人民新報 ・ 第1446号<統合539号(2025年6月15日)
目次
● 日本の急速な人口減は政治の責任
自民党政治STOP! 都議選・参院選勝利へ
● 止めよう!「戦争する国」の道
許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会の公開集会
● 沖縄・九州に広がる軍備強化の中止を
沖西ネットの対政府交渉
● 米日軍事一体化・現代版「統帥権の独立」
沖西ネット交流集会で吉田敏浩さんの講演
● 大川原化工機裁判・全面勝利が確定
警察・検察のでっち上げがあきらかに
● 島根県益田市
核のゴミは迷惑千万! 近隣自治体からも怒りの声
● 書 評 / 河野龍太郎「日本経済の死角―収奪的システムを解き明かす」(ちくま新書)
● せんりゅう
● 複眼単眼 / 韓国に冬が終わり春が来た
日本の急速な人口減は政治の責任
自民党政治STOP! 都議選・参院選勝利へ
急速に進む日本の人口減
厚生労働省が6月4日に発表した人口動態統計(概数)で、2024年の出生数が過去最少の68万6061人、9年連続の減少(前年比5・7%減)を記録し、すべての都道府県で減少した。
国立社会保障・人口問題研究所の2023年公表による将来予測では、日本人の出生数が60万人台になるのは2039年と推計していた。想定より15年ほども早く少子化が進行している。一方で死亡数は160万5298人で、4年連続の増加だった。同研究所は2070年には日本の人口は8、700万人に減少すると予測していたが、そのテンポははるかに加速している。
歴代自民党政権は、少子化対策を大々的に打ち出してきたが、まったく効果が無いばかりか、その政治の結果、こうした衝撃的な事態をもたらしていることが鮮明になってきた。
少子化の急速な進行は、現在の日本政治が人びとのためのものでないことの象徴的表現と言える。
生活を圧迫する大軍拡予算
少子高齢化・人口減は、社会保障制度の持続可能性、労働力不足、経済成長への影響、地域社会の維持などすでに危機的な状況をいっそう悪化させる。巨額の政府債務、社会保障費の増加と国の財政硬直化、財政規律の回復と持続可能な財政構造構築という繰り延べされてきた難問があり、くわえて対米一辺倒の外交と日米軍事同盟強化・防衛費の激増がある。これらが、人びとの生活を圧迫しているのだ。
とりわけ、「戦争する国」づくりへの負担が大きくなっている。米国の日米共同軍事戦略では、日本は「インド太平洋戦略の要」と位置づけされ、中国に対する地域的な軍事包囲・攻撃準備の最前線に位置づけられている。すでに財政・国民負担が厳しいところまできているのにもかかわらず、2027年までに防衛費GDP比2%という日本政府の軍拡予算をさらに増やし、米国製兵器を購入せよという要求がある。2023年度米国製兵器購入費は約1・6兆円(F35、PAC3、トマホークなど)、2024年度約2兆円超(トマホーク大量購入、JASSM、LRPASM)、2025年度約2・3兆円超(見込み)(イージス艦建造、スタンドオフ弾、弾薬整備)などである。これらの米国製兵器はほぼ全て対中国戦略のための装備として選定され、日本はこれら兵器により「攻撃型の装備体系」へと変質している。そして米国製兵器の購入額は年々増加している。
逆風の中の石破自民党
いま、石破内閣は、コメ価格高騰への対応の遅れ、トランプ米大統領との関税交渉の難航、消費税減税の拒否、防衛費増額くわえて石破自身の政治資金問題などがある。
これらの問題は、参院選を控えた政権運営に大きな影響を与えており、内閣支持率の低迷にもつながっている。6月に入ってからのNHK世論調査によると、石破内閣の支持率は39%、「支持しない」は42%であり、自民党の支持率は31・6%だった。不支持率は依然として高く、参院選を控え、今後の動向が注目される。東京都議選(6月22日投開票)はその前哨戦だが、自民党都連も不明朗な政治資金問題などで苦しい立場に置かれている。都民の物価・賃金など生活実感が悪化しているので、無党派層の動向が注目される
市民連合―野党共闘強化を
参議院選挙の投開票は7月20日に行われる。大きな意義をもつ政治的な対決の場である。
「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)は、立憲民主党、共産党、社民党など立憲野党に対して参議院選挙に向けた「『信じられる未来』へ――平和を守り、真に豊かな生活をとりもどす。」と題した政策要請書を手渡した。市民連合の野党共闘の呼びかけをはじめ、さまざまな手段を駆使しての影響力拡大・強力な世論の形成、そして立憲野党の柔軟性が発揮され、候補者調整をすすめることが必要だ。先に見たように石破内閣の支持率は低迷しているこの好機をいかさないという選択はない。
昨年10月の総選挙では、自公を少数に追い込むことができた。その後の国会情勢、与野党の対決、さまざまな運動に積極的な意義をもった。
参院選でも野党が連携・協力し、自公政権を少数に追い込み、早期に自公政権を打倒し、戦争と生活圧迫の政治をおわらせるために奮闘しよう。
止めよう!「戦争する国」の道
許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会の公開集会
