人民新報
 ・ 第1440統合533号(2024年12月15日)

                  目次


● 企業団体献金は自民党政治の基盤

        大軍拡戦争予算を許すな

● 韓国の市民と野党の力が「戒厳令」粉砕

        日韓民衆連帯の力で平和と民主のアジアを

         尹錫悦政権の「戒厳令」措置の暴挙に抗議する韓国市民への緊急連帯声明
                          (日韓和解と平和プラットフォーム日本運営委員会)

● 沖縄の闘いに呼応して国会前集会

        沖縄の最前線基地化をゆるすな!

● 斎藤兵庫県知事のパワハラ・公職選挙法違反弾劾

● 侵略・植民地支配の清算

        中国文化財返還を大きなうねりに

● 25春闘に勝利しよう

        団結の力で要求貫徹

● 今月のコラム

        谷川俊太郎さんを悼む

● せんりゅう

● 複眼単眼  /  韓国の尹大統領の「戒厳令」と民衆の闘い

● 冬季カンパのお願い  (労働者社会主義同盟中央委員会





企業団体献金は自民党政治の基盤

        大軍拡戦争予算を許すな

 10月30日の総選挙による与党過半数割れの状況で、11月11日に第二次石破茂内閣が発足した。一時、回復をおもわせた内閣支持率はまた低下している。最新の時事通信12月の世論調査(6~6日実施)では、前月比1・9ポイント減の26・8%、不支持率は同3・0ポイント増の41・3%となり、政権維持の「危険水域」とされる2割台が続いている。政治資金規正法改正の焦点である企業・団体献金禁止については、賛成は43・6%、反対25・2%となっており、自民党支持層でもほぼ同じ結果となっていた。
 自民党の安倍派支配はかれらの潤沢な資金によるところが大きい。自民党の長期にわたる日本政治の壟断にも同じ構造がある。企業団体献金が政治のテーマとなったのは、リクルート事件(1988年)や東京佐川急便事件(1992年)などの自民党への怪しげな「政治献金」汚職が連続し世間で問題となったからだ。
 1993年には政治改革を旗印に、非自民8党派による細川連立政権が誕生し、いわゆる「平成の政治改革」で、税金を原資とする政党交付金を導入し、政治家に対する「企業・団体献金」は禁止された。政党や政党支部に対する献金は「5年後に見直す」ことになったが、1994年1月28日付けの「内閣総理大臣細川護熙、自由民主党総裁河野洋平」署名の合意書には「二、企業等の団体の寄付は、地方議員及び首長を含めて政治家の資金管理団体に対して、五年に限り、年間、五十万円を限度に認める。」とある。この間の経緯については、細川、河野両氏は、5年後の企業団体献金の禁止という合意であったと証言している。ところが石破は、国会で、企業にも政治的な意思を示す自由があるとして、献金を禁止すれば「表現の自由」を保障した憲法に抵触するなどととんでもない答弁を行っているのである。
 企業団体献金は、資本家の利益の代弁者である自民党の生命線である。石破の逃げ切りを許さず、徹底的に追い詰めていこう。

 12月12日、今年度の補正予算案は、一部が修正された上、衆議院本会議で採決が行われ参議院に送られた。審議入りからたった4日間のスピード採決だったが、自民・公明両党と日本維新の会、国民民主党などの賛成で可決された。自民党は国民民主と所得税の課税最低限である103万円の引き上げなどで合意し、維新とは高校教育無償化の協議に入るが、これは補正予算案とは関係のないことだ。両党の賛成は自民党との関係強化の口実である。
 この予算案は問題が多い。なにより戦争する国づくりのための軍拡予算である。安保三文書にもとづき5年間で43兆円もの大軍備増強を強行するとしているが、それは、日本を米国の対中戦略の前線基地にする危険な戦略の具体化である。防衛省は今年度補正予算案で過去最大の8268億円を計上しているが、それは「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を踏まえ、「①自衛隊の活動基盤や災害への対処能力の強化等②自衛隊等の安全保障環境の変化への的確な対応に必要な緊要性の高い経費を計上」したとする。そのうち、「自衛隊の運用態勢の早期確保に3369億円(厳しさを増す南西方面等の安全保障環境に対応するため、抑止力強化にむけて自衛隊の運用態勢をできるだけ早く確保するとともに、ドローン対処器材の早期導入により基地警備能力を強化)で、航空機及び艦船の運用態勢の早期確保による対処能力の向上、03式中距離地対空誘導弾(改善型)の早期整備をはじめとする各種弾薬等の確保、新たなドローン対処器材の導入に使う。「米軍再編の着実な実施」には3307億円(日米同盟の抑止力・対処力の強化と地元負担の軽減を実現する、米軍再編事業を着実に実施)では、空母艦載機の移駐等のための事業、普天間飛行場の移設、嘉手納以南の土地の返還、緊急時の使用のための事業 などなっている。その増税財源として2026年4月から法人税とたばこ税を引き上げ、そして反対の強い所得税の増税実施時期は先送りするというが、大増税は必至だ。
 大企業を優先するが、一方で能登など被災地支援、物価対策、福祉や境域などへは十分な予算配分は行わない。消費税の減税、最低賃金1500円以上への引き上げなどが早急に行われなければならないのである。抜本的な組み替えこそ必要なのである。

 市民と立憲野党はさらに共闘を強め、動揺する石破政権をさらに追い詰め、戦争する国づくりを阻止しよう。来年は参院選など重要な選挙の年だ。自民党政治を終わらせよう。素晴らしい闘いを行っている韓国の民衆とともにアジアの民主と平和を実現しよう。


