人民新報 ・ 第1450号<統合543号(2025年10月15日)
目次
● 極右化した高市・麻生自民党
公明党の連立離脱で船出早々に難破の危機
● 10・7国会ピースサイクル
防衛省・東電・農水省・内閣府に要請
● イスラエルのジェノサイド戦争反対
ネタニヤフは大イスラエル政策を捨てよ
● 日朝ピョンヤン宣言から23年
―国交正常化の進展をもとめて
● シンポジウム「違憲訴訟の最前線から軍事化に歯止めを!」
軍事最前線にされた沖縄
● KODAMA / 人口減少問題を考える
● 今月のコラム
「今だけ 金だけ 自分だけ」 vs. 「売り手よし 買い手よし 世間よし」
-鈴木宣弘著「食の属国日本-命を守る農業再生」(三和書籍)を読む- ③
● せんりゅう
● 複眼単眼 / 高市新総裁で舞い上がる岩盤右派
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極右化した高市・麻生自民党
公明党の連立離脱で船出早々に難破の危機
自民党の第29代総裁に安倍政治の後継者にして最右派の高市早苗が選出された(10月4日)。まさに最悪の人物の登場となった。日本政治の流動化が一段と深化し、先の見えないかつて無い液状化状態が現出することになった。
総裁選第1回投票では、高市早苗183票(議員票64、党員票119)、小泉進次郎164票(80、84)、林芳正34票(72、62)、小林鷹之59票(44、15)、茂木敏充49票(34、15)。決選投票では、高市早苗185票(議員票149、都道府県票36)で当選、小泉進次郎156票(145、11)。
今回の自民党総裁選が示したものは、政府・自民党への支持率下落と衆参両院での少数与党化という追い詰められた局面で自民党員と所属国会議員が出した結論は、政治方針の極端な右翼化と安倍時代の政治の復活という選択だった。自民党が右派政党であることがより明白となった。
10月7日に発足した党執行部の顔ぶれは、総裁・高市早苗の下に、副総裁・麻生太郎、幹事長・鈴木俊一、総務会長・有村治子、政務調査会長・小林鷹之、選挙対策委員長・古屋圭司、国会対策委員長・梶山 弘志、幹事長代行・萩生田光一などいうものだ。麻生派、旧安倍派、統一教会関係者、親台湾派などおしなべてきわめて右派色の強い構成である。
だがこの選択は自民党にとって救いにはならず、逆により一層の支持離れ、党内外の混乱の助長作用を生み出すことになるだろう。本紙前号「石破退陣・政治の流動化・液状化へ 自民党政治に歴史的終焉を」でも高市政権発足の場合におこる内外で混乱についての想定があったが、まず高市新総裁の何よりの試練は、国会での首相指名を実現できるかどうかと言いうことだ。少数与党であるので、野党からの支持が必要だがそう簡単なことではない。それどころか与党である公明党は、靖国神社参拝や外国人規制、裏金・企業団体献金の規制について、自民党に申し入れをおこなってきた。前二者の問題は了解し、カネ問題でのみが浮き上がってきているが、自公の対立は根深い。公明党を「ガン」扱いする麻生、裏金・統一教会スキャンダルの萩生田が党の要職に就いている。公明党は高市自民党とは大幅に路線が異なるとして連立を離脱することになった。
公明党の連立離脱によって、高市の国会での首班指名は簡単ではなくなった。自民党にとってかつてない危機的状況である。これまで衆議院では、自民191、公明24で計215だったが、議員総数465での過半数233を大きく下回っている。参議院でも、自民101、公明21で計122で、議員総数248の過半数125を下回った。ここで、衆参両院で公明票が抜ければ圧倒的な少数野党に転落する。最右派総裁を担ぐことになった自民党は早くも大破綻の兆候を見せ始めているのだ。
どの野党と組むのか。落ち目の自民党と連立してももうけは少ない。それどころか自民党の沈没に引きずり込まれるおそれが大きい。どの野党も様子見となろう。右派野党は連立、閣外協力で揺れ動く。
高市は外交関係でも困難な課題を抱えている。まず、トランプ大統領が27日~29日に来日する。トランプは首脳会談では、日本に軍事費の大幅増(純軍事費3・5%+関連1・5%)、高関税、総額9000億ドルにものぼる対米投資の承認・推進を強要してくるだろう。日本政府は、防衛関連費を2027年度までに国内総生産(GDP)比2%に増やす方針で、高市も「しっかり積み上げる」としているが、これまでの軍事費増を遙かに超える巨額な軍事費増要求にどう対処するのか。また高市は、巨額な対米投資については「国益損なえば再交渉も」等と言っていた。トランプの要求をうけいれれば、巨額の赤字国債発行となり、国民の貧困化が加速するのは必至だ。
10月26~28日にマレーシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN )関連の首脳会議が行われるが、日本の新首相はそれへの出席は出来るのか。
また10月31日から2日間、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が韓国・慶州(キョンジュ)で開かれる。そこには中国の習近平国家主席、韓国の李在明大統領が出席するが、米中、米韓、中韓の首脳会談は行われる可能性はあるが、はたして日中、日韓の首脳会談はうまく出来るのか、そしてその結果は?。