5月31日、全水道会館大会議室で「第27回 許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会公開集会~『戦争する国』の道を止める」が開かれた。
はじめに、主催者基調挨拶を菱山南帆子さんがおこなった。
この集会は様々な地域で市民運動を日々頑張る仲間の皆さんが集まって、共に学び合いこれからどうやって闘いを進めていくか意見交換する場で、私も全国交流集会が始まらないと1年が始まった気にならないというような感じだ。いろいろな問題に自分ごととして関心を持って運動に勇気を持って参加してきている若い人たちと共に手をたずさえて運動やっていきたい。
参議院選挙に向けて市民連合は、「信じられる未来」というスローガンを立てた。この「信じられる未来」というのはアメリカのバーニー・サンダース上院議員の言葉をそのまま日本語に直訳した言葉で、大人の私たちがきちんと頑張って若い人たちに未来を手渡していくのだという決意を込めたスローガンだ
今日の集会を、学んで、そして学ぶだけではなくてこれを必ず運動に生かすための濃厚な一日にしていきたい。
講演①は、志葉玲さん(ジャーナリスト)の「ウクライナの取材から」
私が最近行った時つまり今年2月、私の友人のアパートをロシア側のドローンの無人攻撃が直撃した。たまたま私の友人はそこにいなかったので助かったわけで、そういうようなことがずっとつづいている。
いまウクライナの人たちにとって非常に不利な状況になっている。だがそれからの展望が出てこない。問題はトランプ大統領にそれを理解する頭がないということだ。トランプは、自分が大統領になったら一日でウクライナでの戦争を終わらせるみたいなことを言っていた。だけど収まりがつかなくなったらウクライナが「さっさと折れればいいじゃん、弱いやつは強いやつの言うことを聞けばいいんだ」みたいなスタンスになっている。
皆さんに日本国憲法を思い出してもらいたい。私のように実際の紛争をあちこちで取材してる人間から言わせてもらうと、新しい戦前ということで南西諸島の軍事要塞化など全て反対でここは皆さんと意見が全く同じなんだけど、一方で「これから戦争起こるかもね」でなくて、今まさに戦争は起こっていること、起こっている地域のことを忘れないで欲しいと思う。
講演②は猿田佐世さん(新外交イニシアティブ代表)の「日米同盟によるリスクとこれからの日本」
私どもの団体の政策提言書「トランプ政権とどう向き合うか―求められる日本政治の胆力―」で「今求められているのは、アジア版NATO、米国への自衛隊駐留といった小手先の技術論ではない。同盟は目的ではなく、国益達成の手段である。今後の日米安保体制の在り方を論じるのであれば、『平和国家日本』のアイデンティティを守るという原点に立った議論が必要である。」と提起した。
トランプ政権の登場で世界中に大激震がはしっている。ヨーロッパは自分たちで防衛をやっていかなきゃいけない」、となり、軍拡に多くの国が走っている。
日本にはどういう影響があったか。中国とアメリカの戦いの中で、アメリカはもう日本を守ってくれなくなるかもしれないという疑念がでてきて、そうした時に大きく分けてAとBの選択肢に日本の世論は分かれていると思う。
Aというのは日米同盟を今まで以上に強化しアメリカにしがみ付く戦略で、抱きついて守ってもらうためにはアメリカの言うことをいろいろと聞いていかなくてはいけないというもの。
Bはどういう選択肢かと言うと、アメリカが日本を守ってくれる保証はもちろん今までだってなかったが、どこまでだきついてもトランプに至っては本当にどうなるかは分からないというもの。そしてBにはB1とB2がある。
B1はもうアメリカが守ってくれない、でも中国・北朝鮮に対抗して日本が独自に防衛力を強烈に拡大して、アメリカ抜きでも日本が防衛できるようにしていく、そして核兵器も持たなければいけないかもしれないという防衛力強化派ということ。
一方で、B2は、防衛力ばかり増強しても結局軍拡競争になってしまう、外交努力を強力に行うべきだということだ。
わたしは東南アジアにはよく行っているが、行けば非常に元気になって帰って来ることが出来る。いま、その東南アジアなどグローバル・サウスの力が非常に大きくなってきている。その動きに注目しなければならない。先日シンガポールで開かれたアジア最大の安全保障会議であるシャングリア・ダイアローグでのマクロン仏大統領のつぎのような言葉は重要だ。「リスクは米中二つの国家の分断であり、米中が他国に対してこちら側を選べと指示してくることだ。いずれかの側を選べば世界の秩序を壊す。欧州とアジアが協力して自立のための連合・脅迫されないための連合を築くことを呼びかけたい。」
すごい言葉で、まったく私と同意見だ。イギリスはEUから抜けて存在感が落ちているので、ヨーロッパの国の中ではフランスが、核兵器保有国という意味での抑止力を持ち、他のヨーロッパの国にも核の傘を与えますということで一気に存在感を増している。そのフランス大統領の言葉の意味は重い。
これから、B1になるのかB2になるのかの分かれ目についての闘いを強めていかなければならないが、日米同盟というものが新しい局面に入ったんだということを認識することは、ものすごく重要なことだ。どの道を日本が行くのかという局面に今私たちは差しかかっている。
つづいて、「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク」からの報告(広島、大分)が行われた。
