人民新報
 ・ 第1452統合545号(2025年12月15日)

                  目次


●  極右反人民の本質を露骨にした高市政権

        高市は「存立危機事態」発言を撤回せよ

●  日本政府の統一見解「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には、中国の国内問題である」

●  大幅賃上げ、労働条件改善、高市反動政策との闘い

        26けんり春闘スタート

●  パレスチナのことはパレスチナ人が決める!

        パレスチナ人民連帯国際デー

●  日本弁護士連合会「大川原化工機事件の刑事手続に関する検討報告書」

●  排外主義にNO! 誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を

●  柏崎刈羽原発再稼働の意志は私たち市民が決めたい!

        【緊急申し入れ】知事の判断に抗議し、「県民に信を問う」公約の遵守を重ねて求めます

●  今月のコラム

         本を読め!最低3冊は読め!-斎藤美奈子著「絶望はしてません」を読む- ①

●  せんりゅう

●  複眼単眼  /  米国の際限ない軍拡要求






極右反人民の本質を露骨にした高市政権

        高市は「存立危機事態」発言を撤回せよ

 極右高市政権が発足してから約2ヶ月、掲げる「強い日本」「リスク対応型経済」「安定と成長」のスローガンの実現・実行のための具体策は不明確で、早々と行き詰まりの兆しを見せている。
 なにより自らを誇大視する極右特有の性情をもつ高市の甘い情勢認識は、中国敵視の本音を言うべきでないところで「存立危機事態」「台湾有事参戦」を公言する未熟・無能さを暴露した。GDP比2%の防衛費目標の前倒し、防衛装備移転三原則の見直し、「日本版CIA」=国家情報会議設置の動き、民意を無視する衆院議席削減法案、自衛隊の階級名を旧軍名称に変更するなど大軍拡・軍国主義復活の方針の強行は、隣国との外交関係を悪化させてしまった。情報の一元化による安全保障強化という口実で設置されようとしている国家情報会議の設置は、「対外情報庁」やスパイ防止法と連動し、過剰な防諜・監視体制の構築で戦前の特高警察のような弾圧をもたらすものとなる。こうした「戦争する国づくり」は人びとの間に不安を広げている。
 また衆議院議員定数一割削減は、議員数が減ることで、国民の多様な意見や少数派の声が国会に届きにくくなるだけでなく、とくに比例代表枠が削減されると、小政党や市民運動の政治参加が困難になることになる。「効率化」や「コスト削減」の名目で民意を切り捨て、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだ。またこの法案を優先させることは、政治資金透明化や企業献金規制といった本質的改革を後回しにする与党のもくろみに沿ったものである。政権党とカネの問題は高市首相自身をふくめて根深い構造がある。まず企業・団体献金の規制強化、政治資金透明化こそが論議・法案化されなければならないのである。
 大軍拡政策は、社会保障・生活支援の優先順位を低下させている。すでに経済・財政政策の持続性と財政健全性への懸念が高まっている。高市政権は大規模な財政支出を伴う経済対策を打ち出した。その「責任ある積極財政」とは、財源の裏付けの少ない国債増発に頼るものだ。懸念されているのが、大規模な財政出動が財政悪化の懸念からさらなる円安を招き、輸入物価の高騰を通じて、物価高対策の効果を相殺してしまうことだ。すでに補正予算の歳出の多くを国債の増発で賄う方針が、円安圧力を加速する要因となっている。現在、人手不足などの供給制約がある中で、財政支出や減税による物価高対策を行うと、さらなる物価上昇を招くのは必至だ。また、所得制限のない施策が高所得世帯にも恩恵を与えるため、支援が必要な層への集中的な支援になっていないという公平性の問題が鮮明となってきている。農水省の方針は国民や消費者への食料の安定供給や米価の抑制が視野に入っていないことがある。それらの政策も、単なる補助金や減税策で乗り切ろうとする点に特徴があり、いわゆる「持続可能な解決」とはならない。アベノミクス型の金融緩和と積極財政は、株高や円安を通じて富裕層の資産や輸出大企業の収益を押し上げた一方で、輸入物価高騰により実質賃金は減少し、結果として経済格差を広げたが、高市内閣はいっそうその負の側面を突出させることになるだろう。きわめ近い将来、財政規律の緩和と、それが引き起こす円安・金利上昇などによる金融市場の動揺、そして物価高騰の加速という形で国民生活に跳ね返ってくるにちがいない。
 加えて、高市政権は衆院でようやく過半数与党になったとは言え、維新の会との「政権政策連合」は非常に微妙な関係であり、他の野党の要求にも配慮せざるを得ない政権基盤の脆弱性があり、法案成立には他党の協力が不可欠という構造的な不安定さがある。
 高市政権の弱点が露呈して支持率の急降下は必至だ。世論調査で内閣支持率は高水準と報道されているが、それが持続する保証はない。維新との連立で過半数確保済みだが、台湾有事発言など安全保障を争点化して早期衆院解散・総選挙となれば自民単独過半数回復を狙えるとの思惑は高市周辺に漂っている。今後の自民維新の関係や法案審議の進展次第で、2026年初頭に解散の可能性が高いと見られる。
 高市政権の早期退陣に向けて、市民と立憲野党の共闘を強めていこう。