韓国の市民と野党の力が「戒厳令」粉砕

        日韓民衆連帯の力で平和と民主のアジアを

 12月3日、韓国の尹錫悦大統領は「非常戒厳令」を発令し、戒厳軍は国会占拠をもくろむとともに、野党と一部の与党議員を拘束しようとした。だが、この前代未聞の暴挙は、市民と野党議員の死をも恐れぬ断固たる行動で粉砕された。
だが、国会決議による戒厳令解除を渋々認めざるをえなかった尹錫悦はなんとしても大統領職に居座ろうとあがいている。韓国では大統領辞任を要求する大きなデモが全国にひろがり、韓国政府、韓国軍、検察・警察、与党「国民の力」、韓国の親米・親日の右派勢力は追い詰められている。
 今回の事態は、韓国民主勢力の力を示すとともに、東アジアにおける一方の戦争勢力である米日韓の軍事連携強化に打撃をあたえた。
 
 これまでも日韓民衆は連帯して、東アジアの平和と民主化を創り出す真剣な努力を続けてきた。2020年7月、日本と韓国の市民団体や宗教界が、「両国間の和解と平和、さらには東アジアの非核平和のための『共同の家』(Common House)を建設するという目標の下、民間の協力と連帯を強化することに最善の努力を尽くす」(発足宣言文より)ために「日韓和解と平和プラットフォーム」が結成され、これまで「8・15共同声明文」の発出や日韓青年交流やオンラインセミナーなどを行ってきた。

 12月5日「日韓和解と平和プラットフォーム日本運営委員会」は記者会見を行い、「尹錫悦政権の『戒厳令』措置の暴挙に抗議する韓国市民への緊急連帯声明」を発表し、韓国民衆の闘いへの連帯のアピールをおこなった。

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尹錫悦政権の「戒厳令」措置の暴挙に抗議する韓国市民への緊急連帯声明

 わたしたちは日本と韓国、そして朝鮮をはじめ、東アジアの真の平和を求め、これまで日韓の市民連帯を続けてきました。
 一昨日12月3日、午後10時半頃、韓国の尹錫悦大統領は緊急談話を発表しながら、政権に対する弾劾訴追をはじめとする政治家、官僚をはじめ韓国市民の抗議の声を封殺するために非常戒厳発を宣布する措置を断行しました。それに対し、韓国国会では直ちに190名全員が昨日午前1時頃、「非常戒厳令」解除要求を決議し、その結果、午前5時頃、尹錫悦政権は「非常戒厳令」の解除を発表しました。
 この非常戒厳令措置に対し、大韓弁護士協会、韓国金属労働組合、韓国女性団体連合、や韓国カトリック主教会議議長、そして「ユン・ソクヨル違法戒厳令糾弾、内乱罪のユン・ソクヨル退陣 、国民主権実現のための全面的抵抗運動を宣言する全国民緊急行動」などの諸団体から抗議声明が発出され、市民運動の闘いは広がっています。
 非常戒厳令宣布はおよそ6時間半後に解除されたとはいえ、尹錫悦政権はこの度の理不尽な非常戒厳令宣布措置によって憲法の保障する市民的権利を蹂躙した責任を追及する声は一層高まりつつあります。さらに国会における尹錫悦大統領に対する弾劾訴追に至るまでの事態をこれまで招いた政治責任追及の動きはこれまで以上に高揚することが予想されます。
 わたしたちは今、日韓基本条約締結60年、そして日本の敗戦80年と韓国・朝鮮の解放80年となる来年2025年に向けて日本と韓国・朝鮮とが真の和解と平和の構築のために日韓市民のさらなる相互理解と連帯を深めようとしています。 わたしたちは、この東アジアにおいて疑心暗鬼と敵意をあおり、いたずらに軍事拡大に暴走し、南北朝鮮と東アジアの緊張をかえって激化させる日韓両政府の軍事同盟化の道に断固反対します。
 わたしたちは、憲法9条の精神を尊重し、対話による平和外交と市民の連帯こそが東アジアの平和構築の唯一最善の道と確信します。
 その理念を共有する韓国市民が尹錫悦政権の失政と暴挙に対し抗議しながら退陣を要求する自由と民主主義の闘いに、私たちは熱い連帯の意志をここに表明します。

2024年12月5日

日韓和解と平和プラットフォーム日本運営委員会


沖縄の闘いに呼応して国会前集会

        沖縄の最前線基地化をゆるすな!

 戦争する国づくりに向けて日本政府の沖縄への攻撃はつづいている。辺野古新基地建設のため大浦湾に管杭を打ち込み軟弱地盤の改良工事を強行し、戦没者の遺骨の混じった土砂を辺野古の埋立てに使用しようとしている。沖縄の一層の軍事化は、米国の反中国戦略の一環として沖縄の最前線化するためのものだ。沖縄島、宮古島、石垣島、与那国島、奄美大島へのミサイル部隊をはじめ自衛隊基地の増強を進めている。

