人民新報
 ・ 第1445統合538号(2025年5月15日)

                  目次


●  トランプの暴走に広がる抵抗

        ナイとアーミテージの遺言・トランプ政策批判

●  鹿児島での憲法集会

        南西諸島九州地域の軍事化に抗して

●  第96回日比谷メーデー

        働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう

●  日本学術会議法人化法案阻止!

●  未来は変えられる!戦争ではなく平和なくらし!2025憲法大集会

        いま、世界的危機の中に打って出る時

●  柏崎刈羽原発再稼働に関する県民投票条例請求県議会臨時会決定を受けて

●  石川一雄さん追悼

        再審・完全無罪を勝ちとるぞ!

●  今月のコラム  継承されるパレスチナ民衆の闘い-映画「ノー・アザー・ランド ~故郷は他にない」を観る-

●  せんりゅう

●  複眼単眼  /  世論調査とその動向の危険性





トランプの暴走に広がる抵抗

        ナイとアーミテージの遺言・トランプ政策批判

 トランプ第二期政権は発足以来の100日間で、矢継ぎ早にその内外政策を打ち出し続け、世界に混乱と悲劇をもたらした。しかし高関税政策は、国内外からの反対で早くも手直しを余儀なくされ、対中国では大幅なトーンダウンとなった。しかし、実施の延期に過ぎず関税・貿易摩擦の激化は解消されたわけではない。
 アメリカ経済の相対的な衰退は明らかで、1960年代にはアメリカのGDPが世界の4割をこえていたが、現在は4分の1程度になっている。国際競争力の低下の趨勢は否めない。とりわけ第二次産業の弱体化は著しい。こうした困難な状況にたいし、トランプは関税障壁を高くし、また自国産業に補助金を巨額投入することによって、米国経済を活性化させようと躍起になっているのである。 トランプのほとんどすべての国を対象にした高関税政策は、米国内の製造業の回帰・復活をもくろむもので、それが実現できれば政権の支持基盤である貧しい白人労働者層の期待に応えることができ、来年秋の中間選挙で共和党の圧倒的勝利を実現し、トランプ流の政権・政策の長期継続を狙うものである。
 高関税政策発動の当初にトランプは、各国首脳から「どうか、どうか、取引を成立させてください。何でもしますから」と言ってきていると放言するなど、強気だった。そもそも「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権は、本質的には米国唯一絶対の立場なのだから、「自分も相手も勝つ」「双方にメリットがある」というウィンウィン関係の構築は難しく、「一方が得れば他方は損する」というゼロサム(合計するとゼロになる)関係の創出が基本なのである。こうした高関税政策に衝撃を受けた日本政府も、「日本だけはお目こぼしを」と対米交渉に苦慮しているが、前途は暗い。
 しかし、日がたつにつれて、トランプの政策は、米国自体にも壊滅的な影響を及ぼしてくることが鮮明になってきた。
 こうした情勢に、トランプの外交政策をめぐって米国支配層の分岐も鋭くなってきている。
 この春、伝統的なアメリカの外交政策を主導してきた二人の実力者があいついで死去した。4月13日、リチャード・アーミテージが79歳で死去した。そして間を置かず5月6日、ジョセフ・ナイが88歳で死去した。
 この二人による超党派的な「ナイ・アーミテージ・レポート」(Nye-Armitage Report)は、2000年に発表され、2007年、2012年に改訂版が出された。中国の台頭を前に、アメリカがアジアにおける影響力を維持するため、日本との戦略的な協力を強化し、アジア太平洋地域での安定と繁栄を促進するための提言、というより日本政府への命令書に近いものであった。それは、中国や北朝鮮の「脅威」に対応するとして、日米の共同軍事演習・訓練を強化し、兵器の相互運用性を高めるべきだとした。そしてナイの持論である文化や価値観を通じた外交(ソフトパワー)を活用してアジア太平洋地域における「民主主義の促進」や「文化的交流」の強化で「脅威」への対抗を訴える内容だった。このレポートは、防衛費の負担分担や米軍基地問題の調整など日米軍事同盟強化とくに日本の集団的自衛権の行使容認へのテコとなった。ナイ・アーミテージ・レポートは、日米関係の骨格を形成し、日本の政治・経済・官僚・軍事の各界にわたって絶大な力をもってきた。
 この二人が亡くなったことは日米関係に変化をもたらすものとなるだろうが、とくに死の直前にそろってトランプの外交政策を痛烈に批判した意味は大きい。
 まずアーミテージだが、彼はレーガン政権の国防副次官補、ジョージ・W・ブッシュ政権では国務副長官を務め、外交の実務と理念に精通した保守本流の人物だった。2001年の同時多発テロの直後には、日本側に「ショー・ザ・フラッグ(旗を見せろ)」と語り、またイラク開戦時には、「ブーツ・オン・ザ・グラウンド(陸上部隊の派遣を)」という表現で軍事協力を要求し、陸上自衛隊のイラク派兵につながった。また2021年には、バイデン政権が派遣した非公式の超党派代表団の一人として台湾を訪問し米国として台湾を支援する立場を示した。
 しかし、アーミテージは、トランプの外交や安全保障政策に反対し、2016年の大統領選挙では民主党のクリントン候補を、2020年には、民主党候補のバイデン支持を表明した。
 アーミテージのトランプ批判の主要な点は次のようなことだ。2020年の大統領選挙結果を否定し続け、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件(キャピトル襲撃)に関与したことに強く反発し民主主義への脅威だとした。トランプ政権が、NATOや日本・韓国などとの同盟関係を軽視し、伝統的な米国の外交的価値観や協調主義を損なっていることを批判した。またトランプの軍や諜報機関への敬意の欠如、事実に基づかない発言などを「無責任」「自己中心的」と評した。
 ジョセフ・ナイは、国際政治学者・ハーバード大学特別功労教授で、アメリカ民主党政権でしばしば政府高官を務めた。ナイは、アメリカの国益を最優先し、他国との協力よりもアメリカの独自性を強調するトランプ政権の「アメリカ・ファースト主義」は、「アメリカ・オンリー主義」であり、国際協力や多国間主義を後退させ、アメリカは国際社会で孤立すると批判している。国際的な問題は複雑で相互依存しており、単独で解決することは難しいにもかかわらず、トランプ政権は、気候変動問題やイラン核合意、貿易戦争などの重要な国際問題に対して単独主義的なアプローチを採用した。これはアメリカの文化、価値観、外交の手法を通じて他国に影響を与える力であるソフトパワーを低下させる原因になり、アメリカが世界でリーダーシップを発揮する事が出来なくなるとしている。
 二人はともにトランプ政権の政策がアメリカのヘゲモニー(世界支配権)を自ら失墜させることになると批判しながら、この世を去ったのである。
 しかし、トランプ政権は、軌道修正することなく、まっしぐらに自滅への道を進んでいる。
 そして、かれら二人の実力者の死により、日米同盟の維持・強化における「顔の見える」人物、別の言葉で言えば、アメリカの対日政策を策定し日本に影響を与える人物である「ジャパンハンドラー」が不在となることになり、日本支配層は、「頼れる存在を失った」「一つの時代の終わり」と悲嘆にくれているのかもしれない。
 日米関税交渉でも先はまったく読めない状態だ。トランプを説得してなんとしても、関税とりわけ自動車・部品25%の引き下げを狙って、見返りに農産物のさらなる市場開放や工業製品に関する規制緩和などを交渉材料としているが、米側のガードは堅い。
 トランプ政権の基本姿勢は、高関税による輸入の削減・貿易赤字の徹底的解消と自国製造業の再生であり、ウインウインのないゼロサム交渉となる可能性は高い。
 トランプ政権の高関税政策と日本の軍事費増強の強要に対して妥協的に対応する政府・自民党に対する広範な批判の声を広げていこう。 いまが、日米関係の抜本的見直しの時期だ。