日本政府の統一見解「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には、中国の国内問題である」

11月7日

 極右首相高市早苗は、11月7日の国会答弁で、台湾が中国による武力行使を受けた場合、それは日本の「存立危機事態」に該当し得ると公言した。これは日本が直接攻撃されなくても、台湾有事が日本の安全保障に重大な影響を及ぼすとして台湾問題への軍事介入・参戦を認めたものだ。安倍・麻生らの「台湾有事は日本有事」論をひきつぎ、中国内政への露骨な介入を企図したものであり、これまでの日中の安定的な関係を破壊する歴史的な挑発的発言だった。
 中国からはもとより、日本国内からも発言撤回の声が上がり、発言撤回を求める抗議行動が展開されている。高市は、トランプに救いを求めたが逆に発言をたしなめられることになった。

11月26日

 窮地に陥った高市は発言を少し変えて、なんとか事態をすり抜けようとした。11月26日におこなわれた党首討論では、「サンフランシスコ平和条約で日本は台湾に関する全ての権利権限を放棄している。台湾の法的地位を認定する立場にはない」と発言した。これは中国などが長年にわたって批判をしつづけてきた欺瞞的な「台湾帰属未定論」である。サンフランシスコ平和条約(日本国との平和条約)は、1951年9月8日に調印され、その第二条(b)には「日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。」とある。なおサンフランシスコ会議には、中国、台湾ともに参加していない。そして、日中共同声明(1972年)は、「一 日本国と中華人民共和国との間のこれまでの不正常な状態は、この共同声明が発出される日に終了する。二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」とした。日本政府が堅持する「台湾帰属未定論」の成立は困難となった。これは、事実上、台湾の帰属先として中華人民共和国を想定する姿勢を示したのであり、「台湾の帰属は将来的に住民の意思などで決まる」という純粋な法的未定論の主張は、非常に困難となり、「一つの中国、一つの台湾」や「台湾独立」を支持しないというこれまでの政府の基本方針も、この「理解と尊重」から導かれたものである。

政府統一見解(大平)

 1972年11月8日、衆議院予算委員会で、大平正芳外相が文書名「日本政府が『台湾条項』に対する統一見解」には次のようにある。全文をあげておこう。「今月2日の矢野委員の御質問は、台湾条項の存在は中国に対する内政干渉にならないかというとでございました。ここにいう台湾条項でございますが、これは、一九六九年当時の両国首脳の台湾地域の情勢に対する認識を述べたものでありますが、その後情勢は大きな変化を遂げており、すでに申し上げましたとおり、この地域をめぐる武力紛争が現実に発生する可能性はなくなったと考えられますので、かかる背景に照らし、右の認識が変化したというのが政府の見解でございます。矢野委員の、しかし、その条項の存在が内政干渉にならないかということにつきまして、この際、政府の見解を申し上げたいと思います。わが国は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するとの立場をとっております。したがって、中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には、中国の国内問題であると考えます。わが国としては、この問題が当事者間で平和的に解決されることを希望するものであり、かつ、この問題が武力紛争に発展する現実の可能性はないと考えております。なお、安保条約の運用につきましては、わが国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて慎重に配慮する所存でございます。」このように日本政府統一見解は「中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、基本的には、中国の国内問題である」となっているのである。
 高市の党首討論での発言は、このような歴史的事実をまったく無視・逆転させるものでしかない。安倍・麻生・高市の「台湾有事は日本有事」論は、日本政府の見解を大幅に変更したものであり、高市発言はこれまでの政府見解に沿ったものであるという強弁は決して許されない。高市発言は撤回あるのみである。

12月3日

 台湾帰属未定論に効力が無いとみたのか、高市首相は12月3日の参院本会議で、公明党の竹内真二議員の「現在、総理の台湾有事に関する答弁を受け、中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけるなど、観光業界をはじめ、広範な影響が生じています。台湾に関する日本政府の立場は、日中共同声明にある通り、全く変更がないという理解でよろしいのか。」との質問に、高市は「台湾に関する我が国政府の基本的立場は、1972年の日中共同声明の通りであり、この立場に一切の変更はございません。」と応えたが、日中共同声明の内容や「一つの中国」原則については言及しなかった。
 
 なお、産経新聞「中国、台湾侵攻『正当化』へ外交戦 『統一への努力』に途上国の支持取り付け」(12月9日)によると、「オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所が1月に発表した報告書によると、国連加盟国193カ国のうち『一つの中国』原則を承認しているのは6割強にあたる119カ国。このうち中台統一への努力に支持を表明し、その努力が「平和的であるべき」だと言及していない国が89カ国に上るという。これらの国は台湾への武力侵攻なども支持し得るとみられ、報告書は『国連加盟国の半数近くが中国による台湾の併呑を正式に支持したことになる』とした。」とあった。


