死者は4万人を超えたが、それに倍する報告もある。こうしたなかでもアメリカ・バイデン政権は暴挙を続けるイスラエル・ネタニヤフ政権を支持し、武器援助をつづけている。トランプはさらなる強硬策をネタニヤフにけしかけている。
ネタニヤフの行動の狙いは、なにより自身の政権維持にある。1年前のハマスの急襲攻撃で多数の死者と人質を出し失脚の瀬戸際に立たされたネタニヤフは、「ハマス、フーシ派、ヒズボラ、シリアとイラクのシーア派民兵を含む、より広範なイランのテロ枢軸に直面している」として、イスラエル軍の侵攻は、レバノン、シリアにひろがり、さらに戦火は中東全域に拡大しようとしている。
イスラエルは、イランの石油関連施設、核関連施設攻撃をも計画しているという。イラン中部のナタンズとフォルドウにはウランの濃縮施設が、イスファハンの郊外には核燃料を製造・加工する施設などもある。イスラエルはかつて、1981年にイラクの原子力研究センターを、07年にはシリアの原子炉を空爆している過去がある。
「二国家共存」も否定
1974年に、国連が国連総会決議第194号(1948年)に基づいて提案したイスラエルとパレスチナの「二国家共存」解決案について、イスラエル政界でも左派や中道派を支持しているが、ネタニヤフら右派、そしてその後ろ盾となっているアメリカ政府は反対している。
アメリカは世界支配の中軸となる中東ではイスラエルを支柱として、援助・育成してきた。アメリカ国内にも強力なイスラエルロビーがあり、キリスト教右派と連携してイスラエル支援を行ってきた。だが、アメリカの衰退とともにイスラエルに対する力も落ちていったが、イスラエル右派はどんな暴挙を行おうとも、アメリカはイスラエルを見捨てることはないと高をくくってやりたい放題の虐殺・侵略を行っている。バイデン大統領は中東和平実現を政治的遺産とすべく、ガザでの停戦、ヒズボラとの停戦を繰り返し言明はしているが、ネタニヤフ首相はアメリカの要求を無視しつづけている。
国連総会での決議の採択
9月18日、国連総会はイスラエルに12カ月以内にパレスチナ地域から撤退するように求めるパレスチナが提出した決議を採択した。これはイスラエルがパレスチナ地域に存在し続けることは違法であり、入植者は速やかに退去すべきだという国際司法裁判所の7月の勧告的意見を踏まえたものである。決議には次のようにある。イスラエルは直ちに軍を東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区とガザ地区から撤退させなければならない。またイスラエルは、東エルサレムを含む西岸地区から入植者を退去させ、法的および実質的に併合を撤回しなければならない、そして、各国は、イスラエルのパレスチナ占領が終わるまで、イスラエルへの武器の提供や違法入植地の企業との取引など、違法な占領を後押しする援助や取引を停止する必要がある、としている。決議は、賛成124票、棄権43票、反対14票(米国とイスラエルほか)で可決されている。
国際的な連帯アクション
イスラエルのパレスチナ虐殺戦争に世界の民衆は連帯した力で反対している。これまでも世界各地で抗議行動が展開されてきた。日本でも、在日パレスチナ人や総がかり行動実行委員会などのよびかけでさまざまな取り組みが行われてきた。学生たちの活動については「大学ジャーナル Online」は次のように報じた。「2024年7月現在、キャンパスでパレスチナ連帯のデモ(テント設営、集会、スタンディング、座り込み、施設にポスター掲示など)が見られたのは、SNSで確認できる限り、東北大、東京大、東京都立大、青山学院大、大妻女子大、国際基督教大、上智大、多摩美術大、東洋大、明治大、早稲田大、大阪大、京都大、立命館大など」とのことだ。
10月5日には「グローバル・アクションの日 パレスチナのための全国連帯アクション」がおこなわれた。Palestinians of Japan(日本に暮らすパレスチナ人の集まり)のよびかけで、「ジェノサイドの一年、抵抗の一年」というテーマのもと、虐殺反対、即時の停戦、パレスチナ解放をかかげての行動が呼びかけられた。
東京・渋谷の国連大学の横にある都民の城からのデモには、雨にもかかわらず1200人が参加。雨の中、「フリー・パレスチナ」「パレスチナの解放を」とコールしながらパレードがおこなわれた。
むつ市へ、東電の危険な核燃料輸送― 再稼働への危険、ここにも