鹿児島での憲法集会

        南西諸島九州地域の軍事化に抗して

 5月3日、鹿児島でも改憲反対派・改憲派による集会が行われた。

 沖縄への自衛隊増強派兵以後、南西諸島への基地建設、ミサイル配備計画、米軍との共同行動がすすめられ、「外国からの侵略」危機が宣伝されてきた。そのこともあってか当日の南日本新聞には憲法改正賛成が62%に達したことが一面で報じられていた

 改憲反対派では、生協コープかごしまなど護憲7団体による集会(400人)と県護憲平和フオーラムの集会(110人)が行われた。 県護憲平和フオーラムの集会では、飯島滋明教授(名古屋学院大学)による日米地位協定と憲法についての講演、オーストラリア出身で米兵による性暴力を受け長年に渡って闘ってきたキャサリン・ジェーン・フイッシャーさんの報告が行われた。飯島教授は、度重なる米兵による性犯罪と加害者が罰されず放置されることの根拠として日米地位協定との関連について詳細に説明された。とくにドイツ、イタリアでの米軍基地と日本の権限比較をされ、日本が米軍まかせになっている実態と協定との関連について述べられた。そしてまとめとして、憲法改正派は「国を守る」「日本を取り戻す」「一回も改正されていない」として改憲を主張しているが、そうであるならば日米地位協定の改正をすべきであると締めくくられた。
 キャサリン・ジェーン・フイッシャーさんは、オーストラリア出身で2002年に神奈川県横須賀市で米兵(米海軍航空母艦乗組員)に強姦をされた。警察は被害者であるキャサリンさんを取り調べ、横浜地検は加害者を不起訴処分とした。
加害者への損害賠償裁判では勝訴したが審理中に加害者は「名誉除隊」しさらにその所在は分からなくなってしまった。そこで東京地裁での判決を履行させるため米国(ウイスコンシン州)で提訴し2013年に勝訴している。困難な長期の闘いの中で米兵により性犯罪をうけた被害者に連帯する取り組みを続けてきた。その長年に渡る米軍基地とその軍人による性犯罪との国際的な粘り強い活動は参加した人々に強い感銘を与えるものであった。沖縄での米兵による性犯罪の繰り返しと米政府の隠ぺいと日本政府の加担の現状を考えるとキャサリンさんの活動は根深い米軍兵士の性犯罪と日米両政府の隠ぺい構造を示すと同時にこれを告発・闘っている人びとへの激励となっている。