大幅賃上げ、労働条件改善、高市反動政策との闘い

        26けんり春闘スタート

 実質賃金の連続低下と物価高騰の中で26舂闘には大幅賃上げのおおきな課題がある。また高市政権の労働時間の規制緩和・働かせ方政策、在日外国人への管理・取締り強化に向けた政策の強行、軍拡国家政策との対決の課題がある。

 12月2日、東京都文京区の全水道会館で、26けんり春闘全国実行委員会が「26けんり春闘発足総会・学習集会」を開催した。

 関口広行事務局長が議案提起の報告。基本スローガンを、◎誰もが安心して働ける職場・暮らせる社会の実現を!、◎どこでも誰でも、いますぐ最低賃金1、500円を!、◎誰もが安心して働ける職場・暮らせる社会の実現を!、◎差別排外主義に反対し、まっとうな移民政策を求めよう!、◎ウクライナ戦争の即時停止! ロシア軍は直ちに撤退を!、ガザへの攻撃をやめ、即時停戦を!、とした。 
 賃金要求の課題「貧困と格差の拡大を許さず、生活防衛と権利の向上、大幅賃上げ実現!最低賃金の引き上げ『誰でもどこでも、いますぐ最低賃金時給1、500円』をめざして」では「物価高騰が続く中で、大幅賃上げは譲れない闘いだ。25春闘で大手企業(連合集計)は平均5・25%(16、356円)、1991年以来、34ぶりの高水準となった。経団連集計では平均5・39%(19、195円)、1976年以降で2番目に高い引き上げとなった。また、中小企業の連合集計では4・65%(12、361円)となった。しかし、実質賃金は 8か月連続マイナスとなっており、物価高騰に追いついていないのが現状だ。25春闘では要求に対して回答日には満額回答した大手企業も目立った。ストライキも構えずに賃上げ要求が実現する、また、賃上げ要求があるのかないのかわからない企業で賃上げ回答があることが、喜ばしいことか疑問と云わざるを得ない。政府の賃上げの掛け声もあり、大手企業も賃上げしているが、この官製春闘に対して労働組合の主体的闘いや労組の存在価値が問われている。
 低賃金で働く中小零細企業労働者、非正規雇用労働者の悲鳴をどう受け止めるか、男女間の賃金格差や待遇差別に必死に抗う労働者の闘いをどう支えられるのかも問われている。けんり春闘は中小民間の職場が多く、個人加盟のユニオンも多い。少数だからといって負けてはいられない。少数だから柔軟性もある。少数だけれども職種も職域も違う組合員の声は身近にあり多様な個性の集まりでもある。職場の要求を組織化に結びつける工夫をし、生活できる賃金はいくら必要なのかなど議論することも必要だ。民間の賃上げは公務職場にも影響を与えるものであり、共に支援しあいながら春闘を闘うことが重要だ。大幅賃上げに向け26春闘も支援や共闘を強化しながら社会にアピールしていこう。
 最低賃金引き上げの取り組みも準備しつつ進めていきたい。25年度の最賃引上げは中央審議会で目安額63円、すべての都道府県で1、000円を超えた。しかし、その実施日に大きなばらつきもあり、3月実施という地域もあり、今後の最賃引上げの実施に影を落とした。大幅に先送りされた地方自治体に対して全国一般全国協議会は関係自治体に抗議文を提出し、今後も同様なことが繰り返されないよう申し入れた。実施日の先送りは地域間格差が生じ、最賃近傍で働く多くの労働者の生活に影響する。最低賃金について石破政権時の『2020年代に1、500円』とした目標に対して高市首相は国会答弁で『必ずいつまでにいくらということを申し上げるわけにはいかない』とし、事実上前政権時の目標を撤回した。2026年度の最低賃金引上げに関してこのことがどう影響するか予断できないが、全国一律いますぐ1、500円の引き上げを要求し、関係省庁や街頭での宣伝行動を積極的に取り組んでいこう。また、企業内の最賃引上げ要求も可能な限り追求していこう。

 「8時間労働制をはじめとする労働基準法の破壊、労働時間の規制緩和に反対、外国人労働者の人権・権利を守る闘い」(略) …
 「改憲,軍拡・基地建設・原発の再稼働を許さない、反戦平和の闘い」(略)…

 26けんり春闘全国実行委員会の役員体制は、共同代表者に渡邉洋(全労協)、鈴木誠一(全港湾労組)、早川寛(全造船関東地協労組)、中島由美子(民間中小労組懇談会)、西山直洋(おおさかユニオンネットワーク)事務局長に関口広行(全労協)の皆さんが選出された。
 議案は拍手で採決・確認された。

 記念講演では、鳥井一平さん(移住者と連帯する全国ネットワーク共同代表理事)が 「移民労働者に人権を!まっとうな移民政策を!」と題しておこなった。

 参加労組・団体からの発言では、全水労東水労、全国一般東京労組、全日本建設運輸労組から闘いの報告と決意が表明された。

 最後に、団結ガンバローで26けんり春闘はスタートした。


パレスチナのことはパレスチナ人が決める!