中国、韓国ともに、高市新総裁には警戒を高めている。とくに中国は高市の台湾との関係に注目している。高市は、安倍の「台湾有事は日本有事」路線を継承し、今年の4月に訪台し台湾の頼清徳総統と会談した。10日に日本の超党派議員連盟「日華議員懇談会(日華懇)」のメンバー30人が訪台し、台湾与党の民主進歩党の頼清徳主席に親書にを渡し、台湾・双十国慶節祝賀大会に出席した。団長は古屋圭司日華懇会長だった。同事務局長の木原稔は今回の訪台を見送ったが、木原は、高市内閣ができれば官房長官への起用が検討されているという。
それだけではない。9日に開かれた国会内で開かれた国際フォーラム「南モンゴル自由・独立運動の歴史と展望」(主催・南モンゴルクリルタイ、世界モンゴル人連盟)にメッセージを寄せ、「今もなお、南モンゴルにおいて、中国共産党による弾圧が続いていることに憤りを禁じ得ません」と指摘し、「自由、法の支配、基本的人権など普遍的な価値を共に守るために連帯を強めていきたい」と訴えたという。なお、高市は、「南モンゴルを支援する議員連盟」の会長を務めている。中国への対応如何では、日中関係の緊張、日中経済関係の破綻的状況すら予想される。
自民党が最右派の高市を総裁に選出し、日本政治をいっそう右傾化、反動化させようとする選択は、総裁就任早々自滅的な状況をうんでいる。
こうしたなかで、当初10月15日と言われた臨時国会召集は大幅に遅れそうで、新政権の発足がおぼつかないという前代未聞のことが起こっている。
与野党逆転の予想さえ出てきている中で、市民運動・労働運動の力を強め、立憲野党の共闘を再建強化して、高市・麻生自民党がもくろむ戦争する国づくり・安倍政治の復活の野望を徹底的に粉砕するために闘い抜こう。
10・7国会ピースサイクル
防衛省・東電・農水省・内閣府に要請
全国ピースサイクル運動は今年40周年を迎えました。10月7日(火)には国会ピースが取り組まれ、要請先は市ヶ谷防衛省、東京電力本社、農水省の3か所、内閣府へは署名提出を行いました。
10時30分から市ヶ谷駅近くの公園でスタート集会を開き、本日のスケジュールを確認しながら防衛省へ。防衛省要請行動の前に参加者から要請書に沿った発言が、各地域から基地問題や政府の進める台湾有事を契機に進められる軍事優先の戦争体制作りへの抗議がされました。11時には、防衛省職員へ「沖縄・普天間基地の県内移設を撤回し、オスプレイの配備・訓練に反対する要請書」の申し入れを行いました。防衛省正門にはいままで配置されてなかった警衛自衛官が89式自動小銃を携帯し、女性自衛官を含む4名が警備にあたっていた。
この後、行動に計画されていませんでしたが、参加者の提案でイスラエル大使館近くの道路でスタンディングを行いました。
14時からは東京電力本社で1時間の交渉を行いました。事前にピースサイクルからの質問項目、要請項目を提出してあり、東京電力からの回答レジュメをもとに参加者から発言がありました。要請書提出の表題は「福島第一原発過酷事故から14年、被害者への補償も廃炉工程も見いだせない中、柏崎刈羽原発の再稼働は許されません。地震大国での原発推進は破滅への道、再生可能エネルギーへの転換を強く求めます。」を始めに、質問項目5項目と要請項目を10項目で話し合われました。多項目あるので重要と思われる点に絞って話合いがされました。①デブリ取り出し作業時の被ばく労働の問題②デブリを取り出した後に建屋解体作業の33年度達成は困難ではないか③東京電力には、原発を安全に動かすための資金はありますか④柏崎刈羽原発の再稼働は認められません。この他デブリを取り出しに30年から40年を計画しているが、880トンを毎日3グラム取り出しでは何万年かかるのではとの質問も出されました。東京電力からの回答は納得出来るものは多くなかったが、担当者のプルサーマル計画を推進して行くことは変わりないと強調していたことが印象的だった。
16時からは内閣府へ「日本政府に核兵器禁止条約の署名・批准を求める署名」の提出と農水省交渉の二つの行動を行いました。農水省交渉は参議院議員会館で行われました。交渉にあたっては「農と食の危機への緊急相談会(千葉県北西地域)」とピースサイクル2025全国ネットワークの2団体共同で行われました。質問事項6項目34点、提案事項7項目20点を提出し、とりわけ重要な課題として①「農業消滅」の危機を迎えている中で、日本の農業を持続させ、食料自給率の向上をめざす取り組み、農業分野への財政支援の拡大や所得補償制度の新設、新規就農者問題②農業大学校への入校者に優遇措置入学金や授業料の免除、学費援助を制度化 ③食料自給率向上の目標を明示し、長期的戦略を明示していくこと、都市の農地を残すことは私有財産でありながら後世に残す貴重な社会的共通資本ではないか。農と食の再構築は、生産者が消費者側に、消費者が生産者側に近づく、双方的なつながりを通じて、みんなで農と食を支えていくプロセスを考えることなどを説明しました。農水省からは経営局就農女性課が対応し、「新規就農施策の全体像」8ページのレジュメが配布され担当者それぞれから説明がありました。農水省との交渉は初めてのこ、ともあり話は中々かみ合わなかったが、質問、提言は共通課題も多くあり友好的な中で終了することができました。これまでの都庁教育委員会、防衛省、外務省交渉では同じ回答を繰り返し、言質取られまいとする態度が多く見られました。