 11月30日、「沖縄の闘いに呼応して『本土』でも声をあげよう」を合い言葉に「止めよう!辺野古埋め立て」国会包囲実行委員会の主催による「国会前アクション」が行なわれた。スローガンには、「辺野古新基地建設の強行を許さない」「大浦湾の軟弱地盤改良工事の強行を許さない」「戦没者遺骨の混じった土砂を埋め立てに使うな」「奄美大島から土砂搬出を許さない」「『南西諸島』の戦場化を許さない」「米兵の性暴力の隠蔽を許さない」「日米地位協定の改定を」が掲げられた。
 包囲実行委、総がかり行動実行委、安保破棄中央実行委、平和フォーラム、大浦湾のカヌー隊、土砂全協首都圏グループ、そして社民党や沖縄の風の国会議員の発言などが続いた。山城博治さん(沖縄平和運動センター顧問)は、電話で集会にメッセージを寄せた。今年6月の辺野古新基地建設で使用する土砂を搬出している名護市安和の桟橋近くで工事用ダンプにひかれ2人死傷者が出たが、政府は反対派に責任があるといっているが、許せないことだ。南西諸島の自衛隊配備・強化を止めなくてはならない。全国の力で闘っていこう。

 辺野古新基地建設を阻止しよう。


斎藤兵庫県知事のパワハラ・公職選挙法違反弾劾

 横暴な斎藤元県知事は度重なるハラスメントをはじめとする行為を指摘した元西播磨県民局長の告発に一方的な処分で応じた。県民局長が自死に追いやられて初めて社会問題となり県議会や百条委員会で取り上げられることとなった。記者会見などでの斎藤元知事の対応は他人事のように客観的に問題を見るのみで強大な権力を行使する自分の引き起こしたことと自死という重さに真摯に向き合うものではなかった。

パワハラスメントと百条委員会の取り組み

 百条委員会で取り上げられることによって県民の多くが知ることとなった。多くの市町村長の地位にある人々も斎藤知事のこれまでの行状を考え批判、弾劾に傾いていった。
 県議会での議決に対して斎藤氏はこれまでの指摘を受け入れるのではなく選挙立候補という道を選んだ。そのため事実上の居直り選挙となった。兵庫県は瀬戸内海から日本海にいたる広範囲な選挙区であり選挙活動も大変である。
 選挙結果は予想に反して斎藤元知事の再選となった。2位となった元尼崎市長は90万台の得票であり、あと知恵的に考えるともう一勢力の票が上乗せされると「当選」であった。
 稲村陣営はそれにしてもよくここまでこぎつけたなという想いもある。しかし不利と言われた斎藤陣営が如何にして得票を伸ばしたのかなと考えていた。選挙運動の中では稲村氏に対するデマや批判が流された。 また斎藤氏陣営では根拠のない1期目の実績(90%以上の達成率)が宣伝されていた。
 後日、明らかになったことは、SNSを駆使してのあらたな展開やNHKから国民を守る党の立花孝志氏による卑劣な立候補という名の選挙応援などが指摘されていた。
 ここで一連の追及の流れは終わり、残るは市、県民によるパワハラ問題の追及であり、百条委員会の場での責任追及かなと思われた。

選挙を政治から商業化することの必然的な結果

 しかし選挙活動を積極的に”主体的”に担ったPR会社「merchu」(メルチュ)の折田代表の斎藤陣営選挙での活躍表明で斎藤元知事追及の本流は再び流れ出した。それは県民の選挙違反に対する活発な追及であり大学教授や元弁護士の「公職選挙法違反」の提訴となった。
 政治活動として展開していれば候補者以外が表に出ることはないと思われるが手段を択ばない斎藤陣営は商業活動との区別に無自覚なまま広報活動を丸投げしてしまったようである。商業、経済活動であれば自己の関わり、役割を宣伝し、その成功事例を次の事業に役立てようとするのは当然である。それが「公職選挙法」に違反するかどうか、思いもよらなかったであろう。社会的に指摘されだしてはじめて隠ぺいに動き出したのが真実であるだろう。まるで斎藤氏のパワハラ問題の展開を彷彿とさせる。
今、斎藤氏の顔は選挙期間中や当選時の表情ではなく再び無表情なものに戻っている。
 パワハラスメントや横暴な行為によって自死に追いやられた県民局長や多くの被害者のためにも斎藤氏の当選を無効にし、行ったことの責任をとらせ、県政をまっとうな明るいものに創り替えることが問われている。
 兵庫県民の闘いは多様な形で続いている。


侵略・植民地支配の清算

        中国文化財返還を大きなうねりに

中国文化財返還の運動

 長い歴史をもつ中国には多くの文化財があるが、それらの多くが侵略戦争と植民地主義の過程で国外に流出・略奪された。なかでも日本には多くの責任がある。 現在、中国文化財返還の動きが加速している。これは世界的な脱植民地化の流れの一環としてもある。