        パレスチナ人民連帯国際デー

 イスラエル・ネタニヤフ政権によるガザ虐殺が続いている。トランプの「停戦」の呼びかけは、ジェノサイド支援の煙幕に過ぎない。パレスチナ・ガザ保健省の発表によると、11月30日時点での死者数は7万103人、停戦発効後にも356人が死亡、900人以上が負傷した。ヨルダン川西岸でも、イスラエル軍の軍事作戦、入植者による暴力、入植地の拡大、立ち退き、建物の破壊、併合の脅威など不公正が横行し続けている。パレスチナ問題は紛争の続く中東問題の核心であり、世界の情勢に重大な影響を及ぼす。パレスチナ人によるパレスチナ統治の原則こそがなにより重要だ。二国家解決によるパレスチナ問題の政治的解決の早期実現がなされなければならない。アメリカに支持されたイスラエルの暴挙に反対して、私たちはパレスチナのために立ち上がらなければならない。

 国連は「パレスチナ分割決議」(1947年11月29日)の11月29日を、パレスチナ人民連帯国際デーとしている。アントニオ・グテーレス国連事務総長はパレスチナ人民連帯国際デーに寄せるメッセージ(11月27日)で、「今回の悲劇は、多くの形で、何世代にもわたって国際社会を導いてきた規範や法を試しています。これほど多くの民間人の殺害、繰り返された全住民の避難、人道支援の妨害は、いかなる状況下においても決して容認されるべきことではありません。…国際司法裁判所と国連総会によって確認されたように、私は改めて、パレスチナ領土の違法な占領を終結させること、そして2国家共存による解決に向けて不可逆に前進することを求めます。この解決は、国際法および関連する国連決議に沿い、イスラエルとパレスチナが1967年以前の境界を基礎とする形で、確定した、かつ承認された国境線内において平和と安全の内に共存し、エルサレムを両国の首都とするものです。今年の『パレスチナ人民連帯国際デー』にあたり、パレスチナの人々からインスピレーションを得ようではありませんか。彼らのレジリエンス(強靭性)と希望は、人間の精神力の証です。尊厳、正義、自己決定に対するパレスチナの人々の権利に連帯し、すべての人々にとって平和な未来を共に築こうではありませんか。」

 この日、世界各地でパレスチナ人民連帯国際デーの取り組みが行われた。東京では、11月30日(日)、新宿東口旧アルタ前広場で、パレスチナに平和を緊急行動などのよびかけで、『パレスチナのことはパレスチナ人が決める!』行動が、約300人が参加して行われた。


日本弁護士連合会「大川原化工機事件の刑事手続に関する検討報告書」

 『個別の警察官、個別の検察官、個別の裁判官の問題』に矮小化するのではなく、刑事司法全体の構造的問題として受け止めること

 戦争する国づくりが加速する中で、公安警察・検察の暴走が目立つ。その悪辣な手法は大川原化工機事件で暴露された。精密機械メーカー大川原化工機の経営者らが外為法違反容疑で逮捕・起訴されたが、東京地裁・高裁が警察と検察双方の行為を「国家賠償法上違法」と認定し、司法の場で違法性が確定し、公訴取消・無罪となったまったくのでっち上げ冤罪事件だ。この問題は徹底的に明らかにされなくてはならない。

 日弁連は12月9日に「大川原化工機事件の刑事手続に関する検討報告書」を公表した。報告書は、大川原化工機事件を日本の刑事司法制度全体の脆弱性を象徴する事件として位置づけて48ページにわたって詳細に分析している。
検討対象として、「事件概要と事実経過の整理」「国賠訴訟における裁判所の判断の分析」「警視庁公安部の捜査過程(意思決定の流れを含む)の再確認」「検察官による公訴提起の経緯とその違法性」「警察庁・警視庁・検察庁の自己検証報告書の限界を評価」をあげた。冤罪発生の要因分析として、「消極証拠(被告に有利な証拠)の調査不足」「経産省令の初適用にもかかわらず、規制趣旨の確認を怠った」「組織内部で不利な情報が上層部に報告されず、意思決定が歪められた」をあげている。
 そして、人権侵害の深刻さとして、経営者らは11か月に及ぶ身体拘束を受け、うち1名が病死したことを強調し、逮捕・勾留段階から公判前整理手続まで、各段階での裁判所判断を検討し、拘束の違法性を指摘した。また、組織的問題と再発防止に(に→の)ためには、警察・検察の自己検証は客観性に欠けるため、第三者機関による検証が必要であり、捜査機関の内部統制の欠如、法解釈の不透明さ、証拠評価の偏りが冤罪を生んだと結論づけた。
 報告書は、最後につぎのように提言している。「大川原化工機事件は、警察による事件の『捏造』に始まり、検察による警察の追従、さらには裁判所による身体拘束判断におけるこれらの黙認という、現代の刑事司法が抱える問題点が凝縮した事件である。二度とこのような事件を起こさないことは、立場を超えて、刑事司法に携わる全ての者にとって課された課題である。まず、警察に対しては、本件のように、政治的・社会的な要請や組織としての「成果」への焦燥感が、えん罪を生み出す温床となり得ることを真正面から認識することが求められる。捜査機関解釈のような結論が先にありきの法令解釈を許さず、科学的検証や異論の申出を封じ込めない指揮命令系統を再構築しなければならない。また、被疑者取調べについては、全件・全過程の録音・録画の義務化が急務である。検察に対しては、本件について、関与した個々の担当検察官及び決裁官の問題としてのみならず、組織全体の在り方の問題としても認識し、法専門家として、警察等の捜査機関から独立した立場で法令解釈を行う体制を構築することを求める。さらに、公訴提起の権限を独占する立場として、警察等の第一次捜査機関による事件の見立てに引っ張られず、そこから独立した立場で提供された情報を批判的に検討し、消極証拠の証明力を十分に吟味し、必要な追加捜査を尽くした上で公訴提起をすることが求められる。そして、裁判所に対しては、警察・検察による身体拘束の「追認機関」となることなく、憲法が求める正当な理由のない拘禁を抑止する司法機関としての役割を果たすため、本件を裁判官の存在意義にも関わる問題として重く受け止め、身体拘束判断の在り方を抜本的に見直すことを強く求める。否認・黙秘や『事案の重大性』『社会的影響』など抽象的な事情のみをもって罪証隠滅の相当理由を肯定する現在の実務から決別しなければならない。そのためには、「人質司法」と呼ばれる現在の身体拘束の実情について、裁判所自らが検証を行い、結果を公表することが必要不可欠である。最後に、立法府・行政府を含む社会全体に対しても、本件を『個別の警察官、個別の検察官、個別の裁判官の問題』に矮小化するのではなく、刑事司法全体の構造的問題として受け止めることを求めたい。大川原化工機事件で明らかになった問題点は、他の事件においても既に顕在化しているか、あるいは今後顕在化し得るものである。本報告書が、そのような構造的問題の是正に向けた議論と行動の出発点となることを期待する。」