17時からは1日の行動を終え反省会が開かれました。農水省交渉は良かったとの声なども聞かれ短時間でしたが散会しました。
イスラエルのジェノサイド戦争反対
ネタニヤフは大イスラエル政策を捨てよ
パレスチナ・ガザ地区へのイスラエル・ネタニヤフ政権による過酷な軍事攻撃が続いて、10月7日のパレスチナ情報センターによると、ガザ地区での死者数は6万7173人、負傷者数は16万9780人に達している。まさにジェノサイドそのものだ。
イスラエルの暴挙は世界的に抗議の運動を引き起こした。アメリカ、イギリスやオーストラリアなどイスラエル支持国政府によるパレスチナ連帯の行動に対する締め付けも強まっているが、デモ・集会に参加する人びとの数は日増しに増加している。
日本でも、10月7日、ジェノサイドをとめろ!イスラエルに制裁を!パレスチナの抵抗に連帯を!全国アクション@渋谷が行われ、在日パレスチナ人や支援者らなど約1400人が参加した。国連大学前からJR渋谷駅周辺までデモをおこない、「ガザに自由を!」「ジェノサイドを止めろ!」「パレスチナ解放!」などのシュプレヒコールをあげながら市民にアピールした。
欧州諸国をふくめてパレスチナ問題への何らかの参与、イスラエルの暴走に対するなんらかの対応をせざるを得なくなっている。国連総会は9月12日に、「ニューヨーク宣言(New York Declaration)」決議を採択した。決議は、フランスとサウジアラビアが主導し、ガザ地区における戦闘の即時終結を要求すること、人質の全員解放を目指すこと、ハマスの武装解除、領土的・人口構成の強制的変化たとえば強制移住や入植拡大などを拒否すること、独立した主権国家としてのパレスチナ国家の樹立とその実現を目指す道筋である「二国家解決」を再確認すること、特別委員会の設置や実施・フォローアップの枠組みの整備などの内容だ。 特徴は、イスラエル・パレスチナ二国家解決を明確に支持し、実行可能で主権のある独立したパレスチナ国家の樹立を具体的な行動を通じて可能な限り迅速に実現するための「単一のロードマップ」を示すこととした。一方で、ハマスによる攻撃を非難し、ハマスの武装解除とガザ統治からの排除を求めている。
決議は、賛成142か国(G7諸国のうち米国を除く日本、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダを含む)、反対10か国、棄権12か国だった。反対したのは、イスラエル、アメリカ、アルゼンチン、ハンガリー、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、パラグアイ、トンガだった。トランプ政権とその「同志国」だ。
アメリカは反対理由として、イスラエルの懸念を無視しているとし、「ハマスへの贈り物」であり、「誤ったタイミングでの、的外れな宣伝行為」であり、「真剣な外交努力を損なう」としている。ハマスによる一昨年10月のテロ行為が戦争のきっかけであり、ハマスが人質を解放せず武装解除を拒否していることが戦争が続いている理由であることを認めていないと指摘した。
この決議は、多くの国々の支持を背景に、改めて「二国家解決=正当な解決路線」であるという国際的コンセンサスを再確認・強化しようとする意図を持っている。国連総会として多くの国が賛成した決議を通じて、関係当事国(特にイスラエルやアメリカ)に対し、国際社会の世論と道義的・外交的圧力をかけるという意義をもつものだ。
しかし、重大な制約がある。国連総会決議であるため、直接的な強制力はなく、実際に履行を強制するには、国連安全保障理事会を通じた決議が不可欠になるが、米国による拒否権行使の可能性は高い。
いま、イスラエルとハマスの停戦交渉が行われている。国際的なイスラエルの侵略批判・パレスチナ国家承認の動きに直面し、ネタニヤフのガザ侵攻を積極的に支持し、武器供与を続けてきたトランプが、ノーベル平和賞ほしさに「停戦の仲介」に動いた。
2025年10月9日、イスラエルとハマスが、トランプの提案によるガザ停戦および人質交換の「第1フェーズ」に合意したと報じられた。この段階合意には、ハマスが残る人質(生存・亡骸を含む)を解放する義務、イスラエルがガザから撤退(あるいは補正動き)する義務、パレスチナ人囚人の釈放などが含まれている。アメリカはこの合意を支えるため、停戦モニタリング・支援のためにおよそ200人の部隊を派遣すると発表された。これら部隊はガザの内部には進入しないという。
だが、停戦合意を守らせる制度的保証、武装解除・統治移行といった難問の解決、関係国との協調、そして実務遂行力の維持能力など前途は多難だ。パレスチナ国家樹立を認めず、ガザの併合をふくむ大イスラエル構想を強行しようとするネタニヤフ政権が戦争遂行を断念することは考えにくい。
なにより、ガザ・パレスチナとそして全世界の民衆と連帯して、イスラエルの戦争・ジェノサイドに反対する運動を拡大していくことが必要だ。
日朝ピョンヤン宣言から23年
―国交正常化の進展をもとめて