 12月7日、東京・早稲田の日本キリスト教会館で、講演会「中国文化財返還を大きなうねりに」が開かれた。

文化・文明の未来像は

 講演の①は、太田昌国さん(民族問題研究)が「脱植民地主義と文化財返還の意味」と題して行った。20世紀末以来、脱植民地主義化の動きは、より深く、広く、展開している。1990年には、南アフリカ共和国で、アパルトヘイト(人種隔離)体制廃絶運動の指導者で、長期にわたって投獄されていたネルソン・マンデラが釈放され、91年には南アフリカ共和国でアパルトヘイト体制は廃絶された。92年はコロンブスの大航海と「地理上の発見」から500年だったが、世界各地で同時多発的に集会・デモ・シンポジウムが開かれた。93年から2003年は国連「先住民族の10年」だった。2007年には国連が「先住民族権利宣言」を採択した。同時期に米国でも93年に連邦議会が「1893年のハワイ王国転覆事件100周年の謝罪決議」をおこない、2008年に「議会上院を通過した「インディアン保健医療改善法改正案」には、インディアン政策の総括を含む謝罪決議を盛り込んだ。ドイツ、イタリア、フランス、イギリス、スペイン、ポルトガル、オランダなどでも同様の動きがあった。
こうした動きの背景には、国連加盟国の推移がある。1945年に51カ国、1960年に99カ国、1975年に144カ国、2021年に193カ国となったが、これは欧米日に植民地支配を受けた歴史的経験をもつ第3世界、今で言う「グローバル・ サウス」の台頭がある。
 国連は1970年「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」(ユネスコ条約)を制定したが、そこで文化財とは「宗教的理由によるかどうかを問わず、各国が考古学上、先史学上、歴史上、文学上、美術上または科学上重要な物として特に指定した物件」とされ、1973年国連総会では、「略奪の犠牲となった国への文化財の復帰」決議がおこなわれ」、1978年に国連は「文化財の原保有国への返還または不法な入手の回復に関する政府間委員会」を設置した。2006年の国連総会は、「文化財の原産国への復帰または返還」決議を採択し、2010年には「文化遺産の保護と返還のための国際協力に関する会議(カイロ)が開かれ、韓国、中国、エジプト、ギリシャ、インドなど16カ国が参加した。
 韓国は返還要求リストに、日本宮内庁所有の「朝鮮王室儀軌」を載せたが、貴重図書に関する日韓協定に基づいて2011年に返還されている。2011年にはペルーのマチュピチュ遺跡から米国のエール大学に持ち去られた遺物の返還協定が「マチュピチュ発見・持ち去り」以来100年を経て成立した。
 実現すべき文化文明の類的未来像は次のようなものになるだろう。他者(他民族・他地域)との「優劣」を競わない、「発展段階」の差異を設けない、自国の文化と国家の起源に 「ヨリ古く」 「ヨリ偉大な」ものを付与しない文化・文明観をいかに獲得するか。そのとき、中国の「一帯一路」構想(2017年北京会議には130カ国政府代表出席)や「古代文明フォーラム」(中国の主導で2017年4月、ギリシャで開催。他に、エジプト、イラン、イラク、イタリア、インド、メキシコ、ペルー、ポリビアの10カ国が出席)などに注目すべきだろう。

中国流出文化財の回収

 講演②は、陳文平・上海大学中国海外文物研究センター教授による「中国流出文化財の回収・返還の理論と実践」(リモートによる)。現在、欧米では文化財の追跡、特に植民地化を背景に流出した文化財の追跡に関する研究が盛んに行われている。海外に流出した文化財の追跡調査と返還は、近年、中国ではますます注目を集めており、多くの人が流出文化財に関心を寄せている。流出した文化財を祖国に戻すことは、中国の人々にとっての切なる願いだ。中国は、1840年のアヘン戦争以降、国力の衰退により、多くの貴重な文化財が列強に公然と奪われ、悪徳商人に密輸や売買によって国外に持ち出されました。国宝、重要文化財などが壊滅的な打撃を受け、中国の文化遺産は取り返しのつかない大きな損害を被った。ユネスコの不完全な統計によれば、世界47カ国の200以上の公立、私立博物館に、中国の文化財は約167万点が所蔵されており、さらに個人コレクタ-の手にある流出文化財はその数倍であると推定されている。歴史的に見れば、中国の文化財が海外に流出した経路は主に5つある。一つは、正常な貿易や贈与。例えば、陶磁器は古代中国の主要な輸出品であり、唐から五代の時代(8世紀末~9世紀頃)から海上交通や貿易の発展とともに、唐三彩、越州窯の青磁器、景徳鎮の青花磁器、福建省建窯の黒釉磁器などが絹や茶葉とともに海外へ輸出された歴史がある。二つには、華僑による海外への持ち出しで、数は多くないが、一部は先祖から受け継いだ貴重品だ。三つ目は、戦争による略奪で、近代史では、八か国連合軍による北京侵攻や日本の侵略戦争などで、西洋列強や日本は中国から大量の貴重な文化財を奪い去り、奪われた文化財は現在、それらの国の博物館や機関に収蔵されている。四つには、不法な発掘や盗掘で、古墓や遺跡の無断発掘や石窟内の彫像の盗掘が行われ、その後に密輸出された。日本は侵華期間中に占領地内で古墓や遺跡を大規模に盗掘し、中国三大石窟に数えられる雲岡石窟や同じく山西省にある天龍山石窟も盗掘に遭った。20世紀前半、日本の「山中商会」は中国国内で開設した最大の骨董売買業者であったが、30年以上にわたって大規模的に中国の文化財を日本や西洋に輸出していた。
 これらの状況を踏まえ、海外に流出した中国文化財については具体的な分析を行い、事実に基づいて正しく対応する必要がある。正常な交流の中で過去に国外に留まった文化財については追及すべきではないが、戦争による略奪や不法な発掘・盗掘によって流出した文化財については、国際法を通じて追跡し返還を求めるべきで、また、低価格で詐取された文化財については、道義的に返還を求めることができ、適切なタイミングで返還要求を行うべきだ。その場合、複雑な状況があれば、根気強く交渉し、補償を行う形で返還を目指すことも考えられる。現代において、国際法の進歩と発展に伴い、主権の概念は伝統的国際法では政治的主権に限定していた範囲を超え、経済的主権や文化的主権を含むようになった。「世界文化遺産の保護」「歴史的民族文化財の返還・補償」「戦争による略奪や喪失の文化財の返還」などの法的概念は、文化的主権という主権的権利から派生したものであり、国際的な実践の中で普遍的に認められる国際法の準則として確立されつつある。文化遺産を保護し、文化財の盗難、不法売買、密輸を防止し、盗難文化財を原所有国に返還することは、人類の道徳、正義、文明の発展における必然であり、国際社会の共通認識と各国政府の果たすべき責任でもあります。海外に流出した中国文化財を追跡・返還する目的は、中国の法律および国際条約に基づき、国際協力を通じて文化財の盗難、盗掘、密輸などの犯罪行為を抑制し、中国文化遺産を救出・保護することにある。
 中国政府と関連部門は、海外流出文化財の追跡・返還を極めて重視しており、重要な成果を上げている。この数十年、中国政府は法律に基づいて流出文化財の返還を求める努力を一貫して続け、1949年中華人民共和国の成立から現在にいたるまで、さまざまな方法を通して、300回以上で15万点を超える流出文化財を中国に返還させることに成功した。
 中国の学者や民間活動家たちは、日本によって略奪された中国文物に関する資料を収集し、学術研究を展開、シンポジウムの開催や署名活動を行ってきた。日本の弁護士、大学教授、ボランティアを中心とした民間組織「中国文化財返還運動を進める会」は、その設立以来、文化財返還集会を何度も開催し、日本政府に対して戦時中に略奪された中国文化財の返還を呼びかけている。中日両国の人びとは様々な方法で中国文化財返還を促し、「非訴訟」による解決メカニズムを模索し、中日政府間の協議や交渉のために基盤を築くだろう。これらの活動は、国際的な道徳基準に則るもので、日中友好の促進や世界文化遺産保護事業の発展に寄与する意義深い行動となるにちがいない。