沖縄・九州に広がる軍備強化の中止を
沖西ネットの対政府交渉
日米軍事同盟の下で在日米軍・自衛隊の戦略的連携が強められ日本全国が「米中対立の最前線」すなわち米国の防波堤の日本という構図がつくられつつある。とりわけ沖縄・先島諸島を中心とする南西諸島に自衛隊を戦略的に大幅増強する「南西シフト」は、2010年策定の防衛大綱で南西諸島を「配備空白地域」と位置づけ、与那国・石垣・宮古・奄美に陸自の駐屯地を順次新設するものだ。そして九州は「中継基地」かつ「後方支援拠点」として、兵站・補給拠点、航空・海上部隊の迅速展開拠点、ミサイル部隊の配備基地、米軍との共同使用・訓練拠点として位置づけられている。
6月6日、「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」など35の市民団体でつくる「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク(沖西ネット)」(協力―沖縄等米軍基地問題議員懇談会、戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)は、衆議院第一議員会館多目的ホールで、沖縄・九州を中心に広がる自衛隊や米軍による軍備強化の中止を求めて政府交渉を行った(会場とオンラインで500人参加)。
対政府交渉の内容は、①地域の緊張激化を招く軍事拠点設置の中止、日中平和友好条約及び憲法との整合性に関すること、②安保三文書と防衛費増大に関すること、③新たな軍事拠点建設と住民への説明に関すること、④長射程ミサイル配備計画に関すること、⑤ミサイルの製造と保管に伴うリスクに関すること、⑥弾薬庫問題に関すること、⑦国民保護、避難(計画)に関すること、⑧「特定利用空港・港湾・道路」に関すること、など計56項目の「要請・質問」への回答を求めた。
質疑では、基地建設・拡大が進む中で住民への説明責任の在り方や、敵基地攻撃能力を持つ長射程ミサイルの配備計画についてただし、政府に軍事強化をやめるよう要請した。しかし、長射程ミサイルの配備場所については「適切な時期に決定する」とはぐらかすなど、各団体の代表らの質問に各省庁は正面から答えようとしなかった。
最後に、事務局から、今後も連携を深め、ひろく訴えてといこうとよびかけがあった。
いくつかの政府側回答
沖西ネットの2025年5月19日文書「質問・要請書【回答】」では、政府の見解・回答が記されている。そのうちいくつかは次の通り。
【1、地域の緊張激化を招く軍事拠点設置の中止、日中平和友好条約及び憲法との整合性に関すること】
[外務省]
【回答】
・日中間では、1972年の日中共同声明、1998年の日中共同宣言、2008年の日中共同声明といった基本文書と並んで、1978年の日中平和友好条約に記された精神と方針の下で日中関係を発展させてきており、我が国としてはこうした立場に何ら変更はない。
・中国との間には様々な可能性とともに、安全保障に関するものを含め、数多くの課題や懸案があるが、両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する。
・価値を共有する同盟国・同志国との連携を前提としつつ、中国との間では、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに「建設的かつ安定的な関係」の構築を双方の努力で進めていくというのが日本政府の一貫した方針。
・中国との間では、この大きな方向性の下、あらゆるレベルで幅広い分野において意思疎通をより一層強化し、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために共に努力していく考え。
《1-質問(2)》「敵基地攻撃能力」を持つ戦力と憲法との整合性について[内閣法制局、防衛省]
【回答】
・憲法第9条第2項で保有が禁止されている「戦力」とは、自衛のための必要最小限度を超えるものと解しています。
・反撃能力については、1956年に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」としたものの、これまで政策判断として保有することとしてこなかった能力に当たるものです。
・その上で、近年、我が国周辺ではミサイル関連技術と運用能力が飛躍的に向上し、質・量ともにミサイル戦力が著しく増強される中で、既存のミサイル防衛網だけで完全に対応することは難しくなりつつあるという現実を踏まえ、反撃能力を保有することとしたものであり、自衛のための必要最小限度の範囲を超えるものではありません。
【2、安保三文書と防衛費増大に関すること】[内閣官房、防衛省]
【回答】
・戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中で、国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、国家安全保障戦略等に基づき、我が国の防衛力の抜本的強化が必要と考えています。このため、現時点において現行の国家安全保障戦略等を見直す考えはありません。