2002年9月、日本の小泉純一郎首相と朝鮮民主主義人民共和国の金正日国防委員会委員長は、平壌において、「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」とした「日朝平壌宣言」を採択した。平壌宣言をもとにした「日朝国交正常化」は、東北アジアの平和と共存をもたらすものと期待されたが、つづく安倍政権は、拉致問題を右傾化のための政治道具とし、歴代自民党政権は排外主義的な朝鮮敵視政策を続けている。
9月27日、日本教育会館で、シンポジウム「日朝ピョンヤン宣言から23年―国交正常化の進展をもとめて」が開かれた。
はじめに、岡本厚・日朝文化交流協会会長が開会挨拶。つづいて藤本泰成・日朝全国ネット共同代表をコーディネーターとしてシンポジウムが始まった。
生かされなかったチャンス
和田春樹・東京大学名誉教授は「問題提起」として発言した。今年は日朝平壌宣言が出されてから23年になる。また日朝国交交渉の開始を予告した日本の自由民主党、日本社会党、朝鮮労働党の三党共同宣言が出た1990年から35年になる。35年たっても国交樹立にいたらないという事態の深刻さを指摘すべきだ。今年は日韓条約60年の年でもある。日本も責任をおう朝鮮の分割占領から二つの朝鮮国家がうまれたのに、その一方とだけ国交を結ぶという「不当な介入」を60年も つづけていることが思いおこされるべきである。しかし、われわれはそのことを国民に思い起こさせることはできなかった。日朝交渉について言えば、2005年に安倍首相が日朝交渉断絶、敵対行動開始に進んでから、20年になるのに、安倍の呪縛をつきやぶることが今回もできなかった。われわれの失敗ははるかに深刻だ。日朝交渉第三のチャンスを生かせなかったからである。岸田首相が2023年9月19日、国連総会で「共に新しい時代を切り開いていくという観点から」首脳会談をしようと平壌の指導者によびかけた。これに対して金与正副部長が24年2月15日に、日本が「時代錯誤の敵対意識と実現不可能な執念」を引っ込め、「関係改善の新たな活路」を開く決断を下すなら、会談は可能だと答えた。岸田内閣の林芳正官房長官の「拉致問題がすでに解決されたとの主張はまったく受け入れられない」との発言が北朝鮮側を怒らせ、3月26日に金女史の決裂宣言が出た。日本では3月27日、和田らの提言本『北朝鮮拉致問題の解決』が出され、議員とメディア関係者に配られた。与党、官僚、メディアの側からも好意的な反応があった。政権の側では、日朝交渉再開のためには朝鮮高校への高校教育無償化措置の適用が必要であることが認められていることが伝わってきた。同年9月の自民党総裁選挙で、過去2回の選挙で北朝鮮との連絡事務所設置の上の交渉を打ち出した石破茂氏が当選し、首相となった。韓国では 尹錫悦大統領がクーデター未遂事件で倒れ、25年5月新大統領李在明氏が登場する。両国の市民運動は日韓条約60年記念の首脳会談声明で、日韓基本条約第二条は韓国側解釈をとり、韓国政府の合法性に関する第三条は日本側解釈をとることで合意させ、韓国政府の支持のもとに日朝交渉再開に向かう空気をつくりだすことをねらった。しかし、石破首相は党内基盤をかためることができず、日朝議連の支えもなく、外務省の抵抗にもあって、日朝交渉の予備折衝すらできなかった。石破首相も岩屋外相も救う会のブルーリボン・バッチをつけるだけで、日朝交渉再開に進むことができない。石破首相は参議院選挙敗北の責任をとって退陣せよと求められ、その圧力に屈してしまった。韓国の新大統領との会談はようやく5月23日に実現されたが、辛うじて新聞発表を出すところにこぎつけ、「石破総理は、1998年の…日韓パートナーシップ共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる旨述べた」というくだりを含めただけにおわった。結局石破氏は自分らしさを発揮して、懸案打開のプロセスに近づくこともできなかった。市民運動はこの状態を変えるために有効な手をうてなかった。かくして「第三のチャシス」は失われたのである。
日本の外務省の中には北朝鮮が核武装した今、日朝国交正常化はありえないという考えが存在する。ソ連とも中国など核武装している共産主義国と日本は国交を正常化した。北朝鮮を敵国視し、米国とともにミサイル攻撃防衛体制を整備したら、日本の安全が確保できるのか。日本海沿岸に北から南まで原子力発電所をならべているこの国では政府の防衛論は自己欺瞞のプルーリボン・バッチにすぎない。
現在、日朝国交運動を推進する全国的な運動の中心組織がない。2000年に創立された村山富市会長の日朝国交促進国民協会は解散した。平和フォーラムがつくった日朝国交正常化連絡会は2008年から2018年まで活動をつづけたが、毎年9月に総会と講演会をひらくのが活動の中心だった。いくつかの有用なパンフレットを出したが、一度も街頭行動も、署名運動もしなかった。新しくうまれた日朝全国ネットワークには、新しい運動を期待したい。日朝国交を実現するには、在日朝鮮人との共同活動がどうしても必要である。全国ネットワークはその全国的な結びつき、総聯系団体との結びつきを生かして、全国一斉キャンペーンのような行動をやってほしい。
多極世界の建設を