 質疑応答につづいて、遼寧省海城の姜学東さん、遼寧省大連の姫巍さんなど中国の民間団体からのアピールがおこなわれた。


25春闘に勝利しよう

        団結の力で要求貫徹!

けんり春闘発足総会開催

 12月5日、全水道会館大会議室で、25けんり春闘発足総会が開かれた。はじめに共同代表の渡邉洋・全労協議長が開会あいさつ。
つづいて関口広行事務局長(全労協事務局長)が議案提起。私たちの基本スローガンは、「誰もが安心して働ける職場・暮らせる社会の実現を!」「雇用/賃金/労働時間/労働環境/社会保障の要求をストライキで闘い取ろう!」「軍備増強・改憲阻止!労働者・市民の力で戦争を止めよう!」だ。要求の実現のために、正規―非正規、官―民連帯してすべての組合員が参加する大衆的な闘いで、生活できる大幅賃上げを実現させよう。主な要求として、物価急騰に対し、最低賃金引上げの再改定の実現をめざそう。全国一律最賃1500円実現運動と職場の最賃確保・引き上げ、公契約条例の制定実現!賃金単価の引き上げ、長時間労働を規制し、一日2時間、月20時間、年150時間内に三六協定を締結する。労契法20条裁判・最高裁判例の勝利点を全ての職場で実現するために総点検運動の実施、職場からすべてのハラスメントを根絶させよう。労働者の困窮に手助けと組織化に全力を上げる。性別、雇用形態、国籍、人種による差別を許さず、全ての公務労働者に労働基本権を回復させよう、などを掲げる。
 25けんり春闘全国実行委員会の組織体制は、全労協、都労連、東水労、国労、全港湾、全造船関東地協、全日建運輸連帯労組、東京清掃労組、全統一労組、電検労、全国一般全国協、中小ネット、郵政ユニオン、N関労、交通協力会労組とし、共同代表を渡邉洋(全労協)、鈴木誠一(全港湾)、早川寛(全造船関東地協)、中島由美子(民間中小労組懇談会)、西山直洋(おおさかユニオンネットワーク)のみなさんとし、事務局長を関口広行(全労協)とする。闘いの諸行動をしっかりと取り組んでいく。……
 提案された議案は、参加者の拍手で採決・確認された。

労働基準の緩和を許すな!