 後日の新聞報道によると鹿児島県民交流センターで開かれた憲法改正賛成派の「美しい日本の憲法をつくる県民の会」の公開憲法フオーラム(350人)では元海将補が登壇し、自衛隊を憲法に明記すれば「自衛隊員の士気が上がる」と訴え、沖縄県石垣市長は「緊急事態条項の創設を」訴えている。このような妄言は西田自民党参議院議員のひめゆり学徒の展示説明を「歴史の書き換え」として公言してはばからないのと同じ流れである。
 アジアへの侵略と加害への反省ではなく、これを掘り崩そうとする流れがじわじわと強められていることを実感せざるを得ない。
                                                                  K・K(鹿児島在住)


第96回日比谷メーデー

        働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう

 5月1日、第96回日比谷メーデー式典が日比谷野外音楽堂で開かれた(野音は建て替え工事のため今年10月から使用を休止し、日比谷メーデーは今回が最後となった)。
  
 働く者の団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろうをスローガンに、サブスローガンに、★大幅賃上げ実現!労基法解体を許すな!社会保障の充実を!★ジェンダー平等!均等待遇実現!なくせ貧困・格差・差別!8時間働けば暮らせる社会を!★被災者支援!福島原発事故を忘れない!原発のない社会を!★反戦平和!核兵器廃絶!9条改悪反対!大軍拡・増税反対!辺野古新基地建設阻止!が掲げられた。

 3000人が結集した集会では、参加組織代表・争議団などによる日比谷メーデー合唱団のオープニングにつづいて、鎌田博一・国鉄労働組合東京地方本部委員長の開会宣言。

 中島由美子(中小民間労組懇談会代表)が主催者挨拶で次のように述べた――メーデーは1886年5月1日、当時、長時間労働と低賃金、過酷な労働にあえいでいたアメリカの労働者が8時間労働制を求めてストライキに立ち上がったことを起源としています。仕事に8時間、休息に8時間、そして自分のしたいことのために8時間をスローガンに始まったメーデーは20世紀にはILO国際労働機関の第1号条約8時間労働制の批准を推進し、ここで8時間労働制が世界標準になりました。現在この5月1日は世界各国で労働者の祝日になっています。しかしながら21世紀の今もなお日本は8時間労働制の第1号条約はおろか労働時間に関する条約をひとつも批准していません。こうした課題を考える時、労働者の叫びの日である5月1日メーデーの意義は色あせてはいません。本日、全世界の労働者と手をつなぎ、様々な行動に結集する人々と連帯し、この日比谷メーデーは平和と民主義を守るため官民労働者の統一のもと皆さんともに闘っていきましょう。

 連帯挨拶で、中川崇・東京都労働組合連合会委員長は、日比谷でのメーデーの歴史を振り返り、その伝統を継承しながら労働者の統一メーデーの場を目指していくことの意義を強調した。
 代々木公園で行われている第96回中央メーデー実行委員会を代表して黒澤幸一全労連事務局長は、今年のメーデーは、労働組合の行方を確認する歴史的に大切なメーデーだと思います。闘う労働組合をこの日本で主流にする大同団結を行おうではありませんか、と述べた。

 来賓挨拶は、田中慎一・東京都産業労働局長と大椿ゆうこ・社民党参議院議員がおこなった。
 韓国民主労総からのメッセージが読み上げられ、また大阪、京都、静岡中部のメーデー実行委員会からもメッセージが寄せられていることが紹介された。
 
 決意表明・訴えでは、労働法制について柚木康子さん(雇用共同アクション)、外国人労働者問題についてフィリップさん(全統一アフリカンユニオン)、反戦平和の課題について菱山南帆子さん(5・3憲法大集会実行委員会)が行い、ついでメーデー・アピールが採択・確認された。

 渡邉洋・全労協議長による「団結がんばろう」で集会を終了し、土橋、鍛冶橋のふたつのコースにわかれてデモ行進を行った。


日本学術会議法人化法案阻止!

 学問・学術研究の独立性・自律性を損なう可能性があるとして国会で審議中の日本学術会議特殊法人化法案に対して強い懸念が表明されている。
 法案は、菅内閣が強行した「会員任命拒否問題」の解決になっていないだけでなく、法人化に伴って、基礎科学や社会科学、人文科学など収益性の低い分野が冷遇され、軍事技術などが優先されることになる。
 そもそも会員任命拒否では戦争する国づくりなど政府の政策に反対する学者が狙い撃ちにされたことから見ても明白だ。
 そして、政府が理事や幹部人事に間接的に関与する仕組みが導入されることで、御用機関化の危険性は一層強まることになる。

 大学の危機をのりこえ、明日を拓くフォーラム、学術会議会員の任命拒否理由の情報公開を求める弁護団、立憲デモクラシーの会、「稼げる大学」法の廃止を求める大学横断ネットワーク、日本戦没学生記念会(わだつみ会)などは、法案は「2020年の菅義偉首相による6名の学術会議会員の『任命拒否』以降、政府は学術会議の独立性を無視して一方的に権力的介入を続け、特殊法人化の法案を今国会で通そうとしています。この特殊法人化は、内閣総理大臣任命の監事、外部委員による会員『選定助言委員会』、内閣府に設置される『評価委員会』等によって、学術会議の独立性を奪い、政府の御用機関に変質させるものです。」と批判し、「日本学術会議の『特殊法人』化に反対する署名」活動を行っている。
 5月7日には、法案に反対して国会前で多くの人びとが結集し、法案の廃案を求めた。