9月24日、東京電力柏崎刈羽原発4号機の使用済み核燃料集合体69体が入ったキャスク1基を積んで輸送船は東電専用港を出港、26日夕方、同キャスクは、中間貯蔵施設(「リサイクル燃料備蓄センター」,PRS)に到着した。このキャスクに収容された使用済み燃料は、使用済とはいえ、表面では1時間当たり1万シーベルトSv、1m離れても10Sv/Hになり、即死に至るほどの線量を発する上に、半減期
数10万年を越えるウランやプルトニウム、核分裂生成物など極めて多様な核種を有する。出港の柏崎市及び入港のむつ市では、このような危険な使用済み核燃料のキャスク輸送に対してそれぞれ市民の抗議行動が行われた。
柏崎刈羽原発7号機の再稼働には、定期検査用に一炉心分の使用済燃料を収容できるスペースの確保が必須であり、9月上〜中旬には、7号機から3号機へ使用済み燃料380体の号機間移動が行われた。今後も号機間移送や輸送船輸送が行われる。一方、当初、この使用済み燃料を受け入れるリサイクル燃料備蓄センターPRSは2005年に設立されたものの、初めての事業として9月を計画したが、10月末に開始を届け出、さらに到着するや10月4日、施設が検査未了として11月20日に操業を延期することを規制委員会に届け出た。その理由たるや「余裕をもった工程に変更して安全に行いたい」としているが、RFSの「規格」外れの「余裕」には、出資金80%の東電に似た態度であるがゆえに、この施設の安全性が確保されているのか、大きな疑問が残る。
使用済み燃料の移動には、本体が危険な上に、公道,公海の利用やさらに近来の災害の頻発による被害の影響なども考慮しなければならず、沿道沿いを始めとした移動のたびに、大きな放射線リスクが伴ってきている。東電は、近くに米軍及び自衛隊基地が存在するむつ市に、原子力発電所の他に、中間貯蔵施設の配備という、大きなリスクを抱え込んだことになる。
福島原発事故では、13年経ってもいまだ初期における問題を解決しえておらず、森や山の除染を行ってきていない残留放射線の影響が現れてきて、青少年たちや国土、海洋への被害の影響はますます深刻さを増していることが明らかになってきている。岸田政権が発したエネルギー政策―GXグリーントランスファ政策は、独裁的政策の様相をもたらしていかざるをえない。原子力エネルギー推進政策は、全体としてもはや成り立たない政策であり、GX政策共々、そのことを明らかにして原発再稼働を取りやめ、運転原発を縮小、とりやめることのできる政策を早急にうち立てるべきである。 (長谷部)
今月のコラム
漢字と輿論と世論と
珍しく手書きの葉書をもらって、礼儀上こちらも手書きで返信することにしたのだが、さて困った、漢字が書けないのだ。ちょっとした字でもあやふやで、いちいち辞書で確認する、それもルーペを使って。長らく“キーをたたく”だけで来たわけだからやむを得ないのかもしれないが、手で体に覚えさせた記憶を失い機械に頼るのはまずい、と直感的に思う。狼狽の経験から文字学の泰斗白川静の著作を手に取った。「文字逍遥」(平凡社ライブラリー)は漢字をめぐるエッセイ集。「中国人の古代の生活と精神とを求めて、私はこの三十余年を、その同時資料である卜辞や金文とともにすごしてきた」(「文字学の方法」…一九七〇年、著者の「漢字」(岩波新書)に対する藤堂明保の酷評を受け反論したもの。小学校を出て奉公しながら夜学に学び篤実な研究者となった苦学の人の風貌が髣髴とする)。
漢字の成り立ち一例
卜辞とは殷墟から発見された十万片にのぼる卜(うらな)いに使われた獣骨・亀版に刻まれた図象文字。金文とは殷王朝末期から栄えた青銅器文化の数千器にのぼる青銅器に刻まれた銘文。「文字講話甲骨文・金文篇」(同)には豊富な図版が紹介されていて、それを眺めるだけで飽きない。これを読み解く中で著者は、例えば「蔑」という字の「上部は、本来眉に眉飾を加えている字です。下の方に女という字をつけて、女のシャーマンを意味します。媚、艶めかしいという字です〈略〉戦争のときは、この女シャーマンが前線に三千人ぐらいずらーっと並ぶ〈略〉戦争をする前に、呪力のかけあいをやるのです〈略〉それで戦争に勝ちますと、まず敵の媚女を討ち殺してしまう。矛を加えましてね」と説く。漢字の今の形と説明文だけでは分かりにくいが欄外に甲骨文、金文の字形が紹介されているので目で見て納得がゆく。
ここに収められた4回の講演は二〇〇四〜二〇〇五年、著者が九四歳・九五歳時に行われたもの。その緻密で明晰な語り口に驚嘆する。講演の最後でこう心情を吐露している…「今、大正期以降のわが国の歴史を、百年ののち、静かに私のような目で見る人があって、はたしてこれは美しい歴史と見えるであろうか。ことに近年のわが国の外交のごときは、子どもの喧嘩にひとしい−略−『靖国なんかやめなさい』とよそからいわれて、『やめるもんかい』という」