 第二部の学習会では、日本労働弁護団常任幹事の佐々木亮弁護士が「労基研の議論を問う!~労働基準の緩和なんてとんでもない」と題して講演した。2024年1月23日、厚生労働省は、労働基準関係法制研究会を立ち上げ、これまで14回にわたり会議を行った。設置目的は①今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うこと、②働き方改革関連法附則第12条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うこととされている。研究会メンバーは、労働法・社会保障法分野、労働経済学、医学・産業衛生学、労使関係論の研究者10名によって構成されるが、労使代表は入っていない。研究会における「検討事項」は、昨年10月に公表された「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書を踏まえた今後の労働基準関係法制の法的論点の整理、そして働き方改革関連法の施行状況を踏まえた労働基準法等の検討の二つだ。報告書の内容が使用者目線であったこと、また、時を同じくして経団連が「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表したことなどから、研究会もそうした流れに乗ったものであると強く警戒されながらのスタートとなった。ただし、実際の議論は広範囲・多岐にわたって議論されている。この11月には「労働基準関係法制研究会(議論のたたき台)」が公表された。これが研究会報告書の元となる文書だ。「たたき台」は「多様化する働き方に対応すべく法整備が進むと、複雑で分かりづらい法制となっていく。保護が必要な場面においてはしつかりと労働者を保護することを前提に、原則的な制度をシンプルかつ実効性のある形で法令において定め」るとするが、社会の構造的変化に対応することで規制緩和をし、その都度、手続的な規制を入れていった結果の「複雑さ」であることにも留意が必要で、「複雑さ」は闘いの成果としての側面もある。また、制度をシンプルかつ実効性のあるものとすることに乗じて規制緩和はさせてはならないので、シンプルが労使いずれに資するのか、実効性とは何の実効性であるのか、その点の見極めが必要となる。
 「たたき台」は検討の四つの柱(①労働者性、②事業、③労使コミュニケーション、④労働時間法制)をあげている。経団連の労使自治提言にもあるが、「たたき台」でも、「労使コミュニケーション」がキーワードとして登場する。そして「労働基準法制による法規制をシンプルに保ちつつ、経済社会の変化に対応して現場の実情に合わせた調整を有効に機能させることが必要と考えられる。そのためには、労働者の意見を集約して使用者とコミュニケーションを図る主体の中核たる労働組合の活性化や組織化の取組が望まれる。また、過半数労働組合がない事業場(企業)も含めて、できるだけ労使が対等に協議して合意に至ることのできる環境を確保していくことが重要と考えられる。労働組合の組織化や過半数代表者の課題を含め、労使コミュニケーションを改善するための検討が必要と考えられる。」としているが、これは労働組合の活性化・組織化を推進すべきとの見解でもあり、ここは大いに利用すべきところだ。しかし、労働組合自治の問題、過半数代表者の制度化が組合とどう関係するかというバランス論など、検討事項は多い。労使関係において、労働組合は実質的で効果的な労使コミュニケーションを実現する中核である。しかし、労働組合の組織率は長期的に低下している。労働組合の自主独立性を損なわず、労働組合を一方の担い手とする労使コミュニケーションを活性化していくことが望ましいと考えられる。また、過半数代表者に対する支援と併せて、過半数労働組合が過半数代表として活動する場合に、過半数代表者と同じように企業から受けることができる支援について、制度上明確化していくことが必要だろう。過半数労組がある職場、ない職場(少数労組はある職場、労働組合がそもそもない職場)など、場合を分けてそれぞれ考えていく必要がある。過半数ではなくとも労働組合がある場合、何らかのインセンティブが必要ではないだろうか。過半数代表者の役割を果たすことの労働者の負担や、全ての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことが多いし、統計では3割が使用者が事実上指名しているという。過半数代表の機能を強化するためには、労働基準法における定義で、過半数代表者を選出する際の使用者の関与、過半数代表と過半数代表者の担う役割及び使用者による情報提供や便宜供与・不利益取扱いを受けないなど権利保護、過半数代表として活動するに当たっての過半数代表者への相談支援、過半数代表者の人数や任期の在り方」等について、明確にしていくことが必要だ。機能強化についての課題はそのとおりだが、問題はその先にあり、この機能強化と労組とのバランス、また実効性の確保(違反した場合の救済はどうなるのかなどについてどうするかだ。
 研究会では、労働時間規制緩和について、テレワークのみなし導入や兼業の割増免除など一部改悪の可能性があるが、現時点では全体としては大きな規制緩和は含まれていない。
 一番の懸案とされている労使コミュニケーションについては、労働組合の側はは積極的に発信すべきで、「攻めの議論」が必要で、労働者代表制度についても積極的に要求していくべきであろう。労働弁護団の「季刊・労働者の権利」357号の「権利白書」(嶋﨑量弁護士)は労働組合結成の促進・活性化の政策(一例)として次のように書いているのが参考になる。ワークルールの啓発(ワークルール教育推進法・「労働組合」の教育)、組合活動に対する便宜供与など(労組法改正で義務化など賃金控除しない組合活動時間の認容、専従者の休職に関する制度整備)、企業情報開示(労働組合の有無・協約内容の開示)、労働組合に対する使用者側の対応のガイドライン化(「イントラ」「組合掲示板」の作成、会議室利用の容認、入社説明会等における組合活動の広報の場、労使協議会の設置)、労働組合を結成・維持した会社に対する社会保険料等の減免等の優遇措置、組合費の税法上の経費性・税控除化、労働組合法の改正(使用者に対して財務諸表等の開示を義務付けるなど団交応諾義務内容の明確化)、労働委員会の実効性の確保、公契約法・条例による規律(不当労働行為を行った企業等の公契約からの排除、一定の組織率ある労働組合が存在する事業主の入札等による優遇・優先措置)、公務員関係(スト権、団結権の回復、専従者の休職制度の見直し・年数限定の撤廃)などがある。

 公務組合として全水道東水労、民間組合の全国一般東京南部、争議組合を代表して全統一労働組合の決意表明が行われ、団結ガンバローで春闘勝利に向けて意思統一を行った。


今月のコラム

        谷川俊太郎さんを悼む

 詩人谷川俊太郎を知ったのは大江健三郎の「万延元年のフットボール」でだった。「8 本当のことを云おうか(谷川俊太郎『鳥羽』)」という章題があった。当時は大江さんに入れ込んで、エッセイにでてくるジャズのLPを探して聴いたりしていたから、早速谷川さんの詩集を手に取った。ことばは平明でいて何かくっきりした手触りがあった。現代詩というのは難解なものという思い込みから解き放たれた気がした。それほど熱心な読者だったとは言えないが、改めて谷川さんを身近に感じたのは、孫娘が生まれて読み聞かせのための絵本を選ぶようになってからだ(このころやっと「タニガワ」でなく「タニカワ」であることに気づいた)。谷川さんにはたくさんの絵本の作品がある。和田誠絵の「あな」「いちねんせい」、瀬川康男絵の「ことばあそびうた」、岡本よしろう絵の「生きる」、合田里美絵の「ぼく」…、翻訳も多い、堀内誠一絵の「マザーグース」、漫画「ピーナッツ」、「スイミー」…。そしてたまたま昨年末から谷川さんが亡くなる直前まで、谷川さんの本を相次いで読んでいた。