●日弁連「大川原化工機事件の刑事手続に関する検討報告書」 https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/activity/criminal/visualisation/251209_report.pdf


排外主義にNO!
        誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を

 「秩序ある共生社会」や「外国人の適正管理」といった言葉のもとで、排外主義的な言動や政策が強まってきた。それが高市新政権によって飛躍的に外国人規制強化が強行されようとしている。必要なのは「管理」や「排除」ではなく、すべての人が人間として尊重され、差別なく安心して暮らせる社会であり、悪質なデマとヘイト言動に対し、多くの人びとが連帯の輪を広げていくことだ。また「外国人・民族的マイノリティの人権基本法」や「国内人権機関」などの法的整備が急務だ。

 11月26日、参議院議員会館講堂で、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)や反貧困ネットワーク、フォーラム平和・人権・環境など8団体の主催で、院内集会「排外主義にNO! 誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を」が開かれた。会場に170人、オンラインで250人の420人が参加した。
 集会では、 移住連の鈴木江理子さんの「『秩序ある共生社会』とは何か?」、安田浩一さん(ノンフィクションライター)の「参議院選挙後に高まるデマと排外主義」などの報告があり、集会の最後に、主催団体による「共同声明・排外主義にNO!~誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会を~」が発表された(翌26日に日本政府、各政党本部へ送付)。
 声明は「私たちは、国に対し、国籍や民族にかかわらず、基本的人権が保障され、社会の一員として尊重される社会を目指す政策をとること、それを法的に保障する外国人・民族的マイノリティの人権基本法を制定することを求めます。また、現実にあふれているヘイトスピーチやヘイトクライム、就職差別や入居差別をなくすための人種差別撤廃法と、それを運用する政府から独立した人権機関の設置を求めます。私たちは、改めて排外主義にNOを突きつけ、誰もが人間として尊重され差別なく共に生きる社会の実現に向けて、共に声をあげ、行動することをここに宣言します」とアピールした。
 最後に、行動提起で、鳥井一平移住連共同代表が次のように述べた。参院選後から外国人排斥が大きな声になってきた。だが本当に社会はそういうことを求めているのか。私は決してそうではないと思う。人を傷つける死にいたらしめるような言葉を使い、ひとりで1000回、1万回も何万回もやる。そのことで多数を形成してると勘違いをしてるのではないか。それに政治家の皆さんは惑わされている。多民族共生社会への取り組みは各地で様々に行われている。外国籍の人たちともっとうまくやっていけないか、こういう風に考えてる人たちが圧倒的に多い。日本は移民社会だ。昔からアイヌの人たちが先住民だということは国会でも決議されている。惑わされている政治家の人たちに対して世の中はそうじゃないということを市民社会からもう一度押し上げていきたい。誰一人取り残されることのない社会、多民族多文化共生社会を人々は求めている。ヘイトグループとも正面から議論されている政治家が増えていく。そして次の社会は違いを尊重する、より良い多民族共生社会になるということを確認して運動を進めていきたい。共に頑張ろう。


柏崎刈羽原発再稼働の意志は私たち市民が決めたい!