未来は変えられる!戦争ではなく平和なくらし!2025憲法大集会

        いま、世界的危機の中に打って出る時

 5月3日、『未来は変えられる!戦争ではなく平和なくらし!2025憲法大集会』が東京・有明防災公園で開かれ、38000人が結集した。

 メインステージでは、はじめに主催者を代表して菱山南帆子さんがあいさつ。―今日は共同で行う憲法集会が10年目を迎える大きな節目の年です。ここに参加している多くの皆さんが記憶に残っていると思いますが、10年前、横浜の海に面した臨港パークという公園で分断と対立を乗り越えた初めての憲法集会が開かれました 。そこには3万人を超える人々が集まりました。そしてこの成功がその後の戦争法と対決する2015年安保闘争の大爆発につながっていきました。私たちは翌年からもっと多くの人が集まれるこの有明防災公園に場所を移し、コロナ禍直前の年には6万人を超える人々が集まったことありました。三密回避が叫ばれたこの中ではどうしても密になってしまう市民運動は大打撃を受けました。それでも憲法集会の火を消すことはできません。国会正門前からオンライン中継をしながら継続してきました。いく度も訪れた改憲の危機を跳ね返してこられたのは紛れもなくこの憲法集会を中心とした私たちの粘り強い市民運動があったからだと確信しています。
 いま台湾有事を口実にいつでも戦争ができる体制作りが進んでいます。沖縄では在日米兵による暴力事件が繰り返されています。これは単なる個別の事件ではなく軍事によって社会が覆われる中で起きる構造的な暴力に他なりません。戦争と性暴力は表裏一体です。だからこそ平和を守ること、軍事に頼らない政治こそが真の人権保障であり憲法の精神そのものです。
 いま世界はウクライナ、ガザを焦点に排外主義と分断が吹きあれ、世界的な戦争の危機が進行しています。今こそ平和憲法に守られ、平和憲法を生かそうと闘ってきた私たちはこの世界的危機の中に打って出る時ではないでしょうか。トランプ現象と性差別に対するバックラッシュは一体のものとして世界中に広がっています。
 あのトランプを真似た非常戒厳攻撃に対する韓国の民衆の立ち上がりは痛烈な反撃ののろしとなりました。ユン・ソンギョルの支持派は韓国の国旗と星条旗を持った男たちで占められ、一方ユン・ソンギョル弾劾派は女性・若者を中心とした多様な結集であり、両者の違いは鮮明でした。あらゆる分断の先には戦争が手招きをしています。その分断を阻止する戦いの要は女たちの連帯とパワーに他なりません。
 かつて侵略と戦争で世界を壊し自滅してきた日本、今度はミサイルで戦争を作り出すのではなく、憲法を持って平和を作り出す時ではないでしょうか。
 今回、総かかり行動実行委員会では軍拡に反対する新署名を始めました。今こそ私たちは町に出て署名を手に対話運動で戦争のない、憲法が生かされる未来を切り開いていくために頑張ろうではありませんか。
 7月には参議院選挙があります。与野党逆転で改憲勢力を追い詰め、選択的夫婦別姓反対する議員は落選するくらいに運動を盛り上げようではありませんか。これは家父長制と一体である戦争に対する闘いでもあります。
 本日は様々な地域から時間をかけてこの憲法集会に集まられたことと思います。今日の集会を大いに楽しんでください。未来を切り開く 運動は楽しくあるべきだと私は思います。信じられる未来のため、明日からまたそれぞれの職場、地域学校で運動を広げていきましょう。
 頑張りましょう。

一人目のスピーチは、植野妙実子さん(中央大学名誉教授・憲法学)
 ウクライナで戦争があり、イスラエルのガザ攻撃もあり、不安定なトランプの政治があり、しかし私たちはたじろぐことはありません。なぜなら日本国憲法があるからです。その憲法の中には永久平和主義が書かれています。私たちは何も一国平和主義を望むものではありません。全ての国々が平和で楽しく仲良く幸せに暮らすことを目指すものです。もちろん私たちが 幸せでなければなりません。まず私たちの足元を固めそしてそこから世界に発信し 全ての国の人々に平和は素晴らしいものだということを切々と説いていかなければなりません。なぜなら現状を見ても分かるように一度戦争が起きたら終わりは見えません。どこに着地するのでしょうか。それに様々な政治や政策はディールで行われるのではありません。何を基本にして行うのか。日本国憲法は13条に個人の尊重を定めています。一人ひとりを尊重してこそ憲法がありその上に平和が作られていくのです。この個人の尊重を大切にしなければいけません。今日は各地から色々な方々が集まってきていますが皆さんたちと共に日本をさらに平和の国として発展させていきましょう。皆さん頑張りましょう。