「その世とこの世」(岩波書店)
 雑誌「図書」2022年3月号~23年8月号に連載されたブレイディみかことの往復書簡が単行本になった。ブレイディの手紙に谷川さんが詩を添えて返信する。「ブレイディさんの文章を読んでいると、わたしの頭には『現場』という言葉が自然に浮かんできます(略)文章が生まれる現場、あるいは文章を支える現場が、この世のどこかでブレイディさんが生きてきた年月が言葉の上だけでなく、具体的事実としてちゃんと存在している(略)かの漱石の『思い出す事など』の文章に存在する抽象を許さないリアルな現場に、言葉にしか現場のない詩を書く私は劣等感を抱いています」これにブレイディは訪れたドバイの体感温度が50度と言われるなか「高層ビルの建設現場では、出稼ぎ労働者たちが重い資材を肩に乗せて歩き回っていました。/他方では、裕福な人々や観光客が、クーラーの効いた世界最大の屋内スキー場や世界最大の屋内遊園地で、ドバイにいながら避暑を楽しんでいるのです」と返す。
 最後の方に「これ」という詩がある、「これを身につけるのは/九十年ぶりだから/違和感があるかと思ったら/かえってそこはかとない/懐かしさが蘇ったのは意外だった」と始まる詩の最後は「二度童(にどわらし)という言葉が私は好きです」と閉じられる。次のページには野原で一人四角い石に腰掛ける紙おむつを付けた老人の姿の挿絵(奥村門土)。

「ららら星のかなた」(中央公論新社)
 2020年10月~22年11月、9回にわたる伊藤比呂美との対談をまとめたもの。タイトルは手塚治虫が直接電話で谷川さんに依頼したアニメ「鉄腕アトム」の歌詞から。伊藤比呂美のあけっぴろげで率直な物言いに「(笑)」が随所に、時には「(爆笑)」も。詩人同士の対談だから詩の本質に迫る内容がある。「谷川 美的な詩的な感覚は、捨てた方がいいと思うよ。 伊藤 そこ!そこなんですよ、私がしたくてしたくて、どうしてもできないのは。どうすればいいんですか。 谷川 うん、つまりね。人が読んで面白いかな、どうかなって、他人のことを一生懸命考えるの。(略) 伊藤 その『人』、『他人』とは?いわゆる読者ですか。 谷川 読者でも誰でもいいんですよ。(略) 伊藤 つまり自分以外の人。 谷川 そうそう。他者っていうのはそういうこと。読者って限定するんじゃなくて、『他者』でいいんだよ。」
 死についての会話が多い。「伊藤 でも谷川さんの死にざまに関しては、日本中が興味あると思う。絶対。 谷川 誰が書いてくれるかもわからないのに、どう書くかもないけどね。まあ、病名がないとちょっとスッキリしませんよね、死亡記事って。 伊藤 でも老衰でしょ、狙うは老衰。 谷川 病名とか、名前を付けてほしくないの。だから『老衰』もイヤ。ただ死んだ、って言われるのが一番いいんだよね。 伊藤 それはちょっと難しい。心しておきますね。 谷川 (笑) 」
 最後に二人で詩を置いている。谷川さんのはタイトルが「比呂美さん、」「車椅子の上から眺めていると/世間は速くも遅くもなく/丁度いいリズムで時を刻んでいる/ように見えますが/これは生きるのに飽きた老人の/錯覚かもしれない/今一番したいことは何ですか?/私は立ち上がって歩きたい!」

「詩人なんて呼ばれて」(新潮文庫)
 読売新聞編集委員を経て文芸評論家になった尾崎真理子が2015年~17年に17回インタビューしてまとめた単行本に、2020年夏・24年春のインタビューを加えて増補改訂し文庫化した。尾崎は同じようにインタビューを重ねた「大江健三郎 作家自身を語る」(新潮社)を刊行している。「2015年初頭のことになる。谷川俊太郎氏へのインタビューを始めたことを大江健三郎氏へ雑談の中で伝えると、『それはいい。しつこいくらい続けてやった方がいい』と、非常に愉快そうだった。/『あんなに頭が切れて、女の人たちを引きつけて、魅力的な人はいませんからね。僕なんか敵じゃない。あの人は天才ですから!』」
 インタビューの前に尾崎の詳細な時代や詩壇の状況、谷川さんの周辺事情(両親との関わりや3回の結婚のこと、交友関係等)、作品分析が付されている。写真や多くの作品も紹介されていて谷川さん入門、というより本格的な谷川俊太郎論になっている。タイトルは2017年に書かれた同名の詩からきている。詩はこう始まる、「本当は呼ばれたくないのです/空と呼ばれなくても空が空であるように/百合という名を知る前に子どもが花を喜ぶように/私は私ですらない何かでありたい」  (新)