 新潟県民は、11月25日午後、「柏崎刈羽原発の再稼働の意思は、(議会でなく)市民が決めたい」として、「人間の鎖」でアピールし、新潟県庁を包囲した。その前、「柏崎刈羽原発再稼働の是非を考える新潟県民ネットワーク緊急行動」は、「知事は公約を守れ 県民に信を問え 県議会だけで決めるな!」というスローガンを掲げ、事前集会を開いた。11時集合であったが、11時には既に2つの会場が満杯になるほどの人の波であった。賛同する県議会議員や団体紹介の後、情勢報告を確認し、集会決議(別掲)を採択し行動提起のあと、「ふるさと」を歌唱して四グループに分かれ、人間の鎖を築く行動に入った。1、000人の呼びかけであったが、2割増の1、200人が集まった。各グループは、県庁ビルに向け、統一スローガンの他に、思い思いのキャッチコピーを掲げながら8種のシュプレヒコールを叫び合った。1、000m四方の周囲には、人数が溢れるかのような余裕があり、中には替え歌で踊り出すグループもあり、原発再稼働の圧力をはじき返そうとする熱気が一杯に感じられた。
 この行動の4日前21日、花角新潟県知事は、緊急記者会見し、「経済産業大臣から柏崎刈羽原発の6号炉、7号炉の(国の)再稼働の方針について理解してほしい、との旨の国の理解要請については、7つの項目を国の対応を確約いただいた上で新潟県としては了解することしたい」と述べていた。そして、10月県議会決議及び市町村長との対話を経て、県知事は「県民の意思を県議会で論議し、知事の職務を続けることについて県議会の信任、又は不信任、をいただきたい」と判断していた。つまり、県民の意思を確認する方法として、県議会は県民の代表であり、そこでの論議した上での結論を県民の意思として、議会で知事不信任決議がされないようであれば、知事職務を続けていきたい、という自らに都合のいい結論を宣言していた。知事は、そのような判断をする前まで、「信を問うことが最も重い判断であり、それは「存在を賭けることだ」と述べ続けるばかりだった。そのことは、2026年6月任期による知事選挙による県民の判断だと思われていたことは自然である。2024年の「県民投票直接請求署名運動」の「県民投票実現」に向けての14万3千余り署名の直接請求を「県民の多様な意見がつかめない」と否定し、知事自身提起の公聴会と原発意識調査を「多様な県民の意見を把握」するためとしてきた。7~8月に行われた公聴会では、県内5エリアに設定、公述人を一般公募42人、その人数を越える団体推薦人45人を各エリアで用意することによって再稼働容認数を増やすことをはかった(これは確かに一般公募より団体推薦の割合が全体では3対6の比率で容認賛成が過半数は制した、がそもそもこの課題は過半数などで決めることなどできない課題なのだ)、これはバレバレの工作のゆえに彼自身の理屈を正当にうち出すことはできなかった。9月から取り組んだ、柏崎刈羽原発に対する県民意識調査である。この調査は、原発立地から30キロ圏内6千人、30キロ圏外6千人,計12、000人が対象であったが、東京電力がおこなった安全対策や防災対策への説明だけで、それ以外の県レベルで結論に至らなかった課題や降雪時や屋内退避などの避難の課題、東電の不祥事に対する不信,不安な課題などには説明が記載されないで、設問が設定されているために、公正ではなく、統計的には信頼するにまったく値しない欠陥アンケートといっていいものである。そのような中で花角知事は、「安全対策や防災対策の認知度が高いグループほど再稼働に肯定的な割合が多い」からリーフレットを配布するなどして認知度を高めるよう努力する、とうそぶく始末である。これも傾向しか表せないものであった。結局、これらは知事の大失敗であった。県当局が自らに都合のいい根拠として作り上げるための恣意的な操作であったといわざるをえない。このような県政トップとこのような県政を強制すべく圧力をかけ続ける国政政権と大企業資本家を信頼することはできない。
 現在の日本は、政治家と資本家が一体となった「原発の安全神話」が復活している。柏崎刈羽原発は、新しいとされる6、7号機は既に運転からそれぞれ32年、28年となり、ABWRという型炉も経済効率を優先した炉であるために、幾多の問題、特に再稼働対象の6号機は多くある。また、今年、新潟県は柏崎刈羽原発の被ばくシミュレーション結果を公表したが、それは、新規制基準に則った安全対策がすべて有効であった場合とし、風向も考慮せず、福島原発時の一万分の一の事故想定であったが、原発から5キロ未満のエリア内では、1週間に数10μSv超の放射線被害があるとされた。これらが軽視され、無視をされて、運転されることになれば、新潟米は全国への流通が回避され、一層全国の生活の困難が増すばかりになるだろうし、事故が起きればより一層、全国民の生活は困難になることは目に見えている。柏崎刈羽住民の暮らしの困難ばかりでなく、全国人民の生活に与える大きな影響を及ぼすことになる。原発再稼働は、各地で団結して止めよう!