・防衛力整備計画の実施に必要な防衛力整備の水準に係る43兆円程度という金額 は、防衛力の抜本的強化を実現し、防衛省・自衛隊がその役割を十全に果たすことができる水準として閣議決定した金額です。
・防衛力整備計画に記載のとおり、2023年度から2027年度までの本計画を賄う財源の確保については、歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金の創設、税制措置等、歳出・歳入両面において所要の措置を講ずることとしています。
(中略)
【4、長射程ミサイル配備計画に関すること】
《4-質問(1)》長射程ミサイルの配備計画と地元自治体・住民への影響について[防衛省、内閣官房]
【回答】
1 先島諸島からの住民避難は、特定の有事を想定したものではありませんが、万が一の事態に備え、平素から、関係機関が連携して様々な訓練・検討を行っておくことは重要であり、先島5市町村からの離島避難の検討においては、訓練上の想定として、九州・山口各県を避難先として設定しているものです。
2 この理由は、
・ 国民保護基本指針において、「沖縄県の住民の避難について、国は九州各県をはじめとする地方公共団体との広域な連携体制を整える。」とされていること
・ 九州、山口、沖縄9県において「武力攻撃災害時等相互応援協定」が締結されており、県域を越える住民の避難・受入れを検討する素地があることであります。
(後略)
米日軍事一体化・現代版「統帥権の独立」
沖西ネット交流集会で吉田敏浩さんの講演
6月7日、日本教育会館で「戦争止めよう!沖縄・西日本ネットワーク東京交流集会」が開かれた。会場は超満員となり、リモートを含めて550人が参加し、この問題への関心の高さを示すものとなった。
集会では、吉田敏浩さん(ジャーナリスト)の講演、前日の対政府交渉の報告、沖縄、鹿児島、佐賀、熊本、大分、広島・呉、京都、首都圏からは朝霞、入間、横浜、横須賀からの報告が行われた。
吉田敏浩さん(ジャーナリスト)が「戦争の加害者にも被害者にもならないために 大軍拡・米日軍事一体化・戦争準備に反対を」と題して講演した。
米日軍事一体化の狙い
米日軍事一体化・統合を進める狙いは、自衛隊が事実上米軍の指揮下に入る「シームレスな(切れ目のない)統合」を目指して、両国の「指揮統制」連携を強化させることだ。「安保3文書」の「国家安全保障戦略」は「日米間の運用の調整、相互運用性の向上、サイバー・宇宙分野等での協力深化、先端技術を取り込む装備・技術面での協力の推進、高度かつ実践的な共同訓練、共同の情報収集・警戒監視・偵察・施設(基地)共同使用の増加」など全面的な強化を掲げた。また「国家防衛戦略」は、「わが国の反撃力については、情報収集も含め、日米共同でその能力をより効果的に発揮する協力態勢を構築する」、「日米両国は戦略を整合させ、共に目標を優先付けること」により「共同の能力を強化する」とあり、米軍と自衛隊のより緊密な一体性をめざすとしている。自衛隊は米軍が進める統合防空ミサイル防衛を導入し、ミサイル迎撃と敵基地などへのミサイル攻撃を一体的に運用し、敵からのミサイル攻撃を未然に防ぐための先制攻撃も含むものとなっている。政府は、米軍の「統合防空ミサイル防衛」と自衛隊の「統合防空ミサイル防衛」は別物だと説明している。しかし、自衛隊のミサイルによる敵基地攻撃は、情報収集・警戒監視の段階から計画の立案、攻撃目標の割り当て、指揮・統制・火力発揮(攻撃)・攻撃の成果の評価にいたるまで、「日米共同対処」でおこなうことが、防衛省の「反撃能力について」という部内文書には明記されている。集団的自衛権の行使においては事実上、米軍の指揮下で自衛隊も長射程ミサイルでの敵基地・敵国への先制攻撃までおこなうことになりかねない。アメリカの戦争の片棒をかつぐことになる。その戦争に日本を巻き込んでしまうのである。
2025年3月、陸海空自衛隊の部隊運用を一元的に指揮する統合作戦司令部も新設された。これは元々「米軍との一体性を強化」し、「意思疎通と戦略の擦り合わせ」をするのが目的だ。政府は、「自衛隊と米軍はそれぞれ独立した指揮系統に従って行動する」との見解を示す。だが、軍事衛星、無人機、電波傍受などによる、情報収集・偵察・監視の各能力で格段に優り、実戦経験も豊富な米軍が、「日米共同対処」・共同作戦で主導権を握り、自衛隊を事実上の指揮下に置くことになるのは間違いない。米軍は日米「指揮統制」連携の強化に向けて、在日米軍基地の管理の権限だけ持つ在日米軍司令官(東京の横田基地に司令部)に、在日米軍部隊の指揮統制・作戦計画などの権限も持たせるようにし、それをインド太平洋軍司令官(ハワイに司令部)の下で機能する統合軍司令部として在日米軍司令部を再編成する。統合軍司令部は自衛隊の統合作戦司令部と緊密に連携するとされ、そのための専門部署を都心の赤坂プレスセンター(麻布米軍へリ基地)に新設する方針だ。以前から司令部レベルでの米日軍事一体化は進んできた。横田基地には自衛隊の航空総隊司令部もあり、その地階には、日米の共同統合運用調整所が置かれ、自衛隊と米軍のスタッフが防空システムと弾道ミサイル防衛システムについて情報を共有し、作戦の調整にあたる。米第5空軍・在日米軍司令部棟とは地下連絡通路でつながっているのだ。 陸上自衛隊も各地の師団・旅団の部隊を一元的に運用する陸上総隊を創設し、その司令部は陸自朝霞駐屯地(東京都練馬区)にある。同司令部のもとで、在日米陸軍との緊密な連絡調整を担う日米共同部も発足した。その配置先は米陸軍キャンプ座間(神奈川県)基地内の陸自座間駐屯地である。 海上自衛隊も、横須賀基地の自衛艦隊司令部米海軍横須賀基地の在日米海軍司令部・米第7艦隊司令部と緊密に連携し、司令部機能の一体化が進んでいる。巡航ミサイル「トマホーク」が搭載される自衛隊イージス艦には、米軍のイージス艦や早期警戒機とレーダーを共有して攻撃もできる共同交戦能力を備えるものもすでにあり、集団的自衛権の行使に結びつく武力行使の一体化のシステムが整う。自衛隊はトマホーク発射の訓練も米軍から受けている。自衛隊と米軍の共同作戦の能力の維持、向上のための共同指揮所演習(図上演習)「ヤマサクラ」も実施されている。