李柄輝・朝鮮大学校教授は「朝日関係をめぐる課題~朝鮮からの視点で」と題して報告。朝鮮の情勢認識は、2024年12月29日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会拡大会議での「わが共和国は、峻厳なる地域情勢と流動的な国際関係構図の変化に機敏かつ正確に対応するために(中略)原則的な対外政策的立場と闘争方向を徹底して堅持することで、正義に満ちた多極世界建設を力強くけん引する代表的で強力な自主力量としての国際的地位を確固として確保」するというものだ。そして、2024年10月のロシアでの朝ロ首脳会議で、プーチン大統領とSWIFT(国際銀行間通信協会)の代案を探る「脱ドル化」を提起し、今年9月3日には、北京において中国人民抗日戦争勝利80周年記念パレードと朝中ロ首脳の結束などが行われた。
日本の過去未清算の背景には、パックスアメリカーナとサンフランシスコ体制があり、朝日関係改善には、日本の脱「基地」化から停戦体制の終焉を目指す構想が必要である。2016年、安倍政権時代の「参議院議員糸数慶子君提出米軍以外の外国軍隊等が日本国内において訓練を行うことに関する質問に対する答弁書」には「国際連合の諸決議に従う行動に従事するために派遣されているものに対して使用が認められている在日米軍施設・区域は、キャンプ座間、横須賀海軍施設、佐世保海軍施設、横田飛行場、嘉手納飛行場、普天間飛行場及びホワイト ・ ビーチ地区である。」とあるが、こうした基地国家日本というの中での在日朝鮮人・朝鮮総聯への監視と朝鮮学校への差別があるのだ。 過去清算・朝鮮学校支援そして朝鮮戦争終結の課題を朝日国交正常化運動へと集約させる広範なネットワークを形成がサンフランシスコ体制を超える東アジアの真の平和の実現をもたらすだろう。
日本が変らなければ
乗松聡子さん(ピース ・ フイロソフィー・会長)は「日朝国交正常化のためには日本が変らなければいけない」と題して報告。朝鮮学校の無償化排除は差別であり、国交正常化の障害になっている。民族教育権は普遍的権利であり、植民地支配の結果としてある朝鮮学校には厚遇が必要だ。政府決断でただちに是正可能な比較的容易な課題のはずだ。米国は世界中で言うことを聞かない国の政権転覆をやっている。ウクライナもその一つだった。「絶対平和主義」が被抑圧者の抵抗(脱植民地主義)を抑圧する場合があり、脱植民地の抵抗をテロ扱いする傾向がつよい。脱植民地化、多極化の世界の中で、日本は西側に留まるのか、再びアジアの一員となるのかが迫られている。日朝ネットは朝鮮に対する尊重と理解を広め、国交正常化の道を切り開く役割を担ってほしい。
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アピール
1945年8月15日、35年にわたった朝鮮半島に対する日本の植民地支配は、日本の敗戦とともに終わりました。しかし、第二次世界大戦後の東西冷戦を象徴するように、北は ソ連、南は米国の影響の下、朝鮮半島は分断され戦争の悲劇まで起こり、米国の軍事プレゼンス維持のため、いまだ停戦状態が続いています。
日本は、日米同盟を外交の基本政策におき、朝鮮民主主義人民共和国を国家として認めず国交も結んでいません。このような状況を改めようと、2002年9月17日、当時の小泉純一首相と金正日国防委員長との間で「日朝ピョンヤン宣言」が採択されました。
宣言に記されたように日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立されたならば、双方に素晴らしい利益を与え地域の平和と安定に大きく寄与する新しい時代が訪れたでしよう。
しかし、それから23年、事態はまったく進展せず、逆に悪化の一途をたどっています。
これは、ピョンヤン宣言の基本である過去の清算はなおざりにして「拉致問題は日本の最重要課題」、「拉致問題の解決なしに国交正常化はありえない」、「拉致被害者の全員帰国、つまり全員が生きて帰って来ること」という「安倍拉致三原則」を打ち出し、圧力と数々の制裁、そして在日朝鮮人の差別と人権侵害に明け暮れてきた日本政府の政策の失敗を意味しています。
今年、日本は戦後80年を迎えました。世界では戦争や内戦、非人道的抑圧が満ちあふれています。本来、戦争と侵略・植民地支配の反省のもとに日本国憲法を定めた日本ですが、防衛費の凄まじいまでの拡大をはじめ、米国に追従し朝鮮敵視政策を続けています。
朝鮮半島非核化のための「六者協議」の枠組みは、今や日米韓と朝中露の対立構図に変わっています。日米の朝鮮に対する姿勢が、このような状況を生んだと言わざるを得ません。
また高校無償化からの朝鮮学校排除をはじめ在日朝鮮人に対する様々な差別も根深く拡がっています。歴史修正主義が蔓延し「日本人ファースト」なる人種差別を公約に掲げる政党が躍進する事態が起きています。
安保法制から10年、過去の犯罪を忘れたかのように再び戦争ができる国になろうとする日本に明るい未来が訪れるのでしようか。
私たちは、今こそ日本政府に「ピョンヤン宣言」の遵守と履行を強く求めます。朝鮮への敵視政策を取り続ける日本政府の姿勢を許しません。今こそ「ピョンヤン宣言」に刻まれた国と国との約束を遵守し、その尊い理念に基づく「対話」と「行動」を求めます。日本の敗戦、植民地支配の終焉から80年、なぜ未だに朝鮮民主主義人民共和国との国交が樹立されないのでしようか。日朝国交正常化、平和条約締結による朝鮮戦争の早期終結など、朝鮮半島と沖縄を含む東北アジアの戦争につながる諸課題の一刻も早い解決を実現しましよう。そして在日朝鮮人社会をはじめとする、日本におけるあらゆる差別を廃絶しましよう。