 二人目は田中熙巳さん(日本原水爆被害者団体協議会・代表委員)
 13歳の時に長崎で被爆いたしました。だから原爆の被害がどういうものかというのは私の脳りに焼きついています。核兵器は絶対に戦争には使ってはならない兵器です。戦争をしないこと、これが大事ですけども、もし戦争になったとしても核兵器のような兵器は絶対に使ってはいけない。 しかし残念ながら今1万2000発の核兵器がある。
そしてその中の4000発の核兵器が今すぐにでも発射できる態勢にあります。そういう平和にとって非常に危険な時に私たちは生きているわけであります。
 私たち被団協がノーベル平和賞を昨年受賞することは私どもは全く予想しておりませんでした。それまでに3回にわたって有力な候補になったことがあります。しかしそれは実現しませんでした。ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)という組織がノーベル平和賞を受賞しました。2017年は核兵器禁止条約が制定された年です。その仕事をノーベル委員会は高く評価しました。今日、ロシアが核で脅しながらお隣の国を侵略しております。イスラエルは核を使うこともあると言っております。インドとパキスタンが国境で争いをしたと言われております。両方の国とも核を持った国です。この数年の間世界は本当に核戦争が始まるかもしれない危険な状況にあります。ノーベル平和賞委員会は、日本被団協の役割をここでもう1度果たしてもらいたいという願いで授賞したのだと思います。

三人目が古賀茂明さん(政治経済評論家、元経済産業省官僚)
 やっぱり本当に日本国憲法これ本当に大事だ、本当に素晴らしいものだなというのを感じながらお話をしています。今世界は変わりつつあります。いやもうかなり変わったのかもしれません。日本はアメリカと戦いました。でもその後、原爆も落とされたのにも関わらず日本人はアメリカって素晴らしい国だと思い続けてきたんじゃないでしょうか。ついこの前までの安倍政権や岸田政権とずっとそうでした。アメリカは一番大事な同盟国だ、価値観を共有できる貴重な一番大事な友だちだと言い続けてきました。しかしそれは実は間違いでした。トランプさんになってそれがはっきりしましたが実はトランプ大統領だけがおかしいわけじゃないんです。やっぱりアメリカにはおかしな考えが根強く広がっています。だからこそトランプは2回も選ばれたわけです。アメリカがもう信用できないじゃないかとやっと日本人も気づき始めました。ここにいる方はかなり前から疑っておられたと思いますけれども普通の人もそう思い始めた。じゃあどうするのか。ここでやはり日本国憲法の精神っていうのを考えなくてはいけません。憲法は世界中の国々というよりも市民の繋がりで世界の平和を守っていこうという考えです。今アメリカとの関係を問い直すそれは中国との関係を問い直すということと一体です。アメリカから自立しようって言うと中国が怖いっていう人が多くいるんですね。じゃあそれにどう答えるのかとこれは簡単なことなんですよ。それは中国の人と話をしてみれば分かります。話をしないから分かりません。中国の人誰一人日本と戦争しようなんて思ってませんよ。ヨーロッパもアジア諸国もアメリカとの関係から離れていってますよね。日本だけが、まだやっぱりアメリカにしがみつこうとしている。これ大きな別れ道です。変えるチャンスです。去年の衆議院選で私たちは結果を出しました。そして今度の選挙です。そして私はこの参議院選挙だけで終わらせたくないんです。衆議院も解散してほしい。そのためには躊躇せず内閣不信任案を出してほしい。そうしたらもう一回衆議院でも勝ってその時には本当に政治が変わります。皆さんのこれからの頑張りがそれを実現する。本当に今日はたくさんの方々これだけ集まっていただいて、集まるだけじゃなくてこれからもっともっと外に広げてそして行動して日本を変えていきましょう。

 つづいての政党・会派からの連帯あいさつでは、辻元清美さん(立憲民主党代表代行)、田村智子さん(日本共産党委員長)、くしぶち万理さん(れいわ新選組共同代表)、大椿ゆうこさん(社民党副党首)、伊波洋一さん(会派「沖縄の風」幹事長)がおこなった。
 プラカードアピールやカンバの訴えがあり、市民連合の連帯あいさつを佐藤学さん(東京大学名誉教授)がおこなった。

 リレートークは、沖縄について崎浜空音さん(慶應義塾大学法学部法律学科4年)、ジェンダーについて高井ゆと里さん(SRHR市民社会レポートチーム)、国際連帯について高橋千絢さん・源島菜月さん(日本国際ボランティアセンター)がおこなった。

 最後に、行動提起を小田川義和さん(憲法共同センター)がおこなった―憲法施行から78年目、アジア太平洋戦争の敗戦から80年目のいま、憲法を守る運動憲法を生かす運動その両面で多くの課題があり今の戦いの大切さが語られた。2015年に戦争法・安保法制が強行されてからの10年、他国を攻めるためのミサイルの購入といった軍事力だけではなくて市民を戦争に動員する仕組みや体制づくりが一気に進み、学問を戦争に動員をする日本学術会議法人化法案が国会で審議をされています。紛争解決のための戦争はしないと規定した憲法9条が踏みにじられ続けています。アメリカの圧力も利用した自公政権の戦争準備の暴走を今止めなければ、そんな思いも強まっているのではないでしょうか。様々な課題とも結んで総がかり行動実行委員会が署名を呼びかけています。軍事費ばかり優先させる軍拡予算ではなく暮らし中心の予算をの声を可視化をする大軍拡反対の国会請願署名をさらに広げて、7月の参議院選挙や来る総選挙の大きな争点に押し上げていくことを心から呼びかけたいと思います。 集会では、憲法を生かすという点では戦後の様々な運動が憲法を生かし豊かにしてきた成果を確認をし、その闘いを引き継いでいることが指摘をされたと思います。この国の未来を決めるのは一部の政治家ではありません。戦争のない平和な社会、一人ひとりの人格が尊重され格差と貧困の是正を目指す社会を次の世代に引き継いでいくために行動を繰り返して積み上げていきましょう。