米国・米軍の統帥権下へ
日米による司令部機能の一体化および共同作戦に向けた共同指揮所演習の積み重ねのうえで、より強化される日米「指揮統制」連携は、米軍主導で円滑に進むとみられる。しかし、日米「指揮統制」連携の強化は、自衛隊の指揮権という主権の一部をアメリ力に差し出すに等しい。米軍の対中国はじめ世界的な軍事戦略に自衛隊が組み込まれ、軍事作戦のいわば駒扱いされてしまう危険な道だ。アメリカ追随が習い性となった日本政府が、有事に際し「主権国家」たる「主体的判断」ができるとは思えない。他国の軍隊の指揮下に自衛隊が組み込まれることは、明らかに日本の主権が侵害されることを意味し、国民主権を原理とする憲法にも違反する。
戦前・戦中、日本軍の最高指揮権=統帥権は、大日本帝国憲法にもとづき天皇が持っていたが、天皇を補佐する陸軍参謀本部と海軍軍令部が、天皇の名のもとに統帥権を行使していたのが実態で、「統帥権の独立」と称され、内閣も議会も口出しできない軍部の「聖域」をつくりだし、日本を戦争に駆り立て、最終的に破局、敗戦へと導いた。戦後は、日本国憲法のもと、自衛隊の存在について違憲・合憲の論争はあるが、自衛隊法が制定され、内閣総理大臣が内閣を代表して、自衛隊の最高の指揮監督権すなわち統帥権を持つ。文民統制(シビリアン・コントロール)が制度化され、戦前式の軍部による「統帥権の独立」は否定された。しかし、自衛隊が事実上米軍の指揮下に置かれる「シームレスな統合」により、統帥権が事実上アメリカに握られて、別種の「統帥権の独立」状態におちいって、米軍主導の米日軍事一体化の「聖域」がつくりだされるのではないか。自衛隊は事実上憲法の枠外に出て、実質的に文民統制も効かなくなるのではないかという危惧がある。これは外国軍隊による主権の侵害であり、独立国としてあってはならない従属状態だ。これでは仮に台湾有事が起きた場合、日本は主権国家として独自の判断ができず、結局はアメリカの戦争に引き込まれてしまう。いわば捨て駒として多大な戦禍をこうむってしまうことになる。かつて軍部の「統帥権の独立」により戦争・破局へと引きずられていった、あの昭和史の二の舞を別種のかたちで踏みかねないのである。米軍への自衛隊の従属的一体化が、米日軍事一体化の本質である。
民間人にも大きな犠牲
「国家安全保障戦略」は攻撃対象を広く曖味に表現しており、相手の反撃を呼び、全面戦争にいたるおそれが高い。政府は「敵基地攻撃で相手国の民間人に死傷者が出ることまで想定」したうえで、長射程ミサイル配備を中心とする大軍拡・戦争準備を進めている。自衛隊は米軍と同じように民間人の犠牲を「付随的損害」として当然視し、計算に入れて、軍事作戦を遂行しようと考えている。まさに他国の人びとに流血と死を強いることを前提とした恐るべき発想で、戦争の加害者となる過ちを繰り返してしまうものだ。政府・自民党は、「相手側に明確に攻撃の意図があって、既に着手している状況」なら、相手のミサイル発射前でも攻撃可能との見解を表明している。
安保法制によって、アメリカの戦争に日本が巻き込まれるリスクは格段に高まった。浜田靖一防衛相(当時)は2023年2月6日の衆議院予算委員会で、集団的自衛権行使として敵基地攻撃をおこなった場合、「事態の推移によっては他国からの武力攻撃が発生し、被害を及ぼす可能性がある」ことを認めた。まさに日本がアメリカの戦争に加担した結果、戦禍が日本に及ぶことも前提にした戦略を立てている。
そもそも「安保3文書」の「国家防衛戦略」には、「万が一、抑止が破れ、我が国へ の侵攻」が起きた場合も想定して対処するとある。政府は抑止力向上を唱えて軍拡を正当化するが、抑止力が万能でないことは明らかで、それを前提に戦略を立てている。戦時に国民・市民が被害を受けても、自衛隊組織が生き残ることを優先している。2025年度予算では基地の「強靭化」に3568億円を計上(主要司令部の地下化、戦闘機の分級パッド=掩体壕などに874億円、建物の構造強化など既存施設の更新に2694億円)としている。この「強靱化」計画は日本全士の戦場化と長期化を想定し、核戦争にまでも備えて、住民の被害をよそに自衛隊組織だけは生き残ろうとするものだ。市民の膨大な犠牲をあらかじめ計算に入れた戦争準備であり、一種の棄民政策で、住民は見捨てられることになっている。
再びの戦禍をゆるすな
憲法前文にあるように、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにする」ために、主権在民、人格権、集会、結社・表現の自由、学間の自由、地方自治など諸権利・人権が憲法で保障されている。主権者として軍事優先の大軍拡、戦争準備、軍事一辺倒の「安全保障」政策に反対しなければ、「再び戦争の惨禍」を招いてしまう。