以上、強い決意のもとに私たちは訴えます。
2025年9月27日
日朝ピョンヤン宣言から23年・国交正常化の進展を求めてシンポジウム参加者一同
シンポジウム「違憲訴訟の最前線から軍事化に歯止めを!」
軍事最前線にされた沖縄
安保法制成立から10年。10月7日衆議院第一議員会館 大会議室で緊急シンポジウム「違憲訴訟の最前線から軍事化に歯止めを!~明らかになった安保法制の実相」(主催・安保法制違憲訴訟全国ネットワーク)が開かれた。
はじめに、伊藤真弁護士(安保法制違憲訴訟全国ネットワーク代表)が主催者挨拶。安保法制成立後の10年間に政府は米艦艇や航空機の防護活動を常態化させ、米軍と一体化した軍事訓練を繰り返してきた。さらに2022年12月にはいわゆる安保三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を閣議決定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有に向けた取り組みを進めるとともに、防衛費を5年間で43兆円と大幅に増加させることを目指している。また、防衛装備移転三原則及びその運用指針を改正し、ミサイルや戦闘機など殺傷能力を有する武器の輸出を拡大するなど、憲法がめざす平和主義に背を向けた方向に進んでいる。これは安保法制により法的に「戦争ができる国・戦争をする国」となり、日本の「国のかたち」が変えられてしまった帰結である。 「実際に戦争をする国」への道は今こそ止めなければならない。そのためには、東京高裁の「女の会」訴訟と名古屋高裁の愛知訴訟において、「人間の安全保障」とは何かを問い、安保三文書がもたらした安保法制の実相を事実で明らかにするなど、新しい切り口で違憲判決を勝ち取るために奮闘していく覚悟である。
つづいての控訴争中事件では、愛知訴訟と女の会訴訟からの報告が行われた。
高良さちかさん(参議院議員〈無所属(沖縄の風)〉・沖縄大学元教授)が「日本の安保体制の重圧~沖縄の島まで広がる日米軍事体制の理不尽~」と題して報告。2016年の与那国島の陸上自衛隊の配備を皮切りに、宮古島、石垣島といった国境の島々まで防衛の「空白を埋める」として、自衛隊が次々に配備された。自衛隊は、2014年の集団的自衛権行使容認によって、より軍事的な方向に変質し、2022年12月に出された「安保関連3文書」によってより実戦的になっている。沖縄では、配備された軍事基地が標的にされ、生活の場が戦場にされる危機感が島々まで高まり、まさに日本国憲法前文に宣言された「平和のうちに生存する」権利の実現が求められている。2022年は、沖縄が日本に「復帰」あるいは「再併合」されて50年目の節目であり、同年5月15日には、沖縄県と日本政府の共同開催による「沖縄復帰式典」が沖縄と東京で同時開催された。しかし、「復帰」以降ずっと軍事基地の過重負担は変わらないどころか、より負担と危険性が増している。そして、その年の12月16日に「安保関連3文書」が出されて、日本の「安全保障政策を実践面から大きく転換する」(国家安全保障戦略)。これらの文書は、日本の軍拡を加速させ、日米の軍事的協働関係を深化させ、自衛隊をより実戦化する文書である。沖縄を米軍に差し出し軍事利用する構図は「復帰」時と変わらない。 その上、日本の軍拡までも沖縄で強固に進めるこの「安保関連3文書」は、「復帰」から50年以上経ても、沖縄が日米の「軍事植民地」だとし「戦場にしても構わない地域」だと確認した文書だという側面がありはしないだろうか。
国境の島である与那国には、2016年の自衛隊配備まで軍事施設はなかった。与那国は台湾と国境を接する島であり、年に数回、台湾を見ることができるほど台湾と近い。これまで軍事基地のなかった場所に配備するというのは、軍事的緊張にも鈍感なことだ。島が戦場になる場合の避難計画(「国民保護計画」)が、町から租納集落、久部良集落、比川集落の住民に説明された。島の人の中には、避難後に、島を軍事基地化(不沈空母化) し、二度と帰れなくなるのではないかと心配する声も聞かれる。「与那国町避難実施要領のパターン 国民保護の枠組み・基礎知識等」は、「島の外に逃げる」場合も計画されているが、島民、観光客など島の人たちを飛行機や船で、一日で島外、九州に避難させる計画である。海に囲まれた島では、避難できる時期自体が限定されざるを得ない。説明資料では避難できるのは、「武力攻撃予測事態」のみである。武力攻撃が始まれば、島内での屋内避難になる。宮古島や石垣島でも事態は深刻だ。
「沖縄を再び戦場にしない」ということが昨今の沖縄で頻繁に聞かれる。戦場にされる危険が身近だということだ。島々で最も求められていることは、「避難」の前に島を戦場にしない平和外交だ。どの島においても、国は、当初においては、島を守るために配備すると主張していた。しかし、島を守るために配備したはずの自衛隊のために、朝鮮半島からの「衛星」に対して、PAC3が配備され迎撃の最前線とされ、同時に「台湾有事」の最前線とされている。台湾有事は、いつの間にか「沖縄有事」とされ、シェルター建設、避難計画の具体化、日米合同演習の活発化など戦争と隣り合わせだ。「レゾリュート・ドラゴン25」でも、沖縄での重点的な訓練配置は異常だった。2022年12月の安保関連3文書の具体化として、沖縄島も島々も軍事利用されている。