輿論(よろん)と世論(せろん)
白川は戦後の国語政策を厳しく批判している、「内閣告示と称する一篇の作文の定めるところに従属しなければならぬ。語彙はしばしば半漢半かなという、奇怪な形で表記される。それは表記というに価しないものである。しかもその文字は、看板用の装飾体のように、恣意的に多く整形されている」と(「文字逍遥」に収める「漢字と文化」)。
佐藤卓己著「あいまいさに耐える―ネガティブ・リテラシーのすすめ」(岩波新書)は、尾崎行雄が一九一八年に「輿論主義」を掲げて寺内内閣の「武断専制」を批判した演説を引いて、輿論主義の再興を主張する。「この輿論(公的意見 public opinion)を尊重するデモクラシーは、世論(大衆感情 popular sentiments)に迎合するポピュリズムとは異なっている」「しかし、大正期には選挙権の拡大にともなう政治の大衆化の中で『輿論の世論化』は急速に展開した。特に、一九二三年関東大震災後の大衆政治状況で『液状化した輿論』は、一九三〇年代以降の戦時体制下で『気体状の輿論』、いわゆる『空気』となり、敗戦後の一九四六年に当用漢字表で『輿』が制限漢字になったため『セロンと書いてヨロンと読む世論』となって今日に至っている」。「世論(空気)を批判する足場として輿論(意見)を取り戻すこと」が著者の一貫したテーマであった(はじめに)。
「内閣支持率が二〇%を割れば政局という常識」がまかり通る世論政治・即決を求めるファスト政治は世論調査を民意の科学的根拠として利用したルーズベルト政権下に始まる。「プロパガンダ研究を含む新聞学がドイツの大学で講座化されたのは第一次世界大戦中であり、ナチズムに対抗する戦時動員の政策科学としてマス・コミュニケーション研究が成立したのは第二次世界大戦期のアメリカである」「つまり戦争ジャーナリズムと戦争プロパガンダは表裏一体であり、メディア研究の原点は宣伝戦なのである」「『メディア』という言葉がそもそも中立的な『情報媒体』ではなく『広告媒体』の意味で使われ始めた広告業界用語である」有権者の観客化・消費者化をもたらすマニフェスト選挙。IT化による社会の高速化は人々の関心を『いま、ここ』に集中させる。そこにメディアが働きかける。その中で著者の主張する「輿論」はどのようにして成立可能なのだろうか。
笑って耐える
「『偽』情報や『誤』情報という言葉はあえて使うべきではないと考えている。そうした用語法はあたかも『情報』をすべて正しいものとして扱うことにつながるからである」クリティカルシンキング(吟味思考・耐性思考)にもとづくファクトチェックが必要なのはそうだが、一方でネガティブ・リテラシー(消極的な読み書き)が求められる」「イエス/ノーの世論調査、すなわちON/OFF,白/黒のデジタル思考への抵抗力を高めること、あいまい情報の中で事態に耐える人間力こそが、AI時代に求められるリテラシーだからである。」「その時間耐性の強さゆえに、世論調査の数字よりも専門家の意見により大きな関心を抱いてきた」「国民感情と専門家の意見をすりあわせ、世論を輿論にまとめ上げることが成熟した民主主義に求められる」。例えば市民連合はその萌芽形態といえないか。
労働者階級出身のリチャード・ホガートはかつて労働者階級がもっていた「より積極的な、より充実した、もっと協同で楽しむ種類の娯楽」が個人的に消費される画一的な大衆文化によって失われていくことを嘆いた、と佐藤が紹介している。ホガートは労働者階級文化の知恵、「人々の黙って無視するという偉大な能力、ただ影響を受けたふりをして、物事を『成り行きに委せる』というやり方」を高く評価した。「かれらには『耐えを忍ぶ』能力があるが、これは単に受動性からくるものではなく、それが、人たるものがそこから始まるべき地点、つまり、人は多くのものを耐え忍ばねばならない―これに類した古風な言い回しをすれば、笑って耐える―という想定からくる」そういえばブレイディ・みかこが描く生粋の労働者であるお連れ合いとその仲間たちの姿にこの風儀が感じられる。 (新)
せんりゅう
共感なし納得なし総選挙
逃げ切りの端くれでした新総裁
とぐろを巻いて自民重鎮の睨み
アベ一族の泥沼重鎮チラリちらり
選挙戦ウラガネ議員カクレンボ
なんとまあナチそっくりイスラエル
トランプ…ハリスおやタヌキ…ムジナ??