 集会終了後、パレードに出発した。


柏崎刈羽原発再稼働に関する県民投票条例請求県議会臨時会決定を受けて

 4月16日から18日の3日間、新潟県議会では、柏崎刈羽原発再稼働について県民投票を実施するにあたっての条例制定のための臨時会が開かれた。条例制定にむけて昨年10月から開始された有権者署名の収集期間は2か月、大雪の時期にもかかわらず、2月1日までに15万筆を越えた。3月の審査・縦覧・異議申立・再審査を経て、有効署名者数は14万3196筆となり、条例制定に必要な有権者の50分の1である3万6千の約4倍の署名数となった。約12名につき1名の有権者が署名を行った勘定になる。

 この署名に取り組んだ「県民投票で決める会」(以下、「決める会」)の目的は、「再稼働に関する知事の判断において、県民の意思を公正かつ民主的な手段によって的確に反映させること」(条例第1条)を、県知事に求めたものであった。これに対し、花角県知事は、4月8日、「約14万3千人の県民の署名により請求されたところであり、その意義を大変重く受け止める」が、「柏崎刈羽原発の必要性・規制委の審査や県技術委の確認された安全性,避難計画の実効性・東京電力に対する信頼性といった課題が多岐に議論」され、「地域経済への影響や国全体の経済・産業の発展及び地球温暖化ほか複雑な問題」があり、条例案では、「県民は、○か×かの二者択一で自らの意思を表明し、知事は投票の結果を尊重し、真摯に協議し、県民の意思が忠実に反映されるよう努めなければならない」とされていること、また、県民からは「条件付き賛否」や「県議会で議論し結論を出すべき」といった意見もあるところから、知事は、このような県民の多様な意見を、二者択一の選択肢では把握できず、したがって本条例案には賛同できない、とした。
 「決める会」の中には、2012年において、同様な審議経験を持つ人もあり、この時のような過ちは繰り返さない、との思いで県議会各会派に対し「十分な論議―熟議」「個別議員の意見重視―党議拘束外し」を要請し、折衝・論議を経て県議会臨時会に臨んだ。
 県議会議員の過半を占める自民党会派(53名中32名)は、参考人を知事側意見に与する1名にしぼった上に、原発推進派意見を代表意見とし、常任委員会において表明される東京電力への不信感や原発事故における避難(特に冬期)における国と県の対応、事故における広大な地域の放射能汚染などに対する不安を押し隠し、立地域と150キロ離れた住民との原発被害格差を主張するなど、「決める会」意見を一切受け入れない態度であった。 また、「真政にいがた」(国政では国民系)や公明党などの2~3名会派もこれにまったく同調した。「未来にいがた」(9名・立民系)と「リベラルにいがた」(6名・独立系)は、ふるさとの放射線汚染状況や東電への不信、柏崎刈羽原発の危険な現況などを訴えて、投票条例に原則賛成(一部修正)を表明した。  しかし、県議会臨時会では、参考人に対する質疑や論議も行われず、最大会派がその要旨を取り上げた形で、結局、議論の多くは、知事との「二択問題」の質疑の繰り返しに費やされてしまった。なぜこの署名が提出されたのか、県民の条例請求署名が、なぜ14万3千余の署名数を集めるだけの県民の多くの表明があったのか、そして条例案自身の論議はされずじまいで、「決める会」主張の中心が脱落したままの論議に終わってしまった。

 知事と最大会派の一部が仕組んだ県議会の強圧的後退劇は、自民党会派の本質を改めて明確にした。と同時に、花角知事の、穏健に見えながら実際に当っての危険性を露わにした。
 花角県知事は、知事選出馬に際して、前知事の再稼働対策であった「3つの検証」政策の継承を訴えると共に地方紙に「脱原発」全面広告を3日連続掲載し、接戦ながら当選した。しかし、2003年の任期初期には、継承すると公約した「3つの検証」体制を葬った。そして、2期目の今回、県民の14万もの多くの不安を背景にした県民投票条例制定の切なる声を聞く耳を持たないかのように葬った。彼は、もはや原発再稼働推進の危険な地方権力者に陥った。新潟には「聞き耳頭巾」の話がある。まさに現在、その道を走っている。


石川一雄さん追悼!

        再審・完全無罪を勝ちとるぞ!