軍備強化は、日常においても危険と隣り合わせで生活することを強いる。新たな部隊の配備や米單の共同使用、共同演習などもあり、住民にとって不安が大きい。
沖縄に生きている我々も平凡な日常を守りながら生きている人間である。日本国憲法が保障しようとする人間の尊厳が沖縄においても、島の隅々まで保障されること、当たり前の「平和に生きる権利」が、憲法を生かした平和が、強く求められているのである。
神奈川訴訟の岡田尚弁護士は「自衛隊に構造化されてきた力と日米共同作戦による強化」と題して、安保3文書がみせた安保法制の実相について報告。池田幸代さん(女の会訴訟原告・長野県駒ケ根市議会議員)は「非軍事化はまったなし 住民の安全・安心・自由を守ることが役目の自治体から安保法制を問う」の報告。飯島滋明さん(名古屋学院大学)は「憲法学・平和学の観点から改めて『誰のための安全保障か』を問う」と題して報告した。
KODAMA
人口減少問題を考える
日本の少子化が止まらない。2023年には合計特殊出生率(略称TFR)は1・2まで下がった。合計特殊出生率とは、一人の女性が一生の間に出産する子供の人数。TFRが人口置換水準(2・07)を下回ると、その国及び地域の次世代の人口が自然減する。厚生労働省は、6月4日、2024年の人口動態統計を発表した。1年間で生まれた日本人の子どもの数は68万6061人、初めて70万人を下回った。政府の想定より15年早いペースの少子化が進んでいる。 TFRも過去最低の1・15となった。少子化に伴い、今後人口減少がさらに進むだろう。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、出生率が2070年時点で1・13まで低下した場合、2100年の総人口は5100万人まで減少すると予測している。
また、65歳以上の高齢者比率も5割近くになる。高齢者比率が上昇すれば、当然、社会保障負担が増大するし、労働力不足が一層強まる。また、近年問題となっている電気ガス上下水道道路と言ったライフラインの老朽化や他の社会インフラが維持も困難となる。地方消滅が加速度的に進むことも指摘されている。石破首相は、「国の根幹にかかわる静かな有事」と言ったがまさにほんとうの「有事」が進んでいる。
政府も若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、こうした状況を反転させることができるかどうかの重要な分岐点であり、2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、我が国は、こうした人口減少を食い止められなくなり、持続的な経済成長の達成も困難となり「我が国にとって、2030年までがラストチャンスである。」と危機感を示している。旧岸田政権の下では、「異次元の少子化対策」と称して「子ども未来戦略」を策定した。「こども未来戦略」では、児童手当の所得制限の撤廃、支給期間の延長(中学生から高校生まで)、育児休業中の会社員らへの給付金については休業前と同額になる引上げを行った。しかし、こういった子育てにかかる経済的な負担を軽減する措置だけでは少子化の流れを食い止めることはできていないのが現実だ。
少子化は、「子どもを持ちたくても持てない」という貧困の増大に最大の原因がある。資本主義の枠内においてもここに切り込まない施策は無力である。国の調査では、25歳~29歳の女性の場合、非正規雇用の労働者は正社員とくらべ「子どもを持ちたい」という人が3割超少ない。また、男性で配偶者がいる人の場合子どもを持ちたいと思う人は非正規労働者は6割も低い。希望する非正規雇用労働者の正社員化や正社員が当たり前の社会へ入口規制の強化(原則正社員)を図ることがこの国を救うことになるだろう。新自由主義から転換し公務員数も増やすべきだし、特に地方は今すぐにでも介護等に従事する職員は公務員か準公務員にすべきだろう。
京都大学の柴田悠教授(社会学)が諸外国のデータをもとに試算している。児童手当の拡充で出世率は0・1%上がるのに対して正規社員の男性が働く時間を1日2時間減らせば0・35%上昇するというのだ。長時間労働の是正、労働時間の短縮は、育児や家事時間の確保といった点で有効だ。立憲野党勢力は、有効な少子化対策を共同で打ち出す時ではないか。 (T・Y/大阪)
今月のコラム
「今だけ 金だけ 自分だけ」 vs. 「売り手よし 買い手よし 世間よし」
-鈴木宣弘著「食の属国日本-命を守る農業再生」(三和書籍)を読む- ③
有機農業が世界のトレンド
改正農基法にはどこにも有機農業という文言がない。世界の農薬企業と規制当局との癒着の疑念が広まり、特にEUの消費者は規制当局の「安全性」を信頼せず、化学農薬に対する独自の厳しい基準を採用する方向へ政府を動かしてきた。
EU委員会は2020年に以降10年間で「農薬の50%削減」「化学肥料の20%削減」「有機栽培面積の25%への拡大」などを指針として打ち出した。 米国も2050年までの農業グリーン(環境負荷軽減)化計画を発表した。これに即応して中国は今やEU向けの有機農産物の輸出(2020年)は415万トンで第一位になっている。日本はわずか2トン。