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2025年11月25日

新潟県知事花角英世様

柏崎刈羽原発再稼働の是非を考える新潟県民ネットワーク県庁包囲「人間の鎖」参加者一同


【緊急申し入れ】知事の判断に抗議し、「県民に信を問う」公約の遵守を重ねて求めます

 花角英世・新潟県知事は21日、柏崎刈羽原発の再稼働について「容認」の判断を示した上で、これを議会に諮ることを表明しました。
 多くの県民が依然として再稼動への不安を表明しているにもかかわらず、知事の判断は「脱原発の社会をめざす」「県民に信を問う」とした知事自身の公約に明らかに反します。原発再稼働の是非への自らの意思を知事選や直接投票で示したいと期待した県民を裏切るもので、私たちも大きな怒りと失望を禁じ得ません。判断にあたって示された文書や会見で表明された見解も、強弁と言い訳に終始した説得力に欠けるものでした。
 また、判断が示される前日(11月20日)に、原子力規制委員会の臨時会合で柏崎刈羽原発のテロ対策の不備が明らかになりました。その重大性評価が保留されている局面での判断にも、その正当性・合理性が疑われるものです。

 今回の知事判断は、再稼働の是非という議論にとどまらず、県民の意思をどう丁寧に受け止めるかという、民主主義の根幹に関わるきわめて重大な問題であり、将来にわたって大きな禍根を残すものです。そもそも知事は、二元代表制の下、議会ではなく県民から選ばれているのであり、自らの進退をかけて重要な政策決定を行なうならば、その信は県民に問うべきで、議会の信任は県民の信任に代わるものではありません。詭弁を弄して姑息な判断を正当化するのは、不誠実極まりない見苦しい言い逃れに他なりません。この判断こそ「県民に信を問う」ことによりその正当性が問われなければなりません。

 私たちは、知事の不当な判断に強く抗議するとともに、県議会での議決が「県民に信を問う」ことの代わりにはならないことを重ねて指摘し、県民一人一人が意思を表明する県民投票の実施こそが必要であると確信し、その実施を引き続き強く求めます。  以上


今月のコラム

         本を読め!最低3冊は読め!-斎藤美奈子著「絶望はしてません」を読む- ①

 「妊娠小説」以来著者の作品は目につく限り手に取る。森まゆみと並んで推しの女性評論家だ。東京新聞にコラムを連載しているからご存じの方も多いだろう。2006年夏からPR誌「ちくま」に連載してきた(現在も続いている)ものをまとめた。この連載をまとめたものは3冊でていて(「月夜にランタン」「ニッポン沈没」「忖度しません」)、本書は4冊目、20年8月~25年5月の連載分である。タイトルは「あとがき」から取った。「解が分からぬ案件が出てきたら本を読め!最低三冊は読め!そんな思いで」連載が始まった。毎回3冊の本を読みこんで時々の話題を掘り下げている。全46回だから138冊の本が取り上げられていて、次のタイトルで分類されている。①〈安倍晋三後の政治〉②〈コロナ禍と災害〉③〈人権問題と差別の諸相〉④〈MeeToo時代の性と性暴力〉⑤〈エンタメの裏に社会あり〉⑥〈過去を見て今を問う〉。
斎藤批評の魅力
 なんといっても問題に切り込む切り口の鮮やかさ、そして歯切れのいい語り口だろう。時に自分の好きな作品にこれをやられるとムッとすることはあるが、概ね快哉を叫んでいる。それぞれのタイトルから一つずつ選んで紹介してみよう。
 まず「赤旗と秋田魁新報に見るスクープの舞台裏」(①20年11月)。日本学術会議の6人の新会員任命拒否問題も、「桜を見る会」問題もスクープしたのは「しんぶん赤旗」、「この記事は政党の主張を超えた、政権の本質にかかわる調査報道だ」。「桜を見る会」の場合、自党議員のツイートの発見が端緒、自民党幹部への取材から安倍の地元支持者を招いての「前夜祭」の存在を知り、ネット検索で「証拠物件」を確保、現地取材で裏取りしてスクープ記事にした。
 「秋田魁新報」はイージス・アショア配備計画を追った。防衛省の公表した適地調査報告にある地形断面図が捏造されたものであることを突き止め、スクープ記事となった。
 両紙のスクープに対する大手メディアの反応は鈍い、これは今も繰り返されている。「学術会議任命拒否問題で政権への批判が噴出する中、総理番記者たちは菅首相主催のオフレコ朝食懇談会に参加していた-略-あまりのバカバカしさに、めまいがしそうだ」。
 発生二年、現場発の「コロナ戦記」でわかること(②22年1月)
 山岡淳一郎「コロナ戦記」、「倉持仁の『コロナ戦記』」について「べつだん利府批判を目的にした本ではない。むしろ未曽有の危機に直面した医療現場の奮闘ぶりを追った記録というべきだろう。ただ、読んでいるこちら側としては『なんでこんなことに』といちいち思わざるを得ないのだ」最初のネックは国のPCR検査基準である。流行地域(中国の武漢など)に渡航または居住、という縛りにこだわり、疑わしい患者や接触者を検査対象から外した。倉持は中国からの帰国者や都内のクラスター屋形船に乗っていた患者について、何度保健所に連絡しても取り合ってもらえなかったと報告している。〈医療界には第三波の医療崩壊の恐ろしさと、深い『悔恨』が刻まれている。病床不足で入院の調整がつかず、自宅放置状態の患者が次々と斃された記憶が頭から離れない〉(山岡)「政権中枢の危機感は、しかし驚くほど薄かった」GoToトラベルキャンペーン、五輪開催で患者は拡大、自宅療養者と自宅待機者が増加する中、厚労省は「中等症でも自宅療養」の方針を打ち出したが非難を浴び撤回する。〈重症入院患者の医療のみを重視し、結果的には軽症者を自宅放置することでかえって感染爆発を増大させてしま〉った(倉持)。斎藤はため息をつく「二年間のコロナ対策を概観して感じるのは、この国の宿痾ともいうべき血の巡りの悪さである。現場の声が行政に届かず、ゆえに上からの命令はいつも的外れの逆効果」。(つづく)     (新)