各地での弾薬庫・基地建設、ミサイル部隊配備、空港・港湾の軍事利用、自衛隊や米軍の基地強化、武器輸出などに反対する運動は、いわば「炭鉱のカナリア」的な意義も持つ。「炭鉱のカナリア」とは危険の予兆を告げ知らせる役割を果たす存在を意味する。軍事優先の戦争体制づくりがもたらす人権侵害、戦争になれば民間人も巻き込み犠牲を強いる。
棄民政策の恐ろしさ、アメリカの対中国軍事戦略のために日本が捨て石のように利用されて戦場化するリスク、利益のために戦争を欲する日本版軍産学複合体が形成される危険性などを予見し、社会に知らせる、警鐘を鳴らす重要な役割を果たしていて、主権者として声を上げることの大切さを身をもって示している。
大川原化工機裁判・全面勝利が確定
警察・検察のでっち上げがあきらかに
生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥機を経済産業省の許可を得ずに輸出したとして、2020年3月11日に警視庁公安部外事一課が神奈川県横浜市の大川原化工機株式会社の代表取締役ら3人を外為法違反容疑で逮捕した事件は、自民党が声高に叫ぶ経済安全保障事案としてひろくマスコミに取り上げられた。逮捕された一人は長期拘留のために治療を受けられずに死亡するという痛ましい事態も起こった。
しかし、初公判直前の2021年7月、突然に東京地検は「輸出規制対象に当たるか疑義が生じた」として起訴を取り消した。
だが、えん罪捜査を許さないとして会社側の訴えによる国家賠償請求訴訟裁判では、現職警察官が「事件は捏造」と証言したり、捜査が強行された理由を「決定権を持つ人の欲だと思う」と述べるなど公安部の暗部が暴露されることになった。2023年12月27日、東京地方裁判所民事第34部(桃崎剛裁判長)は、警視庁公安部の警察官による逮捕および取調べ、ならびに検察官による勾留請求および公訴提起が違法であると被告国と東京都に対して約1億6200万円の支払いを命じる判決をだした。 そして2025年5月28日、東京高等裁判所(太田晃詳裁判長)は、警視庁公安部と東京地検の捜査を「違法」と認定、東京都と国に対し約1億6600万円の賠償を命じた。この金額は一審判決から約400万円増額したものだ。
判決では、「犯罪の嫌疑に係る判断に基本的な問題があった」とし、警視庁公安部の逮捕と東京地検の起訴について「合理的な根拠が客観的に欠如していることが明らかだ」と捜査の合理性欠如を指摘、また「捜査は長期間に及び、捜査方針を再考する機会は十分にあった」にもかかわらず、当初の見立てに固執し続けた捜査方針の硬直性を批判、また取り調べについて「社会通念上、相当と認められる方法や態様を明らかに逸脱しており、違法の評価を免れない」「あえて解釈を誤解させ、認める供述調書に署名するよう仕向けた」行為を「偽計を用いた取り調べ」と取り調べの違法性を批判した。
東京高裁判決を受けて日本弁護士連合会の5月30日付声明は、「捜査機関の違法性を明確に断罪した画期的な判断」と判決の意義を高く評価し、とくに「公安部の独善的な捜査手法」と「偽計を用いた取り調べ」を厳しく批判した点を重要視して「本件は単なる個別事件の問題ではなく、我が国の刑事手続きの構造的欠陥を露呈した」とした。
検察・警察側は上告期限の6月11日、上告を断念し謝罪することになった。
この東京高裁判決は、捜査機関の権限濫用や独善的な捜査手法に歯止めをかける重要な判例として画期的な意義を持つものとなったといえる。
島根県益田市
核のゴミは迷惑千万! 近隣自治体からも怒りの声
5月16日の地元紙「山陰中央新報」一面に、島根県益田市で核のゴミの最終処分場建設の第一段階となる「文献調査」の受け入れを6月市議会に請願する動きがあるという記事が載った。
記事によると地元経済界の有志が6年前にNUMOの協力の下でエネルギー研究会を立ち上げて、この間、述べ150人ほどの関係者を幌延町や六ケ所村の核ゴミ関連施設へ視察させるなどをして検討を重ねてきた。そして機が熟したとして商工会議所の採決を経て提出の準備を整えたという。
研究会の言い分は「(文献調査で)地元に言い伝えがある約千年前の大津波がなかったと証明できれば、データ基地などを誘致するアピール材料に出来る。仮にあったとしたら防災対策に生かせる。」と言うものであった。
同じ日、取材に応じた丸山達也島根県知事は「調査に応じた自治体に国が支払う最大20億円の交付金を超える風評被害が出る。県も企業誘致はしているが津波の心配をされたことは一度もない。」と反対する姿勢を明らかにした。
一方、山本浩章益田市長も隣接する島根県浜田市、津和野町、吉賀町、山口県萩市に考えを聞き取りした。結果、いずれも「風評被害を懸念する」と反対の意向を伝えた。
翌18日には小雨の中を市民が請願提出に反対する抗議の街頭スタンディングをおこなった。
県西部に位置する益田市を流れる高津川は水質日本一の評価を8度も受ける清流で渓流釣りなどの観光資源の拠点となっている。その恩恵を受けた農林業や漁業の一次産業の売上額は100億円規模にのぼる。生産者からも風評被害への懸念と不安の声が上がった。