 4月15日に東京の日本教育会館大ホールで、全国各地から1000人余が結集し、今年3月11日に86歳で逝去した石川一雄さんを追悼した(主催は、部落解放同盟中央本部と狭山事件の再審を求める市民集会実行委員会)。1963年に埼玉県狭山市で発生した女子高生誘拐・殺害事件で、被差別部落出身であった石川さんが犯人として逮捕・起訴され、一審で死刑の不当判決をうけた。部落差別に基づく冤罪であることは明らかだが、警察・検察、裁判所はそれを認めず、無罪・再審闘争が闘われてきた。石川一雄さんが死去したことを受け、妻の早智子さんが4月4日に、東京高裁に第4次再審請求を申し立てた。

 追悼集会で、西島藤彦部落解放同盟中央執行委員長は、絶対に無罪判決勝利の報告をできるように闘おうとあいさつ。安藤京一部落解放中央共闘会議議長、雨貝覚樹『同和問題』にとりくむ宗教教団連帯会議事務局長の発言。再審弁護団事務局長の竹下政幸弁護士は、多くの新証拠があり、全力で闘っていくと報告。立憲民主党の近藤昭一衆議院議員、国民民主党の西岡秀子・衆議院議員、社民党の福島瑞穂参議院議員が追悼の言葉。
 袴田巌さん実姉の袴田ひで子さんは、今度こそ再審開始が決定すると思っていたのに残念だ、再審開始にむけて頑張っていきましょうとアピールした。日弁連再審法改正実現本部本部長代行の鴨志田祐美弁護士、映画「SAYAMA みえない手錠をはずすまで」の監督・金聖雄さん、狭山事件の再審を求める市民の会事務局長の鎌田慧さんなどの発言が続いた。
 最後に、石川さんの妻・早智子さんが「私が小鳥(ウグイス)縦横無尽にとんで行く冤罪訴え支援のお願い」という石川さんが生前に詠んだ短歌を紹介しながらあいさつ―やっと光が見えた。その矢先に志半ばで逝った。鶯になって、空から見守ってほしい。

 部落解放同盟や支援団体は、再審開始と完全無罪判決を求める活動を継続し、運動を広げている。


今月のコラム

        継承されるパレスチナ民衆の闘い
            -映画「ノー・アザー・ランド ~故郷は他にない」を観る-


 生来やわな性格なのだろう、映画でも残虐なシーンを見るのがきつい。「スープとイデオロギー」だったか、アニメ化された関東大震災時の朝鮮人虐殺のシーンがあった。予期していなかったので、息をのんでスクリーンを見守るしかない。評価の高かった「福田村事件」は観ておかねばと思いつつ結局しり込みした。高校時代そんな私のセンチメンタリズムを嗤って恩師(学徒出陣でフィリピンに送られ、捕虜となって帰還した)が言ったことがあった、「そんな君が、傍らで捕虜の首が切られていても、『ちぇっ、(血の匂いが)臭えなー』と飯盒飯をかっ込むようになる、それが戦争だ」と。この映画も自分の背中を押すようにして映画館に向かった。

ヨルダン川西岸の現実

 1967年の第三次中東戦争でイスラエルがガザ地区とヨルダン川西岸地区を制圧して以来、この二つの地域はイスラエルの占領下にある。ガザからは2005年に撤退したが周囲を封鎖し事実上の占領状態にある。西岸はパレスチナ暫定自治政府が治安と民生の両方の権限を有している地域(A地域)、イスラエルが治安権限を持ちパレスチナ暫定政府が民生権を持っている地域(B地域)、イスラエルが治安権限も民政権も持っている地域(C地域)に色分けされる。C地域がざっと半分ほどを占め、A地域・B地域が残りを分け合っている感じだ。そしてユダヤ人入植地が点在している(パンフレット 高橋和夫文)。舞台となったマサーフェル・ヤッタ村はC地域にある。監督のバーセル・アドラーはこの村に生まれ住み、イスラエルの蛮行を世界に発信するべくスマホや手持ちカメラで10年以上に渡って撮影を続けてきた。

イスラエルの極悪非道
 突然軍用車とブルドーザーの車列が村を襲う。住民の目の前で家を壊し、学校を押しつぶし、水道管を破壊し貴重な井戸にコンクリートを流し込む。抗議する住民を暴力的に追い払い、時に兵士や入植者が発砲する。カメラは間近にこれを撮影するが、イスラエル兵に追われて画面は乱れ空や地面が揺れる。瓦礫を茫然と見つめる住民は、それでも洞窟で暮らし家の再建に取り掛かる。イスラエル軍の目的は住民を強制立ち退きさせること、そのために表向きは軍事訓練場(射撃区域)に使用するためとしている。ヨルダン川西岸が占領され始めて間もなく土地の20%が「射撃区域」とされパレスチナ人の立ち入りが禁止された。本音は「すべての射撃区域は、イスラエル人入植者のために確保された土地だ」というアリエル・シャロン元首相の言葉にある。生活基盤を根こそぎにされて他の土地に移住を余儀なくされる家もある。だが大多数の住民は、抗議行動を続けながら住み続ける、「故郷は他にない」から。バーセルは子どもの時から両親に連れられ抗議行動に参加した、イスラエル兵に家を襲撃されることを覚悟して靴を履いたまま寝たことを覚えている。しかし「もし闘わなければ、私たちは土地を追い出され、コミュニティを失うのだと。私たちの闘いの必然性が、どういうわけか恐怖を和らげてくれるものであったのです」(インタビュー)バーセルの発信の影響で破壊行為が一時的に止まったことはある。しかし、今も変わらぬ毎日が続いている。