ゝ 史
2024年10月
複眼単眼
施政方針演説から消えたアジア版NATO
とりわけ暑かった今年の夏の夜のための怪談でもあるまいに、石破首相が5回目の挑戦で漸く手に入れた首相の立場で演説した施政方針演説から消え失せたものがある。首相持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想と「日米地位協定の改定」だ。
9月10日、石破首相は今回の総裁選出馬にあたっての記者会見で自らの政策を発表した。
石破氏は従来から自民党内にあっては安全保障政策や改憲への立場に独自の特徴があることが、「売り」だったが、記者会見でも「集団的自衛権」などを明文化した『安全保障基本法』の制定を強調。憲法に関しては1972年に策定した自民党の憲法改正草案のとりわけ氏が案文策定に直接腕を振るったのが憲法9条部分で、現行9条の2項を削除し、国防軍規定を挿入するのが持論だった。しかし、この部分についての議論は記者会見ではひっこめた。
それは岸田前首相が退陣の表明に際して、自らの首相就任以来「任期中の改憲」を繰り返し表明してきたにもかかわらず、挫折を余儀なくされたため、「戦争する国」づくり改憲の実現を急ぐ方向に転換した。そして従来の議員任期延長改憲に加え、9条への「自衛隊明記」、緊急時に政府の命令で国民の自由を制限する「緊急政令」改憲を重要テーマに盛り込むよう党の憲法改正実現本部に指示した。そして、総裁選に立候補する9人の総裁選候補者に対しても、この路線の継承を求めた。石破氏もこの岸田氏の要求をうけいれて、当面、従来の持論ではなく党が決めたこの2項目に絞って取り組む方針に転換した。これは自民党総裁になりたいがための変節で、見苦しいことだ。
そのうえで、記者会見では、安全保障環境の激変のもと、台湾有事を念頭に安全保障体制の抜本的見直しを訴えた。「長らく安全保障に関わってきた私が果たすべき責任だ。重ねてきた経験を今こそ生かさねばならない」。アジアにおける集団安全保障体制の構築に向け、「アジア版NATO」の創設や「地位協定の改定」のための外交努力を積み重ねると表明した。
これはこの日の記者会見で述べただけではない。9月26日、米国の保守系シンクタンクであるハドソン研究所が石破氏から寄稿を受けた「石破茂が語る新たな日本の安全保障時代〜日本の外交政策の将来 アジア版NATOの創設」という論文を公表した。
この文章で石破氏は「日米安全保障条約を『普通の国』同士の条約に改定する条件は整った」「日米同盟を米英同盟並みに引き上げることが私の使命だ」と述べ、相互に防衛義務を負う安保条約への改定や地位協定改定と、それに不可欠の憲法改正の実現を主張。さらに持論の「アジア版NATO」創設と米国の核兵器の共有やアジア地域への持ち込みを検討するとのべた。
これには日本の親米右派系メディアの読売新聞や、産経新聞などが、社説を掲げて反対した。
ところが、持論であるだけでなく、米国の雑誌にまで発表したこの「アジア版NATO」構想も日米地位協定改定も施政方針演説から全く消えてしまった。
今回の石破首相の施政方針演説が薄っぺらで一般的すぎる、これなら岸田前首相がやってもほとんど変わらないだろうと不評をかった要因だ。
弱小派閥を背景に総裁の座を手に入れたという条件を割り引いて考えても、改憲の中味にしろ、このアジア版NATOや地位協定改定にしろ、石破には確固たる信念がないことが明確になった。
総選挙の結果にもよるが石破内閣は短命に終わるかもしれない。(T)
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