こうした事態を危惧した山本市長は19日に請願そのものを断念するように代表者に勧告した。このような経緯の中、代表者は「市を二分する状況は望んでいない。今後はNUMOと連携した動きは一切しない。」と完全に断念することを21日に表明した。
NUMOが作成した請願書案には「最終処分場事業は次世代に残す選択肢として非常に意義のある事業で文献調査の受け入れ自体にデメリットはない」と書かれていた。
この結果を受けて、丸山知事は「私や首長が反対したから断念したということであれば、賛成する人に挿げ替えれば良いだけだ、という話になる。そんなことは許されることではない。」と関係機関に苦言を呈して、今後も注視していく考えを示した。その上で、「原発のリスクを受け入れて、さらに核のゴミの面倒まで見させるのか!」と憤った。
奇しくも島根原発2号機は今年1月10日に営業運転を再開し再稼働問題の区切りとなっていた。この機を狙った姑息な策動には心底怒りを覚える。
残念ながらスケジュールありきで進んだ再稼働を止めることは出来なかった。
核のゴミを生み出す原発の受け入れ拒否という課題は未だ道半ばにある。
書 評
河野龍太郎「日本経済の死角―収奪的システムを解き明かす」(ちくま新書)
矢吹 徹
本書は、本年2月10日に出版された。生産性と実質賃金の誤解、労働法制やコーポレートガバナンス、イノベーションなど7つの死角から日本経済の長期停滞を分析した説得力ある著作である。河野氏のプロフィールは末尾を参照されたい。
まず、前書きで河野氏は、「皆が気付かないうちに、日本も収奪社会に向かっているから、長期停滞から抜け出せないのではないかと、筆者は懸念するようになりました。生産性が上がっても実質賃金を全く上げないのは収奪的です。何より、固定費である人件費を変動費にするために非正規雇用制が一般的になっているのは、収奪という誹りを逃れることはできません。」と執筆動機が書かれている。
第1章は、本書の総論部分になるが、日本の実質賃金が低迷しているのは生産性の問題ではないことが国際比較から明らかにされている。日本は、1998年から2023年の25年間で時間当たりの生産性は30%向上している。しかし、実質賃金は横ばいで近年の円安とインフレの影響で3%ほど下落している。一方、同期のアメリカは生産性が50%向上し実質賃金は30%、ドイツは生産性が25%向上し、実質賃金は15%、フランスは生産性が20%向上し、実質賃金は20%上昇していることが図表と共に詳しく解説されている。
「儲かっても溜め込み、実質賃金の引き上げにも人的投資にも消極的な大企業」が日本経済の長期停滞の元凶になっていることが考察されている。(2023年は600兆円の利益剰余金)
第2章では、近代に入って四半世紀実質賃金が全く上がらなかった国は、日本しかなく前例がないこと。しかし、大企業経営者はそれを認めず、人口減があるから消費が増えないという大企業の「反論」を河野氏は厳しく批判している。雇用労働者の60%の労働者は長期雇用制の枠内にあるので賃金カーブに沿って定期昇給でそれなりの賃金改善はあるものの枠外の非正規雇用労働者にはそうした恩恵はないことも記されている。
第3章では、好調な海外の直接投資について、実質賃金があがらないから国内投資は抑えられていていること。その恩恵は国内には広がらないこと。海外投資の収益率は高くないことが述べられている。
第4章では、雇用と物価をめぐる日銀の2つの誤算について述べられている。2013年日銀の異次元の金融緩和は、団塊の世代の退職で人手不足が始まり、賃金が上昇するとの予測がなされたが、実際は女性と高齢者の労働参加率が高まり見込み違いがあったこと。第2の誤算は、当初短期に終息すると説明していた円安インフレが続いている事が指摘されている。
第5章では、1990年代からの日本の潜在成長率が大きく下方屈折した際、週40時間労働制への移行という働き方改革が大きく影響しているにもかかわらず政策当局者が問題を見過ごしていたことが指摘されている。
日本は、2000年代半ばには不良債権問題が終結し、過剰雇用や過剰設備、過剰債務問題は解決したにもかかわらず、サプライサイドの改革が必要と唱え続けられた。
企業経営においては、長期雇用制は維持される一方で「構造改革」が雇用と財務のリストラと受け止められ、実質ベアゼロで賃金を抑制すると同時に人件費を変動費に転換させるための「ダークサイド・イノベーション」である非正規雇用への依存を強めていった、と分析されている。
第6章では、日本の長期雇用の行方とコーポレートガバナンス(企業統治)が論じられている。河野氏は、企業の短期的利益を追求する株主中心の企業統治よりも企業が長期的に人材を育成しできる長期雇用制の有効性を論じている。
第7章では、イノベーションについて論じられている。日本では、「イノベーションで成長を高める」というのが常套句だが、実際にはイノベーションには収奪的なものと包摂的なものの2つのタイプがあり、前者は恩恵が一部の人に偏り、多くの人々を苦しめる。イノベーションは、本来収奪的であって、それを社会が飼いならす必要があることが論じられている。河野氏は、イノベーションを考える際、「アイデアが生み出す付加価値の帰属も見直すべきだ」と指摘する。あらゆるアイデアは、過去のアイデアの蓄積から生み出されたものであって「独自のアイデアであってもそれが生み出す付加価値を独占することは許されない。」