もう一人の監督
 ユヴァル・アブラハームはユダヤ人だ。バーセルの活動に協力すべく村に通う。周囲のパレスチナ人の「いわゆるイスラエル人の人権派か?」という疑いのまなざしを受けつつ。ハマスによる2023年10月7日の大規模攻撃以来政府を批判する人々は〈裏切り者〉のレッテルを貼られ数々の脅迫や身体的暴力に直面してきた。「テルアビブ在住の僕の友人は、なぜイスラエルはこれほどに無慈悲になれるのかとメールで質問したとき、教育とメディアです、と回答してきた。この2つがここ十数年ですっかり変わってしまったとも。でもネタニヤフ政権に反対する人々も、(彼女も含めて)まだまだ多くいる」(パンフレット 森達也文)
2024年ベルリン国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞・観客賞授賞式でのスピーチ。バーセル「ガザで何万人もの人々がイスラエル軍により虐殺されているこの状況で、私はこれを祝うことができません」「皆さんにお願いです。国連の協定を守り、イスラエルへの武器提供をやめてください」。ユヴァル「私たちは同じ年齢で、私はイスラエル人、彼はパレスチナ人です。そして2日後に国に帰ったら、そこでの私たちは平等ではなくなります。私は民法の下で、バーセルは軍法の下で暮らしています」「私たちの間にあるこのアパルトヘイトの状況、この不平等は終わらせなければなりません」    (新)


せんりゅう

     府中9条碑こころ強い陽射し

          国連の玄関口に9条の碑を

     600兆留保金まるで神様     

          組合がイシバ呼び出すメーデー

     いつのまにブルジョア組合に御発展

          菅直人首ぶらさげる桐花章

     平和こそわれらの使命デモに立つ
 
                   ゝ  史

2025年5月


複眼単眼

        世論調査とその動向の危険性

 読売新聞は憲法を「改正する方がよい」とした人は60%(昨年調査63%)で、4年連続で6割台と なった。「改正しないほうがよい」は36%(昨年度は35%)だった。憲法9条を守る(「これまでどおり、解釈や運用で対応する」+「第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない」)は54%(昨年度は5%)、9条を変えるは41%(同44%)だった。
 朝日新聞では、いまの憲法を「変える必要がある」と答えた人は53%(昨年調査は53%)で、「変える必要はない」の35%(同39%)を上回った。9条改正について「変えるほうがよい」は35%で、「変えないほうがよい」の56%のほうが多かった。
 調査の設問は異なるが、毎日新聞調査では、「石破茂首相の在任中に憲法改正を行う」ことについて「賛成」との回答は21%で、「反対」の39%、「わからない」は39%だった。
 産経は憲法改正賛成が59・0%、反対が29・9%で、NHKは「改正する必要がある」が39%、「必要はない」が17%、「どちらともいえない」が39%だった。
 赤旗の中祖寅一政治部長が新聞の世論調査に関連して、「自衛隊明記は9条2項を空文化」というコラムを7日の同紙にかいているが注目に値する。
 「世論調査で9条改憲に『反対』が多数なのに、9条に『自衛隊を明記する』案に『賛成多数』という例が多くなっています。自民党(改憲)条文イメージ案は自衛隊明記の前提として『9条1、2項を維持する』としており、9条2項の『戦力不保持規定』が残るなら、自衛隊を書き込んでも現在と変わらないという『印象』を与えています。 しかし、9条2項が残っても、『自衛隊』が憲法に書き込まれると、自衛隊の位置づけはこれまでと全く変わってしまいます」と。

 中祖氏がいうことは、要するに9条は変えないほうがいいという世論が多数だから、9条改憲は無理だということにはならないということだ。自民党がいうように「9条はそのままにして、自衛隊を付記する」ことは、この世論の動向では支持されかねない。憲法に自衛隊規定が加わると、事実上、2項の規定は死んでしまい、戦力保持、フルスペックの集団的自衛権の行使が合憲化される。このちがいを「9条が大切だ」と考えている人びとに理解されるよう、どれだけ働きかけることができるか、ここが肝心だという指摘だ。中祖氏の指摘を改憲反対派はこころしておく必要がある。

 これとは別に、もうひとつ、憲法審査会の動向で心しておくべきことがある。
 確かに昨年の総選挙における与野党逆転で、会長が枝野幸男氏(立憲民主党)に変わり、衆院憲法審査会の動向に大きな変化が出た。初代憲法調査会会長の愛弟子と言われる自民党の船田一・筆頭幹事とのコンビによる運営は、従来の審査会と異なり、「熟議」が尊重されるようになった。
 しかし、もともと「改憲一般には反対しない」という信条の持ち主の枝野氏が、自民党の船田氏らが従来の安倍晋三的改憲ではないやり方で改憲(例えば緊急事態における議員任期延長改憲あるいは臨時国会召集期限明記改憲)を持ちだしてきた場合、議論さえ保障されれば同調するおそれがある。そして、それが9条改憲の突破口にされるおそれがあることだ。  (T)

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