せんりゅう

     戒厳令なんとまあふかい墓穴

          哲さんの用水路次々と平和 

     マイナカードで人民手段化政策

          日本の冷漠社会アベの影

     自然家族平和これを毀す戦争

          人生を牢獄にした国家権力

                         ゝ  史
 2024年12月


複眼単眼

        韓国の尹大統領の「戒厳令」と民衆の闘い

 韓国民衆の闘いの歴史をほうふつとさせる闘争がリアルに始まっている。韓国の尹錫悦大統領は12月3日22時13分、非常戒厳を宣言。ついで軍が投入され、国会議事堂の封鎖と議員の拘束・逮捕が試みられた。
 「北朝鮮に関する状況が極めて深刻だ。すぐに出動する」「銃器も使えるよう整備せよ」。部隊は3日朝から既に戒厳令発令に向けて出動準備をしていた。大統領は戒厳司令官も任命していた。警察長官にも戒厳令4時間前に緊急待機指示が出されていた。だがこれが大惨事に至らなかった背景には、国会議員の奮闘と現場の兵士らの「サボタージュ」、国会周辺に集まった市民らの決死の動きがあった。
 投入された部隊は首都防衛司令部と韓国陸軍特殊作戦司令部所属の最強部隊。戒厳令後、国会議事堂に計4部隊。一部の部隊はヘリで国会議事堂の敷地に降下した。
 尹大統領の宣布から26分後の22時49分には、与党「国民の力」の韓東勲代表が「非常戒厳は誤り」とコメントを発表。野党「共に民主党」の李在明代表も、車で国会に向かいながら、22時56分にライブ配信で「国民のみなさんが国を守らなければなりません。国会に来てください。私も向かいます」と呼びかけた。
 国会の正門はすでに封鎖されていたが、門の前には大勢の市民が集まっており、「門を明けろ」「戒厳撤廃」「大統領は辞めろ」と連呼しながら警察と対峙していた。ケガをしますから入らないでください」という警察に対して、市民も「ケガするからどけ」と言い返した。その間隙を突いて正門の脇の柵を越えて中に入る議員たちを市民は後ろから押し上げた。
 国会前に集結した市民たちは当初は左派系政党や労組の旗が目立ったが次第に個別に来る市民が増えてきた。深夜にもかかわらず集まった5000人ともいわれる人々は、「止めるその一人にならなければ」と駆け付けた数多くの個人だった。
 0時、戒厳軍のヘリが国会の広場に降り立った。国会の本会議場がある建物では、中にいた補佐官らがバリケードを作っていた。特殊部隊で構成された戒厳軍はバリケードを破ったり、ガラス窓を割って建物に侵入。国会の中で、国会関係者と軍人がにらみ合いになり、消火器の煙が立ちこめた。
 なぜ国会議員が国会に結集したのか。韓国の憲法77条は戒厳令について「(5)国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求する時には、大統領はこれを解除しなければならない」とある。だから、大統領以外に戒厳を解除できるのは、国会しかない。韓国国会は4日未明、本会議を開き、非常戒厳令の解除を要求する決議案を可決した。出席した190人全員が決議案に賛成した。
 国会の外の様子を偶然現場にいあわせた日本人の猿田佐世弁護士の報告。
 私の近くにいた男性が、「左から軍が投入された」と叫んだ。「ついに逃げるか」と私は身構えた。しかし、なんと、その声を聞いた何人もがすぐに彼に呼応し、「軍を入れさせるな!」と叫んで、彼と共にそちらの方向に向かっていった。他の人たちも続き、後ろを振り返って「みんなこっちへ!」と呼びかけながら走っていった。
 警察車両の真ん前に立ちふさがって、たった一人で車を止めていた20代くらいの女性もいた。彼女は、ただただ静かに警察車両の前から動かなかった。
国会議事堂の窓ガラスを軍隊が破って入った。中では消化器をまいて、軍の侵入を止めようとしている。

 市民たちは「最後まで国会を守ろう」と叫びながら互いに励まし合った。「私がいなければ民主主義が崩れるかもしれないという考えで臨んでいる」。国会正門前の8車線道路は大きな広場が形成された。市民はろうそくやフラッシュをつけた携帯電話を手に歌を歌った。労働組合と政党は舞台を設置し、「夜が明けるまでこの場所を守ろう」と叫んだ。
 野党が国会に提出した「大統領弾劾案」は、国会議員200人以上の賛成があれば可決され、憲法裁判所が尹氏の罷免を判断することになるが、決議には数人足らず、否決になった。
 首都ソウルの国会前では7日、市民の大規模なデモが実施された。午後7時段階で最大約15万人が集まった。
 今日も韓国では、多くの人々が街に出て声を上げている。    (T)


冬季カンパのお願い

        労働者社会主義同盟中央委員会

 安倍・菅・岸田そして石破と続いてきた戦争する国づくりむけた自民党政治は同時に裏金を始め数々の腐敗した行為と一体のものでした。10月総選挙では、自民党・公明党の両与党は大幅に議席を減少させました。改憲派議員の多くも国会から去りました。この情勢を活用して、自民党政治を終わらせるため、労働運動、市民運動、立憲野党は共闘をつよめ、総がかりの行動を全国で展開していきましょう。一方で、ウクライナ、中東での戦争、トランプの再登場など世界的な緊張と戦争の脅威も高まってきています。 私たちも一段と奮闘する決意です。運動の勝利的な前進のために冬季カンパをお願します。

二〇二四年冬

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