と記されている。また、「所有」についても人新生の時代においては必ずしも所有物を自由に処分する権利は含まれてはいない場合があるとも主張されている。次世代に受け継ぐために、保全するという「受託」という概念が「所有」には含まれていると主張されている。資本主義から社会主義社会に移行する過程でイノベーションや私的所有について私たちが共有すべき視点ではないだろうか。
駆け足で紹介したが他にもアベノミクスへの批判的視点、地方公務員の正規職への転換の必要性など本書から学ぶべき点は多岐にわたる。労働組合運動活動家にもぜひ手に取ってお読みいただきたい一冊である。
プロフィール
著者、河野龍太郎氏。河野氏は、1964年生まれ。87年、住友銀行(現三井住友銀行)入行。89年より大和投資顧問(現三井住友DSアセットマネジメント)へ移籍。97年、第一生命経済研究所へ移籍し、上席主任研究員。2000年11月よりBNPパリバ証券・チーフエコノミスト。著書は、「成長の臨界」「グローバルインフレーションの深層」「金融緩和の罠」などがある。
せんりゅう
軍閥ならぬ米閥政治でした
金次第自民トランプ腕自慢
裏金というが自民の表金
汚染土もアベ派も処分できぬまま
森友記録廃棄アベ自民の象徴
自民老兵の弊害に鬱塞
自民老害党を切りギリス
ゝ 史
2025年6月
複眼単眼
韓国に冬が終わり春が来た
2025年6月4日投票になった韓国の大統領選挙は第21代大韓民国大統領に、「共に民主党」の李在明(イ・ジョンミン)候補を当選させた。投票率は79・4%、李新大統領の得票率49・2%という圧倒的支持の下での当選だった。李新大統領の与党「共に民主党」は韓国の国会(定数300)で170議席前後を占める強力な基盤を有する政党だ。この大統領と与党の政治体制は1987年の韓国民主化以来、最も強力な体制となった。
今回の大統領選挙によって昨年末の尹ソンニョル前大統領が引き起こした内乱騒動から半年あまり続いてきた韓国の政治危機が克服され、韓国は民主主義の強固な基盤の上に再出発することになった。内乱騒動以来、民主主義と自由を求める韓国の民衆は大統領官邸前で、あるいは韓国国会前で、そして全国各地で旗とライトを掲げ、昼と夜とを問わず、冬の降雪をものともせず、くりかえし、繰り返し、巨万のデモと集会を行い、情勢を勝利に向かって領導した。そして季節は冬が終わり、春が来た。
デモの中で韓国の民衆は韓国憲法を誇らかに唱和した。
第1条①大韓民国は民主共和国である
第2条②大韓民国の主権は国民にあり、全ての権力は国民から生ずる
この憲法の精神を掲げ、韓国民衆は主権者として行動し、政治を変えた。
韓国の1700団体以上の市民団体でつくる「尹錫悦即刻退陣・社会大改革非常行動」は4月4日、「声明」を出し、民衆にちからづよくアピールした。
【声明】尹錫悦罷免、民主主義の勝利だ 内乱を終えて社会大改革に進もう
内乱首魁尹錫悦が罷免された。(中略)
内乱首魁「尹錫悦」の罷免は、主権者市民の勝利であり、数多くの市民の犠牲と民主抗争で築いてきた憲法と民主主義の力を再確認したものだ。(中略)
主権者の市民たちは軍と警察を動員した国会封鎖を素手で阻止した。 汝矣島に200万市民が集まり国会の弾劾訴追案議決を引き出し、ナム・テリョンと漢南洞闘争を通じて尹錫悦を逮捕した。尹錫悦が脱獄すると数千万の市民が光化門に集まり、結局尹錫悦を罷免させた。
尹錫悦の罷免は終わりではなく始まりだ。(中略)。
主権者市民が広場で叫んだのは「尹錫悦罷免」だけではない。 尹錫悦政権が退行させた改革の価値を復元し、人権と民主主義、平和と平等、生命と生態、世話と労働が尊重される持続可能な社会のために社会大改革を完成しなければならない。」
イ・ジェミョン新大統領は6月4日、以下のように語った。
「(不法戒厳令の後)6ヵ月が過ぎて彼らを罷免し、この国の主人がまさに私たち自身だということを投票で証明してくれてありがたい。皆さんが昨年12月3日の内乱の夜からこの瞬間まで、切に願ったことの一つは、この国が平凡な市民の国であるという事実。大統領が行使するすべての権力は国民から来たものであり、その権力は大統領の私的利益のためではなく、国民の暮らしとこの国の明るい未来だけに完全に使われなければならないという事実を証明(することだった)」
「皆さんが私に任せた最初の使命は内乱を確実に克服し、二度と国民が任せた武器で国民を脅かす軍事クーデターがないようにすること」とし「この国の民主主義を回復し、民主共和政共同体の下で国民が主権者として尊重され、共に生きていく世の中を作ること、必ずその使命に従って守る」「平和で共存する安定した韓半島を作る」として「戦う必要がないように平和を作ることが真の安保という確信を持って南北間対話をし、疎通し共存しながら共存、共同繁栄の道を探していく」と明らかにした。
彼は「朝鮮半島情勢を速かに安定化し"コリアリスク"を最小化し、朝鮮半島の安保問題により国民生活がさらに悪くならないようにする」。
声明と李新大統領談話がいうように韓国の社会大改革がはじまった。この結果、米国の中国・朝鮮包囲網の強化による東北アジアの軍事的緊張が高まる下ですすめられてきた米日韓の軍事的連携の一角が崩れる、平和を実現する運動が前進する可能性が生じたのだ。平和を願う日本の市民もこれを我がこととして歓迎したい。 (T)
新報 2025年 6月号 .pdf へのリンク |