こうした世界的潮流から取り残され、日本は世界で最も農薬基準が緩い国になっている。それは農水省の調査でも明らかになっている。基本法改正に先んじて策定された「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)は、2050年までに稲作を主体とした有機栽培面積を25%(100ヘクタール)にまで拡大、化学農薬5割減、化学肥料3割減を打ち出した。
ただ計画はデジタル農業、スマート農業に望みを託している。有機農業は労力を費やすばかりで収量も減る、という偏見が強い。
しかし全国各地で工夫を凝らした農業・酪農が慣行農業・酪農を凌駕する成績を収めている。重要なのは今ある有機農業の優れた技術を共有し、生産者や消費者、協同組合などが連携し合って展開していくことだ。江戸時代の日本は再生可能な植物資源を最大限に利用する独自の循環型社会を築き、100%の自給率が実現されていた。
スイス人のマロンが帰国した際の報告に接した肥料学の大家リービッヒ(マルクスも熱心にその著作を読んでいる)は、「日本の農業の基本は、土壌から収穫物に持ち出した全植物栄養分を完全に償還することにある」と的確に表現した。
※ 本書の最後に付されている「緊急レポート 令和の米騒動」はそのまま全体の要約になっているので、ここから読み始めてもいいだろう。(完) (新)
せんりゅう
大企業海外ばかり見つめてる
千円元気でて来る最賃ほしい
イノベーション委員会もうひとつの政治
アルバニアAI大臣で倫理粛清
合併連携いつの日か国と国と
商品にならないわれらが世を変える
ゝ 史
2025年10月
複眼単眼
高市新総裁で舞い上がる岩盤右派
産経新聞には月1で櫻井よしこの「美しき勁(つよ)き国へ」というコラムがある。この1年来、同コラムは石破政権への愚痴と櫻井のあせりがつらなっていた。このコラムが久しぶりに雰囲気を一変させた。
10月6日のコラムは「高市新総裁で日本再生へ」という見出しをたて、冒頭から以下のように綴った。
「快挙である。高市早苗前経済安全保障担当相が自民党総裁の座を勝ち取った。自民党議員が党員の声に耳を傾け、高市氏の主張である保守路線を選んだ結果だ。これで自民党、そして日本再生の第一歩を踏み出せる」と。
櫻井は今回の総裁選を安倍元首相の路線継承(高市)と石破茂首相の路線継承(小泉進次郎)の選択と位置づけ、高市の勝利を大歓迎している。そして当面、人事によって「二分された党の再生」をはかりつつ、喫緊の課題は今月下旬に来日するトランプとの日米首脳会談を成功させることだと説く。櫻井によればトランプは「米軍は世界がこれまで見た中で最高」の軍隊だというが、実は「米軍は中朝露の挑戦に対処しかねている」「この局面でわが国がいかにして日米同盟を強化し、守りあえる体制を創るか、その意思をトランプ氏に説かなければならない」という。この櫻井の認識は日本政府のより多大な軍事負担を望むトランプからみれば「飛んで火にいる夏の虫」だ。
「こうした状況下のトランプ氏訪日である。わが国に防衛支出の大幅増を要求するのは必然だろう。27年度に防衛費を国内総生産(GDP)比2%に引き上げるとしたわが国の安全保障戦略の早期見直し、上方修正が欠かせない」と。まさに櫻井はトランプの代弁者になっている。
最後に櫻井はいう。「わが国の課題は防衛予算増額だけではない。自国は自力で守るのが当然だという考え方を再確立しなければどうにもならない。そのために自民党の一致団結をはかり、国民民主党、日本維新の会、参政党などとともに憲法を改正し、力強く日本を再生する。その歴史的任務を、『働いて、働いて、働いて』果たすのを高市氏に期待」すると。
筆者が小文を書いている6日は自民党の役員人事の渦中だし、首班指名のための臨時国会の召集日も決まっていない。櫻井は大はしゃぎだが、高市の前途は多難だ。
高市はかつての英国のサッチャー首相を尊敬し、「女性初の首相誕生」と取りざたされている。
しかし、サッチャーは新自由主義の権化で、今日の日本の経済を破壊してきた中曽根臨調行革からアベノミクスに至る路線そのものだ。女性首相というが、高市は選択的夫婦別姓反対の権化であり、総裁選でも旧姓使用拡大を唱え、ジェンダー平等の流れに抵抗してきた。
昨年の総選挙と今年の参院選に連敗して自公与党は少数与党になった。にもかかわらず、与党の公明党までが靖国参拝問題や、対中外交、他党との連立問題などで、高市首班の路線に疑問を呈しており、自公与党体制自体が揺らいでいる。この状況ではたして維新、国民民主、参政などと連携して安定与党体制がつくれるのか。どの党との関係を考えても連立政権の構成は容易ではない。
改憲問題も両院の憲法審査会の会長が立憲民主党に握られているもとで、改憲案の中味の一致がどこまで可能か。
久方ぶりに極右に到来したチャンスとはいえ、櫻井ははしゃぎすぎではないか。 われわれにとってはしっかりと運動の足場を固め、市民と野党の共闘を再構築し、高市体制に反撃していくチャンス到来だ。(T)
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