せんりゅう

     でた!熊より困る軽率答弁   

        働いて働いて働いて困った答弁 

     原発軍備経済サナエ節  

        詐欺拠点裏金拠点党にあり   

     核のゴミ ゴジラの如くねむってる 
 
        戦場とならぬトランプの戦争観 
  
     人間ですその歴史のはしくれです
  
                           ゝ  史
2025年12月


複眼単眼

        米国の際限ない軍拡要求

 米国は12月上旬、第二次トランプ政権初の「国家安全保障戦略(NSS)」を公表し、インド太平洋地域を「主要な経済的、地政学的戦場」と位置づけ、対中国戦略の強化のために、名指しで日本、韓国、オーストラリアなど同盟国にたいし、軍事費の国内総生産(GDP)比の大幅な拡大を要求した。今後、米国防総省(25年9月、戦争省に改名)はこのNSSを踏まえた「国家防衛戦略(NDS)」を策定するという。
 NSSは、中国による台湾の武力統一、紛争抑止は「重要事項」であり、「台湾海峡のいかなる現状変更も許さない」と表明。日本の鹿児島沖から沖縄、台湾、フィリピンに至る軍事戦略ライン、「第1列島線」上の、「どこでも攻撃を拒否する能力を構築する」とした。そして、それは米国単独の責任ではなく、同盟国は共同で集団的軍事力を行使するために「能力を高め、軍事費を増やし、実行しなければならない」と主張。NSSはその原則の一つとして、「公平」を掲げ、安保「ただ乗り」を容認しないとした。
 また、NSSは中国に対抗するためのブロック網強化のため、日米印豪によるクアッド(QUAD)を重視することや、第1列島線に位置する同盟国に、米軍が港湾やその他の施設をより多く利用できるよう要求した。
 NSSは米国の歴代政権は「法に基づく国際秩序に中国を組み込もうとしてきた」が「実現しなかった」と批判し、トランプ政権が30年以上にわたる米国の誤った対中認識を「単独で転換した」と誇り、「インド太平洋地域で競争に勝ち抜かなければならない」とした。そのうえで、米国は世界で最も強く、信頼性のある核抑止力を用いて「米国民や同盟国を守る」とした。
 日本政府は2013年の第二次安倍政権当時、はじめて今後10年程度を見据えた「国家安全保障戦略」を策定、日本の外交・防衛政策の基本方針を示した。さらに22年の岸田政権当時に策定した現行「安保3文書」は、中国や朝鮮、ロシアによる核兵器やミサイルの増強などで安保環境は厳しさを増しているとし、27年度を目途に、相手のミサイル発射拠点などをたたく敵基地攻撃能力(反撃能力)を持つ必要があると明記、防衛費を国内総生産(GDP)比でNATOと同水準の2%(総額43兆円)まで増やす目標を定めた。高市政権はこれをさらに1年前倒しし、26年度までに軍事費2%を達成するとしていた。
 しかし、NATO加盟国は米国のトランプ政権による強硬な圧力の下、25年6月に開かれた「ハーグ・サミット」で35年までに5%(3.5+1.5)という新たな目標を採択した。うち3.5%はNATOの定義にもとづく「軍事費」、1.5%を広義の安全保障関連支出(海上保安庁的経費や「公共インフラ整備」などを含む)とした。
 すでに今年6月、米国防総省のパーネル報道官はアジアの同盟国の国防費に関し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に求めるGDP比5%と同じ水準にすべきだと発言。今回の米国NSSのもとで、対日要求がNATO並みの5%(3・5+1・5)になるのは目に見えている。政府は目下、この「防衛財源」として、法人税、たばこ税の増税をきめたが、このたび所得増税(+1%)も27年1月から実施する方向に踏み切った。これは復興特別所得税(東日本大震災からの復興のための施策を実施するための特別措置法に基づく所得税)の1%引き下げと抱き合わせに想定されており、許しがたいものだ。
 しかし、これでも5%の財源は満たされない。高市政権の周辺から「15年戦争」の教訓としてかたく禁じられてきた「戦時国債」と同質の「防衛国債」という言葉が漏れてくる。
 この道を歩むことは絶対に許されない。   (T)


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